サーキュレーションラブ 日常

近頃、永野沙羅のエアコンの調子が悪い。しかし長い間使っている情もあり、新しいエアコンの購入に踏み切ることができない。ある寝苦しい夜、沙羅は同棲しているニート彼氏、古賀潤に新しいエアコンをねだられる。古賀の甘えた態度にキレる沙羅。古賀に、エアコンを直して自分への愛を証明するように詰め寄る・・・
トシモリ ユウキ 7 0 0 10/14
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第一稿

登場人物表
永野沙羅(22)(30) OL
古賀 潤(23) 沙羅の恋人。ニート。

沙羅の母
業者の人

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登場人物表
永野沙羅(22)(30) OL
古賀 潤(23) 沙羅の恋人。ニート。

沙羅の母
業者の人

* * * * * * * * * * * *

◯(沙羅の夢)マンション・沙羅の家・玄関
   スーツ姿の永野沙羅(22)、沙羅の母、
   向かい合う。
沙羅の母「ご飯ちゃんと食べなよ? インスタントと
 かでもいいから」
沙羅「分かってる。心配しないで」
沙羅の母「じゃあね」
   沙羅、笑顔で手を振る。
   沙羅の母の背中が遠ざかる。
   沙羅の笑顔が消える。

◯同・同・寝室
   ダンボールがうず高く積まれた部屋。
   沙羅、新品のベッドに触れる。 
   続いて新品のタンス、ラックに触れる。
沙羅「ほんとに1人だ」
   不安そうな沙羅の顔。
   沙羅、古びたエアコンを見上げる。
   突然沙羅に向かって倒れるダンボール。
沙羅「うわっ! 」

◯(沙羅の夢終了)同・同・同(深夜)
   ベッドの上で目覚める沙羅(30)。
   沙羅の額に、古賀潤(23)の手が乗って
   いる。
   潤、沙羅の隣に寝そべり、天を仰いでい
   る。
潤「くっそ〜! 」
   潤、沙羅に気付く。
潤「ああ、ごめん」
   手を退かし、再びゲームに没頭する。
沙羅「今何時? 」
潤「ん〜、もうすぐ3時」
沙羅「いつまでゲームやってんのよ」
   うるさいと言うような潤の顔。
潤「いいじゃん、明日休みなんだし。てか、
 もっとあっち行けよ」
沙羅「あっち行けって、これ私のベッド! 」
   潤、馬鹿にするように笑い、
潤「同棲してるのに何を今更」
沙羅「それは、あんたがいつまでもフラフラ
 してるから! 」
潤「あ〜暑いな〜。このエアコン効いてる? 」
   沙羅、エアコンを見上げる。
   潤の携帯の画面に「GAME OVE
   R」の文字。
潤「(ため息)死んだ」
   潤、携帯を持って立ち上がる。
   沙羅、起き上がり、
沙羅「どこ行くの? 」
潤「ネカフェ」
沙羅「何で」
潤「暑いんだもん」
沙羅「(ため息)無駄遣いだよ! 我慢して寝て」
   沙羅、ベッドに横たわる。
   潤、ベッドの上に座る。
潤「姉さぁん。そろそろエアコン買い替えません? 」
沙羅「まだ使えるでしょ」
潤「稼いでるのに、何で我慢すんだろ」
  沙羅、再び起き上がる。
沙羅「あんまり勝手なこと言うとキレるよ。どうせ
 一銭も出さないくせに」
潤「でもさ〜涼しい部屋で寝たくない?こう、
 すぅ〜って眠れるよ? 」
   潤、沙羅の頬をするんと撫でる。
   沙羅、潤の手を振り払う。
沙羅「この子には情があるの! 」
潤「情? 」
沙羅「実家の時から、私の部屋に付いてたから」
潤「あ〜そういう感じね……でも機械だからいつか
 は壊れるよ? 」
沙羅「そんなの分かってるけど! 」
潤「ねぇ買おう? マジで! 千円くらいなら出すし!
 ね? 姉さん! 」
  潤、沙羅に向かって手を合わせる。
  沙羅、きっと潤を睨む。
沙羅「私は! あんたの姉さんじゃねえ! 」
   沙羅、潤の頭を枕で殴る。
   横に倒れる潤。
潤「いってえ! 」
沙羅「姉さん姉さん、あれしろこれしろって! それ
 でも彼氏!? 」
潤「いや彼氏彼氏!当然! 」
   肩で息をする沙羅。
沙羅「どうせ、金払ってくれるババアぐらいにしか
 思ってないでしょ」
潤「う……いや、んなわけ! 俺は沙羅ちゃん以外の
 人となんて考えられないから! 」
沙羅「……なら、証明してよ」
潤「え? 」
   沙羅、エアコンを指差す。
沙羅「あれ直して、私のこと好きだって証明して! 」

◯T「AM3:00」

◯マンション・沙羅の家・寝室(深夜)
   潤、椅子に登り、エアコンを叩く。
潤「頼む〜動いて〜。沙羅ちゃん、ガチギレだよ〜
 (ささやく)」
   呆れ顔の沙羅。
   潤、叩くのをやめて、そっと振り向く。
潤「どう? 」
   沙羅、首を振る。
潤「じゃあ」
   潤、小型扇風機を持ち上げる。
潤「これでどう?エアコンと扇風機で、風の
 量が2倍ですよお客さん! 」
沙羅「なるほど。それを一晩中やってくれる
 と? 」
  誤魔化すように笑う潤。
潤「……ちょっと、室外機も叩いてくる」
   潤、椅子を降り、ベランダに出る。
   頭を抱える沙羅。
沙羅「もう! 」
   沙羅、立ち上がる。

◯T「AM4:00」

◯マンション・沙羅の家・寝室(深夜)
   潤、ベランダから戻ってくる。
潤「どう? 効いてます? 」
   沙羅、掃除機でフィルターの掃除をし
   ている。
潤「あれ、沙羅ちゃん」
   沙羅、きまり悪そうに潤に背を向ける。
沙羅「……今年は、フィルターの掃除してなか
 ったなぁって」
  潤、くすっと笑う。
潤「そっか」
   沙羅、フィルターをエアコンに戻す。
   エアコンの蓋を閉めて、
沙羅「これでどうだ!」
   リモコンのスイッチを押す。
   潤、上の方に手をかざして、
潤「う〜ん。ぬるい……」
沙羅「だめかぁ」  
   沙羅、うなだれてベッドに座る。
潤「何かねぇかな〜」
   潤、部屋を出て行く。
   沙羅、エアコンを見上げて
沙羅「寿命か(呟く)」
   潤、駆け込んでくる。
潤「沙羅ちゃん! 見て見て! 」
   潤の手には、エアコンの洗浄スプレー。
沙羅「あ! 」
潤「これやってみよう! 」
沙羅「うん! 」

◯T「AM5:00」

◯マンション・外観(早朝)
   うす暗く静かなマンション。
沙羅の声「あ〜そこ! 」
潤の声「どこ!? 」

◯同・沙羅の家・寝室(早朝)
   沙羅、椅子の上に立ち、エアコンのフィンにスプレーを吹きかけている。
   エアコンから黒い汚れが落ちる。
   潤、新聞紙で受け止める。
沙羅「ちょ! ベッド汚れる! 」
   新聞紙を持って慌てる潤。
潤「やべやべやべ! 」
沙羅「ちょ、早くそこ敷いて! 」
   沙羅、椅子から降りる。
   2人で新聞紙を敷き始める。
   潤、ケタケタ笑う
潤「全っ然足りねえ! 」
沙羅「持ってくるわ! 」
   沙羅、走って部屋を出る。

◯T「AM6:00」

◯同・同(朝)
   新聞紙を片付け、整然とした部屋。
   沙羅、潤、真面目な顔でエアコンと対峙
   する。
沙羅「行くよ」
   潤、頷く。
   沙羅、リモコンのスイッチを押す。
   エアコンが稼働する。
   上の方に手をかざす2人。顔を見合わ
   せる。
潤「……変わらない」
   ベッドに倒れ込む沙羅、潤。
沙羅「あ〜あ! 朝日が綺麗に登ってるわ! 」
   沙羅、悔しげに朝日を睨む。
   潤、くすくす笑う。
沙羅「何?」
潤「いや。久しぶりじゃね? ムキになって、騒い
 で、ぶっ倒れて」
沙羅「……そうね」
   朝日が2人を照らす。
沙羅「潤」
潤「ん? 」
沙羅「今日、エアコン買いに行こう」
潤「うん」
   朝日を眺める2人。

◯同・同・寝室
   業者の人、古い室内機に手をかける。
業者の人「じゃ、外しちゃいますね」
潤「あ、ちょっと待ってください」
   潤、部屋の外に向かって叫ぶ。
潤「沙羅ちゃん! 外れるよ〜! 」
沙羅の声「は〜い! 」
   沙羅、ペットボトルを持って入る。
   潤の横に立つ。
潤「お願いします」
   業者の人、ゆっくりと室内機を外す。
   沙羅、感慨深そうに見つめる。

◯同・同・玄関
   業者の人、玄関の外に立つ。
   沙羅、ペットボトルを渡す。
沙羅「これよかったら」
業者の人「あ〜どうも! 」
沙羅「ありがとうございました! 」
   沙羅、ドアを閉める。
   寝室に向かって歩き出す沙羅。

◯同・同・寝室
   潤、ベッドの上に立ち、エアコンに手を
   かざす。
潤「あ〜涼しい! 」
   沙羅、入ってくる。
沙羅「何で先に点けるのよ! 」
潤「沙羅ちゃんも手! 」
沙羅「え〜」
   潤、沙羅の手を取り、ベッドに立たせ
   る。
   沙羅、エアコンに手をかざす。
沙羅「あ〜違うね! 空気が新鮮! 」
潤「でしょ」
   沙羅、潤、ベッドに座る。
   潤、携帯をいじる。
   沙羅、エアコンの説明書を読みながら、
沙羅「てかびっくりした」
潤「何が?」
沙羅「この前扇風機買う時はさ、でかいのがいいと
 か、最新の機能が! とかごねてたじゃん? 今回は
 なかったなぁって」
潤「まぁね、もう大人ですから? どこにお金を割くべきかっていうのは心得てますよ」  
   沙羅、おかしそうに笑う。
沙羅「そうですか。課金モンスター」
   潤の携帯の画面に、「¥2000」の文字。
   潤の指、文字をタップしようとして止ま
   る。
   潤、不貞腐れて携帯を置き、ベッドに倒
   れる。
   沙羅、くすくす笑う。
潤「まぁ、少しは節約しないとな」
沙羅「え? 」
潤「ほら、結婚とか」
   沙羅の驚いた顔。
   潤、起き上がり、得意そうに微笑む。
潤「いずれな。俺が仕事見つけたら」
   沙羅の顔が真顔になる。
沙羅「18回目」
潤「ん? 」   
沙羅「そのセリフ吐くの18回目よ? 」  
潤「え、ちょ、何で覚えてんの?」
沙羅「最初は潤が謎の筋トレグッズ買って来た時だ
 ったかな。私がキレたら言ったじゃん。いずれ俺
 が仕事見つけたら、結婚して一緒に筋トレやろう
 って」
潤「あ〜えっと」
   潤、立ち上がり、じりじりと出口に向か
   う。
   沙羅、潤を追い詰める。
沙羅「いつになったら行動で示してくれるんだか」
潤「ちょっと、お茶でも飲もっか! ね? 」
   潤、バタバタと部屋を出て行く。
   沙羅、ふふっと笑う。
   沙羅、新しいエアコンを見上げる。
潤の声「沙羅ちゃ〜ん! ダージリンとアールグレイ
 と緑茶! 」
沙羅「ダージリン! 」
   沙羅、寝室を出て行く。

(了)

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