MMORPGレッドストーン60分短編物語『涙の記憶』 ファンタジー

MMORPGゲーム『レッドストーン』の世界観を題材にした1時間シナリオです。 ボス討伐の失敗によりパーティーの仲間達を失い、自分だけが生き残ってしまったリーダーのアリス。討伐事故の自責の念から、今までのすべての記憶と経験を失い新たな人生をやり直す「転生」を決意する。転生したアリスは記憶も経験も装備も仲間もおらず依頼遂行のため都で仲間探しを始めるが……。 切ない別れと新たな出会いを通して冒険者としての成長を描いた物語。
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第一稿

■人物
アリス・シャーロット(15・18) プリンセス
ゼノン(27) 武道家
ダリン 新人冒険者担当官
小さな光(アリス)
創造神 天上界主神
シーフ 冒険者
黒魔 ...続きを読む
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■人物
アリス・シャーロット(15・18) プリンセス
ゼノン(27) 武道家
ダリン 新人冒険者担当官
小さな光(アリス)
創造神 天上界主神
シーフ 冒険者
黒魔術師 冒険者
剣士 冒険者
バルザロズ 魔獣
露天主 商人
バフォメット 悪魔
アシャス・フェン 転生術士
S級冒険者 冒険者

■本文(ペラ125枚・20,000文字)
○希望と絶望の境目・シュラグ超絶級
   おびただしい数のモンスターの死骸と
   死んでいる7人の冒険者達。
   散乱している剣、槍、杖等複数の武器。
   全身傷だらけでボロボロのアリス・シ
   ャーロット(15)号泣。
アリス「ごめん、ごめん……みんな、ごめん
 ね……」
   地に伏せ、泣きじゃくっている。
アリス「私のせいで……」
   破れたドレス。腕や足に傷と出血。
アリス「あの時、私が止めてれば。私がもっ
 としっかりしていれば」
   地についた泥だらけの手が土を掴む。
   強風が吹き、杖が転がっていく音。
アリス「あっ」
   よつんばいで冒険者達に近づく。
アリス「私がもっと強ければ、みんなを助け
 られたかもしれないのに」
   落ちているヒビの入った剣、槍、杖を
   拾い集め、
アリス「冒険者なんか……冒険者になんか」
   両手で武器を抱き、天に向かって叫ぶ。
アリス「絶対にならない!」
   7つの武器を抱えたプリンセスアリス。

○地下墓地・外
   ブルンネンシュティング近郊の墓地。
   淀んだ曇り空。黒いドレスのアリス。
   7つの墓前に剣、槍、杖等の武器。
アリス「みんな」
   アリス、目を細めると腫れとくま。
   生気のない視線で寂しげな表情。
   墓前にひざまづき胸元で両手を組む。
アリス「私もみんなと一緒にいきたかった」
   目を閉じると一筋の涙。地を濡らす
   水滴が雨に変わる。頬の涙と雨が混
   じってゆく。祈り続けるアリス。

○ロマ村ビスル
   のどかな田舎の村。村の長老、アシャ
   ス・フェンにアリスが運命の綛糸を手
   渡している。
アシャス・フェン「転生をすれば今までのす
 べての記憶と冒険者としての経験を失い、
 新たな人生を歩む。本当によいのか?」
   アリス、神妙な面持ち。
アリス「はい、やり直したいんです。新しい
 人生を」
アシャス・フェン「そうか……」
   アシャス、運命の綛糸を受け取る。
   アシャス・フェンの転生術が始まる。
   静かに目を閉じるアリス。

○天上界・フォゲルネスト神殿(夜)
   漆黒の夜空に星々が輝いている神殿。
   創造神と小さな光が向かい合っている。
創造神「新たに生まれるフランデルの命よ。
 そなたに一つ、質問をしよう」
小さな光「質問?」
   点滅が暗くなる小さな光。
創造神「なに、とても簡単な質問だ」
小さな光「何でしょうか? 神さま」
創造神「そなたの運命を教えよう。今は魂だ
 けの存在だが体を宿しフランデルに生まれ
 たら、運命に従い生きることになる」
小さな光「運命……ですか」
創造神「そうだ。地上に生をなす人間には一
 人一人に決められたさだめがある。それを
 見て、私の質問に答えるのだ」
小さな光「……わかりました」
創造神「よろしい。では、始めよう。そなた
 の運命の始まりだ」
   小さな光が輝きを増していく。

○ブルンネンシュティング・噴水前広場(夕)
   晴れた夕暮れ。まばらに立ち並ぶ露天。
   賑やかに噴水前で話している冒険者達。
   T『古都 ブルンネンシュティング』

○同・露店(夕)
   武道家のゼノン(27)が靴を履き、
   念入りに確認している。
   足元に紫の転生陣。
ゼノン「珍しいブーツだな。本当なのか?」
露天主「えぇ、最近、エルン山で見つかりま
 してね。走る速度も上がり、モンスターを
 追いかけ続ける靴、と鑑定士が」
ゼノン「いくらだ?」
露天主「希少なユニーク品ですから相場もな
 いようなもので。300億……と言いたい
 ところですが冒険者様ですし、250億で
 いかがでしょう?」
ゼノン「いいだろう」
   250本の金のインゴットを台に並べ
   るゼノン。店主、懸命に数えている。
   T『インゴット1本=1億ゴールド』
露天主「へへっ、ありがとうございます~」
   ゼノン、靴をかかえ露天を出ていく。
   露天主、何度も頭を下げている。

○同・噴水前広場(夕)
   町人や冒険者達が足早に歩いている中、
   質素なドレスを着たアリス・シャーロ
   ット(18)が叫んでいる。アリスの
   足元に白の転生陣。
アリス「誰か、誰か、手伝って下さる方いま
 せんか?」
   声がする方へわずかに振り向くも気に
   留めない冒険者達。悲壮感漂うアリス、
   冒険者の視線に気づき、目が合う。
アリス「あの、すみません、手伝ってくれま
 せんか?」
   アリスから声をかけられ気まずそうな
   冒険者。冒険者達の胸には同じマーク
   の紋章が輝いている。
シーフ「俺達、用事あるから」
   隣の黒魔術師を見て、
シーフ「(気まずそうに)な、なぁ?」
   黒魔術師、冷たい態度で、
黒魔術師「これからギルドの仲間達とギルハ
 ンなの。こんなところで声かけるんじゃな
 くてギルドのメンバーにでも頼んだら?」
アリス「……ギルドの仲間……」
   うつむき悲しげな顔をするアリス。
   3人に流れる沈黙。
シーフ「ギルド入ってないの? だったらう
 ちのギルド入らない? みんな助けてくれ
 るよ」
アリス「あの……そのっ……ギルドは」
   うろたえ、しどろもどろに答える。
   黒魔術師の足、苛立ち、地をコツコツ。
黒魔術師「もう行きましょ。ギルドホールの
 待ち合わせに遅れる。遅刻したらまたギル
 マスに怒られるわよ」
   黒魔術師、立ち去っていく。
シーフ「そゆことだから。悪いね。気、変わ
 ったらまた声かけてよ」
   ごめんのポーズをしながら作り笑顔の
   シーフ。黒魔術師へ小走りで向かい、
   アリスから去る。聞こえてくる小声。
黒魔術師「あんたがジロジロ見てるから、貧
 相な女に声かけられたんじゃないの!」
シーフ「まさかこっち来るとは思わないだろ!
 冒険者だってたくさんいたし。お前こそひ
 どくね? ギルド紋章つけてなかっただろ、
 あの子」
黒魔術師「(笑いながら)あら、そうだった?
 胸ばっかり見てるのね、男って!」
シーフ「ちげえって!」
   胸元を見るアリス。紋章ついていない。

○同・噴水前広場(夜)
   大半の露天が片付けられ閉まっている。
   アリス、不安げな表情でうろうろしな
   がら一人で叫び続け、声かすれている。
アリス「あの……手伝ってくださる方いませ
 んか?」
   アリスに近寄ってくる男一人。
剣士「ずっと叫んでるけどどうしたの?
 手伝おうか?」
アリス「本当ですか? ありがとうございま
 す!」
剣士「いいよ、いいよ」
   優しげで爽やかな笑顔。
剣士「……で、報酬はいくら?」
アリス「報酬……ですか?」
剣士「そう、報酬。冒険者に頼むなら報酬が
 ないと。お金……持ってるよね?」
   アリス、財布の革袋に手を入れ、ゴソ
   ゴソと中身をつかむ。
アリス「こっ、これだけあります!」
   握った拳を剣士の前でパッと開く。
   小さな手の平に金貨の小銭がまばら。
剣士「(呆れた様子で)これだけ?」
剣士のM「冒険者がこれしか持ってないわけ
 ねーだろうが!」
アリス「えっ、えっと……お金はこれしかな
 いですけど、アイテムならもっとあります」
   腰のマジックバッグを慌てながら、ひ
   っかきまわしている。
アリス「これとか」
   ポーションが地面にばら撒かれる。
アリス「花火もありますっ!」
   ハート型花火を手に持っているアリス。
アリス「あっ、これもかわいい!」
   白うさぎのコスチュームを、体にあて
   ている。剣士、呆れている。
剣士「マジかよ……わりぃ、また今度な。頑
 張れよ」
   足早にアリスから立ち去っていく剣士。
   地に両膝をつけ、ため息をつくアリス。
アリス「はあぁ……お金かぁ~……」
   地面に置いたアイテムを一つ一つ荷物
   に戻しているアリス。ゆっくりと近寄
   ってくる男の影。靴を持っている。
ゼノン「冒険者なら手伝おう」
   アリス、声に驚き見上げる。
   ゼノン、ハート型花火を拾い手渡す。
アリス「えっ、あっ……ありがとうございま
 す」
   花火を受け取る。
アリス「でも……」
   失望の表情で
アリス「お金……ないんです」
   手に持った花火をみつめて
アリス「アイテムもこれぐらいしか」
ゼノン「そうか」
アリス「……はい」
   沈黙の間。
ゼノン「金もアイテムもいらない」
アリス「(驚いた様子で)えっ?」
   ぱあぁと表情が明るくなる。
アリス「手伝ってくれるんですか?」
ゼノン「あぁ」
   涙をため、うるうるした瞳で見つめる
   アリス。スッと立ち上がり、
アリス「ありがとうございますっ!」
   勢いよくお辞儀。
ゼノン「何を手伝えばいいんだ?」
アリス「冒険者協会から依頼を受けたのです
 が、私、その……」
   恥ずかしそうにうつむき、
アリス「(か細い声で)弱すぎて……」
   ゼノン、アリスをじっと見ている。
ゼノン「モンスター討伐か? 場所は?」
アリス「はいっ! こっちです」
   アリスの後ろをついて行くゼノン。
   軽やかな足取りのアリスがくるりと振
   り返るとドレスの裾が舞う。
アリス「あの、私、アリス・シャーロットっ
 て言います。あなたは?」
ゼノン「ゼノン。冒険者だ」
   アリス、立ち止まり
アリス「よろしくお願いしますっ、ゼノンさ
 ん!」
   笑顔でゼノンを見るアリス。ゼノンの
   胸元に紋章がないことに気づく。

○オーガ巣窟・通路
   薄暗い通路を歩くゼノンとアリス。
アリス「冒険者協会からオーガを100体倒
 して欲しいという依頼を受けたんですけど」
ゼノン「何回目だ?」
アリス「荷物の配達はやったことがあるんで
 すけど、討伐は初めて……です。1週間前
 にダリンから頼まれて」
ゼノン「そうか。オーガは力が強く群れをな
 す。新人冒険者にとっては厄介な相手だな」
アリス「あ、あの…私は冒険者で(は)……」
   言いかけようとするも、ゼノン続けて、
ゼノン「まともにくらえば致命傷になる」
   アリス、不安と恐怖の表情に変わる。
ゼノン「殴り殺されたくなかったら目を離す
 な。合図をしたら後方から離れて攻撃しろ。
 いいな?」
   うなづくアリス。
   漆黒の空間に浮かんでいる焚き火の炎。
   オーガ達の咆哮が聞こえてくる。
ゼノン「この奥のようだ。俺が引きつけ弱ら
 せる。君がとどめを刺せ」
アリス「わっ、わかりました!」
   ドレスの裾を握るアリス。

○同・最奥広場
   オーガ達が群れて焚き火を囲んでいる。
   酒を飲み、騒ぎ、眠っている。無造作
   に地面に置かれた巨大棍棒。
   ゼノンとアリスが入口の物陰から偵察。
   オーガ達、気づいていない。
ゼノン「行くぞ」
   アリス、ゼノンの背後で隠れている。
アリス「は、はぃ!」
   ゼノン、オーガ達に走り向かっていく。
   ゼノンに気づいたオーガ達。即座に棍
   棒を掴み、立ち向かってくる。
   四方からオーガ9匹に囲まれるゼノン。
   逃げ場なし。ジリジリと詰め寄ってく
   るオーガ達がゼノンの間合いに入った
   瞬間、一斉に巨大な棍棒を振り下ろす。
アリス「ゼノンさんっ!」
   目をつむり、手で視界を遮るアリス。
   オーガ達の棍棒がゼノンに当たろうと
   する瞬間、凄まじい爆音と共にゼノン
   の音速かかと落としが炸裂する。
アリス「(爆音に驚き)!?」
   目を開くアリス。ゼノン、呼吸の乱れ
   なく立っている。
   周辺には割れた棍棒とオーガ達が気絶。
   唖然としているアリスを見てオーガを
   指差すゼノン。
アリス「あ……は、はぃ!」
   アリス、マジックバッグからボトルを
   取り出しオーガに投げつける。
アリス「えぃっ!」
   ボトルが割れオーガ達に広がる炎。雄
   叫び。瞬く間に黒い灰に変わっていく。
ゼノン「まだだ、来るぞ」
   黒煙が立ち込める広場の奥から聞こえ
   てくる地を揺らす足音。ぞろぞろと湧
   き出てくるオーガの大軍。

○同・最奥広場
   大きな人型の黒い灰、割れた棍棒が散
   乱。ゼノン、見回し
ゼノン「片付いたようだな」
   アリス、最後のオーガにボトルを投げ
   る。
アリス「はいっ! これで100体目です」
   最後のオーガが黒い灰に変わると、輝
   くものが見える。
アリス「あれ? 何か光ってます」
   灰に近づき手に取るアリス。赤いルビ
   ーのように輝いている石のかけら。
ゼノン「レッドストーンのかけらか」
アリス「えっ、これがレッドストーン!?」
ゼノン「かけらだ。50個集めれば1つの石
 になる」
   アリス、かけらをみつめている。
ゼノン「知らないのか? 冒険者は皆、それ
 を集めている」
アリス「聞いたことはあるんですが、見たの
 は初めてで。冒険者はなぜこれを集めてる
 んですか?」
ゼノン「どんな願いでも叶うからだ」
アリス「えっ!?」
   驚き、拍子にかけらを地面に落とす。
ゼノン「強さ、富、名誉、名工が創る世界に
 唯一つしかない伝説級の武器や防具、装飾
 品の製造にも使われている」
   アリス、落としたかけらを拾う。
アリス「本当にこのかけらを集めたらどんな
 願いでも叶うのですか?」
   つばを飲み込むアリス。
ゼノン「(淡々と)叶う」
   アリス、小さなかけらを見つめている。
ゼノン「レッドストーンが完成すればあらゆ
 る願いが叶えられる。どんな願いでもな」
   アリス、かけらについた砂埃をはらい
   ハンカチで拭いている。
アリス「そう……なんですか。じゃあ」
   ゼノンにかけらを差し出す。
アリス「ゼノンさん、どうぞ」
   屈託のない笑顔で。
アリス「冒険者は、このかけらを集めている
 んですよね?」
   沈黙。
ゼノン「君が持っておけ」
アリス「えっ?」
   目をパチパチとさせている。
アリス「でも……私は冒険者じゃないですし。
 この依頼もダリンから頼まれたから……で」
ゼノン「叶えたい願いは何もないのか?」
アリス「……願い?」
   うつむく。
アリス「わかりません。本当にどうしていい
 かわからなくて。友達もダリンしか……」
ゼノン「それは君の報酬だ。いらないなら、
 ダリンに渡せばいい。きっと喜ぶ」
   アリス、ダリンの喜ぶ顔が脳裏に。
アリス「(笑顔で)ありがとうございます!」
   アリスの手にレッドストーンのかけら
   が赤く輝いている。

○冒険者協会ブルンネンシュティング支部・
ダリンの部屋(夜)
   ダリン、机で書類を確認していると、
   アリスが入ってくる。
ダリン「アリスさん、おかえりなさいっ!」
   アリスに駆け寄り、ケガがないか全身
   を確認し安堵。書類を手渡すアリス。
ダリン「オーガ100体討伐完了ですね。初
 任務完了、おめでとうございますっ!」
   書類にペタンと印を押し、笑顔で拍手
   するダリン。
ダリン「これは協会からの依頼報酬です」
   ダリンから革袋を受け取るアリス。
   ずっしりと重い。
アリス「こんなに!?」
   革袋を開き覗き込むアリス。たくさん
   の金貨。
ダリン「討伐の報酬ですからね。このくらい
 が相場なんです。あとこれも」
   黄色いリボンでラッピングされた小さ
   くかわいらしいケーキ箱。
ダリン「アリスさんの初任務達成のお祝いで
 すっ! クリムスン商店のキャロットケー
 キ、とっても美味しくて大人気なんですよ」
   ニコニコ笑顔のダリン。
アリス「ありがとう、ダリンっ!」
   ダリン、優しい笑顔になりアリスを見
   つめている。徐々にうるうるとした涙
   目に変わりアリスに抱きつく。
アリス「ダ、ダリン!? どうしたの?」
ダリン「アリスさんが、アリスさんが……ま
 た冒険者になってくれたみたいで、なんか、
 なんか……嬉しくって」
   泣いているダリンの頭をポンポンと優
   しく撫でるアリス。
アリス「ダリンは私が冒険者になったら嬉し
 いの?」
ダリン「あたりまえですっ!」
   顔を上げ、真剣な眼差しで見つめる。
アリス「どうして?」
ダリン「レッドストーンを手に入れるなら冒
 険者になるのが一番近道ですから……」
アリスのM「……レッドストーン。どんな願
 いも叶う石。冒険者が追い求める石」
ダリン「レッドストーンがあれば、アリスさ
 んの願いも……」
アリス「私の願い?」
ダリン「あっ、いえ……何でもないです……」
   アリスから離れ、涙を拭きながら話を
   変える。
ダリン「ところで、オーガ100体もアリス
 さん一人で討伐したんですか?」
アリス「ううん。実は助けてくれた人がいて」
   アリス、窓を見る。外にはゼノンの影。
   ダリン、アリスの視線を見て窓辺に駆
   け寄り外を見る。
ダリン「あっ」
   アリスに振り返り、
ダリン「もしかして、ゼノンさんが?」
アリス「えっ、ダリン、知ってるの?」
ダリン「冒険者さんのサポートをするのが私
 の仕事ですから。冒険者さんなら全員、覚
 えてますよっ」
   誇らしげに胸元に手をあてるダリン。
   ダリンの机に置かれたたくさんの書物
   や書類。机のネームプレートに「新人
   冒険者担当官ダリン」と書かれている。
アリスのM「新人冒険者……担当官……」
ダリン「ゼノンさんは武道家で、冒険者の最
 上位級、SSランクの冒険者なんですよ。
 ここ、フランデル大陸には数万人の冒険者
 がいますがSS級は12名しかいません」
アリス「SS級冒険者……」
ダリン「SS級は地下界のストレンジ悪魔の
 掃討、エリアボス討伐など一般冒険者では
 難しい、最も危険な任務遂行にあたる冒険
 者……冒険者の憧れです」
アリス「そんなに強い人なんだ……。オーガ
 達に囲まれた時もこうやって」
   アリス、足を上げ踵落としの真似をし
   ている。ドレスの裾から見える白い肌。
アリス「バババッ~って。あ~っという間に」
ダリン「でしょ、でしょ!」
   ダリンも踵落としの真似をしながら、
   きゃっきゃとふざけあっている。
   暫くして、我に返るダリン。
ダリン「でも……」
   ダリン、頬に指を当てながら、
ダリン「いつも一人で任務にあたってるゼノ
 ンさんがパーティーを組むなんて珍しいで
 すね?」
アリス「えっ」
   上げた足が宙で止まる。ゆっくりと下
   ろすアリス。
ダリン「ソロ冒険者なんですよ。討伐専門の。
 ほとんどの冒険者はギルドに入り、仲間達
 と活動するんですが、ゼノンさんはずっと
 ギルドには入ってないみたいですし」
   アリス、窓から外のゼノンを見る。

○同・通路(夜)
   アリス、レッドストーンのかけらを親
   指と人差し指ではさみ頭上に掲げみあ
   げながら歩いている。左手にケーキ箱。
アリス「ダリンのあんな顔見たら、この石の
 こと、言いそびれちゃった」
   X X X
   アリスの胸元で泣いているダリン。
ダリン「アリスさんが、アリスさんが……ま
 た冒険者になってくれたみたいで、なんか、
 なんか……嬉しくって」
   X X X
アリス「ダリン嬉しそうだったな、冒険者か」
   欠片に光が反射して宝石のように輝く。
アリス「ルビーみたいで本当に綺麗。私が冒
 険者になったらこの欠片を集めるんだよね。
 ゼノンさんみたいにモンスターをばしばし
 倒して」
   欠片に光が反射し赤く輝く。
アリス「でも、あんな風に倒せるようになる
 のかなぁ……私、弱いし……狼と戦ったと
 きもドレス破けちゃって大変だったのに」
   どよーんと暗くなり、立ち止まる。
アリス「ん~、お腹も空いたし、ダリンには
 また今度会った時に話せばいっか」
   かけらをしまい、出口に向かう軽やか
   な足取り。

○同・外(夜)
   立っているゼノン。
   アリス、入口から出てきて、
アリス「ゼノンさん!」
ゼノン「討伐報告は終わったか?」
アリス「はいっ、終わりました。あの……」
ゼノン「……」
   突然お辞儀するアリス。
アリス「本当にありがとうございましたっ!」
ゼノン「気にしなくていい。生き残れよ」
   ゼノン、立ち去ろうとする。
アリス「えっ? あっ、あのっ!」
   ゼノン、呼び止められ振り返る。
ゼノン「なんだ?」
アリス「そ、その……」
   もじもじしている。
ゼノン「まだ何か用があるのか?」
アリス「えっと……」
   アリスのぐぅ~~っというお腹の音。
ゼノン「腹が減ってるのか?」
   アリス、赤面。
アリス「ちっ、違うんですっ!あっ、でもそ
 うです。じゃなくて~~~っ!」
   冷や汗をかきながら手をバタつかせる。
アリス「私にっ」

○(回想)同・ダリンの部屋(夜)
   ダリン、うるうるとした涙目でアリス
   に抱きつく。
アリス「ダ、ダリン!? どうしたの?」
ダリン「アリスさんが、アリスさんが……ま
 た冒険者になってくれたみたいで、なんか、
 なんか……嬉しくって」
   泣いているダリンの頭をポンポンと優
   しく撫でるアリス。
アリス「ダリンは私が冒険者になったら嬉し
 いの?」
ダリン「あたりまえですっ!」
   ダリン、真剣な眼差し。

○(元の)同・外(夜)
   アリス、真剣な眼差し。
アリス「私に、冒険を教えて下さいっ!」
   ゼノン、冷たく、
ゼノン「二度目の頼みはタダとはいかない」
   アリス、わずかに考え、ダリンから受
   け取った革袋を差し出す。
アリス「これをっ!」
   ゼノン、受け取らない。
アリス「(まくしたてるように)これじゃあ
 足りませんか? 足りないなら、必ず、い
 つか必ずお返ししますから! だから」
   深々と頭を下げるアリス。
   ゼノン、アリスの足元の白い転生陣を
   みつめている。
アリス「冒険者に、なりたいんです」
   頭を下げながらドレスの裾を掴む。
ゼノン「なぜ冒険者になりたいんだ?」
   アリス、頭を上げゼノンを見て、
アリス「ダリンに喜んでほしいんです。助け
 てくれた大切な友達だから」
ゼノン「……」
アリス「私も強い冒険者になってレッドスト
 ーンを探したいんです」
   真剣な表情のアリス。ゼノン、淡々と
ゼノン「晩飯、食いに行くか?」
アリス「えっ」
ゼノン「腹減ってるんだろ?」
   お腹をさすっているアリス。
アリス「あっ、はい……」
ゼノン「ついてこい」
   ゆっくりと歩き出すゼノン。
   後をついていくアリス。

○天上界・フォゲルネスト神殿(夜)
   創造神と小さな光が向かい合っている。
創造神「これがそなたの運命だ。これを見て、
 地上に生をなしたいと思うか?」
小さな光「はいっ! 私はフランデルで一番
 強い冒険者になりたいです!」
創造神「……」
小さな光「早く私をフランデルに降ろしてく
 ださい。神さま!」
創造神「焦るでない。まだ続きがある」
小さな光「?」
創造神「見ていくことにしよう」

○ブルンネンシュティング・宿屋・食堂(夜)
   テーブルをはさみゼノンとアリス。
アリス「おいしい!」
   アリス、料理を食べている。
ゼノン「白い転生陣……君は転生者だな?」
   アリス、飲み込み、
アリス「はい、一度、なんですけど」
   ウェイトレスが料理を運んでくる。
ゼノン「転生前の記憶はあるのか?」
   アリス、フォークを置く。
アリス「いえ」
   目をそらす。
アリス「覚えてないんです。前に何をして
 たかとか、友達とかギルドとか全部」
ゼノン「自己転生か。自ら転生をした場合、
 ショックで経験も記憶も失う。寿命を全う
 した転生ならそんなことにはならないが」
アリス「そう、なんですか。じゃあ私はきっ
 と自分で」
    置かれたティーカップを持つ。
    カップの横にキャロットケーキ。
アリス「ダリンは昔の私のこと知ってるみた
 いで、一度聞いたことあるんですけど」
    紅茶に映るアリスの顔。寂しげ。
アリス「何も話してくれなくて」
   ジョッキを飲み干すゼノン。

○同・外観(朝)
   よく晴れた青い空。すずめのさえずり。
   冒険者達や町人が歩いている。

○同・ロビー
   ゼノン、宿屋の入口扉に手をかけると、
   開けた拍子に扉についた鈴が鳴る。
   階段を降りて、駆け寄ってくるアリス。
アリス「ゼノンさんっ、待って下さい!」
ゼノン「なんだ?」
アリス「あの……どちらに?」
ゼノン「協会からの依頼だ。討伐に行く」
アリス「私も連れて行って下さい!」
ゼノン「なぜだ?」
アリス「なぜって……私も冒険者になりたい
 からです!」
ゼノン「足手まといだ」
アリス「(ショックを受け)!」
   しゅんと萎縮するアリス。悲しそうに
   うつむいている。
   ゼノン、扉に手をかけると鈴の音が鳴
   る。宿を出ていこうとした矢先、
アリス「(つぶやくように)昨日のディナー、
 美味しかったですね」
ゼノン「?……あぁ」
   立ち止まるゼノン。
   アリス、両手の人差し指をあわせて、
アリス「ゼノンさんがついてこいって言うか
 らついてったのに、お店出る時、ゼノンさ
 ん、お金なくって」
   無言のゼノン。
   アリス、背で手を組み、ゼノンの背後
   をうろうろ。振り返るゼノン。
アリス「あまり言いたくないのですが……」
   手に革袋。
アリス「私の……奢り……でしたよね?」
   からっぽの革袋を蝶のようにひらひ
   らさせている。
ゼノン「すまんな。手持ちがあったはずなん
 だが……露天で使ったのを忘れていた。報
 酬が入ったらすぐに返す」
   気まずそうなゼノン。
アリス「ダリンからもらった、キャロットケ
 ーキも美味しそうに一緒に食べてましたよ
 ね。ねっ?」
ゼノン「何が言いたい?」
   ゼノンをじっと見つめるアリス。
   アリス、ゼノンの腕を軽く掴み、
アリス「ねっ!」
   アリス、意志の強い表情。
   ゼノン、諦めた表情。
ゼノン「……わかった。好きにすればいい」
   アリス、してやったりの笑顔。
アリス「好きにしますっ!」
   猛ダッシュで階段を駆け上がるアリス。
   ドアが開く音、ガサゴソと騒がしい音。
   ドアがバタンと閉まり、階段を駆け下
   りる音がした後、荷物を持ってロビー
   に戻ってくる。3秒。
ゼノン「ポーションは?」
アリス「持ちましたっ!」
   デフォルメのコミカルなアリスが、赤
   ポーションと青ポーションを両手に頭
   上で掲げる。自信満々の顔。
ゼノン「万病治療薬は?」
   アリスの両手いっぱいの万病治療薬。
   さらに自信満々で><の顔。
アリス「持ちましたっ~!」
   両手から溢れた万病治療薬がこぼれ落
   ちる。呆れた様子のゼノンと対照的に
   満面の笑顔のアリス。
ゼノン「あとは……」
アリス「も~~~~~ちましたっ!」
ゼノン「まだ何も言ってないだろう」
   ><の表情でおでこを叩くアリス。
   ゼノン、腰背部のマジックバッグから
   靴(追撃者の根性)を取り出す。
ゼノン「これを履いておけ」
   アリス、デフォルメキャラから戻る。
アリス「何ですかこの気持ち悪い靴。かわい
 くないです」
ゼノン「そうか?」
アリス「これ履いたらゼノンさんみたいに踵
 落としでバシバシ倒せるようになるとか?」
ゼノン「できない」
アリス「じゃあ、すっごく強いマジックアイ
 テムとか?」
ゼノン「走りが少し早くなる」
アリス「はぁ……」
ゼノン「逃げて生き延びる可能性が高まる。
 万が一のお守りみたいなものだ」
アリス「全然テンションあがらない靴なんで
 すけど」
   アリス、靴(追撃者の根性)を見つめ
   ている。
アリス「もしかして、こんな靴買って、お金
 使っちゃったんですか? 走りが早くなる
 ならもっとかわいい靴の方が……こっちの
 靴でもいいです?」
   アリス、バッグから取り出したオシャ
   レなライダーシューズを見せるが、
ゼノン「(冷たく)だめだ」
   苦虫を噛み潰したような顔で、
アリス「ゔ~~~~~っ」
   追撃者の根性をジロジロと眺めながら
アリス「こんな靴履かなくても、ゼノンさん
 がいれば大丈夫なんじゃ……」
   途中で遮るように
ゼノン「ついて来るならその靴を履くのが条
 件だ。いいな? 履かないなら一人で行く」
アリス「もう~~~っ! わかりました!
 わかりましたよっ!」
   きれいなピンクシューズを脱ぎ、渋々、
   追撃者の根性に履き替えるアリス。
   足元を見て
アリス「やっぱりかわいくない」
   ロビー壁面の鏡の前で棒立ちで
アリス「服にも似合わない」
   への字に口を曲げて不満げな顔。
   ゼノン、腕組みをし見ている。
   床に脱ぎ捨てられたピンクシューズ。

○天上界・フォゲルネスト神殿(夜)
   創造神と小さな光が向かい合っている。
創造神「これがそなたの運命だ。これを見て
 地上に生をなしたいと思うか?」
小さな光「……はい。フランデルの冒険は楽
 しいことがたくさんあってワクワクします」
創造神「そうか」
小さな光「早く私をフランデルに降ろしてく
 ださい。神さま!」
創造神「焦るでない。まだ続きがある」
小さな光「まだあるんですか?」
創造神「見ていくことにしよう」

○地下墓地・外(夕)
   空がオレンジ色に包まれている。
   ブルンネンシュティング近郊の墓地。
   ゼノンとアリスがいる。
アリス「ここ、ですか?」
   辺りをうろうろしながら眺めている。
ゼノン「協会の依頼書ではそうだな」
   ゼノン、依頼書と地図を眺めている。
アリスのM「苦しい。胸がしめつけられるみ
 たいで。ここ、見覚えがあるような……」
ゼノン「どうかしたか?」
アリス「いえ、なんでも」
   胸を抑え、首を振るアリス。
アリスのM「宿に戻れって言われたら、一緒
 にいけなくなっちゃう」
アリス「懐かしい気がして」
ゼノン「来たことがあるのか?」
アリス「いえ。ないと思うのですが……」
   首を横に振るアリス。視界に7つ並ん
   だ墓が飛び込んでくる。
   歩き出し、墓の前で立ち止まり、じっ
   と見つめている。
アリス「このお墓」
   墓前に錆びた剣と槍、ひび割れた杖等
   の武器。アリスの背後にゼノン。
ゼノン「冒険者の墓のようだな。武器が置か
 れているところを見ると、生き残った仲間
 が弔ったんだろう」
アリス「冒険者の……」
ゼノン「冒険者は任務遂行のために命をかけ
 て戦う。モンスター達から街が守られてい
 るのも、冒険者達が日々、モンスター討伐
 をしているからだ。報酬が高いのは命をか
 ける代償でもある」
アリスのM「……この間のダリンの依頼も」
   X X X
ダリン「討伐の報酬ですからね。このくらい
 が相場なんです」
   X X X
ゼノン「討伐は特に危険な任務だ。どんなモ
 ンスター達も拠点を襲われれば、死にもの
 狂いで襲いかかってくる。最弱のコボルト
 であったとしてもだ」
アリス「討伐……死にもの狂いで」
ゼノン「討伐対象が弱いから、自分よりもレ
 ベルが低いから、慣れてきたからと油断し、
 命を落とす冒険者も少なくない」
アリス「……」
ゼノン「死後、有名な冒険者は武勇伝として
 吟遊詩人達に語られ、伝説になる。しかし、
 そんな冒険者はごく一部だ。大半の無名の
 冒険者達は人知れずただ死んでいくだけだ」
アリス「冒険者が討伐をやめてしまったら、
 どうなるのですか?」
ゼノン「街や都がモンスター達に占拠される。
 この地下墓地のようにな。町人達はさらわ
 れ……キャロットケーキも食えなくなるだ
 ろうな」
アリス「そんな……。だから、ゼノンさんは
 討伐だけをしているんですか?」
ゼノン「……」
アリス「ダリンからゼノンさんはとても強い
 冒険者だって聞きました。それに……ずっ
 と一人で戦ってるって」
   夕日がだんだん落ちてくる。
アリス「ゼノンさんは怖くないんですか?
 その……ひとりで誰にも知られずに、死ぬ
 かもしれないのに……」
   ゼノン、墓をじっと見つめて
ゼノン「俺は長く生きのび続けているだけだ。
 新人冒険者もベテラン冒険者もいつかはこ
 こに入ることになる。ランクなんてものは
 関係がない。運良く続けられれば生きのび、
 運が悪ければ死ぬ。ただそれだけだ」
   ゼノン、墓の前にひざまづき、目を閉
   じ祈る。
アリス「ゼノンさん!?」
   驚くアリス。
アリス「お知り合い……なのですか?」
   ゼノン、目を閉じながら
ゼノン「友人でもギルドの仲間でもないが、
 同じ冒険者であることに変わりはない」
   アリス、ゼノンが祈っている姿を見て
   ぼんやりしながら腰を下ろす。

○(回想)地下墓地・外
   ブルンネンシュティング近郊の墓地。
   淀んだ曇り空。黒いドレスのアリス。
   7つの墓前に剣、槍、杖等の武器。
アリス「みんな」
   アリス、目を細めると腫れとくま。
   生気のない視線で寂しげな表情。
   墓前にひざまづき胸元で両手を組む。
アリス「私もみんなと一緒にいきたかった」
   目を閉じると一筋の涙。地を濡らす
   水滴が雨に変わる。頬の涙と雨が混
   じってゆく。祈り続けるアリス。

○(元の)地下墓地・外
   墓の前で祈っているゼノンを放心状態
   で眺めているアリス。
アリス「(ぼそっと)ありがとう」
   アリスの頬を涙がつたい、我に返る。
アリス「あ、あれっ」
   突然、涙が出てくるアリス。
アリス「えっ? なんで?」
   拭うが、止まらない大粒の涙がボロ
   ボロと溢れてくる。
アリス「悲しくないのに、悲しくないのに、
 涙が……勝手に」
   動揺しているアリス。
   夕日がおち、辺りが暗くなっていく。
   立ち上がるゼノン。
ゼノン「日が沈む。時間だ。行くぞ」
アリス「はい、すみません」
   アリス、立ち上がり、ドレスについた
   砂埃をはらう。
アリス「モンスター討伐しないと、ダリンが
 好きなキャロットケーキ、食べられなくな
 っちゃいますもんね」
   涙を拭い、ゼノンについていくアリス。

○同・地下1階
   無数の古めかしい棺が置かれている。
   前方の暗がりにモンスター5体の影。
ゼノン「見張りだな」
   足音もたてずに死角に移動し、無双拳
   を放つ。4発の気功弾がモンスターを
   襲い、一瞬で灰と化す。進むと地下へ
   降りる階段が見える。
ゼノン「降りるぞ」
   頷くアリス。階段を降りていく二人。

○同・地下3階・大広間・外
   ゼノンとアリス。アリスがキョロキョ
   ロしながら歩いている。
アリス「上の階と違って、通路に松明があっ
 て、明るいですね」
ゼノン「知能が高いモンスターがいる証だ。
 残り50体程がどこかにいる。気を抜くな」
アリス「はいっ!」
   通路の先に大きな扉が見える。
ゼノン「開けるぞ」
   頷くアリス。扉を開くゼノン。

○同・中
   扉を開く音。
   大鎌を持った悪魔バフォメットとホー
   ンド達が50体。ホーンド達の視線が
   一斉にゼノンとアリスに集中する。
   襲いかかってくるホーンド達を、ゼノ
   ン、次々に音速踵落としで一蹴。
   バタバタと倒れていくホーンド。石床
   に散乱する鎌。バフォメット、冷静に
バフォメット「冒険者か。ここは人間どもの
 都を進撃するための重要な拠点。渡すわけ
 にはいかん」
   バフォメットの大鎌がゼノンを切り、
   不気味な笑みを浮かべる。
   ゼノンの姿が徐々に揺れていく。
ゼノン「分身を切って嬉しいか?」
バフォメット「!?」
   背後から聞こえる声に振り向くバフォ
   メット。即座に猛連撃を放つゼノン。
   凄まじい拳の嵐がバフォメットを襲う。

○同・中
   瀕死のバフォメット。ゼノン、アリス。
バフォメット「く、くそ、冒険者ごときに…
 冒険者ごときが~~っ!」
   バフォメット、魔獣の幻影の壺を置く。
バフォメット「ははは……これでお前達もこ
 こから生きては出られまい……ここでお前
 達も」
   息絶えるバフォメット。背後から立ち
   昇る煙。煙が消えると、巨大な魔獣、
   バルザロズが出現。ゼノン達の5倍の
   巨体。
アリス「なっ!? なんですか、あれは!?」
   本能的に危機を感じ、後ずさるアリス。
ゼノン「ただのモンスターじゃないことだけ
 は確かだな」
   ゼノン、無双拳を放つが、魔獣は無傷。
   ゼノンに突進し襲いかかってくるバル
   ザロス。間合いに入り斧を振りかざす。
   避けるゼノン。石床の破片が飛び散る。
   バルザロズ、続けて3連撃。
アリス「ゼノンさんっ!」
   アリス、どうしていいかわからない。
   ゼノンの右手の拳がバルザロズの斧を
   弾いた瞬間、右手につけた彷徨者の伝
   承(武器)が破壊される。
   攻撃の勢いで弾き飛ばされるゼノン、
   宙返りしながら着地し、衝撃を逃がす。
   致命傷は負っていないが、ゼノンの右
   手の武器はボロボロに壊れ、流血。
ゼノン「ちっ」
   頭につけた鉢巻を右手に巻くゼノン。
   にじり寄ってくるバルザロズ。
バルザロズ「どうした? もう終わりか?」
   容赦なく攻撃を続けるバルザロズ。
   防戦一方のゼノン。ギリギリのところ
   で避けているが押され続けている。
ゼノン「ぐはっ!」
   斧の直撃をくらい弾き飛ばされるゼノ
   ン。
アリス「ゼノンさんっ!」
   ゼノンに駆け寄ろうとするアリス。
ゼノン「アリスっ! 逃げろ!」
   ゼノン、飛ばされた衝撃で立ち上がる
   ことができない。
バルザロズ「にがさぬぞ。貴様も死ねっ!」
   鬼気迫るバルザロズの気迫に押され、
   恐怖で足が震え座り込むアリス。
アリス「(恐怖で)あっ……あ……あ……」
   ガタガタと震えながら、後ずさりをし
   ているが立ち上がれない。
   バルザロズの振り下ろす斧が、アリス
   めがけて一直線に向かってくる。
アリス「(絞り出すように)やだ、やだ……
 助けて、助けて……ゼノンさん……」
   バルザロズの斧がアリスの頭を引き裂
   こうとする。目をつぶるアリス。
ゼノン「アリスーーーーーっ!」
   斧がアリスの頭を引き裂こうとする瞬
   間、アリスの靴から溢れる黄金の光。
   光がアリスを包み込み、球体型防御
   シールドを創り出す。
   シールドによって弾かれるバルザロズ
   の斧。反動でよろめくバルザロズ。
バルザロズ「!?」
   アリス、目を開き、辺りを見回す。
アリス「(不思議そうに)!?」
ゼノン「!」
バルザロズ「なんだ!?」
   何度もアリスに向けて斧を振り下ろす
   が、黄金のシールドによってことごと
   く弾かれ、アリスには当たらない。
ゼノン「アリスっ! 今のうちに逃げろ、逃
 げるんだ!」
   アリス、我に返る。座ったまま後ずさ
   りし、バルザロズから離れ立ち上がる。
アリス「みっ、みんなを呼んできますっ!」
   大広間から出て一目散に階段に向かう。

○冒険者協会ブルンネンシュティング支部・
内(夜)
   ダリンが机に向かい書類整理している。
ダリン「今日もおしごと、頑張ったぁ~~!」
   背伸びし、満足げにニコニコしている
   と、走る足音が聞こえてくる。
ダリン「?」
   続いて、扉が勢いよく開く音。
アリス「ダリンっ!」
   必死の形相のアリス。
ダリン「アリスさん!?どうしたんですか?」
アリス「ゼノンさんが……ゼノンさんが……」
   息を荒げ、泣きじゃくっているアリス。
ダリン「!?」

○地下墓地・地下3階・大広間
   満身創痍のゼノンと傷だらけのバルザ
   ロズ。ゼノン、猛連撃を放ち、拳が流
   星のごとくバルザロズを打ちのめす。
ゼノン「はぁ……はぁ……」
   よろめいているバルザロズ。
バルザロズ「……こざかしい、冒険者め!」
   ゼノンを睨みつける。
ゼノン「諦めが悪くてな」
ゼノンのM「これまで戦ったモンスターとは
 まるで違う。これが魔獣か」
   息切れしているゼノンに、バルザロズ、
   渾身の一撃を放つ。
バルザロズ「うぉおぉおぉおっぉおおおぉ!」
   大広間に響き渡る、魔獣の雄叫び。
ゼノン「はあああああああ~~~~っ!」
   同時にゼノン、烈風撃破を放つ。
   ゼノンの目前には、バルザロズの斧が
   襲いかかってくる。烈風撃破の青白い
   巨大球がバルザロズを飲み込んでいく。

○同・通路
   追撃者の根性を履き走っているアリス。
   その後ろをダリン、冒険者達が必死で
   追いかけている。
アリス「こっちです! はやくっ!」
   アリスについていくのがやっとのS級・
   A級冒険者達。ダリン、やや遅れて
ダリン「アリスさん! 待って。待って下さ
 い! アリスさん!」
   届かないダリンの声。
アリスのM「ゼノンさん、ゼノンさんっ!」
   アリスの脳裏にゼノンとの思い出がよ
   ぎる。
   X X X
ゼノン「冒険者なら手伝おう」
   ハート型花火を拾い、アリスに手渡す
   ゼノン。
   X X X
   レッドストーンのかけらを持つアリス。
ゼノン「それは君の報酬だ。いらないならダ
 リンに渡せばいい。きっと喜ぶ」
   X X X
ゼノン「気にしなくていい。生き残れよ」
   X X X
ゼノン「晩飯、食いに行くか?」
   X X X
   墓の前にひざまづき、目を閉じ祈って
   いるゼノン。
ゼノン「友人でもギルドの仲間でもないが、
 同じ冒険者であることに変わりはない」
   X X X
   階段を降りて、駆け寄ってくるアリス。
アリス「ゼノンさんっ、待って下さい! 私
 も連れて行って下さい!」
   X X X
   ゼノンがアリスに追撃者の根性を渡し
ゼノン「ついて来るならその靴を履くのが条
 件だ。いいな? 履かないなら一人で行く」
   X X X
アリスのM「私が一緒に行きたいなんて言わ
 なければ……ゼノンさんがこの靴を履いて
 たら、こんなことには……」
   後悔で押し潰されそうになるアリス。
   大扉の前で止まるアリスと冒険者達。
   息切れし、遅れてやってくるダリン。
   アリス、精一杯の力を込め、皆と共に
   扉を開く。

○同・大広間
   たくさんのモンスターの死骸。静寂の
   大広間に響く足音。アリス、ダリン、
   S級・A級冒険者達が入ってくる。
   広間中央には魔獣の幻影の壺。その横
   に巨大なバルザロズが横たわる。見て、
S級冒険者「一人で魔獣バルザロズと戦った
 のか!?」
アリス「(バルザロズを見て)!?」
   S級冒険者達がバルザロズに近寄り、
   絶命していることを確認。
   ダリン、A級冒険者達とともに大広間
   を探索している。
アリス「ゼノンさんは? ゼノンさんはどこ
 !?」
   見渡すが見あたらない。壁際のダリン、
ダリン「アリスさん! アリスさんっ!」
   アリス、ダリンに駆け寄る。
   壁にひび割れ。強く叩きつけられた跡。
   壁際で倒れているゼノン。その周りに
   は壁石が散乱。傷だらけのゼノンに駆
   け寄り、抱えるアリス。
アリス「……ゼノン……さん?」
   微動だにしないゼノン。意識がない。
アリス「ゼノンさんっ! ゼノンさんっ!」
   アリスの叫ぶような声が響く。
   穏やかな顔のゼノン。
   アリス、ダリンや冒険者達を見る。
   目を伏せ僅かに首を振る冒険者達。
   ゼノン、死んでいる。
アリス「……ゼノンさん……約束」
   泣いているダリン、アリスを見て
ダリン「?」
   X X X
ゼノン「すまんな。手持ちがあったはずなん
 だが……露天で使ったのを忘れていた。報
 酬が入ったらすぐに返す」
   気まずそうなゼノン。
   X X X
アリス「約束……守ってくださいよ? 返し
 てくれるって……言ったじゃないですか」
   アリス、ゼノンを揺さぶるが動かない。
アリス「ゼノンさん……ねぇ、ゼノンさん」
   ゼノンの顔にこぼれ落ちるアリスの涙。
アリス「(叫ぶように)返してくれるって約
 束したじゃないですか!」
   号泣しているアリスとダリン。

○(回想)希望と絶望の境目・シュラグ超絶

   おびただしい数のモンスターの死骸と
   死んでいる7人の冒険者達。
   散乱している剣、槍、杖等複数の武器。
   全身傷だらけでボロボロのアリス号泣。
アリス「ごめん、ごめん……みんな、ごめん
 ね……」
   地に伏せ、泣きじゃくっている。
アリス「私のせいで……」
   破れたドレス。腕や足に傷と出血。
アリス「あの時、私が止めてれば。私がもっ
 としっかりしていれば」
   地についた泥だらけの手が土を掴む。
   強風が吹き、杖が転がっていく音。
アリス「あっ」
   よつんばいで冒険者達に近づく。
アリス「私がもっと強ければ、みんなを助け
 られたかもしれないのに」
   落ちているヒビの入った剣、槍、杖を
   拾い集め、
アリス「冒険者なんか……冒険者になんか」
   両手で武器を抱き、天に向かって叫ぶ。
アリス「絶対にならない!」
   7つの武器を抱えたプリンセスアリス。

○(元の)同・大広間
   両手でゼノンを抱えているアリス。
アリス「私のせいで、私のせいで、みんなは、
 ゼノンさんも……ゼノンさんまでまた……」
   ゼノンを抱きしめるアリス。
   隣にダリン。
ダリン「アリスさん……」
   アリスとゼノンを囲む冒険者達。
   X X X
ゼノン「友人でもギルドの仲間でもないが、
 同じ冒険者であることに変わりはない」
   X X X
   ゼノンを見つめている冒険者達。

○天上界・フォゲルネスト神殿(夜明け前)
   漆黒の中、創造神と心臓の鼓動のよう
   に点滅する小さな光が向かい合う。
創造神「これがそなたの運命だ。これを見て、
 地上に生をなしたいと思うか?」
小さな光「……」
創造神「どうした?」
小さな光「(不安そうに)わからないんです」
創造神「何がだ?」
小さな光「冒険者は皆、いつか消えゆく者な
 のでしょうか」
創造神「それがそなたらの運命なのだ」
小さな光「運命……ですか……」
創造神「始めに言ったはずだ。そなたが生ま
 れたら運命に従って生きることになる、と」
小さな光「運命を変えることはできないので
 すか? 運命というのは絶対なのですか!」
創造神「これまで数々の人間達を地上に送り
 出してきた。そなたのような運命を持つ冒
 険者も少なくはない」
   ゆっくりと点滅を繰り返す小さな光。
創造神「運命を知り、地上に降りることを望
 まぬ者もいた。運命を信じぬ者もいた。い
 くばくかの望んだ者もフランデルに降り立
 った瞬間に今見たすべてを忘れ、生きるこ
 とになるのだ」
小さな光「そんなの……そんなのあんまりじ
 ゃないですか」
創造神「すべてを忘れ、再び始めるのだ。運
 命に従って生きることが冒険者の生なのだ」
小さな光「……こんな辛い思いをするために、
 私は、フランデルに生をなすのですか……」

○忘れられた地下収容所・地下1階
   T『1年後 アリス(レベル950)』
   アリスが巨大なアークリッチと一人で
   戦っている。
   アークリッチ、アリスめがけて獄炎。
アリス「当たるわけないじゃない。遅いのよ」
   軽やかに避けボトルを取り出し投げる。
アリス「えいっ! えいっ! えいっ!」
   アリスが投げた8連弾のボトルによっ
   て崩れ落ちていくアークリッチ。塵に。
アリス「はぁ……はぁ……」
   額は泥と汗で汚れ、息切れし肩で呼吸。
   塵の中に小さな白い手を入れ、何かを
   探している。
アリス「(喜びの)あった!」
   レッドストーンのかけらを拾い上げ、
   ハンカチで磨くアリス。
アリス「これで50個」
   冒険者として経験を積んだ凛々しい顔。
   アリスの手にレッドストーンのかけら
   が赤く輝く。物陰で5匹のアークリッ
   チが呪文詠唱しアリスの背後に巨大な
   隕石の影。アリス、気づいていない。

○天上界・フォゲルネスト神殿(夜明け前)
   わずかな陽の光が創造神を照らし、大
   理石の床に影ができている。
創造神「まもなく夜明けだ。心は決まったか」
小さな光「……はい」
創造神「では、最後にそなたに問う」
   小さな光をじっと見つめて
創造神「フランデルに生をなしたいと望むか」
   小さな光が強く輝きだす。
小さな光「私は、私は……運命を変えてみせ
 ます」
創造神「……」
小さな光「私に生を与え、フランデルに行か
 せて下さい!」
   ほほえんでいる神。
創造神「それがそなたの願いか。わかった。
 叶えるとしよう」
   フォゲルネストに暖かな太陽の光が差
   し込んでくる。創造神が右手をかざす
   と、小さな光が暖かな光と融合する。
創造神「夜明けか」
   一人たたずむ創造神。
   左手にはレッドストーンが輝いている。

○ブルンネンシュティング・噴水前広場(朝)
   町人や冒険者達が足早に歩いている中、
   座り込み、地面に置かれたアイテムを
   一つ一つバッグに戻しているアリス。
   ゆっくりとアリスに近寄ってくる靴を
   持った男の影。足元に金色の転生陣。
ゼノン「冒険者なら手伝おう」
   声に驚き、見上げるアリス。
   ハート型花火を拾うゼノン。アリスに
   花火と金貨を手渡す。
アリス「あっ……」
   ゼノンをみつめるアリスの瞳が潤む。
   花火と金貨を受け取る小さな白い手。
アリス「ありがとう……(震えた小声で)
 ありがとうございます!」
   アリスの足元には赤の転生陣が輝く。
   一筋の涙と共に優しく微笑んでいる。

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