ああ、友情 ドラマ

「もうお前の夢には付き合えない…」 サラリーマンの菅井賢治(30)は、妻と生まれたばかりの長男3人で順調満帆な生活を送っていた。しかしかつて俳優を志していて、未だどこかで諦めきれない気持ちを抱えている。そして彼には未だに映画監督を夢見る親友・沼田健太郎(30)がいて、ある日自主映画への出演依頼を受ける。だが菅井は押さえつけていた気持ちを爆発させてしまう…。
大川晃弘 5 0 0 08/02
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第一稿

※登場人物
 菅井賢治(30) 会社員
 菅井華(28)
 菅井翔太(0)
 沼田健太郎(30)

〇古いアパート・外観(夜)
  築数十年は経過していそうな2階建て ...続きを読む
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※登場人物
 菅井賢治(30) 会社員
 菅井華(28)
 菅井翔太(0)
 沼田健太郎(30)

〇古いアパート・外観(夜)
  築数十年は経過していそうな2階建てのボロアパート。

〇同・沼田の部屋(夜)
  様々な物が部屋中に乱雑に転がった汚い部屋。
  その部屋の真ん中で一人PCに向かっている沼田健一郎(30)。
  PC画面には
  “厳正な審査の結果、残念ながら貴殿の作品は選定されませんでした。
  〇〇映画祭事務局“とのメール文。
  沼田、意気消沈した表情でPⅭ画面を見つめる。

〇マンション・外観(夜)
  10階建ての白いマンション。

〇同・菅井家の部屋・リビング(夜)
  掃除が行き届いてるような室内。
  背広姿の菅井賢治(30)入ってくる。
菅井「ただいま~、おお!」
  菅井、リビングを見回して少し驚く。
  菅井華(28)がやってくる。
華「おかえりなさい」
菅井「ずいぶん片付いたね?」
華「うん、今日一日でやっちゃおうと思って」
菅井「ありがとう。でも無理しなくていいぞ」
華「大丈夫。今日は翔太が大人しかったから」

〇同・寝室(夜)
  菅井と華、そっと入ってくる。
  菅井翔太(0)がベビーベッドでスヤスヤと眠っている。
  菅井と華、翔太の寝顔を見入りながら、
華「この子も新居に慣れたみたい」
菅井「そう。いや~疲れが吹っ飛ぶなあ。ようし!パパ頑張るからな!」
華「あなたこそ無理しないでね」
  するとリビングの方から着信音。
   
〇同・リビング(夜)
  テーブル上のノートPCが鳴っている。
  菅井、やってきてキーを押すと画面に沼田の顔が写る。
菅井「お疲れ~久しぶり~」
PC画面の沼田「ういっす~。お、背広姿!」
菅井「今日ちょっと残業でな、今帰ってきたばっかりなんだ」
PC画面の沼田「へえ~お前もいっちょまえに残業なんてやってんだ?」
菅井「お前もさっさと就職しろよ」
PC画面の沼田「バカ、俺はまだ諦めてねえからよ。しっかし、いいとこ引っ越しやがったな
 ~」
菅井「それほどでもねえけど30年ローンだ。翔太もこれから金かかるし雁字搦めだよ」

〇古いアパート・沼田の部屋(夜)
  沼田、菅井とPC越しに話している。
PC画面の菅井「お前はまだそこで刑務所暮らししてんのか?」
沼田「刑務所言うな。お前と同棲してた所じゃねえか?」
PC画面の菅井「同棲とか言うな。んで、何の用だよ?」
沼田「ああ、オーディションがあんだよ」

〇マンション・リビング(夜)
  菅井、沼田とPC越しに話している。
PC画面の沼田「西宝がさ、来年公開の新作、主演に無名の新人起用するらしくて今募集
 してんだ。知ってたか?」
菅井「(ウンザリして)知らねえよ」
PC画面の沼田「おいおい。ちゃんとチェックしとけ。チャンスを逃すな!」
菅井「あのな~。さっき言ったろ?雁字搦めだって」
PC画面の沼田「メジャーの主演だぞ?一発逆転狙ってみろ!お前ならいける!」
  すると翔太の泣き声が聞こえてくる。華が翔太を抱っこしてあやしながらやってくる。
華「沼田くん。お久しぶり~」
PC画面の沼田「やあ華ちゃん、すっかりママになっちまったな~」
  菅井、翔太を抱っこする。
菅井「健太郎、今の俺にはこの幸せを守らなければならない義務があんだよ…」
PC画面の沼田「…諦めんのか?」
菅井「…(言葉に詰まる)」
  華、菅井の表情を見る。

〇同・寝室(夜)
  菅井、翔太を抱っこして入ってくる。
  ベビーベッドに翔太を寝かしつける。
  後から華も入ってくる。手にダンボール箱を持っている。
華「ねえ、今日荷物整理しててさ、これが出てきたんだけど…」
菅井「ん?」
  菅井、ダンボール箱を開ける。中には映画と思しき脚本やDVD、
  “最優秀主演俳優賞 菅井賢治”と書かれた賞状などが入っている。
華「リビングに飾ったらどうかな?と思って」
菅井「やめろよ」
華「何で?沼田君と一緒に撮った自主映画でしょ?思い出がいっぱい詰まった」
菅井「ただのお遊びさ。映画ごっこだよ」
華「そう…じゃあ捨てちゃう?」
  華、ダンボール箱を閉じて持っていこうとする。
菅井「いや、待って…一応、取っといて…」
  華、菅井の様子を伺って、
華「…受けたいんじゃない?オーディション」
菅井「ええ?そ、そんなことないよ…」
華「じゃあ、“諦めるのか?”って聞かれて何で答えなかったの?」
菅井「…そ、それは…」
華「迷ってるから答えられなかった。違う?」
菅井「ち、違うさ!」
  菅井、ベビーベッドで眠る翔太の寝顔をしっかりと見つめる。
菅井「俺は十分満足だ!今の生活に!」
華「私と翔太が足枷になってる?」
菅井「やめてくれ、そ、そんなわけないだろ」
  菅井、華をギュッと抱き締める。
菅井「いいんだ!いいんだこれで…」

〇古いアパート・沼田の部屋(夜)
  沼田、PCで映像を見ている。画面には菅井が出演している映画が再生されている。
沼田「守らなければならない幸せか…フン!」
  沼田、再生を止めて書きかけの脚本を表示させる。
沼田「そんなもん、俺にはねえや!」
  沼田、勢いよくキーボードを叩く。

〇マンション・外観(夜)
  T『一カ月後』

〇同・菅井の部屋・玄関(夜)
  背広姿の菅井、入ってくる。
菅井「ただいま~」
  リビングの方から華と沼田の笑い声が聞こえてくる。菅井、気づいて見る。
華「あ、おかえりなさ~い」
沼田「よお!ご主人、お勤めご苦労!」
  沼田が笑顔で手を振っている。
菅井「(呆れる)」

〇同・リビング(夜)
  沼田、テーブルについている。
  華、奥のキッチンで食事の用意をする。
  菅井もやってきてテーブルにつく。
  ふと、棚に飾ってある賞状が目に入る。
菅井「あれ?飾んなくていいって言ったのに」
華「沼田君にね、賞状が出てきたって話したら、ぜひ飾れよって言うから」
沼田「そうだよ!閉まっといたってしょうがねえだろ?」
菅井「んだよ?こんな遅くにいきなり…」
沼田「連絡したぞ、何度も。お前がスルーすっからよ、しょうがねえから押しかけてきたんだ。
 なあ、お前にまたチャンス持ってきたぜ!」
  沼田、一冊の脚本をテーブルに出す。
沼田「書けたんだよ!新作が。これをまたお前主演で撮ろうと思ってな!」
菅井「勘弁してくれ…」
沼田「違うんだよ、今度は!書き終えて確かな手応えがあった。きっと傑作になる!」
  華、食事を持ちながらやってくる。
華「さっき内容聞いたんだけど、けっこう面白そうよ!」
  華、菅井の前に食事を置く。
沼田「なあ賢治、お前に合わせて土日休みに撮影すっからよ!」
  菅井、答えずに食事を食べ始める。
華「賢ちゃん、私たちのこと気にしなくていいからやってみれば?」
沼田「また一緒にやるぞ!この映画はお前を絶対スターにする!」
  すると菅井、突然食事をひっくり返す。
華「キャッ!」
  菅井、棚の賞状を手に取り破る。
沼田「賢治、止めろ!」
  沼田、止めに入るが菅井、ビリビリに破り、床に紙片をぶちまける。
菅井「お、俺は…もう諦めたんだ!」
沼田「まだ早い!いいか賢治、俺はお前の才能を信じてる!」
菅井「迷惑なんだよ!俺は…今十分幸せだ…」
  菅井、床にへたり込む。
沼田「頼むよ、俺には映画しかねえんだよ…」
菅井「もうお前の夢には付き合えない…巻き込まないでくれ…」
沼田「そうか…俺は巻き込もうとしてたのか…」
  床にへたり込んだままの3人。
  破かれた賞状の紙片も散らばったまま。

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