パンのおかゆ ドラマ

「私は流動食しか食べられなくなってしまった…」 若い頃から母親を介護し続けてきた名島咲子(37)。だが母の死をきっかけに就職を目指し、自らの 人生に踏み出そうとしていた矢先、今度は父親が認知症になってしまい…。 ヤングケアラーの孤独と苦悩を描いた20枚シナリオです。
大川晃弘 104 0 0 08/01
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第一稿

※登場人物
 名島咲子(37) フリーター
 名島敏雄(72) 咲子の父
 鳩山洋子(68) 咲子の伯母
 名島多恵(69) 故人・咲子の母
 児島明義(42) スーパー ...続きを読む
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※登場人物
 名島咲子(37) フリーター
 名島敏雄(72) 咲子の父
 鳩山洋子(68) 咲子の伯母
 名島多恵(69) 故人・咲子の母
 児島明義(42) スーパーの店長
 スーツ姿の若い女性

〇名島家・キッチン(夜)
 名島咲子(37)、食パンにハチミツを塗る。そしてそれをミキサーに入れスイッチを入れる。
 ミキサー、ガーと音を鳴らして食パンを攪拌する。咲子、流動食になった食パンをマグカップ
 に注ぐ。

〇同・居間(夜)
 名島多恵(69)の遺影が置かれた仏壇がある。咲子、食パンが入ったマグカップを多恵の写真 
 前に供える。そして自らも流動食になった食パンをレンゲで食べる。食べながら履歴書を広げ
 る。職歴欄は『平成〇年××高等学校卒』以下が空欄になっている。資格・特技欄も空欄。咲
 子、憂鬱な表情で見ながら黙々と食事する。すると襖がガラッと開いて隣の座敷から名島敏雄
 (72)が顔を出す。
敏雄「当たった!大穴だ!」
 敏雄、馬券を持ってはしゃいでいる。
咲子「(呆れた感じで)そう。良かったわね」
敏雄「いや~腹減った。咲子、飯にしてくれ」
咲子「さっき夕飯食べたでしょ?」
敏雄「え?そうだったかな? ハハハ」
 敏雄、馬券を見てはしゃぎ続ける。
 咲子、その様子を見て溜息をつく。

〇スーパー・事務所内
 地味な普段着姿の咲子、児島明義(42)と向かい合っている。児島、咲子の履歴書を見て、
児島「では高校卒業して以来、全く働いたことがないということですね?」
 咲子、俯き加減で元気なく答える。
咲子「はい……」
児島「お母様の介護してた時、収入はどうされてたんですか?」
咲子「トラックドライバーをしてた父の収入で生活してました。仕事柄、父は不在がちで私が母
 の介護せざるを得なかったんです」
児島「なるほど。それでご結婚も?」
咲子「はい。出来ませんでした……」
児島「介護されたご苦労、お察し致します。しかし正直今この時点で名島さんの雇用は難しいで
 すね」
咲子「やはり、そうですよね……」
児島「まずは職安に行かれてはいかがでしょう? 職業訓練校に通って資格を取ることも出来る
 でしょうし、給付金だって受けられると思いますよ」
咲子「職安?」
児島「これからはご自分のために生きるべきじゃないですかね?」
咲子「はあ……」

〇住宅街・道路
 咲子、トボトボと元気なく歩いている。
 向こうからスーツ姿の若い女性が電話をしながらせかせかと歩いてくる。
女性「今、近くまで来ましたのでこれから契約内容のご確認にお伺いさせて頂きます」
 咲子、その女性を見る。女性、咲子のことは全く気にせず電話したまますれ違う。咲子、立ち
 止まりスマホを出して電話をかける。
咲子「あ、もしもし。洋子伯母さん、お久しぶりです。すみません、ちょっとご相談がありまし
 て……」

〇グランドホテル内の喫茶店・中
 高級感たっぷりの店内。優雅なBGMが流れている。咲子、キョロキョロして落ち着かない。
 メニュー表を手に取り中を見ると『ブレンド¥1,500』とある。
咲子「高!」
 すると突然、後ろから
洋子の声「また、そんな恰好で来て」
 咲子、振り返ると鳩山洋子(69)が立っている。その容姿は高級ブランドっぽい華美な服装に
 厚めの化粧。
咲子「あ、こんにちは」
洋子「女なら少しは場所を考えなさいよ」
 洋子、座りメニューを手に取って見る。
咲子「あの、お店変えません? 駅前のカフェとかでも良かったんですけど……」
洋子「姪っ子と割り勘にするつもりなんてないわ、出すわよ私が。それにここのハニー
 トースト、とっても美味しいのよ」
咲子「す、すみません……」

〇名島家・座敷
 敏雄、古い無線機に向かって一人喋っている。
敏雄「こちらは敏雄っす。只今広島帰り、降ろし終わって3号線快走中~。ちょっとインター寄
 って休んでこうかなと思ってま~す。皆さん体調ダイジョブすか?」
 無線は電源が入っておらず当然誰からの応答もない。

〇グランドホテル内の喫茶店・中
 洋子、タバコ片手にコーヒーを飲む。
洋子「この間、下の息子の就職が決まって、サークル活動に集中出来ると思ったら認知症って、 
 本当兄貴の奴、疫病神!」
 洋子、タバコの煙を吐き出す。それが対面に座る咲子の顔にかかり咳き込む。
咲子「やっぱり手伝って頂くの難しいですか」
洋子「私もう鳩山家の人間よ。言ってみればもう赤の他人だし。それに兄貴に迷惑かけられるの
 はもうウンザリよ」
咲子「そうですか……」
 するとウェイターがハニートーストを一皿持ってきてテーブルに置く。
ウェイター「お待たせ致しました」
洋子「わあ~きたきた!あんた本当にいらないの?遠慮しなくていいのよ」
咲子「いえ、大丈夫です」
 洋子、ハニートーストを一口食べる。
洋子「んん~これこれ!」
 咲子、美味しそうに食べている洋子を見ながら、
咲子「伯母さん、オーケストラのサークル入ってやっしゃるんでしたっけ?」
洋子「そう! パートは第1バイオリン。これまでなかなか練習出来なくてさ。でもや
 っと専念出来るの!実はね、来年コンサート決まったのよ!咲も招待するから聴きに来て
 ね!」
咲子「でもそれって、アマチュアオーケストラなんですよね?」
洋子「だから何よ? バカにしてんの?」
咲子「いえ、でも何かいいですね、自分のために生きてるっていうか」
洋子「何それ?変な子。あんたも自分のために何かやったらいいじゃない?」
 洋子、トーストを食べる。咲子、洋子を少し睨みつける。

〇名島家・座敷
 トランジスタラジオから競馬実況が聞こえてくる。敏雄、競馬新聞と馬券を片手に実況を聞き
 入っている。すると襖が開いて咲子と洋子が顔を出す。
咲子「お父さん、ただいま。お客さんよ」
洋子「(機嫌悪そうに)こんちは」
 敏雄、咲子と洋子を無視して実況に聞き入っている。
咲子「昔一度だけ大穴当てたことが忘れられないみたいです。近頃は毎日のようにああやって昔
 買った馬券持ってはしゃいでるんです」
洋子「ふん! 競馬で擦った金、どんだけ私が貸してやったことか!」
 すると敏雄、突然立ち上がって、
敏雄「や、やった! 当たった! 当たった! おい! 大穴当てたぞ!」
 敏雄、咲子に古い馬券を見せて騒ぐ。
咲子「良かったわね。洋子伯母さんが来てくれましたよ」
洋子「兄さん、それで少しはお金返してね」
敏雄「どうも! 咲子のお友達?」
咲子「何言ってんの! 父さんの妹でしょ」
 敏雄、咲子の言葉は聞かず、部屋の真ん中ではしゃいでいる。
咲子「ちょっと、父さん!」
洋子「咲、私やっぱり面倒見るの無理」
咲子「え?」
洋子「この人私のこと知らないみたいだし、何で赤の他人の介護しなきゃいけないの?」
咲子「赤の他人って……」
洋子「もう帰るわ」
 洋子、座敷から出て行く。

〇同・玄関
 洋子、靴を履いていると咲子がやってきて、
洋子「じゃあね。悪く思わないで」
咲子「伯母さん、私も食べたかったです。ハニートースト」
洋子「何よ今頃。だから遠慮しないでって言ったじゃない」
咲子「食べれないんです。固形物のままだと」
洋子「は?」
咲子「昔、母が食事の時、喉を詰まらせたことがあって。それ以来、食事は流動食にしてまし
 た。でもそのことがあって私も流動食しか口に出来なくなってしまって……」
洋子「何よ?突然、そんな話」
咲子「変ですよね? 私。こんな人間の出来ることって親の介護ぐらい……」
洋子「何が言いたいのよ?」
咲子「バイオリンの練習頑張って下さい。私は父の介護で行けないだろうけど、コンサート楽し
 みですね、アマチュアの!」
洋子「な、何よ!」
 洋子、突っ立ったまま、悔しがる。
 咲子、言い切って奥へ引っ込む。

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