八ヶ岳の追憶 ドラマ

北杜市出身の主人公の田中正雄(45)は  東京の大学を卒業し、そのまま東京の商社  に就職。仕事一筋の人生を歩いて来たが、  家庭を省みず、田中の家族は崩壊寸前だっ  た。その果てに妻子と別居中。そして会社  から海外赴任の辞令が出ていたが、田中は  躊躇していた。  ある時、田中は北杜市に小学校の同窓会に   出席するために帰省し同級生達と再会する。  そこで、転校して来た不思議な女の子、  八神きよの記憶が蘇る。
緒方充林 11 0 0 12/21
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第一稿

人物
田中正雄(12)(45) 商社ビジネスマン
山下隆義(12)(45) 田中の同級生
角川光弘(12)(45) 田中の同級生
高橋素子(12)(44) 田中の同級生
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人物
田中正雄(12)(45) 商社ビジネスマン
山下隆義(12)(45) 田中の同級生
角川光弘(12)(45) 田中の同級生
高橋素子(12)(44) 田中の同級生

八神きよ(12)(45) 田中の同級生
山田紗代子(12)(45) 田中の同級生
安川菊枝(25) 田中のクラスの教師

生徒1

田中澄子(40) 田中の別居中の妻
田中彩香(15) 田中の別居中の娘
田中の母(70)
田中の父(75)
タクシーの運転手
お手伝いさん


○JR・小渕沢駅・ホーム
  電車が止まり、田中正雄(45)が降りて
  くる。空気を大きく吸い込む田中。

○同・玄関口
  タクシーに乗り込む田中。

○走るタクシーの中
運転手「今日は学校で何かあるんですか?」
田中「ちょっと同窓会があってね」
運転手「そうですか。最近はこの辺は子供も
 少なくなってしまいましてね・・・」
   無言のままの田中。
   
○泉小学校前
   「北杜市立泉小学校」のプレートが校
   門に掛かっている。タクシーが門の
   前に止まる。田中タクシーから降りる。
   田中はしみじみと校舎を眺める。



○同・体育館・中
  「泉小学校第三十五期卒業生同窓会」
  と書かれた横幕が掛けられている。
  体育館には大勢の人が集まっている。
  田中、体育館に入ってくるが少し躊躇
  し立ち止まる。二人の男が田中を見つ
  け、田中の方に向かって歩いてくる。
   山下隆義(45) と角川光弘(45)である。
   山下が田中に緊張しながら語りかける。
山下「田中正雄だよな。隆義だよ。山下隆義」
田中「隆ちゃん?」
   山下が角川の方を見て、
山下「そうだよ!こいつ光弘」
田中「光弘くん?」
角川「ほんと久しぶりだなあ、正雄」
   田中の顔が少し綻ぶ。
田中「久しぶり!」
山下「三十年振り位だぞ!お前生きてたか」
   その様子を見て、高橋素子(44)、山田
   紗代子(45)が寄ってくる。
素子「田中くん?」
田中「そうだけど・・・誰だっけ?」
素子「えっ?覚えてないの?素子よ」
田中「橋本素子?」
素子「そうそう!」
紗代子「田中君、久しぶりだね」
   田中が紗代子をじっと見る。
田中「あ、山田紗代子?」
紗代子「当たりー!」
田中「みんな元気そうだな」
   山下、角川、素子、紗代子はお互いに
   笑い合うが、田中は元気がない。
素子「どうしたの?田中君、元気なさそうね」
   田中は作り笑いで答える。
田中「そんなことないよ」
   × × ×

○東京新橋・オフィス街  
  
○オフィス・中
   田中がデスクワークをしている。
   部長が田中を呼ぶ。
部長「田中君!ちょっといいか」
田中「はい」

○会議室・中
  部長と田中が向かい合い座っている。
部長「あの話、正式に決まったよ」
田中「いつからですか?」
部長「来月早々には行って欲しい」
田中「しばらく考えさせていただけませんか」
部長「わかった」
   田中は部長に一礼して出て行く。

○マンション・田中の部屋・中(夜)
  田中澄子(40)、田中彩香(15)と田中が
  写った写真が飾られている。
田中が携帯電話をかけ、彩香が電話に
  出る。
田中「もしもし彩香か。お父さんだ」
彩香(声)「どうしたの?」
田中「元気か?」
彩香(声)「元気だよ」
田中「お母さんも元気か?」
彩香(声)「うん、元気」
彩香(声)「どうしたの?お父さん」
田中「お父さん、遠くに行くかもしれない」
彩香(声)「え?どういうこと?」
田中「お母さんに代わってくれる?」
彩香(声)「わかった」
   澄子が電話に出る。
澄子(声)「なんですか?」
田中「ちょっと話があるんだ」

○カフェ・中
  田中と澄子が向かい合い座っている。
田中「今、会社で海外赴任の話が出ていて
 どうしようかと考えてる」
澄子「どうぞお好きなように」
田中「申し訳なかったと思ってる」
澄子「・・・」
田中「もう一回やり直してくれないか」
澄子「あなたってほんといつも勝手ね。
 仕事仕事で私の彩香のことなんか全然かま
 ってくれたことなかったじゃないの」
田中「家族を大切にしなかった罰が当たった
 のかな」
澄子「・・・」
   × × ×

○ 泉小学校・体育館・中
   田中、山下、角川、素子、紗代子が話
   している。
山下「正雄はいま何してんだ?」
田中「いまは東京でサラリーマンしてるよ。
 お前らは?」
山下「そうか。俺は親父のコテージを継いで
 観光客相手になんとかやってるよ」
角川「俺は親父の畑、手伝ってんだ」
山下「こいつの作ったレタス、有名なんだぞ」
紗代子「私も北杜で住んでるよ。旦那は一学
 年上の近藤くんていたでしょ。あれが旦那」
田中「そうなんだ!近藤君の嫁さんか!」
素子「私は出戻りでいま独身よ」
   山下が素子をチラッと見る。
山下「俺も独身だけどな」
素子「いい年こいて情けないわね、あんたは」
山下「ほっといてくれ!お前こそおてんばす
 ぎて亭主に愛想つかされたくせに」
素子「うるさいよ!」
山下「でも、こうやって相変わらず俺たちつ
 るんでるよ。なあ光弘」
角川「そうだな」
素子「ねえ、ところでさあ。昔、クラスに、
 八ヶ岳の麓に住んでた女の子がいたじゃな
 い?」
山下「ああ、そういえば、いたな」
田中「いたいた」
角川「たしかきよちゃんって言ったな」  
田中「きよちゃんか・・・」

○ 泉小学校・教室・中
 タイトル「1985年」
 生徒たちが席に座っている。その中に
  田中正雄(12) 、山下隆義(12)、角川光弘
  (12) 、高橋素子(12)、山田紗代子(12)がい
  る。安川菊枝(25)が教壇に立っている。
  菊枝の横に、八神きよ(12)が立っている。
  白いブラウスを着て赤いスカートを履い
  ている。色の白い美しい少女である。
菊枝「今日は新しいお友達を紹介します。
 八神きよさんです。八神さんはお父さんの
 お仕事で、長野県から転校して来ました。
 みんな仲良くしてくださいね」
生徒たち「はい」
菊枝「八神さんの席は、田中君の横ね」
   きよは田中の横に座る。
きよが田中に挨拶する。
きよ「よろしくね」
   田中は少し照れながら答える。
田中「俺、田中正雄。よろしくな!」
   × × ×
   菊枝が授業をしている。
   黒板には複雑な算数の問題がいくつか
   書かれている。
菊枝「この問題、答えわかる人」
   紗代子が手を挙げる
菊枝「はい。山田さん」
   紗代子が黒板に答えを書く。
菊枝「そう。正解です」
菊枝「じゃあ、この問題わかる人」
   また紗代子が手を挙げる。
菊枝「じゃあ、山田さん」
   紗代子が黒板に回答を書く。
菊枝「惜しいけど間違いです。他にわかる人」
   きよが手を挙げる。
菊枝「八神さん」
   きよは黒板に答えを書き、その横に書
   かれている問題の答えも書いてしまう。
菊枝「八神さん、すごいわね」
   きよは微笑んでいる。
   きよを見つめる田中。
   不機嫌そうな紗代子。チャイムが鳴る。
菊枝「はい。今日はここまでです」  

○ 同・運動場
  田中、山下、角川が固まって歩いて
   いる。田中たちと少し離れて、素子、
紗代子が歩いている。
きよは一人で歩いている。
山下が田中に声を掛ける。
山下「今日何して遊ぶ?」
田中「探検しようぜ」
   素子はきよに声を掛ける。
素子「八神さん。一緒に帰ろ」
きよ「うん」
素子「八神さん、お家どこ?」
きよ「山の奥の方」
素子「へえー。また遊びに行っていい?」
きよ「いいよ」
素子「紗代ちゃんも行こ」   
紗代子「うん」
   紗代子は不機嫌そうに答える。
   
○ 同・教室・中   
   座る生徒たちの前に菊枝が立っている。   
菊枝「今日、八神さんの上履きが無くなりま
 した。」
   きよの足元は裸足である。
菊枝「でも、誰が隠したかは聞きません。
 あとで先生だけに教えてください」
  田中が声を上げる。
田中「山田、隠したのお前だろ!」
紗代子「違うよ!」
菊枝「田中君、やめなさい!」
生徒1「お前、八神のこと好きなんじゃない
 の?」
田中「そんなんじゃないよ!」
   うつむいている紗代子。

○ 八ヶ岳山麓の道
  リュックサックを背負った菊枝と生
  徒たちが歩いている。
  田中、山下、角川はふざけている。
菊枝「こら!田中君、ちゃんと歩いて!
 山下君も角川君も!」
   素子、きよ、紗代子も歩いている。
素子「きよちゃんのお家ってどのへん」
   きよは山の方を指差し、
きよ「あの辺だよ」
素子「あの辺って。山しかないけど」
紗代子「でも、八神さんて変だね。何考えて
 るのかわからないし」
素子「そんなことないよ。きよちゃんはいい
 子だよ。ちょっと不思議だけど」
   きよは微笑んでいる。
   その時、軽トラックが猛スピードで走
   ってきて、紗代子が轢かれそうになる。
   きよが紗代子の前に両手を広げて出る。
   きよの目がキラリと光ると軽トラック
   の向きが急に変わり道端の草むらに突
   っ込む。呆然とする紗代子。
きよ「紗代子ちゃん、大丈夫?」
紗代子「うん・・・」

○ 泉小学校・運動場
  素子、きよ、紗代子が歩いている。
素子「ねえ、きよちゃん、今日、お家に遊び
 に行っていい?」
きよ「いいよ」
素子「紗代ちゃんも行こ」
紗代子「うん」
   素子は、近くを歩く田中、山下、角川
   に声を掛ける。
素子「ねえ、今日、きよちゃんのお家に遊び
 に行くんだけど、あんたたちも来ない?」
山下「仕方ないなあ、行ってやるよ。な!」
田中・角川「おう」
   嬉しそうな田中。

○ 八ヶ岳山麓・山道
  山下、田中、角川、素子が歩いている。
  少し離れて、紗代子ときよが歩く。
山下「八神、まだかよ」
きよ「もうすぐだよ」
   紗代子がきよに語りかける。
紗代子「きよちゃん」
きよ「なに?」
紗代子「ずっと前、きよちゃんの上履き隠し
 たの私なの」
きよ「知ってたよ」
紗代子「え?」
きよ「後で下駄箱に入れてくれてたし、気に
 してないよ」
紗代子「ごめんね」
きよ「大丈夫だよ、早く行こ」
紗代子「うん」
   微笑み合う紗代子ときよ。

○ 同・山道
  遠くに大きな古い家が見える。
きよ「あそこが家だよ」

○ 八神家・門前
  立派な門を潜り、屋敷の玄関前にやっ
  ててくるきよと田中たち。
きよ「ちょっと待ってて」
   きよが家の中に入っていく。
   屋敷の周りには鬱蒼とした森が茂って
   いる。しばらくして、きよが家から出
   てくる。
きよ「どうぞ」
   田中たちは広く薄暗い屋敷の中を歩い
   ていく。人の気配がしない。
素子「お父さんとお母さんは?」
きよ「お父さんは仕事で、お母さんは今入院
 してるの」
素子「そうなんだ」
   きよに導かれ、田中たちは屋敷の奥へ
   と入っていく。きよが大きな襖の前で
   止まり襖を開けると広い座敷が現れる。
きよ「ちょっとこの部屋で待ってて」
   田中たちは正座をして大人しく待って
   いると、襖が開き、きよとお手伝いさ
   んたちが座敷に入ってくる。
   お手伝いさんたち立派な料理の乗った
   御膳を運んできて田中たちの前に置く。
きよ「食べて。八ヶ岳の山の幸だよ」
   田中たちは恐る恐る料理を食べるが
   その美味しさに感嘆する。
田中「すげえうまい!」
きよ「昔はみんな遊びに来てくれたのに、
 近頃は誰も来てくれないんだ」
   × × ×

○ 同・門前(夕)
  田中たちときよが門を挟んで立って
  いる。
きよ「今日は来てくれてありがとう」
素子「じゃあまた明日」
   田中たちが帰ろうと歩き出す。
きよ「ちょっと待って」
田中「何だよ」
きよ「大人なってもまた会えるよね」
田中「何言ってるんだよ。明日学校で会える
 だろ」
   きよは悲しそうに微笑んでいる。

○ 同・教室・中
  菊枝が教壇に立っている。きよの姿は
  ない。
菊枝「みなさん、今朝、八神さんのお家から
 電話があって、八神さんはお父さんの仕事
 で急に転校することになったそうです」
   呆然とする田中、山下、角川、素子、
   泣き出す紗代子。

○現在の泉小学校・体育館・中
   同窓会に出席している、田中、山下、
   角川、素子、紗代子。
山下「あの時はびっくりしたよな」
素子「急にいなくなってさ」
紗代子「ねえ、明日、きよちゃんの家に行っ
 てみない?」

○田中の実家・中
  田中が玄関から入ってくる。
田中「ただいま」
田中の母「おかえり。同窓会どうだった?」
田中「隆義君や光弘君と会ったよ」
田中の母「お父さん、正雄が帰ってきたよ」
   田中の父は、認知症になっており、
   縁側に座り八ヶ岳をずっと見ている。
   田中は母に何か言おうとする。
田中「母さん・・・」
田中の母「なんだい?」
田中「・・・何でもない」
田中の母「正雄」
田中「なに?」
田中の母「辛いことがあったら、いつでも帰
 ってきていいんだよ」
   涙をポロリと流す田中。
   
○ 八ヶ岳・山道・きよの家の近く
  山道を歩く田中たち。田中たちは立ち
   止まり、辺りを見回すが大きな門も屋
   敷もなく、小さな神社が立っている。

○神社境内
   境内に立つ田中たち。
田中「たしか、ここのはずなんだけどな」
素子「そうよね」
   神社の本殿はひっそりしている。
   田中はずっと本殿の中を見ている。
   本殿の中がキラリと光る。
田中「あ!」
素子「どうしたの?」
田中「いま、何か光った気がした」
   しばらく沈黙が続く。
山下「きよちゃんて、一体誰だったんだろう」
紗代子「・・・八ヶ岳の神様?」
田中「そうかもな・・・」
素子「え?」
山下「なあ、正雄、東京で何かあったんだろ」
田中「・・・」
角川「帰ってこいよ」
素子「ここはいいよ。自然がいっぱいでさ」
紗代子「待ってるから」
田中「・・・」

○ 田中の実家・玄関
  田中と彩香が出てくる。
  自転車で出かける二人を見送る澄子。
彩香「行って来ます」
澄子「行ってらっしゃい」
    
○ 八ヶ岳の麓・遠景
  自転車で走る田中。八ヶ岳の山々が見
  える。           (完)      

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