たとえ世界を敵に回しても、私はトイレに行く ドラマ

「もし君が、本気で尿意を催しているのなら、トイレに行くべきだ。例え世界を敵に回しても、ね」 2030年。浅見詩織(22)はタイムマシン工学を専攻する大学4年生。幼少時のとある出来事のために、研究室のタイムマシンを利用して2013年へとタイムスリップする。 しかし着いて早々、この時代の大学生・葵登(22)と、2060年からやって来た岸大樹(22)の2人に見つかってしまい……。
マヤマ 山本 21 0 0 10/26
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第一稿

<登場人物>
浅見 詩織(5)(22)現代で誘拐された少女、未来から来た大学生
葵 登(22)(39)現代の大学生、未来の大学の准教授
岸 大樹(22)詩織よりさらに未来から ...続きを読む
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<登場人物>
浅見 詩織(5)(22)現代で誘拐された少女、未来から来た大学生
葵 登(22)(39)現代の大学生、未来の大学の准教授
岸 大樹(22)詩織よりさらに未来から来た男
岸 広樹(24)未来の大学院生
木嶋 (28)誘拐犯
榛名 (35)同
詩織の母(33)

刑事
ラジオDJ   声のみ



<本編> 
○繁華街(夜)
   T「2013年12月25日」
   クリスマスムード一色。

○倉庫・外観(夜)
   一転、人気も無く真っ暗な倉庫街の一角。

○同・小部屋(夜)
   真っ暗で、狭い室内。手を縛られ口にガムテープを貼られた状態の浅見詩織(5)。上等な服を着ており、非常に怯えた様子。
詩織M「自分が絶体絶命のピンチの時」
   部屋の外からさらに大きな音がする。ますます怯える詩織。
詩織M「命懸けで助けてくれるヒーローなんて、この世にはいない」
   開く扉。光が漏れてくる。導かれるように部屋から出て行く詩織。

○同・中(夜)
   部屋から出てくる詩織。
   二台のバイク(うち一台はサイドカー付き)に乗って去って行く橙、緑、紫色のライダースジャケットとヘルメットを身にまとった三人組の男女。
   なお、以降登場するヘルメットは全てフルフェイスのため、着用時に顔は見えない。
詩織M「最後に自分を助けてくれるのは、結局自分自身なのだ」

○メインタイトル『たとえ世界を敵に回しても、私はトイレに行く』

○大学・外観
   T「2030年」
   「東京クリエイティブ学院大学」と書かれた看板。

○同・研究室・外
   「タイムマシン工学研究室 葵登准教授」と書かれた表札。
葵の声「最後に、もう一度注意しておくよ」

○同・同・中
   向かい合って立つ詩織(22)と葵登(39)。詩織の脇にはタイムマシン(筒状の形で小窓が一つあり、多数のケーブルでつながれている)がある。
葵「過去を改変する事は、私としてはあまりおすすめできない。結果、現代にどのような影響が出るかも、まだ研究途中だ」
詩織「歴史改変を禁止する法案、早く成立するといいですね」
葵「こんな所で政治家を皮肉っても仕方ないだろう。それより、過去に行っても、その時代の人間との関わりは最小限にとどめるんだよ?」
詩織「わかってます。それでも私は、私を助けに行きます。その結果、私自身にどんな影響が出たとしても」
葵「君の武運を祈っているよ」
詩織「ありがとうございます。では、行ってきます」
   タイムマシンに乗り込む詩織。中には多数の機械。それらを操作する詩織。
詩織「葵先生。もしかしたらこれが最後になるかもしれません。何かはなむけの言葉をお願いできませんか?」
葵「そうだな……よし」
   「一〇秒前」というアナウンス。
葵「もし君が、本気で尿意を催しているのなら、トイレに行くべきだ。例え世界を敵に回しても、ね」
詩織「……は?」
   ドアが閉まる。タイムマシンがものすごい光を発する。

○タイムマシン内
   中央の回転椅子に腰掛ける詩織。
   小窓越しに見える、手を振る葵。
   室内の計器。表示される数字が「2030」から徐々に小さくなっていく。
詩織「何が言いたかったんだよ~!」
   大きく振動する室内。
    ×     ×     ×
   「2013」と表示された計器。
   立ち上がる詩織。
詩織「着いた……ここが、二〇一三年……」
   ドアを開ける詩織。
   目の前に立っている葵登(22)と岸大樹(22)。以降、登はずっと橙色の服を着ている。
   しばしの沈黙。
   無言のまま、ドアを閉める詩織。
詩織「ヤバい、もう過去の人間に見つかっちゃった。え、何で? え、どうする? どうする? ……うん、大丈夫。まだコレがタイムマシンだとはバレていないハズ。私が未来人かどうかも以下同文。上手くごまかせば、まだ大丈夫。よし」
   ドアを開ける詩織。目の前に立っている葵と岸。
登「パねぇ、これもタイムマシンか」
岸「かなり初期のヤツですね……多分、二〇三〇年くらいの……」
   無言でドアを閉める詩織。
詩織「ヤバい、諸々バレてる。え、何で?」

○廃工場・外
   詩織の乗ってきたタイムマシンと、それに似た形で一回り大きいタイムマシンが並んでいる。
   簡易なテーブルを囲む詩織、葵、岸。岸は煙草を吸っている。
詩織「浅見詩織です。二二歳です……」
登「マジか。俺らとタメじゃん。パねぇな」
詩織「生きてる時代が違いますけど」
登「なぁ、何年後から来たんだよ?」
詩織「二〇三〇年です」
登「って事は、一七年後? パねぇ。意外とすぐじゃねぇかよ時間旅行!」
岸「この時代に来たのは、観光ですか?」
詩織「いえ、ちょっと用事がありまして。そうだ、今日は何月何日ですか?」
登「キター、未来人鉄板の質問。パねぇ!」
岸「一二月二二日です」
登「パねぇ!」
詩織「二二日……一日早く着いちゃったのか……」
登「何々、そんな事あんの?」
岸「初期のタイムマシンでの時間移動には、一日程度の誤差がよくあったんですよ。他にも、人間以外の物を運べなかったりとか色々と」
登「え~、じゃあ、未来の機械を見せられて『あなたは本当に未来から来たんですね』的な鉄板やり取りパート2は出来ねぇの? 残念感がパねぇな」
詩織「(岸に)お詳しいですね」
岸「いえ、それほどでもないですよ。あ、僕の名前は岸大樹です。二〇六〇年から来ました。よろしく」
詩織「(もう一台のタイムマシンを見て)つまりアレが、さらに三〇年後のタイムマシンなんですね……」
岸「で、こちらがこの廃工場を根城にされている……」
登「登だ。よろしく」
詩織「登さん……。あの、名字は?」
登「名字はあんまり好きじゃねぇんだ。だから、登だ。よろしく」
詩織「はぁ……。よろしくお願いします」
岸「僕たちのタイムマシンは、この廃工場に着くようになってたみたいですね。僕も到着してすぐに見つかってしまって」
詩織「そうだったんですか……」
   いつの間にかテーブルから離れ、タイムマシンを笑顔で眺めている登。
詩織「(小声で)あの、岸さん。私の時代はともかく、岸さんの時代は『過去の人間と関わってはいけない』みたいな法律はないんですか? 未来の事、あの人にペラペラ喋っちゃってヤバくないかな、って」
岸「そうですね……。その質問には、ちょっとお答えできません」
詩織「え? 何でですか?」
岸「それは、浅見さんも僕からすれば『過去の人間』だからですよ」
詩織「あ~、なるほど……」

○タイムマシン内(夜)
   モニター画面を見ている詩織。モニター画面に映る葵。
葵「そうか。まぁ、無事に着いたのなら、まず何よりだな」
詩織「でもかなりややこしい事になってしまって。この時代の人とか、さらに未来の人とか……」
葵「(遠い目で)カッコイイよね、二〇六〇年代のタイムマシン……」
詩織「? 葵先生?」
葵「あ、失礼。まぁ、関わってしまったものは仕方ないし、度を過ぎないように気をつけたまえ。それよりも大事なのは、クリスマスイヴ、だろう?」
詩織「はい。幸い一日早く着いてしまいましたから、明日はゆっくり休んで当日に備えます」
葵「健闘を祈るよ」
   モニター画面の映像が消える。
   ノックする音。

○廃工場・中(夜)
   タイムマシンから出てくる詩織。そこに立っている登。
登「詩織ちゃんさ、飯どうすんの?」
詩織「あ~、もうそんな時間か……。どこか外に食べに行くつもりですけど」
登「あれ、お金あんの?」
詩織「はい。一応、いくらか持ってきて……(と言いながらポケットを探る)あれ?」
登「……持って来られねぇんじゃねぇの?」
詩織「あ……」
登「……(吹き出して)ハハッ、パねぇな」
    ×     ×     ×
   テーブルに置かれたピザを食べる詩織と、別の作業台で作業中の登。
詩織「……すみません、ごちそうになってしまって」
登「いいって、いいって。岸ちゃんなんか、いつも『下見がある』とかで全然付き合ってくんねぇからさ。俺も寂しかったのよ」
詩織「『下見』ですか……。そういえば、岸さんって何しにこの時代に来られたんですかね?」
登「さぁな。でも、わざわざタイムマシンで未来から来るくれぇだから、よっぽどパねぇ用件なんじゃねぇの? いいな~、俺もタイムマシン欲しいな~。っていうか、作りてぇな~」
詩織「作りたいんですか?」
登「そうそう。あ~あ、タイムマシンがどんな仕組みなのか、現物見せてもらえたら何とかなりそうなんだけどな~(と言いながら、詩織を見る)」
詩織「それはダメですよ。この時代の人に見せたりしたら、確実にヤバいですから」
登「……でもさ、詩織ちゃん。ピザ、食べたよね?」
詩織「え?」
登「俺のおごりで、ピザ、食べたよね?」
   手に持った食べかけのピザを見つめる詩織。

○タイムマシン内(夜)
   内部をあちこち見て回る登と、入口付近に立っている詩織。
登「うお~、何だかよくわからねぇ機械、パねぇ! 本当にこんなんが一七年後に出来んのか?」
詩織「もうその辺にしてもらえません?」
登「しかし、狭ぇな。詩織ちゃん、ここで寝るつもり? パねぇな」
詩織「えぇ、まぁ」
登「もしアレだったら、奥の部屋使っていいぜ? ソファーとかあるからよ」
詩織「……その代わり、今度はタイムマシンを分解させて、とか言わないですよね?」
登「お、詩織ちゃんの推理力、パねぇな。大丈夫。そんな事これっぽっちしか考えてねぇからよ」
詩織「考えてるんじゃないですか……ん?」
   車のエンジン音が聞こえてくる。
登「……何か来たか?」

○廃工場・外(夜)
   廃工場から出てくる詩織と登。
   傍らに停められた黒いワンボックスカー。そこから降りてくる岸。手にはケーキの箱を持っている。
岸「ただいま……どうかしたんですか?」
詩織「いや、何かエンジン音がしたんで」
登「岸ちゃん、どうしたのその車?」
岸「登さん、言ったじゃないですか。イヴの日に使うレンタカーをここに置かせて下さい、って」
登「あ~、そうだったそうだった。もちろん覚えてたぜ?」
岸「それより、ケーキ買ってきたんで、食べません?」
登「お~、今日は何?」
岸「昨日がチョコだったんで、栗のケーキにしてみたんですよ」
   岸の持つケーキの箱。「パティスリー睦月」と書いてある。
詩織「このケーキ屋……」

○(フラッシュ)ケーキ屋・前
   「パティスリー睦月」と書かれた看板がある。
   中に入って行く幼い詩織と詩織の母(33)。
   道路脇に停められている黒いワンボックスカー。岸が借りてきた車と同種。

○廃工場・外(夜)
   停められた黒いワンボックスカーを見ている詩織。
詩織「この車……」
登の声「詩織ちゃ~ん、さっさとケーキ食べようぜ~!」
詩織「あ、は~い」

○廃工場・中(夜)
   テーブルを囲む詩織、岸、登。浮かない顔の詩織。
詩織M「偶然、なのかな……」
登「……ちゃん。お~い、詩織ちゃん」
詩織「え? あ、何ですか?」
岸「どうしたんですか? ボ~ッとして。登さんが『浅見さんの家はお金持ちなのか』って聞いてるんですよ」
詩織「(身構えて)え、何で?」
登「だって、詩織ちゃんの時代の時間旅行って、費用パねぇんだろ?」
詩織「え? ……あぁ、そういう事ですか。う~ん、まぁ、そこそこですかね」
登「お~、パねぇな。で、ちなみに岸ちゃんは? あ、でも時代が違うから、そんなに金はかかんねぇか」
岸「そんな事ないですよ。僕の時代でもまだまだ高額です。僕の場合は、母方の実家が裕福なんで」
登「パねぇな」
詩織「裕福……」

○(フラッシュ)倉庫・小部屋(夜)
   手を縛られた状態で室内に押し込まれる詩織。その脇に立つサンタ姿の木嶋(28)と覆面姿の榛名(35)。
木嶋「お前の家は裕福なんだろ? すぐにお金払ってくれるさ」
   笑う木嶋。その手には七芒星の柄のジッポライター。

○廃工場・中(夜)
   テーブルを囲む詩織、岸、登。
岸「(登に)あ、すみません。灰皿取って欲しいんですけど」
登「お、甘いもの食った後の一服はパねぇよな。俺、吸わねぇからわからねぇけど」
岸「実際、たまらないですよ」
   煙草に火をつけようとする岸。その手には七芒星の柄のジッポライター。
詩織「その柄……」
葵の声「黒いワンボックスカー、ケーキ屋の名前、七芒星の柄のジッポライター……」

○タイムマシン内(夜)
   モニター画面を見ている詩織。モニター画面に映る葵。
詩織「偶然にしては、出来過ぎだと思いませんか?」
葵「だからと言って、ねぇ。一七年前に君を誘拐した犯人が未来人だ、というのは、さすがに……」
詩織「でも、もしそうだとしたら、これはチャンスだと思うんです。あの日を無かった事にする、チャンス……」

○(回想)商店街
   クリスマスカラー一色。
   街頭の時計が三時を示している。

○(回想)ケーキ屋・前
   「パティスリー睦月」と書かれた看板がある。
   中に入って行く幼い詩織と詩織の母。
   道路脇に停められている黒いワンボックスカー。

○(回想)同・中
   詩織の母は店員と話をしており、退屈そうに店内をうろつく幼い詩織。店の外でサンタクロースの格好をした木嶋が手招きをしている。白髭などで顔はよくわからない。

○(回想)同・裏
   木嶋に連れられてくる詩織。ガムテープで口を塞がれ、サンタクロースの袋の中に入れられる。

○(回想)同・前
   道路脇に停められていた車に袋ごと入れられる詩織。発進する車。

○(回想)倉庫・小部屋(夜)
   手を縛られた状態で室内に押し込まれる詩織。その脇に立つサンタ姿の木嶋と覆面姿の榛名。
榛名「おとなしくしてろよ」
木嶋「大丈夫。お前の家は裕福なんだろ? すぐにお金払ってくれるさ」
   笑う木嶋。その手には七芒星の柄のジッポライター。
葵の声「お~い、浅見君?」

○タイムマシン内(夜)
   心ここにあらず、という様子の詩織。
葵「浅見君、聞いてるかい?」
詩織「あ、すみません」
葵「とにかく、もし本当に犯人が未来人だとすると、状況はあまり良くない。何か対策を取りたい所なんだが……」
詩織「是非」
葵「だが、これ以上通信していると、そのタイムマシンのエネルギーがもったいない。それじゃあ、健闘を祈るよ」
詩織「え、そんな……」
   モニター画面の映像が消える。
詩織「まぁ、いっか。今日はもう寝よっと。……あ、そうだ」

○同・奥の部屋(夜)
   机やソファー、流し台などがある、従業員の休憩室のような部屋。
詩織「奥の部屋ってここかな……? (室内を見回して)ヤバい、意外とキレイ。いいじゃん」
   電気のスイッチを入れるが、電気は付かない。
詩織「あれ?」
   何度も試すが、やっぱり付かない。
詩織「……」

○(フラッシュ)倉庫・小部屋(夜)
   手を縛られ口にガムテープを貼られた幼い詩織。真っ暗な室内。

○廃工場・奥の部屋(夜)
   後ずさりするように部屋から出て行く詩織。

○タイムマシン内(夜)
   入ってくる詩織。照明等の機器の電源を入れる。
詩織「ふぅ……」
   座ったまま寝る姿勢に入る詩織。

○廃工場・中(夜)
   詩織のタイムマシンの小窓から光が漏れている。
   離れた場所からそれを見ている岸。七芒星の柄のジッポライターを手で弄んでいる。

○同・同
   T「翌日」
   タイムマシンから出てくる詩織。作業台で防犯ブザーを改造している登。
登「よう、おはようさん。何だ、結局そこで寝たのかよ」
詩織「えぇ、まぁ。登さんにタイムマシンを分解されたくありませんから」
登「何だよ、本気にしてたのかよ」
詩織「それにあの部屋、電球全部切れてましたよ?」
登「そりゃそうだろ。じいちゃん死んでから俺しか出入りしてない工場だし。大体、寝る時電気付けねぇだろ?」
詩織「私は付けたまま寝ますけど」
登「マジで? 未来人パねぇな」
詩織「いや、私の時代の人がみんなそういう訳じゃ……あれ、そういえばもう一人の未来人さんは?」
登「岸ちゃんなら出かけたよ」
詩織「そうですか……」
登「岸ちゃんがどうかした?」
詩織「いえ、別に。ところで、登さんは何を作ってるんですか?」
登「あ、コレ? 何なら試してみるか? このボタンを押すと、パねぇ大音量のアラームが鳴るからさ。じゃ、行くぜ(と言ってボタンを押す)」
詩織「え、ちょ、待っ」
   慌てて耳を塞ぐ詩織。しかし音は流れない。恐る恐る耳から手を離していく詩織。
詩織「……鳴ってない、ですよね?」
登「お、聞こえない? やっぱり、未来の若者もそうなんだ。パねぇな」
詩織「はい?」
登「コレは『逆モスキートアラーム音発生装置』。大音量のアラーム音と、それを無音化する波長のモスキート音を同時に流す事で、子供の耳にやさしくなった防犯ブザーだ。パねぇだろ?」
詩織「ひょっとして、コレ登さんが作ったんですか?」
登「おう。ソレもそうだし、あそこのバイクも俺が一から組み立てたんだぜ。パねぇだろ?」
   と言って、橙色に塗装されたサイドカー付きのバイクを指差す登。
詩織「アレを一から……ヤバいですね」
登「だろ? だからさ、今度はタイムマシンを……」
詩織「ダメです」
登「ケチだな~。じゃあ、仕方ねぇ。とっておきのパねぇ装置を見せてやるよ」
   何やら複雑そうな機器を持ち出してくる登。
詩織「これ、何ですか?」
登「まぁ、見ればわかるって。よっしゃ(スイッチを押して)起動!」
   停電が起き、真っ暗になる。
詩織「きゃっ! ちょ、ちょっと、何が始まるんですか?」
登「あちゃ~、悪い悪い。ブレーカー落ちちゃったみたい。電力パねぇからな~」
詩織「そんな……」
   周囲を見回す詩織。どこも真っ暗。

○(フラッシュ)倉庫・小部屋(夜)
   真っ暗な室内。手を縛られ口にガムテープを貼られた状態の幼い詩織。

○廃工場・中
   真っ暗な中、震えている詩織。
詩織「電気……明かり……ライト……」
登「安心しなって。こんな時のために作ったオリジナルの懐中電灯があるからよ」
   言いながら、作業机の上を探る登。
詩織「早く……お願い、早く……(と言いながら軽い過呼吸状態)」
登「あ~、どこ置いたっけかな~。(振り返り)悪い、わかんねぇや……(詩織の異変に気付いて)おい、大丈夫か?」
詩織「(涙ながらに)誰か……来て……誰か……早く……」
   詩織の目の前がライターの火で僅かに明るくなる。それを見てホッとする詩織。
   ジッポライターで火をつけているのは岸。
岸「これで、大丈夫ですか?」
    ×     ×     ×
   室内の明かりが復旧する。
   テーブルを囲む詩織、岸の元にやってくる登。岸は煙草を吸っている。
登「暗所恐怖症ね……。あ、だから電気付けて寝てんの?」
詩織「まぁ、そういう事」
登「へぇ、大変だね。何かガキの頃のトラウマとか、そんな感じ?」
詩織「……私、昔誘拐された事があって」
   岸の煙草を吸う手が止まる。
詩織「その時、真っ暗な部屋に閉じ込められて……それ以来」
登「パねぇな、そりゃ」
詩織「だから、私はその時の私を助けるために、この時代に来たの。誘拐を未然に防いで、あんな思いをしなくていいように」
登「え、何? それってこれから起きる事なの? パねぇな。いつ?」
詩織「(岸を見て)今年の一二月二四日、クリスマスイヴの、午後三時」
登「え、じゃあそれって……」
   室内の時計に目を向ける登。午後三時を示す時計。
詩織「そう、明日の、ちょうど今頃」
登「……あ~、そっか」
   煙草をもみ消し、立ち上がる岸。
詩織「岸さん、どちらへ?」
岸「ちょっと、下見に。……あ、もしアレだったら、一緒にどうですか?」
詩織「……」

○走っている車
   黒いワンボックスカー。

○車内
   運転する岸と、後部座席に座る詩織。
詩織「免許証とか、持ってるんですか?」
岸「はい。ちゃんとこの時代のものを。あ、入手の経緯については、過去の人間には教えられませんので」
詩織「そうですか」
   しばしの沈黙。
岸「……浅見さんの考えている事、当ててみてもいいですか?」
詩織「え?」
岸「『僕こそが、この時代の浅見さんを誘拐した犯人の一味だ』。そう思ってるんじゃないですか?」
詩織「……実際、どうなんですか?」
岸「残念ながら、過去の人間には……」
詩織「教えられないなら、いいです。……で、一体どこに向かってるんですか? この車」
岸「パティスリー睦月、ってケーキ屋さん、ご存知ですか?」
詩織「えぇ。思い出の店ですから」
岸「昨日は栗のケーキでしたけど、今日は当日ですし、やっぱり普通の苺ショートがいいんですかね?」
詩織「当日? 何の?」
   ラジオのスイッチを入れる岸。
ラジオDJの声「いや~、今日は一二月二四日ですよ。クリスマスイヴですよ。なのに俺は一人ブースに籠って何やってんだと。ハハハッ」
詩織「!? どういう事?」
岸「すみません。僕は浅見さんに一つだけ嘘をついてたんですよ。浅見さんがこの時代に着いた日は、本当は誤差なんかなくて、一二月二三日。つまり、今日が二四日。浅見さんが誘拐された日です」
詩織「なっ……」

○ケーキ屋・前
   停車する岸達の乗る車。停止するなり車を飛び降りる詩織。
   サンタクロースの格好をした木嶋に連れられ、店の外に出てくる幼い詩織。
詩織「待ちなさ……」
   声を上げようとする詩織、体が動かない。詩織の視界に入ってくる岸。スタンガンのようなものを持っている。
岸「これは、僕らの時代で使われている、スタンガンみたいなものです。しばらくすれば体は動くようになるんで、ご安心を」
   詩織の目の前で、幼い詩織が攫われ、車は発進して行く。
    ×     ×     ×
   狼狽する詩織の母の姿を遠目で見ている詩織と岸。
詩織「あのジッポライターとか、ワンボックスカーとか、何だったの?」
岸「浅見さんが僕を犯人だと勘違いしてくれれば、真犯人の二人が自由に動けるかな、って思ったんですよ。まぁ、保険ですね」
詩織「登さんも共犯?」
岸「登さんには、僕が浅見さんに伝えた日付が嘘だって事を黙っててもらうようにお願いしただけです。登さん、僕のおごりでケーキ食べちゃったんで」
詩織「……アンタの目的は何なの?」
岸「目的、ですか?」
詩織「私に何か恨みでもあるの? それとも過去は変えちゃ行けないとか、そういう正義感?」
岸「……すみませんでした」
   深々と頭を下げる岸。
詩織「今更謝らないでよ」
岸「申し訳ないとは思ってるんですよ。でも仕方なかったんです。浅見さんには今日、ここで誘拐されてもらう必要があったんです。他でもない、僕自身のために」
詩織「……どういう事?」
岸「僕も浅見さんと一緒なんですよ。僕も、僕自身を助けるためにこの時代に来たんです」
詩織「それが私を誘拐させる事? アンタ、まだこの時代には産まれてないのに? 何の意味があって?」
岸「それは、過去の人間には言えないです。ただ、時を越えるだけの価値がある、とだけお伝え……」
詩織「もういい」
   岸に背を向け歩き出す詩織。
岸「浅見さん、どこ行くんですか?」
詩織「……帰る」
岸「……そうですか。お気をつけて」

○廃工場・外観

○同・中
   タイムマシンに乗り込む詩織と、その外に立つ登。
登「そっか~、岸ちゃんの目的は詩織ちゃんの誘拐阻止を阻止するためだったのか。パねぇな」
詩織「……色々、お世話になりました」
登「本当に帰っちまうのか?」
詩織「……もうこれ以上、この時代にいる意味もないから」
登「でもよ、誘拐されちまったんだろ? 助けに行かなくていいのか?」
詩織「それはもう、私の役目じゃないから。実際、他に助けてくれた人がいたし」
登「そっか。じゃあ、アレだな。未来で会おうや。な?」
詩織「そうだね。それじゃあ」
   ドアが閉まる。タイムマシンがものすごい光を発し、消える。
登「お~、こうなるんだ……パねぇな」

○タイムマシン内
   中央の回転椅子に腰掛ける詩織。
   室内の計器には「2013」と表示されている。
詩織「さようなら、二〇一三年」
   警報が鳴る。
   大きく振動するタイムマシン。
詩織「え? 何?」
   全ての機器の電源、照明が消える。
詩織「きゃっ!」
   機器をいじる詩織。
詩織「電気、電気……何で? 何で付かないの?(と言いながら軽い過呼吸状態)」
   扉を開ける詩織。

○廃工場・中(夜)
   タイムマシンから降りてくる詩織。真っ暗な室内。震えている詩織。
詩織「暗い……。ここ、どこ? 何年? 何月? 私、どうなるの……? 誰か……」

○(フラッシュ)倉庫・小部屋(夜)
   真っ暗な室内。手を縛られ口にガムテープを貼られた状態の幼い詩織。
詩織の声「誰か、助けて……お願い……」
   開く扉。光が漏れてくる。

○廃工場・中(夜)
   ハッとして顔を上げる詩織。ライトの付いたバイクがやってくる。
   バイクに乗っているのは登(逆光のため、まだ顔はわからない)。
詩織「あれは……」
登「詩織ちゃん? 何だ、また来たの? パねぇな」
   室内全体の照明が付く。
   詩織の視線の先、照明のスイッチを入れたのは岸。その傍らにはもう一台のバイク。
岸「お帰りなさい、浅見さん」
詩織「……」
    ×     ×     ×
   詩織のタイムマシンを調べている岸。
   テーブルを囲む詩織と登。
登「つまり、アレか? 六、七時間だけ時間移動したって訳か。パねぇな」
   タイムマシンから出てくる岸。
岸「やっぱり、エネルギー切れですね。ただでさえギリギリの量しか積めないのに、浅見さんは一晩中明かり付けっぱなしですからね」
登「良かったな、故障とかじゃなくて。エネルギー補給すれば帰れんじゃん」
詩織「この時代には、タイムマシン用のエネルギー燃料はないけどね」
登「あ、そうなの? パねぇな」
岸「でも良かったです。理由はどうあれ、またお会いできて。あのままじゃ、僕も心苦しかったんですよ」
詩織「……どういうつもり?」
岸「それは、どういう意味ですか?」
詩織「無事に私を誘拐させたんだから、さっさと自分の時代に帰れば?」
岸「実はまだ、終わってないんですよ」
詩織「どういう事? まさか、私の事殺しに行くつもり?」
岸「逆ですよ、逆。助けに行くんです。浅見さんの事」
詩織「は?」
登「今そのためにバイクの試運転してきた所なんだよな。いや~、いよいよ俺もヒーローデビューか。テンション上がりすぎてパねぇな」
詩織「ちょ、ちょっと、どういう事? 登さんまで巻き込んで。贖罪のつもり? それとも同情? どっちもいらないんだけど」
岸「そんなんじゃないですよ。浅見さんを助けに行くのも、僕自身のためですから」
詩織「何それ? だったら、最初から誘拐なんてさせないでよ」
岸「それもダメなんですよ。あくまでも浅見さんには、今日誘拐された上で、助けられないと、僕が困るんです。だから、助けに行くんですよ」
登「俺は岸ちゃんのおごりでケーキ食っちまったからな」
詩織「……」
岸「浅見さんも、一緒に行きませんか?」
詩織「は?」
岸「だって、浅見さんにとっても他人事じゃないんですから。自分の事、助けたくないんですか?」
詩織「……でも、それは……」
岸「『誰かが自分の事を助けに来てくれる』なんて思わない方がいいですよ。最後の最後、自分を助けられるのは、結局自分自身だけなんですから。僕が、僕自身を助けるために、浅見さんを誘拐させたように」
登「いいな、パねぇな、そのヒロイズム。他がどうなっても、自分を助ける、ってか。サンタクロースが自分の欲しいものを自分で買う、みたいなもんだよな」
詩織「……その例え、意味が全然わからないんだけど」
登「そうか? じゃあ、もっとわかりやすい例え考えとくわ」
岸「(苦笑しながら)それに、さっきは利害が対立しちゃいましたけど、今度は一致してるんですから。一緒に行きましょうよ」
詩織「……」
登「なぁ、詩織ちゃん。岸ちゃんのおごりでケーキ食べたじゃん」
詩織「……わかった。一緒に行く。アンタなんかに、私は助けさせない」
登「その意気だぜ、詩織ちゃん。岸ちゃん、奥の部屋に色違いのヤツがもう一着あるハズだから、取ってきてくれや」
岸「了解です」
   奥の部屋に向かう岸。
   橙色のライダースジャケットを着用し橙色のヘルメットを手に取る登。
詩織「……好きだね、オレンジ色」
登「オレンジは俺のパーソナルカラーだからな。ももクロにも戦隊ヒーローにもいねぇ俺だけの色だ」
   紫色のライダースジャケットとヘルメットを持ってやってくる岸。
岸「で、浅見さんは紫です」
詩織「……どうも」
岸「(登に聞こえないように)ちなみに、この一年後の戦隊に出ちゃうんですけどね。オレンジ色の戦士」
詩織「は?」
登「岸ちゃん、どうかした?」
岸「いえ、何でも」
登「そっか。いや~、最初はどうなるかと思ったけど『ヒロインが紫』ってのも案外パねぇよな~、ハハハッ」
岸「今っぽい感じですよね」
   言いながら、緑色のライダースジャケットを着用する岸。
詩織「(思い出したように)あ……」

○(フラッシュ)倉庫・中(夜)
   緑色のライダースジャケットとヘルメットを着用した若者。

○廃工場・中(夜)
   橙色のライダースジャケットを着用している登を見る詩織。

○(フラッシュ)倉庫・中(夜)
   橙色のライダースジャケットとヘルメットを着用した若者。

○廃工場・中(夜)
   自分の手に持った、紫色のライダースジャケットとヘルメットを見る詩織。

○(フラッシュ)倉庫・中(夜)
   紫色のライダースジャケットとヘルメットを着用した若者。

○廃工場・中(夜)
   自分の手に持った、紫色のライダースジャケットとヘルメットを握りしめる詩織。
詩織「まさか、あの時の……」
登「お~い、詩織ちゃん。着ねぇの? 寒さパねぇぞ?」
岸「それに、多少動きやすい服装の方が、何かと安全ですから」
   登を見る詩織。
   岸を見る詩織。
   決心したように紫色のライダースジャケットを着用する詩織。

○倉庫・外観(夜)

○同・小部屋(夜)
   手を縛られ口にガムテープを貼られている幼い詩織。泣いている。
   ドアが閉まる音。

○同・中(夜)
   小部屋のドアに鍵をかける木嶋。
   少し離れた場所でピザを食べている榛名の元に来る。七芒星の柄のジッポライターを使って煙草に火をつける。
榛名「お前も食うか?」
木嶋「(ため息まじりに)ハルさんもどういう神経してんだよ。誘拐してる最中にピザのデリバリー頼むなんて」
榛名「え? マズかった?」
木嶋「……俺、何でこの人と組んでんだろ」
   バイクの音が聞こえてくる。
木嶋「もう、ハルさん。今度は何のデリバリー頼んだの?」
榛名「いや、俺知らねぇよ?」
木嶋「え? じゃあ……」
   乗り込んでくる、岸の運転するバイクと、登の運転するバイク。登のバイクのサイドカーには詩織が乗っており、三人ともそれぞれの色のヘルメットを着用してる。
   慌てる木嶋達をよそに小部屋の前まで乗り付ける。
木嶋「何だ? 誰だ、お前ら?」
登「逆に聞こう。俺たちが何に見える?」
榛名「そりゃ……あのガキを助けにきた、正義の味方?」
登「うお~、パねぇ。俺らがヒーローに見えてるんだってよ!」
   小部屋の前に立つ詩織と岸。
詩織「(登達の会話を無視しながら)うん、この部屋で間違いない」
岸「(ドアノブに手をかけ)やっぱり、鍵かかってるんですね」
木嶋「おい、お前ら。どこの誰だか知らねぇけどな、妙なマネはするんじゃねぇぞ? その部屋の中にはもう一人、俺らの仲間がいてだな……」
詩織「いないでしょ? 中には女の子が一人だけ」
岸「ついでに、拳銃とかそういう類いのものも持ってなかったみたいですね」
榛名「バ、バ、バレてるバレてる」
木嶋「もう、ハルさん黙っててよ。(岸に)お前ら、何者だ?」
登「お前らが言ったんだろ? 俺たちは、正義のヒーローだ」
   決めポーズをとる岸と登。呆気にとられている詩織を目で促す登。
登「詩織ちゃん、詩織ちゃん」
詩織「え~、私も?」
   渋々決めポーズの列に加わる詩織。
登「我ら、正義のヒーローズ!」
岸「……何ですか、その名前」
詩織「ヤバい、ダサッ」
登「(二人の声に耳を貸さず)決まった。パねぇ!」
木嶋「くそっ、ナメやがって。ハルさん!」
榛名「お、おう」
   臨戦態勢に入る木嶋と榛名。
岸「あの若い方がボスみたいですね。登さんどっち行きたいですか?」
登「よし、若い方は岸ちゃんに任せた!」
   榛名に向かって行く登。
岸「え? 僕がボスの方ですか? まぁ、いいですけど」
詩織「ねぇ、私は?」
岸「ケガしないように、隠れてて下さい」
詩織「……わかった」
   木嶋に向かって行く岸。
    ×     ×     ×
   登対榛名。互角。
    ×     ×     ×
   対峙する岸と木嶋。
岸「あの部屋の鍵、渡してもらえないですかね? そしたら、手荒なマネしないで済むんですけど」
木嶋「若造が、ナメんな!」
   岸に殴り掛かる木嶋。劣勢の岸。
木嶋「俺に勝とうなんて、百年早ぇんだよ」
岸「それはどうですかね」
   木嶋にスタンガンを押し当てる岸。動けなくなる木嶋。
岸「僕に勝とうなんて、四七年早いですよ」
    ×     ×     ×
   登対榛名。榛名が優勢。
榛名「おりゃ、おりゃ、おりゃ」
登「意外とパねぇな、コイツ。仕方ねぇ」
   防犯ブザーのスイッチを入れる登。
榛名「うわっ、何だこれ!」
   耳を抑えてもだえる榛名。
登「よっしゃ、隙あり!」
   榛名に殴り掛かる登。倒れる榛名。
登「(手に持った防犯ブザーを見ながら)これ、本当にうるせぇんだ。パねぇな」
   既に縛られた状態の木嶋と、木嶋の服を漁っている岸。
岸「やったじゃないですか、登さん」
登「岸ちゃんも、パねぇな」
   鍵を見つける岸。
岸「あった。浅見さん」
   詩織に鍵を投げる岸。受け取る詩織。
詩織「え?」
岸「何してるんですか、早く助けてあげなきゃかわいそうですよ」
詩織「あぁ、うん」
   扉を開ける詩織。
岸「さて、誰かに見つかる前に、僕たちは戻りましょうか」
登「えぇ!? それじゃあ、俺の活躍を後世まで語り継いでくれる人が……」
岸「登さんはともかく、僕や浅見さんがこの時代の人と関わっちゃうと、後々ややこしくなるんですよ」
登「……仕方ねぇな。うわ~、残念感がパねぇ!」
岸「さぁ、浅見さんも」
詩織「あぁ、うん」
   岸の元に駆け寄ってくる詩織。
詩織「……やっぱり、そういう法律あるんでしょ?」
岸「だから、言えませんって」
   バイクに乗って去って行く詩織、登、岸。
   その後ろ姿を見ている幼い詩織。

○同・外(夜)
   多くの警察車両がやってくる。

○同・中(夜)
   踏み込んでくる刑事達。
刑事「ん?」
   縛られた状態で床に転がっている木嶋と榛名。
   その脇に一人で座っている幼い詩織。
刑事「一体何が……?」
   床に無造作に置かれた(木嶋が犯行時に着ていた)サンタクロースの服。
刑事「まさか……サンタクロースが?」

○同・外(夜)
   連行される木嶋と榛名。
   幼い詩織を抱き上げる詩織の母。
   その様子を離れた場所から見ている詩織、岸、登。皆、笑顔。

○廃工場・外観(夜)
   T「翌日」

○同・中(夜)
   タイムマシンに乗り込む詩織。
詩織「……ありがとう」
登「パねぇよな、岸ちゃんが予備のエネルギー燃料持ってるなんて」
詩織「あ、その事じゃなくて」
登「え? じゃあ、何?」
詩織「一七年前に私を助けてくれたのも、二人だったんだよな、って思って」
登「あ~、そういう事になるか。パねぇな」
岸「気にしないでいいですよ。あくまでも僕自身のためだったんですから」
登「そうそう、誘拐させたのは岸ちゃんなんだし」
詩織「わかってる。結局、私はこの時代に来て、何も変えられなかったんだから。だから、その事については、私は許さないから」
岸「いいですよ。僕も許されたいとは思ってませんから」
登「そうだよな。詩織ちゃんも、今度自分を助けなきゃならねぇ時には、今度こそ助けてやれよ? そして、聞け。俺からのパねぇありがたい言葉を」
詩織「パねぇありがたい言葉?」
登「もし詩織ちゃんが本気で尿意を催したら、トイレに行くべきだ。たとえ世界を敵に回してもな」
詩織「え……!?」
岸「もっと奇麗なたとえないんですか?」
登「え~。いいじゃねぇか。パねぇだろ?」
詩織「(小声で)そういう事か」
登「? どうかした?」
詩織「いや、何でもないです。ありがとうございました。それじゃあ、私、もう行きますね」
岸「お気をつけて」
登「今度来た時は、タイムマシンを分解させてくれよな?」
詩織「(苦笑しながら)じゃあ、未来で」
   ドアが閉まる。

○タイムマシン内
   機器を操作する詩織。「一〇秒前」のアナウンス。
詩織「これで良し、と」
   小窓越しに目が合う詩織と岸。岸の口が「またね、母さん」と動くが、声は聞こえない。
詩織「(わからず)ん?」
   大きく振動する室内。

○廃工場・中
   詩織のタイムマシンがものすごい光を発し、消える。
   残された岸と登。驚いた表情で岸の顔を覗き込む登。
登「今の、マジで? パねぇな!」

○大学・外観

○同・研究室・外

○同・同・中
   タイムマシンから降りてくる詩織を出迎える葵。橙色のネクタイを着けている。
葵「お帰り。浅見君」
詩織「ただいま戻りました」
葵「あえて成果は聞かないでおこう」
詩織「ありがとうございます。じゃあ、私から一つ、聞いてもいいですか?」
葵「何だい?」
詩織「葵先生は、どうして、ご自分の名字がお嫌いなんですか?」
葵「決まっているだろう? (ネクタイを強調しながら)『青』という色はオレンジの反対色だからだ」
詩織「そういう事だったんですか」
   停電する室内。
詩織「きゃっ!」
葵「停電か? またどっかの研究室で変な実験でもしたんじゃないだろうな」
詩織「先生、それより、早く明かりを……」
葵「まぁ、待ちたまえ。ここに確か、私が学生時代に作ったオリジナルの懐中電灯が……」
詩織「早く、早く……」
   電気が付き始める室内。
詩織「戻った……」
   自分が岸広樹(24)に抱きついている事に気付く詩織。顔が赤い広樹。
詩織「あ、すみません、すみません」
広樹「あ、あ、い、い、いえ、別に。だ、大丈夫です。あ、だ、大丈夫ですか?」
詩織「はい。私は……。(広樹の顔を見て)え~っと、どちら様……?」
葵「あ~、そうだった。今日から共同研究をする事になった、理工学部の岸君だ」
広樹「き、岸広樹と申します」
詩織「あ、浅見詩織です。こちらこそ宜しく願いします岸さ……岸?」
葵「それにしても、いきなりハグするなんて浅見君も大胆だね」
   頬を赤らめる詩織と広樹。
詩織「ちょ、ちょっとトイレ行ってきます」
   慌てて部屋から出て行く詩織。
葵「お~、照れちゃって。パねぇな」

○同・同・外
   部屋から出てくる詩織。胸に手を当てる。
詩織「(小声で)まさか……そういう事?」
                   (完)

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