君のいる四角形 ドラマ

漫画家志望の松岡郁也(26)はコンクールにも落選を繰り返し、無鉄砲な性格からアシスタントもできずにいた。モニター監視バイトで、海の孤島を映したモニターに映る佐倉明里(24)を題材にした四コマ漫画が大絶賛される。しかし、倫理との狭間に揺れる
M.K. 9 0 0 11/02
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第一稿

<登場人物>
松岡 郁也(26) 漫画化志望のフリーター

佐倉 明里(24) 就活生
竹内 陣平(26) 松岡の友人

草間 洋樹(48) 松岡の職場の上司
魚住  ...続きを読む
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<登場人物>
松岡 郁也(26) 漫画化志望のフリーター

佐倉 明里(24) 就活生
竹内 陣平(26) 松岡の友人

草間 洋樹(48) 松岡の職場の上司
魚住 一郎(78)    〃

高橋 裕司(37) 談定社の編集者
根本 涼介(22) 高橋の部下

館之峯 彰布(51)漫画家

派遣社員A〜B
受付
釣り人
店員
警察
刑事
管理人
救急隊員
救護員
宅配人
飼育員

<本文>
○沖・岩島・上
  打ち上げられたリクルートスーツの佐倉明里(24)、水を吐いて目を覚ま
  す。
  人工の岩でできた二畳程の島。周りに消波ブロックが一つある。
  島の端に鉄柱、上にプレハブ小屋。
  反対側に、監視カメラのついた細い鉄柱。
  明里、辺りを見渡す。
  どこまでも続く地平線。
  明里、ポケットのスマホを出す。
  スマホにメールが届く。
  『厳正なる審査の結果 ご希望に添いかねる結果となりました』の件名。
  スマホのメール欄に不合格通知が羅列。
  明里、スマホを海に捨てる。
  海の中に沈んで行くスマホ。
  鉄柱のハシゴに、明里の手がかかる。

○同・プレハブ小屋
  外周の細い鉄柵を掴む明里、大声で叫ぶ。

○桐野管理会社・監視モニター
  叫ぶ明里が映っている。
  大画面に幾つもの監視映像。

○ビル・エントランス(夜)
  タイルの床に水が疎らに掛けられる。
  作業着姿の松岡郁也(26)がモップで床を掃除している。
  モップで押した水が男の足に掛かる。
草間「おい、掛かってる」
  と、草間洋樹(48)が足の水を払う。
松岡「さーせん」
草間「借りもんだからいいけどよ」
松岡「ですよね。コンビニ分かりました?」
草間「ああ、メモ助かった」
  と、ポケットからメモを出して、床に捨てる。
  メモにコンビニの地図が上手く書かれている。
松岡「捨てないでくださいよ。そこ掃除済みなんですから」
草間「すまんすまん」
  メモが床に落ちて濡れる。

○派遣会社・受付(朝)
  ホワイトボードに『作業着はカゴに!』の文字と女の子の絵が描かれてい
  る。
  受付の前に立つ松岡、ハンコを渡す。
受付「はい。お疲れさま。明日は引っ越しだったよね」
松岡「はい」
受付「その次はどうします?」
松岡「休みでお願いします」
受付「休みね。分かりました。はい、これ今日の分です」
  松岡、トレーに出されたお金を受け取る。
受付「ああ、そうだ。そこのボードの絵に、ベルト返却も忘れずに。って追加し
 てもらえるかな」
松岡「分かりました」
  ホワイトボードに上手な男の子の絵が描かれている。

○松岡家・外観(朝)
  古びた二階建てのアパート。

○同・中(朝)
  松岡、テーブルの前に座ってパソコンを開く。
  本棚には乱雑に置かれた漫画の参考書。
  部屋の隅に漫画の原稿、埃を被っている。
  パソコンを入力する松岡の手。
  パソコンにプロフィールの入力画面、名前、年齢、性別、住所、職業が順に
  入力されていく。
  受賞歴の欄に『漫画甲子園大賞 受賞』と入力される。

○大学・学生寮・入り口(夜)
  作業着姿の松岡、草間から受け取った机と椅子をトラックに積み込む。

○同・同・食堂(夜)
  二十人ほどの派遣社員が休憩している。
  松岡と草間が対面して座り、おにぎりを食べている。
派遣社員A「監視のレギュラー枠が空くらしいぞ」
派遣社員B「ほんとか?枠は幾つ?」
派遣社員A「そこまでは知らんけど、マサさんが病気したらしい」
  派遣社員の会話に耳を傾ける松岡、おにぎりを一気に食べる。
松岡「お先っす」
  と、スマホを持って席を立つ。

○コンビニ・入り口
  スーツの松岡が入って行く。

○同・中
  稼働中のコピー機から漫画が印刷される。
  コピーを待つ松岡、横のトイレの鏡で身嗜みを確認する。

○同・入り口
  封筒に『新人漫画コンクール様』の文字。
松岡、ポストに封筒を投函する。

○談定社・外観
  モダンなビル。

○同・小会議室
  ガラス張りの会議室、隣接する会議室内が見えるようになっている。
  椅子に座る松岡、漫画原稿を出して待つ。
  高橋裕司(37)が入って来る。
高橋「(松岡の対面に座り)ごめんね。待たせたね」
松岡「いえ」
高橋「スーツ……久しぶりに見たな」
松岡「一張羅っす」
高橋「読んだよ。甲子園の作品、君のいる四角形だっけ。高校生にしては良く描
 けてるなって感じだね。今は描いてないの?」
松岡「描いてますけど、賞獲ってないので」
高橋「そうなんだ。じゃあ次に何か獲ったら来てもらえるかな」
松岡「何とかならないですか?こうしたら良いとかでも」
高橋「なんだろうね。中途半端な感じだから。グワってくる感じにしてよ」
松岡「勢いって事ですか?」
  高橋のスマホが鳴る。
高橋「ちょっと、失礼」
  と、背を向けて電話に出る。
  隣の会議室に学生服を着た男の子が、大人に出迎えられて入って来る。
  松岡、隣の会議室を見る。
高橋「あー。あの子は連絡しなくていいよ。弱者の復讐モノか日常系の四コマ描
 ける人だけピックアップしといて」
  高橋を見る松岡、ホワイトボードのマジックを取る。
  ガラスにマジックで線が描かれる。
松岡、ガラスに大きく漫画の一コマを描いていく。
  隣の会議室の高校生たちが唖然と見る。
  電話を切る高橋、驚く。
高橋「何してんの君!」
松岡「グワってさせました」
高橋「意味を履き違えないでもらえるかな。とりあえず、今日のところは帰っ
 て。何かあれば連絡するからさ」
  松岡、会議室から追い出される。
  ガラスに忍者のキャラクター、『漫画家になる!』と吹き出し。

○同・入り口
  松岡、自動ドアの開き具合に舌打ちする。
松岡「おせーよ」
  警備員が松岡を睨む。

○松岡家・中
  ドアが開き、松岡が入ってくる。
  乱雑に脱ぎ捨てられた汚いスニーカー。
  シャワーの音が聞こえる。
  松岡、テーブルの上に置かれた書きかけの漫画を見る。
  風呂から竹内陣平(26)が出てくる。
竹内「おー、帰って来てたか」
松岡「勝手に使うな」
竹内「先生の家から近いんだよって言ってるじゃん。そうケチケチすんなって」
松岡「間に合うの?」
竹内「ギリだよ。ベタ手伝って」
  黒く塗られる描きかけの漫画。
竹内「談定社はどうだった?」
松岡「ダメかな。次のペラは?」
竹内「ここに溜めてる。お前、またイキり出したんだろ。自己中だから」
松岡「全然相手にされなかったから、見せつけてやったんだよ」
竹内「その性格直さないとアシスタントにすらなれないぞ」
  松岡、次々にベタ塗りをこなしていく。
松岡「いいよ別に。漫画家先生になるんだし、お前みたいな生活はしたくない。
 もうベタ終わる」
竹内「トーンと効果線も頼む」
松岡「それはお前の仕事だろ」
竹内「お前の腕は買ってるんだ。その速さも勿体ないよ。性格だけどうにかなん
 ない?」
松岡「あー、もういい。自分でやれ」
  と、布団に寝転ぶ。
竹内「悪かったって。間に合わないんだ」
松岡「談定社の人が後で連絡するって言ってたからな」
  松岡のスマホが鳴る。
松岡「ほら見ろ」
竹内「(鼻で笑う)」
松岡「(電話に出る)はい松岡です」
受付「(電話)あー松岡くん。昨日言ってた管理のレギュラー枠、草間さんと決
 まったから、よろしくね」
松岡「……はい」
  と、電話を切る。
竹内「おめでとう!じゃあ、やろっか」

○桐野管理会社・前
  ネズミが逃げていく。
  松岡、逃げたネズミを見る。

○同・中
  薄暗い室内に大画面に幾つもの監視映像。
  監視モニターを眺める魚住一郎(78)が座っている。
  松岡と草間が入って来る。
草間「うおさん。ここに入ってたんですか」
  魚住、草間を見て一礼する。
  魚住、松岡、草間が監視モニター前に横並びで座る。
  草間、ジャンクフードを食べている。
松岡「草間さん、ここで食べると匂い籠るんでやめてもらえません?」
草間「ケチだな。暇だから気になるんだろ。暇つぶし道具持ってこないと」
松岡「初日に暇潰せるか分からないじゃないですか」
草間「情報収集が足りん」
  魚住、松岡にそっと饅頭を渡す。
松岡「……ありがとうございます」
草間「喜べ、うおさんの饅頭はレアなんだ」

○沖・岩島・プレハブ小屋
  段ボールの中のヘルメット、乾パン、水が事務机に出される。
  事務机と棚だけの室内。
  明里、乾パンと水を口いっぱいに頬張る。
  机の横に掛かっているトラロープ。
  明里の手がトラロープを掴む。
  トラロープが周りの鉄柵に巻かれる。
  明里、トラロープを引っ張り、強度を確かめる。
  巻かれたトラロープの下に押し寄せる波。
  明里の首にトラロープが巻かれている。
  明里、縁に座り、飛び降りる。
  落ちていく明里。
  鉄柵が壊れ、明里が海に落ちる。
  大きく水しぶきが上がる。

○桐野管理会社・中
  ペン回しをして暇を潰す松岡、明里のモニターが目に入る。
  明里のモニターで水しぶきが上っている。
  松岡、明里のモニターを見る。
松岡「何かいますよ」
  草間、いびきをかいて寝ている。
  新聞を読みながら眠っている魚住、新聞に四コマ漫画の記事。
  松岡、モニターを見る。

○同・明里の監視モニター
  明里が水面に浮いてくる。

○同・中
  松岡、画面の明里に目を凝らす。

○同・明里の監視モニター
  水面に漂う明里、ゆっくり島の周りを流される。

○同・中
  松岡、明里の様子を見ながらペンで模写する。

○沖・岩島・上
  トラロープが消波ブロックに引っかかっている。
  明里、浮いたまま空を見る。
  青い空と白い雲。
  明里、高らかに笑いだす。
  大きく開いた口に海水が入る。
  むせる明里、消波ブロックに頭を打つ。

○桐野管理会社・中
  机に、明里に似た女性が消波ブロックに頭を打つ絵が描かれている。
  松岡、机に正方形の四角を描く。
  正方形の中に、女性が島に這って上がる絵が描かれる。

○沖・岩島・上
  明里、スーツの端を絞る。
  乾いた地面に水滴が落ちる。
  鼻で笑う明里、海中を覗き込む。
  揺れた海面に明里が映る。

○桐野管理会社・中
  机に女性の四コマ漫画が描かれている。
松岡「やべ!」
  目を覚ます魚住、新聞をめくる。
  机に完成した四コマ漫画。

○沖・岩島・プレハブ小屋
  明里のスーツと下着がトラロープで干されている。
  作業着のチャックが上まで閉まる。
  作業着を着た明里が海を眺めている。
  明里、プレハブ小屋の外周にある鉄柵の強度を確かめる。
  明里が掴んだ鉄柵が壊れ、十五センチ程の鉄の棒になる。

○松岡家・中(夜)
  暗い部屋、テーブルに描きかけの四コマ漫画。
  松岡、布団で寝ている。
  ドアがゆっくり開き、竹内が入ってくる。
  竹内、松岡の布団に入る。
竹内「(小声)失礼しますよ」
  目を覚ます松岡、竹内を蹴り飛ばす。
  転がる竹内、テーブルにぶつかる。
  テーブルの黒インクが竹内の顔にかかる。
竹内「うわうわうわ。何すんだ!」
松岡「床にこぼすなよー」
竹内「お前、許さんぞ!」
松岡「自業自得だ。座布団って言ってるだろ」
  竹内、電気をつける。
松岡「あー、電気つけんな」
竹内「ちょっとくらい我慢しろ。失明したらどうすんだ」
松岡「真っ暗になるな。顔、同様に」
  竹内、テーブルの四コマ漫画を見る。
竹内「……これ描いたの?」
松岡「ああ」
竹内「先生に見せても大丈夫?」
松岡「暇つぶしで描いただけだぞ」

○派遣会社・受付(朝)
  トレーに一万円札が二枚。
  松岡、財布にお札を入れる。
受付「松岡くん、机に落書きしたでしょ」
松岡「あー、すいません。無意識で」
受付「気をつけてね。夜勤の人が消すの大変だったって。面白かったらしいけ
 ど」
  松岡、苦笑い。

○沖・岩島・上
  消波ブロックの間に浮き玉が挟まっている。
  明里、浮き玉に向かって手を伸ばす。
  地面に置かれた浮き玉。
  明里、浮き玉を叩いて音に乗る。
  海面からヤドカリが寄ってくる。

○桐野管理会社・中
  監視モニターを見る松岡、ノートにメモを取っている。
  ノートに『石のアート』の文字。
  魚住を見る松岡、ノートのメモをペンで消す。
松岡「魚住さん、モニターに不審者とか居たらどうするんですか?」
魚住「(ビクッとして)居た事ないから分かりませんが、あくまでも録画の管理
 ですから。そのままで大丈夫ですよ」
松岡「そうなんですね」

○電車(夜)
  松岡、席で漫画を描く。
  漫画のラフ、忍者の戦闘シーンの絵。

○コンビニ・雑誌コーナー(夜)
  『関東漫画賞 一次審査』の文字。
  松岡、雑誌を立ち読みしている。
  審査結果に松岡の名前は無い。

○公園(夜)
  ブランコに座る松岡、ビールを飲んでいる。
  松岡の下に漫画が描かれている。
  松岡、漫画にビールを掛けて消す。

○館之峯事務所・作業場(夜)
  館之峯彰布(51)が六人のアシスタントと漫画を描いている。
  竹内、自席でベタ塗り作業。
館之峯「一旦休憩しようか」
  の一声でアシスタントが手を止める。
  アシスタントたち、休憩に作業場を出る。
館之峯「竹内くん、ちょっといいかな」
竹内「はい」
館之峯「見たよ。コンクールの作品」
竹内「ありがとうございます」
館之峯「もうちょい話の部分の移入をしっかり作るといいよ。見開きの演出は、
 だいぶ培われてきてるね」
竹内「(噛み締めるようにうなずく)」
館之峯「君の友人のは……んーやりたい事は分かるけど、深い部分での心情を強
 く描くといいと思う。四コマは面白かったけどね」
竹内「伝えときます」
館之峯「互いに頑張ろうね」
竹内「はい」

○コンビニ・前(朝)
  松岡がコーヒーと雑誌を買って出てくる。

○松岡家・外観(朝)
  松岡の家の窓が開き、松岡が布団を払う。

○同・中(朝)
  部屋の掃除をする松岡、本棚の本を整頓する。
  漫画の参考書の埃が払われる。
  漫画用紙を置く松岡、漫画を描く。
  乾パンを見つめる女性の絵。
  少し顔に寄った乾パンを見つめる女性の絵。
  更に少し顔に寄った乾パンを見つめる女性の絵。
  乾パンを食べる女性の絵、『パクっ』と文字が書いてある。
  漫画を描き終えた松岡、布団に寝転ぶ。
  疲れ切った竹内が入ってくる。
竹内「あー、やべー、眠すぎー」
松岡「うわ鍵閉め忘れてた」
竹内「酷い事言うな。先生からの総評教えないぞ」
松岡「なんて言ってた?」
竹内「深い部分の心情を強く描けだって。四コマは褒められてた」
松岡「なるほどね」
  竹内、ケツポケットから雑誌を見せる。
竹内「それを受けて作業場から持ってきたぞ。談定社のコンクール、四コマで募
 集がある」
  微笑む松岡、同じ雑誌を見せる。
竹内「なんだ。知ってたの」
松岡「当たり前だ。実績作りにぴったりだしな」
  と、ペンを持つ。

○沖・岩島・上
  寝っ転がる明里の後ろ姿。
  明里、不揃いの石を積み重ねる。
  × × ×
  水平線に夕陽。
  不揃いな石が絶妙なバランスで積まれている。

○桐野管理会社・中
  松岡、モニターを見ながら漫画を描く。

○同・明里の監視モニター
  鉄の棒を倒す明里、倒れた方に移動してをひたすら繰り返している。

○同・中
  漫画用紙に『42・195km』の文字。

○沖・岩島・プレハブ小屋
  浮き玉を叩く明里。
  海面にクラゲが浮いてくる。
  明里、激しく浮き玉を叩く。
  目の前で鯨が飛び跳ねる。

○桐野管理会社・中
  漫画を描く松岡の後ろから草間が覗き込む。
草間「面白そうだな。見せてみろ」
松岡「もうちょい待ってください。連作で見た方が効果的なんで」
草間「あっ、コンクールだな」
松岡「規定が二十話なんすよ」
草間「ちょっと多い」

○沖・岩島・上(夜)
  ハシゴに縛られたスーツが、旗のように靡いている。
  薄汚れた明里が下着姿で座っている。
  明里の固まった髪が風で動く。
  深呼吸をする明里、笑顔で寝転がる。
  明里、大の字で寝転がっている。

○松岡家・中(夜)
  布団に寝転ぶ松岡、起き上がる。
松岡「シャア」
  と、四コマ漫画を描き始める。

○館之峯事務所・作業場(夜)
  休憩中、漫画を描き進める竹内。
  竹内を見て微笑む館之峯、そっとコーヒーを置く。

○コンビニ・入り口(朝)
  松岡と竹内、鉢合わせる。
松岡「おお」
竹内「偶然」

○公園(朝)
  ベンチに二人分の味噌汁とおにぎりセットが置かれている。
  ベンチに座る松岡と竹内、ご飯を食べる。
松岡「相変わらず死んでんな」
竹内「生活リズム一緒の時点で、その言葉はブーメランだよ」
松岡「この生活……抜け出してぇよ」
竹内「別の道なら、きっと結婚してる」
松岡「お前、好きな人って二次元だろ」
竹内「漫画家冥利につきる性癖なんだ」
松岡「天性のもので良かったな」
竹内「そっちだって恋人すら居ないだろ」
松岡「俺の恋人は……俺の漫画の主人公さ」
竹内「台詞のセンスを疑うぞ。語呂悪いし」
松岡「うるせぇ。朝はこんなもんだ」

○沖・岩島・プレハブ小屋(朝)
  明里、カモメの鳴き声で目を覚ます。
  明里のお腹が鳴る。
  明里、昇る朝日を見て乾パンを食べる。
  明里の頭にカモメのフンが落ちる。
  高潮で海面がハシゴまで上昇している。

○桐野管理会社・中
  草間、八枚分の四コマ漫画を読む。
  松岡、四コマ漫画を読む草間を見守る。
  鼻で笑う草間、少し口角が上がる。
松岡「どうです?」
草間「悪くない」
松岡「ですよね。一個一個の絵だと、上手く描けるんすよ」
草間「ホワイトボード評判だったもんな」
松岡「サイン強請るなら今のうちですよ」
草間「けっ、図に乗ったな」

○沖・岩島・上
  海面に浮き玉が浮いている。

○談定会・オフィス
  百人程のオフィス。
  書類を整理する根本涼介(22)、積み重なった封筒を落とす。
  高橋が駆け寄る。
高橋「やっちゃったねー」
根本「(封筒を拾い)ちょっと量が多いっす」
高橋「うちがやる公募だよ。少ない訳ないじゃない」
根本「そうですけど」
高橋「そこに、松岡って応募者の作品あったらピックアップしといて」
根本「わかりました。伝えておきます。けど、なんでですか?」
高橋「鼻につくから」

○桐野管理会社・前
  くしゃみをする松岡。
  くしゃみと同時にドアが開き、草間が出てくる。
草間「うわ、きったね。なんだこいつ」
松岡「さーせん。嫌な予感がして」
草間「……バカにした?」
松岡「してないですよ。良い意味っす」
草間「そう。良い意味か。良い意味?」

○同・明里の監視モニター
  高潮で海面が上がっている。
  明里の姿は見えない。

○同・中
  漫画を描く松岡の手が止まる。
  松岡、明里の監視モニターを見る。
松岡「(呟く)どんな顔してんだろ」
魚住「髪はお下げでな、クリクリした目が可愛くて、口がプクって」
  松岡、言われた通りに描いていく。
魚住「丸く小さい輪郭に、眉は下がって鼻がちょんとした感じです」
  女の子の顔が描き上がる。
松岡「って、誰ですか!」
魚住「家内」
松岡「反応に困ります」
魚住「それ、いただけませんか?」
松岡「いいですけど」
  と、ノートを千切る。
魚住「ぜひサインを」
松岡「サイン?」
魚住「草間さんが先生になるかも、と」
松岡「そうなんですか。サインなんて考えてもなかったな」

○沖・岩島・プレハブ小屋
  やつれた明里が這って出てくる。
  明里、ハシゴを覗く。
  高潮で海面が高い。
  明里、腕を舐める。

○松岡家・中(夜)
  テーブルにカップ麺が二つ。
  松岡、布団に倒れる。
  カップ麺を食べる竹内、漫画を覗き込む。
竹内「息詰まったか」
松岡「ああ。でも内容的には行けると思うんだよね」
竹内「確かに。今までで一番良い」
松岡「それはそれで悲しいな」
竹内「でもよ、この子は何でこの島に居るんだ?どういう設定?」
松岡「一応、就活に失敗して自殺したら流れ着いたって事にしてる。スーツあっ
 たし」
竹内「あった?」
松岡「あ、いや、想像でイメージしてみたらの話ね」
竹内「そういう事ね。息詰まったならさ、食べ物の回とか描いてみたら?まだ無
 人島の自給自足が出てないでしょ」
松岡「ヤベェ、飯か……飯!」
  と、竹内を見る。

○桐野管理会社・中(夜)
  ドアが開き、松岡が顔を出す。
  夜勤組が席で眠っている。
  松岡、忍足で入ってくる。
  本棚の資料が取り出される。
  モニターを数える松岡、資料と照らし合わせて見る。
松岡「七十三番、七十三番っと」
  と、岩島の資料をスマホで写真に撮る。

○海岸・砂浜
  スマホ画面に、岩島の資料の画像。
  ゴミ袋を担ぐ松岡、海を眺める。
  ゴミ袋一杯に瓶、瓶の中に乾パンが入れられている。
  松岡、海に瓶を投げる。

○海
  瓶の塊が海を漂う。

○沖・岩島・上
  痩せた明里が虚にやってくる。
  明里、ナマコを見つける。
  ナマコを掴む明里、生唾を飲む。
  明里の口にナマコが近く。
  明里、ナマコを遠ざける。
  ナマコから体液が飛び出し、海に捨てられる。
  倒れる明里、空を見る。
  流れ着いた瓶が消波ブロックに当たり、音を立てている。
  明里、瓶の方を見る。
  瓶を拾う明里、中の乾パンを食べる。

○桐野管理会社・明里の監視モニター
  明里、監視カメラに瓶を見せつける。

○同・中
  突然笑いだす松岡。
  草津と魚住、松岡を見る。
松岡「すみません。ちょっと面白くて」

○百円均一店・食器売り場(夜)
  松岡、瓶を買い占める。

○スーパー・お菓子売り場(夜)
  カゴいっぱいにお菓子が入っている。

○沖・岩島・上
  明里の腰にトラロープが巻かれ、浮き玉がついている。
  下着姿の明里、水面の光に向かって泳ぎ出す。

○同・海
  明里、お菓子の入った瓶二つを拾う。

○桐野管理会社・中
  松岡、瓶にお菓子を詰めている。
  松岡の瓶に饅頭を入れる魚住、ゆっくりうなずく。
  軽く頭を下げる松岡。

○松岡家・中(夜)
  四コマ漫画を見る竹内、しかめる。
竹内「んー、良くないよね」
松岡「なんで」
  と、カップ麺を持って座る。
竹内「ナマコまでは良いと思う。けど、瓶はファンタジー過ぎない?」
松岡「大量の瓶を流す人が居たら可能性はあるじゃん」
竹内「そうじゃなくてさ、自給自足の方向性に持ってくんじゃなかったの」
松岡「そう考えたんだけどさ、この世代の女の子に自給自足無理だと思って」
竹内「そこを頑張るのがドラマでしょ。火をつけようと鉄の棒を叩き合わせた
 ら、その音でまた鯨が来る。とか、蟹捕まえるけど可愛くてヘルメットで飼っ
 ちゃうとか」
松岡「結局、自給自足してないだろ」
竹内「テーマが自給自足であって、事実にする必要なくない」
松岡「リアリティーに欠ける」
竹内「深い部分の心情を強く描けって」
松岡「何度も就活して落ちて、見た目の講座も受けて、就活浪人までしたのに、
 それでも就職できずに、死という覚悟を決めたんだ。親からのプレッシャーも
 あった。自由にさせてあげたいだろ」
竹内「さすが主人公が恋人だな。主人公には苦悩を与えるもんだ!」
松岡「全部が全部そうだと限らないだろ。普通じゃないから成り立つ四コマなん
 だ」
竹内「分からず屋。逆打ちは当たらない」
松岡「それは、お前だろ」
竹内「もういい、勝手にしろ」
松岡「帰れ帰れ」
竹内「帰るよ。言っとくけど、明日から二連休だからな」
  と、部屋を出て行く。

○同・外観(夜)
  竹内、帰って行く。

○桐野管理会社・中
  紙ナプキンに、『火を起こすと音で鯨が来る』の四コマ漫画が描かれてい
  る。
  紙ナプキンが捲られ、『ヘルメットで蟹を飼う』の四コマ漫画が描かれてい
  る。
  草間、鼻で笑う。
草間「悪くない」
松岡「ボツですけどね!」
  不貞腐れる松岡、ノートに明里の輪郭を描いている。
草間「なんで拗ねてる」

○海岸・釣り場(朝)
  釣り人が竿をあげると、饅頭の入った瓶が釣れる。
釣り人「なんじゃこりゃ」

○沖・岩島・プレハブ小屋
  棚の上に瓶が並べられ、お菓子が沢山入っている。

○同・沖
  瓶で作られた浮き輪に明里が乗っている。
  トラロープで繋がれ、ハシゴまで伸びている。
  明里、優雅に『船舶免許』の本を読んでいる。
  本の『もやい結び』のページ。

○百円均一店・食器売り場(夜)
  松岡、立ちすくむ。
  瓶が売り切れになっている。
  松岡に店員が近づき、
店員「申し訳ありません。最近、瓶をたくさん買われてますよね?」
松岡「……はい」
店員「他の方も買われますので、最低限の購入にしていただけますでしょう
 か?」
松岡「……すいません」

○道路・歩道(夜)
  歩きスマホする松岡、ネットのショッピングサイトで瓶を検索している。

○スーパー・日用品売り場(夜)
  カゴに旅行用の石鹸が大量に入っている。
  松岡、歯ブラシ、目薬を入れる。
  松岡の手が生理用品の前で止まる。
  松岡、生理用品の前で立つ。

○松岡家・中(夜)
  テーブルの手紙に『ありがとうございます。あなたのお陰で、夢が叶いそう
  です』の文字。

○沖・岩島・上
  海面に雨粒が落ちる。

○同・プレハブ小屋
  明里、旗のようにしているスーツを取り外す。
  小屋の窓に雨粒が当たる。
  明里、消波ブロックに引っかかる瓶に気づく。
  干された下着が取り外される。
  明里、作業着を脱ぎ、下着姿になる。
  ドアのガラスに汚れた明里の姿が映る。
  立ち止まる明里、ガラスに映った自分の顔をなぞる。
  明里の顔と監視カメラが重なる。
  ガラスの反射で机の上のスーツが目に入る。
  薄汚れたスーツを着る明里、船舶免許の本を一枚破る。
  破ったページにチョコで『ずっとみていてくれて、うれしかったです』と書
  かれる。
  ドアが開き、明里が瓶を海に投げる。

○桐野管理会社・中
  明里の監視モニター、明里が映っている。
  松岡、机に突っ伏している。

○館之峯事務所・作業場
  館之峯、外を眺めている。
館之峯「降ってきたね」
竹内「すみません。ちょっと見てもらえますか?」
  と、スマホを渡す。
  スマホに松岡の四コマ漫画。
館之峯「んー、後半だね」
竹内「はい」
館之峯「リアルかフィクションか、どっちに振るのかは作家次第だよ。個人的に
 はフィクションであって欲しいがね」
竹内「どうしてですか?」
館之峯「リアルだったら死んじゃうじゃん」

○談定社・オフィス
  パソコン作業中の根本に高橋が駆け寄る。
高橋「お疲れさま。松岡くんのは来た?」
根本「来てないっすね。読み手さんからの連絡もないです」
高橋「そうか。待つか」
根本「締め切り、もうちょいありますし」
高橋「だね。彼なら良いとこ行くと思ったんだけどねー、出さないのかな」
根本「そうなんですか?鼻につくとかって言ってませんでしたっけ?」
高橋「言ったよ。小会議室のガラスにグワって漫画描いてったんだよ」
根本「あー、その人だったんですね。その後、高校生作家が調子崩したって噂
 の」
高橋「そ、なぜか俺が減給……」
根本「災難ですね」
高橋「他人をスランプに落とす絵を描く人なんて最高でしょ。いっそ電話してみ
 ようかな」

○松岡家・中
  テーブルで漫画を描く松岡、手が止まっている。
  松岡、外を見る。

○空
  曇天の雨空。

○沖・岩島・上
  波がハシゴの高さまで押し寄せる。

○同・プレハブ小屋
  棚の積まれた不揃いの石が崩れる。
  窓がカタカタ音を立てる。
  段ボールにお菓子が敷き詰められている。
  明里、机を逆さにして船のようにする。
  窓に波が当たる。
  外を見る明里、強風豪雨で荒れている。
  明里、椅子と瓶でドアを固定する。

○松岡家・中(夜)
  ノートに図形が乱雑に描かれている。
  松岡、頭を掻いて突っ伏す。
  スマホに竹内からの電話。
松岡「(電話に出て)何?」
竹内「(電話)やっぱりフィクションに振った方が良いと思う」
松岡「……それは無い」
竹内「(電話)なんで?」
松岡「もう描けない」
竹内「ネタ切れか?」
松岡「いや……連れ戻してやりたい」
竹内「(電話)どう言う事?主人公が恋人の的なやつ?」
松岡「あの主人公は、今も独りで島に居る」

○館之峯事務所・作業場(夜)
  竹内、電話を下ろす。

○沖・岩島・外観(夜)
  荒れた海。

○同・プレハブ小屋(夜)
  明里、段ボールを抱いてうずくまる。
  ドアと窓がガタガタ揺れる。
  明里、波の当たる音で段ボールを強く握る。
  窓に波が当たる。
  風の音でドアが開き、瓶が飛んでいく。
  瓶が外周の鉄柵に当たり砕け散る。
  退く明里、手に力が入る。
  明里の髪が激しく揺れる。
  椅子が徐々にドアに進み、飛んでいく。
  椅子が外周の鉄柵を破壊する。
  明里、段ボールを置き、トラロープを体に巻く。
  『船舶免許』の本が開かれる。
  明里、体のトラロープでもやい結びする。
  段ボールがお菓子ごと飛んでいく。
  明里、壁に寄りかかる。
  明里の目から涙が溢れる。
  監視カメラのある鉄柱が揺れる。

○道路(夜)
草間の声「それは漫画家以前の問題だよ。描く描かないじゃなくて助けろよ!」
  松岡、必死に傘を抑える。
  風で傘が破壊され、松岡に雨が当たる。

○桐野管理会社・中(夜)
  暗い室内。監視モニターだけがついている。
  びしょ濡れになった松岡、明里のモニターを見る。
  明里のモニター、薄暗くて見えない。
  松岡の頬に水が滴る。

○沖・岩島・プレハブ小屋(夜)
  明里、棚にトラロープを巻きつける。
  開いたドアが暴れている。
  明里、風に耐えながら、ドアを閉めに向かう。
  ドアから顔を出す明里に波が押し寄せる。
  ずぶ濡れの明里、ドアに手を伸ばす。
  風でドアが戻り、明里の頭を打つ。
  外れて飛んでいくドア。
  気を失う明里、外に飛ばされる。
  トラロープがピンと張り、棚が風に引っ張られ、ドア枠に引っかかる。
  気を失った明里が宙吊りになっている。

○桐野管理会社・中(夜)
  席に座る松岡、岩島の資料を見る。
  松岡のスマホに着信。
  松岡、電話に出る。

○談定社・オフィス(夜)
  窓を眺める高橋、電話している。
高橋「あ、松岡くん。四コマの公募は出した」
松岡「(電話)……」
高橋「松岡くんだよね?」

○桐野管理会社・中(夜)
  松岡、スマホを耳に当てている。
高橋「(電話)一方的に言うよ。君の画力なら、四コマで賞獲れる。それだけ
 だ、そしてデビューを目指そう」
  松岡、電話を切る。
  何度も机を叩く松岡、水滴が落ちる。

○空(夜)
  雨が止み、風が落ち着く。
松岡の声「すみません。岩島の管理センターで間違いないでしょうか?人の姿が
 確認できたので至急確認をお願いします」

○沖・岩島・上(夜)
  プレハブ小屋に繋がるロープで吊るされた明里が宙に浮いている。
  台風が去った、静かな海。
  目を覚ます明里、朦朧とした視線の先に監視カメラ。
  監視カメラの鉄塔。
  ロープの隙間から明里がズリ落ちる。
  島の地面に薄く水が張り、血で赤く滲む。
  仰向けの明里、下唇を噛む。
  満天の空。
  星が反射して水面に映る。
  微笑む明里、目を閉じる。
  明里の周りが血で滲み、その周りを海面に反射した星が囲む。
  船の汽笛が鳴る。

○漁港・停船場(朝)
  救急車、人集りができている。
  小型船が向かってくる。
  松岡、人を掻き分けて前に進む。
  小型船から担架に乗った明里が出てくる。
  松岡、先頭に行くも警察に抑えられる。
松岡「すいません。俺、俺知ってたのに」
警察「離れてください」
松岡「僕が通報したんです。僕が助けたんです」
  松岡、肩を叩かれて振り返る。
  管理人が立っている。
管理人「君が電話してくれた松岡くんだね」
松岡「はい」
管理人「ちょっといいかな」
松岡「でも今は」
  と、明里の方を見る。
  明里が担架のまま救急車に運ばれる。
  松岡、警察を振り切って救急車に近く。
  救急隊員が松岡を抑える。
救急隊員「離れてください」
松岡「僕は彼女に、彼女に言いたい事が」
救急隊員「いいから離れて」
松岡「お菓子とか、乾パンとか。ずっと見てたんです。感謝してるんです。あの
 人がいたから漫画を描けたんです!でも、通報するのが一番なのに利用してし
 まって。それで、それで謝りたくて、言わないといけないんです」
  明里のボサボサになった頭だけが見える。
  明里の閉じた目から涙が溢れ出す。
  明里、ゆっくりと松岡の方を見る。
松岡「松岡です。松岡郁也です!」
  救急車のドアが閉まる。
  抵抗する松岡、警察にも抑えられる。
  救急車が離れて行く。

○救急車・中(朝)
  寝かされている明里、中からドアを開けようとするが救護員に抑えられる。
明里「まつ……お……か。初めて、ちゃん……と、見て……くれた人」
救護員「落ち着いてください」

○漁港・海(朝)
  瓶が浮いている。

○警察署・取調室
  俯く松岡、やつれている。
刑事「遭難している彼女の存在を知りながら、通報せず、漫画の題材にした」
松岡「……はい」

○病院・病室
  ベッドに腰掛ける明里を明里の母が抱きしめる。

○桐野管理会社・中
  スーツ姿の草間と魚住が立っている。
  作業着の男が入ってくる。
作業着の男「今日付で、本社から来ました」

○海岸・砂浜
  海を眺める松岡。
刑事の声「遭難者の通報に義務は無い。しかし、自己の利益の為に彼女を利用し
 た事は不適切な行為である。それは、忘れないでください」
  松岡、顔を伏せる。

○館之峯事務所・作業場
  竹内、作業の手が止まっている。

○ゴミ捨て場
  漫画の参考書が積まれている。
  松岡、漫画用具を投げ捨てる。

○松岡家・前
  歩いてくる松岡、顔を上げる。
  ドアの前に竹内が立っている。

○同・中
  何も無い部屋に松岡と竹内。
竹内「この部屋、意外と広かったんだな」
松岡「……」
竹内「絵は描けよ」
松岡「……無理だ」
竹内「描いてくれよ」
松岡「俺の描く絵は自己中だった。そんな絵は意味がない」
竹内「だから。他人の為に描けよ。お前、他に何もないだろ」
松岡「……」
竹内「全国に名前を届けろ。もしかしたら会いに来てくれるんじゃって期待しな
 がらさ。そして会えたら頭を下げろ」
  チャイムが鳴る。
宅配人「すいません。お届け物です」
  松岡、ドアを開ける。
  宅配人、段ボールを松岡に渡す。
宅配人「ありがとうございます」
  と、立ち去る。
  段ボールを開ける松岡、中に瓶が大量に入っている。
  竹内、瓶から目を逸らす。
  松岡の目から涙が出る。
  松岡、瓶同士をぶつけて割る。
  血だらけになる松岡の手。
松岡「お前が羨ましい」

○ゴミ捨て場
  粉々になった瓶が捨てられている。

○田舎町・俯瞰
  一角に動物園が見える。

○玉ノ井動物園・入り口
  過疎化の進んだ園内。

○同・ライオンの檻の前
  乾いた地面に、水でライオンの絵が描かれる。
  猿の着ぐるみがジョウロを持っている。
  親子がライオンの絵と写真を撮っている。

○同・事務所・休憩室
  猿の着ぐるみの頭が椅子に置かれている。
  猿の着ぐるみを着た松岡、汗を拭う。
  飼育員が入り口から顔を出す。
飼育員「あー、松岡くん。リスの生態漫画、評判良いからカワウソとかも作っち
 ゃって」
松岡「はい。直ぐに」
飼育員「水で描く絵も、SNSで見たって人が来てるらしいよ」
松岡「そうなんですね」
飼育員「さっすがー!」
  と、立ち去る。

○同・同・エレベーター前
  松岡のスマホが鳴る。
  松岡、電話に出る。
松岡「はい」
竹内「(電話)あーもしもし」

○館之峯事務所・屋上
  電話をする竹内、コーヒーを飲んでいる。
竹内「読切でデビューが決まったよ」
松岡「(電話)よかったじゃん。まー俺も読切なら、やってるけどな」
竹内「それリスのやつでしょ」

○玉ノ井動物園・事務所・エレベーター前
松岡「あんまバカにすんなよ。気に入ってんだから」
  と、上ボタンを押す。
竹内「(電話)バカにはしてないよ。そろそろ戻って来ても良いんじゃないかな
 って」
松岡「もうちょっと居るよ。カワウソバージョンも描かないとだからさ」
竹内「(電話)そんな動物好きだったっけ?」
  エレベーターが開き、髪の伸びた明里がボタンを押している。
  明里、松岡を見て一礼。
松岡「すみません。ありがとうございます」
  と、軽く頭を下げて乗り込む。
松岡「まぁ。漫画の主人公が恋人だから、離れらんないんだよ」
  明里、松岡の顔を見る。
  エレベーターのドアが閉まる。
                 終わり

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