魔法使いのTea Party ファンタジー

間木ノ町に住む三人の魔法使い…ミケ、クロ、トラ。 彼らはひょんなことから、カツアゲされていた男子高校生・間宮ワタルと知り合う。 困っている人は放っておけない。そんな魔法使いたちが、ワタルのために一肌脱ぐ。
小野響 3 0 0 01/21
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第一稿

○登場人物○
間宮ワタル…16歳・男・高校生
鮫田タマキ…18歳・男・高校生

ミケ…27歳・男・上級魔法使い
クロ…28歳・男・占術魔法使い
トラ…16歳・女・転移魔 ...続きを読む
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○登場人物○
間宮ワタル…16歳・男・高校生
鮫田タマキ…18歳・男・高校生

ミケ…27歳・男・上級魔法使い
クロ…28歳・男・占術魔法使い
トラ…16歳・女・転移魔法の天才

明石ユキハ…16歳・女・ワタルの幼馴染

タマキの取り巻きたち


○本文○
『エピソード:勇気の魔法』

s#1 実景・間木ノ町・夕方
ワタルM「昔、おばあちゃんがよく話してくれた。この町には、助けを求める人に救いの手を差し伸べる…魔法使いがいるって…」

s#2 間木ノ町商店街・路地裏
間宮ワタル(16)、バケツいっぱいの水をかけられる。
不良1、バケツを放り捨てる。
不良たちのリーダー、鮫田タマキ(18)がワタルに歩み寄る。
タマキ「ワタルくん。目、覚めた?」
ワタル「……」
タマキ、千円札をヒラヒラと弄ぶ。
タマキ「さっきの言葉は、寝ぼけてたってことで水に流してやるからさ」
ワタル「ですから…今は手持ちがそれだけしかなくて…」
タマキ「んー?まだ寝ぼけてんのかな?」
タマキの取り巻きである不良1と2が、ワタルの両腕を掴み動けないように抑えつける。
タマキ、ワタルの腹に膝蹴り。
ワタル「がっ…!」
タマキ「イライラさせんなよ。約束は最低一万だ。別にいいんだよ?そっちが約束破るっていうなら…またあの子のところに行くだけだから」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるタマキと、クスクス笑う取り巻きたち。
ワタル、顔を上げ、タマキを睨みつける。
タマキ「ちっ…。イライラするなぁ。お前」
タマキ、足元に転がっている角材を拾い上げる。
タマキ「しつけてやるよ」
タマキ、角材をワタルの頭に振り下ろす。
ギュッと目を閉じるワタル。
ワタル「……え?」
ワタルが目を開けると、角材はワタルにぶつかる寸前でピタリと止まっている。
動揺するタマキ。
タマキ「あ!?…なんだ、これ…!動かねぇ…!?」
そこに姿を現わすミケ(27)。
ミケ「なぁにやってんだ?」
ミケの手にはめられた指輪がキラリと光り、タマキの手が角材から弾かれる。
タマキはその反動で尻餅をつく。
タマキ「なんだ今の…」
不良1がワタルから手を放し、ミケに詰め寄る。
不良1「なんだよアンタ」
ミケ、不良1を無視してワタルの方を見る。
ミケ「おい、大丈夫か?」
ワタル「え…。あ、はい…」
不良1「シカトしてんじゃねぇよ!」
不良1がミケに殴りかかるも、ミケはその拳を難なく受け止めて捻り上げる。
不良1「いって!いてぇよ!!放せ!!」
ミケ「お前らだな?最近この辺りで噂になってる悪ガキってのは。高校生なら高校生らしく、部活とか恋とかに燃えてろっての」
不良2、ワタルから手を放し、
不良2「ゴチャゴチャうるせぇんだよ!放せや!」
ミケに殴りかかる。
ミケ「ほい」
掴んでいた不良1の手を放して向かってきた不良2の方へ押しやる。
ぶつかってもつれ合い、転ぶ不良1と不良2。
ミケ、ワタルに近づき、顔の傷を見る。
ミケ「うん。大したことなさそうだな」
タマキ、角材を手に立ち上がり、背後からミケに殴りかかる。
ワタル「あっ…!!」
ミケの指輪がキラリと光る。
再び、角材が動きを止める。
タマキ「またかよ…!」
ミケ、振り向き、タマキを睨みつける。
ミケ「こんなもんで人殴ったら、危ねぇだろうが」
ミケのデコピンがタマキの眉間にクリーンヒットし、タマキはまた尻餅をつく。
タマキ「くっそ…!お前ら、行くぞ!」
タマキと取り巻きの不良二人はそそくさと逃げて行く。
呆然と立ち尽くしているワタル。
ミケ「おい」
ワタル「は、はい!」
ミケ「ちょっと寄ってけよ」
ワタル「え?」
ミケ「風邪引いて堂々と学校休みたいなら別にいいけどな」
ワタル、歩いて行くミケの後を追って路地を出る。

s#3 カフェ『またたび』・外観
レトロな雰囲気漂う喫茶店。

s#4 同・店内
ドアが開き、カランコロンとベルが鳴る。
ミケ「帰ったぞ〜」
店内を見回すワタル。
昔ながらの喫茶店といった落ち着いた雰囲気の店内。客も店員もいない。
ミケ「あれ?あいつらどこ行ったんだ…。あ、適当に座っとけ」
ワタル「は、はい…」
ワタル、少し戸惑いながら、カウンター席に座る。
ミケはカウンターの内側に入り、奥の部屋に入る。
一人残されたワタル。
壁掛け時計の振り子の音。
着信音。
ワタル、鞄からスマホを取り出す。
画面には『明石ユキハ』からの着信と表示されている。
ワタル、留守電ボタンを押し、ため息をつく。
いつの間にかワタルの隣の椅子に座っているトラ。
トラ「出なくてよかったの?」
ワタル「うわぁ!!?」
驚いた拍子に椅子から転げ落ちるワタル。
トラはそれを見て笑っている。
トラ「ごめんごめん。ビックリした〜?」
ワタル「いつの間に…?」
カウンター奥の扉が開き、ミケとクロが出てくる。ミケの手にはバスタオル。
ミケ「はいはい。片付けるって。明日」
クロ「そう言って、いつも片付けないじゃないですか」
トラ「あ。ミケっち、帰ってたんだ。おかえり〜」
ミケ「トラ!お前、どこ行ってたんだ?」
トラ「ちょっとそこまで」
ミケ「店番してろよ」
トラ「だって、お客さん全然来ないから暇だったんだもーん」
ミケ「ったく…。あれ?あいつは?」
クロ「誰のことですか?」
ワタル、立ち上がる。
ミケ「あ、いた。何してんだ?」
ワタル「いや…これは…」
ミケ「ほれ」
ミケ、タオルをワタルに投げ渡す。
ワタル「ありがとうございます」
クロ「ミケのお知り合いですか?」
ミケ「まぁ、ちょっとあってな」
ミケ、カウンターの外へ出て、ワタルの肩に右手を添える。指輪が光り、ワタルの服がたちまち乾く。
ワタル「え!?」
ミケ「あとは髪拭いとけ。クロ、コーヒー」
クロ「はい」
ワタル「今…!な、何をしたんですか…?服が…」
ミケ「乾かしたんだよ。パンツまでパリッとな」
ワタル「どうやって…」
トラ「魔法だよ」
ワタル「え…?魔法…?」
ミケ「俺たちは、魔法使いだ」

s#3 タイトル
『魔法使いのTea Party』

s#4 同・店内
ワタルの目の前に差し出されるコーヒー。
クロ「当店自慢のブレンドです。どうぞ」
ワタル「いただきます。…美味しい!」
微笑むクロ。
クロの紹介【クロ:26歳:占術魔法の使い手】
トラ「ねぇ、どうしてビショ濡れだったの?ねぇねぇ」
興味津々で顔を近づけるトラ。
ワタルはあまりの近さに、照れたように顔を背ける。
首を傾げるトラ。
トラの紹介【トラ:15歳:転移魔法の天才】
ミケ「そいつ、すぐそこの路地でカツアゲされてたんだよ」
トラ「カツアゲ?」
クロ「物騒ですね」
ミケ「ついこの間、佐々木んとこのばあちゃんが言ってたろ?ガラの悪い高校生がウロウロしてて怖いって。多分あの三人組のことだ」
ミケの紹介【ミケ:25歳:上級魔法使い】
ワタル「あの、先ほどは助けていただいて、ありがとうございます…。でも、びっくりしました。本当に魔法使いがいたなんて…」
ミケ「そう言う割にはすんなり受け入れたよな」
ワタル「昔、おばあちゃんがよく話してくれたんです。この町には、人助けをする優しい魔法使いがいるって」
ミケ「お前、名前は?」
ワタル「間宮ワタルといいます」
ミケ「間宮…間宮…。聞いたことないな」
クロ「もしかしたら、お師匠様のことかもしれませんよ?」
ミケ「ああ」
ワタル「お師匠様?」
ミケ「俺たちの前に、この町に住んでた魔法使いだ。この店も、お師匠からもらったんだ」
カウンター内の棚に飾られている一枚の写真。
そこには、まだあどけなさの残る少年時代のミケとクロ、白髪の少年と、美しい女性の姿が写っている。
ワタル「綺麗な人ですね」
ミケ「滅茶苦茶おっかねぇけどな」
クロ「ミケが怒らせるようなことばかりしていたからでしょう?」
トラ「ボクも会ってみたいなぁ。今どこにいるんだっけ?」
トラ、角砂糖を積み木のようにして遊んでいる。
ミケ「さぁな」
クロ「旅好きな方で、しょっちゅう店を空けていましたからね。今頃どこにいるのやら…」
クロ、ミケの前にコーヒーを差し出す。
ミケ「それよかお前、どうしてカツアゲなんてされてたんだ?」
ワタル「それは…」
ミケが指先を動かし、トラが積み上げていた角砂糖を浮遊させてボトボトと大量にコーヒーの中に入れ、手で触れずにスプーンを動かしてかき混ぜる。ジャリジャリと音がする。
クロ「よかったら、話してみてくれませんか?力になれるかもしれませんし」
ワタル「…はい…。三週間くらい前のことです…」

s#5 線路沿いの道・夜(回想)
ひとり歩いているワタル。
ワタルN「始めは、単なる噂だと思っていました。上級生の中で、後輩ばかりを標的にして、カツアゲをしている人がいるって…」
ふと足を止めるワタル。
視線の先には、高架下でタマキとその取り巻きの不良二人が誰かを囲んでいる。
ワタル、物陰からその様子を覗き見る。
タマキたちに詰め寄られているのは、ワタルの幼馴染である明石ユキハ(16)。
ワタルN「標的にされていたのは、僕の幼馴染みでした…」
ユキハがワタルに気がつき、目が合う。
後ずさるワタル。その時、足が転がっていた空き缶に当たってしまう。
振り向くタマキたち。
一目散に駆け出し、その場から逃げるワタル。
ワタルN「怖くなって、僕は逃げました…。どうしたらいいのか、わからなかったんです…。その翌日…」

s#6 学校・朝(回想)
教室に向かうワタル。
その前に立ち塞がるタマキと取り巻きの不良二人。
タマキ「ちょっと、いいかな?」

s#7 同・体育倉庫(回想)
ワタルに詰め寄るタマキ。
タマキ「昨日見たこと、誰かに話した?」
首を横に振るワタル。
タマキ「そうか。なら、よかった。もし誰かに話したら…わかるよね?」
タマキ、ポケットからナイフを取り出してワタルの頬に添える。
立ち去ろうとするタマキたちを呼び止めるワタル。
ワタル「あの!…誰にも言いません。その代わりに、あの子には、もう関わらないであげてください!」
タマキ「…あ?」
ワタルN「それからです…。僕は、あいつらの標的になりました」

s#8 カフェ『またたび』
俯き、暗い表情のワタル。
クロ「そんなことが…」
トラ「誰かに言っちゃえばよかったのに」
ワタル「無理ですよ…。そんなことすれば、どんな仕返しをされるか…。それに、後から知ったんですけど、リーダー格のタマキは表向きこそ優等生を演じていますが、裏の顔は、町中の不良を束ねる恐ろしい奴で…。僕なんかが逆らえるような相手じゃないんです」
ミケ、コーヒーを飲み干す。
ミケ「甘い!そういう奴は、一回ガツンと言わねぇと付け上がる一方だぞ」
ワタル「…わかってますよ。でも、いいんです。ユキハが無事なら、それで…。そのうち、あいつらも僕に飽きて…」
ミケ「そんで、また新しい標的が生まれればいいってか?」
ワタル「……」
ミケ「バーカ。甘すぎて聞いちゃいられないな」
クロ「ちょっと、ミケ…」
ミケ「そうだろ?お前は、幼馴染みを救った気でいるが、実際のとこはわかんねぇ。お前の知らないところで、まだいじめは続いてる可能性だってある」
ワタル「そんなこと…!」
ミケ「ないって言い切れんのか?」
ワタル「……」
ミケ「お前のしてることは、人助けじゃねぇ。ただ、逃げた罪悪感から背を向けてるだけだ。いつか悪夢が終わればいいなぁって、夢見てる。そんな生半可な覚悟で、人助けができるなんて思うな」
クロ「ミケ。いくらなんでも言い過ぎでは?」
ワタル「僕だって!…僕だって本当は、あいつらにガツンと言ってやりたい…。勇気があれば…。でも、どうしてもダメなんですよ。怖さが先に出てきて、身体が動かなくなって…」
クロ「ワタルくん…」
ミケ「なるほど。勇気があればいいんだな?」
ワタル「え?」
ミケ、カウンターの上に液体の入った小瓶を置く。
ミケ「こいつは、人呼んで【勇気の水】。飲めばたちまち身体の底から勇気が湧いてくる。貴重な魔法薬だ」
トラ「へー!こんな魔法の薬もあるんだ!」
ワタル「【勇気の水】…」
クロが何かを言おうとするのを、ミケが手を上げて止める。
ミケ「今日は特別だ。やるよ」
ワタル「え?」
ミケ「ただし、お前の意思がニセモノだったら、その薬飲んでも無駄だけどな」
小瓶をじっと見つめるワタル。

s#9 ワタルの部屋・夜
机の上に置かれた小瓶。
ワタルはそれを手に取り、蓋を開ける。
迷いを振り切るように頭を横に振って、小瓶の中身を飲み干す。
ワタル「……」
スマホを手に取り、電話をかける。
ワタル「…もしもし?先生。夜分遅くにすみません。…実は…」

s#10 学校・校門前・翌朝
登校していく生徒たちに混ざり、門をくぐるワタル。
ワタルのスマホに着信。
画面には『明石ユキハ』と表示されている。
電話に出るワタル。
ワタル「もしもし?」
タマキ『…おはよう。ワタルくん』
踵を返し、駆け出すワタル。

s#11 町中
必死に走るワタル。
タマキ『随分と調子に乗ったことしてくれたじゃん?イライラする…。今から指定した場所に来い。一時間以内だ。もし1秒でも遅れたら…このコと楽しいこと始めるからさぁ。あ。混ざりたいならゆっくり来なよ。歓迎するから。あははははは!』
ワタルM「ユキハ…!!」

s#12 廃工場
手と足を縛られ、身動きの取れないユキハ。
その周りには、数十人の不良たち。
腕時計で時間を確認するタマキ。
そこへ、息を切らせて駆け付けるワタル。
ワタル「ユキハ!!」
タマキ「おー。ヒーロー登場」
ユキハ「ワタル!」
ワタル「ユキハを放せ!」
タマキ「うるせぇ!…まったく。本当にイライラするよ。お前がチクったおかげで退学処分だってさ。どう落とし前つけてもらおうか」
ワタル「少しでもユキハを傷つけたら…」
タマキ「どうするっての?お前ひとりで。この人数相手にできる?」
ワタル「っ…!」
タマキ「助けを呼ぼうとしても無駄だよ?いくら叫ぼうが騒ごうが、ここは滅多に人も通らない。ケータイ、こっちに寄越せ。ほら早く」
不良1、ワタルの手からスマホを取り上げ、電源を切る。
タマキ、ゆっくりとワタルに近づき、ワタルの顔面を殴る。
地面に倒れるワタル。
ユキハ「やめて…!」
タマキ「あー、うるさい。そいつの口も縛っとけ。…で、ワタル。落とし前の話。どうしようか?二度と逆らえないようにボコボコにしてやろうかとも思ったんだけどさ。特別に許してやるよ」
ワタル「え…?」
タマキ「50万。現金で。明日までにもってこい。そんで、泣いて土下座しろ。そしたら許してやるよ」
ワタル「そんなの、無理に決まってるだろ…」
タマキ「えー?聞こえないなぁ?」
タマキ、倒れているワタルの腹を思い切り蹴り飛ばし、踏みつける。
タマキ「状況!わかってんのかよ!イライラさせんなっての!」
タマキ、しゃがんでワタルの髪を掴み、無理矢理顔をを上げさせる。
タマキ「それとも、死ぬほど痛い思いしなきゃわかんない?それは嫌だろ?ん?」
ワタル「………嫌…だ…」
タマキ「そうだろ?だったら…」
ワタル「お前らの言いなりになるのは…嫌だ…」
タマキ「は?なんて?」
ワタル「お前らクズの言いなりになんて、誰がなるか!バーカ!!」
タマキ「あー…。うん、うんうん。…じゃ、死ねよ」
タマキ、ナイフを取り出して逆手に構え、ワタルの腹めがけて振り下ろす。
目をぎゅっと閉じるワタル。
ワタル「……え?」
ナイフの刃先は、ワタルの腹に触れる寸前でピタリと止まっている。
タマキ「動かねぇ…?!」
不良1「タマキさん!あれ…!」
タマキ「あ?」
タマキ、不良1が指し示す方に顔を向ける。
ミケの手にはめられた指輪がキラリと光る。
ミケ、クロ、トラが光を背に立っている。
クロの掌の上には探知魔法の一種、波動の地図が展開されている。
ミケ「よっ」
ワタル「ミケさん…!?」
ミケ、ワタルに向けて親指を立てる。
ミケ「ナイスガッツ」
タマキ「お前…」
ミケが指先をクイッと動かすと、タマキの手からナイフが弾き飛ばされる。
驚きながらも、ミケをギロリと睨みつけるタマキ。
タマキ「あー…どいつもこいつも、イライラする!!…お前ら、やれ」
タマキが手下の不良たちに指示を出す。
不良たちがミケ、クロ、トラを十数人単位で取り囲む。不良たちの中には鉄パイプや金属バットを持っている者もいる。
ミケ「よくもまぁ、こんなに集めたな。…さて、始めるか」
不良のうちのひとりがミケに殴りかかる。
ミケはその拳を難なく受け止め、人差し指を相手の額に当てる。
ミケ「バン」
不良が仰け反り、気を失って倒れる。
どよめく不良たち。
ミケ「安心しろ。気ぃ失ってるだけだ」
金属バットを持っている不良がミケの背後から殴りかかる。
ミケ、右手を胸の前に構えて呟く。
ミケ「…『硬化』」
金属バットがミケの背中に当たると、鉄板を叩いたかのような音が鳴る。
不良はその衝撃で手が痺れてひるむ。
その隙に、不良の額に指先を当てるミケ。
金属バットが地面に転がり、不良が倒れる。
ミケ「おら。次だ」
ミケ、襲いかかってくる不良たちを『失神魔法』の指鉄砲で次々に返り討ちにしていく。
その様子を見ているクロ。
クロ「『硬化魔法』に『失神魔法』…。流石ですね。…さて」
にじり寄る不良たちに向き直り、手袋をはめ直すクロ。
クロ「こちらも始めましょうか」
不良たちがクロに襲いかかる。
クロのペンダントがキラリと光る。
クロ「…右パンチ、左の蹴り、鉄パイプ」
そう呟くクロに襲いかかってくる不良たち。
クロの予告通りに攻撃を仕掛けてくる不良たちをひらりと躱し、カウンターを叩き込んでいく。
カウンターを受けた不良たちが膝から崩れ落ち、倒れる。
クロ「おっと、すみません。久しぶりで加減が…」
その様子を見て笑うトラ。
トラ「クロっちカッコイー!よしっ!ボクも頑張ろ」
不良2「相手はガキだ!とっとと捕まえろ!」
トラを取り囲んでいる不良たちが一斉にトラを捕まえようと踏み出す。
ニヤリと笑うトラ。
不良たちの中にいたはずのトラの姿が消えている。
動揺し、辺りを見回す不良たち。
トラ「おーい!こっちだよ〜」
その声に顔を上げる不良たち。その視線の先には、積み上げられた木箱の上に立つトラの姿。
不良2「いつの間に…!?」
トラ、ポケットの中から液体の入った丸い小瓶を取り出し、不良たちの足元に思い切り投げつける。
瓶がパリンっと割れて、煙幕が出現。
煙を吸い込んだ不良たちが、痺れたように倒れていく。
トラ「ミケっち特製!痺れ煙幕!大成功♪」
嬉しそうにはしゃぐトラ。
ミケ「おいコラ!使うなら使うって言え!」
トラ「あ。ごめーん!えへ」
ミケ「ったく。まぁ、いいか」
ミケ、クロ、トラが相手をしていた不良たちは皆倒れている。
ワタル「す、すごい…」
タマキ「動くな!」
その声に振り向くミケ。
出口の側に立っているタマキ。ユキハの首元にナイフを構えて、人質にとっている。
ワタル「ユキハ!!」
ワタル、立ち上がり駆け出そうとするが、ミケがその肩を掴んで止める。
タマキ「妙なマネしやがったら、こいつを殺す!」
ワタル、ミケの手を振り払おうとする。
ミケ「待て」
タマキ「ほんと…イライラするよお前ら….。あー!イライラしてしょうがい!!いいか、お前ら全員、いつか必ず殺してやる!!誰も俺に逆らえないんだよ!」
高笑いしているタマキ。
ワタル「ミケさん!放してください!ユキハが…!」
ミケ「ちょっと待てって」
ミケの指輪がキラリと光る。
ミケ「よし…。行ってこい!」
ミケ、ワタルの背中を押す。
ワタルが超高速で移動し、高笑いしているタマキの顔面を思い切りぶん殴る。
タマキ、大きく後ろに吹っ飛ぶ。
トラ「やったー!」
クロ「『身体強化』ですか!」
ミケ「まぁな」
ワタル「え…?今…なにが…?」
ユキハ、涙を流しながら、ワタルにすがりつく。
ワタル、ユキハの口を縛っている布を解く。
ワタル「ユキハ…」
ユキハ「ごめんなさい…!ごめんなさい…。私が、ワタルのことをあいつらに教えたから…本当にごめんなさい…」
ワタル「謝らなきゃいけないのは、僕の方だ。あの日、ユキハを見捨てて逃げた…。ごめんね。ユキハ」
ユキハ「ワタル…」
ワタル「無事でよかった」
微笑むワタルと、泣きじゃくるユキハ。
その様子を見て微笑むミケ、クロ、トラ。

s#13 カフェ『またたび』外観・昼
数日後…。

s#14 同・店内
カウンター内でカップを磨いているクロ。
トラはソファに寝転んで漫画を読んでいる。
店のドアが開き、カランコロンとドアベルが鳴る。
クロ「いらっしゃいませー。おや?」
入り口に立つワタル。
ワタル「こんにちは」
ソファから身体を起こし、手を振るトラ。
トラ「やっほー!」
クロ「ワタルくん!どうぞ、お好きな席へ」
ワタル「あの、ミケさんは?」
クロ「ああ。今呼びますね」
クロ、店の奥の扉を開き、地下にいるミケに声をかける。
クロ「ミケー!お客様ですよー!」
ミケ、ひょこっと顔を出す。
ミケ「おー!ワタルか!」
ワタル「こんにちは。ミケさん」
ミケ「元気そうだな。怪我の具合は?」
ワタル「はい。おかげさまですっかり…」
ミケ「そいつは何よりだ。で?今日はどうした?」
ワタル「……ありがとうございました!皆さんに助けてもらったご恩は、一生忘れません!」
ミケ「んな大袈裟な」
ワタル「いえ。大袈裟なんかじゃありません。いくら感謝しても、し足りないくらいです。僕一人じゃ、ユキハを助け出すことなんてできませんでした…。それに、ミケさんがあの薬をくれたおかげで、僕は勇気を出すことができたんです」
ミケ「薬?何だっけ?」
ワタル「え?ほら、勇気の水ですよ」
ミケ「ああ!あれか!あれな、嘘だ」
ワタル「本当に、ありが…。…え?今、何て?」
ミケ「だから、嘘だよ、嘘。勇気の水なんて魔法薬はこの世のどこにも存在しねぇの。あの瓶の中身は、ただの水だ」
ワタル、混乱し、うまく言葉が出てこない。
トラ「あちゃあ…混乱しちゃったね」
クロ「ですね」
ミケ「おい。落ち着け」
ワタル「だって…、そんな…。僕はてっきり本当に…」
ミケ「ま、いいじゃねぇか。お前は自分の力で勇気を振り絞ったんだ。よく頑張ったな」
ワタル「…はい!」
火にかけているヤカンがピーっと高い音を鳴らす。
クロ「コーヒー淹れますね」
トラ「ボクも手伝う!」
クロ「ありがとうございます」
ミケ「クロ。トラには触らせんなよ?ぶっ壊すのがオチだ」
トラ「大丈夫だって!」
ワタル「あの!…実は、もう一つだけお願いがあるんです」
キョトンとするミケ、クロ、トラ。
ワタル「僕を、ミケさんの弟子にしてください!」
ミケ「断る」
ワタル「ええ!?あっさり!?ぼ、僕は真剣です!ミケさんのように一人前の男になりたいんです!」
ミケ「弟子は取らない主義だ」
ワタル「だったら、このお店で働かせてください!」
ミケ「却下」
ワタル「えっ!?どうしてですか?雑用でも何でもやりますよ!」
ミケ「ウチは今、バイト雇うような余裕はねぇんだよ。見ろ。休日の昼時だってのに、客ひとり来ねぇ」
ガランとした店内。
ワタル「…」
ミケ「それにだ。俺から言わせれば、お前はもう一人前の男だよ」
ワタル「どこがですか?ナヨナヨで弱っちくて…」
ミケ「バーカ。一人前の男にとって重要なのは、腕っぷしの強さなんかじゃねぇよ。好きな女を命がけで守ろうとする覚悟があるかどうかだ」
ワタル「好きな…。あ!いや!僕は、ユキハのこと…そういうアレではなくて…えっと…。ありがとうございます」
ミケ、微笑む。
ミケ「さて!昼飯の支度でもするか」
クロ「もうお昼過ぎてますしね」
トラ「え?ミケっち作るの!?チャーハン!?」
目を輝かせるトラ。
ミケ「おう。ワタル、よければお前も食ってけ」
ワタル「いいんですか?」
ミケ「もちろん。俺のチャーハンは幻の裏メニューだ。今回は特別割引価格にしといてやるよ」
クロ「あ!卵が足りないかもしれません」
ミケ「よし、トラ。おつかいだ」
トラ「えー!お腹空いて動けなーい」
ミケ「よしわかった。お前だけ昼飯抜きでいいんだな」
トラ「ええ!?ミケっちひどーい!」
言い合いを始めるミケとトラ。
双方をなだめるクロ。
そんな三人の姿を見て、思わず吹き出して笑うワタル。
ワタルM「この町には、魔法使いがいる」

s#15 同・外観
ワタルM「助けを求める声に応え、救いの手を差し伸べる。風変わりで、心優しい、魔法使いたちが…」

(了)

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