夜の惑星(R18) ドラマ

【R-18】高校教師の松岡千秋は関係を持ってしまった教え子・掛井のことがいつまでも忘れられない。離婚して学校を移った千秋は、年上の男・杜崎と付き合いはじめる。やがて再婚し子供を身籠る千秋だが、そんな彼女の前に数年ぶりに掛井が現れるのだった。
つくお 31 1 0 11/25
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第一稿

「夜の惑星」(200字詰123枚)

▼登場人物
松岡千秋(30)
掛井充宏(18)
杜崎清二(38)
下田成美(30)
平山宗太郎(18)
渡辺咲子(18)
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「夜の惑星」(200字詰123枚)

▼登場人物
松岡千秋(30)
掛井充宏(18)
杜崎清二(38)
下田成美(30)
平山宗太郎(18)
渡辺咲子(18)
下田悠(4)
松岡瑞恵(56)



○ある高校
  昼休みを告げるチャイムが、

○その裏に広がる雑木林にまで
  聞こえて来る。

○雑木林の細道
  白衣を羽織った化学教師・松岡千秋(30)が
  奥へと歩いていく。
  そのせかせかした足取り。
  辺りは木々に覆われて、昼間でも影が差してい
  る。
  千秋、ふと後ろを振り返る。
  あとからは誰もついて来ていない。
  千秋、再び歩きはじめる。
  行く手に掘っ建て小屋が見えて来る。

○掘っ建て小屋・表
  使われなくなって久しい小屋は、だいぶボロが
  きている。
  もとは農家の用具入れか何かだったらしい。
  壁に板が割れてできた隙間がある。

○同・内
  千秋が屈み込み、壁板の割れ目から外の様子を
  伺っている。
千秋「……(緊迫)」
  と、足音が近づいて来る。
  制服姿の男子が見える。
  三年生の掛井充宏(18)が押し入るように入
  ってくる。
  千秋と掛井、ぶつかるようにして抱き合い、互
  いに口を押しつけ合う。
  舌を絡ませ、激しく吸う。
  千秋、自ら服を捲り上げる。
  掛井がブラを押し上げ、胸を露わにする。
  掛井、千秋の胸にしゃぶりつきながら、ベルト
  を外す。
  千秋、掛井のモノを掴み、股がるようにして内
  に導き入れる。
  立った姿勢で繋がり、束の間、目を閉じて抱き
  合う二人。
  掛井、すぐに腰をぐいぐい動かしていく。
  千秋、壁に手をついて、掛井に合わせて腰を擦
  りつける。
  床板が軋む音と、二人の荒い息遣いだけが聞こ
  える。
  掛井、千秋の片足を持ち上げてより激しく突
  く。
  千秋、掛井の首にしがみつくようにして声を抑
  える。
  加減知らずに突き上げる掛井、低くうなって千
  秋の中で果てる。
  千秋、しがみついたまま流れ込んでくる相手の
  体液を感じている。
  掛井が抜くと、千秋はぐったりとなって床に座
  り込む。
  二人、一瞬目を合わせる。
  掛井、すぐに視線をそらし、背を向けてズボン
  を上げると、まるで逃げるようにして小屋から
  出ていく。
  残された千秋、乱れた服のまま瞳をうつつにさ
  まよわせる。

○またチャイムが
  雑木林に響いてくる。

○雑木林の細道
  白衣を羽織った千秋、せかせかと歩いていく。
  千秋、前方に気配を感じる。
  女子生徒二人が連れ立って細道を下ってくる。
女子生徒1「あ、松岡」
千秋「先生、でしょ。あなたたち何してるの、こん
 なとこで」
女子生徒2「秘密。先生は?」
千秋「私は――、秘密」
女子生徒2「けち」
  女子生徒二人、行く。
  千秋、女子生徒たちを見送る。
  その向こうから掛井が来るのが見える。
女子生徒1「掛井ぃ。何してんだよ」
掛井「何だよお前ら」
  千秋、向き直って歩きはじめる。
  少し行って振り返ると、掛井が女子生徒たちと
  来た道を戻っていくのが見える。
  掛井が振り返り、千秋を見る。
  二人、離れて一瞬見つめ合う。

○またもチャイムが
  雑木林に反響する。

○千秋の足が
  せかせかと行く。

○掘っ建て小屋
  千秋がドアに手をかける。
  同時にドアが開かれ、ぐいと腕を掴まれて中に
  引き込まれる。
  掛井が先に来ていたのだ。
  千秋、体勢を立て直す間もなく唇を奪われる
  が、すぐに反応を返す。
  掛井、息せき切って千秋のスカートをめくりあ
  げ、下着をずり下ろす。
  千秋もまた掛井のベルトを外し、下着の中に手
  を差し入れる。
  二人、性器をまさぐり合いながら床に寝そべ
  る。
  掛井を上にして折り重なり、上気しながら見つ
  め合う。
  掛井、千秋の膝を広げ、中に押し入る。
  千秋、ぐっと上気する。
  正常位で繋がるのははじめてだ。
  掛井、ぐいぐい腰を動かす。
  ぎこちないが一心不乱なセックス。
  千秋、掛井の尻を掴んでぐっと引き寄せる。
  掛井の動きがいっそう早まり、やがて全身を硬
  直させて千秋の中で達する。
  千秋、掛井にぎゅっとしがみつく。
  絞り出した掛井、抜いて起き上がろうとする。
  千秋、抱きしめて離さない。掛井が体を離そう
  とすると、足を絡めて許さない。
  掛井、千秋を見る。
  千秋もまた掛井を見る。
  掛井、応えるように抱き返す。
  千秋、目を閉じて掛井の体温を感じる。
  それも束の間、掛井は千秋を振りほどき、立ち
  上がって服を身に付ける。
  掛井、ドアのところで千秋を振り返る。
千秋「明日も来て」
掛井「……」
  掛井、振り切るように行く。

○高校・点景
  柔らかい日が差し込んだ誰もいない教室、廊
  下、昇降口、校庭など、いくつかのショット。
  校歌が聞こえてくる。

○同・体育館・外観
  中で卒業式が行われている。
  校歌を斉唱する声が聞こえる。

○同・理科準備室
  白衣姿の千秋、スプーンでコーヒーをかき混ぜ
  ながら窓の外を見ている。

○同・廊下
  傾いた日が差し込んでいる。
  千秋の足音がコツコツと響く。
  と、向こうから掛井が来る。隣りにはカノジョ
  らしき女子生徒。
  掛井、千秋に気づいて目をそらす。
千秋「卒業おめでとう」
カノジョ「ありがとうございます」
  千秋、掛井を見るが、掛井は視線を返さない。
  千秋、そのまま会釈してすれ違っていく。
  気持ちを抑えながら角を曲がり、壁に背をつけ
  て深く息を吸う。
千秋「……(胸が締めつけられて)」

○掘っ建て小屋・内(夕方)
  千秋、一人で台に腰かけている。
  壁板の割れ目から夕陽が差し込んでいる。
  千秋、床の埃がぬぐえている場所など、二人が
  交わった痕跡を見ている。

○千秋の部屋・内
  千秋とその母瑞恵(56)が一緒に荷物を梱包
  している。
  千秋は離婚したばかり。元夫の荷物はすでに運
  び出され、2DKの部屋はどこかがらんとした
  印象。
  瑞恵、アンティークの写真立てを手に取る。
瑞恵「これは?」
千秋「捨てて。彼のだから」
瑞恵「結構いいモノみたいだけど」
  瑞恵、渋々ごみ袋に入れる。
  黙々と作業を続ける千秋。
瑞恵「千秋、あんたまだ諦めたわけじゃないんで
 しょ?」
千秋「?」
瑞恵「バツイチなんか珍しくないんだし、まだいく
 らでも見つけられるんだから」
千秋「分かってるから」
  千秋、ふと手に取った簡易アルバムに、掛井の
  写った写真を見つける。
  学校行事で生徒数人と一緒に撮ったものだ。
千秋「……(思わず見入る)」
瑞恵「一人だとさびしいわよ」
  千秋、母の言葉を聞き流し、アルバムをダンボ
  ールに詰めて閉じる。

○路線バス・車内(一年後・夕方)
  千秋、座席で本を読んでいる。
  他に乗客はいない。
千秋のN「離婚したあと、私は新しい学校に勤めは
 じめた。すぐに一年が過ぎた」
  バス、停車する。
  千秋、本に集中して気づかない。
運転手「着きましたよ」
  千秋、顔を上げる。
千秋「すいません」
  本をしまいながら、あわてて降りる。

○千秋のマンション・表(夕方)
  千秋、帰ってくる。
  郊外住宅地にある、いくらか築年数の経った三
  階建てマンション。

○同・階段(夕方)
  郵便物をあらためながら階段を上る千秋、ふい
  に足を止める。
  「結婚しました」という写真入りの葉書であ
  る。学生時代の友人・成美からのものだ。
  千秋、相手の男をじっと見つめる。

○大きな池のある公園
  成美(31)が池のほとりの大きな木の前に立
  っている。
  千秋が来る。
  成美、千秋に手を振る。
   ×   ×   ×
  歩きながら話をする千秋と成美。
千秋「びっくりした、下田さんと結婚するなんて」
成美「千秋が結婚して研究室やめたでしょ。で、ア
 テなく取り残された私に、あぶれてた下田先輩が
 寄ってきたの。他に女がいなかったのよ」
千秋「そんなこと――」
成美「あるの」
  笑い合う二人。
千秋「今、どうしてるの?」
成美「何にも。料理勉強したり、街出て買い物した
 り。千秋もいいわね、平日休みなんて」
千秋「講師は毎日じゃないから楽なの。担任も持た
 なくていいし」
成美「下田って何気に優秀だったでしょ。来年辺り
 もしかしたら助教授になれるかも」
千秋「そうなんだ」
成美「そうすればこっちも少しは安心。ね、時間あ
 るんだったら時々会おうよ」
千秋「うん」
  回りの景色を見回す二人。
成美「昔よく来たよね」
  千秋、うなずく。
成美「あそこに行ってみようよ」
千秋「え?」

○敷地内にある甘味処・お座敷
  千秋と成美、窓から池が望めるお座敷でくつろ
  いでいる。
  テーブルには団子と甘酒が出ている。
千秋「ここ、まだあったんだ」
  団子をかじる成美。
成美「味、同じ」
  千秋、甘酒をコクリと飲む。
千秋「これも」
  千秋と成美、笑い合う。
  千秋、おもむろに畳みに横になる。
成美「今それやったら完全におばさんだからね」
千秋「最近やけに眠くなるんだ」
成美「季節の変わり目とか?」
千秋「分からない」
  成美も真似して横になる。
  窓の外にぼんやり目をやる二人。
成美「今誰かいるの?」
千秋「え?」
成美「学校なんて出会いないでしょ? 誰か紹介し
 ようか」
千秋「平気」
成美「その言い方。いるんだ、誰か」
  千秋、答えない。

○商店街
  下町めいた雰囲気のある通り。
  千秋と杜崎清二(38)、並んで歩いている。
  千秋、ふいに手を握られてはっとする。
  横を見るが、杜崎は何を言うでもない。

○ラブホテル・一室
  薄暗がりの中、千秋と杜崎がベッドの中にい
  る。
  杜崎、千秋の体を起こして座位になり、尻を
  持って揺するようにする。
  千秋、声を漏らして感じていると、壁に掛けら
  れた鏡に自分の媚態が映っているのに気づく。
  それにさらに興奮を募らせていると、杜崎の背
  中に爛れがあるのを鏡越しに見つける。
千秋「……」
   ×   ×   ×
  杜崎、うつ伏せでぐったりしている。
  千秋、杜崎の背中にかかったシーツをそっと引
  き下げる。背中の爛れが露になる。
千秋「火傷?」
杜崎「子供のとき。油の入った鍋ひっくり返したん
 だ」
  杜崎、背中に手を回すが、傷には届かない。
杜崎「触れないし、見えないし、だからそんな傷な
 いような気もするんだけど、やっぱりあるんだな」
  千秋、鏡に映った杜崎の背中を見る。
  気を奪われていると、杜崎がキスをしてくる。
杜崎「久しぶりだったから」
千秋「私も」
  二人、もう一度キスをする。

○コインランドリー・内
  千秋、靴専用の洗い機に靴を二足入れる。
  コインを入れると洗濯がはじまる。
  と、携帯が鳴る。
  表示を見ると、未登録の番号である。
千秋「もしもし」
  千秋、応えながら表に出る。

○同・表
  相手からは応答がない。
千秋「もしもし?」
声「もしもし」
千秋「……誰?(もしかしてと思いながら)」
声「先生、おれ」
千秋「……掛井くん」
掛井の声「覚えてた?」
千秋「覚えてるも何も――」
  千秋、どぎまぎして言葉が出てこない。
  緊張を紛らすように歩きながら話す。
  足元の木製のサンダルがカラコロと鳴る。
千秋「どうして、番号」
掛井の声「理系だったやつに聞いたりして。そした
 ら科学部のやつが知ってたから。迷惑だった?」
千秋「平気だけど」
  沈黙。
千秋「どうしたの?」
掛井の声「別にどうってことはないんだけど……」
  両者とも、言葉を探す。
千秋「大学、行ったんだよね?」
掛井の声「今、京都にいる」
千秋「全然知らなかった。大学はどう?」
掛井の声「別に、面白くないよ」
千秋「彼女は? 高校のときの」
掛井の声「別れた。こっち来る前に」
千秋「そうなの」
掛井の声「今は大学のやつと付き合ってる」
千秋「そう」
  千秋、どう反応していいか分からない。
千秋「なんかはじめてだね」
掛井の声「え」
千秋「こうやって話するの」
掛井の声「先生のこと、何も知らないから。授業受
 けたわけでもなかったし」
千秋「だよね(と苦笑い)。なんか、変な感じ」
掛井の声「またかけてもいい?」
千秋「……うん」
掛井の声「じゃ、また」
千秋「うん」
  電話が切れる。
  千秋、未練が残って携帯を見つめる。
  と、足元に小猫が寄ってくる。
  千秋、しゃがみこんで小猫を撫でる。
千秋「どうした?」
  小猫、「みぃ~」と鳴く。

○千秋の部屋・内
  千秋、床の皿にミルクを入れる。
  子猫、ミルクを舐める。
   ×   ×   ×
  千秋、くつろいでいる子猫に鈴のついた首輪を
  巻いてやる。
  それから一緒に床にごろ寝する。
  千秋、気持ちよさそうに目を閉じる。

○同・内
  うたた寝をしていた千秋、目を覚ます。
  小猫がいない。
千秋「みぃたん?」
  名前を呼びながら室内を覗いて回る。

○同・浴室
  千秋、窓がわずかに開いているのを見つける。
  猫はそこから出ていったらしい。

○住宅街
  千秋、猫を探して歩く。
  と、携帯が鳴る。
  掛井からだ。
千秋「はい」
掛井の声「先生、久しぶり」
千秋「久しぶりって、さっき話したばかりなのに」
掛井の声「何それ」
千秋「え? 何って――」
  千秋、違和感を覚えるが、それ以上は言葉にし
  ない。
掛井の声「何してたの?」
千秋「猫、探してた」
掛井の声「猫?」
千秋「窓から逃げちゃって」
掛井の声「掛け直そうか?」
千秋「平気」

○公園
  千秋、探し回りながら話している。
掛井の声「一日ゲームしてるだけで一万くらいもら
 えるんだ」
千秋「そんなバイトがあるんだ」
掛井の声「すぐ飽きるから結構辛いんだけど」
千秋「大学もちゃんと行かなきゃダメだよ」
掛井の声「えー、いいよ。バイトの方が色んな奴い
 て楽しいし」
  千秋、ブランコに座る。
千秋「掛井くん」
掛井の声「何?」
  千秋、言い出しかねる。
千秋「うぅん」
掛井の声「何」
  と、かすかに鈴の音が聞こえる。
  振り返ると奥に竹林がある。
千秋「鈴の音」
掛井の声「え?」
千秋「首輪についてるの」
  と、携帯が「ピーピーピー」と鳴る。
千秋「ごめん。バッテリー切れちゃう。また電話し
 て」
  慌てて言い募る千秋。
  返事が聞けないまま電話が途絶える。
千秋「……」
  またかすかに鈴の音が鳴る。
  千秋、音のした方を見るが子猫の姿は見えな
  い。

○千秋の部屋・台所
  千秋、台所で夕飯の支度をしている。
  玄関の開く音がする。
千秋「?」

○同・玄関
  千秋、来る。
  杜崎が靴を脱いでいる。
杜崎「ただいま」
千秋「あの――」
杜崎「近くでみぃたんみたいな猫見たけど」
千秋「え?」
杜崎「どうした?」
千秋「窓から逃げちゃって」
杜崎「じゃあ本当にみぃたんだったのか。まぁその
 うち帰ってくるよ」

○同・台所
  杜崎と千秋、来る。
千秋「あの」
杜崎「お、よかった。連絡しなかったからおれの分
 ないかと思った」
  杜崎、フライパンの蓋を上げて中を見たりす
  る。
千秋「え?」
  千秋、自分で改めて見てみると、テーブルに食
  器が二人分用意してある。
千秋「……(戸惑う)」

○同・寝室(深夜)
  千秋と杜崎、ベッドに寝ている。
  千秋、何か聞いたように思い、ふいに目を覚ま
  す。
杜崎「隣り、子供いるみたいだな」
千秋「?」
杜崎「引っ越してきてからまだ顔も見てないけど。
 そんなもんか」
  千秋、耳を澄ます。
  赤ちゃんの泣き声が壁越しにくぐもって聞こえ
  てくる。
杜崎「こないだ勧められたやつ、やってみるか」
千秋「え?」
杜崎「体外受精。切り替えるなら早い方がいいって
 言われただろ」
千秋「……」
杜崎「やれるだけやってみよう」

○大きな池のある公園
  成美、赤ん坊を抱いて池のほとりの大きな木の
  前に立っている。
  千秋が来る。
  成美、千秋に手を振る。

○敷地内の甘味処・お座敷
  くつろいでいる千秋と成美。
  テーブルには団子と甘酒が出ている。
  成美、畳にタオルケットを敷き、赤ん坊を寝か
  せる。
成美「新しい旦那とはどう?」
千秋「うん……」
  赤ちゃんがむずがる。
成美「お腹空いたみたい」
  成美、ためらいもなく乳房を出す。赤ん坊を抱
  えて乳首をくわえさせる。
成美「下田がね、お乳あげてるとおれにもくれって
 言うの」
千秋「……」
成美「強引に吸い付いてくるの。けっこうそういう
 ところあるのよね、あの人」
  千秋、唐突にあけすけな話をされ、うまく反応
  できない。
成美「あなたにもそうだった?」
千秋「え?」
  成美、薄笑いする。
成美「あなたの最初のダンナ、何度も私のところに
 来たの。知ってる?」
千秋「……え?」
成美「結構しつこかったんだから」
千秋「どうして?」
成美「もう覚えてないけど」
  千秋、激しく動揺している。

○千秋の部屋・寝室(深夜)
  ベッドの中の千秋、寝つけずにいる。
  壁越しに赤ん坊の泣き声が聞こえる。
  千秋、上半身起きあがる。
  再びベッドにもぐり込む。
杜崎「大丈夫か?」
千秋「うん。ちょっとお水飲んでくる」

○同・台所(深夜)
  千秋、冷蔵庫からペットボトルを出し、一口飲
  む。
  いつの間にか夜泣きがやみ、隣りの夫婦の営み
  の声が聞こえてくる。
千秋「……」

○路線バス・車内(夕方)
  千秋、バスに揺られてうとうとしている。
  バスが停まる。
  千秋、ふっと目を開ける。
  と同時に、携帯が着信を受けていることに気が
  つく。
  千秋、電話に出ながらバスを降りる。
千秋「もしもし」
  反応がない。
  バス、行く。
千秋「もしもし?」
掛井の声「先生、おれ」
  千秋、ほっとした表情。

○住宅街(夕方)
  歩きながら携帯で話す千秋。
掛井の声「今青森にいるんだ。このまま北海道まで
 行ってみようと思って」
千秋「いいな、なんか若くて」
掛井の声「まったく盛り上がってないけど」
千秋「どうして?」
掛井の声「こっちでケンカ別れ」
千秋「カノジョ?」
掛井の声「んん」
千秋「それで電話してきたんだ?」
掛井の声「まぁ、なんつーか」
  千秋、笑う。

○堤防(夕方)
  千秋、遠回りをして歩きながら、携帯で話して
  いる。
千秋「大学辞めてどうするの?」
掛井の声「別に、予定なし」
千秋「平気?」
掛井の声「なんとかなるっしょ。そういえば猫、
 戻ってきた?」
千秋「あれっきり」
  千秋、茜色の夕焼け空を見る。
千秋「そっちでも見える、夕焼け?」
掛井の声「見える。今、川の近くにいるんだ」
千秋「私も」
掛井の声「偶然だね」
千秋「うん」
  千秋、しばし風景に見入る。
千秋「京都にいても青森にいても分からないね」
掛井の声「ん?」
千秋「掛井くんが本当にいるかどうかも分からない
 気がする」
掛井の声「想像上の人かもね」
千秋「それとも、夢でも見てるのかな」

○千秋の部屋・台所(夜)
  千秋、林檎の皮を剥いている。
杜崎「ケイコ」
千秋「?」
杜崎「病院、どうだった?」
  千秋、応えないでいる。
杜崎「ケイコ」
  千秋、ケイコって誰かと杜崎を見る。
  杜崎、ようやく呼び間違えていたことに気がつ
  く。
杜崎「ごめん」
千秋「結婚しかけたって人?」
  杜崎、ばつ悪そうにうなずく。
千秋「ダメだった、病院」
杜崎「そうか」

○道(夜)
  千秋、走っている。

○コンビニ・店内(夜)
  千秋、駆け込む。
千秋「落とし物、届いてませんか?」
店員「え?」
千秋「携帯。今日の夕方、ここで買い物したんです
 けど」
  店員、申し送りのノートを開いて確認。
店員「ないみたいですね」
千秋「そうですか」
  千秋、頭を下げて出て行く。

○道(夜)
  千秋、走る。
  その必死な表情。

○バス会社(夜)
  バスが整然と駐車してある。

○同・事務所(夜)
  千秋、カウンター前で待っている。
  いつも乗るバスの運転手がくる。
運転手「こちらですか?」
  携帯を見せる。
千秋「はい。ありがとうございます」
  千秋、その場で携帯をチェック。
  着信の通知がある。掛井からだ。
  千秋、ふいに記憶に違和感を覚える。
千秋「あの、私、バスで電話してましたか?」
運転手「眠られてたみたいですけど。いつもよく眠
 られてます」
千秋「……(何か釈然としない)」

○同・表(夜)
  千秋、すぐに掛井に電話をかける。
  と、「この番号は現在使われておりません」と
  音声案内が流れる。
千秋「!」
  千秋、もう一度かけ直す。
  やはり、音声案内が流れる。
  千秋、呆然と立ち尽くす。

○高校・理科準備室(時間経過)
  白衣の千秋、ビーカーを使ってコーヒーを淹れ
  ている。
千秋の声「それ以来、掛井くんとは連絡が取れなく
 なった。春になって、私は夫と距離を置くことに
 した」
  千秋、いったん部屋から出る。
  ドリッパーからコーヒーが垂れ落ちる。

○同・倉庫
  三年生の平山宗太郎(18)と渡辺咲子(1
  8)が下半身だけ脱いでセックスしている。
  咲子はシャツの前もはだけている。
  宗太郎、机の上に座る咲子の足を開き、生でね
  じ込もうとする。
咲子「ゴムつけて」
宗太郎「忘れた」
咲子「ダメ(と足を閉じる)」
  宗太郎、渋々脱いだズボンのポケットからゴム
  を出し、咲子の前で装着。
咲子「持ってるじゃん」
宗太郎「入れるぞ」
  宗太郎、挿入する。
  咲子、表情を歪める。
宗太郎「まだ痛い?」
咲子「でも慣れてきた」
宗太郎「ゆっくりするから」
  宗太郎、腰を使いはじめる。
  咲子、耐えているような感じているような表
  情。
  いきなりドアが開く。
  入り口に立っているのは千秋である。
  千秋、一瞬訳が分からないがすぐに状況を理解
  し、あわててドアを閉める。
  宗太郎と咲子、繋がったままドアの方を見て固
  まっている。
宗太郎「ヤバイかな」
  咲子、宗太郎を見る。
  宗太郎、腰の動きを再開する。

○同・理科準備室
  千秋、コーヒーをマグに注ぐ。
  ドアが開き、宗太郎が入ってくる。
宗太郎「千秋センセ」
千秋「あなた」
宗太郎「三年の平山っす」
千秋「今授業中でしょ」
宗太郎「すんません」
  千秋、仕方ないなという顔をする。
千秋「コーヒー、飲む?」
宗太郎「いただきます」
  ちゃっかり座る宗太郎。
千秋「あとで手伝って。倉庫から机出さなきゃいけ
 ないから」
宗太郎「はーい」

○学校付近のバス通り(夕方)
  バス停へと歩く千秋。
  通りかかりに公園がある。
  千秋、公園内が騒がしいのに気づく。見ると、
  宗太郎と咲子である。
  宗太郎も千秋に気づく。
宗太郎「センセー(と手を振ってくる)」
  宗太郎、千秋を手招きする。
千秋「?」
宗太郎「花火やろうぜ!」

○公園
  ネズミ花火が駆け回る
  きゃーきゃー言って逃げ回る咲子。
  それを見て笑っている宗太郎、さらにネズミ花
  火を放つ。
  手持ち花火をやりながらそれを見ている千秋。
   ×   ×   ×
  ヘビ花火がうねうねと伸びていく。
  その回りにしゃがみこむ三人。
  花火を興味津々に見ている宗太郎。
  千秋、暗い表情の咲子に気がつく。
千秋「……どうしたの?」
  千秋、咲子の手に触れようとする。
咲子「触るな!」
  咲子、急に逆上して走り去る。
宗太郎「咲子!」
  咲子、そのまま行ってしまう。
  千秋、説明を求めるように宗太郎を見る。
宗太郎「たまにあぁなるんだ」
千秋「どうして?」
  宗太郎、はっきりとは答えない。
宗太郎「千秋センセ」
千秋「?」
宗太郎「セックスっていいよね」
千秋「場合によるけど」
宗太郎「大人ぁ」
千秋「ごまかさないで」
  宗太郎、別の花火に火をつける。
宗太郎「あいつん家、親が宗教入ってるんだ」
千秋「?」
宗太郎「子供の頃からそういう教えで来てるから、
 たまにバランス取れなくなるっていうか」
千秋「……」
宗太郎「マズイらしいんだよね、肉欲とかそういう
 の。だから、そういうことそそのかすような奴は
 悪魔なんだって、あの人たちから見たら」
千秋「アクマ……」
宗太郎「センセ、俺、悪魔かな」

○高校・中庭(後日)
  白衣の千秋、歩いている。
  向こうから咲子が来る。
千秋「おはよう」
  咲子、無視して行く。
千秋「……」

○同・理科準備室
  千秋が来ると、宗太郎がいる。
千秋「平山くん」
宗太郎「おれ、ふられちゃった」
千秋「……そう」
宗太郎「なんか一気にやる気なくなった。もう全然
 話通じなくてさ」
千秋「お茶入れようか」
  と、宗太郎が後ろからいきなり抱きついてく
  る。
  千秋、掴んだお茶缶を落とす。
  宗太郎、千秋の胸を揉みしだく。
千秋「ちょっと、平山くん、やめて」
  宗太郎、服の裾をめくりあげて中に手を突っ込
  む。
  千秋、その手を掴む。
千秋「ダメ」
宗太郎「うるせぇ!」
  千秋、ビクッとして手を離す。
  宗太郎、下着を脱がせて後ろから挿入。
  自由を奪うように腕ごと抱きしめ、半泣きで腰
  を動かす。
  千秋、苦悶の表情。
  宗太郎、すぐに果てる。
  宗太郎、千秋に抱きついたまま泣く。
千秋「……」

○杜崎の車が走る
  杜崎と千秋。
千秋のN「杜崎がもう一度やり直したいと言い出
 し、私は賛成した」
杜崎「この辺だろ、前に勤めてた学校って」
  千秋、流れる街並みを見ている。

○高校裏の雑木林
  千秋、掘っ立て小屋を目指して歩く。
  杜崎はやや遅れているが、待たずに行く。
   ×   ×   ×
  千秋、細道の先にちらりと人影を見る。
  一瞬、それが掛井のように思われ、足が止ま
  る。
千秋「掛井くん……」
  千秋、尚更足が早まる。
杜崎「おい……」
   ×   ×   ×
  掘っ建て小屋が見えてくる。
  千秋、誰かが小屋に入るのを見る。
  その後ろ姿は掛井のものだ。
  千秋、急ぐ。

○掘っ立て小屋・前
  千秋、おそるおそるドアを開ける。
  しかし、中には誰もいない。
千秋「……(妙な感覚に襲われ)」
  杜崎、遅れて来る。
杜崎「千秋」
  千秋、振り返る。
杜崎「どうした?」
  千秋、何でもないというように首を振る。

○千秋のお腹に耳を当てる杜崎
千秋のN「思いがけず、妊娠が分かった。でも杜崎
 の子なのか平山くんの子なのか、自分でもよく分
 からなかった……」
  場所は千秋の部屋である。
杜崎「……(何か聞き取ろうとするように)」
千秋「まだ二か月だから」
杜崎「そうだな」
  そう言いつつも顔が緩んでいる杜崎。
杜崎「義父さん義母さんには?」
千秋「安定期に入ったらでいい。期待されたくない
 し」
杜崎「うまくいくって」
千秋「うん……」

○テーブルの上の携帯が鳴る
  千秋、表示を見ると未登録の番号である。
  通話ボタンを押し、耳に持っていく。
千秋「はい」
声「先生、おれ」
千秋「……掛井くん?」
  千秋、一瞬言葉を失う。
掛井の声「今、平気?」
千秋「前の番号、繋がらなくなってたから」
掛井の声「ゴメン。色々あって」
千秋「どうしたの?」
掛井の声「今日、暇ある?」
千秋「え?」
掛井の声「会えないかと思って」
千秋「いきなりそんなこと言われても」
掛井の声「やっぱイヤだよね」
千秋「イヤとかじゃなくて……」
掛井の声「急に先生と会いたくなったんだ」
千秋「……(迷う)」

○駅前ロータリー
  千秋、待っている。
  と、目の前に軽自動車が停まる。
  運転席の掛井、軽く手をあげる。

○掛井の車・車内
  掛井と千秋。
千秋「掛井くんの車?」
掛井「中古で買った。ダサいけど」
千秋「久しぶりすぎて何話していいか分からない
 ね」
  掛井、千秋の手を取る。
  千秋、掛井を見る。
掛井「会いたかった」

○ラブホテル・一室
  ベッドの上。
  うつ伏せの千秋に、掛井が折り重なってつな
  がっている。
  どこか盛り上がっていない。
千秋「向い合わせがいい」
  掛井、いったん抜いて千秋を仰向けにし、再び
  挿れる。
千秋「ん」
  掛井、千秋の手を握る。
掛井「指輪、前と違う」
千秋「ダンナ、変わったから」
  掛井、キスをする。
  濃厚に舌を絡めながら腰を動かす。
  千秋を仰向けにし、腰を持ち上げるようにして
  突き上げる。
千秋「もっとして。もっと」
  掛井、激しく突く。
千秋「もっと!」
  掛井、最後に千秋を突き飛ばすように腰を突き
  出す。
  千秋、ベッドで弾み、そのままぐったりとな
  る。
  掛井、千秋の隣りに身を横たえる。
  千秋、気づかれないようにお腹にそっと手をや
  る。
千秋「ねぇ、どうして?」
掛井「?」
千秋「今になって会いたいって」
掛井「……見たんだ、先生のこと」
千秋「どこで?」
掛井「あの小屋のとこで」
千秋「……行ったの?」
掛井「(うなずく)それで、どうしてもまた会いた
 くなって」
千秋「私も見た、掛井くん。あそこで」
  掛井、「?」と千秋を見る。
掛井「いいよ、合わせてくれなくても」
千秋「ううん、本当に……」
  千秋、ふと口をつぐむ。
掛井「何?」
  千秋、なぜか怖くなり何も言えなくなる。

○駅前ロータリー(夜)
  掛井の車が停まっている。
  その車内、掛井と千秋が別れがたい思いで座っ
  ている。
千秋「そろそろ帰らないと」
掛井「最後にした方がいいかな」
  千秋、掛井を見る。
  掛井もまた千秋を見る。
  二人、じっと見つめ合う。

○千秋の部屋・ベランダ(夜)
  千秋、ぼんやり外を眺めている。
杜崎の声「ただいま」
  千秋、室内をちらりと振り返る。
  杜崎、ベランダに出てくる。
杜崎「ここにいたのか」
  千秋、うなずく。
杜崎「とうした?」
千秋「ダメにしちゃった」
千秋のN「その後、私に子供がてきることはなかっ
 た」

○街(夕方)
  千秋が歩いている。
声「千秋センセ」
  振り返ると、路肩に停まった塗装業のバンの傍
  らに、作業着姿の宗太郎がいる。
千秋「平山くん」
  宗太郎、にこりと笑う。

○大衆酒場・店内
  千秋と宗太郎、飲んでいる。
  宗太郎、ぐいぐい飲む。
千秋「飲み過ぎじゃない?」
宗太郎「だって仕事つまんないんだもん。夢もチ
 ボーもありませんよ」
千秋「チボー」
宗太郎「おれさぁ、まだ忘れらんないんだよね、咲
 子のこと。千秋センセにもいる? 忘れられない
 男とか」
千秋「……」
宗太郎「……いつかはゴメン」
  千秋、首を振る。
宗太郎「おれ、謝ります(と頭を下げる)」
千秋「いいから」
  宗太郎、千秋の表情を伺い見て、うなずく。
宗太郎「どうしてアイツなのかな」
  千秋は千秋で、ぼんやりと掛井のことを思い出
  している。
宗太郎「たまに、自分がどこにいるんだか分からな
 くなるときってない?」
千秋「どういうこと?」
宗太郎「自分の中身がぽかーんと全部抜けちゃうみ
 たいな感じ。おれって本当にここにいるんだっけ
 みたいな気がすること、ときどきあるんだよね。
 夢だか現実だか分からないみたいな」
千秋「……(分かるような気もする)」

○街(夜)
  飲食店の並ぶ通り。
  千秋と宗太郎が歩いている。
宗太郎「アイツん家でも行ってみようかな」
  冗談交じりに言う宗太郎。
千秋「やめときなさいよ」
  千秋、何かを見つけて立ち止まる。
  杜崎が見知らぬ若い女と歩いている。
  その二人、バーに入っていく。
千秋「!」
宗太郎「どうしたの?」
  千秋、何でもないと首を振る。
千秋「ね、やっぱり行ってみれば」
宗太郎「え? でも今――」
千秋「いいから」
  宗太郎、笑う。
宗太郎「じゃ行ってみるわ。センセ、また飲もう
 よ」
  千秋、うなずく。

○大きな池のある公園
  成美が池のほとりの大きな木の前に立ってい
  る。
  成美は女の子(悠・4才)を連れている。
  髪の長い、無口な子である。

○敷地内の甘味処・お座敷
  千秋と成美、くつろいでいる。
  悠、成美の傍らに大人しく座っている。
  テーブルには団子と甘酒が出ている。
成美「どうしてるかと思ってた」
千秋「ゴメン」
成美「ツレないのね」
千秋「そうでもないんだけど」
成美「そうよ」
千秋「(悠のこと)大人しいね」
成美「まだ喋れないの」
千秋「(耳を疑うように)え?」
成美「変でしょ」
  千秋が見ると、悠はじっと見返す。
  成美、窓から池を見る。
成美「昔、ここで誰かが溺れ死んだんだって。
 知ってた?」
千秋「?」
成美「明治だか大正だか」
千秋「あぁ。どうして?」
成美「失恋して身を投げたの。バカよね」
千秋「そうなんだ」
成美「もう、こんな浅い池じゃ死ねないね」
千秋「浅いの?」
成美「浅いでしょ」
  成美、ふいに千秋に向く。
成美「あなた、誰のこと考えてるの?」
千秋「……」
成美「ねぇ、教えなさいよ」
千秋「……(背筋が凍る思いがする)」

○千秋の部屋・寝室(夜)
  千秋と杜崎、セックスしている。
  上になって自ら積極的に腰を擦りつけるように
  動く千秋。
  成熟しきった体が汗ばんでいる。
千秋「……イク」
  千秋、杜崎の体の上に倒れ込む。
千秋「もっとして」
  今度は杜崎が上になる。
  杜崎、ねちっこい動きで腰を使う。
杜崎「とろけそうになってるぞ」
  千秋、絶え間なく声を出してあえぐ。
  杜崎、腰使いが激しくなる。
千秋「あああぁあ、イク、イク!」
  千秋、シーツを掴んでまた達する。
  杜崎も後から達する。
  二人、へとへとになってベッドに寝転がる。
  杜崎、ティッシュを二、三枚取って千秋に渡
  す。
杜崎「なんかすごかったな」
千秋「ねぇ、もし私に他に好きな人がいたらどう
 する?」
杜崎「え?」
千秋「私は本当はずっとその人といるの」
  杜崎、意味がよく分からない。
  千秋、そのまま目を閉じる。

○携帯がけたたましく鳴る
  深夜、千秋の携帯が鳴る。
  千秋、ベッドから抜け出て隣室へ行く。
千秋「もしもし」
掛井の声「遅い時間にゴメン」
千秋「どうしたの? 何かあった?」
掛井の声「会いたい、もう一度」
千秋「え?」
掛井の声「今度で最後だから」
千秋「でも……」
掛井の声「明日の夕方、駅前で待ってる」
  掛井、強引に約束を取りつけると電話を切る。
千秋「あ……」

○駅前ロータリー(夕方)
  千秋、ぽつんと立っている。
  電車が過ぎてゆく。
  千秋、携帯で掛井に電話をかける。
千秋「……(応答を待つ)」
 「ただいま電話に出ることができません」と留守
  電の応答。

○千秋の部屋・寝室(深夜)
  千秋、寝つけないでいる。
  隣の杜崎は深い眠りの中である。
  千秋、サイドテーブルの携帯をじっと見てい
  る。
  と、携帯が着信を受けてがたがた揺れる。
  千秋、慌てて携帯を取りベッドから出る。

○同・ベランダ(深夜)
  千秋、そっとベランダに出る。
  携帯を耳に当てる。
千秋「今日、どうしたの?」
掛井の声「ごめん。急に用事入っちゃって」
千秋「だからって連絡くらい――」
掛井の声「もう一回仕切り直そう。明日の夕方、ま
 た同じ場所で」
千秋「私にだって予定があるんだから――」
掛井の声「明日なら絶対大丈夫だから」
千秋「でも」
掛井の声「どうしても会いたいんだ」
千秋「……」

○同・寝室(深夜)
  ベッドに戻る千秋。
  杜崎、ぼんやり目覚める。
杜崎「どうした?」
千秋「ちょっとトイレ」
  杜崎、再び眠りに落ちる。

○駅前ロータリー(夕方)
  千秋、ぽつんと立っている。
  電車が過ぎていく。
  千秋、携帯で掛井に電話をかける。
千秋「……(応答を待つ)」
 「ただいま電話に出ることができません」と留守
  電の応答。
  千秋、電話を切ってため息。

○千秋の部屋(夜)
  千秋と杜崎、食事をしている。
杜崎「最近よく寝言言ってないか?」
千秋「え?」
杜崎「何回か起こされたから」
千秋「言ってないと思うけど……」

○携帯が着信を受けて光る
  深夜の千秋の部屋。
  サイドテーブルの上でがたがた揺れる携帯。

○千秋の部屋・ベランダ(深夜)
  千秋、声を抑えて電話している。
千秋「約束しておいてどういうつもり? もう行か
 ないから。もしもし?」
  応答がない。
千秋「もしもし? からかってるの? もうやめよ
 うよ、こんなこと」
  応答がない。
  千秋、何かおかしいと思いはじめる。
千秋「掛井くん?」
声「誰ですか?」
  どこか不気味な男の声。
千秋「?」
声「あんた、誰?」
  千秋、携帯を確かめる。相手は掛井と表示され
  ている。
千秋「誰なの?」
声「……」
千秋「……」

○千秋の部屋・寝室(深夜)
  千秋、はっと目覚める。
  息が荒く、悪い夢を見ていたような心地。
  窓が開いていて、カーテンが風に揺れている。
  千秋、ベッドから出て窓を閉める。
  ふと手を止め、深夜の家並みを見る。
  ベッドの杜崎が低くうなる。
千秋「私、散歩したくなっちゃった」
  振り返ると、杜崎はうつ伏せに寝ている。
千秋「……(何か違和感を覚える)」
  杜崎の寝間着の裾がめくれ、背中が出ている。
  千秋、そっと寝間着をめくってみる。
  そこにあるはずの火傷の跡がない。
千秋「!」
  後ずさりする千秋、向こうをむいて寝ている男
  が誰なのか分からない。

○住宅街(深夜)
  千秋、寝間着に一枚羽織って歩いている。
  辺りは静まり返っている。

○あるアパート・表(深夜)
  千秋が通りかかる。
  壁越しに若い男女数人の騒ぎ声が聞こえる。
  千秋、興味を引かれて近づく。
  すると、声はふっと掻き消えてしまう。
  柵の隙間から覗こうとすると、部屋の灯りも落
  ちる。
千秋「……」
  どこかで風鈴が一鳴りする。
  それを最後に静寂が訪れる。
  千秋、何かを感じて振り返す。
  しかし、そこにはただ誰もいない風景があるだ
  けである。
千秋「……」
  千秋の横顔にふっと絶望がよぎる。

○大きな池のある公園(未明)
  成美が池のほとりの大きな木の前に立ってい
  る。
  成美は悠と手をつないでいる。
成美「あなた、誰のこと考えてるの?」

○住宅街(未明)
  静寂の中をさまよい歩く千秋。
  口の中で何かつぶやいているが、聞き取ること
  はできない。

○朝もやの校庭(未明)
  誰もいない校庭。
  かつて千秋が勤めた高校である。
  どこかから、かすかにチャイムが鳴るのが聞こ
  える。

○校舎裏に広がる雑木林(未明)
  千秋、朝もやの中をさまよい歩く。



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