かゆいことないすか? 日常

美容室でのシャンプー中に「かゆいことないすか?」と問われる主人公。 その言葉の意味とは……
ぽんこつ 33 0 0 11/01
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第一稿

ラジオ用の脚本です。

登場人物
副島祐介(36)客
田中太郎(27)美容師
あき・アッキー(28)女優
副島ゆり(34)祐介の妻
副島かな(13)祐介の娘

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ラジオ用の脚本です。

登場人物
副島祐介(36)客
田中太郎(27)美容師
あき・アッキー(28)女優
副島ゆり(34)祐介の妻
副島かな(13)祐介の娘

蛇口をひねって水が出る。

太郎「湯加減大丈夫ですか?」
祐介「はい、大丈夫です」
太郎「かゆいことないすか?」
祐介「え? あ、はい。ないです」
太郎「平和っすねー」

   ハサミで髪を切る。

祐介「あの、さっき言われてたことなんですけど」
太郎「はい。なんすか」
祐介「かゆい、ことって言いました?」
太郎「言いましたよ」
祐介「そうですよね。私、耳悪いんで聞き間違いかと」
太郎「あー、自分も耳悪いんすよね。大丈夫、間違ってないっすよ」
祐介「いや、間違いですね」
太郎「え?」
祐介「それ言うならかゆい、とこです」
太郎「いや、かゆいこと、っす」
祐介「とこです」
太郎「確実に、ことです。お客さん、なんか勘違いしてません?」
祐介「あれですよね? シャンプーしてて頭皮の痒みがあるかを聞くやつ。本当にかいてくれる
 か分からないやつ」
太郎「あー、うちはそのやつじゃないっすね」
祐介「え、じゃあ何のやつですか?」
太郎「世の中の不満? とか聞くやつです」
祐介「はい?」
太郎「だから、お客さんの人生のかゆいこととか、こんな奴がいてかゆいわーってことを聞いた 
 っす」
祐介「あー、んー、え?」
太郎「無いならそれが一番っす」
祐介「いや、あるよ。あるんだけどね。普通あのタイミングで聞くかね」
太郎「自分的には普通でした」
祐介「そっか。常識って知って……いや、普通とか常識って人それぞれか。ダメだなー、おっさ
 んになると。固くなる」
太郎「年取るにつれて? すげえ、現役バリバリじゃないすか!」
祐介「違うから。中学の時とかいちいちそういう言葉反応してたけど。あーもう、話が逸れた」
太郎「男の中の男」
祐介「はいはい。えっとー、かゆいことだよね?」
太郎「無理に話さなくて大丈夫っすよ」
祐介「言いたい」
太郎「あ、そうすか。どうぞ」
祐介「この前さー、アッキー結婚したじゃん。女優の」
太郎「確か、相手はIT社長でしたね」
祐介「そう、それ。別にいいんだよ、金持ち。仕事ができる証拠だろうし。魅力的なんだろう
 な。(ため息混じり)でもさ、なんかさ……」
太郎「今、下向くと危ないっす」
祐介「かゆいよねえ」
太郎「昔からあきちゃん、頭良い人好きだったんだよなー。おれと違うタイプの」
祐介「まさか、君も昔からのアッキーファンなのか?」
太郎「ファン歴なら誰にも負けない自信あるっす」
祐介「いーや、私の方が長い。デビュー直後から目つけてたから。十六歳だっけ」
太郎「十六歳と三か月です」
祐介「ほーう。まあまあ古参だね」
太郎「あき……アッキーに会いたいですか?」
祐介「そりゃもちろん! 会ったらガツンと言ってやりたいね!」
太郎「へえー。何を?」
祐介「そんな男より私の方が君を幸せにできる! だから私と結婚してくれ! ってね」
太郎「そう……ですか」

スマホのフリック音。

祐介「え、どうしたの。急にスマホで何か打ち込んで」
太郎「書いてるっす」
祐介「何を?」
太郎「お客さんのかゆいこと、書いてます。自分、あれなんすよ。不思議な力持ってて」
祐介「不思議な力?」
太郎「はい。自分がSNSに何か書き込むと、それが実現するんすよ。だからアッキーと出会え  
 ますようにって」
祐介「う、うそ、だろ……?」
太郎「うそっす」
祐介「う、うそ……?」
太郎「うそっす。そんなこと出来たら三回は地球救ってます」
祐介「何のために?」
太郎「何となくおもろいから?」
祐介「あー、分からない。面白いって」
太郎「お客さんなら信じてくれるって、信じてたっす」
祐介「バカにしてる?」
太郎「バカというかバカ真面目? いや、天然かな……良い意味で」
祐介「良い意味でって言っといたら、なんでもいいわけじゃないからね」
太郎「勉強になります」
祐介「(ため息)こないだ娘に言われたよ。パパ面白くなさすぎて、逆に面白いって」
太郎「それたぶん……良い意味で、っすよ」
祐介「知ってるよ。私が真面目で面白みのない人間ってことは。嫁さんのお墨付きだし」
太郎「頂いちゃってるんすね」
祐介「じゃあ面白いって何? どうすれば面白くなる? 教えてよって言うとね――」
太郎「そういうとこっすね」
祐介「って言うんだよ。こっちは真面目に考えてるのに」
太郎「まあ、面白いなんて人それぞれですか
 らね」
祐介「そこなんだよ。私には難しすぎてもう
 諦めた」
太郎「(笑う)やっぱ面白いですよ。お客さん」
祐介「あ、またバカにした」
太郎「いや、ほんとっす。気づかないもんですよねー」
祐介「え?」
太郎「面白いことって意外と落ちてるっす」
祐介「どこに落ちてるの?」

   ドライヤーの音。

太郎「ワックスつけますか?」
祐介「んー、大丈夫かな」

   ドアが開き、ドアベルが鳴る。
太郎「いらっしゃいませ……あ、あきちゃん。来てくれたんだ」
祐介「え、ちょ。え。は?」
あき「だって太郎、急いでる感じだったから。撮影だったけど、空き時間でなんとか」
太郎「ありがとう」
祐介「え、待って。アッキーだよね、あれ。え、本物? 夢?」
太郎「本物に決まってるじゃないですか」
祐介「いや、分かってる。分かってるよ。何回もこの目に焼き付けてるから。え、逆に何でスッ 
 と受け入れられるの? この状況」
太郎「自分が呼びましたからね」
祐介「待って待って。追いつかない。まさかあの時? き、君何者?」
太郎「幼馴染っす」
祐介「(困惑した声で)あ、あ、あ。あー」
あき「で、どうしたの? 伝えたい事って」
太郎「実は……あ、その前にこの人から言いたいことがあるって」
祐介「な、な、な。ちょ、おま」
太郎「(小声で)ガツンと言ってやるって言ってたじゃないですか」
祐介「(小声で)それとこれとは別だって」
あき「その人、お客さん?」
太郎「うん。あきちゃんの大ファンらしい」
あき「そうなんですね。応援ありがとうございます」
祐介「あ、いや。あの。い、いつも見てます」
あき「あの、言いたいことって?」
祐介「それは、何というか、あれ、です」
あき「(キョトンと)はあ」
祐介「ご、ご、ご結婚おめでとうございます」
あき「(笑う)ありがとうございます」
祐介「(過呼吸)無理、無理無理」
太郎「(苦笑い)」
祐介「何笑ってんの。君のせいだからね」
太郎「すみません」
祐介「(困惑した声で)そ、そんな真剣な顔で謝まられてもゆ、許さないよ
(小声になっていく)」
あき「太郎の話って?」
太郎「いや、おれは……」
あき「また今度でもいい? 早く行かないと撮影始まっちゃうし」
太郎「あ、うん」
祐介「(小声)なんか知らないけど、おれに言わせといてそれはない。ガツンといけ!」
太郎「う、うっす」
あき「じゃあまた!」
太郎「待って!」
あき「ん?」
太郎「どこぞのIT社長よりおれの方があきちゃんを幸せにしてみせる! だからおれと結婚し
 てくれ!」
祐介「え、え、え。な、何が……」

   カラー剤をかき混ぜる音。

太郎「ほんとにいいんですか? 染めますよ」
祐介「うん、大丈夫」
太郎「じゃあ塗っていきますけど、急にどうしたんすか? 金髪にしたいって」
祐介「私も気合を入れ直さないとってね。あんなもの見せられたら」
太郎「あ、あー。振られちゃいましたけどね」
祐介「あの様子だと、ずっと前から?」
太郎「そうっすね。小学校三年くらいから」
祐介「地元一緒だったんだ」
太郎「はい。めちゃくちゃ田舎で。缶蹴りとかよくしてたなー。あきちゃんめっちゃ強くて(鼻
 をすする)」
祐介「君、太郎君はさ――」
太郎「(苦笑い)自分、太郎って感じしないっすよね。おもろいっすよね」
祐介「何でかゆいこと……聞いてるの?」
太郎「意味なんかないっすよ。何となくおもろいから?」
祐介「真面目に」
太郎「か、鏡越しの目力やば。(ため息)まあ、何ていうか」
祐介「うん」
太郎「『こないだ髪切りに行ったら、変な美容師いてさー』くらいのノリで楽しんでくれたら嬉 
 しいんす」
祐介「……そっか」
太郎「ガチなこと言うのってかゆいっすね。(鼻をすする)」
祐介「勇気貰えたよ。私もいろいろ頑張ってみる」
太郎「てか、会社的に大丈夫なんすか? 金髪って」
祐介「あー、私バンドマンだから」
太郎「ええ、じゃあ何でスーツ?」
祐介「私服だけど?」
太郎(泣き笑い)やっぱ、面白いですよ。お客さん」

   咀嚼、汁をすする、食器の音。

祐介「なんとそこで『どこぞのIT社長よりおれの方があきちゃんを幸せにしてみせる! だか
 らおれと結婚してくれ!』って言ったわけ」
娘「(もぐもぐしながら)うん」
祐介「なんと、その美容師がアッキーの幼馴染だったんだよ。それでなんと――」

   食器を机に置く。

娘「ごちそうさま」
祐介「あ、話はまだ――」
娘「嘘のエピソード話すならもっと上手くしないと、冷めちゃうよパパ」
祐介「いや、これほんとの話で……」
娘「あとその金髪似合ってないから」

   階段を上がっていく。

祐介「(ため息)」
ゆり「珍しいやん。あんたからあの子に話するって。
 普段からあんま人と喋らんようにしてんのに」
祐介「(苦笑い)面白くないのがバレちゃうからね。ゆり、どこがダメだった?」
ゆり「全体的に長いな。あと、『そこでなんと!』とか使いすぎ。何で落としたいか分からへ
 ん。オチを意識せな」
祐介「う、的確。さすが本場大阪で生まれた大のお笑い好き」
ゆり「まあ、いろんな人に話してみんとコツ掴めへんしな。でも、どうしたん急に?」
祐介「……人と話してみようかなって。たぶん面白い、から」
ゆり「それで話す練習。あわよくば笑わせたろってか」
祐介「す、鋭い」
ゆり「あほやな。ほんまにおもんない奴と私が結婚するわけないやん」
祐介「え?」
ゆり「まあええけど。はよ食べな。冷めるで」
祐介「あ、うん」

   ハサミで髪を切る。

祐介「『それだと冷めちゃう』って娘に言われてさ。その時、私の心の方がカチンコチンに冷え
 ちゃったよ」
太郎「なんすか、それ?」
祐介「あ、いや……難しいな」
太郎「よく分かんないすけど……そういや自分もかゆいことあったっす」
祐介「お、なになに?」
太郎「あれからあきちゃんと連絡つかなくなりました……カチンコチンっす」
祐介「(笑う)そりゃ、かゆいね」
太郎「(笑う)かゆいっす」
                   完

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