具なしのグルメ 日常

独り暮らしの青年・飯野傑(23)は今日も、具のない食事を作り続ける。
マヤマ 山本 11 0 0 09/21
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第一稿

<登場人物>
飯野 傑(12)(23)
上司(36)
先輩(24)
飯野の母(54)



<本編>
○飯野の実家・リビング
   食卓を囲む飯野傑(12)とそ ...続きを読む
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<登場人物>
飯野 傑(12)(23)
上司(36)
先輩(24)
飯野の母(54)



<本編>
○飯野の実家・リビング
   食卓を囲む飯野傑(12)とその親兄弟。卓上には多彩なおかずが乗っているが、それらには目も向けず、ひたすら白飯だけをかきこむ飯野。その様子に呆気にとられる飯野の親兄弟達。
飯野「(空になった茶碗を手に)おかわり!」

○メインタイトル『具なしのグルメ』

○アパート・外観
   引越し業者のトラックが停まっている。
   T「1食目」

○同・飯野の部屋・居間
   1K程度の部屋。
   段ボール箱に入った荷物を抱えてやってくる飯野(23)。近くの床に置く。
飯野「ふ~、こんなもんかな」
飯野M「この春、僕は大学を卒業し、初めての一人暮らしを始める」
   室内を見回す飯野。
飯野M「ようやく手に入れた僕の城。誰にも文句を言われないこの場所で」
   腹をさする飯野。
飯野「よし」
飯野M「記念すべき、最初の食事のメニューはもう決めている」
    ×     ×     ×
   三合炊きの炊飯器で米を炊く準備をする飯野。後の台詞通りの分量を釜に入れていく。
飯野M「まず無洗米三合に対して水を約七二〇ミリリットル入れ、炊飯開始」
    ×     ×     ×
   炊飯器の蓋を開ける飯野。炊き上がったご飯を見てご満悦。
飯野M「炊き上がったら、完成」
    ×     ×     ×
   座卓の上には、茶碗に盛られた白飯。おかずは無し。
   T「白飯」
   手を合わせる飯野。
飯野「いただきます」
   一口ほおばる飯野。至福の表情。
飯野M「コレだよ、コレ。炊き立て独特の香り、もちもちとしながらも柔らかすぎないこの食感、そして何とも言えない甘味」
   ひたすらかきこむ飯野。
飯野M「しかもコレが、よくわからない、無洗米の中で一番安く売られてただけの銘柄でこの味なんだから驚きだ」
   空になる茶碗。すぐ脇にある、三合炊きの炊飯器の蓋を開ける飯野。まだ二・五合ほど残っている。
飯野M「これから僕は、誰に気兼ねする事もなく、誰に咎められる事もなく、好きなだけ食べ続ける事が出来るんだ」
   再び白飯をかきこみ始める飯野。
飯野M「ふりかけも味噌汁も必要ない。白飯をおかずに白飯を食べる。そんなハッピーライフの始まりだ!」
    ×     ×     ×
   炊飯器にはまだ一合ほどご飯が残っているが、腹を押さえる飯野。
飯野「さすがにコレ全部は、飽きるな」

○ラーメン屋・外観
   T「2食目」

○同・中
   カウンター席に並んで座り、ラーメン(具だくさん)を食べる飯野、先輩(24)、上司(36)。店内には「替え玉無料」と書かれた張り紙。
上司「店長、替え玉」
先輩「あ、自分も。飯野は?」
飯野「あの……替え玉って何ですか?」
上司&先輩「(驚いて)!?」
飯野「(驚かれた事に驚いて)え?」
先輩「飯野お前、ウソだろ? 替え玉も知らねぇのかよ?」
飯野「そう言われても、ラーメン屋って来た事ないんで」
先輩「いやいや、男だったら一回くらいあるだろ?」
上司「お前、どんだけ育ち良いんだよ」
飯野「はぁ……」
飯野M「別に僕は、育ちが良い訳ではない」
   ラーメンの中の野菜を箸でつまむ飯野。
飯野M「僕は、ラーメンがそこまで好きじゃない」

○(回想)飯野の実家・リビング
   食卓でラーメンを食べる少年時代の飯野。具の野菜を箸でつまむ飯野。
飯野M「正確には、麺だけなら好きなんだけど……」

○ラーメン屋・中
   カウンター席に並んで座る飯野、上司、先輩。
飯野M「しなびた野菜というものが、何よりも嫌いなのだ」

○アパート・飯野の部屋・キッチン
   インスタントラーメンの袋を手に取る飯野。
飯野M「だから今日は思う存分、麺だけを楽しもうと思う」
    ×     ×     ×
   火にかけられた手持ち鍋。中には沸騰した湯。そこにインスタントラーメンを入れる飯野。
飯野M「まず水五〇〇ミリリットルを沸騰させ、麺を入れる。ゆで時間は三分が推奨されているが、二分で止めるのが僕流」
    ×     ×     ×
   粉末スープ入りのどんぶりに湯ごと麺を入れる飯野。
飯野M「ゆであがったら、粉末スープを入れたどんぶりに投入して、完成」

○同・同・居間
   座卓の上には、具なしのラーメン。
   T「ラーメン」
   手を合わせる飯野。
飯野「いただきます」
   一口ほおばる飯野。至福の表情。
飯野M「コレだよ、コレ。インスタントならではのスープに絶妙に絡んでくれる麺の適度な細さ、僕好みにカスタマイズされた麺の適度な硬さ、そして……」
   ひたすらかきこむ飯野。
飯野M「キャベツやニンジン、もやし連中に一切邪魔される事なく、ひたすら麺を食べ続ける事が出来る。これぞ、一人暮らしの醍醐味」
   「ぷは~」と息を吐く飯野。
飯野M「これでゆでる手間さえなければ完璧なんだけどな……」
    ×     ×     ×
   インスタントラーメンの袋を開け、そのままの状態でかじる飯野。
飯野「さすがに、ゆでた方が良さそうだな」

○飯野の実家・外観
   T「3食目」

○同・リビング
   小学生時代の漢字テストの答案用紙を見ている飯野。「具」という漢字の読みを答える問題で「じゃま」と回答してある。それを見て笑う飯野。
   その横で、飯野のスマホを見ている飯野の母(54)。そこには、以下の料理の完成写真が映っている。
飯野M「一人暮らしを始めて、間もなく一年。この間、具なしチャーハンや具なし焼きそば、具なしそうめん、具なしもりそば、具なしコーンフレーク等、様々な具なしメニューに挑戦してきた」
飯野の母「アンタ、全然料理してないじゃない」
飯野「『料理してる』なんて言ってないじゃんか。俺は『自炊してる』って言ったんだよ」
飯野の母「とにかく、早い所レパートリー増やしな」
飯野「気が向いたらね」
飯野M「別に、そう言われたからではないが、今日は新しいメニュー……」

○アパート・外観(夜)
飯野M「いや、長年温めてきた、禁断の料理に手を出す事にした」

○同・飯野の部屋・キッチン
   火にかけられた鍋。中には沸騰した湯。そこに固形のカレールーを入れる飯野。
飯野M「まず水一四〇〇ミリリットルを沸騰させ、市販のカレールーを溶かす」
    ×     ×     ×
   カレーをかき混ぜる飯野。
飯野M「かき混ぜて、完成」

○同・同・居間
   座卓の上には、具なしのカレーライス。
   T「カレーライス」
   手を合わせる飯野。
飯野「いただきます」
   一口ほおばる飯野。
飯野M「具を入れない事で、野菜や肉を切る作業が必要ないし、煮込んでいてアクが出る事もない。何より、調理時間を圧倒的に短くできるのが最高だ」
   ひたすらかきこむ飯野。
飯野M「ただ……」
    ×     ×     ×
   空になった皿を見ながら、物足りなさそうに腹をさする飯野。
飯野「さすがにカレーは、具が無いと寂しいな」
                   (完)

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