十二人の怒れる人狼(ヤンシナ応募ver.) ドラマ

日本版陪審員制度がテスト導入され、都倉萌演(23)ら十二人の男女が、とある女性アイドルと男性プロデューサーの間で起きた強制性交等致死罪の判決について話し合っていた。しかし一回目の審議では全員一致せず、萌演らは日本版独自のルールに則り「議論に不要な陪審員一名」を多数決で選び、その場から追放した。そして二回目の審議開始を待つ間、一人の陪審員の遺体が発見され……。
マヤマ 山本 31 0 0 07/26
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第一稿

<登場人物>
都倉 萌演(23)陪審員、洋菓子屋店員
柳 羽衣佳(34)同、インフルエンサー
大滝 辰也(45)同、警備員
重山 拓巳(20)同、大学生
牧野 優(55) ...続きを読む
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<登場人物>
都倉 萌演(23)陪審員、洋菓子屋店員
柳 羽衣佳(34)同、インフルエンサー
大滝 辰也(45)同、警備員
重山 拓巳(20)同、大学生
牧野 優(55)同、教師
辻本 未来(30)同、派遣社員
沢渡 神奈(41)同、主婦
酒巻 隼平(52)同、飲食店経営
成田 健(63)同、トラック運転手
井ノ瀬 垓(26)同、フリーター
小泉 敦子(61)同、家政婦
伊藤 伸悟(36)同、フリーのライター

枡田 (28)陪審員補助係
椎名 うらら(22)被害者、アイドル
岸田 仁郎(49)被告人、プロデューサー



<本編>
○裁判所・外観
   雷雨。まるで明け方のような暗さ。

○同・会議室
   床に落ちた紙コップとこぼれたコーヒー、重山拓巳(20)の死体を囲む都倉萌演(23)、辻本未来(30)、沢渡神奈(41)、井ノ瀬垓(26)、小泉敦子(61)。重山の脈をとり、首を横に振る酒巻隼平(52)。
萌演「そんな……」
神奈「嫌……お願い、もう帰らせて!」
   肩を寄せ合う未来と敦子。
井ノ瀬「でも、何でっスか? 俺ら、この三〇分間、ずっとこの中に居たのに……」
酒巻「それはつまり、この中に居るという事ですよ。犯人が、いや……」
萌演「人狼が、ですか?」
   沈黙。雷鳴が響く。

○メインタイトル『十二人の怒れる人狼』

○(回想)ラブホテル・外観(朝)
   警察車両が多数停車している。

○(回想)同・客室(朝)
   ベッドの上、椎名うらら(22)の遺体。全裸。警察によって袋に入れられ、担架で運び出される。
アナウンサーの声「アイドル活動をしていた椎名うららさん、二二歳が亡くなった事件で」

○(回想)警察署・前
   警察車両に乗って身柄を送検される岸田仁郎(49)。手には手錠。車両の周囲には多数のマスコミ。
アナウンサーの声「強制性交等致死の容疑で逮捕された音楽プロデューサー・岸田仁郎氏」

○裁判所・前
   集まる報道陣。
アナウンサー「その裁判に、日本版陪審員制度がテスト導入される事が発表され、世間の注目が集められています」
伊藤の声「皆さん、間もなく一回目の投票時刻です」

○同・会議室
   大きな机を囲んで座る萌演、柳羽衣佳(34)、大滝辰也(45)、井ノ瀬、牧野優(55)、未来、神奈、酒巻、成田健(63)、重山、敦子、伊藤伸悟(36)。
伊藤「最後にもう一度、時計回りでご意見を伺いたいと思います。では、都倉さん」
   T「都倉 萌演(23)洋菓子店員」
萌演「やはり、今回の最大の争点は同意の有無だと思うんです。被告人と被害者の年齢差は二七歳。普通に考えて、純粋な同意の元、関係に至ったと考える方が変だと思います」
   T「柳 羽衣佳(34)インスタグラマー」
羽衣佳「だからそれは、報道されてた通り『枕営業』だったって考えれば、何もおかしくないでしょ?」
萌演「被告人は否定していますし、仮に枕営業だったとして、それが事務所に強要されたものだとしたら『同意は無かった』という事になるんじゃないですか?」
神奈「言われてみれば、そうかも」
羽衣佳「枕営業を自分の意思でやるって、今時珍しくないから。私の友達にもいるし」
井ノ瀬「こういう時の『友達』って、大体自分の事っスけどね」
   羽衣佳に睨まれ、肩をすぼめる井ノ瀬。
伊藤「では、柳さんのご意見は『無罪』という事でよろしいですか?」
羽衣佳「あぁ、うん。そう。次の人どうぞ」
   T「大滝 辰也(45)警備員」
大滝「有罪だ。間違いない」
重山「その根拠は?」
大滝「あの男が有罪だからだ」
羽衣佳「ダメだこりゃ。話にならない」
   T「重山 拓巳(20)大学生」
重山「じゃあ、次は僕ですね。僕も無罪だと考えます。仮に枕営業だったとして、それが事務所からの強要だったとして、それでも現場のラブホテルまで自分で行っている以上、被害者もある程度は同意しているものと考えていいでしょうし、何より有罪とするには根拠が薄い印象です」
   T「牧野 優(55)高校教師」
優「私も同意見です。確かに、有罪派の方のお気持ちはわかります。私も正直、有罪にしろ無罪にしろ、決定的な判断材料は無いように思っています」
神奈「言われてみれば、そうかも」
優「こういう場合『疑わしきは罰せず』。つまり『有罪という確たる証拠がない以上、無罪にすべき』というのが、刑事裁判の鉄則です」
萌演「推定無罪、でしたっけ?」
優「その通りです」
未来「……」
伊藤「えっと……次の方」
   T「辻本 未来(30)派遣社員」
未来「あ、はい。ウチは、その……どちらとも言えないというか」
重山「だとすると、推定無罪ですか」
未来「……はい」
   T「沢渡 神奈(41)主婦」
神奈「それだと、私も無罪かも」
   T「酒巻 隼平(52)飲食店経営」
酒巻「自分は、有罪に一票」
優「何か根拠がおありなんですか?」
酒巻「いいえ。ですがテストとはいえ、これまでの裁判制度を改め、陪審員制度が初めて実施された裁判なんです。これまでの常識に従うだけの判決で、良いのでしょうか?」
伊藤「と言いますと?」
酒巻「皆さん、多少なりとも『無罪』とする事に違和感をお持ちでしょう? だとしたら、それは民意です。それを判決に反映させるために、今回自分達が集められたんじゃないのでしょうか? 自分からは、以上です」
   T「成田 健(63)トラック運転手」
成田「何か、難しい事言われても、俺わかんねぇな。とりあえず、みんな無罪なんでしょ? だったら、俺も無罪で」
   T「井ノ瀬 垓(26)フリーター」
井ノ瀬「じゃあ、俺は有罪っスかね」
羽衣佳「は? アンタも?」
井ノ瀬「だって、せっかく陪審員になったんスよ? 有罪の方が面白そうじゃないっスか」
優「まったく……不謹慎ですよ」
井ノ瀬「そうっスか?」
   T「小泉 敦子(61)家政婦」
敦子「私は……無罪にしようかしら。理由は……無くてもいいかしら? もう出尽くしちゃったから」
伊藤「良いと思います。これで一周しましたが、まだ言い残した事がある方は……」
萌演「伊藤さんの意見がまだですけど」
   T「伊藤 伸悟(36)フリーのライター」
伊藤「私ですか? 私は先ほど話にあった『一部報道』に携わった人間ですから。取材の過程では、被告人に非があったとは、正直思わなかったですね」
   アラーム音。
伊藤「どうやら、時間のようですね」
枡田の声「その通りです」
   部屋に入ってくる枡田(28)。
枡田「皆様、お疲れ様でした。ではただいまより投票に移らせていただきます」
    ×     ×     ×
   投票用紙に記入し、投票箱に投票する萌演ら陪審員達。
枡田の声「陪審員というのは古今東西、世界共通、全員一致が原則です」
    ×     ×     ×
   開票する枡田とその様子を見守る萌演ら陪審員達。
枡田の声「もし不一致の場合、全員一致するまで何時間でも何日でも、審議を続けていただきます」
枡田「(投票用紙を一枚一枚手にしながら)無罪、無罪、有罪」
   落胆する陪審員達。
枡田「以上、有罪三票、無罪九票。採決は持ち越しとなりました」
羽衣佳「ったく、さっさと帰りたいのに……」
重山「でも、一人減りましたね。まぁ、大滝さんではないんでしょうけど」
大滝「有罪だ。間違いない」
羽衣佳「コイツ、マジうぜぇ」
伊藤「まぁまぁ、皆さん落ち着いて」
枡田「では、ここからが日本版陪審員制度独自のシステムです。この一二人の中から審議に不要な方をお一人選び、その方を追放していただきます」
優「追放されたら、帰れるんですか?」
枡田「いいえ、審議が終わるまで別室で待機していただきます。もちろん、外部との連絡手段もございません」
重山「何もしないで隔離されるだけ、か。しんどいですね」
羽衣佳「絶対無理」
成田「じゃあ、俺でいいよ」
敦子「成田さん?」
成田「俺、難しい話はわかんねぇからよ」
伊藤「立候補でも良いんですか?」
枡田「追放者の決定方法は多数決ですから、皆様がそれで良ければ、構いませんよ」
伊藤「では、成田さんの追放の賛成の方、挙手をお願いします」
   全員が挙手。
井ノ瀬「ここは全員一致すんスか」
枡田「では成田さん、コチラへ」
成田「おう。じゃあね」
枡田「では三〇分の休憩を挟んだ後、二回目の審議に入らせていただきますので」
   成田を連れ出ていく枡田。
萌演「追放、か……何か、人狼ゲームみたい」
井ノ瀬「わかるわ~」

○同・前
   集まる報道陣。
アナウンサー「判決はまだ出ていません。陪審員の間で意見が分かれている模様です」

○同・会議室
   やってくる枡田。
枡田「休憩時間は終了です。皆様、二回目の審議を開始して下さい」
   萌演ら一〇人が着席しているが、羽衣佳の姿がない。
枡田「おや、お一人いないようですが?」
伊藤「柳さんがお手洗いに行かれているとか」
敦子「でも、私達と入れ違いだったから、大分前よ? (未来に)ねぇ?」
   頷く未来。
優「誰か、様子を見に行った方が良いんじゃないですか?」
井ノ瀬「じゃあ、補助員さん」
枡田「私一人で女性トイレに入る訳には……、どなたかご同行願えないでしょうか?」
萌演「(周囲を見回した後に挙手し)普通に考えれば、年少者の役目ですよね」
敦子「あら、悪いわね」
枡田「では、参りましょうか」

○同・女子トイレ・中
   ドアを開ける枡田。萌演を促す。
萌演「柳さ~ん。審議始まりま……」
   何かを見つける萌演。

○同・会議室
   待っている残る九人の陪審員達。萌演の悲鳴が響く。
重山「何だ?」
伊藤「行ってみましょう」
   部屋を出ていく陪審員達。

○同・女子トイレ・前
   腰を抜かす萌演の元に集まる陪審員達。
酒巻「何かありました?」
   部屋の奥を指さす萌演。横たわる羽衣佳の遺体と、その脈をとる枡田。
一同「!?」
枡田「お亡くなりになっています」
萌演「そんな……」
   呆然と立ち尽くす陪審員達。

○同・会議室
   着席する萌演ら陪審員達。重い空気。
伊藤「……どなたでも良いと思います。何か意見はありませんか?」
敦子「さすがに……ねぇ?」
重山「おかしいですよ、あの補助員。こんな状況で警察も呼ばず、審議も続行なんて」
酒巻「まぁ、彼の言う『陪審員の数が減ること自体、システム上の問題は無い』というのは間違いないんでしょうけど」
優「けど、人が亡くなっているんですよ?」
伊藤「皆さんのお気持ちはわかります。その数々のおかしい点に関しては、私がいつか記事にさせていただきますので」
酒巻「そうですね。自分達は審議をしましょう。それが終われば、帰れる訳ですから」
神奈「言われてみれば、そうかも」
井ノ瀬「で、じゃあ何から話すんスか?」
伊藤「そうですね。一回目の投票では、有罪三票対無罪九票という事でしたが……」
重山「有罪を主張していたのは酒巻さん、都倉さん、大滝さん、井ノ瀬さんの四人でしたよね?」
井ノ瀬「あ、俺は最後、無罪に入れたっスよ」
重山「まぁ、そうじゃないかと思ってました」
萌演「え? あの……私も最後の投票では、無罪に入れたんですけど」
一同「え!?」
井ノ瀬「え、何で何で?」
萌演「牧野さんのおっしゃってた『推定無罪』の話が一番説得力あって。確かに、普通に考えれば、有罪の確証はないなって」
優「あら、喜んでいいんですかね?」
伊藤「えっと……では残りの一人はどなたなんでしょうか?」
   沈黙。
井ノ瀬「おいおい、誰っスか?」
優「けど、無記名投票である以上、名乗り出ない権利もあるのでは?」
酒巻「同感です。それに、もしかしたら柳さんか成田さんだったのかもしれませんし」
重山「いや、成田さんはともかく、柳さんは無罪派じゃないですかね?」
敦子「私もそう思うわ」
伊藤「ただ、ご本人がいないと何とも……」
   沈黙。
優「……死因は何だったんですかね?」
神奈「言われてみれば、気になるかも」
伊藤「さぁ……? いかんせん、医者も呼んでないですからね」
酒巻「持病か何かお持ちだったんでしょうか」
萌演「ないと思います」
重山「何かご存知なんですか?」
萌演「あ、いや……私、普通に柳さんのインスタとかフォローしてるんで。少なくともそういう話は聞いた事ないな、って」
敦子「へぇ、本当に有名人だったのね」
伊藤「でもまぁ、若くて持病のない方でも、突然死はあり得えますからね」
井ノ瀬「それか、狼に喰われたか」
萌演「変な事言わないでくださいよ、人狼ゲームじゃないんですから」
優「休憩前も言ってましたね。その何とかゲームって何なんですか?」
萌演「あぁ、人狼ゲームですか? 『何』って聞かれると……」
井ノ瀬「一言では何とも言えないっスね」
重山「ウソを見破る会話式パーティーゲーム、って所じゃないですか?」
井ノ瀬「おぉ。何なに、重山君こっち側?」
重山「別に、やった事くらいはありますよ」
敦子「もう少し詳しく聞いてもいいかしら?」
重山「そうですね……たとえばこの一〇人でやるなら、人狼は二、三人で残りが市民です。まず昼間のターンで話し合いをして、『人狼』だと思う人を追放します」
井ノ瀬「で、夜になると人狼は市民を一人食う事が出来るっス」
重山「あ、『食う』っていうのは、市民を一人ゲームから退場させる事ですね」
萌演「これを繰り返して、人狼を全員追放出来たら市民陣営の勝ち、市民と人狼が同数になったら人狼陣営の勝ち。……基本ルールはこんな感じですかね?」
優「随分と難しそうですね」
重山「補足すると、市民の中には、例えば人狼の襲撃から一人を守る事が出来る『騎士』や、人か人狼かを判別できる『占い師』、逆に人狼側に味方する『狂人』といった役職を持った人もいます」
井ノ瀬「あと『霊媒師』なんかもいるっスね」
萌演「そう……ですね」
敦子「最近の子は、難しそうな遊びするのね」
   アラーム音。
神奈「え、もう時間!?」
井ノ瀬「全然議論してないじゃないっスか」
萌演「すみません、関係ない話を長々と……」
伊藤「いや、それでしたら私が時間管理をきちんとしていなかったせいですので」
酒巻「まぁ、柳さんの件があったんです。どちらにせよ、議論に大きな進展はなかったと思いますよ?」
    ×     ×     ×
   ホワイトボードに書かれた「有罪3票 無罪7票」の文字。
   それを見る萌演ら陪審員達と枡田。
萌演「三対七、か……」
井ノ瀬「結局、有罪派の最後の一人は、成田さんでもなかったみたいっスね」
重山「一体、誰なんでしょうね?」
枡田「では続いて、議論に不要な方を一名選び、追放してください」
伊藤「ちなみに、立候補者はいらっしゃいますか?」
   沈黙。
敦子「そりゃあ、ね」
伊藤「では、我々でどなたか選びましょう」
井ノ瀬「そりゃ、(大滝を指し)この人じゃないっスか?」
神奈「確かに」
重山「僕も異論はありません」
伊藤「他にご意見は?」
酒巻「自分は、井ノ瀬さんを」
井ノ瀬「え、俺? 何でっスか?」
酒巻「こう言ってはなんですが、あまり真面目に議論しようとはお考えになっていないようで」
神奈「言われてみれば、そうかも」
井ノ瀬「そんな~」
伊藤「他の方のご意見はいかがでしょう?」
敦子「酒巻さんの言う事も、一理ある気がするわね」
優「ですが、大滝さんにはそもそも議論する気がないように思えます」
大滝「あの男は有罪だ」
井ノ瀬「ほら」
神奈「確かに、そうかも」
伊藤「では、多数決を取りましょう。大滝さんを追放する事に賛成の方」
   挙手する萌演、重山、優、神奈、井ノ瀬、伊藤。それを見てから遅れて挙手する未来、敦子。
伊藤「賛成八名という事で、過半数ですね。大滝さん、申し訳ありませんが」
大滝「……」
枡田「では大滝さん、こちらへ。皆様は一時間の昼休憩に入ってください」
   枡田に連れられ出ていく大滝。その姿を見送る萌演ら残る九人の陪審員達。
井ノ瀬「あ~あ、いつまでかかるんスかね~」

○同・前
   集まる報道陣。皆、退屈そう。
アナウンサー「(スタッフへ向け)ねぇ、判決まだ出ないの?」

○同・女子トイレ・前
   出てくる萌演。振り返り、羽衣佳が倒れていた辺りを見つめる。
井ノ瀬の声「せっかくタダ飯食えるのに、そんなんでいいの?」

○同・会議室
   各々、フードデリバリ―の食事をとる萌演ら陪審員達。萌演の周囲には重山、未来、井ノ瀬。尚、井ノ瀬は高そうなうな重を食べている。
井ノ瀬「もったいなくね? こういう時くらい贅沢しちゃおうよ」
萌演「あんまり食欲無くて」
重山「それはそうでしょう。井ノ瀬さんはデリカシーが無さすぎますよ」
井ノ瀬「そう? いいじゃん。若手同士、交流深めようよ」
未来「ウチ、皆さんほど若手じゃないんですけど……」
井ノ瀬「え、そうなの? やっぱまだ、お互い知った方がいいな。重ちゃんも聞きたい事あったら、遠慮なく聞いちゃいなよ」
重山「重ちゃんって……。じゃあ(萌演に)何で最初、有罪派だったんですか?」
萌演「あぁ……」
井ノ瀬「ここにきて審議の話? 重ちゃん、真面目だね~」
重山「井ノ瀬さんが不真面目なだけですよ」
井ノ瀬「そうそう、おかげで追放されかけちゃったもん」
重山「で、どうなんですか?」
萌演「……凄く変な話かもしれないんだけど」
井ノ瀬「変な話?」
萌演「私、その……霊媒師の家系で」
重山&未来&井ノ瀬「霊媒師!?」
萌演「そう、先祖代々。子供の頃から訓練受けたりもしてて」
井ノ瀬「おいおい、ますます人狼ゲームっぽくなってきちゃったじゃん」
重山「そんな方が何で、洋菓子屋で?」
萌演「いや、普通に継ぎたくなかったから」
井ノ瀬「え~、もったいない」
萌演「ただ、訓練の成果かな。ちょっとだけ、普通の人よりは感じ取る力が強くって。で、裁判で証拠品見た時に……」
重山「強制性交が成立すると感じた?」
萌演「まぁ、そんな所です」
井ノ瀬「何それ、めっちゃ面白いじゃん。じゃあさ……」
未来「じゃあ、何で?」
萌演「え?」
未来「あ……何で、意見変えたんですか?」
萌演「いや、普通に『霊媒師の卵の勘です』なんて、何の確証にもならないから」
井ノ瀬「いやいや、俺は全然信じるよ?」
未来「……ウチも」
重山「僕は正直、半信半疑ですけどね」
井ノ瀬「ほら、半分信じてくれるって」
重山「いいようにとりますね」
井ノ瀬「だからさ、思ってる事があるなら、この若手同盟の間では共有しちゃおうよ」
萌演「……それで言うと、実はもう一つ気になってる事があって」
重山「気になってる事?」
一同の声「えぇ!?」
    ×     ×     ×
   着席する萌演ら八人の陪審員達。伊藤の姿がない。
酒巻「柳さんは、殺された……?」
井ノ瀬「と、ウチの霊媒師は言ってるんスよ」
萌演「(気まずそうに)はぁ、まぁ……」
敦子「でも霊媒師って……申し訳ないけど、ウソっぽいわね」
神奈「確かに」
萌演「そう思うのが普通だと思います」
酒巻「自分は都倉さんを信じますよ」
重山「それは単に、有罪派にとって有利だから、ですよね?」
酒巻「まぁ、否定はしませんが」
優「でも仮に、本当に柳さんが殺されたんだとしたら、犯人は?」
萌演「いや、そこまでは……」
重山「ただ、外部の人間が入ってくるのは、かなり難しい状況ですよね?」
神奈「確かに」
酒巻「そうなると、犯人は……」
萌演「この中に居る、って事になりますよね」
   沈黙。
井ノ瀬「まぁ、気持ちわからんでもないっスけどね。あの人、何か高飛車っていうか、勝手に敵作ってそうっていうか」
優「亡くなった方の悪口は、良くないですよ」
敦子「……それにしても遅いわね」
酒巻「伊藤さんが、ですか?」
敦子「も、そうだけど」
重山「探しに行ったあの補助員さんも、ですよね? (足音に気付き)あ、噂をすれば……」
   入ってくる枡田。
枡田「皆様、お待たせしました。どうぞ審議を始めて下さい」
優「あれ、伊藤さんは? 一緒じゃないんですか?」
枡田「伊藤さんはお亡くなりになられました」
井ノ瀬「は?」
重山「どういう事……ですか?」
枡田「生命活動を終了された、という意味ですよ」
   言葉を失う一同。
酒巻「……死因は?」
枡田「私は医者ではないので、そこまでは」
優「じゃあ、医者を呼んでくださいよ」
枡田「それは出来ません。審議が終わるまで、外部との接触は……」
重山「二人も死んでんだぞ!」
井ノ瀬「しかも、殺人っスよ?」
萌演「いや、それは断定できないんじゃ……」
酒巻「そうでしょうか? むしろ『二人続けて偶然死ぬ』方があり得ないのでは?」
神奈「言われてみれば、そうかも」
優「一体誰が?」
重山「見当はついてますよ」
未来「え?」
重山「(枡田に)大滝さんを呼んで下さい」
萌演「大滝さんが犯人?」
重山「柳さんと揉めてたじゃないですか。意見だけじゃなくて、色々と」
神奈「確かに」
敦子「でも、伊藤さんは? どちらかと言えば中立派に見えたけど」
重山「でも、場を仕切ってましたし、最終的に『大滝さん追放』の決も取ってました」
神奈「確かに」
井ノ瀬「俺も重ちゃんの意見に乗った。という訳で(枡田に)大滝さん、ココに連れてきてくれないっスか?」
枡田「……大滝さんが今居る場所にご案内する、という形でいかがでしょう?」
重山「お願いします」
枡田「ではついでに、少し手伝っていただけますかね?」
萌演「手伝い……?」

○同・霊安室
   並べられた羽衣佳、大滝、成田の遺体。それを見る萌演ら陪審員達。
萌演「なっ……」
   そこへ、キャスター付き担架に乗った伊藤の遺体を運んでくる枡田と井ノ瀬。
枡田「ふぅ~。お手伝いいただき、ありがとうございました」
重山「その前に言う事ありません? 何で成田さんや大滝さんの事、私達に言わなかったんですか?」
枡田「聞かれていませんので」
重山「ふざけてるんですか!?」
酒巻「まぁまぁ、落ち着いて」
重山「落ち着いていられませんよ。四人も死んでるんですよ!? しかもその犯人は、この中に居るかもしれないのに」
神奈「言われてみれば……大滝さんじゃないなら、誰……?」
重山「(枡田に)こんな状況でもまだ、続けろって言うんですか?」
枡田「もちろんです」
重山「(呆れて)」
   過呼吸のような状態になる未来。
敦子「!? 未来ちゃん?」
未来「ウチらも、殺されるん……?」
酒巻「大丈夫ですか? 皆さん、一旦大広間に戻りましょう」
優「私もそれがいいと思います。(未来に)立てますか?」
   未来を連れ立って出ていく陪審員達と枡田。萌演だけがその場に残り、目を閉じている。
井ノ瀬「? 都倉ちゃん、何してんの?」
萌演「あぁ、いえ。今行きます」

○同・会議室
   着席する萌演ら陪審員達。沈黙。
井ノ瀬「……誰か仕切ってくんないっスか?」
神奈「確かに、伊藤さんが居ないから……」
重山「……じゃあ、僕が」
酒巻「で、どうしますか?」
重山「思ったんですけど、一番怪しいのはあの補助員さんですよね」
敦子「それは、殺人犯の話よね?」
優「私達はまず、裁判の判決を審議して、殺人犯の話はその後……」
重山「そんな事言って、次また評決が割れたら、また誰か殺されるんですよ?」
井ノ瀬「って事は、評決が割れなきゃいいんスよね?」
重山「それはまぁ、そうですね」
井ノ瀬「だったら審議なんてしなくても、評決が一致するように打ち合わせちゃえばいいんじゃないっスか?」
優「談合、という事ですか?」
井ノ瀬「だって、そうすりゃ俺達は解散、無事に帰れて、警察も医者も入ってこられるようになる。ウィンウィンっしょ?」
神奈「言われてみれば、そうかも」
重山「でも、有罪と無罪、どちらに?」
井ノ瀬「それは……まぁ、多数決で」
敦子「なら、無罪ね」
重山「有罪派の方が、それでよければ……」
酒巻「自分は構いませんが……先ほどの投票結果は三対七でした。大滝さんを除いてもあと一人、誰か居るハズですよね?」
井ノ瀬「あ~、謎の三人目っスね」
重山「この中に居るなら、挙手願います」
   誰も挙手しない。
井ノ瀬「じゃあ、伊藤さんだったんスかね?」
酒巻「中立そうな雰囲気でしたし、あり得なくはないと思いますけど……」
萌演「いや、伊藤さんではないと思います」
一同「え?」
萌演「なんとなく、ですけど。さっきちょっと探ったんで」
井ノ瀬「あ~、さっき霊安室で何かやってたの、ソレ?」
優「それを、信じろと?」
萌演「まぁ、無理ですよね。普通に」
敦子「じゃあ、どうするのよ?」
重山「だったら、全員が有罪に投票すればいいんじゃないですか?」
一同「え!?」
重山「誰が最後の有罪派かわからない以上、確実に評決を一致させるにはコレしかないと思います」
井ノ瀬「なるほど。重ちゃん、頭良い~」
優「けど、被告人の人生が懸かっているんですよ? そんな決め方……」
重山「僕らは命が懸かってるんです。それに比べたら、申し訳ないですが被告人には『懲役六年』くらい、我慢してもらいましょう。どうですか、皆さん?」
井ノ瀬「俺は重ちゃんの意見に賛成。いわばコレ、正当防衛っしょ」
神奈「正当防衛……確かに、そうかも」
萌演「異議なし」
敦子「みんなが有罪に入れるなら、私もそうするわよ」
未来「……ウチも」
酒巻「自分は、もとより有罪派ですので」
優「……仕方ないですね」
重山「では、まだ時間は残っていますが、投票に入りましょう」
枡田の声「有罪、有罪……」
    ×     ×     ×
   開票作業をする枡田を見守る萌演ら陪審員達。
枡田「有罪、有罪、有罪、有罪……」
井ノ瀬「あ~あ、やっと帰れるっスね……」
酒巻「長かったですね」
   最後の一枚を手に取る枡田。
枡田「……無罪」
一同「え!?」
枡田「という訳で有罪七票、無罪一票となりました」
重山「そんな訳ない。嘘つくな」
   枡田から奪うように投票用紙を手にする重山。「無罪」の文字。
重山「何で……」
枡田「では、追放者の相談を……」
重山「ちょっと待った。何かの間違いだ。もう一度投票を……」
枡田「その前に追放者を決めていただきます」
重山「次投票すれば、全員一致するハズ……」
枡田「追放者が先です」
重山「……」
酒巻「(重山を着席するように促し)皆さん、とにかく追放する方を決めましょう」
萌演「でも、追放されるって事は……」
井ノ瀬「殺される、って事っスよね?」
神奈「いや、私死にたくない!」
酒巻「でも、決めなければいけません。……誰に死んでいただくかを」
井ノ瀬「いや、言い方……」
酒巻「どうしますか?」
萌演「でも、そんな無実の人をいきなり……」
重山「そうでもないですよ。(優を指し)アンタだろ? 無罪に一票入れやがった裏切り者は」
優「え?」
敦子「牧野さんが!?」
重山「『推定無罪』とか、偉そうな話してただろ? くだらない正義感で、人に迷惑かけて、どういうつもりだ?」
優「待ってください。私じゃありません」
重山「皆さん、どう思います?」
敦子「……一理あるわね」
優「!?」
酒巻「この中で一番『無罪に入れそうな人は誰か』と聞かれたら、自分も『牧野さん』と答えますね」
神奈「言われてみれば、そうかも」
優「違う、本当に私じゃないんです。そうだ、都倉さん、霊媒師の貴女ならわかってくれますよね?」
萌演「生きている方は、何とも……」
井ノ瀬「っていうか、信じない派じゃなかったんスか?」
   頷く未来。
優「お願い、私の話を聞いて……」
重山「(遮って)では、牧野さんを追放する事に賛成の方、挙手をお願いします」
   優以外の七人が挙手をする。
枡田「では、牧野さん。コチラへ。皆様は三〇分の休憩を挟んで、四回目の審議に入っていただきます」
優「嫌……誰か助けて」
   優を半ば強引に連れ出そうとする枡田。それを見て立ち上がる酒巻。
枡田「(酒巻を見ずに)ついてきた場合、審議には戻れなくなりますが、それでもよろしいんですか?」
   立ち止まる酒巻。出ていく枡田と優。
優の声「この人殺し!」
   沈黙。
重山「……皆さん、提案なんですが」
酒巻「何でしょう?」
重山「この三〇分間、全員がずっとこの部屋に居続けるというのはどうでしょう?」
萌演「私も思いました。そうすれば、誰も殺されずに済むって」
神奈「言われてみれば、そうかも」
井ノ瀬「重ちゃん、頭いい~」
敦子「じゃあ私、コーヒー入れようかしら。(萌演に)手伝ってもらえる?」
萌演「あ、はい。もちろん」
未来「じゃあウチ、ミルクとガムシロを……」
   窓の外、雨雲が広がる。

○同・外観
   雷雨。(冒頭のシーンに戻る)
枡田の声「なるほど……」

○同・会議室
   床に落ちた紙コップとこぼれたコーヒー、重山の死体。
枡田の声「コーヒーを飲んだ途端に苦しみだし、お亡くなりになられた、と」
   着席する萌演ら六人の陪審員達とその脇に立つ枡田。
枡田「わかりました。ご遺体の運び出しはこちらでやりますので、皆様は審議にお入りください」
井ノ瀬「何が『どうぞ』だ。こん中に人殺しが居て、もう五人殺されてんだぞ?」
枡田「いいえ、六人目です」
一同「!?」
酒巻「そうですか、牧野さんも……」
井ノ瀬「ふざけんな。やってられるか」
   出ていこうとする井ノ瀬。
枡田「(井ノ瀬の腕を掴み)どちらへ?」
井ノ瀬「帰るんだよ」
枡田「審議にお戻りください」
井ノ瀬「そんで、このままココに居て黙って殺されろって? アンタ正気か?」
枡田「審議にお戻りください」
井ノ瀬「嫌だね。殺されるくらいなら、どんな手を使ってでも出て行ってやる。それでも止めるってんなら、俺に殺される覚悟しときな」
   出ていこうとする井ノ瀬を力づくで止める枡田。
井ノ瀬「仕方ねぇ。俺は忠告したぜ? これは正当防衛だかんな!」
   再び枡田に掴みかかる井ノ瀬。その井ノ瀬を軽くいなし取り押さえる枡田。
一同「!?」
井ノ瀬「痛っ、離せよ、おい!」
   井ノ瀬から手を離す枡田。
枡田「審議にお戻りいただけますね?」
井ノ瀬「……」
枡田「では……」
萌演「あの、一つお願いしてもいいですか?」
枡田「お願い、ですか?」
    ×     ×     ×
   着席する萌演ら六人の陪審員達。萌演はこれまでの全投票用紙を裏返しにし、並べている。
井ノ瀬「やっぱり、あの補助員が犯人っスよ。アイツ、人を殺す事に躊躇しないっスよ、きっと」
敦子「でも、重山君が死んだ時、あの人部屋に居なかったわよ?」
井ノ瀬「コーヒーに毒仕込んでりゃ、居なくても殺せるっスよ」
酒巻「ですが、コーヒーに毒が入っていたなら、私達が無事なのは何故でしょう?」
神奈「言われてみれば、そうかも」
酒巻「それに、彼には投票権がありません。評決を割れさせているのは……」
萌演「この中に居る、と思います」
   手を止める萌演。
未来「終わり、ですか?」
萌演「はい」
   紙を順番にめくっていく一同。
萌演「まず成田さんは無罪に入れていました」
井ノ瀬「柳さんも……無罪っスね」
神奈「大滝さんは、一回目も二回目も有罪……まぁ、そうか」
未来「伊藤さんは、一回目も二回目も無罪」
酒巻「牧野さんは、一回目と二回目が無罪で、三回目は……有罪」
萌演「牧野さんじゃなかったんだ……」
敦子「重山君も一緒みたいね」
神奈「えっと……コレで何がわかるの?」
萌演「今残っている六人だけの投票結果で言うと、一回目と二回目は有罪二票に無罪が四票、三回目は有罪五票に無罪一票」
井ノ瀬「一回目と二回目の有罪のうち、一人は酒巻さんっスよね?」
未来「例の、不明な一人がこの中に……?」
酒巻「つまり、毎回少数派に投票している人が、この中に一人居る」
神奈「その人が、犯人……?」
井ノ瀬「誰だよ。名乗り出ろよ!」
   しばしの沈黙。
萌演「まぁ、名乗り出る訳はない、と」
未来「あの……ウチらは次、どちらに投票すればいいんでしょうか?」
酒巻「とりあえず『全員で無罪に投票する』という事にしましょうか」
敦子「有罪でダメなら、無罪って?」
酒巻「他に手もないでしょう?」
神奈「言われてみれば、そうかも」
井ノ瀬「……いや、俺は犯人に目星ついたっスよ」
   視線を敦子に向ける井ノ瀬。
敦子「!? 何で私が!?」
井ノ瀬「さっきコーヒー入れたの、小泉さんっスもん」
神奈「言われてみれば、そうかも」
敦子「違う、私じゃない」
酒巻「待ってください。確か、都倉さんもお手伝いされていましたよね? 何か怪しい動きは見ましたか?」
萌演「いや……別に、普通でした」
井ノ瀬「じゃあ、沢渡さんっスか? それとも、未来ちゃん?」
未来「!?」
神奈「何で私が!?」
井ノ瀬「だって、最初に柳さんが殺されてたのは女子トイレっスよ? 俺とか酒巻さんな訳なくないっスか?」
敦子「そんな事言ったら、伊藤さんは男子トイレだったじゃないの」
井ノ瀬「それは……」
   アラーム音とともに入ってくる枡田。
枡田「時間になりました。それでは、投票に移らせていただきます」
井ノ瀬「くそっ、まだ全然……」
酒巻「あの、皆さんさえよければ、今回は記名投票にしませんか?」
萌演「良いですね。そうしましょう」
神奈「私も、賛成です」
枡田「いえ、投票は無記名でお願いします」
井ノ瀬「は? 何で……」
枡田「何か、問題でも?」
井ノ瀬「(ビビッて)……」
枡田「では、紙をお配りします」
    ×     ×     ×
   着席する萌演ら六人の陪審員達と枡田。
枡田「以上、有罪二票、無罪四票でした」
井ノ瀬「おいおい、どうなってんだよ!?」
萌演「増えた……何で?」
枡田「では、追放者を一名……」
井ノ瀬「名乗り出ろよ。有罪に入れた奴、今すぐ! ぶっ殺すぞ!」
   恐る恐る井ノ瀬を指す未来。
井ノ瀬「……は? 俺だって言いてぇの?」
未来「……そうじゃなくて。私、井ノ瀬さんを追放したいです」
井ノ瀬「!?」
敦子「そういえば、さっき私の事疑ってたし」
酒巻「この中で一番、人を殺しそうな方には見えますね」
神奈「言われてみれば、そうかも」
   井ノ瀬を指す神奈、酒巻、敦子。
井ノ瀬「おいおい、ちょっと待ってくれよ。なぁ、萌演ちゃん。萌演ちゃんは俺の事信じてくれるよな?」
萌演「それは……」
   井ノ瀬の肩を掴む枡田。
枡田「残念ですが、都倉さんが誰を指したとしても、既に過半数の方が井ノ瀬さんをご指名なので」
井ノ瀬「ふざけんな、俺は……」
   力づくで井ノ瀬を連れていく枡田。
枡田「では皆様、休憩にお入りください」
井ノ瀬「止めろ、止めてくれ、頼む……」
   扉が閉まる。重い沈黙。
萌演「もう、何がどうなって……?」
酒巻「とりあえず、今回はコーヒーも飲まずに、この部屋にとどまりましょう」
神奈「賛成」
   立ち上がる敦子。
敦子「ごめんなさい、私お手洗いに」
萌演「何言ってるんですか? 危ないですよ」
敦子「でも……本当はさっきの休憩時間に行きたかったくらいなのに」
酒巻「ならせめて、どなたかとご一緒に。お一人は危険です」
神奈「あ、じゃあ私が」
敦子「ごめんなさいね」
神奈「いえ。そんな話されたら、私も行きたくなっちゃって」
酒巻「では、お気をつけて。何かあれば、呼んで下さい」
敦子「ありがとうございます。じゃあ(神奈に)行きましょうか」
神奈「はい」
   出口に向かう神奈と敦子。神奈の背後で刃物を取り出す敦子。
萌演「!? 沢渡さん!」
神奈「え? ……!?」
   敦子に刺され、倒れる神奈。
萌演「嫌……止めて!」
   立ち上がろうとする萌演を押さえつける未来。無言で首を振り続ける。
萌演「辻本さん……?」
   敦子に何度も刺され、絶命する神奈。席に戻ってくる敦子。
敦子「はぁ……疲れたわ」
萌演「小泉さんだったんですね……他の人を殺したのも、わざと評決を一致させなかったのも。何でですか?」
敦子「……」
萌演「答えないなら良いです。次に小泉さんを追放すれば、それで……」
   振り返る萌演。無反応な未来と酒巻。
萌演「辻本さん? 酒巻さん? どう……したんですか? 犯人がわかったのに……」
酒巻「では、何故今小泉さんが隠すことなく犯行に及んだか、おわかりですか?」
萌演「わかりません。わかるはずが……」
酒巻「そうですね。では、ヒントを出しましょう。私はずっと、無罪に票を入れ続けていました。有罪のフリをして、ね」
萌演「え!? でも、だとすると……序盤で有罪に入れていた人が、あと二人?」
酒巻「そう。そして最後の投票でも二人。今残っているのも、二人」
   恐る恐る未来の方へ振り返る萌演。
萌演「まさか、辻本さんも……?」
   頷く未来。
酒巻「そして、先ほどの問いかけです。何故小泉さんが隠さなかったのか。それこそ、人狼ゲームに例えるなら……」
未来「市民と人狼が同数。人狼陣営の勝利」
萌演「でもコレはゲームじゃない。実際に人を殺して……何がしたいんですか?」
敦子「あの子の復讐よ」
萌演「復讐? あの子って誰?」
酒巻「決まっているでしょう? この裁判の被害者、椎名うららさんです」
萌演「え……?」
敦子「私はね、都倉さん。うららちゃんが小さい頃から、椎名家の家政婦をしてたの」
未来「ウチは、前にイベント関係の仕事をしていた時に知り合って……」
酒巻「あともうお一方、大滝さんも我々サイドの人間……もとい人狼でしたよ。うららさんの熱心なファンでしてね」
萌演「関係者が、こんなに……?」
敦子「うららちゃんは、いつも笑顔のかわいい子でね。まさにアイドルだったのよ。それが、あんな殺され方をして……」
未来「それなのに、追い打ちをかけるように『枕営業』だ『同意があった』だ。そんな事あり得ないのに!」
萌演「でも、あり得ないとは言い切れ……」
未来「言い切れる。だって、うららは、うららは……」
萌演「うらら?」
酒巻「うららさんと辻本さんは、いわゆる恋仲だったそうです」
萌演「!?」
未来「そんなデマを流されて、それを拡散する人が居て、そこからはもう地獄だった」
萌演「あれ、それって……?」
敦子「そう。最初にその報道を流したのが伊藤さん」
酒巻「そして、それを拡散させたのが柳さんでした」
未来「そこから先は、みんなSNSで好き放題言ってた」

○(回想)各地
   スマホやパソコンを操作する成田、優、重山、井ノ瀬、神奈。台詞と同じ文言をSNSに投稿している。
成田「あんな服着てたら、俺でもやっちまうよ」
優「こういうのはホテルに行った時点で自己責任。悪い例ですね」
重山「そもそもアイドルなんて男に媚び売ってナンボ。誘惑してるようなもん」
井ノ瀬「いいな~、枕営業。俺、今日から音楽プロデューサー目指すわw」
神奈「こんな事する人がいるから、女性全体が舐められる。本当、迷惑」
未来の声「そして……」

○裁判所・会議室
   未来、酒巻、敦子と対峙する萌演。
未来「『枕営業なんてしようとするから悪い。自業自得』」
萌演「!? それ……」
敦子「貴女の投稿よね、都倉さん?」
萌演「違う、アレは……」
酒巻「性犯罪の被害者へ、さらに追い打ちをかけるようなこれらの言葉。全員が、セカンドレイプ被害を与えた、加害者なんですよ」
未来「そう。発言者を突き止めて、この場に集めたんです。もうこの世にはいない、うららの代わりに、復讐するために」
萌演「まさか全員が、被害者の関係者か……その、セカンドレイプの加害者?」
未来「あとは、比較的単純な話でした。被告人は有罪にする事を前提に、まずは発端となった伊藤さんと柳さんは確実に殺す。そして残りは順不同。最悪、殺しそびれても構わない」
敦子「殺し方も首を絞めたり、刃物で刺したり、ガムシロップに毒を仕込んだり」
酒巻「投票の際には辻本さん、小泉さん、そして大滝さんが有罪、私が無罪に入れ続ける事で、評決一致を阻止する」
未来「ただ、一つだけ予想外な事が起きた。それが……」
   三人の視線が萌演に集まる。
萌演「……私が、一瞬とはいえ有罪側に立った事?」
敦子「そう。だから決めたの。最後まで残すのは、都倉さんだ、って。どうしても、聞きたい事があったから」
萌演「聞きたい事?」
未来「何で? 何で貴女みたいな人が、あんな投稿をしたの?」
萌演「……」
未来「答えてよ!」
萌演「……みんながしてたから」
敦子「そんな理由で?」
萌演「私、地元でずっと変な目で見られてたんです。『霊媒師の娘』って。私は普通の人間なのに」

○(回想)アパート・萌演の部屋
   スマホでSNSを見ている萌演。うららに関するセカンドレイプ的発言にあふれている。
萌演の声「だから地元出て、東京来て、必死に普通になろうとして」
   「枕営業なんてしようとするから悪い。自業自得」と登校する萌演。
萌演の声「周りのみんなに合わせるのに必死で……」

○裁判所・会議室
   未来、酒巻、敦子と対峙する萌演。
萌演「それで……。ごめんなさい」
未来「謝って済む問題じゃない」
敦子「『みんなと一緒』かどうかと『それが正解か』どうかは、違うのよ?」
酒巻「そもそも、本当に普通の人は『普通になりたい』とは思いませんけどね」
萌演「……私も一つ、聞いていいですか?」
未来「何?」
萌演「何で、こんなゲーム形式にしたんですか? 殺したければ、普通に殺す事も出来たハズなのに」
敦子「それは……」
   顔を見合わせる未来と敦子。その視線は共に酒巻へ向けられる。
酒巻「何か、気づきません?」
萌演「え? ……あ、酒巻さんだけ関係者じゃない?」
酒巻「その通り。ゲーム形式にしたのは……まぁ、私の趣味です。人狼の皆さんには協力しますし、必要な人やモノは集めますから、代わりに楽しませて欲しい、と」
敦子「……でも、大滝さんまで殺すとは思いませんでしたよ」
未来「もし私達が追放されていたら、どうなっていたんですか?」
酒巻「もちろん、殺されていたでしょうね。そうでないと、面白くないでしょう?」
萌演「狂ってる……」
酒巻「さて、そろそろ終わらせましょうか」
   入ってくる枡田。
酒巻「あぁ、ご紹介が遅れました。補助員役の彼は、まぁ一言で言うと『プロ』です」
枡田「さて、ゲームの勝敗はもうついていますが、せっかくなので一応、多数決を採りましょうか。都倉さんを殺す事に賛成の方、挙手を」
   目を閉じる萌演。

○同・外
   手が三本挙がるシルエット。
                  (完)

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