火、ここに無き灰 ドラマ

現代、爆弾魔事件を追う刑事達、一方、半世紀前の爆弾魔事件を追う元刑事。犯人を追うが徐々に事件の深みに嵌まっていく……城戸賞最終選考作品
土谷洋平 22 1 0 06/29
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第一稿

タイトル  
 『火、ここに無き灰』
             土谷洋平

 あらすじ    
  避難訓練の会場で発生した連続爆弾事件に出くわした中学生のアキラは、爆弾 ...続きを読む
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タイトル  
 『火、ここに無き灰』
             土谷洋平

 あらすじ    
  避難訓練の会場で発生した連続爆弾事件に出くわした中学生のアキラは、爆弾と知りながら同級生を爆発から救わなかったが、それを見ていた犯人に仲間に誘われる。
 元刑事の肇は半世紀以上前の爆弾魔『草加次郎』と祖父の関係を疑う郁子の依頼で草加を再び追い始める。
 警察の新田は爆弾事件の捜査に当たる中で犯人と接触するが、自らのせいで爆弾の爆発に一般市民を巻き込んでしまい、秘密裏に自分のみで真犯人を見つける事を決意する。
 肇と郁子は祖父の過去を調べるうちに短歌雑誌で知り合い文通していた大森に行き着くが真相について口を閉ざす。大森は昔のイタズラみたいな事件だというが肇は『草加次郎』の事件で死者が出ていないのは間違いだと言う──事件で誤認逮捕された人物が自殺していた事、そして誤認逮捕のきっかけは肇だった……
 肇の告白に大森は事件の真相を語り始める。
 半世紀前、文通で知り合った大森と郁子祖父である京介は俳号で直接逢う事なくやり取りを続けていた。そのうちに他にも仲間ができた彼らは悪戯心から世間を賑わせる事件を起こし始める──それが『草加次郎』だった。彼らは決して直接逢う事無く、計画、爆弾製造、設置をそれぞれ別々に行い、その暗い不満を晴らしていた。しかし、大森は直接その目で直接事件を目撃し、自責の念から事件を止めてしまったのだった。
 一方、現在の爆弾事件を追う新田は真犯人に接触する。それはアキラと同じ中学生の少女、芽以だった。ネットで知り合い直接逢う事も無く犯行を続けていた……現代形の『草加次郎』であった。
 芽以は東京中で連続で爆破する事を提案する。新田は自分が爆弾を使った事実を芽以に負わせ、爆殺しようと芽以の計画に乗るが失敗し逆に爆殺されてしまう。
 明確な組織でもなく主義も主張も無い爆弾事件の犯人たち──時代が変わっても変わらない人間の悪意で行われる犯行は続いていく。                  (終)

 【登場人物】
新田 浩(26)刑事。爆弾事件の捜査員
戸倉達也(82)元刑事
曽我部アキラ(14)中学二年生
戸倉 肇(56)新田の上司。達也の息子
宮崎郁子(20)大学生
菅野芽以(15)中学三年生。『試験官』
宮崎京介(85)郁子の祖父
夏目(82)京介の同僚の教師だった
野村古志郎(70)元科捜研
野村英斗(4)古志郎の孫
大森ひさし(76)(19)京介の文通相手
杉原憲男(32)看護師
菊本恵一(27)新田の同僚
卯月智恵(34)新田の同僚
青木(14)アキラの同級生
新田雅子(50)浩の母親

○ 黒み
  静寂。
突然、甲高く特徴的な緊急地震速報のチ
  ャイムが鳴り響く。
声 「緊急地震速報です。間もなく地震がき
ます。強い揺れに警戒してください──」

○ 区民センター内・階段
煙が流れる階段を慌ただしく真剣な表情
で、必死に下りる幼児たち。
幼児「せんせい、こわいよー!」
消防士「押さないで! 慌てないで!」
踊り場で消防士が大声で呼び掛ける。
非常アラームが鳴り、火災発生を知らせ
るアナウンスが流れる。
階段を下りた幼児たちの眼には、ロビー
に散らばった瓦礫と倒れた人々の姿。

○ 同外・災害対策本部
机の下で携帯電話をいじり、ホステスと
ツーショットで写った画像を見せる男。
消防長「……最近はいつもここ」
区長「フィリピンパブ?」
消防長「いや、タイです」
警察署長「駅前のビルに入ってる?」
消防長「そう、そう。行かれましたか?」
警察署長「去年の忘年会で若いのに飲ませ過
 ぎて吐いて、吐いて……出禁になりました」
教育長「行きたくないなぁ……その飲み会」
消防長、区長、警察署長、教育長……ヘ
ルメットを冠り、防災服姿の中年たち。
  そこへ消防士が駆けて来て敬礼をする。
消防士「四階! 桜町幼稚園三十人! 全員
 無事避難完了いたしました!」
消防長「(敬礼し)よし!」
  報告を終えた消防士は敬礼を解き、回れ
  右をして再び駆け足で去る。
消防長「──で、そこの店って女の子はなか
 なか可愛くてですね……」
  と、また話しに戻る消防長たち。
  責任者たちが詰める対策本部の前、駐車
  場に幼児たちが避難しており、他の階か
  らも小学生、中学生、高校生やスーツ姿
  の大人たちも続々と避難してくる。
  『避難訓練大会』の看板が置かれている。
  その中には倒れていた人の姿も。
誘導係「避難訓練が終わった人たちは、次の
 訓練会場に移動してください!」
  誘導に従い、皆それぞれ救護訓練や地震  
  車などの会場に移動して行く。
誘導係「……?」
  一本だけ、会場の隅でぽつんと置かれた
  消火器を見つける誘導係の男性。
誘導係「これって訓練のですよね?」
同僚「え? あぁ……そうじゃないですかぁ」
  と、返事をするが忙しそうに直ぐに立ち
  去ってします。
誘導係「……っく、置いとくなよ──」

○ 同外・救護訓練会場
  訓練用人形に心肺蘇生をする人たち、上
  手くいかず戯けた表情で楽しんでいる。
アキラ「ふぁあ──(アクビをかみ殺し)」
  制服姿で、訓練をサボる中学生の曽我部
  アキラ(14)。
  ぼんやりとしていると少し離れた区民セ  
  ンターの向こうから
  パン! と乾いた音が上がる。
アキラ「?」
  皆の視線が音へ向くが訓練会場の声や消
  防車の放水訓練などでかき消される。
  訓練が続く風景──
  そこへ、ふらふらと人影が歩いて来る。
誘導係「(オフ)……た……て」
  それは先ほど消火器を触っていた誘導係 
  の男だがその手には消火器は無く、手は
  血まみれになっているが、周囲は訓練の
  一環と思って、気にも留めない。
  フラフラと倒れてしまうが、それでも誰
  も本当の怪我とは思わない。
幼児「また、たおれてるよー」
  先ほど真剣な顔をして避難していた幼児
  たちも、無邪気に笑い通り過ぎる。
  往来の邪魔になる男に、面倒くさそうに
  話しかけるアキラ。
アキラ「──救護訓練は向こうですよ?」
誘導係「爆発……した……」
アキラ「は?」
  そんなアキラたちの直ぐ傍を通る消防士。
消防士「おーい! これ、訓練用?」
  手にした消火器を傾け、ラベル表示を確
  かめようとする──突然爆発する消火器。
アキラ「ッ!?」
  爆発に驚き、アキラは再び目の前の怪我  
  人を見遣る。
女性「きゃっ!?」
男性「なんの訓練?」
  目の前で起きても訓練なのか、現実の事
  件なのか判らず混乱し始める人々。
アキラ「──」
  アキラは、その場から走り出し人々の間
  をすり抜け、同級生たちがいる場所へ。

○ 同外・消火訓練会場
  消火器のノズルを握る中学生たち、消火  
  器からは粉末の代わりに水が出る。
  木製の張りぼてで作られた『炎』に一斉 
  に水を浴びせる。
女子生徒「(恥ずかしがり)火事だ……」
消火隊員「もっと大きい声で!」
女子生徒「か、火事だ!! アハハ、恥ずか
 しいんですけど!」
  女子生徒たちは笑いながら消火訓練中。
  そこへ慌てて走って来るアキラ。
  訓練用の消火器が大量に置かれている、
  何か言うべきだが声が出てこない。
男子生徒「どこ行ってたの?」
アキラ「いや……爆発──」
青木「先生! これ、使っていいっスか?」
  同級生の青木(14)が消火器を持って
  いるが、それは訓練用の消火器とはラベ
  ルの表示が違う事に気付くアキラ。
担任「どっから持って来た?」
青木「あっちにありましたよ……」
  と、消火器のノズルを握る──
アキラ「!!」

○ 同外・災害対策本部
  相変わらず雑談を続けている訓練の責任
  者であるお偉いさんたち。
  会場からは爆発音が連続して鳴り響く。
教育長「訓練……ですよね?」
警察署長「……多分」

○ 豊島区椎名町・戸倉興信所外観(数日後)
  古ぼけた建物。
T 『数日後』

○ 豊島区椎名町・戸倉興信所内(同)
  ──扉を躊躇いがちに叩く音。
  興信所の内部は活気も無く、置いてある
  備品は年代物で営業している気配は無い。

○ 同・表
  『戸倉興信所』の表札。
  ノックしていたのは宮崎郁子(20)。
郁子「……」
  仕方なく携帯電話で呼び出そうとする。
達也「──宮崎さん?」
  振り返るとそこには戸倉達也(82)。
郁子「は、はい……」
達也「……」

○ 同・室内
  空気の循環が悪い室内、澱み、埃が浮く。
郁子「──営業されてないんですか?」
達也「最近は知り合いが揉め事を持ち込んで
 来るぐらいだな」
  古びたソファに腰掛け向かい合う二人。
達也「不安になったろ。ウチでいいのかい?」
郁子「……戸倉さんじゃないとダメなんです」
  立ち上がる郁子の先には本棚。
郁子「私の祖父……認知症が進んでて。もう、
 普通の会話はほとんどできないんです……
 昔は私も良く面倒みてもらっていたんです
 けど……先日、ニュースを観ていたんです。
 テレビで。祖父は内容が解って見ていると
 いうより、ただ眺めているって感じだった
 んですけど……その時に観たニュースに祖
 父が反応したんです」
  郁子、本棚から一冊のスクラップブック
  を取り出しめくる。
  そこには旧い新聞記事や、事件現場のモ
  ノクロ写真、達也が書いたメモ。
郁子「爆弾事件……最近続いてるじゃないで
 すか」
達也「ああ……」
郁子「爆弾のニュースで流れたら、祖父が呟
 いたんです──」
  スクラップをめくる手が止まる、モノク
  ロ写真は爆破の痕跡が生々しく残る現場
  を写している。
郁子「クサカ……ジロウ」
達也「──!」
  スクラップブックの背表紙には『草加次
  郎事件』の文字──
郁子「私の祖父と『草加次郎』の関係につい
 て……調べてくれませんか?」
達也「…………」

○ 自動車・車内
  運転する新田浩(26)、後部座席に戸
  倉肇(56)を乗せていると携帯が震え
  運転中だが片手で操作する。
肇 「なに、メール?」
新田「違います……今、チェックしてる掲示
 板に新しい書き込みがあったみたいです」
  信号に捕まると、その間に素早く携帯電
  話を操作し掲示板に書き込みをする新田。

○ 警察署内・刑事部捜査一課
  オフィスに入ってくる肇と新田、それぞ
  れの席に着くと同僚の菊本恵一(27)
  がキャスター付きの椅子に座ったまま横
  移動し新田に話しかける。
菊本「……外れ?」
新田「(携帯を操作し)そ……外れでしたよ」
菊本「やっぱり、IPアドレス晒して書き込
 むヤツなんて──」
智恵「──犯人のわけないよね」
  通りがかりに口を挟む卯月智恵(34)。
新田「ですよねぇ……」
菊本「今は、どこのサイトチェック中?」
  と、新田の携帯電話を覗き込む。
菊本「マサコ? 女子大生?」
新田「俺の十三個目のアカウント……名前は
 ウチのお母さんの旧姓です」
  SNSの画面、『友人欄』には多くの男
  性ユーザーの名前とアイコン。
  さらに操作する新田、そこにはあるユー
  ザーが書き込んだ災害訓練会場での爆弾
  事件発生後の写真が掲載されている。
智恵「爆弾事件に出くわした女子大生……っ
 ていう設定?」
新田「事件に興味もってる人たちとかにフレ
 ンド申請して……オンナの方が相手の反応
 がいいんですよ。他の『設定』でブログも
 やってるし、ツイッターも呟いてるし……」
智恵「友達……百人できるかな?」
新田「ネットだけの『友達』は増えましたよ」
菊本「で、犯人ぽい『友達』は?」
新田「それは……全然ですね」
智恵「だよね」
肇の声「──新田」
  車の中からずっと携帯電話を操作してい
  た新田が手を止め肇の方を向く。
  そこには肇以外に二名の男が。

○ 同・会議室
  会議室の中。
公安部員A「──左右過激派。国際テロリス
 ト、国内カルト……犯行声明は無し。我々
 が内偵している中でも、事件と関係してい
 ると思しき情報はありません」
肇 「公安は個人犯だと?」
公安部員B「その可能性が高いんじゃないん
 ですか? 戸倉さんのところで調べている
 のも、そっちの線でしょ」
肇 「ええ、してますよ……してるんですが、
 これがなかなか進んでなくてですね……公
 安のみなさんだったら、もう何か掴んでる
 んじゃないかな? と思いましてね……」
公安部員B「……何か隠してるとおっしゃる
 んですか?」
肇 「いやいや、そんな事は全然……ただ、
 何か情報があったらいいなぁ……て」
  屈託のない笑顔を見せる肇。
  そんな、やり取りに不安気な新田。
  公安達も笑顔に根負けする。
公安部員A「──私たちも同じ状況です。た
 まに怪しいのがいて、調べてみても結局空
 振り。爆弾とは関係無しですよ」
肇 「同じ状況ですか……すみません。色々
 とお手数をおかけ致しまして」
公安部員A「いえ、いいんです。私が刑事課
 だった頃に戸倉さんのお父さんには散々迷
 惑をかけましたから」
肇 「もう、アレも歳はとりましたよ……で
 も、相変わらずですけどね」
公安部員A「相変わらず……まぁ、そうでし
 ょうねアノ人は」
  笑い合う二人。
新田「(小声で)──お父さん?」
智恵「部長のお父さんも刑事だったの」
新田「へぇ──あ」
  空気が和んだ中で肇の携帯電話が震える、
  匿名でメッセージが届く。
智恵「マサコ宛にメッセージ?」
新田「はい……匿名ですね──?!」
  携帯電話の画面にメッセージ。
  『あの日、爆弾を爆発させたのは私です』

○ 中学校・二年教室内(朝)
  朝。登校して来る生徒たち。
  アキラは教室に入っても同級生に挨拶も
  せず席に座り、独りきり。
アキラ「……」
男子生徒の声「大袈裟じゃねえ?!」
  生徒は登校して来た青木の周り集まる。
青木「大袈裟じゃないって! 全治二週間だ
 からね!」
男子生徒「だからって包帯巻き過ぎ! もう
 取っちゃえよ」
青木「ヤケドが結構グロイけど……いいの?」
男子生徒「ちょ! やっぱ見たく無い!!」
  笑い出すクラスの中心にいる青木。
アキラ「…………」
  そんな青木と周囲のやり取りを、冷めた  
  表情で見つめるだけのアキラ。
  携帯電話が震える。
  メッセージアプリに匿名でメッセージ、
  訝しがるが確認する。
アキラ「──?!」
  『爆弾が爆発した時、あなたを見てまし
  た──あなたは私の仲間です』

○ 宮崎家・京介の部屋
  畳の自室でぼんやりとして座り、視線が
  定まらない宮崎京介(85)。
郁子「(耳元で)──おじいちゃん……おじ
 いちゃん……聞こえる?」
京介「ん……?」
郁子「こちらの方……戸倉達也さん。おじい
 ちゃんとお話がしたいんだって」
京介「……ん……うん」
達也「初めまして、私、戸倉達也と申します。
 五十年以上前ですが……昭和三十七年から
 三十八年。その頃の何か憶えている事、話
 してくれないかな?」
京介「…………」
  達也の問いかけにもぼんやりとして反応
  しない。
郁子「すみません……」
達也「これ……再生できる?」
  と、手にはDVDが。
     ×   ×   ×
  DVDを再生し京介に見せようとするが、  そっぽ見てしまう。
郁子「こっち! テレビ見て」
京介「うーん!!」 
  無理矢理、顔をテレビに向けようとする。
  テレビに映像が流れ始めると抵抗が止ま
  り、ゆっくり映像の方に向き直る京介。
郁子「おじいちゃん……」
  テレビには防災訓練会場での爆弾事件ニ
  ュース番組が流れている。
アナウンサー声「──消火器の形をした七つ
 の爆弾が三十分の内に立て続けに爆発、巻
 き込まれた計十五名が重軽傷を負いました。
 また、事件後の調査で同様の爆弾が三個、
 防災訓練会場で発見されました──」
  テレビには爆弾事件後の混乱した現場、  
  泣く被害者家族、同形の消火器が映る。
達也「何か、思い出しませんか?」
京介「ば、ばく……だん?」
達也「そう。爆発したんだ」
京介「……」
アナウンサー声「──防災訓練中の爆発に、 
 現場では訓練か事件かの判断付かず、初め
 の爆発後も訓練用の消火器と思い爆弾に触
 れ被害が拡大し──」
  事件発生時の初動対応の拙さを責められ、
  会見で神妙な顔で頭を下げる防災訓練の
  責任者たち。
達也「草加次郎を知ってるか?」
京介「!?(頷く)……し、しって……る」
達也「あなたが……草加次郎だったのか?」
京介「草加……次郎は……もう、いない……」
達也「いない……?」
京介「……いない……いない……」
達也「宮崎さん? ……どういう事ですか?」
京介「……ん……あ?」
達也「どういう事だ? なぁ……おい!! 
 アンタが草加じゃないのか!? なぁ!」
郁子「や、止めてください!!」
京介「────」
  再び、曖昧な意識に戻ってしまう京介に
  思わずエスカレートする達也。
  郁子は二人の間に入ってを静止する。

○ 警察署・刑事部捜査一課
  PCをいじりながら質問に答える新田。
新田「──無理ですよ」
肇 「運営してる会社に情報開示させても…
 …また空振りか」
新田「でしょうね」
肇 「……じゃあ、どうする?」
新田「このままやり取りして、一つずつ犯人
 の可能性を潰してくしかないですよ……と」
  メッセージ送信ボタンを押す新田。
肇 「ですよねぇ……」
  と、立ち上がる肇。
新田「お帰りですか?」
肇 「ちょっと父親に会う予定がな……」
新田「お父さん……どこか、悪いんですか?」
肇 「いや、体調は別に悪くは無いんだけど
 な……一人暮らしさせてるから、たまには
 顔見とかないと、いけなくてさ」
新田「そうですか……」
  すると、また匿名のメッセージが届く。
新田「課長!」
肇 「どうした?」
  慌てて届いたメッセージを開封する二人、
  リラックス雰囲気から一転した表情で画
  面を凝視する。
  画面には、
  『あなたと直接会う事はできません。し
  かし『試験』を受けて合格したら……あ
  なたは、私の仲間です──』
新田「こいつは……当たりか外れか、どっち
 ですかね……」
肇 「可能性は潰していくしかないんだろ?」
  肇の言葉に静かに頷く新田。

○ 『草加次郎』事件関係のイメージ
  昭和三十七年頃の東京の風景。
  『草加次郎』関連の新聞記事。
  鑑識が撮った現場写真──
  過去を思い出し、ぽつりぽつりと語る達
  也の声。
達也の声「昭和三十七年──アメリカとソ連
 の核戦争、一歩手前でキューバ危機が回避
 されて、間もない十一月。歌手の島倉千代
 子の事務所に届いていた小包を、事務員が
 開けた……すると小包が発火。事務員が火
 傷を負った──」

○ 宮崎家・物置
  物置にゴミのように押し込まれた京介の  
  荷物を引っ張りだす達也。
  古い教師用教科書、ノート、アルバム。
達也「焼け残された小包の破片に書かれてい
 た名前それが──」
郁子「『草加次郎』……」
達也「(頷き)──麻布のホステス自宅、浅
 草寺や世田谷の公衆電話、有楽町と日比谷
 の映画館……不発も含めて、この年だけも
 六件の爆弾事件を起こしている……が、犯
 人を捕まえられないまま、年を越して昭和
 三十八年──」
  達也の手元には『昭和三八年度卒業アル
  バム』
  教師である五十年前の若い京介が、教え
  子たちと白黒の写真に写っている。
達也「銀座線京橋駅で時限爆弾が爆発した。  
 草加次郎が起こした事件で一番多くの怪我
 人が出た事件だった……これを最後に『草
 加次郎』を名乗る犯行は止まった……」
郁子「事件から五十年以上経ってて……お祖
 父ちゃんが──私の祖父がもし……犯人だ
 ったとしても逮捕されたり、そう言う事に
 はならないんですよね?」
達也「そうだ……とっくの昔に時効だ」
郁子「犯人だとは思ってないんですけど……
 すみません心配で……今も事件を調べてい
 るのは真実を知りたいとか、そういう事な
 んですか?」
達也「……違う」
郁子「?」 
達也「────」
  そのまま、口を詰むんでしまう達也を見
  つめることしかできない郁子。

○ 繁華街・路上(別日)
  繁華街に溶け込むように、普段の背広姿
  ではなくジーンズにカジュアルな上着を
  着ている新田、携帯電話をいじり何かを
  探している。
  人ごみを抜け路地に並んだ自動販売機を  
  見つけると自動販売機の裏を覗き込む隙
  間の奥、封筒がテープで貼られている。
  封筒を開けると中にはメモ。
  確認するとまた移動を開始する新田。
  その姿を離れて監視している菊本。
菊本「(無線に)──移動を開始」
肇の声「了解」

○ 公衆トイレ内
  トイレ内。
  新田、個室便所内の水洗タンクを開ける。
  服の袖を捲り上げ手を突っ込む、濡れな
  いようビニール袋に入れられたメモ。
  『駅前、赤いベンチの下』
新田「…………」

○ 同・表
  トイレから出て来る新田を離れた場所か
  ら見つめる肇。
肇 「(無線に)駅前方面へ移動開始」

○ 路上
  駅前に徒歩で移動する新田。
  そんな新田から離れて監視する智恵。
肇の声「『試験』を受けている最中は我々は
 距離をとり追跡。相手と接触できても、そ
 の場で犯人だという確証を得るのは難しい」

○ 警察署・会議室(回想・前日)
  新田、菊本や智恵など捜査員たちが集ま
  り、肇の指示を聞いている。
肇 「──逮捕はするな。泳がせて裏を取る」
新田「はい」
智恵「……メッセージを送って来た相手が犯
 人かどうか、まだ判りませんが、別の人が
 接触した方がいいんじゃないでしょうか?」
肇 「どうして?」
智恵「新田は、まだ経験が浅くて、危険かと
 思います」
新田「……」
肇 「うーん……どう?」
新田「──やり取りをしてたのはネット上で
 すから、他の人が代わりをする事も可能だ
 と思います……ですが、接触できた時に話
 しが合わないとバレる可能性もあると思い
 ます。やり取りしていた私なら、話しを合
 わせる事ができると思います」
肇 「わかった……そんなに緊張するな。い
 ざとなったら俺達もいる。な?」
  と、新田の肩を軽く叩く。
  周囲の同僚たちの顔をみて、微笑む新田。

○ 駅前(現在)
  赤いベンチに座る新田、ベンチの下へ片
  手を這わせる。
  指先に感触を感じ、剥がし取り出す。
  またメモ。
  少し辟易とした反応を顔に出す新田、し
  かし仕方なく、また歩き出す。
  そんな姿を監視していた肇と智恵。
智恵「手が込んでますね……真犯なん人です
 かね?」
肇 「うーん……とにかく、今は尾いていく
 しかないねぇ……(無線に)再び移動開始」
一同の声「了解」

○ 坂道
  緩やかに蛇行した人気の無い坂道。
新田「……」
  なかなか長く、急な坂道を新田以外、誰
  も歩いてはいない。
  そんな新田の様子を監視している菊本の
  ところに遅れて肇と智恵が合流し、坂を
  登ろうと歩き始めるが──
菊本「──課長」
肇 「?」
  何かに気付き、坂の上を見上げる肇。
新田「──?」
  新田、人の気配を感じ視線を上げると、
  制服を着た女子中学生が坂を下って来る。
  更に一人、二人と学生たちは増え一気に  
  道を塞ぐ人数が坂を下ってる。
  ちょうど下校時間に鉢合わせてしまった  
  新田、流れの真ん中で明らかに場違い。
  下校する学生たちの流れは、直ぐには途 
  絶えそうにも無い。
智恵「どうしますか?」
肇 「ここで追跡を続けるのは……目立つな。
 もう少し離れたら行こう」
  学生たちはそれぞれ友人同士で、お喋り
  をしながら歩いている。
  新田は周囲の流れに逆らい、時折ぶつか
  りそうになりながら坂を上る。
  坂の下からでは角度的に新田の姿は見え  
  づらく、また女生徒たちが邪魔し見失い 
  がちな肇たち。
  やっとの事で、坂を登り切る直前まで上
  り、少し安堵する新田──手を掴まれる。
新田「!?」
  肇の視線の先、新田の姿が突然が消えて
  しまう。
肇 「どこだ!?」
  坂を駆け上がる肇たち。
  流れに逆らい、女生徒たちにぶつかりな  
  がら新田が居た位置まで登ってくるが新
  田の姿はない。周囲を慌てて探すが女生
  徒たちの姿だけしかない。

○ 部屋(数十分後)
  暗闇。
声 「──目隠しをとって下さい」
  ボイスチェンジャー通した声。
  視界が開ける。
  スピーカーが置かれ、声が流れて来る。
  何も無い殺風景な部屋に一人の新田。
声 「私は今回の試験官です」
新田「ここは……どこですか?」
声 「答えられません」
  床には回収したメモが散らばっている。
  自動販売機の裏。
  公衆トイレ。
  生け垣……
  次に行くメモの隠し場所が書かれている。
新田「……『試験』はまだ終わりじゃないん
 ですか?」
声 「まだ、最後の『試験』が残っています」
新田「最後は何を……すればいいんですか?」
声 「最後の『試験』はそちらの中です」
  床に無造作に置かれた紙袋──

○ 新田の視界(数十分後)
  新田の視界は暗闇。
  しかし、音が聞こえて来る。
  エンジン音、車に載っている気配。
  停まり、下りる。
声 「──ご自分の心の中で、10数えたら  
  目隠しをとってもらって結構です」
新田「……はい……」
  暗闇の中、静かに時間が経つのを待つ新  
  田──周囲には人の気配、それも一人や
  二人ではない。
  自分の呼吸が大きく聞こえる。
  新田、おもむろに目隠しをとる──が、  
  また、暗闇の中。
新田「……!? な! どこ!?」
  僅かな隙間から光が漏れている。
  必死にその隙間から外の世界を覗く。

○ 銀座・路上
  銀座のど真ん中。
  絶えず人が歩く大通り。
  路肩に置かれた段ボール箱から、突然手  
  が出て来る、少し通行人が気にする仕草  
  を見せるが、直ぐに通り過ぎる。
  周囲を警戒しながら外へ出て来る新田。
新田「……」
  片手に紙袋を持ったまま立ち尽くす。
  紙袋を開けると小さな箱とメモ。
  『3時丁度にその箱は爆発します』
新田「!!?」
  腕時計を確認すると二時五十五分──三
  時まで、あと五分を切っている。
  携帯電話を取り出すが電源が切られてい
  る。再起動するが、なかなか立ち上がら
  ず苛立つ新田。
  その間、周囲を見回す。
  人、人、人……
  人がいない場所を探し、慌てて走り出す。
  ビルの中を見れば客がいる。
  路地を曲がると、また別の人の流れが。
  道路も渋滞で多くの車が並んでいる……
  何処を見ても人ばかり、残り一分を切り  
  時間はもう無い。
新田「どこ──どうすれ……」
  混乱する中、小声呟きながら立ち尽くす。
  時計は残り三十秒を切り、爆発が迫る。
  カフェの屋外テラス。楡の木の下に置か  
  れたゴミ箱が視界に入る。
  ゴミ箱に紙袋を突っ込み足早に立ち去る。
  カフェには若いカップルや老夫婦。
  ゴミ箱の前を通行人が何組も通り過ぎる。
  次の瞬間──
  大きな爆音が上がる!
  爆弾が爆発するのを背中で感じる新田、  
  周囲が悲鳴を上げ爆発の方に視線が向く  
  中、振り向く事ができない。
新田「…………」
  深く息を吸い込み眼を閉じる。
  ゆっくりと振り向き、眼を開ける新田。
  そこには倒れた人々が……
怪我人「──ッ! がぁあああぁ!!!」
  痛みに暴れるようにのたうち回る人。
────────────────────
老女「おとうさん? ……アナタ! しっか
 りして下さい!」
  夫に話しかけるが反応がない。
────────────────────
幼女「パパ!!」
父親「────」
  泣き出す娘と意識が無い父親。
────────────────────
通行人男性「なになに、撮影?」
  状況が判断できず傍観するだけ。
  電話をする人や写真を撮る人。
  ダラリと力無く両手を地面に放り出した
  人から、止めどなく流れる血。
新田「────」
  立ち尽くす新田の背中──

○ 東京・下谷・路上
T 『台東区下谷』
  下谷神社の鳥居。
  門前町。
  路地裏に入る達也と郁子。
  生活感のある軒先を抜けていく。
達也「──初めに届いた爆弾の消印。かすれ
 ていたが『谷』と読めた」
郁子「たに?」
達也「女優の吉永小百合にも草加は脅迫状を
 送りつけたんだが、その時の消印も……」
郁子「……それだけで祖父が犯人ですか?」
達也「犯人だとは言ってない。ただの事実だ」
郁子「……渋谷」
達也「あ?」
郁子「四谷かもしれませんよ!!」
達也「(少し苦笑し)……そうだな」 

○ 夏目宅・居間
  夏目の自宅。狭いが良く手が行き届いた
  庭を臨む居間で夏目(82)と妻(80)
  の話しを訊く達也たち。
夏目「──ほら彼、国語の教師だったでしょ? 私は文章を書く才能も無いし悪筆だったか
 ら。宮崎先生にお願いしたんですよ」
郁子「それって……お祖父ちゃんがラブレタ
 ーを書いたって事ですか!?」
夏目「それが名文だっただよ!」
夏目の妻「それで騙されたようなもんですよ。
 詐欺よ! 詐欺!」
夏目「でも、他に騙してくれる人もいなかっ
 ただろ?」
夏目の妻「はいはい……」
  ニコニコと昔を思い出し語る好々爺然と
  した夏目と対照的に睨むような眼の達也。
達也「──仲が良かったんですね」
夏目「同い歳で彼も下谷住まいで、この近所
 でしたから。お互い独身の時はよく一緒に
 飲みに行ってましたよ……団塊の世代がち
 ょうど中学生になった頃でしたから、教師
 も沢山いましたが一番付き合いがあったの
 は(郁子を見つめ)あなたのお祖父さん」
郁子「祖父は……どんな人でしたか?」
夏目「大変気持ちのよい人でしたね。生徒に
 も慕われていて。同僚の私から見ても、少
 し嫉妬するぐらい……あ、あと短歌を書い
 ては雑誌に投稿して……たまに掲載された
 雑誌を読ませてもらった事があったなぁ」
郁子「あ、書いてたかも……まだ、元気だっ
 た頃ですけど……」
  昔の京介を思い出し辛そうな郁子に、同
  情的に頷く夏目。
夏目「うん……そうか……好きだったからね
 ……書く事もできなくなったていうのは…
 …残念だね……」
達也「当時、宮崎さんが付き合っていた人物
 の中に、気になる人がいたという事はあり
 ませんでしたか?」
夏目「気になる?」
達也「教師として、一般社会で付き合うには
 不適格と思われる様な人物です……反社会
 的な人物や組織」
夏目「そんな事……宮崎先生に限ってあるは
 ずないですよ」
達也「どんな小さな事でも良いんです。不審
 に思った点……何か思い出してください」
夏目「思い出すもなにも……そんな事は──」
  そこへ夏目の妻が新しいお茶菓子を持っ
  て来る。
夏目の妻「どうしたんですか?」
達也「──五十年以上前の事です。記憶が曖
 昧なところを良い方に解釈してませんか? 
 本当に仲が良ければ、彼の良いところだけ
 じゃない部分も見てるんじゃないですか?」
夏目「そういった事も……あったかもしれま
 せんけど……」
達也「あった?」
夏目「いえ……いや、そんな事あるはず──」
達也「どっちなんですか?!」
  達也の迫力に言葉を詰まらせる夏目。
郁子「もう、やめてってください!!」
  叫ぶ郁子にさすがに止まる達也。

○ 東京・下谷・路上
郁子の声「──おかしいですよ!!」
  足早に達也から逃げるように歩く郁子。
郁子「事件の真相を知りたいって気持ちは解
 ります! でも、あんな風に言わなくても
 いいじゃないですか!? 戸倉さんはもう
 警察じゃないんですよ!」
達也「──わかってる」
郁子「時効になっちゃってて逮捕する事もで
 きないんでしょ? そんな無理しなくても
 いいじゃないですか!?」
  立ち止まり、達也と向き合う郁子。
達也「…………」
  郁子の言葉に答えられない達也。
  当惑し思わず郁子と視線を合わせていれ  
  ずに、視線を外すと足早に歩き出す。
  そんな達也の背中を見つめる郁子。
肇の声「──サイトの管理会社に情報は出さ
 せたけど登録されている個人情報は架空で、
 接続元の特定は難しいらしい」

○ 警察署・刑事部捜査一課(夜)
  夜。
  汚れた私服姿のまま、惚けた表情で椅子  
  に座っている新田。
新田「…………」
  達也、爆発現場周辺の写真を机に拡げる。
肇 「現場に駆けつけた時に、気になる人物
 はいなかった?」
新田「負傷者の救護に手一杯で……余裕は無
 かったです」
肇 「わかった……今日はもう帰れ。ただ、
 また同じ様な事を訊かれるかもしれないけ
 ど……大丈夫?」
新田「大丈夫です……」
肇 「(苦笑)あんまり大丈夫ぽくないぞ?」
  力無く立ち上がり部屋を出て行こうとす  
  る新田。
肇 「新田」
新田「……」
肇 「なんでもいい。なにか他に情報は無い
 か?」
  肇と真っ直ぐ視線を合わせる新田。
新田「……ありません」
肇 「そうか……今日はご苦労様だった」
  新田が頭を下げ、静かに部屋を出て行く
  のを見送ると肇──

○ 警察署・表(同)
  表に出て来た新田。
  携帯電話が震える、メッセージが届く。
  『合格です』
新田「…………」
  惚けた表情のままメッセージを見つめる  
  新田。

○ 立体駐車場
  立体駐車場、入庫して来る車を避け歩く  
  新田、鉄筋が剥き出しの階段を一段ずつ
  踏みしめ六段目で立ち止まる。
  周囲に人がいない事を確認すると階段の  
  裏側に手を伸ばす。
  隠されていた鍵を手に取る新田。

○ 駅前
  コインロッカーを回収した鍵で開ける。
新田「……」
  ロッカーの中、そこには晩ボール箱──
  と、新田の携帯電話が鳴る。
新田「!?」
  慌てて電話を取り出す、が画面を見て溜
  息を吐き電話に出る。
新田「──もしもし。ああ……うん、今? 
 ……外だよ。え? 一人だって……なに?
 ああ、うん、たまに連絡してるけど……結
 婚? そうなんだ……いや、聞いてなかっ
 た。うん、今度連絡するよ……仕事?」
  目の前の段ボールを開けてみる新田、そ
  こには爆弾の部品と設計図──
  インサート。
  銀座で爆弾が爆発した直後。
  流れる血。悲鳴。
  赤ん坊の泣き声……立ち尽くす新田──
  爆発現場の惨状を思い出してしまい顔を
  歪める新田。
新田「……いや、大丈夫。頑張ってるから…
 …うん、母さんも……父さんによろしく…
 …うん、元気でね」
  電話を切ると顔を覆い項垂れる。
新田「(オフ)俺のせいじゃない……」

○ 警察署・刑事部捜査一課(別日)
  新田が起こした爆弾事件の現場写真が、  
  大量に貼られた捜査本部。
智恵「──声は?」
新田「ボイスチェンジャーで変えられている
 ようでした」
智恵「他に何か気付いた事は?」
新田「特には何も……話し言葉に特徴もあり
 ませんでした」
知恵「特に何も……か」
  不満げな智恵。
  話が停まり、努めて明るく菊本。
菊本「──でも、アレですよね。最後の『試
 験』って、爆発現場を見せることだったん
 ですかね? なんか『試験』なのに合格も
 不合格もないですよね。そんなの見せつけ
 られても」
新田「……わかりません『試験』の内容は何
 も言われないまま解放されたので……『試
 験』というのは嘘で、自分の犯行を誇示し
 たかったのかも……」
菊本「見せびらかしたかったか……なんか。
 もっと、盗みたいから盗むとか、殴りたい 
 から殴る……みたいなヤツの方が理解でき
 るんだけどなぁ」
智恵「そんなの……どうでもいいよ」
菊本「まぁ、そうですけど……」
新田「…………」
肇 「────」
  同僚たちに気取られないよう、ポーカー  
  フェイスで答える新田。
  そんな新田を黙って見つめる肇──

○ 新田の自宅内(別日)
  段ボールが開かれている。
  中に入っていたのは火薬、配線に使う被   
  覆線、コンデンサや電子タイマ……
  ゴム手袋をして爆弾を作る新田。
     ×   ×   ×       
  爆弾内部を、キーボードの清掃に使うエ
  アダスターで証拠となりそうな髪の毛な
  どを吹き飛ばす。
     ×   ×   ×
  弁当箱程度の小振りな爆弾を紙袋の中に、
  慎重に慎重に入れる新田。
  写真の中で微笑む新田──部屋の壁には
  家族写真や職場のメンバーと一緒に写っ
  た写真が貼られている。
  全く違う別人のような表情で爆弾をつく
  る現在の新田──

○ 病院・病室(別日)
  採血を行う、看護師の杉原憲男(32)。
杉原「──親指を内側に軽く握っててくださ
 い。はい、入ります……指先、痺れありま
 せんか?」
  ゆっくりと血が注射器に溜まっていく。

○ 同・廊下
  廊下を歩く杉原。
  時々、患者と挨拶交わす。

○ 同・詰所
  杉原以外は女性のみ看護師たち。
看護師A「──ホントさ、最低でも自分の事 
 ぐらいできないで意見とか言える?」
杉原「自分が新人だった頃は言えなかったね」
看護師A「でしょ?! なのに都合良く、自
 分の事になると『まだ教えてもらってない
 んですけど』……って、解らなかったら自
 分で聞きに来いって!」
看護師B「何から何まで教えてらんないよね」
看護師A「ホント……誰か変わって欲しいわ」
看護師C「木村さんも自分で教えらんないか
 らって、人に任せっぱなしだよね」
看護師A「ホントそう!」
杉原「まぁ……ね」
  業務をこなしながら苦笑いを浮かべ、当 
  たり障り無くやり過ごそうとする杉原。
看護師A「ダメだったら私の責任で、上手く 
 いったら木村さんの評価が上がるんでしょ? おかしくな──」
  そこへ話題の新人が帰って来る。
新人看護師「お疲れ様です」
先輩看護師たち「──お疲れ様」
看護師A「一人で大丈夫だった?」
新人看護師「はい。あ、でもこれって誰に渡 
 せばいいですか」
看護師A「あ、教えてなかったっけ? ごめ
 ん、ごめん教えてないから判んないんだよ
 ね? それは私……いやでも、木村さんに
 確認とってみないと──」

○ 同・非常階段
  非常階段の踊り場で、杉原は新人看護師
  の愚痴を適当な相づちを打ちながら聞い
  ている。
新人看護師「──言いたい事あるなら直接言
 って欲しいのに……どうしてあんな風にな
 っちゃうんですね? あんな風にだけはな
 りたくないですね──」
杉原「ああ……まぁ……うん」

○ 地下鉄・車内
  私服で地下鉄の中、席に座る杉原。
  病院でのこびり付いた様な笑顔から一転、
  感情を排したようにボンヤリとしている。
  震える携帯電話。
  届いたメッセージを確認する杉原、歪な
  笑みを浮かべる。

○ 横断歩道
  横断歩道を歩いて来る杉原。
杉原「…………」
  ふと立ち止まると中央分離帯の生け垣の
  中に置かれた紙袋を拾う。

○ 繁華街・路上
  路肩の柵に腰掛け。
  街中を行き交う人々の顔を観察するよう  
  に見つめる杉原。
  男性、女性。
  幼児、十代、同世代、老年期。
  スーツ姿、外国観光客、ホームレス。
  笑顔、疲れた表情、怒っている様な顔。
  見比べるように紙袋を見て、その重みを
  確かめる杉原、暗い笑みを見せる。
  腰掛けていた柵から降り、歩き出そうと  
  する──
杉原「────?!!」
  停車していた車の中に引き込まれる。
  突然の事で、雑踏の人々の視線が向いた  
  時には、もうドアが閉められている。

○ 車内
  スモークが貼られた車内。
杉原「んーんっ!!!」
  抵抗するが口にはガムテープがされ、後  
  ろ手に結束バンドで拘束され身動きが取
  れない。
声 「暴れるな! 今、剥がしてやる。もし、
 大声を上げたら。殺すぞ……解ったな?」
杉原「(頷く)…………」
  落ち着く杉原。
声 「……そのまま……動くなよ」
  杉原のポケットから財布を抜く。
  口に張ったガムテープを剥がしてやり、  
  新田、杉原の財布の中に入っていた免許
  証を見ながら話しだす。
新田「──スギハラノリオで間違い無いな?」
杉原「はい……」
新田「爆弾事件を起こしているのは、お前だ
 な?」
杉原「……あなたは、誰なんですか?」
新田「質問にだけ答えろ」
  杉原の喉を片手で絞める新田。
杉原「──ッ! わ、わかりました! わか
 りましたから! 爆弾の……爆発した事件
 の関係者です──でも、違うんです!! 
 自分で使おうしたのは今回が初めてです!」
新田「?」
杉原「今までは指示に従って部品を運んだり、
 爆弾を作ったりしてただけで……爆弾を置
 く役目になったのは、今回が初めてなんで
 す!」
新田「どういう事だ……」 
杉原「偶然です……爆弾事件の現場にたまた
 ま居合わせて……それでその時、怪我人を
 救護したんです。その時の事をネットに書
 き込んだらメッセージが届いたんです──
 『私が爆弾を使いました』って……初めは
 イタズラだと思ってたんですけど、メッセ
 ージをやりとりしてるうちに『試験』を受
 ける事になったんです──」
新田「『試験』!?」
杉原「それで爆弾を置いたんです……そうし
 たらいっぱいの人が、爆発に巻き込まれて
 ……何人も血まみれで、呻いてて……僕は
 看護師だから怪我人を救護して……僕が皆 
 を助けたんだ……」
  話していると徐々に口元に笑みが浮かぶ  
  杉原。
杉原「──警察には本当の事は言えなくて…
 …そしたら『合格』の連絡があったんです」
新田「お前も『試験』を……受けたのか」
杉原「『試験』の事……知ってるんですか?」
新田「!!」
  新田、杉原の腹を強く殴る。
  呼吸が止まり、悲鳴も上げられない杉原。
杉原「ッ!!」
新田「お前の自宅! 仕事場の病院! 俺は、
 お前の事を警察に通報するのも! お前と
 お前の周りの人間を殺す事もできる! 解
 るか?!」
杉原「は……はい! はい!!」
  必死に頷く杉原。
新田「──俺の……指示に従え」

○  戸倉興信所 (翌日)
  ラジオをかけながら、机に拡げた京介の
  私物の前で達也は京介が五十年前に投稿
  していた歌集を読んでいる。
アナウンサーの声「──爆弾処理班によって
 回収された爆弾は、その構造などから、都 
 内で連続して起きている爆弾事件で使われ
 ている爆弾と良く似ており、同一犯の可能
 性が高いとみて関連を──」
  携帯電話を取り出し電話を掛ける達也。
郁子の声「はい……?」
達也「もしもし、戸倉です」
郁子の声「ケータイ……持ってるんですね」
達也「……この間は申し訳なかった」
郁子の声「……」
達也「君のお祖父さんが書いた短歌を読んだ」
郁子の声「どうでした……?」
達也「特に事件に関係があると思えるような
 表現は無かった。歌集の出版社にも──」
  郁子の笑い声が聴こえる。
達也「──なんだ?」
郁子の声「──そうじゃなくて短歌の感想で
 すよ。面白いとか、好きとか……そういう
 普通の感想」
達也「…………」
郁子の声「私、お祖父ちゃんが本当は犯人だ
 ったら……って怖がってるんかもしれませ
 ん。でも、戸倉さんにとっては五十以上年
 も探してきた犯人かもしれない容疑者なん
 ですよね……」
達也「続けさせてくれないか? 調べるのを」
郁子の声「……メールもできるんですか?」
達也「簡単な文章なら……」
郁子の声「今度アドレス教えて下さい」
達也「え?」
郁子の声「電話よりメールの方が返信しやす
 いんで……じゃあ、また」
  切れてしまう電話。
達也「……」
  視線を机に戻す。
  達也が見つめるのは草加の脅迫文。
  そして京介の直筆の短歌。
  それぞれの文字──

○ アキラの回想・災害訓練会場
  訓練会場で消火器形の爆弾を持った青木。
アキラ「!」
  思わず声を掛けようとするアキラ、だが
  青木と眼が合い言葉を飲み込む。
  次の瞬間、アキラがノズルに触れると─
  ──爆発する。
  視線を逸らし、ゆっくりと戻す。
  そこには煙が広がり、倒れる人々。
  泣き叫ぶ女子と大声を上げる男子、右手  
  を血まみれにして地面で苦しむ青木に駆
  けつける担任教師。
  混乱する現場──
  そんな凄惨な光景を前に、呆然と無表情
  だったアキラは段々と暗い笑みを見せる。
  思わず声を出して笑いそうになる……

○ 中学校・教室(現在・昼休み)
  教室の中、男子達の中心で笑顔で給食を
  食べる青木達を一瞥するアキラ。

○ 同・音楽教室(同)
  昼休みの音楽教室、静かな時間。
  アキラが入ってくる。
アキラ「……」
  携帯電話を確認するように見て、ピアノ  
  に近づき鍵盤蓋を開ける。
  順番に鍵盤を叩いていくと徐々に高くな 
  る音──ある鍵盤だけが微妙に音が違う。
  確認するように、もう一度叩いてみるが、
  やはり違和感がある。
  ピアノ内部を覗き込み、視線を巡らせる  
  と弦を叩くハンマーの一つに小さな紙片
  は括られている。
  紙片を開くアキラ。
アキラ「これから……あなたに『試験』を受
 けてもらいます……」

○ 病院・待合室(別日)
  病院の外来。
  待ち合い室は込み合っている。
  待合室を勤務中の杉原が通り過ぎる。
新田「……」
  そんな姿を待ち合い患者に紛れた新田が  
  見つめている──と、携帯電話が震える。

○ 同・表
  病院の外へ慌てて出て来る新田。
  マンガの吹き出しのようなメッセージが、  ポップアップする。
S 『あなたに作ってもらった爆弾が警察に
 回収されました』
  携帯を操作する新田。
S 『ニュースで見ました。あの爆弾が私が
 作った爆弾だったんですね』
S 『そうです。作成する際、指示した通り
 にできましたか?』
S 『指示通り作れたとは思います……ただ、
 もしかしたら指紋や何か証拠が残っていな
 いか不安です……会って相談したいです。
 私が捕まったらあなたも困るのでは?』
  『既読』は付くが、返信は無く苛立つが
  仕方なく携帯を仕舞い、歩き出す新田。
  その一部始終を離れた場所から見つめて
  いる男。
男 「──もしもし」
  電話をかける。

○ 警察署・刑事部捜査一課
  電話の相手は肇。
肇 「──わかりました。また、よろしくお
 願いします」

○ 野村宅・応接室(夕方)
  野村家の応接室。
達也「…………」
英斗「…………」
  達也を不思議そうに見つめる、園児服姿  
  の野村英斗(4)。
  ソファに並んで座る達也と郁子。
  野村古志郎(70)はPCを操作しプリ
  ントアウトしている。
野村「──いつからメールできるようになっ
 たんですか?」
達也 「──最近だ」
郁子「(悪戯っぽく笑う)……そう、最近な
 んですよ」
野村「ケータイも、パソコンの使い方も、D
 VDの録画の仕方まで僕が教えてたのに…
 …若いカノジョができると変わるんだねぇ」
英斗「かのじょー?」
達也「くだらない事言ってないで……早くし
 ろ」
野村「はい、はい……見て下さい」
  ソファに腰掛ける野村に飛びつく英斗。
  プリントアウトされた画像。
  そこには『草加次郎』の名前で書かれた  
  脅迫状、京介の自筆の短歌。
  それぞれの文字の特徴、止め、跳ね、曲  
  がる角度……一致する部分が複数マーク 
  されている。
達也「これを書いたのは同一人物なのか?」
野村「まず、間違い無いでしょう……脅迫状
 は意図的に書体を崩してますが、それでも
 文字を書く時にクセが出るもんなんです」
郁子「……」
  不安そうな郁子に気付く達也。
英斗「おねえちゃん? どしたの?」
達也「──筆跡が一致しても、脅迫状を書い 
 た人物が爆弾犯と決まったわけじゃない」
郁子「でも……」
達也「野村」
野村「はい」
  と、もう一部の書類を出す。
  そこには二つの指紋の画像。
達也「草加が送って来た爆弾に残されていた
 指紋と……君のお祖父さんの指紋だ」
郁子「事件の指紋って……いいんですか?」
達也「コイツは元科捜研でな──」
野村「ちょっと、退職する時に拝借してきた
 んだな。アハハ!」
英斗「はいしゃく?」
野村「借りる、って意味……うーん!」
  と、英斗に抱きしめ戯れる野村。
英斗「うわぁぁ!! じぃちゃん、イタい!」
達也「──二つの指紋、お前の鑑定ではどう 
 だったんだ?」
野村「はい、はい」
  と、手を伸ばしマウスをクリック。
  二人の指紋がスライドして重ね合う──
  だが、明らかに一致しない。
  安堵の表情を見せる郁子。
野村「──別人ですね」
郁子「そうですか……良かった……」
栄斗「???」
  自分の指先を不思議そうに見つめる栄斗。
達也「──お祖父さんの知り合いで大森ひさ
 し、という人物を知っているか?」
郁子「いえ……誰ですか?」
  野村、PCをいじりホームページを表示
  する。
達也「お祖父さんが短歌を投稿していた雑誌
 には、読者交流コーナーがあってな、お祖
 父さんは別の投稿者たちと交流があったよ
 うなんだ」
  製靴会社『オオモリ』のホームページ。
  先代社長『大森ひさし』のプロフィール。
野村「──いかんせん俳号でやり取りしてい 
 て、本名が解らない中で現在も同じ俳名の
 人物ってのが……いたんだ」
  現相談役、歌人。江戸川歌人クラブ主宰。
  歌号『久雪』

○ 同・表
  玄関から出て来る達也と郁子。
野村「──最近、肇ちゃんとは? 会ってる
 んですか?」
達也「あいつはあいつで『最近の』爆弾事件
 で忙しいみたいだ」
野村「なんだかんだ同じ事してんだから……
 親子ですねぇ」
達也「アイツはまだまだだよ」
野村「厳しいなぁ──」
英斗の声「ねぇ!」
  いつの間にか英斗も見送りに来ている。
英斗「おじいちゃんも、ケイサツだったの?」
達也「そうだ」
英斗「ほんとに……? わるいハンニンじゃ
 ないの?」
達也「……」
  本気で疑っている英斗。
野村「……フフ……アハハハ!!」
達也「────」
  怯える英斗の頭を乱暴に撫でると、直ぐ  
  に歩き出す達也。
郁子「(苦笑)あ、待ってください──」
野村「宮崎さん」
  呼び止められ、止まる郁子。
  先に行ってしまう達也。
野村「あんな人だけど許してやってください。
 この事件だけは特別だから……」
郁子「特別……何故ですか?」
野村「それは……あの人が言うべき事かな」
  自分にしがみつく英斗の手を握る野村。
郁子「……」
達也の声「行くぞ!」
  達也が苛立ち郁子を呼ぶ。
郁子「はい! ……じゃね!」
野村「英斗?」
英斗「ばいばーい!!」
  達也に怯えながらも郁子には笑顔の英斗。

○ 警察署・刑事部捜査一課
  仕事の手が止まっている新田。
智恵「──まだ、ボケてんの?」
新田「え? いや……ちょっと……」
智恵「あぁ! もう、しっかり仕事しなよ!」
新田「はい……」
菊本の声「──戻りました」
  そこへ菊本が他の捜査員と帰って来る。
肇 「どうだった?」
菊本「今日会って来た被害者は身体の中に破
 片が残ったままらしくて……また来週、手
 術するらしいです」
肇 「そうか……しんどいな」
新田「……」
菊本「でも……爆発直前にゴミ箱にゴミを捨
 てた人物について、証言もらえました──」
新田「!」
菊本「男性、二十代から三十代。中肉中背、
 短髪……人相の細かい所までは無理でした」
智恵「──直前に爆弾置くかな? 自分も危
 険になるでしょ」
菊本「もっと前の時間帯の目撃者も探してま
 すけど。ちょっとまだ見つからないですね」
新田「……」
  新田の携帯電話が震える。
  メッセージを確認する。
  『あの坂道で会いましょう』

○ 坂道(夕方)
  自分が『試験』の際に失踪した坂道に立  
  つ新田、前回ほどではないが、中学生た
  ちが帰宅する姿がある。
  インサート。回想。
  『試験』を受けた日。
  坂道。多くの帰宅する中学生たちの中、 
  突然手を掴まれた新田、人込みが邪魔し、
  手を掴んだ主は見えない。
  坂道を抜け、脇道へ──
  瞬間、視界を奪われる。
新田「!?」
声 「『試験官』です──少しお付き合いく
 ださい」
新田「…………」
  ──現在。
  周囲を伺う新田の眼に、脇道が映る。
  人気の無い小径。
  脇道に入っていく新田を、監視する男。
男 「……もしもし、戸倉さん?」

○ 脇道(同)
  脇道を歩く新田。
  歩数を確かめるように、しっかりと歩く  
  ──インサート。
  同じ脇道を声の主に手を引かれ歩く新田。
声 「──もうすぐです」
新田「はい……」
  新田は目隠しを付け、目深に帽子を冠さ  
  れ声の主の姿は見えない。
  しかし、確かめるように同じ歩幅で歩く
  新田──
  現在。
  連れ去られた時と同じ歩幅で歩く新田。
  脇道は獣道、雑草の繁る団地へ。
新田「……」
  団地は廃墟になり、閉鎖されている。

○ 公民館・表
  公民館の入り口に置かれた、本日の利用  
  予定には色々な団体の名前。
  和室A 十時〜十五時『江戸川歌人クラ
  ブ』大森ひさし(76)が同年輩たちと
  談笑しながら出て来る。
達也の声「──大森さん」
大森「はい?」

○ 神社・境内
  近所、神社の境内。
  軒下に腰掛け話す。
大森「──憶えてませんよ。普通そうでしょ」
達也「私は憶えてますよ草加の起こした事件 
 の事は全部」
大森「それは警察だから……事件に関わって 
 いたからじゃないんですか」
達也「関わったら絶対に忘れられないんです。
 私みたいな刑事と……犯人だけは」
大森「…………」
達也「出身は岩手。東京には集団就職で上京」
大森「(頷く)中学を出てすぐ上京してきて
 ……オリンピック前で、どんどんと新しい
 建物ができて人も増えて……今よりも未来
 は明るいと思えましたねぇ……」
郁子「祖父とは会った事はありませんか?」
大森「だからそんな昔の事……憶えていませ
 ん。どちらにしても文通相手と直接会う事
 はありませんでしたよ」
達也「……本当ですか?」
大森「本当……じゃなくても本当でも、もう
 どうでも良いでしょ? ……爆弾で死んだ
 人もいない。ただのイタズラみたいな事件
 だったじゃないですか」
達也「…………」
郁子「戸倉さん──」
  達也の機嫌を心配し声をかける郁子を、  
  視線で制止する達也。
達也「事件で誰も亡くなっていない……とい
 うのは間違いです」
大森「……?」
郁子「え……」
達也「当時、容疑者としてある男性をマーク
 していたんです……男性の周辺で聞き込み
 していた中で、爆弾の部品で使われた腕時
 計を男性に売ったという知人の証言が得ら
 れました……それで、その男性を我々は容
 疑者として逮捕した──」
郁子「でも、犯人は……」
達也「──彼は犯人じゃありませんでした。
 時計も爆弾で使用されておらず残っていた
 ……当時は実名報道が当たり前で、釈放さ
 れた後も犯人のような扱いを受けて……男
 性は職場を辞めなくてはならなくなって一
 家離散しました……時効になった年、彼は
 自殺しました……」
郁子「……」
大森「……」
達也「時効になった事を悔しがる刑事は多く
 いた……でも、自殺した彼の事を語る刑事
 は誰もいなかった……一人も」
郁子「戸倉さんが草加次郎を追うのって……」
達也「──男性の知人から腕時計の情報を聞
 き込んだのは……私だったんです」
郁子「!」
達也「『草加次郎』と私が彼を殺したんです
 ……彼が自殺しても誰も気にも止めず、忘
 れた……彼は二度殺されたんです」
  郁子、達也の辛そうな表情を見つめる。
大森「──『人がみな、同じ方角を向いて行
 く……それを横より見てゐる心』……石川
 啄木が好きで彼とは仲良くなった」
郁子「……」
大森「会った事は無いというのは本当です。
 でも、五十年前、文通はしていました。あ
 なたのお祖父さん──俳号『宮崎雨城』と」

○ 東京・大森のアパート(昭和三十七年)
  四畳半に卓袱台。
  まだ若い大森(19)が、汚れた作業着
  姿で部屋に帰って来ると、買って直ぐの
  歌集を開く『宮崎雨城』の短歌。
  届いていたチラシ類を捨てる、と手紙が
  一通紛れているの気付く。
大森「……」
  送って来たのは『雨城』住所は無い。
大森の声「──僕は高校に上がれなかった人
 間だったから、雨城からは歌の基礎の基礎
 から教わる事になりました。彼はとても教
 え方が上手かった……」

○ 同・清川・製靴工場(同・別日)
  靴型から革を切り出し、穴を開ける──
  工場の騒音の中。
  黙々と作業をする大森。
    ×   ×   ×
  同僚たちが弁当を食べ談笑する輪に入れ  
  ず、ひとり弁当をかき込む大森。
大森の声「あの時代が良かったとか昔を思い
 出す人がいるが、それは嘘だ……いつの時
 代も、孤独な人間はいる。特に世の中が明
 るければ明るいほど、影は濃く、強い……」

○ 同・駅前(同・別日)
  駅前の伝言板の前に立つ大森。
  『聖火リレー、北、便所、於三番目』
大森の声「雨城に誘われて、他の人たちとも
 文通を始めた。それから多くの友人ができ
 た……一度も会う事が無かった特別な友人
 たちでした──」
  大森、チョークで書き込みをいれる。
  『走者、久雪、確認』

○ 同・公衆便所(同)
  和式便所の個室。
  高い所にある水洗タンクに、つま先立ち  
  手を伸ばす大森──
  そこにはボール紙で作られた円筒形爆弾。
  すでに『草加次郎』の名前が書き込まれ
  ている。
大森の声「──初めは冗談の延長だったんで
 す……ある店の店員が態度が悪かったとか、
 憧れのスターに本気で惚れていると言う人、
 電車が混んでいて通勤がイヤだ……不満や 
 下らない妄想……ホントに下らない些細な
 事ばかりだった──」

○ 同・清川・製靴工場(同・別日)
  休憩時間。
  置かれていた新聞を盗み読む大森。
  爆弾事件の記事。
  微笑む大森の顔が歪む──
郁子の声「──そんな……下らない悪戯みた
 いな理由で始めたんですか!?」

○ 神社・境内(現在)
  郁子の言葉に無言で頷く大森。
大森「──われは知る、テロリストの悲しき
 心を……言葉とおこないを分ち難きただひ
 とつの心を……奪われたる言葉のかわりに
 おこないを持て語らんとする心を……」
達也「石川啄木か……いっぱしのテロリスト
 気分だったのか」
大森「電話ボックスに仕掛けた詩集は……私
 が調達したものでした……」

○ 東京・世田谷区
      (昭和三十七年十一月二十九日)
  夕方、現在では見かけない当時の電話ボ
  ックスに入る男性。
男性「?」
  棚の上に置かれた『石川啄木詩集』に気
  付き、手に取り栞を抜く──
  次の瞬間、発火する詩集。
大森の声「──でも、実際に爆弾が爆発する
 瞬間を見た事は無かった……あの地下鉄を
 爆破するまで……」

○ 同・上野駅構内
      (昭和三十八年九月五日・夕方)
  東北から来た集団とすれ違う大森、岩手
  訛りに顔を向ける。
大森「……ふるさとの訛り懐かし停車場の…
 …人込みの中にそを聴きにゆく……」
  ぼそりと呟く若き日の大森、俯き人込み
  に紛れていく。

○ 同・営団地下鉄銀座線・車内(同・夜)
S 『昭和三十八年九月五日 営団地下鉄銀
  座線』
  木造の床に荷物を置く大森、そのまま電  
  車を降りるが──ふと立ち止まる。
大森「…………」
  荷物を放置した先頭車両を見つめる。
  別の車両に乗り込む。
大森の声「上野駅で乗り込み爆弾を置いて次
 の駅で降りる予定……だった。でも、爆発
 するところを見たくなった……」
     ×   ×   ×
  走り出す電車。
  クーラーが無く蒸し暑い車内。
  ほぼ満員の車内、大森は自分で時計を持  
  っていないので、隣の人が吊り革を持つ  
  手首に巻かれた時計を盗み見る。
  八時十分──
    ×   ×   ×
  京橋駅に到着する電車。
  腕時計の秒針が進むのを凝視する大森… 
  …ふと、視線に気付いた時計の持ち主を 
  眼が合い、視線を逸らす──
  と、爆弾が爆発する!
  直ぐに悲鳴が上がり、車内とホームは怒  
  声飛び交い騒然とした雰囲気にになる。
  人波に逆らい、先頭車両に向かう大森。
  興奮し笑顔が出る……が、先頭車両に入
  ると動きが止まる。
大森「…………」
大森の声「──『イタズラ』で済む光景じゃ
 なかった……死者が出なかったのは奇跡的
 だった……狭い車内で、私たちが作れる程 
 度の爆弾でも、人を殺す事ができてしまう
 事を知って……初めて自分のしている事が
 恐ろしくなった……」

○ 団地・中(現在)
  廃墟になった団地の中。
  深閑としいている──と、金属音が響き、
  扉が開く。
新田「…………」
  新田が警戒しながら入って来る。
  階段を上り廊下を歩き、ある部屋の前へ。
  ドアノブに手を触れ、回す。
  鍵は掛かってはいない──
声 「──坂道で会う予定だった」
新田「!!」
  声は真後ろから。
  振り返るべきか逡巡する新田、懐に忍ば
  した拳銃に手を延ばす──
少女の声「──直接、顔合わせて話せば信用
 してくれますか?」
新田「……え?」 
  ボイスチェンジャーで代えられたた声か
  ら、生の声に。しかもそれは若い少女。
  振り返る新田。
  そこには中学生の制服を着た少女(15)
  が、スマホを持って立っている──
少女「初めまして私が『試験官』です」
  ワザとスマホのアプリで声を代え、悪戯
  っぽく笑う少女。
大森の声「計画を立てる人、設計する人、部
 品を集める人、爆弾を作る人、現場に運ぶ
 人……立場を変えながら事件を起こした」

○ 神社・境内
大森「でも誰が、どの役割をしているのか。 
 全てを把握している人は誰も居なかったと
 思う……組織のようなリーダーがいて、命
 令があって……という形も無い──」
郁子「でも、色んな人が怪我をして傷付いて
 いたのに……」
大森「新聞で読んでも、ただの文字の上での
 結果に過ぎなかった……でも、傷付いて苦
 しんでいる人たちを直接見て、初めて気付
 いた──」
  項垂れながら語る大森を見つめる達也。

○ フラッシュ
  ブログ。
  SNS。
  電子掲示板。
  ニュースサイトへのコメント欄──
  『爆発しろ』
  『次に爆発するのはここ』
  『氏ね』
  ネット上の有名無名の書き込みが氾濫し、  溶解していく──
大森の声「──新聞に載っていたのは架空の
 人じゃなくて現実に生きている人たちで、 
 自分たちが罪悪感を感じない安全な場所か 
 ら見てただけだったんだ……」

○ 団地・部屋内
  連れ去られた日に来た部屋の中。
少女「──リーダー?」
新田「君がそうなんだろ?」
少女「ううん……いや……特にそんな人はい
 ないよ。私もアナタの『試験官』をしただ
 けだし」
新田「……何なんだ、君たちは?」
少女「『君たち』じゃなくて『私たち』ね」
新田「……」
  自分も仲間に入れられている事を思い出  
  す新田。
少女「──私も『試験』を受けて入っただけ
 なんですよ? ……今は『試験官』もやっ 
 てるけど、それ以外は他の人たち変わらな
 いしなぁ──あ」
新田「!」
  少女のスマホが震える。
少女「友達からです……爆弾は関係無いフツ
 ーの友達」
  と、言いながら返信を打つ少女。
  カラフルなデザインのスマホケース。
新田「…………」
  悟られないように拳銃に手を延ばす新田。
少女「──警察?」
新田「え!?」
少女「警察が来るかもしれなくて不安なんで
 すよね?」
新田「あ……ああ、うん」
少女「爆弾に指紋が残っていたとしても──
 前科とかはないんですよね? じゃあ、こ
 れから指紋を採られなかったら大丈夫だと
 思うけど……けど」
  と、学校の補助バックに入った、大量の
  マグボトルを新田の眼の前に出す。
少女「アリバイ……作っちゃいましょ?」

○ 路上
  とぼとぼ歩く郁子。
  達也が先を歩くが立ち止まる。
達也「──気にするな」
郁子「お祖父ちゃんの事、憎くないですか?」
達也「……」
郁子「時効になってるからって良いわけじゃ
 ない……でしょ?」
達也「もう、本人には思い出せないんだ……
 赦してやれ」
郁子「戸倉さんは良いんですか? ずっと捜
 して来たのに」
達也「──『草加次郎』を見つける事だけ考
 えて、かけずり回って……でも、見つけた
 らどうするか考えてなかった……」
郁子「……」
達也「(自嘲し)……もう、なにもできやし
 ない。とっくの昔に終わった事件だったん
 だよ……」
郁子「本当に戸倉さんは終われるんですか?」
達也「…………」

○ 洋食屋(夜)
  古い造りの下町にある洋食屋。
  しかし内装は清潔感がある。
肇 「──信じられないな」
達也「別に信じなくてもいい」
肇 「……じゃあ、なんで話したの?」
達也「捜査報告」
肇 「俺は父さんの上司じゃ無いよ……」
  黙々とハンバーグを食べる達也。
肇 「誰もが罪を犯す可能性がある……」
達也「そんなもん……当たり前だ」
肇 「でも……簡単には信じられないじゃな
 いかな。自分の身近な人が犯人だって」
達也「そうだな……刑事でもな」
肇 「…………」
  肇、ポークジンジャーを食べる。
  猫背で食べる二人。
  良く似ている。

○ 中学校・体育館(夕方)
  がらんとした体育館。
  誰も残ってはいない。
  そこへ入って来るアキラ。
  下手の控え室を抜け、壇上に出て来る。
  中央には演台。
  裏を覗き込むとメモ。
  溜息を吐いてメモを読むアキラ。
アキラ「……?」
  そこには何も書かれておらず白紙。
  周囲を探すが特に何も無い。
  仕方なく壇上から、軽く飛び降り体育館  
  を去ろうとしいるとアキラの背後、上手 
  から少女が演壇の前へ──
少女の声「──私が爆弾を爆発させました」
アキラ「!?」
  驚き振り返るアキラ。
少女「爆弾が爆発した時、あなたを見てまし
 た──あなたは私の仲間です……」
アキラ「……」
  アキラに微笑みかける少女。

○ 河原
  人気の無い河原。
  ペンキの剥げたボートに、マグボトルを  
  一本乗せて蹴るアキラ。
  ボートはゆっくりと河を流れていく。
少女「……十、九、八──」
  川面を漂うボートを見つめる二人。
少女「……二……一……」
  ──ドン!!!
  と、爆発するマグボトル。
アキラ「本物……」
少女「でしょ? ──あのさ、三年生っても
 う、卒業じゃん? 今月で。だからさ……
 引き継いでくんないかな……後輩くん?」
  ボートは爆発で船底に穴が開き、ゆっく  
  りと沈んでいく──

○ 新田・自宅
  マスクをして爆弾を作る新田。
  炸薬に使う火薬や薬品などを別けるのに、  専用のビーカーなど無く料理に使うボー  
  ルや、茶碗を使っている。
  何本ものマグボトルが並んでいる。
  その中に炸薬を仕込み、タイマを付けた  
  信管を設置する。
少女の声「──私が東京中に爆弾を置いて爆
 発させます。その間、アリバイを作ってお
 いて下さい」
新田の声「──時限式だと……アリバイの意
 味が無くなるんじゃないのか?」
少女の声「駅とかデパートとか……定期的に
 見回りが来る場所ってあるじゃないですか? 普段は避けてますけど、敢えてそういう所
 に置きます……でも、作るのに人手が必要
 なんで……協力お願いしますね」
  壁にはメモ。
  『14時1本 15時2本 16時2本 
  17時4本 18時……』
  メモの直ぐ横には家族写真や職場での写
  真。
新田「…………」
  笑顔で写っている自分や周囲の人物を見
  つめる……が、思わず写真を剥がし伏せ、
  作業に戻る。
  タイマを14時にセットし封を閉める。
  次は15時にセット──

○ 警察署・刑事部捜査一課(別日)
  デスクワークで爆弾事件の写真をファイ  
  ルしていく新田、特に表情に動揺したも
  のは無いが、以前のような明るさも無い。
  時計を確認する新田。
  『十四時十分』
肇 「……」
  新田の様子をふと見遣る肇。
智恵「──課長。お持ちしました」
  と、書類を持って来る智恵。
肇 「ありがとう──」
  電話が鳴る。
肇 「はい、戸倉…………わかりました」
  電話を切り立ち上がる。
  捜査員たちの視線が肇に集まる。
肇 「上野公園内で……爆発だ!」

○ 上野公園内(同時刻)
  救急車や警察車両が集まり始める公園入  
  り口。
  集まる野次馬の流れとは逆に、少女とア
  キラ出て来る。
アキラ「……成功」
少女「だね」
  少し昂揚した表情のアキラに対して、無
  言で微笑んでみせる少女──

○ 秋葉原電気街・路上(数十分後)
  秋葉原。
  電化製品店の店頭、見本のビデオカメラ  
  を通しアキラがモニターに映っている。
  ゆっくりとカメラに向かって舌を出す。
少女「……」
  少女の視線の先には警備員が店先を巡回 
  し、二階に上っていく。
少女「──行くよ!」
アキラ「は、はい!!」
  少女に急かされ、警備員が巡回していた  
  店先の隅にビニール袋に入れたマグボト
  ルを置くアキラ。

○ 同・ゲームセンター内
  騒がしいゲームセンター内。
  店員が両替機の調整を終えて立ち去る。
  アキラ、両替機の上にマグボトルを置く。

○ 同・路上(同日・十五時直前)
  ゲームセンターから出て来る二人。
アキラ「あと……十秒」
少女「どんどん行かないとね」
アキラ「八……七……」
少女「一日にこんな数こなすのって……やり
 すぎたかなぁ」
アキラ「五……四……三……」
  歩きながらカウントダウンするアキラ。
少女「──ま、大丈夫しょ」
アキラ「二……一……」
  二人の背後、出て来たゲームセンターの
  上階で爆弾が爆発しガラスが路上に降っ
  てくる。
  同時に前方の電化製品店の店先でも爆発、
  通行人が吹き飛ばされている。
  アキラが興奮し、前方と後方の爆発を交  
  互に見ては嬉しそうな声を出す。
アキラ「ハッ!! すげぇ!!」
少女「作ってもらった爆弾は完璧だよ……お 
 じさん」

○ 上野公園・路肩(同時刻)
  新田が運転する車内に肇や菊本、智恵ら 
  捜査員。
  公園に到着し降りようとする──
智恵「ちょっと、待って下さい!」
肇 「どうした!?」
  携帯電話をいじりながら答える智恵。
智恵「──十五時ちょうど頃、秋葉原で爆弾
 が爆発……しかも二つ同時のようです」
  携帯には、秋葉原の爆発を伝える書き込
  みがタイムラインを埋めていく。
  無線が鳴る。
無線「──本部から各局。110番。外神田、
 一の四の十一。万世橋電気店で爆発が発生。
 また、付近のゲームセンターでも爆発がお
 きている模様──」
肇 「──移動してる……?」
新田「…………」
肇 「秋葉原!」
一同「はい!」
  また、車に戻り急発進する肇たち。

○ 恵比寿・東京都写真美術館(同日)
  写真美術館のエントランス。
  壁面いっぱいを覆う巨大な写真の前を、
  通り過ぎる巡回中の警備員。
  その姿を見つめる少女とアキラ。

○ 渋谷(同時刻)
  ハチ公の銅像を見上げる英斗。
野村「ほらハチ公だよ」
英斗「はちこぅ?」
  ぽかんとする英斗を抱き上げる野村。

○ 秋葉原
  現場になった秋葉原の通り。
  捜査員たちが現場検証を始めている。
  店先で爆発した電化製品店とゲームセン  
  ター。
  それぞれを見遣る新田。
新田「……」
菊本「──なんか訊けた?」
新田「いや……特にはまだ」
菊本「俺も──」
智恵の声「また!」
  駆け寄って来る智恵。
智恵「今度は目黒と恵比寿!」
菊本「やっぱり移動してる……」
新田「時限爆弾だったら……前もって仕込ん
 でいた可能性もあるんじゃないんですか?」
智恵「そこのお店とゲームセンター、爆発直
 前に現場を見た店員が居たんだけど、その
 時は何も無かったって」
新田「……そうですか」
  思惑通りだが反応を気取られないようす
  る新田。
肇 「みんな……行くぞ」

○ 山手線沿道・路上(同時刻)
  山手線に乗った人たちは爆弾事件のツィ   
  ートを見て、打ち込んでいる。
  そんな電車が走る横の路上。
  恵比寿方面から渋谷に向かって歩くアキ  
  ラたち。
少女「──次は、ちょっと多いから手分けし
 てやろっか」
アキラ「ひとりで……僕もやるんですか?」
少女「うん。お願いできる?」
アキラ「……はい」
少女「うーん? ……ほら自信もって! 大
 丈夫。君ならできるから!」
  アキラの頬を両手で引っ張る少女。
アキラ「はひぃ! がんはりまふ……」
少女「よし! じゃあ急ごう!」
  と走り出す少女。
  まるで部活の応援をするような言葉。
  法を犯しているという事を微塵も感じさ
  せない笑顔──

○ 渋谷・スクランブル交差点
  スクランブル交差点の目の前。
  一人で立つアキラ、学校指定の補助バッ  
  グを抱えている。
アキラ「…………」
  人が多くすれ違う。
  その顔がアキラの視界に大量に入って来
  る。
  決して目立っているわけではないが、不
  安なアキラは無駄に周囲を警戒している。
  外国人観光客が、交差点を記念撮影しよ
  うとしているの気付き慌ててフレームか
  ら出て行く。
  時計は『15:55:13』
  爆弾を置く場周を捜し始めるアキラ。
  しかし、なかなか決心がつかない──
  駅前の売店。
  店員が入れ替わりで中に入る。
アキラ「…………」
  周囲を警戒しながら売店の扉の前に、ゆ  
  っくりとマグボトルを入れたビニール袋
  を置き、立ち去ろうとするアキラ。
  安堵から少し表情が緩む。
野村の声「──ちょっと」
  呼び止められ、振り向くアキラ。
野村「これ……君の?」
  英斗と手を繋いだ野村がマグボトルを持  
  って立っている。
アキラ「あ……えっと……」
野村「違った?」
アキラ「いや……それは……違います……」
野村「そっか失礼……英斗、交番に持ってい 
 こうか」
英斗「こーばん行くの?」
野村「そう。はい」
  と、英斗にマグボトルを持たせる野村。
アキラ「!?」
  笑顔の英斗、そして爆弾……
英斗「こーばん。こーばん──!?」
  無理矢理マグボトルをアキラに奪い取ら  
  れてしまう英斗、勢い倒れてしまう。
英斗「いたいよ!!」
野村「! おい!? なにするんだ!」
アキラ「…………ッ!」
英斗「!」
  アキラと視線が合う英斗、血走った眼球
  で睨むアキラに反射的に怯え、泣き出す。
英斗「うぇーん!!!」
  逃げるように歩き出すアキラ。
野村の声「待ちなさい!!」
  野村から逃げるように人込みに混じるア
  キラ。
  人、人、人……
  『15:59:41』
  混乱の中、時間だけが迫る。
  アキラは人込み中、密集した足元を滑ら  
  せるようにマグボトルを投げ入れると回  
  転しながら人込みを滑っていく──
中年男性「──痛ッ!!?」
  投げたマグボトルが通行人の脚に当たる。
  その場から少しでも離れようと無視して  
  歩いて行くアキラ。
────────────────────
  英斗を立たせる野村。
野村「ほら英斗。もう、泣かないの」
達也「──どうした?」
野村「あ」
  達也がやって来る。
野村「ちょっと若いのに転ばされて……」
  泣き止まない英斗に顔を近づける達也。
達也「泣くな。男だろ?」
  次の瞬間──
  爆弾が爆発する!
達也「!?」
  足元に投げ入れたので、脚を怪我した人  
  たちが倒れている。
野村「なッ!? 爆発!!?」
  英斗をしっかりと抱き締める野村。
達也「…………」
  騒然とした現場を見つめる達也。
  人々が呻き苦しむ姿を見つめるアキラの
  表情に、暗い笑みが自然がうかんでくる。
アキラ「…………」
  混乱している現場の中、ふと誰かの視線
  を感じるアキラ視線を移すと──それは
  達也の視線。
  数十メートルも離れており人々が交差す  
  るが、視線が合うアキラと達也。
アキラ「…………」
達也「……草加……?」
  世界が一瞬、無音に感じられる──
  真顔に戻るアキラ。
  次の瞬間には奔りだし、人並みと渋滞す
  る車をすり抜け必死に逃げる。
達也「どいてくれ! 待て!! 行くな!! 
 お前は……草加次郎なのか?!」
  爆発で混乱した人々の流れに消えていく  
  アキラ──

○ 宮崎家・京介の部屋(同時刻)
  ぼんやりとテレビ画面を見つめる京介を
  睨む郁子。
郁子「……なにも憶えてないの?」
京介「…………」
  無反応。
  声が心まで届いていない。
郁子「なんで……どうして? ねぇ!!」
京介「…………」
  京介の身体を揺するが無反応。
郁子「……信じてたのに」
  俯き、涙ぐむ。
  テレビの画面が切り替わり、爆弾事件の
  現場が映る。
  地面には血が広がっている──
京介「……」
郁子「何も感じない? ……思いださない?」
  京介、郁子の方に顔を向け微笑む。
京介「……君の名前……、な、何ですか?」
郁子「郁子……」
京介「い……い、いくこ? ……そ、そうで
 すか……私のま、孫と……お、同じです」
郁子「……バカ……バカ……」
  涙を流す郁子にニコニコと微笑む京介。

○ 車内(同時刻)
  車を運転する新田。
無線「──本部より。各局。110番。渋谷 
 管内、爆発が発生したとの通報、複数あり
 ……現場、トラブルになっていた人物の目  
 撃情報有り。人着(人相着衣)詰め襟の学
 ラン、やせ形、黒いバッグ──」
智恵「学生が犯人?」
新田「…………」
  肇、新田の反応を伺う。
無線「……緊急配備発令。くり返します、渋
 谷管内──」

○ 渋谷・繁華街
  繁華街の通りを奔るアキラ。
  誰に追われいるわけではないが、現場か  
  ら少しでも離れたい一心で止まれない。
アキラ「ハァ! ハァ! ハァ!」
  奔りながら、学ランを脱ぎバッグに詰め
  込みワイシャツ姿になる。

○ 渋谷・路肩(同日・夕方)
  車を路肩に停めて、飛び出して来る新田
  たち捜査員、皆バラバラの方向に走り出
  すが、
肇 「──新田!」
新田「……はい」
肇 「大丈夫か……?」
新田「……はい、今度は捕まえます」
肇 「…………無理をするなよ」
  無言で頷き走り出す新田。
  その姿を見つめる肇──
肇 「……」
達也「(オフ)肇?」
  振り返る肇、そこには達也と野村と英斗。
肇 「え……なんでここに?」
達也「コイツにも草加次郎の件、報告しとこ
 うと思って、待ち合わせてたんだ」
野村「私たちは大丈夫だったけど……」
  と、言葉を濁す。

○ 渋谷・駅前
  怪我人は既にいないが、ところどころに   
  血溜まりが広がる渋谷駅前。
肇 「……何でこんな事を……」
達也「……笑ってたよ──何人も、何十人も
 血まみれで苦しんでる人たちを見て……あ
 いつ笑ってやがった……」

○ 同・路地裏
  繁華街の裏路地。
  詰め襟の学生たちが警官に話しを訊かれ  
  ている。
アキラ「────」
  物陰から見つめるアキラ。
  そのまま雑居ビルに入っていく。

○ 同・雑居ビル屋上
  エアコンの室外機が並び、煤けたビルの
  屋上。
  隣とほとんど隙間無く建てられている、
  繁華街のビル群。
  しかし、微妙な距離の隙間に躊躇うアキ
  ラ、眼を閉じビルからビルを跳ぶ!
アキラ「痛ッ!!」
  着地に失敗し、受け身をとれずに身体を
  ぶつけるが移動する事に成功する。
  智恵や肇たち捜査員がアキラを捜す街角。
  そんな街を見下ろしながらアキラは、ビ  
  ルからビルに移動を続ける。

○ 同・ラブホテル屋上
  屋上も段々と日が暮れ始め、ラブホテル
  の看板に照明が灯る裏で、アイホンを弄
  りながらアキラを待つ少女。
アキラ「(オフ)菅野さん!」
  そこへアキラが飛び降りて来る。
少女「おそーい」
アキラ「……警察が──」
少女「曽我部くんが特定されたわけじゃなく
 て、学生服姿の怪しい男が、現場にいまし
 たレベルだからダイジョーブ。ダイジョー
 ブ! 『試験』も合格で、私も安心して卒
 業できるよ……」
アキラ「ダメなフラグ立ってません? その
 言い方……」
新田の声「──ソカベくん?」
芽以・アキラ「!?」
  思いがけず現れた新田に驚く。
芽以「──来ちゃったんですか? せっかく
 アリバイつくってるいうのに……」
新田「……もう充分だろ」
芽以「まだ、18時のが残ってますよ?」
  と、バッグを持ち上げる芽以。
新田「『試験』は顔も名前も晒さずにやるん
 じゃないの? ……カンノさん」
芽以「聞かれちゃいましたか……本名」
  突然、拳銃を芽以に向ける新田。
アキラ「!? 本物……?」
芽以「警察?」
新田「驚かないな?」
芽以「色々な人が参加してますから……こな
 いだ、爆弾を回収された人いたじゃないで
 すか? えーと……おじさんが作ってくれ
 た爆弾を使った人。あの人なんかはネット
 で、人命救助した時の事を書いてたんです
 けど……ああいう時に慌てずに人名救助を
 できるのって、結構慣れている人じゃない
 とダメじゃないですか? だから、仕事で
 もやってる人なんじゃないかなぁ……多分」
新田「……俺の事も?」
芽以「いいえ……でも、命を救う仕事の人が
 爆弾を使って、人が苦しんでいるのを見て
 悦ぶんだから……警察の人がいても別にお
 かしくないでしょ?」
新田「……」
  芽以の指摘に思わず言い淀む。
  時計を確認する『17:23:49』
新田「──入りたくて入ったんじゃない……
 お前らを捕まえる為に近づいたんだ」
芽以「そうだったんですか……それは気付か
 なかったです」
アキラ「ぼ、僕らを……逮捕するんですか?」
新田「…………」
芽以「私たちが捕まっちゃったら……オジさ
 んもマズいんじゃないですか?」
新田「お前が……無理矢理、爆弾を使わせた
 んだろ!?」
芽以「……彼、曽我部アキラくん」
新田「あ……?」
芽以「後輩なんですけど『試験官』を引き継
 いでもらいます。私たちってリーダーもい
 なくて、テキトーな感じですけど。一つだ
 け絶対決まっている事があって代々、同じ
 学校で『試験官』を引き継いでるんです」
新田「…………」
芽以「──まだまだ、未熟だとは思うんです
 けど。前に爆弾が爆発して怪我人が出た時
 ……それ見てアキラ君、良い表情してたん
 ですよ! それで決めたんです、彼に引き
 継いでもらおうって」
新田「……おかしいよ。お前」
芽以「同じ顔……してましたよ? おじさん
 が爆弾をゴミ箱に入れて……爆発した時」
新田「!!」
  インサート。
  銀座で爆弾が爆発した直後。
  流れる血。
  悲鳴。
  立ち尽くす新田──その表情はゆっくり
  と暗い笑みを浮かべる。
新田の声「嘘だ!!」
  現在。
芽以「あの時、観察してたんですよ。どんな
 反応するか……『試験官』ですから私」
新田「俺はお前たちとは違うッ!!」
芽以「──私が入るよりもずっっと昔。解散
 しかけたんです……で、それ以来、現場で
 苦しんでる人を見ても辞めない人……てか、
 辞められない人が合格になってきたんです」
新田「違う……そんな事……無い──」
  芽以、拳銃に怯まず新田に近づく。
新田「止まれ! ……近寄るんじゃ──」
芽以「チカラがあるんですよ……捕まること
 なく、自由に使えるチカラ……本当に捨て
 られるんですか?」
新田「────」 
  ただの中学生女子では無い芽以の雰囲気
  に圧倒される新田。
芽以「あの時……今の私と同じ顔で、笑って
 ましたよ」
  笑みを見せ新田の頬に優しく触れる芽以
  に慄然とし思わず腰が抜ける新田は、ひ
  きつけを起こしたように震える。
新田「あ──どうして……か……」
芽以「ずっと一緒に……やっていきましょう」
  拳銃をゆっくりと受け取ろうとする芽以  
  我に戻り慌てて芽以と距離をとる新田。
  時計は『17:29:21』
新田「ち……近づくな!」
芽以「撃てませんよ」
新田「動くんじゃない……う、撃つぞ!!」
アキラ「菅野さん!」
  芽以、立ち止まる。
新田「そんなに言うなら……使ってやるよ。
 そのチカラ……だけど、俺だけの物だ」
芽以「警察やりながら、爆弾犯もやるんです
 か? ……楽しそうですね」
  笑顔で返す新田。
  『17:29:44』
芽以「時間……気になるんですか?」
新田「…………」
  無言で笑いあう二人。
  時計が『17:30:00』
新田「──ッ!!!」
  思わず眼を閉じる。
  ──が、爆発は起きない。
新田「…………」
  眼を開けるがそこには変わらず芽以とア  
  キラの姿がある。
  バッグから爆弾を取り出し。
芽以「これだけ。予定時刻が三十分早かった
 ですよ?」
新田「!」
芽以「それに火薬の量も多いし……気付かな
 かったら私、死んじゃいましたよ?」
アキラ「僕たちを殺して。全部僕たちのせい
にするつもりだったのか……?」
新田「────」
  緊張の糸が切れ、踞ったままの新田。
  芽以とアキラは屋上から階段へ、去り際。
芽以「『合格』は取り消しです……さよなら」
新田「…………」
  去る芽以。
  薄闇にスマホの光だけが少し残り、それ
  も消えていく──取り残される新田。

○ 渋谷・路肩(同日)
  車に戻った新田。
  他の捜査員たちは戻っていない中、独り
  運転席で惚けていると携帯電話に着信。
新田「もしもし……うん、仕事中……大丈夫
 だよ。ああ、母さんに聞いたよ……おめで
 とう。いやホントに」
  日が翳り、人通りが少ない道。
  時折人が通るぐらい、ギターを背負った  
  若者が通り過ぎ、ママチャリに乗った中 
  年女性が通る。
新田「また、今度飲もうよ……うん、うん」
  空いてる手で顔を覆うように話す。
  カタ、という物音に気付き視線を外に向  
  けると、ママチャリに乗った中年女性が
  通り過ぎていく。
新田「うん、式も出るよ休みとるから……大
 丈夫だから──」
  視線の先には、ボンネットの上にはマグ
  ボトルが一本置いてある──
新田「………………」
  マグボトルが爆発する。
  それは今までの爆発より大きく、乗って  
  いた新田を完全に巻き込む。
  更にガソリンに引火し誘爆する──
  徐々に人があつまってくるが、近寄れる
  状況ではない。
  炎は燃え上がり、誘爆の音が響き続ける。

○ 豊島区椎名町・戸倉興信所・表(数日後)
  扉を躊躇いがちに叩く郁子。
  しかし反応が無いので、少し強く叩く。
  郁子の後ろから。
達也「メールしてから来い」
郁子「……驚かせようと思って」
  微笑む郁子を一瞥する達也。

○ 同・内
  郁子から預かっていた京介のアルバムや
  歌集を、纏める達也。
郁子「老人ホームに入る事になりました」
達也「そうか……」
郁子「もう、ニコニコ笑ってるだけで。私が
 誰かも判らないみたいです……」
達也「……人には色んな顔がある。いつでも
 誰にでも同じ顔なんてヤツはいないんじゃ
 ないか? ……孫に優しかった顔も本当だ
 ろうし、教師としての顔も、事件に関わっ
 たのも……どれも彼の顔だったじゃないか
 な……」
郁子「…………」
達也「この間、初めて墓参りして来たよ……」
郁子「……誰のですか?」
達也「『草加次郎』と間違えて逮捕した人の
 墓……でも。結局なにも言えなかった……
 もう償う事も、何もできやしないんだ」
  俯く達也、言葉に詰まる。
郁子「…………」
  黙って携帯でメールを打ち始める郁子。
  直ぐメールが達也に届く。
達也「?」
  メールを見る達也。
郁子「たまには、そんな顔もして下さい……
 人は色んな顔を持ってるんでしょ?」
達也「────」
  ぎこちなく笑顔をつくろうとする達也。
郁子「ふふ!」
  思わず吹き出す郁子に、元の表情に戻る  
  達也。
達也「笑うな」
郁子「(オフ)ごめんなさい!」
  郁子からのメールには笑顔の顔文字。
  ──机の上、纏められた京介の荷物の中。
  『都立青柳中学校 昭和三八年度卒業ア
  ルバム』

○ 都立青柳中学校・渡り廊下(卒業式)
  『都立青柳中学校 卒業式』
  渡り廊下に出て来る卒業生たち。
  その中には芽以の姿も──
アキラ「…………」
芽以「…………」
  見送る、アキラに微笑む芽以。
  目礼を返すアキラ。
女子生徒「芽以!!」
芽以「ちょっと泣かないでよ! もう──」
  周囲と変わらず普通の女の子な芽以。

○ 警察署・捜査一課
  雅子から鍵を預かる肇。
肇 「──ありがとうございます」
雅子「いえ……こちらこそ、色々とお世話に 
 なりました……」
  深々と頭を下げ出て行く新田雅子(50)
菊本「──どなたですか?」
肇 「新田のお母さんだ……」
菊本「あ……マサコさん」
肇 「なんで名前知ってる?」
菊本「…………」
  雅子の小さく、寂し気な背中を見送る。

○ 新田自宅
  新田の部屋の中。
  主が居なくなった部屋で立ち尽くす肇。
  台所で乾かされている、ボールや食器。
  部屋干しの洗濯物。
  なんの変哲も無い部屋──
智恵「──特に無しです」
肇 「ああ……」
智恵「一応、鑑識も入れますか?」
肇 「……いや、いい」
  伏せられていた写真。
  捲るとそこには新田の家族写真。それと  
  肇たちと職場で撮った写真が。
肇 「…………」

○ 繁華街・路上(同日)
智恵「──新田の事、調べてたんですね」
  街を歩く肇と智恵。
肇 「部下を信用してない。ダメな上司だな」
智恵「可能性は一つずつ潰していくしかない
 ですよ」
肇 「…………」
  街中には色々な人々がいる。
  男性、女性。
  幼児、十代、青年、壮年、老年期。
  スーツ姿、外国観光客、ホームレス。
  笑顔、疲れた表情、なにか怒っている様  
  な顔──

○ 病院・病室
  患者に微笑みかけながら血圧を計る杉原。

○ 中学校・校門前
  笑いながら記念撮影を同級生たちとして  
  いる芽以。

○ 宮崎家・庭
  庭でニコニコ笑いながら誰もいない方角
  に、お辞儀をする京介。

○ 中学校・教室
  携帯でメッセージを打っているアキラ。
  『次はどこにしますか?』
  アキラの書き込みに、続々とタイムライ
  ンに返信が書き込まれる。
  同級生の前では、決して見せない笑みを
  浮かべるアキラ。

○ 繁華街・路上
  街の人々を見つめていた肇。
肇 「…………」
  歩き始める。
  人々が談笑する声は雑踏に紛れ、言葉の
  意味を失い消えていく──   (終)

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