風の救世主 学園

中学二年生の陸上部員・天羽麗は、800m選手としての実力がありながら、心酔していた顧問の先生が別の中学に転勤したことがきっかけで周囲と距離を置くようになり、級友との関係は悪化、部活も休部状態になっていた。 そんな麗に何かと世話を焼こうとする転校生・風間蘭奈の挑発に応じるうち、本音を打ち明けた麗は、再び走ることを決意する。だが、麗の復帰戦を前に、蘭奈は麗の前から姿を消してしまう。そして試合当日……
三井 隆  26 1 0 10/25
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第一稿

【登場人物】
天羽 麗(14)中学二年生。陸上部員(中距離)であるが、目下休部状態。
風間  蘭奈(14)中学二年生。走ることが大好きで、少し風変わりな転校生。

竹中先 ...続きを読む
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【登場人物】
天羽 麗(14)中学二年生。陸上部員(中距離)であるが、目下休部状態。
風間  蘭奈(14)中学二年生。走ることが大好きで、少し風変わりな転校生。

竹中先生
陸上部員
女子生徒A
女子生徒B
女子生徒C
マネージャー
担任教師
記録会のアナウンス(声)
蘭奈の父
男(借金取り)


【シナリオ】
〇銘心中学校・校門・外
   市街地にある一般的な公立中学校。
   下校する生徒が、三々五々出ていく。

〇同・校庭
   三時過ぎを指している校舎の時計。
   陸上部ほか、運動部が活動している。
     ×  ×  ×
   校庭の片隅で、天羽麗(14)、陸上部
   の活動をぼんやり眺めている。
     ×  ×  ×
   懸命に先輩についていく感じの一年生  
   部員たち。
麗のN「私も去年は、あんな風に……」

○(回想)同・同
   一年生の麗(13)、他の部員たちと一
   緒にトラックを走っている。
     ×  ×  ×
   タイムトライアル。竹中先生、ストッ
   プウォッチを手に、走る部員たちを真
   剣な眼差しで見つめている。
     ×  ×  ×
   麗、ゴールする。大きく肩で息をする
   麗に、竹中先生が歩み寄り、『よくや
   ったな』という風に肩を叩く。麗、頷
   き微笑する。
     ×  ×  ×
   雨が降る中、練習している麗。
   竹中先生が見守っている。

○(回想)陸上競技場
   麗、竹中先生に走り寄って賞状を見せ
   る。竹中先生、笑顔で麗の頭をクシャ
   クシャと撫でる。
     ×  ×  ×
   スタンドの一画で昼食中の部員たち。
   麗と竹中先生、仲良く弁当を食べて
   いる。

○(回想)銘心中学校・校庭
   竹中先生、陸上部員たちを前に話してい
   る。
竹中「四月から私は柴滝中学校へ転勤になる」
   動揺し、ざわつく部員たち。
   激しくショックを受けた様子の麗。
竹中「……おい、みんな、そう悲しそうな顔を 
 するな。同じ市内だし、大会で会うこともあ
 るだろう。大丈夫、今までどおりでいいんだ。  
 お前たち全員、伸びていくと信じてる」
   悲しみを堪え、決意を秘めた麗の目。
麗のN「信じてた。離れていても、先生は私を
 見てくれているんだって」

○(回想)陸上競技場・トラック
   女子八百メートル競走のゴール目前の
   ストレート。麗、『柴滝中』のユニフ
   ォームの選手と競り合って引き離し、
   一着でテープを切る。

○(回想)同・事務所棟脇
   賞状を手に満足気な麗、竹中の姿を見
   つけて駆け寄ろうとするが、踏みとど
   まり、建物の陰から様子を窺う。
   先刻、麗に負けた女子生徒が泣いてお
   り、竹中はそれを宥めている。
竹中「……天羽相手に、お前はよく食い下が
 った。泣かなくていい。大丈夫、伸びしろ
 はお前の方があるんだから」
   女子生徒、泣きながら何度も頷く。
   麗、いたたまれなくなり、その場を去
   る。
麗のN「その時分かったんだ。竹中先生はも
 う私の先生じゃないんだって」

○(回想)同・スタンド
   破られた賞状が落ちている。
   麗、そこにスパイクシューズを投げつ
   ける。
   放置されたままのスパイクシューズ。
女子生徒Aの声「天羽さんさあ、最近付き合
 い悪いと思わない?」
女子生徒Bの声「だよね、陸上でちょっと勝
 てたからってさ、いい気になってんじゃな
 いの」
女子生徒Cの声「で、それもやめちゃったん
 でしょ」
女子生徒Aの声「何考えてんだろね」
女子生徒Bの声「無視でいいよ。無視」

○元の銘心中学校・校庭 
   グランドの部活を眺めている麗。
   その視線の先に、ペース走をしている
   陸上部の一団。
   その列の中から飛び出して、どんどん
   先に走っていく風間蘭奈(14)。
陸上部員「風間さーん! 競走じゃないんだ
 から、一緒に走りなさい!」
   先頭の部員が声を掛けるが、蘭奈、嬉々
   として構わず走り続ける。
麗「あの子……」

〇(回想)銘心中学校・2年C組教室
   蘭奈、教壇の脇に立ち、挨拶をしている。
   黒板には『風間蘭奈』と大きく書かれて
   いる。
蘭奈「風間蘭奈です。よろしくお願いします!」
     ×  ×  ×
   授業中。
   いびきをかいて居眠りしている蘭奈。
   麗、自分の席から怪訝そうに蘭奈を見
   ている。

〇(回想)同・グランド
   体育の授業中。トラックを走る女子生
   徒たち。ほとんどはダルそうにしてい
   る。その中に麗もいる。
   蘭奈、それらの女子生徒たちを尻目に、
   嬉々として猛スピードで走っている。
     ×  ×  ×
   授業が終了し、教室に戻る途中の女子
   生徒たち。
女子生徒A「風間さん、どうしてあんなに走
 って平気なの」
蘭奈「うーん、そうね。悪い奴に追われて逃
 げてるうちに慣れちゃったというか。もう
 毎日の習慣だね」
女子生徒B「何それ」
   笑う周りの女子生徒たち。

○元の銘心中学校・校庭 
   陸上部の活動を眺めている麗。しかし
   その視線の先に蘭奈の姿はない。
麗「……?」
蘭奈の声「走んないの?」
麗「わあっ!」
   いつの間にか、麗の背後に蘭奈が来て
   いる。
麗「あんた、走ってたんじゃ……」
蘭奈「陸上部、体験入部っての? 試しにやっ
 てみたけど、私には合わないかなあ」
麗「そ、そう……」
蘭奈「陸上部なんでしょ。麗ちゃん」
麗「ちゃ……ん?」
蘭奈「さっき部員の子に聞いたんだ。ここん
 とこ練習に出て来ないって」
麗「余計なことを……」
   麗、俯く。
     ×  ×  ×
   フラッシュ。
   麗に敗れた女子生徒を宥める竹中先生。
     ×  ×  ×
麗「風間さんには関係ないでしょ……え?」
   麗が振り向くと、蘭奈はいない。
     ×  ×  ×
   麗、グランドへ目をやると、蘭奈が走り
   ながら手を振っている。
   麗、目を晒し歩き去る。
麗「何なの、あの子……!」

○同・女子更衣室・外
   体育着に着替えた女子生徒たちが出て
   行く。

○同・同・中
   麗、バッグの中や周囲をあれこれ探し
   ている。
麗「ない……靴が……」
   麗、周囲の女子生徒たちを見るが、皆、
   目を逸らし知らぬ振りを決め込む。
   微かに笑っているような者もいる。
麗「誰か知らない? 私の靴」
   女子生徒たち、答えずに三々五々、更
   衣室を出て行く。
   残ったのは麗と蘭奈だけ。
蘭奈「どったの? 運動靴忘れたの?」
麗「誰かが隠したに決まってる」
   予鈴が鳴る。
   麗、焦って辺りを探し回る。
蘭奈「もう体育始まるけど」
麗「分かってるってば!」
   蘭奈、真新しい運動靴を麗に差し出す。
蘭奈「私の履きなよ」
麗「え? だって……」
蘭奈「いいの。私は上履きでも何でも走れる
 から」
麗「いや、でも……」
蘭奈「走りたいのに走れない。そういう人が
 いるのは見てて辛いんだ」
   麗、蘭奈に押しつけられて、靴を受け
   取る。
蘭奈「さ、急ごう」

○同・校庭
   整列した女子生徒の前に体育教師が前
に立ち、準備体操をしている。
   蘭奈から借りた靴を履いている麗。
   蘭奈は上履き。
     ×  ×  ×
   授業が終了し、校舎に引き上げる女子
   生徒たち。
蘭奈、麗に駆け寄る。
蘭奈「どう? 足痛くない?」
麗「え? ああ……大丈夫」
蘭奈「ならよかった」

○同・同・ゴミ置き場
   麗と蘭奈、ゴミ置き場の脇を通りかか
   る。
   麗、ゴミ置き場に何かを発見し、駆け
   寄る。運動靴が捨ててある。
麗、運動靴を手に取り、
麗「私の……誰がこんな……!」
蘭奈「……とりあえず、よかったんじゃない。
 見つかって」
麗「(蘭奈を睨む)何なの一体! 言いたい
 ことがあるなら、ハッキリ言えばいいのに!」
   麗、苛立って手にした靴をゴミ置き場
   に投げ返す。
麗「もういい!」
蘭奈「え、捨てちゃうの」
麗「あいつらがゴミ扱いするなら、もう……」
蘭奈「じゃ、これ私もーらいっと」
   蘭奈、麗が投げた靴を拾う。
麗「ちょっと、何すんの」
蘭奈「その靴と交換ね」
   蘭奈、先に立って歩き出す。
麗「待ってよ!」
   麗、蘭奈を追う。

○同・昇降口・外
   鞄を持って下校する生徒たち。
   麗の靴を履いた蘭奈、続いて麗が出て
   くる。麗は革靴で、蘭奈から借りた靴
   を持っている。
麗「これ……受け取れない! 返す!」
蘭奈「しつっこいなあ。それはもう麗ちゃん
 のだってば」
   蘭奈、早足から小走りに。
蘭奈「お、ぴったりだ。これ」
麗「交換とか……そんなの、する理由ないで
 しょ!」
蘭奈「じゃ、また明日!」
   蘭奈、走り出す。
麗「待ってってば!」
   麗、蘭奈を追って走り出す。

○同・校門・外
   走り出てくる蘭奈。追う麗。

○住宅街
   蘭奈、適当に角を曲がりながら街路を
   走り抜ける。
麗、懸命に追うが、差を縮められない。
麗「……あいつ!」
     ×  ×  ×
   いくつか角を曲がったところで、麗、
   蘭奈を見失う。
麗「どっちに行った……」
蘭奈の声「こっちだよ!」
   麗、振り返ると一区画ほど離れた所か
ら蘭奈が手招きしている。
麗「……バカにして!」
   追いかけっこが再開される。

○河川の堤防沿いの道路(夕)
   麗、息も絶え絶えで、ほとんど歩いて
   いる状態。
   その先で、蘭奈が待っている。
   麗、やっとの思いで蘭奈の元に辿り着
   く。
蘭奈「ほら、やっぱり練習不足だ」
麗「どういうつもりか知らないけど……」
   麗、蘭奈から借りた靴を差し出す。
麗「もう私に構わないで」
   蘭奈、差し出された靴を静かに押し戻
   す。
蘭奈「言ったでしょ。走りたいのに走れない。
 思いどおりにできない人がいるのは、見て
 て辛いんだ」
麗「私は、走りたくなんか……」
   蘭奈、麗の心を見透かすように、小首
を傾げる。
麗「……走りたく、なんか……」
   麗、徐々に声が震えて、やがて咽び泣
   く。
     ×  ×  ×
   麗と蘭奈、道路の端に座っている。
   麗、顔を半ば隠し、独白のように話し
   ている。
麗「……どうせ、みんな私から離れていくんだ。
 そう思ったら……部活も、クラスの友達も、
 関わるのが、みんな嫌になって……」
   蘭奈、麗の肩を抱く。
蘭奈「辛かったね」
   麗、ハッと気が付き、蘭奈の腕を振り
   ほどく。
麗「友達みたいな顔しないで。どうせあんた
 だって、そのうち居なくなるくせに!」
蘭奈「(嘆息)そりゃそうだよ。ただの友達
 だもん」
   麗、拍子抜けしたように、蘭奈を見る。
蘭奈「世界は広いよ」
麗「え……」
蘭奈「学校なんて世界のほんの一部分」
   蘭奈、立ち上がる。
蘭奈「ま、麗ちゃんの辛い気持ちは、この靴
 と一緒に、私が引き受けるし」
   麗、思い出したように蘭奈から借りた
   靴を見る。
蘭奈「その靴を履いてれば、私はいつも一緒
 にいる。なんちゃって」
   蘭奈、麗を促すように、その場で腕を
   振って足踏みする。
   麗、手元の靴を眺めている。

○銘心中学校・校庭・トラック
   集合している陸上部員の前で、麗、頭
   を下げる。
麗「勝手に練習を休んで、済みませんでした。
 今日から真面目にやりますので、部活に加
 えてください」
   蘭奈が駆け寄って来る。
蘭奈「はいはーい、そういう訳なんで、私共々、
 麗ちゃんをよろしくお願いします」
麗「何……あんた」
陸上部員「風間さん、あなた体験入部で脱落
 したんじゃないの?」
蘭奈「麗ちゃんの練習台ってことで、特別参
 加です」
麗「待ってよ。そんなこと私頼んで……」
蘭奈「真鍋先生は了解済みです」
陸上部員「……まあ、先生がいいって言うん
 なら……」
蘭奈「じゃ、さっそく練習開始!」
     ×  ×  ×
   蘭奈が先に立って、麗と二人でペース
   走をしている。
   二人、ストップウォッチを持ったマネ
   ージャーの前を通り過ぎる。
マネージャー「はい、そのままのペースで」
   蘭奈、後ろを振り返り微笑する。
   怪訝そうな麗。
   蘭奈のスピードが上がる。
     ×  ×  ×
   二人、マネージャーの前を通り過ぎる。
マネージャー「ちょっと速い! 抑えて」
   嬉々として笑いながら走る蘭奈。
麗「真面目に……やれっ!」
   麗、怒って蘭奈の前に出る。
蘭奈「そう来なくっちゃ!」
   二人、抜きつ抜かれつの競走になる。
     ×  ×  ×
   二人、マネージャーの前を全速力で通
   り過ぎる。
マネージャー「何やってんの! レースじゃ
   ないんだから!」
     ×  ×  ×
   麗と蘭奈、ほぼ並んでゴールする。
   息も絶え絶えで地面にへたり込む。
麗「……ペースメーカーになってないじゃ
 ない!」
蘭奈「麗ちゃん、だって……乗ってきた、く
 せに!」
麗「あんたが、挑発、するから……」
蘭奈「あー、楽しかった!」
   蘭奈、大笑いする。
麗「楽し、い……?」
   麗、大笑する蘭奈を横目に見ながら、自
   らも静かに笑いが込み上げる。

○同・同・同(朝)
   陸上部の朝練。
   麗、蘭奈と柔軟体操をしている。
麗のN「そうか、先生や友達に、褒めてもら
 えるとか、認めてもらえるとかじゃなく」
     ×  ×  ×
   麗、集団の中で走っている。
麗のN「私自身が楽しいと思えればいいんだ」
   蘭奈、少し離れて走っている。気まま
   に流しているようで、麗を見守ってい
   るようでもある。    

○同・校舎内廊下(朝)
   朝練を終えた麗と蘭奈、教室に向かっ
   ている。
蘭奈「大分調子戻ったんじゃない」
麗「うん、まあね」
蘭奈「来週の復帰戦、頑張るんだよ」
麗「復帰戦って、大袈裟な。普通の記録会だよ」
蘭奈「絶対、応援に行くから」
麗「いいよ、無理して来なくても」

○同・校庭・トラック
   陸上部の練習風景。
麗のN「とは言ったけど、何があったってこ
 の子は来るんだろうな……私は心のどこか
 で、そんな風に思ってた気がする。記録会
 の三日前までは」

〇同・2年C組教室(朝)
   着席した麗ほかの生徒たち。
   蘭奈は席にいない。
   教壇に立つ担任教師。
担任教師「……えー、風間さんは、お父さん
 の仕事の都合で、急に引っ越しすることに
 なったそうです」
   目を見開く麗。
   ざわつく教室内。   
担任教師「お別れも言えず、申し訳ないけれ
 ど、皆さんによろしくとのことでした」
   麗、携帯電話を手にするが、
麗の心の声「あ……私、あの子の連絡先、何も
 知らないや……」
   麗、蘭奈のいた席を眺める。
麗の心の声「結局、あんたも居なくなるんだね」

○河川の堤防沿いの道路
   麗、以前、蘭奈と二人で話をした場所に
   立っている。
麗「別にいいけど。友達だった訳じゃないし」

○陸上競技場・外観
   記録会が行われており、その歓声やア
   ナウンスが聞こえてくる。

○同・スタンド
   ユニフォーム姿の麗、スパイクシュー
   ズを履こうとするが、少し考えてシュ
   ーズケースにしまい、足元を見る。履
   いているのは、蘭奈と交換した靴であ
   る。

○同・トラック・スタート地点
   麗ほか十数名の女子生徒、スタート地
   点に並んでいる。
アナウンス「中学女子八百メートル、第二組
 間もなくスタートです……」
   スターターのピストルが鳴る。
   駆け出す麗ほか選手たち。
   最初のコーナーを抜けた辺りで、麗の
   周囲が白い光に包まれる。
   麗、あまりの眩しさに目を閉じる。

○どこかの市街地
   麗、目を開けるとそのままの姿で街中
   を走っている。
麗「え……何?」
   麗、前方に目をやると、制服姿の蘭奈
   が走っている。
   その隣には、蘭奈の父親らしき男性が
   一緒に走っている。二人とも何かから
   逃げているような必死の形相。
麗の心の声「何なんだろう、これ……夢、かな。
 そうだ。きっと夢だ」
蘭奈「あ、麗ちゃん」
   蘭奈、麗に気づいて並走する。
麗「どういうこと、これ?」
蘭奈「父ちゃんが闇金のカネ踏み倒してさ、
 追われてるんだ」
麗「いや、そういうことじゃなくて……」
男の声「こら待てや、風間!」
麗、振り返る。
麗「ええっ!」
   後方からガラの悪そうな男たち数名が
   追って来る。
蘭奈「こんな事ばっかでさ、一つ所に長く居
 られないんだ」
麗「悪い奴に追われてるって、本当だったん
 だ……」
蘭奈の父「蘭奈! 気を抜くと追いつかれる
 ぞ!」
蘭奈「ちょっとくらい話させてよ!」
蘭奈の父「お前、学校でまた余計な世話焼い
 たのか」
蘭奈「ホイホイ保証人になっちゃう、お人よ
 し親父に言われたくないや!」
麗「(大笑い)……あ、笑ってる場合じゃな
 かったね」
   背後から追って来る男たちの厳つい顔。
男「舐めとんのか貴様ら!」
蘭奈「応援、行けなくてごめん」
麗「ううん、私はもう大丈夫」
   蘭奈、麗の走る姿を見る。
蘭奈「うん、なんか硬さが取れたみたい」
麗「そうかな」
蘭奈の父「蘭奈!」
蘭奈「(微笑し)悪い。お先に!」
   蘭奈、スピードを上げると、父親と共に
   走り去っていく。
   麗の周囲が再び光に包まれる。   

○陸上競技場・トラック・ゴール地点
   麗、一着でテープを切る(八百メート
   ルなのでスタートと同じ場所)。
麗「あ……」
   麗、戸惑った様子を見せるが、スタン
   ドで沸く陸上部員たちを見て、手を振
   る。
   麗、足元の靴を見つめる。
麗「蘭奈には敵わないなあ……でも、いつか
 私も追いつくから」
   麗、空を見上げて微笑する。

                 (了)

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