短編ホラー④『隣りに住んでるのは誰?』 ホラー

あなたの隣りには今、誰が住んでいますか?
美野哲郎 47 0 0 08/06
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第一稿

 人物
大森実(23)
女の子
美紀(23)
松嶋(65)
雪子(64)
エマ(43)
ヒロシ(8)
男の子

〇アパート・表
   引っ越しトラックが停まっ ...続きを読む
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 人物
大森実(23)
女の子
美紀(23)
松嶋(65)
雪子(64)
エマ(43)
ヒロシ(8)
男の子

〇アパート・表
   引っ越しトラックが停まっている。
   二階建ての古いアパート。
   大家の松嶋(65)、妻・雪子(64)と立ち話中の、大森実(23)。
大森「普通、就職って思われますからね。この歳にして新一
年生なんてお恥ずかしい」
雪子「何も遅くないわよ。私なんて、これから大学入りたいなと思っているんだから。胸を張って」
松嶋「ところで大森くん、子供は平気かな?」
大森「子供、ですか?」
松嶋「アパートの子ね、うるさいかも知れない」
大森「全然問題ないです。子供は元気じゃなくちゃ」

〇同・二階廊下
   自宅から出る大森、隣りの表札『小出』を確認し、インターホンを鳴らす。
大森「すいませーん、隣りに引っ越してきました大森です」
   反応は無い。

〇同・大森の部屋(夜)
   荷解き前のがらんとした部屋。
   横になる大森、消灯した天井をボンヤリ見上げる。
   壁向こうの隣りの部屋から、子供の走り回る音。
   大森、クスッと笑い、眠りに就く。

〇花屋・店頭
   大森、水を撒いて路面を清掃。
   同僚・美紀(23)、店を出てその肩を叩く。
美紀「大森さん。店長呼んでる」
大森(奥に)「はーい?」
   レジの奥から顔を出す店長・エマ(43)。
エマ「どう、大体覚えた? 今日はもういいわ。好きな鉢植一つ持ってきなさい 小さいのね」
大森「え、いいんスか? ありがとうございます」
   大森、元気よくお辞儀して、鉢植を見て回る。
   美紀、楽しそうに横から眺め、
美紀「どれにする?」

〇アパート・二階廊下(夕)
   大森、ベゴニアの鉢植を抱えて帰ってくる。
   自宅の鍵を開けようとして、ふと振り返る。
   反対側の階段を上がって、小学生中学年くらいの女の子が歩いてくる。
   赤いランドセルを背負い、薄汚れたシャツが寒そう。
大森「こんにちはー」
   女の子、立ち止まると、俯いて実を無視。
   大森、苦笑を浮かべ自宅の鍵を開ける。
   女の子、鍵を出して小出家のドアを開ける。
大森(驚き)「あっ、あの。俺、隣りに越して来ました」
   女の子、家の中に入り、ゆっくりとドアを閉めながら大森の顔を見ている。
大森「大森と言います。よろしくお願いします。あのもし良かったら今度お家の人にも……」
   言い終わらないうちに、閉ざされるドア。
   大森、苦笑。

〇公園沿道
   大森、アパートの見える道を歩いていて、公演の砂場に目を留める。
   女の子、砂場で一人、人形を弄って遊んでいる。
大森「……」

〇アパート・二階廊下
   大森、ドアを開ける。その前を女の子が通過。
大森「あ。おかえりー」
   女の子、大森を無視し、自宅の鍵を開けて帰宅。

〇公園
   大森、ベンチで読書。犬の吠える声に顔を上げる。
   女の子が主婦の散歩させる犬に吠えられている。
   女の子、負けじと犬に吠え返す。
   主婦、無理やり犬を連れて去って行く。
   女の子、遠ざかる犬に唸り声で威嚇し続ける。
   その頭をポンポンと撫でる手。
女の子「?」
   女の子、振り返る。去っていく大森の背中。
女の子「……」

〇花屋・店頭
   薄汚れた姿の少年ヒロシ(8)、鉢植が目に留まり、その前にしゃがみ込む。
   美紀、その隣りにしゃがみ込んで、
美紀「お花、好き?」
   ヒロシ、ビクッと驚き、ダッシュで走り去る。

〇同・店内
   美紀、作業中の大森の隣りへ引き返す。
美紀「近頃多いよねー」
大森「何がです? 美紀さん」
美紀「平日の真っ昼間からさ、ランドセルも無しに一人でぶらついてる子供。いったい何してるんだろうと思って」
大森「……そうっすね」
美紀「今時の学校の時間割りとか休日とかわかんないし、大概は杞憂ってことなんだろうけど。大丈夫かなあーって、心配になっちゃうよ。色々と」
   大森、うなずきながら、作業を続ける。
  
〇アパート・大森の部屋・ベランダ(夕)
   物干しスペースが僅かにあるだけの狭いベランダ。
   ベゴニアの鉢植が風に揺れている。
   大森、公園の子供達の笑い声に耳を傾ける。
   振り返ると、隣りの家から女の子が顔を出している。
大森「お。こんにちは」
   女の子、ベゴニアに目を奪われている。
大森「知ってる? この花」
   女の子、無視して部屋に引っ込み、窓を閉める。
   大森、頭をかく。

〇花屋・店内
   大森、ベゴニアの鉢植を手に取る。
美紀「あれ? この間もその花じゃなかった?」
大森「今度は自分の給料で買うんです」
美紀「彼女さんに?」
大森「いえ。お隣りさんに」

〇アパート・二階廊下(夕)
   鉢植を抱えた大森、壁に凭れて待っている。
   女の子、階段を上がって来て大森に気づく。
大森「おかえり」
女の子「?」
大森「はい、コレ。気をつけて」
   大森、鉢植を女の子に手渡す。
大森「しっかり持って。プレゼント」
女の子「おお」
大森「こう言うの、“お近づきの印”って言うんだ」
   女の子、しばし鉢植を見つめている。
   大森、少し緊張して見守る。
   女の子、花弁に触れ、花の匂いを嗅ぐ。
   大森、安堵。
大森「毎日じゃなくても、朝、水をあげるだけで大丈夫だから」
   素直に肯く女の子、大事そうに鉢植を抱えて帰宅。
   大森、少し満足げに笑い、自宅に帰る。

〇同・ベランダ
   大森家と小出家。
   隣接するベランダに、並ぶベゴニアの鉢植。
   自室から顔を出した大森と女の子、並んでボンヤリ風に吹かれている。

〇花屋・バックヤード
   大森と美紀、休憩で昼食中。
美紀「どうだった? プレゼント。美人さんなの?」
大森「違うよ、子供。まだ小さい」
美紀(ふざけて引いたフリ)「え。お隣りの小さな美人さんと、どうしてもお近づきになりたい の……?」
大森「いや言い方。……俺さ、前は実家の団地住んでて。そこ、毎晩子供の泣き声が酷くてさ。どう考えても普通じゃなかったんだけど」
美紀「うん」
大森「普通じゃなかったのに、子供ってのはこんなもんだって言い聞かせて。何も特別な事じゃない。どこでも聞こえる声だ……団地の人みんな、そうだったんだろうな」
美紀「……うん」
大森「けど、新しくウチの階段に入った家の人がすぐにこれは変だって通報して」
美紀「虐待、あったの?」
大森「うん。全身にタバコの火傷跡だらけ。痩せ細った男の子が倒れてたって」
美紀「……そ。じゃ大森くんは、その子の分も罪滅ぼししたいんだ。お隣りさんと仲良くなって」
大森「いや一気に見抜くな……ダメかな?」
美紀「さあ。私なんか、今までお隣りさんと仲良くしてきた経験ないもん。名前も思い出せないな。今だって、隣りの人のことよく知らない……どんな人なんだろう」

〇公園沿道(夜)
   大森、夜風に軽く身震いをして、ふと園内を見る。
   薄着の女の子がブランコを漕いでいる。
   ひとりぼっち。女の子に近い街灯だけ消えている。
大森「……」
   大森、園内に踏み込む。

〇公園(夜)
   大森、ブランコに近寄っていく。
   女の子、ブランコを止めて、振り返る。
   隣りのブランコに大森が座っている。
大森「ういっす。暗いな」
   大森、上着を脱ぐと、女の子に着せる。
   女の子、されるがまま。
大森「よし」
   大森、隣りのブランコをこぎ始める。
   女の子、しばしそれを見ていて、負けじとブランコをこぐ。
   二人、楽しくなってきて笑う。
   消えていた街灯が明滅し、点る。
   大森、空中で振り返り、女の子の笑顔を見守る。

〇自動販売機・前(夜)
   大森、ホットココアを二つ買い、深呼吸。

〇公園(夜)
   ベンチに座った大森と女の子、ココアを飲む。
   女の子、大森の上着を前で合わせ、温かそう。
   大森、何か言いたいが、言葉が出てこない。
女の子「……あったかい」
   大森、その一言に安堵し、笑みをこぼす。
大森「寒かったろ。おうちの人遅いんだったら、大家さんの家で泊めてもらおう」
   女の子、俯いて黙っている。
   大森、その手を握る。
大森「ね?」
   女の子、ココアを啜り、コクリと肯く。
   大森、安堵。

〇公園沿道(夜)
   アパートまでの僅かな道のり。
   大森と女の子、しっかり手を繋いで歩く。
   
〇アパート・一階(夜)
   大森、空いてる片手でインターホンを鳴らす。
雪子の声「はーい」
大森「夜分恐れ入ります、先ほど話した子と来ました」
雪子の声「あら、本当だったのね。元気な子らだと思ってたけど、薄着でねえ」
   しばらくして、雪子がドアを開ける。
大森「こんばんは」
雪子「こんばんは。その子って、どの子かしら?」
   大森の手、虚空を掴む。
大森「?」
   振り返ると、隣りに女の子の姿は無い。
   上着ごと消えている。
   大森、焦って周囲を見渡す。
大森「あれ? おーい、どこいったのー?」
雪子「その子供って、タクヤくん? ユウキくん?」
大森「いえ、女の子で。名前はちょっと、まだ」
雪子「いませんよ」
大森「僕の隣りの部屋の子です」
雪子「お隣り、誰も入っていませんけど」
大森「……え?」
雪子「それに、女の子はおりません」
   雪子の後ろから松嶋も顔を出す。
   松嶋夫妻、顔を合わせる。
   松嶋、肯いて、改めて大森を見る。
松嶋「いや。君には黙っていた。すまない。私たちもその、生活が苦しくてな」
大森「……はい?」
松嶋「君の隣りの部屋だ。そこに暮らしていた女の子が、母親に逃げられ……それすらも私たちは気づけなかった訳だが。そして義理の父親に、殺されたんだ」
大森「……」
松嶋「真冬の寒空の下、薄着のまま公園の街灯に縛り付けられて、放置されてね」
大森「(愕然)」
雪子「……あの子が、まだいるのかしら」
松嶋「すまないね……すまないことをした。あの子にも、本当に」
大森「……鍵を」
松嶋・雪子「?」
大森「早く合鍵をっ」

〇同・二階廊下(夜)
   大森、走って自室の隣りのドアの前へ。
   『小出』の表札が消えている。
   焦って合鍵を回し、ドアを開ける。
   そして家の中へ。

〇同・隣りの家(夜)
   大森、暗い部屋の全貌に気づき立ちすくむ。
   カーテンも何も無い空き部屋。
大森「俺が殺したんだ……あんな泣き声は、おかしいって気づいてたのに」
   大森、ベランダのベゴニアを目にする。
大森「毎日じゃなくても、朝、水をやれば……」
   大森、顔を覆い、その場に泣き崩れる。

〇同・大森の部屋(夜)
   布団の上の大森、寝付けずにいる。
   隣りの部屋から、子供の走り回る音。
大森「……」
   大森、ハッと体を起こす。

〇同・二階廊下(夜)
   大森、隣りの家のドア前に来て、ノック。
大森「いるのかい?」
   部屋の中から、子供の笑い声。
大森「いるんだね?」
   大森、笑顔になってドアを開ける。

〇同・隣りの部屋(夜)
   大森、勢い玄関に上がり込んで、前を見る。
   見知らぬ子供たちが何人も、からっぽの部屋を埋め尽くしている。
   どの子も薄着で、体罰の跡が残る貧弱な体。
   皆な、目が窪んで真っ黒。
   その目で一斉に大森に振り返る。
大森「!」
   一人の男の子、大森に駆け寄ってくる。
   くぐもった声で叫ぶ。
男の子「なんで、助けてくれたなかったのおおおおおお?」
   大森の顔、恐怖と哀しみで歪む。

〇公園(夜)
   大森の上着を羽織った女の子、一人でブランコを漕いでいる。
   近くの街灯が点滅している。

〇花屋・店内
   美紀、表の店頭をジッと伺っている。
   エマ、電話を終え、
エマ「ダメ、出ない。大森くん、今日で三日連続よ」
美紀「ですねえ」
エマ「もうクビね」
美紀「ですねえ」
   美紀、あ、と気づく。
   店の表の道、ヒロシが離れてそっと花を眺めている。
美紀「おーい、君-」
   美紀、鉢植を抱えてヒロシの方へ駆けていく。

〇アパート・ベランダ
   がらんとした空室が並んでいる。
   隣り合うベランダで、並ぶベゴニアの鉢植。
   風にそよいでいる。
                         終わり

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