さよならはオムレツの味 ドラマ

友達のいない陸(8)のクラスに北川ひかる(8)が転校してくる。 ひかるは食物アレルギーで卵が食べられず、給食の代わりに弁当を持参していた。 そんなひかるを陸はからかうが、やがて二人の間にかげがえのない友情が芽生える。
市川家の乱 55 0 0 11/22
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第一稿

《登場人物》

古舘陸(8)  小学生 
北山ひかる(8) 転校生

古舘優子(38) 陸の母
古舘堅吾(14) 陸の兄
大林(40)   陸の担任
山田      ...続きを読む
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《登場人物》

古舘陸(8)  小学生 
北山ひかる(8) 転校生

古舘優子(38) 陸の母
古舘堅吾(14) 陸の兄
大林(40)   陸の担任
山田       陸のクラスメート
田中       陸のクラスメート
中山       陸のクラスメート
医師
看護士1、2、3
店員
YouTuber
学級委員1、2
女子生徒1、2、3

北山絵理香(30) ひかるの母



脚本

○大丸小学校・教室
  黒板に「運動会の決めごと」の文字。
  黒板の前に学級委員の二人が立っている。
学級委員1「多数決の結果、二人三脚のペアは自由に決めることになりました」
学級委員2「それでは二人一組を作ってください」
  子供たち、机から一斉に立ち上がると、次々とペアを作っていく。
  その中で、古舘陸(8)、一人だけ机に座ったまま動かない。
  ペアを作った子供、黒板の隅に貼られている自分の名前入りのマグネットを手に取り、黒板の真ん中に貼る。
  一組、また一組と、ペアになったマグネットが黒板に並んでいく。

     ×    ×    ×

  黒板の隅に「古舘陸」のマグネットがぽつりと残っている。
  陸、ポケットに手を突っ込んで強がっている。
  担任の大林(40)、机から立ち上がる。
  大林、陸のマグネットを手する。
大林「陸の相手は先生や。なんてな」
  大林、陸のマグネットを黒板に貼ると、その隣に別のマグネットを貼る。
大林「(満足げに黒板を見)これでよし」
  陸、黒板を見上げる。
陸「…?」
  陸のマグネットの隣に、「北山ひかる」と書かれたまっさらなマグネットがキラキラ輝いている。

○タイトル

○大丸小学校・廊下(数日後) 
  食缶を積んだ給食の配膳車がガタゴト通り過ぎてゆく。

○同・3年1組の教室  
  子供たち、配られた給食を前にいただきますの合図を待っている。
  トレーにオムレツがのっている。
  陸、小袋のケチャップを使い、熱心にオムレツの上に何か文字を書いている。
  陸の正面の席で、北山ひかる(8)がモジモジしている。
  真新しい机の上に牛乳瓶が一つ。
  一人だけ給食をもらっていない。
ひかる「…」
  机の脇に手提げカバンがかかっている。
  ひかる、手提げカバンに手を伸ばすが、ためらう。

    ×     ×     ×

  陸、ケチャップで文字を書いている。
  書かれた文字は「死」。
陸「(にやり)」
  陸、最後の跳ねの部分を仕上げようとしている。
  突然、後ろから上履きが飛んでくる。
  陸の後頭部にヒットする。
  弾みで「死」の文字が台無しになる。
  陸、頭を押さえて振り返る。
  クラスメートの山田、田中、中山がニヤリとしている。
陸「(睨みつける)あ?!」
  山田ら、くすくすと笑っている。
大林の声「(大声で)注目!」
  大林、教壇に立っている。
陸「何すんねん!」
山田「見んなボケ」
田中「ぼっちが染るわ」
大林「静かに! 今日から仲間になったひかるのことで…」
  陸、かっとなって立ち上がる。
大林「(制して)陸!」
陸「…」
  陸、仕方なく座る。
大林「ひかるのことで大事な話がある。少し長くなるが最後までちゃんと聞くように」
  ひかる、おどおどしている。
大林「ひかるには食物アレルギーがある。そのためひかるは皆と違って卵を食べることができない。卵を入った食べ物を食べるとや、体調が悪うなってしまうんやな」
  子供たち、聞いている。
大林「見てわかる通り給食には卵を使った食べ物がたくさん出てくる。それだとひかるは困ってしまうよな? そこで先生たちで話し合った結果、ひかるには家から弁当を持参してもらうことになった」
  子供たちから「ええなー」「ずるいなー」という声が飛ぶ。
  ひかる、顔を赤らめる。
大林「静かに! ひかる(と促す)」
  一同の視線がひかるに集まる。
  ひかる、うつむきながら手提げカバンを手にとる。
  ひかる、手提げカバンからそっと弁当箱を取り出し、机におく。
大林「(笑顔で)はい。ほんなら、いただきますすんぞ!」
 ひかる、恥ずかしそうにうつむく。
 陸、そんなひかるを見て、
陸「…」

○同・下駄箱(放課後)  
  下校する子供たち。

○コンビニ・店内
  陸、地べたに座り込んでマンガを読んでいる。
  店員、やってきて、
店員「他のお客さんの迷惑や」
  陸、立ち上がる。
  陸、持っていたマンガを棚に戻す。
  陸、出口に向かうと、スポーツ新聞の入った棚を倒して店の外へ逃げる。

○同・外
  陸、全力で飛び出してくる。
店員「ガキんちょが!」
  店員、追いかける。

○道
  陸、懸命に逃げている。
  陸の視線の先、たこ焼き屋の移動販売車が停まっている。

     ×     ×     ×

  ひかる、山田、田中、中山の四人がランドセルを背負って歩いている。
田中「(ひかるへ)前の学校でなんて呼ばれてたん?」
ひかる「ひかる、とか」
山田「なら、ひーちゃんがええな」
ひかる「…ひーちゃん(と照れる)」
中山「そや。ひーちゃん。クラスに陸ってのがおるんやけど、あいつぼっちやから近づかんほうがええよ」
ひかる「(困って笑う)」
  道の脇にたこ焼き屋の移動販売車。
  山田と田中と中山、足をとめる。
田中「ここのたこ焼き、ごっつうまいんやで」
山田「友達になった記念におごったる。ひーちゃん、たこ焼き、平気やろ?」
ひかる、何かいおうとして、
中山「あかん。マヨネーズは卵や」
山田「そうなん」
中山「な、ひーちゃん」
ひかる「(頷く)」
山田「よっしゃ。そしたらひーちゃんのためにマヨネーズ抜きにしてもらうわ」
  ひかる、販売車の看板を見つめる。  
  「アレルギー情報 生地に卵を使用しています」の文字。
ひかる「(不安げな顔)」 

    ×     ×     ×
  
  ひかるの前に熱々のたこ焼き。
山田「一人二個や」
  山田、田中、中山、爪楊枝でたこ焼きを取って夢中で食べ出す。
山田「んめー!」
  ひかる、もじもじしながら、
ひかる「あ、あ…(何か伝えようとする)」
  山田ら、たこ焼きに夢中で聞いていない。
ひかる「…」
  ひかる、仕方なく、恐る恐るたこ焼きをひとつ取る。
  ひかる、思い切って口に入れる。
ひかる「(ひぃーーー)」
  ひかる、思わず全身に力が入る。
田中「ひーちゃん、どや?」
ひかる「(もごもご)おいひい」
山田「だろ?」
  ひかる、残りの一つを指さして、
ひかる「(もごもご)食べていいよ」
田中「え、ええの!」
  山田と田中と中山、奪い合う。
  ひかる、その隙をついて、たこ焼きを口の中に含んだまま車の裏に回る。

○移動販売車の裏
  ひかる、やってくる。
  ひかる、たこ焼きを手のひらに吐き出す。
  ひかる、ゲホゲホむせる。
  ひかる、少し考え、吐き出したたこ焼きをズボンのポケットに隠す。
  ひかる、ふと目の前を見て、
ひかる「(ギョッとする)」
  ひかるの目の前に、身を隠してしゃがみ込んだ陸の姿。
  ひかる、硬直したまま陸を見る。
  陸、怪訝そうにひかるを見る。
  二人、じっと目を合わせたまま…

○マンション・外観(夜)

○スマホ画面 
  YouTuber、鶏卵を手にしている。
YouTuber「はい! ということで今日は爆弾卵を食べてみた!をやります! イエーイ!」
  YouTuber、カメラに卵を見せる。
YouTuber「実はこの卵、電子レンジで温めておりまして、すでに破裂する直前です。少しでも衝撃を与えると…」
  YouTuber、卵を床に放り投げる。
  ぱーん!と大きな音を立てて破裂する卵。

○古舘家・リビング
  古館優子(38)、古館賢吾(14)からスマホを取り上げる。
優子「食べへんのやったら片づけてしまうで」
  テーブルに夕食が並んでいる。
賢吾「なんや。ええとこやったのに」
  陸、トンカツをがっついている。
  優子、席につく。
優子「陸。今日転校生きたんやって? どんな子?」
陸「(ぼそり)別に」
優子「どんな子やったかお母さんに聞かせてよ」
陸「…おかしな奴や」
賢吾「それはお前や」
陸「(睨む)あっ?!」
賢吾「あ?!」
優子「賢吾。からかわない」
  陸、賢吾を睨む。
優子「なにがどうおかしな子なん?」
  陸、答えず食べている。
優子「(呆れて)けど、なんや中途半端な時期にきた感じやな。来週は運動会もあるし」

○大丸小学校・校庭(翌日)  
  子供たち、二人三脚の練習をしている。
  陸とひかる、足に紐を結んで走っている。
  が、二人、ペースが合わない、
  ひかる、陸についていけずに転んでしまう。
陸「(むっとする)」
  大林、二人を見て、
大林「お前ら、しっかり息合わさんか!(と笑う)」

○同・3年1組の教室(休み時間) 
  子供たち、友情の証といった感じで、マジックペンで二人三脚の足紐に自分の名前や絵を書き込んでいる。
  女子生徒1、突っ立っているひかるにマジックペンを差しだし、
女子生徒1「はい。ひーちゃん」
ひかる「(受け取る)」
  ひかる、ちらりと陸を見る。
  陸、机に座って足紐を振り回している。
  ひかる、陸と目が合う。

○移動販売車の裏(回想)
  陸を見たまま硬直するひかる。

○(戻って)教室
  ひかる、怯えている。
陸「(ふんっ)」
  陸、そっぽを向く。
  ひかる、マジックペンを握りしめたままおろおろと立ち尽くす。

    ×    ×    ×

  子供たち、給食を食べている。
  ひかる、陸を気にし、弁当を食べながら正面にいる陸をちらちら見る。
  陸、視線を感じる。
  ひかる、陸と目が合うと慌てて目をそらす。
  陸、むっとして箸をおく。  
陸「(ひかるの弁当を見て)ええよなあ。アレルギー人間は。一人だけ好きなもん食えて」
  ひかる、うつむく。
  ひかる、ご飯を箸でつまむ。 
  と、弁当の上に涙の粒がこぼれる。
  ひかる、涙を流しながら箸を動かす。
  陸、ひかるの様子に気づき、一瞬、たじろぐ。
  陸、ぷいとそっぽを向く。

○古舘家・子供部屋(夜)
  二段ベッドの一階で、陸、携帯ゲームをしている。
  優子、やってくる。
優子「(怒って)陸」
陸「…何や?」
優子「何やじゃない。ひかるくんのこと、先生から聞いたよ」
陸「…」
優子「ゲームやめてこっちきなさい」
陸「…」

○同・リビング 
  陸、両膝を立ててテーブルに座っている。
  優子、陸の前に座り、
優子「ちゃんと座る」
  陸、座り直す。
  テーブルの上に二人三脚の足紐。
  優子、マジックペンを陸の前に置く。
優子「(足紐を指して)クラスの子たちがしてるみたいに、ここに自分の名前を書く」
陸「…なんでや?」
優子「いいから書く」
  陸、ペンを取り、仕方なく書く。
  紐に「古舘陸」の文字。
優子「そしたら次。今日のこと、明日ひかるくんにちゃんと謝る」
陸「…」
優子「謝ったら、仲直りの印にここにひかるくんの名前を書いてもらいなさい」
陸「…」
優子「返事は?」
  陸、黙りこくっている。
優子「なあ陸。ひかる君だって好きでお弁当持ってきてるわけやないやろ? 自分がいわれたりされたりしたら嫌なこと、人にもしたらダメ」
陸「…母ちゃんやってしとるやないか」
優子「え」
  陸、立ち上がる。
  優子、部屋に戻る陸の後ろ姿を見て、
優子「(悲しげな顔)」

○小学校・教室(数日後)  
  大林、出席を取っている。
  ひかるの席が空いている。
女子生徒2「先生、ひーちゃん今日も休み?」大林「ひかるか。ちょっとな(と言い淀む)」
  陸の席の近くで、女子生徒3が他の生徒へ、
女子生徒3「(こそこそと)陸が泣かせたせいやろ」
陸「…」

○同・校庭  
  体操着姿の子供たち、二人三脚の練習をしている。
  陸、不服そうな顔で大林と二人三脚をしている。
 
    ×    ×    ×

  水飲み場。
  陸、水を飲んでいる。
  陸、体操着のポケットから足紐を取り出し、見つめる。
陸「…」
山田の声「おい」
  陸、振り返る。
  山田、田中、中山、立っている。
山田「おいこら、どうしてくれるんや?」
陸「あ?」
田中「お前のせいでひーちゃん学校こなくなったやないか」
陸「なんで俺やねん」
  山田、田中、中山、陸ににじりよる。
中山「ひーちゃんイジメた落とし前、どうつけてくれるんや」
  田中、陸の胸を押す。
陸「なんや!」 
田中「ひーちゃんの代わりにお前がいなくなれ!」
  陸、三人に詰め寄られ、とっさに周りを窺う。
  蛇口に繋がれたホースが陸の目に入る。
  陸、蛇口を全開にする。
  陸、ホースを手にし、山田たちへ水を浴びせる。
山田「う、うわっ」
  山田たち、逃げ惑う。
  陸、ホースを持ったまま水飲み場の上に飛び乗る。
  陸、得意げに山田たちに水を浴びせる。
  陸の足下にぬるぬるの石けん。
  陸、石けんに気づかす、足を動かした拍子にせっけんを踏む。
  陸、せっけんでつるりと滑る。
  陸、地面へ転落する。
  陸、倒れたまま動かない。
山田、田中、中山「…」

○大丸病院・外観

○同・病室
  体操着姿のまま頭に包帯を巻いた陸、大林に付き添われている。
  優子、駆けつけてくる。
優子「陸!」
  大林、優子に頭を下げる。
大林「私の不注意でどうもすみません!」
優子「ケガのほうは?」
大林「頭を強く打ちつけたので、念のため一日入院して様子を見たほうがいいとのことでして」
優子「(陸へ人差し指を向け)陸。お母さんの指、何本に見える?」
陸「(バカバカしい)」
  陸、ベッドから起きあがる。
  陸、優子に手を差し出す。
優子「…?」
陸「喉乾いてん」
優子「そんならお母さんが買うてきてやる。あんたはケガ人なんやからじっとしとき」
陸「平気や。何ともない」

○同・廊下
  陸、小銭を手に無表情で歩いている。

○同・病室
  優子と大林、落ち着かない様子で立っている。
優子「(ぽつりと)あの子、学校でうまくやれてないのかな」
大林「いえ、そんなことは…」
優子「私、あの子に嫌われてるんです」
大林「え」
優子「親がいうのもあれですけど、ああ見えてほんとは優しい子なんです。でも離婚して私があの子を父親から引き離したもんやから…」
大林「…」
優子「だから、私のこと憎んで、それで突っ張ってるんだと思います」
  優子、寂しく微笑む。
大林「…私は教室でたくさんの子供を見てきました。我々大人が心配しなくても、子供というのは驚くほど変わるものです」
優子「…」

○同・廊下
  陸、自動販売機の前に立っている。
大林の声「そう。何か一つ、きっかけさえあれば」
  陸、小銭を投入しようとして落としてしまう。
  ころころと転がる小銭。
  陸、小銭を追いかける。
  前からくる少年の足下で小銭がとまる。
  陸、見上げるとひかるの姿。
  ひかるの隣に母の北山絵理香(30)。
  絵理香、立ち止まるひかるへ、
絵理香「ひかる?」
  陸とひかる、不思議そうに目を合わせたまま…

○同・ロビー
  陸とひかる、ぎこちなくソファーに座っている。
  遠くで優子と絵理香、笑顔で立ち話をしている。
  大林、陸たちのもとへやってくる。
大林「先生、そろそろ学校戻るわ」
  大林、気まずそうにする陸を見て、
大林「安心せえ。ひかるはお前のせいで学校を休んどったわけやない」
陸「…?」
大林「ひかるは家で誤って卵食べてしもうて、それで体調崩して入院してたんや。そやな?」
ひかる「(頷く)」
  優子、やってくる。
優子「(ひかるへ)こんにちわ」
ひかる「こんにちわ」
優子「若くてきれいなお母さんやね。ひかる君が羨ましいわ(と笑う)」
ひかる「(困って笑う)」
大林「では、私はこれで(と頭を下げる)」
優子「どうも(と頭を下げる)」
  大林、去る。  
優子「(陸へ)お母さんも仕事に戻るけど、じっとしてるようにな」
陸「…」
優子「着替えは賢吾にもってこさせるから」
陸「ええって」
優子「なにが」
陸「ボケナス兄貴なんかよこさんで」
優子「(取り合わず)じゃ、お母さん帰るわ。(陸に囁く)ひかるくんにまだ謝ってないんやろ? ええチャンスや」
陸「…」
  陸、体操着のポケットに手を突っ込む。
  陸、取り出した足紐を眺めて、
陸「…」

○同・ひかるの病室
  絵理香、ひかるのパジャマを畳んでいる。
とドアが開く音。
  ひかると陸、入ってくる。
絵理香「(陸を見て)あら。ひかるのお友達ね」
  陸、きょろきょろ室内を眺め、
陸「…俺の病室と大違いや」
絵理香「今からお昼ご飯食べようと思うんだけど、よかったら君もどう?」

○同・食堂
  陸、ひかる、絵理香、テーブルに座っている。
  陸とひかる、カレーを食べている。
  絵理香、コーヒーを飲みながらノートパソコンを眺めている。
  パソコン画面に「ひかるのアレルギー日記」と題されたブログが表示されている。
  コメント欄に以下のコメントが並ぶ。
  「食物アレルギーの子を持つ親の苦労が伝わってきます」
  「献身的なお母さんで素敵」
  「どうか無理をなさらずに」
  絵理香、それらのコメントを眺め、満足気に微笑む。
  陸、ひかるの腕が赤く腫れていることに気づき、じっと見る。
  ひかる、陸と目が合い、慌てて袖で腕を隠す。
  絵理香、二人を見て、
絵理香「今はだいぶ治まったけど、病院きたときなんか体中真っ赤で大変だったのよ」
陸「…」
絵理香「アレルギーなんか大したことないって思う人は世の中多いの。でもアレルギーは命に関わる病気。それをひかるのお友達にも知っておいてもらいたいな」
  陸、少し考えて、
陸「…けど、なんで食べたん?」
絵理香「そうねえ。うちの子はおっちょこちょいなとこがあるから」
陸「…おっちょこちょい?」
ひかる「(動揺し)あ、あっ、ご、ごちそうさま」
  ひかる、立ち上がる。
絵理香「もういいの?」
ひかる「(頷く)ト、トイレいくね」
  ひかる、歩き出す。
陸「…?」

○同・デイルーム(夕)
  テーブルが並ぶ広々とした室内。
  テレビや家電が設置されている。
  陸、ひかる、テレビを見ている。
  とドアが開く。
  賢吾、ボストンバッグを手に立っている。
賢吾「見つけたでー」
  賢吾、のしのしと陸のもとにやってくる。
賢吾「せっかくきてやったのに挨拶もなしか」
  陸、無視する。
  ひかる、二人を見て、
ひかる「…?」
  賢吾、ボストンバッグを陸の前に投げ捨てると、物珍しそうに室内をうろうろする。
  賢吾、冷蔵庫の扉を開ける。
  冷蔵庫の中にパックの生卵が入っている。
賢吾「(にやり)」

○スマホ映像
賢吾の声「今回の企画は、弟に爆弾卵を食べさせてみた! です!」
  皿に乗った山盛りの爆弾卵がカメラに映し出される。
賢吾「これは口に入れた瞬間爆発する超半熟の爆弾卵です!」
  カメラ、陸とひかるのほうへ近づいていく。

○病院・デイルーム
  賢吾、爆弾卵の皿を手にしながら、スマホで動画を撮影している。
  賢吾、陸にスマホを向け、
賢吾「食べる前に意気込みを」
  陸、意に介さず、ボストンバッグを持って出口へ歩き出す。
  賢吾、陸の前に立ちはだかる。
  陸、構わず出口へ向かう。
賢吾「おいこら!」
  陸、ドアを開ける。
賢吾「逃げたらそっちの友達が全部食うことになるんやで?」
  とスマホをひかるに向ける。
陸「友達やないわ!」
賢吾「そうか。まあええ。そこの君、とりあえずやりい」
  賢吾、ひかるへ皿を差し出す。
  ひかる、怯える。
  陸、ヤキモキする。
陸「(堪えかねて)おい!」
賢吾「(陸を見て)なんや?」
陸「ソイツは卵食ったら死ぬ病気にかかってるんやぞ!」
賢吾「卵食ったら死ぬぅ??? そんなわけあるかいな!(と笑う)」
陸「ほんまや!」
賢吾「なら試してみようやないか」
  賢吾、さらにひかるに近づく。
陸「(ひかるへ)はよ逃げろ!」
ひかる、恐怖で動けない。
  陸、しかたなく部屋に戻り、ひかるの前に立つ。
賢吾「お前が食うんやな。もし妙な真似したら、友達に卵食わせたるからな」
  賢吾、陸に皿を差し出し、
賢吾「かじるんや」
  陸、爆弾卵を一つ手に取る。
陸「…」
  陸、かじる。
  卵がぱーんと破裂し、陸の顔に高温の卵がへばりつく。
  陸、悶絶する。
賢吾「(バカ笑いする)ええぞ!」
  ひかる、呆然と見つめる。
陸「(賢吾へ)…もうええやろ」
賢吾「まだぎょうさん残っとるで。お前がやめるいうんなら次は友達の番や」
  陸、賢吾をにらみつけ、爆弾卵をまた一つ取る。

    ×    ×    ×

  陸、顔中卵まみれになっている。
  テーブルには空っぽになった皿。
賢吾「こりゃ傑作動画や!(と笑う)」
  ひかる、何か信じられないような顔でじっと陸を見つめている。
  と看護士、入ってくる。
看護士「(室内の惨状を見て)何してんの!」

○同・ひかるの病室
  陸とひかる、窓から外を見下ろしている。
  窓の外に、仁王立ちした看護士に叱られている賢吾の姿。
  賢吾、とぼとぼと歩き出す。
陸「(叫ぶ)ボケナス! 早う帰れ!」
  賢吾、振り返って陸を見上げる。
賢吾「帰ろうとしとるところや!」
陸「ボケ!」
賢吾「(中指を突き立てる)」
陸「(親指を下に向ける)」
  賢吾、渋々去っていく。
  陸、窓から離れるとベッドにダイブする。
陸「ええよなあ、一人部屋は」
  陸、ティッシュを一枚取る。
  陸、ティッシュを自分の顔に被せ、
陸「なんまいだぶなんまいだぶなんまいだぶなんまいだぶ…」
  ひかる、おかしそうに笑う。
  ベッドの下に足紐が落ちている。
  ひかる、気づいて、
ひかる「…?」
  ひかる、足紐を拾う。
  マジックペンで書かれた陸の名前を見て、
ひかる「…」

    ×    ×    ×

陸「なんまいだぶなんまいだぶなんまいだぶなんまいだぶ」
  陸、肩を叩かれる。
  陸、ティッシュを取り、起きあがる。
  ひかる、両手で足紐を広げて立っている。
  陸、はっとする。  
  足紐には「古館陸」と「北山ひかる」の名前が仲良く並んでいる。
陸「…」
ひかる「ごめん。ぼくが休んでたせいで全然練習できなくて」
陸「…」
ひかる「でも、本番は一生懸命走って、陸のためにがんばるよ(と笑いかける)」
  陸、ひかるから乱暴に足紐を取り上げる。
陸「お、俺はいかへん」
ひかる「…?」
陸「俺、頭痛くてかなわんもん。運動会は欠席や」
  陸、ひかるに背を向けると、照れを隠すように足紐をぐるぐる回す。
  そんな陸を見て、
ひかる「(微笑む)」

○大丸小学校・校庭(数日後)
  あちこちにテントが張られている。

○同・教室
  体操着姿の子供たち。
  陸、室内をきょろきょろ見ている。
  ひかるの姿がない。
陸「…」
山田の声「ひーちゃんだ!」
  山田、窓から外を見おろしている。
  陸、急いで窓に向かう。
  陸、窓の下を見る。
  校舎へ向かうひかるの姿が映る。
  陸の顔がぱっと輝く。

○同・校庭
  グラウンドを駆け回る赤白帽の子供たち。
  優子、テントでプログラム表を眺めている。
  優子の隣で賢吾がダルそうに座っている。
優子「(呟く)二人三脚はこの後か」
賢吾「帰ってええ?」
優子「何いうてんの」
賢吾「何で俺までこなあかんのや」
優子「当たり前やろ。家族なんやから」
  賢吾、クーラーボックスからかき氷アイスを取り出す。
優子「お母さんにも一個ちょうだい」

○同・廊下
  陸とひかる、二人三脚の練習をしている。
陸、ひかる「いちにっ、さんしっ」
  二人、息を合わせて走る。

○同・校庭
  二人三脚が行われている。
  陸とひかる、スタート位置につく。
  テントで優子、見ている。
優子「(賢吾へ)いよいよ陸の番や。YouTuberなんやろ? 撮影頼むわ」
  賢吾、ダルそうにスマホをグラウンドへ向ける。
  空砲が鳴る。
  陸とひかる、スタートする。
  二人、懸命に走る。
優子「(大声で)陸ーーーーがんばれーーー!! ひかるくんも!!」
  陸とひかる、他の子供たちから遅れをとる。
  が、それでも懸命に走り続ける。
  二人、ぴったり息の合った走り。
優子「あと一息!」
  陸とひかる、ゴールする。
優子「(興奮して拍手)」
賢吾「…ビリっけつやないか」

○同・フェンスの外
  日傘を差した絵理香の姿。
  絵理香、笑顔のひかるを冷たい目で見つめている。

○同・教室
  陸とひかる、一緒に弁当を食べている。
  大林、入ってくる。
大林「グッドニュースや! 保護者の方からソフトクリームの差し入れがあるみたいやで! それ、テントまで取りにいけー!」
  子供たち、一斉に廊下へ駆け出す。
  ひかる、冴えない顔になる。
  大林、陸とひかるのもとにやってくる。
大林「どした? お前らも早よもろうてこい」
ひかる「…(うつむく)」
大林「なんや、もしかしてソフトクリームもあかんのか?」
ひかる「(頷く)」
大林「牛乳は飲めるやろ?」
ひかる「(頷く)」
大林「(考えて)そんなら大丈夫やと思うよ。ソフトクリームは牛乳のはずやから」
ひかる「…」
大林「勇気出して食べてみい。うまいぞ」
  聞いていた陸、
陸「俺がもろうてきてやる!」
  と廊下へ飛び出す。
ひかる「(あっ)」

    ×    ×    ×

  子供たち、ソフトクリームを食べている。
  ひかる、寂しそうに見つめている。
陸の声「もろうてきたぞ!」
  ひかる、声のほうを見て、はっとする。
  陸、かき氷アイスを二つ持って立っている。
  女子生徒ら、見て、
女子生徒1「それ、アイスやん」
  陸、気にせずひかるのもとへいく。
  陸、かき氷アイスを一本ひかるに渡す。
  周囲の視線に、ひかる、恥ずかしそうにうつむく。
  陸、気にせずうまそうに食べる。
陸「うめー」
  陸、アイスにかぶりつく。
  ひかる、陸につられて一口食べる。
ひかる「(自然と笑みがこぼれる)」
  カメラマン、やってくる。
カメラマン「そこのふたり。撮るよ」
  カメラマン、陸とひかるにカメラを向ける。  
  陸、かき氷で真っ赤になった舌をべーっと出す。
  ひかるも真似して舌を出す。
  二人の姿がシャッターに納められる。

○古舘家・玄関(冬・朝)
  陸、靴を履いている。
陸「いってくる!」
  陸、玄関を飛び出す。
優子の声「陸! 傘! 天気予報雨やって!」
  優子、傘を持って外廊下に出てくる。
陸「(構えて)パス!」
優子「危ないから取りに来て」
  陸、ダッシュで玄関へ戻る。
  陸、優子から傘を受け取る。
優子「今日もひかるくんと遊んでくるの?」
陸「おう!」
  陸、駆け出す。
優子「車に気をつけてな!」
  颯爽と走る陸の後ろ姿を見送って、
優子「(微笑む)」

○大丸小学校・教室
  大林、出席を取っている。
  教室にひかるの姿がない。
陸「…」

○同・校庭
  空がどんよりと曇っている。

○同・教室(放課後)
  陸、帰り支度をしている。
  大林、プリントを手にやってきて、
大林「陸」
陸「…?」
大林「ひかるなんやけど、また少しの間入院することになってな。これ、お前が届けてやってくれへんか?」
  陸、プリントを渡される。

○病院・外観

○同・ひかるの病室
  ひかる、ベッドで横になっている。
  絵理香、そばでリンゴを剥いている。

○同・医師室
  医師、パソコンの前に座っている。
  看護師1、呆然と立ち尽くしている。
看護士1「(驚く)ほんまですか?」
医師「ああ」
看護士1「けど、まさか…」
  パソコン画面に絵理香のブログ。
  医師、看護士1に画面を示し、
医師「ひかる君のお母さんがやっているブログだ。ひかる君が卵を誤食したのは今回で二度目。少し気になったんで読んでみたんだ。ブログの記録によると、ひかる君は普通では考えられない頻度でアレルギーによるショック症状を起こし入退院を繰り返していることになる」
看護師1「…」
医師「MSBP。通称、代理ミュンヒハウゼン症候群。周囲から関心や同情を引くため、自分の身代わりとして故意に子供を傷つける虐待行為」
看護師「…」
医師「海外ではSNSにのめり込んだ母親が注目を浴びるために自分の子供を病気に仕立て上げた挙げ句、死なせるケースも出ている」
  医師、ブログを眺める。
  ひかるの真っ赤に腫れ上がった痛々しい背中の写真が載っている。
医師「(考え込んで)深刻な病気を抱えているのは母親のほうかもしれんね」

○道
  陸、プリントを片手に軽快に走っている。
  陸の頭に水滴が落ちる。
  陸、立ち止まって空を見上げる。
  ぽつぽつと雨が降ってくる。

○病院・ひかるの病室
  濡れた髪の陸、入ってくる。
  ひかる、ベッドから起きあがる。
ひかる「(嬉しい)陸!」
  絵理香、陸を見て、
絵理香「こんにちわ」
  陸、プリントを絵理香に渡す。
絵理香「わざわざ持ってきてくれたの。ありがとう」
  陸、ひかるのもとへいく。
陸「何やってんねん! ほんまにおっちょこちょいやな!」
ひかる「(笑う)」
  絵理香、陸にタオルを渡す。
絵理香「傘、持ってるのにささなかったの?雨で濡れちゃってるよ」
  陸、受け取り、髪をふく。
  ひかる、携帯ゲーム機を陸に見せる。
ひかる「ゲーム、する?」
陸「おう。その前にトイレいってくるわ」 

○同・廊下
  陸、トイレから出てくる。
看護士2、3、立ち話をしている。
看護師2「ひかる君の話、聞いた?」
陸「…?」
  陸、立ち止まる。
看護士3「うん。お母さん、ひかる君にわざと卵食べさせとるって」
看護士2「でも、ひかる君は自分で食べたっていってるんやろ?」
看護士3「母親をかばってるに決まってるやない」
看護士2「献身的な人やと思ってたけど」
  陸、呆然と突っ立っている。

○同・ひかるの病室
  陸、入ってくる。
  陸、ランドセルを背負い、帰り支度をする。
絵理香「あら。帰るの?」
  陸、無言で病室を出ていく。
ひかる「…?」

○道
  陸、とぼとぼ歩いている。

○病院の廊下(回想)
  噂話をする看護士2と看護士3。
看護士3「うん。お母さん、ひかる君にわざと卵食べさせとるって」

○(戻って)道
陸「…」

○古館家・リビング(夜)
  陸、賢吾、優子、テーブルで食べている。
  陸、浮かない顔をしている。
優子「…陸?」

○同・子供部屋
  明かりが消えた室内。
  二段ベッドの上で賢吾が寝息を立てている。
  下の段で、陸、じっとベットの中板を見つめている。
陸「…」
  陸、突然、ばっと体を起こす。

     ×    ×    ×

  陸、暗い中でリュックにゲームやマンガなど、荷物を詰めている。
  陸、二段ベッドに目を向け、賢吾が寝ていることを確認する。
  陸、賢吾の机の上に置かれた貯金箱に手を伸ばす。
  陸、貯金箱を開ける。
賢吾「おい」
  陸、どきりとする。
賢吾「(寝言)爆弾卵、リベンジや」
  陸、ほっとする。
  陸、貯金箱から金を取り出し、ポケットに入れる。

○同・廊下
  リュックを背負った陸、忍び足で歩く。
  リビングのドアの奥からテレビの音が漏れている。
   陸、そっと玄関のドアを開ける。

○病院・外観

○同・病室
  ひかる、ベッドに横になっている。
  絵理香、机でノートパソコンを広げ、ブログを書いている。
  ひかる、何気なくドアを見る。
  ドアの隙間から陸が顔を覗かせている。
ひかる「(驚く)」
  陸、ひかると視線が合い、しーっ、と指で合図する。
  ひかる、きょとんとする。
  陸、絵理香を指さし、続けて廊下を指さす。
ひかる「…?」
  陸、もう一度絵理香と廊下を指をさす。
ひかる「(察知して)あ、ねえ」
絵理香「ん?」
ひかる「ジュース、飲みたくなった」
絵理香「オレンジジュースでいい?」
ひかる「(頷く)」
絵理香「私もなんか飲もうかな」
絵理香、立ち上がる。

○同・廊下
  絵理香、病室から出てくる。
  陸、柱の陰に隠れている。

○同・ひかるの病室
  陸、入ってくる。
  ひかる、起きあがる。
陸「助けにきたぞ」
ひかる「…?」
陸「こっから逃げるんや」
ひかる「(戸惑う)陸?」
陸「なあ、甲府って知ってるか?」
ひかる「…コウフ?」
陸「俺の父ちゃんがな、そこに住んどるんや」
ひかる「…」
陸「ちょうど俺も住みたい思ってたとこや。一緒に連れてったる」
ひかる「…よくわかんないけど、逃げるって、何から逃げるの?」
陸「卵、母ちゃんに食わされたんやろ?」
ひかる「(動揺して)そんなこと、誰から聞いたの?」
陸「誰からでもええ。早よ逃げへんと、お前の母ちゃん、戻ってきてしまうで」
ひかる「…」

○同・ひかるの病室前
  飲み物を持った絵理香、やってくる。
  絵理香、ドアを開け、室内に入る。
  ベッドにひかるの姿がない。
絵理香「…ひかる?」

○同・デイルーム
  無人の室内。
  陸、ひかる、身を隠すように部屋の隅でしゃがみ込んでいる。
ひかる「(あっけらかんと笑う)違うよ。ぼくは自分で間違って食べたんだよ。おっちょこちょいだから」
陸「なんでウソつくんや?」
ひかる「…ウソじゃないよ」
陸「ウソや」
ひかる「…」
陸「おっちょこちょいの奴が、たこ焼き、吐き出すわけないやないか」
ひかる「…」
  ふいにひかるの目から涙がこぼれる。
ひかる「(鼻をすすりながら)ウソじゃないよ…でも…でも…」
  陸、じっと聞いている。
ひかる「お母さんは…いつも怒ってばかりだけど…僕が入院してるときは機嫌がいいんだ…一番機嫌が悪くなると、お母さんは、ぼくにわかるように、わざとキッチンの戸棚に卵の入ったお菓子を入れる…それをぼくに食べさせるために…それでね…ぼくはそれを食べるんだ…だから…お母さんに食べさせたんじゃない…自分で食べたんだよ…」
陸「なんでや? なんでそんなこと…」
ひかる「…お母さんが可哀想だから」
陸「…」
  陸、ひかるの腕をつかむ。
陸「俺が守ったる」
ひかる「…」
陸「(明るく)俺たち友達やろ?」

○同・ロビー
  陸とひかる、こそこそと歩いている。
絵理香の声「ひかる?」
  二人、振り返る。
  絵理香、立っている。
陸「逃げろ!」
  陸、ひかるの手をひいて駆け出す。

○道
  大雨の中、陸とひかる、走る。
  絵理香、必死に後を追う。

○コンビニ前
  陸とひかる、走ってくる。
  陸、自転車に飛び乗る。
陸「乗れ!」
  ひかる、後ろに乗る。
  陸、ひかるを乗せて自転車をこぐ。
絵理香「ひかる!」
  絵理香、追いかける。
  絵理香、転ぶ。
  ひかる、振り返る。
  転んだ絵理香を見て、堪らない気持ちに襲われて…

○バス停の前
  バスが停まっている。
  ひかるを乗せた陸、自転車を漕いでやってくる。
陸「(バスを見て)あれに乗れ!」
  陸、自転車から降りる。
  陸、バスに飛び乗る。
  が、ひかる、その場に立ち止まったまま動かない。
陸「どうしたんや?!」
  ひかる、空しく首を横に振る。
陸「…?」
  ひかる、バスの入口にいる陸の前に立つ。
  ひかる、ありったけの友情の瞳に浮かべ、
ひかる「陸、ありがとう。陸が守ってくれて嬉しかった。陸と友達になれてよかった」
陸「…」
  ひかる、陸に背を向けると、絵理香のほうへと歩いていく。
  絵理香、ひかるを抱きしめると、
絵理香「ひかる! なんで逃げるの!」
  ひかる、子供のように泣き叫ぶ絵理香を、深い悲しみを湛えて見下ろしている。
  バスから降りた陸、ひかるの姿を見つめながら、呆然とその場に立ち尽くす。

○古館家・リビング
  優子、ミシンで裁縫をしている。
  玄関から物音がする。
優子「…?」

○同・同(一週間後・朝)
  優子、電話している。
優子「ええ。体調もよくなったようですし、今日から登校します」
  陸、ランドセルに教科書をしまっている。
優子「はい…はい…え?」

○同・玄関
  陸、靴を履く。
  優子、心配そうに陸を見送る。

○大丸小学校・教室
  大林、神妙な顔で教壇に立っている。
大林「今日はみんなに大事な話があります。突然のことではあるけれど、ひかるが転校することになりました」
  陸、はっとする。
  教室内がざわめく。
大林「突然のことでお別れもいえないのは残念だけれど、心配ない。ひかるなら次の学校でもすぐに友達ができるだろう」
  陸、力なくうなだれる。

○同・廊下
  運動会など行事の写真が貼られている。
  その中に一枚、かき氷アイスを食べる陸とひかるの写真。

○同・教室
  給食の時間。
  陸、列に並んでいる。
  給食係、オムレツを子供たちのトレーにのせていく。
  陸、その様子をぼんやりと見つめている。
  と後ろから上履きが飛んできて、陸の後頭部にヒットする。 
  背後に山田、田中、中山が立っている。
山田「おう、またぼっちに逆戻りやな(とからかう)」
  陸、振り返ることなく、頭を押さえたまま震えている。
田中「(気づいて)あっ」
  陸の頬に大粒の涙がつたい、ぽたぽたと床に垂れ落ちている。
山田、田中、中山「…」
  静まりかえる教室。
  大林、陸のもとにやってくる。
大林「なんや?!」
  陸、腕で目を押さえながら、
陸「…ひーちゃんと…友達やったのに…ずっと友達でいれると思っとったのに…」
大林「…」

○河原(夕)
  陸、座り込んで川面を眺めている。
  優子、やってくる。
優子「陸」
  優子、陸の隣に座る。
優子「何してんの? こんなとこで」
陸「…」
優子「お母さんな、今日、仕事早引けしてきた。なんや、ぱーっと騒ぎたい気分。なあ。お兄ちゃん誘ってカラオケでもいこうか?」
陸「…」
  優子、立ち上がる。
優子「さ。暗くなる前に帰ろ」
  陸、立ち上がる。
  優子、陸の体を優しく引き寄せる。
  陸、抵抗せず、優子の胸元に顔を押し付ける。
  空に真っ赤な夕日が浮かんでいる。
  その夕日が親子の頭上を寂しげに照らしている。

(おわり)                               

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