誰にも見えない物語 ドラマ

夏祭りの日、中学生の歩は一人寂しく川沿いを歩いていた。いや、隣には青い帽子を被った全身青づくめの男もいた。その姿は歩行者用信号機の青信号そっくりだった。歩はその男と歩きながら、昔親友だった翔との思い出に浸り始める。歩が想像し、翔の声で実行に移す。最高の親友だった。妄想を楽しんでくれる翔のおかげで、歩は自分を肯定することができた。しかし中学に入ってから歩は孤独になり、想像好きな自分を否定し始める。そして歩が絶望した時、隣を歩いていた青信号が喪失する。そんな歩の前にクラスのいじめっ子たちと翔がバッタリ現れて…
しがないよしふみ 8 0 0 09/01
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第一稿

登場人物

・赤西 歩 (14)  中学三年生
・青山 翔(かける)(14)  歩の親友

・青信号 30歳くらいの男
・赤信号 同

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登場人物

・赤西 歩 (14)  中学三年生
・青山 翔(かける)(14)  歩の親友

・青信号 30歳くらいの男
・赤信号 同

・赤西 結衣 (38)  歩の母
・青山 佑(たすく)(19)  翔の兄

・東(あずま) (70)  雑貨屋の店主
・若月 (14)  男子バスケ部
・米田 (14)  同
・近藤 (14)  同
・堀北 えみ(14)  翔が好きな女子


○道
   眼鏡をかけ、ショルダーバッグを背負った赤西歩(14)が、曇り空を見上げている。
歩「……(失望した表情)」
   フラフラ歩き出す歩。
   歩行者用信号機のメロディ音「故郷の空
   に」が聞こえてくる。
   地面の夏祭りの貼り紙を踏んづける歩。
   メロディ音が鳴り止む。
   横断歩道で立ち止まる歩。
   青信号が点滅している。
   青信号の人型マークを見つめる歩。
歩の声「青信号……」
   点滅が消え、画面が真っ暗になる。

○広場
   青山翔(かける)(14)、若月(14)、米田(14)がバスケットボールで遊んでいる。
   近くに空の屋台がたくさん並んでいる。
若月「翔今日本当に告んの?」
翔 「うん、もう部活も引退したし!」
米田「部内恋愛禁止守ってんの、翔だけだよ」
翔 「え、そーなの!?」
若月「うまく連れ出せよ。二人きりで花火見れた
 ら、一生縁続くらしいから」
翔 「まじで! よっしゃー……」
   屋台の方から近藤(14)が来る。
若月「どうだった?」
近藤「まだどこもやってない」
翔 「流石に早過ぎたか」
近藤「適当にどっかで暇潰す?」
米田「うん、お腹減ったし」
近藤「(笑って)祭り前に食うなって」
   歩き出す近藤、若月、米田。
   翔、ぼーっと辺りを見つめている。
近藤「翔!」
翔 「あ、うん」
   振り返って追いかける翔。

○道
   青い帽子をかぶった男=青信号(30くら
   い)が走っている。
   後ろから追いかける赤い帽子をかぶった男
   =赤信号(30くらい)。
赤信号「待てー!!」
   突き当たりで止まる青信号。
   左右どっちに進むか迷った後、左の道を走
   っていく。

○街中
   通りをフラフラ歩く歩の視点。

○道
   赤信号から逃げている青信号。

○街中
   フラフラ歩く歩の視点。
   横断歩道で立ち止まる。
   車道を車がビュンビュン往来している。

○道
   信号に引っかかる青信号。
青信号「くそっ」
   振り返る青信号。
   遠くから赤信号が迫ってきている。
   焦りながら周りを見渡す青信号。
青信号「(何かを見て)!!」
   突然駆け出す青信号。

○街中
   車道を見つめる歩の視点。
   ゆっくり前に歩き出す。
   大きなクラクションが鳴り響く。
   右を向くと、車が迫ってきている。
   ぶつかりそうになり、目をつぶる歩。
   まぶたを開けると、体は無事だった。
   歩道で倒れている歩。
歩「はぁ……はぁ……」
   横で青信号も一緒に倒れている。
   青信号が歩を助けたのだ。
   立ち上がる青信号。
青信号「ちょっと、大丈夫!?」
   呆然としている歩。
   ふと顔を上げる青信号。
青信号「やばい!」
   × × ×
   少し離れた場所で、赤信号が青信号を捜し
   ている。
   歩たちがいた歩道にやってくる赤信号。
赤信号「……あれ?」
   青信号と歩の姿はない。
   首を傾げて走り去っていく赤信号。
   すぐ近くに、歩をおんぶしている青信号の
   背中が見える。
   歩で帽子を隠して、やり過ごしたのだ。
   赤信号の背中を見つめる青信号。

○公園・外観
青信号の声「なんで死のうとしてたの?」

○同・中
   ブランコに座っている歩と青信号。
   歩、「想像ノート」と表に書かれた小さい
   ノートとシャーペンを持っている。
歩「いや、死のうだなんて……ただ」
青信号「ただ?」
歩「ただ、自分を見失って……君は?」
   遠くを指差す青信号。
青信号「向こうの青信号」
歩「信号が消えたら、交通事故が起きて大変じゃ
 ん」
青信号「大丈夫。あそこ、朝ラジオ体操のおばち
 ゃんしか通らないから」
   ノートに書き込んでいく歩。
歩「(書き終えて)降りてきた理由は……」
青信号「助けてって声が聞こえて」
   シャーペンをギュッと握る歩。
青信号「赤信号は降りちゃ駄目だって言ったんだ
 けど」

○街中
   青信号を捜している赤信号。
青信号の声「奇跡的に、赤信号のタイプの女性が
 通って。それでなんとか降りられた」

○公園・中
   フフッと笑う歩。
歩「(書き込みながら)赤信号は女好き……」
   書き終えて、立ち上がる歩。
歩「よし、じゃあ今から一緒に探検しよう」
青信号「探検?」
歩「うん。今の内に、まだ行ったことない場所行
 っときたいから」

○同・外
   公園から出てくる歩と青信号。
   近くを、夏祭りのうちわを持った少年二人が通る。
   楽しそうに話している少年たち。
   その姿を羨望の眼差しで見つめる歩。

○赤西家(アパート)・玄関
   仕事から帰ってくる赤西結衣(38)。
結衣「ただいま〜」
   靴を脱いで部屋の中に入っていく。
   部屋の中は、引越しの準備で所々ダンボールが置かれている。
   ふすまを開けて歩の部屋に入る結衣。
   窓際に、目だけ書かれたてるてる坊主が、
   逆さまに吊るされている。
結衣「(笑ってチョコンと触り)逆じゃん」
   揺れているてるてる坊主の顔は、どことな
   く寂しく見える。

○川沿い
   想像ノートとシャーペンを持って歩いてい
   る歩。
   隣で青信号も一緒に歩いている。
歩「(興奮ぎみに)こんな川あったんだ」
   立ち止まる歩。
青信号「(振り返って)どうした?」
歩「この川、空と同じ色してる」
   川の色は、曇り空を反射して灰色だ。
   ノートに「空色の川」と書き込む歩。
   青信号にノートを奪われる。
青信号「さっきから何書いてんの」
   歩きながらノートをめくる青信号。
   歩も歩き出す。
歩「思いついた事や、おもしろかった事」
青信号「へー、いつから?」
   最初のページを開く青信号。
   「リストバンジャー」という文字が書かれ
   ている。
青信号「ん? リストバンジャー?」
歩「……きっかけは、小学校四年生の時」

○回想・小学校の教室(5年前)
   休み時間中、眼鏡をかけた歩(9)が机で本
   を読んでいる。
歩の声「その頃まだ友達がいなくて、休み時間に
 一人で本を読んでいたら……」
翔の声「赤西ー!」
   歩が顔を上げると、翔(9)と他の男子数人
   が近づいてくる。
   右腕に金のリストバンドをしている翔。
歩「青山くん?」
翔「(手を合わせて)頼む! コントの台本書い
 てくんない?」
歩「コント?」
翔「そう、休み時間にやろうと思って」
男子A「こいつえみの笑顔が見たいんだって」
翔「余計な事言うなって!」
男子B「絶対書けないでしょこいつじゃ」
翔「そんなんやってみないと分かんないじゃん。な、赤西!」
歩「……」
男子B「ほら、読書の邪魔しちゃ可哀想だって。
 行こう行こう」
   去っていく男子たち。
翔「(追いかけながら)ちょっと待ってよ!」
   翔のリストバンドをじっと見つめる歩。

○校庭(数日後・夕)
   校庭の端の木のイスに座っている歩。
   横に筆箱が置いてある。
   サインペンで、買ったばかりのノートの表
   に「想像ノート」と書き込む歩。
   そしてページを開き、一ページ目の上に
   「リストバンジャー」と書く。
青信号の声「一応考えてみたんだ」
歩の声「うん」
青信号の声「で、どうだった?」
歩の声「……楽しかった」
   歩、「リストバンジャー役のかける、必殺
   技をはなつ」とノートに書き込む。

○教室(数日後)
   休み時間中に、翔と男子三人が女子の前で
   コントをしている。
   翔、リストバンドを着けた右腕を天に掲げ
   る。(必殺技)
   大げさに倒れる敵役の男子たち。
   それを見て笑う女子。
   堀北えみ(9)の姿も。
   遠くからその様子を見つめる歩。
   女子の反応を見て、顔が高揚する。
歩の声「目の前で自分が考えたコントが実演され
 て、それを見て笑う人もいて」
   演技中の翔が歩の方を見る。
   歩も翔を見る。
   目が合い、にっこり笑い合う二人。
歩の声「その時初めて、自分の世界が誰かの世界
 と繋がった気がしたんだ」

○川沿い(回想戻り)
   歩いている歩と青信号。
青信号「へー……それからこれにアイデア書くよ
 うになったんだ」
歩「うん」
   ページをめくる青信号。
青信号「ん、何これ。史上最大の冒険?」
   ノートに「史上最大の冒険」の文字。

○回想・神社裏(5年前)
   大きい石が五個ほど連なっている。
   石の上に座ってトレーディングカードを見
   ている歩。
   翔、隣で何か考えている様子。
歩の声「あー、それはある日、秘密基地で翔と遊
 んでた時に……」
青信号の声「え、ちょっと待って、そんな仲良か
 ったっけ?」
歩の声「あれから仲良くなったから」
青信号の声「へー!」
歩の声「で、翔が急に言い出したんだ」
翔「……ねぇ」
歩「ん?」
翔「俺たちも、冒険したくない?」
歩「……え?」
翔「なんかこう、今までやった事ないような、ハ
 ラハラドキドキするようなさ!」
歩「たとえば?」
翔「それは歩が考えてよ」
歩「え!」
翔「考えるのは歩の仕事だろ!」
歩「……(考える)」
青信号の声「すごい無茶振りだな」
歩の声「前の日にテレビでスターウォーズがあっ
 たから、その影響だよ」
青信号の声「なるほど……で、何やったの?」
歩の声「人間の喜びを手に入れた」

○校庭
   休み時間中、ドッジボールをしている歩と翔のクラス。
   歩、歌声が聞こえてコートの外を見る。
   女子三人が流行りの歌を歌いながら楽しそ
   うに歩いている。
歩「……!(思いつく)」
   コートでボールを投げる翔。
翔「(当てて)よしっ!」
   翔の横に行く歩。
歩「翔!」
翔「ん?」
   翔に説明する歩。
翔「それめっちゃいい!」
歩「でしょ!」
翔「でもどっちが本体やる?」
歩「……最初はグー、じゃんけんポン!」
   じゃんけんする歩と翔。
   歩がチョキ、翔がパーで歩が勝つ。
   悔しがる翔。
   喜ぶ歩だが、ボールを当てられる。
   翔、ボールをすぐ拾い、鬼の形相で球を投
   げ返す。

○青山家・佑(たすく)の部屋
   パーカーのフードを被り、ヘッドホンで音
   楽を聞いている青山佑(15)。
   翔が部屋に入ってくる。
翔「兄ちゃん……(大声で)兄ちゃん!」
   ヘッドホンを取って振り返る佑。
佑「(怠そうに)?」
翔「お母さんが呼んでる。ミスチルだって」
佑「(興奮ぎみに)まじで!?」
   急いで部屋を出ていく佑。
   翔、その隙に机に近付く。
翔「……あった!」
   後ろを一度確認した後、こっそり何かをポ
   ケットに入れる翔。

○赤西家・居間
   結衣がテーブルで編み物をしている。
   部屋の入り口付近に立っている歩。
   結衣の向こうの壁に掛けてある、結衣のコ
   ートをじっと見つめる。
結衣「(歩を見て)お腹減った?」
歩 「え、あ、いや」
   慌てて首を振る歩。
   結衣、編み物を再開する。
   歩、足音を立てずに結衣の後ろを通り、コ
   ートの近くまで行く。
   コートに向かって手を伸ばす歩。
   結衣が喋り出したのでサッと手を引く。
結衣「今日の晩ご飯何がいい?」
歩 「え? あー、なんでもいいよ」
結衣「なんでもいいかぁ」
   ホッと息を吐く歩。
   コートの右ポケットに右手を突っ込み、何
   かを掴んで引き抜く。
   取ったものを確認し、自分のポケットにし
   まう歩。
結衣「なんでもいいが一番困るんだよなぁ……
 ね」
   結衣が振り返ると、歩はもういない。
結衣「あれ?」

○神社・前(夕)
   そわそわして立っている歩。
   小走りで翔がやってくる。
歩「うまくいった?」
   ポケットから携帯(iPhone6s)を取り出す
   翔。
翔「(掲げて)ジャーン! そっちは?」
   ポケットから水色のイヤホンを取り出し
   て、自信満々に掲げる歩。
翔「よし、じゃあやるか!」
歩「うん!」
   翔、イヤホンを取って携帯に差し込む。
   右耳にイヤホンをつける翔。
   歩、左耳にイヤホンをつける。
   携帯を操作する翔。
翔「(タップしながら)さ、く、ら、い」
   「3961」でパスコードを開く翔。
翔「よし……そんで……ん!?」
   画面に「お気に入り」という名前の女性ア
   イコンのフォルダを見つける。
   顔を見合わせる二人。
   翔、ゆっくりと人差し指を近づける。
   しかしすんでのところで指を離す。
翔「っあー! こっちはまた今度にしよう」
歩「うん、そうだね……」
   うなずき、画面をスワイプする翔。
翔「……あった!」
   音楽アプリを開く翔。
翔「どれにしよっかな……これ!」
   適当に「Sir Duke(スティーヴィー・ワン
   ダー)」を押す翔。
   曲が流れ始める。
翔・歩「(顔を見合わせて)おー!!」
   笑顔でハイタッチする二人。
   音楽に乗りながら、歩き始める。
   休憩中に道端で本を読んでいる警備員が、
   優しい眼差しで二人を見つめる。

○川沿い(回想戻り)
   歩いている歩と青信号。
青信号「人間の喜びって、音楽のことか!」
歩「うん。おかげで、普段歩いている道がカラフ
 ルに色づいた」
青信号「でも、盗んで大丈夫だったの?」
歩「あー、一ヶ月分お小遣いもらえなかった」
青信号「え! 二人とも?」
歩「(首を横に振り)翔は頭殴られたみたい。す
 ごいたんこぶ出来てたから」
青信号「なるほど……」
   ページをめくる青信号。
青信号「なんじゃこりゃ!」
   立ち止まる青信号。
   気付いて、振り返る歩。
   青信号がページを見せつける。
   ノートに「神様を作った」の文字。
青信号「神様を作った?」
   隣のページが破けている。
歩「(笑って)あぁ、それか」

○回想・森林公園(5年前)
   木々の間を、木の棒を持った翔がぐんぐん
   歩いていく。
歩の声「公園を探索してたら、翔が最初に見つけ
 たんだ」
   少し後ろから追いかける歩。
翔の声「なんだこれ!」
   歩、翔の横まで行く。
   目の前に、小さな鳥居と祠が現れる。
歩「なんでこんなところに……」
翔「ね。神様いんのかな?」
歩「さぁ」
翔「……開けてみよう!」
歩「え!?」
   鳥居をくぐる翔。
   歩、一礼してから慌てて追いかける。
   祠の前で立ち止まる二人。
翔「一緒に開けようぜ」
歩「うん……でも大丈夫かな」
翔「平気平気。じゃあ俺左」
   祠の左扉の取っ手を掴む翔。
   歩、恐る恐る右扉の取っ手を掴む。
歩「やっぱやめた方が」
翔「大丈夫だって、まだ昼間だし」
歩「でもなんかあったら」
翔「心配すんなって」
歩「でも……」
鳥の羽の音「バサバサバサッ! 」
   突然鳥たちが一斉に木から飛び立つ。
   びびって空を見上げる二人。
歩「ほら、やっぱやめた方がいいって」
翔「た、ただの鳥だよ」
歩「もう後に引けなくなってるだけじゃん!」
翔「ち、違うよ!」
歩「嫌だよ、まだ死にたくない!」
翔「大丈夫、死ぬ時は一緒だ! せーのっ!」
   勢いよく扉を開ける翔と歩。
   開けた勢いで尻餅をつく。
翔・歩「はぁ……はぁ……」
   しばらく呆然とする二人。
   翔が立ち上がる。
翔「ほら、大丈夫だって言ったろ」
   手を差し伸べる翔。
   歩、翔の手を取って立ち上がる。
   そして祠の中をのぞき込む二人。
   しかし中には何も入っていなかった。
翔「え、何もないじゃん……」
   のぞくのをやめる翔。
翔「なんだ、神様いないのか……」
   一人でずっとのぞいている歩。
歩「……!(思いつく)」
   ポケットから想像ノートと鉛筆を取り出す
   歩。そして何かを描き始める。
翔「ん? 何書いてんの?」
歩「(無視して描き続け)……できた!」
   描いたページを破き、翔に渡す歩。
   翔、その紙を見つめる。
   殿様の顔で、坐禅している生き物の絵。
翔「何これ?」
歩「神様」
翔「神様?」
歩「いないなら、作っちゃおうと思って」
翔「え……神様って作れるの?」
歩「駄目かな、やっぱり」
翔「(絵を見て)いや、いっか! いないし」
歩「(笑顔で)うん」
翔「すげー! 俺たち神様作っちゃうんだ!」
歩「ふふっ、どういう神様にする?」
翔「うーん……じゃあ何でも一つだけ願いを叶え
 てくれる神様!」
歩「おー、いいね」
翔「名前は?」
歩「名前か……」
翔「うーん……」
歩「……ナティーブ」
翔「え?」
歩「英語で物語って意味……変かな」
翔「ナティーブか……うん! いいじゃん! な
 んかしっくりきた!」
歩「本当に?」
翔「うん! じゃあ名前はナティーブで」
   歩から鉛筆を借り、絵の下に「ナティー
   ブ」と書き込む翔。
翔「よし」
   翔、紙を祠の中に入れる。
翔「じゃあ願おう!」
歩「あ、あっき自動販売機で拾ったやつ!」
翔「(それだ! というポーズ)」
   ポケットからそれぞれ十円玉を取り出し、
   ナティーブの紙の上に載せる。
   そして手を合わせて、願う二人。
翔「バスケ選手になれますように!」
歩「……(無言で願っている)」
   手を下ろす歩と翔。
翔「歩なに願った?」
歩「ん? ……内緒」
翔「えー、いいじゃん」
歩「言ったら叶わない気がするから」
翔「え、そーなの?」
歩「……たぶん」
翔「先言ってよそれ! (手を合わせて)ナティ
 ーブ様、さっきの一回忘れてください」
   手を下ろす翔。
翔「よしリセット。そんで(手を合わせて無言で
 願う)……(手をおろして)ふー、これでオッ
 ケー……じゃあ閉めるか」
   一緒に祠の扉を閉める二人。
歩「これでお金が無くなってたら、ナティーブ本
 当にいるってことだよね」
翔「そっか……そうなったら叶うんじゃね!」
歩「それもこれも、ナティーブ次第……」
   ナティーブをじっと見つめる歩と翔。
歩「毎月ちょっとずつ納めにこようかな」
翔「……俺も!」
   顔を見合わせて、微笑む歩と翔。
   そして鳥居を出る。
   歩が丁寧に一礼しているのを見て、慌てて
   一礼する翔。

○川沿い(回想戻り)
   歩いている歩と青信号。
歩「(笑って)本当はナティーブじゃなくて、ナ
 ラティブだったんだけどね」
青信号「英語?」
歩「うん」
青信号「へぇ……まだ毎月行ってるの?」
歩「中学からは行ってない」
青信号「あちゃー金遣い覚えたか」
歩「いや、全部貯金してる」
   道にある石を思いっきり蹴る歩。
   衝撃で石が二つに割れる。
   そばまで行き、片割れを拾う歩。
歩「(石を見ながら)携帯だって、もうイヤホン
 差さらないし」
   歩、持っている石を川に投げる。
   一羽のサギが空に飛び立っていく。
歩「(飛んでいくサギを見つめて)……」
   青信号からノートを奪う歩。
   シャーペンで、今日書き込んだ部分をガー
   ッと上から塗り潰す。
   ノートとシャーペンをバッグにしまい、ゆ
   っくり歩き出す歩。
   青信号の姿はもうない。

○道
   自転車に乗った近藤、若月、米田、翔が信
 号を待っている。
米田「お腹減った……」
翔 「(笑って)我慢しろって」

○別の道
   虚ろな表情で歩いている歩。
   雑貨屋から女子高生が二人出てくる。
女子高生A「なにこの店」
女子高生B「ね、全然意味分かんない」
   雑貨屋の前で立ち止まる歩。
   店頭に「前歯の置物」「大量の牛乳ビンの
   フタ」「木下くんの使用済み教科書」など
   変わった商品が置かれている。
   歩、教科書を手に取りパラパラめくる。
   中には書き込みの跡がある。
   看板を見上げる歩。
   「惑星屋」という店名が書かれている。
   興味深そうに店内を見つめる歩。

○「惑星屋」・中
   入店する歩。
   店内にはヴィンテージ食器や変わったアク
   セサリー、鉱石、おもちゃ、実験機器等ユ
   ニークな商品が置かれている。
   恍惚とした表情で店内を見て回る歩。
歩「(立ち止まり)?」
   ビンの入れ物に「火星人」「1人30円」
   という貼り紙が貼られている。
   中には、赤い半球体に手書きの顔、そして
   針金の二本足がついた、小指くらいの「火
   星人」が大量に入っている。
   一つ一つ顔が違う火星人。
歩「火星人が30円……ふふっ」
   バッグから想像ノートとシャーペンを取り
   出す歩。
   かがんで書こうとするが、ノートの塗り潰
   した跡を見て手が止まる。
歩「……」
東(あずま)の声「くだらないでしょ」
   驚いて右を向くと、店主の東(70)が立っ
   て陳列している。
歩「え……」
東「いいのいいの、そういうもの売ってんだか
 ら」
歩「……くだらないけど、おもしろいです」
東「(目を輝かせて)本当?」
歩「え、あ、はい……特にこれとか」
   立ち上がり、火星人のビンを指差す歩。
   想像ノートが東の足元に落ちる。
   ノートを拾う東。
東「ん……想像ノート?」
   焦った顔をする歩。
東「読んでもいい?」
   恥ずかしそうにうなずく歩。
   東、めくりながら読んでいく。
東「ほう……」
   歩、下を向いて待っている。
   最後の塗り潰したページを見つめる東。
東「……」
   東、ノートを閉じて歩に返す。
東「(ニコッと笑って)ありがとう」
歩「いえ……」
東「君にしか見えない世界があるんだね」
歩「いや……ただ、思いついた事やおもしろかっ
 た事を書いてるだけです」
東「そっか、考えるのは好き?」
  うなずく歩。
東「いいね」
   陳列を再開する東。
歩「でも、もう辞めようかと思ってて」
東「(手を止めて)どうして?」
歩「……」
東「好きなら続けりゃいいのに」
歩「……」
東「好きな事見つけるのって、案外難しいんだよ」
歩「……え?」
東「自分を大切にしないと見えてこないから」
   陳列をしながら、話を続ける東。
東「人の物差しをそのまま受け入れたり、他人の
 評価に合わせちゃったり……自分より他人を大
 切にしちゃう人が多いからねぇ」
歩「……」
東「僕の好きはね、くだらない」
歩「くだらない?」
東「そう。昔からくだらない、意味のないものが
 好きでね。天邪鬼っていうか。だからそういう
 のを買ったり、貰ったりしている内に、いつの
 間にかこんな店が出来ちゃってね」
歩「……」
東「でも楽しいよ」
歩「……!」
東「くだらないって言ってすぐ帰る人もいるけ
 ど、たまに君みたいに、おもしろがってくれる
 客もいるからね」
   歩を見てにっこり笑う東。
東「心が素敵なんだよ」
歩「え?」
東「商品じゃなくてね。君の心が愉快だから、お
 もしろがれるんだ」
   火星人をじっと見つめる歩。
東「大切なことは目に見えない」
歩「?」
東「有名な王子さまの言葉。君にしか見えない世
 界、大切にした方がい」
大学生の声「東さーん!」
東「はーい!」
   レジの方に向かう東。
   レジで、東が大学生からガラクタの入った
   ダンボールをもらって喜んでいる。
   歩、想像ノートをじっと見つめる。
東の声「少年ー!」
   レジで東が手招いている。
   レジに向かう歩。
東「これ、僕のだけど、よかったら」
   東、年季の入った「星の王子さま」の本を
   歩に渡す。
歩「?」
東「さっき言ってた、有名な王子さまの本。貸し
 てあげるよ」
歩「え……いいんですか?」
東「うん。最後のページに、王子さまの居場所の
 ヒントがある。もし王子さまに会えたら、返し
 に来て」
   本の最後のページを見る歩。
東「僕は会えなかったけど、君なら会えるような
 気がするし」
歩「……わかりました」
東「あとこれも」
   東、歩に火星人を渡す。
東「新作の火星人(したり顔をする)」
   火星人の顔もしたり顔だ。

○同・外
   歩きながら、「星の王子さま」の本と火星
   人をバッグに入れる歩。
   表情は晴れやかだ。
   バッグを閉じた後、ふと立ち止まる歩。
   再びバッグを開け、中から想像ノートとシ
   ャーペンを取り出す。
   ノートを開き、塗り潰したページの隣に、
   塗り潰した内容を再び書き込む歩。
歩「……(笑顔で書き込んでいる)」
近藤の声「あれ、赤西?」
   歩が顔を上げると、コンビニの前で近藤、
   若月、米田、翔がたむろしている。
   米田、コンビニの袋を持ち、アメリカンド
   ッグを食べている。
若月「本当だ、またノート書いてんじゃん」
   歩、とっさにノートを背中側に隠す。
米田「誰?」
若月「うちのクラスの奴。いつもメモしながらニ
 ヤついてて、クラスでも浮いてんだよ」
   無視して歩き出す歩。
   歩が前を通った時、若月が歩のノートを奪
   う。
若月「っしゃー、ノートゲットー!」
歩 「ちょっ、返してよ!」
   若月、ノートをすぐに近藤に投げ渡し、取
   り返そうとする歩を後ろから抑える。
若月「いいじゃん、最後に見せてくれたって」
歩 「離してよ!」
若月「(近藤に)何書いてある?」
近藤「えーっと(ノートを開いて)青信号がもし
 地上に降り立ったら……」
若月「何それ?」
近藤「さぁ」
歩 「返してってば!」
若月「まぁまぁ。他には?」
近藤「(ページをめくって)文字が消えてしまっ
 た看板発見。何を伝えていたんだろう」
若月「意味わかんねー。翔分かる?」
翔 「え……さぁ」
歩 「……(唇を噛み締める)」
近藤「何これ、リストバンジャー?」
翔 「!!」
近藤「リストバンジャー役の翔、必殺技を放
 つ……え、翔?」
   その時、歩が若月を突き飛ばす。
   よろめいた拍子に翔の前に立つ歩。
   翔と目が合う。
歩 「……」
翔 「……(動揺)」
   歩、そのまま歩いてその場を去る。
近藤「あ、赤西、これ!(ノートを掲げる)」
   振り返らずに歩いていく歩。
   コンビニから、さっき雑貨屋から出てきた
   女子高生二人が出てくる。
   歩とぶつかりそうになり、慌てて避ける女
   子高生たち。
   翔、歩の背中をじっと見つめる。

○赤西家・居間
   結衣がダンボールに荷物を詰めている。
結衣「(セーターを持って)うわー懐かしい」
   玄関のドアが開く音がする。
結衣「あれ?」
   歩が帰ってくる。
結衣「歩……翔君と祭り行ってたんじゃない
 の?」
   無視して自分の部屋に入っていく歩。
結衣「……?」

○広場・入り口付近(夕)
   近藤、若月、米田、翔が歩いている。
   チョコバーを食べている米田。
   翔、想像ノートを持っている。
近藤「そうだったんだ」
翔 「うん、だから昔の話だって。中学入ってか
 らは全然絡んでないし」
若月「まぁ流石にきついもんな。あんな妄想野郎
 と絡むの」
翔 「(笑って)そうそう」
近藤「確か赤西、もうすぐ転校するよね?」
翔 「え、そうなの!?」
近藤「うん、確か親の仕事の都合とかで」
翔 「……(衝撃を受ける)」
   入り口にたどり着く一同。
   中は祭りで賑わっている。
   入り口のゴミ箱にチョコバーのゴミを捨て
   る米田。
近藤「お、始まってる!」
若月「(翔に)もう女バスいんじゃね?」
翔 「……え? あぁ」
若月「何緊張してんだよ」
翔 「(笑って)してないって」
   中に入っていく近藤、若月、米田。
   翔、想像ノートを見つめている。
米田「(振り返り)翔?」
翔 「(顔を上げて)あぁ」
   ノートをゴミ箱に捨て、追いかける翔。

○赤西家・歩の部屋
   薄暗い部屋で、体育座りしている歩。
   隅に置いてある貯金箱を手に取る。
   透明な海苔の容器の貯金箱で、小銭や千円
   札が大量に入っており、結衣の水色のイヤ
   ホンがくくりつけてある。
   イヤホンをほどき、見つめる歩。
   両手で思いっきり逆方向に引っ張る。
   イヤホンの右耳と左耳の部分が裂ける。
歩 「はぁ……はぁ……」
   コンコンと2回ノック音がする。
   慌ててイヤホンをポケットに入れる歩。
   結衣がふすまを開ける。
結衣「暗っ! 点けるよ」
   電気のヒモを引っ張る結衣。
結衣「……!!」
   窓際に落ちているてるてる坊主を見て、目
   を見開く結衣。
   ハッとして、歩の方を向く。
結衣「あ、そうそう、今日祭りで食べてくると思
 ってたから、晩ご飯無くてさ」
歩 「……」
結衣「(明るく)今から一緒に祭り行く?」
   首を横に振る歩。
結衣「じゃあ……どっか食べ行くか!」
   小さくうなずく歩。
結衣「よし、じゃあ行こ!」
   立ち上がり、結衣と部屋を出る歩。

○広場(夜)
   屋台の間を歩いている近藤、若月、米田、
   翔。
   近藤と若月が前を歩いている。
   後ろでりんご飴を食べている米田。
近藤「今日みさき先輩も来てるって」
若月「まじ!?」
近藤「しかも浴衣姿」
若月「うわー、だって翔!(振り返る)」
翔 「……(ぼーっとしている)」
若月「翔?」
翔 「……え? あぁ、うん、やばいねそれ」
若月「駄目だ、もうえみの事で頭いっぱいだ」
近藤「あ! 噂をすれば」
   前に浴衣を着た女子中学生が三人いる。
   堀北えみ(14)の姿も。
若月「翔、えみいたぞ!」
   若月が振り返ると、翔の姿がない。
若月「あれ、翔は?」

○道
   結衣と歩が歩いている。
結衣「なんか食べたいものある?」
歩 「……なんでもいい」
   横断歩道で立ち止まる二人。
   青信号が点滅している。
   青信号をじっと見つめる歩。
結衣「なんでもいいかぁ。なんでもいいが一番困
 るんだよなぁ……ね」
   結衣が横を向くと、歩の姿がない。
結衣「あれ、歩?」

○別の道
   歩と青信号が一緒に走っている。
   後ろを振り返る青信号。
   × × ×
   赤信号が走って追いかけている。
赤信号「待てー!!」

○広場・入り口
   立ち止まる歩と青信号。
   中の賑わいを見て、中に入っていく。

○同・中
   近藤たちを捜している歩と青信号。
歩 「……!」
   一人で駆け出す歩。
   × × ×
   近藤、若月、米田、えみ、他女子二人が立
   って話している。
   綿あめを食べている米田。
女子A「あれ、赤西?」
   歩が走って近藤の前にやってくる。
歩 「はぁ……はぁ……返して」
近藤「え?」
歩 「(近藤の腕を掴んで)ノート返して!」
近藤「ちょ、俺持ってないって!」
   手を離して、若月を見る歩。
若月「俺じゃねーよ! 翔に渡したもん」
   歩、周りを見て翔を探す。
近藤「いないよ」
   驚いて、近藤の方を向く歩。
近藤「あいつ急にいなくなっちゃったんだよ」
えみ「赤西くんもどこ行ったか知らないの?」
歩 「え?」
えみ「ほら、昔よく二人で来てたから」
歩 「……知らない」
えみ「(残念そうに)そっか……」
米田「ノートだけど」
   米田の方を向く歩。
米田「翔、入り口のゴミ箱に捨ててたよ」
歩 「え……翔が!?」
   うなずく米田。
歩 「……(強く唇を噛む)」
   走って去っていく歩。
近藤「あ、行っちゃった」
若月「やっぱあいつやばいって」

○同・入り口
   ゴミ箱を漁ってノートを探している歩。
   しかし全然見つからない。
   ため息を吐き、手を止める歩。
   その時、地面に落ちているソースまみれの
   リストバンドが目に入る。

○神社裏
   石に座り、想像ノートを読んでいる翔。
   人の気配がして顔を上げると、歩が立って
   いた。
翔「歩!」
歩「……それ」
翔「あ、ごめん」
   立ち上がり、ノートを返す翔。
歩「ありがとう」
翔「いや、ごめん、さっきは……」
歩「……」
翔「そういえば、転校するって」
歩「……お父さんがまた転勤になって、一緒に行
 くことになったから」
翔「そっか……いつ行くの?」
歩「夏休み中」
翔「そうなんだ……」
   沈黙が流れる。
歩「そういえば、堀北が会いたがってたよ」
翔「え、えみが!?」
歩「うん」
翔「まじか……」
歩「行かなくていいの?」
翔「うん……いいや」
   驚いて顔を上げる歩。
   すぐまた下を向く。
翔「あ、そうそう! ここに来る途中に家に寄っ
 てさ、あれ持ってきた!」
   ポケットから古い佑の携帯を出す翔。
歩「それって……」
翔「そう、昔一緒に聞いた時のやつ! つくか
 な……ずっと使ってなかったから」
   電源ボタンを長押しする翔。
   携帯が起動する。
翔「お、ついた! あ、イヤホンも持ってくれば
 よかった……」
   ポケットから水色のイヤホンを出す歩。
翔「え、それって……繋げていい!?」 
歩「……」
   翔、イヤホンを取って携帯に差す。
   その時、左耳部分だけ歩の手に残る。
翔「あ……」
歩「……」
翔「でも、こっち側だけ聞けるかも」
   携帯のパスコードを開く画面。
翔「えーっと確か……」
   その時、携帯の電源が切れる。
翔「あ」
歩「……」
翔「……ごめん」
   沈黙が流れる。
歩「ねぇ」
   顔を上げる翔。
歩「神様って信じる?」
翔「……?」

○森林公園
   携帯のライトで道を照らしながら、木々の
   間を歩いていく歩と翔。
   先を歩く歩が立ち止まる。
歩「あった」
   歩の横に並ぶ翔。
   目の前に、小さな鳥居と祠が現れる。
翔「懐かしい……」
歩「卒業式以来?」
翔「うん……歩も?」
歩「うん」
   一礼して、鳥居をくぐる歩と翔。
   祠の前で立ち止まる。
翔「……開ける?」
   うなずく歩。
   左扉の取っ手を掴む翔。
   右扉の取っ手を掴む歩。
   顔を見合わせ、うなずく二人。
翔「せーのっ!」
   勢いよく扉を開ける。
   携帯のランプで中を照らす二人。
   開けた瞬間目をつぶる翔。
   目を開けると、中は空っぽだった。
翔「あれ……ない……」
   のぞくのをやめ、うつむく翔。
   歩、一人でずっと中をのぞいている。
歩「……いた」
翔「え?」
   歩、驚いた顔で翔を見つめる。
   再び祠の中をのぞく翔。
翔「……あ!」
   祠の奥に、ナティーブの紙がある。
翔「いた!」
歩「お金だけ無いってことは……」
歩・翔「(同時に)ナティーブ!?」
   声が揃い、大笑いする二人。
歩「近所のおじさんだったりして」
翔「いや、ウチの兄貴かも。最近金欠だって言っ
 てたから」
歩「ふふっ、バチ当たっちゃうよ」
   笑い終えて、大きく息を吐く翔。
翔「歩……ごめん!(頭を下げる)」
歩「!!」
翔「中学入ってから、なんか避けたみたいになっ
 ちゃって」
歩「……クラス違ったし、仕方ないよ」
翔「でも、廊下ですれ違った時とかも……なんか
 俺、自分の中で勝手に話しづらくなっちゃっ
 て、それでずっと……俺、最低だった……本当
 にごめん!(頭を下げる)」
歩「……いいよ」
翔「(顔を上げて)……」
歩「今日また、話せたから」
翔「歩……!」
   温かい表情を浮かべる歩。
   翔、歩に背を向けて涙を流す。
歩「これからも、書き続けることにしたんだ」
   歩、ポケットから想像ノートを出す。
翔「(涙を拭って)?」
歩「いろんなとこ行って、いろいろ想像して……
 それでいつか、自分だけの物語、作れたらいい
 なぁって」
翔「……いいね、歩なら作れるよ絶対」
   笑ってうなずく歩。
翔「すげーな歩は」
歩「え?」
翔「俺そういうの全然ないからさ……(ナティー
 ブを見て)バスケ選手なんて、なれるわけない
 し」
歩「……また書くよ」
翔「え?」
歩「それこそ、バスケ選手の物語とか。そしたら
 翔だって……」
翔「演じる……ってこと?」
歩「……うん」
翔「なるほど……役者って手があったか……確か
 にそれならなれるかも!」
歩「うん、じゃあさ……」
翔「ちょい待ち!」
歩「え?」
翔「これ以上言うのやめよう! 言ったら叶わな
 くなっちゃうから!」
   微笑み、ナティーブを見る歩。
   翔、財布を出して小銭を漁る。
   歩もポケットをまさぐるが、金がない。
翔「歩」
   歩に十円玉を投げ渡す翔。
歩「え、いいの」
翔「うん、自動販売機で拾ったやつだから」
   ニコッと笑う歩。
   祠の中に十円玉を置く翔と歩。
   手を合わせて願い事をする。
   願い事を終え、手を下ろす二人。
翔「よし、今度は言わなかった!」
   祠の扉を閉める二人。
   後ろから花火の打ち上がる音がする。
   振り返ると、夜空に花火が打ち上がる。
歩「綺麗……」
   歩の横顔を見て、微笑む翔。
   次々と打ち上げられる花火。
   花火の光が二人の笑顔を照らす。

○赤西家・玄関(1ヶ月後)
   ショルダーバッグを背負った歩が靴を履い
   ている。
   歩が振り返ると、部屋は空だ。
結衣の声「歩! 行くよー!」
   ニコッと笑い、振り返って家を出る歩。
   × × ×
   歩の部屋の窓際に、したり顔のてるてる坊
   主と貯金箱の海苔の容器で作ったキャラク
   ター2体が、千切れた水色のイヤホンでそ
   れぞれ吊るされている。
翔の声「やり残したこと?」

○同・外
   歩、結衣に「寄る所がある」と伝え、心配
   する結衣をよそに一人で歩き出す。
歩の声「うん、またでかいたんこぶ出来ちゃうか
 もしんないけど」

○青山家・リビング
   テレビで音楽番組が流れている。
   ソファで携帯を見つめている翔。
テレビのMC「この後、ミスターチルドレンが登
 場します!」
翔「(テレビを見て)よし……」
   携帯をポケットに入れ、立ち上がる翔。

○神社・前
   そわそわして立っている歩。
   小走りで翔がやってくる。
歩「うまくいった?」
   ポケットから携帯(iPhone最新機)を取り
   出す翔。
翔「(掲げて)ジャーン!」
歩「おー! すげー!」
翔「じゃあ……早速!」
   力強くうなずく歩。
翔「さ、く、ら、い……よし」
   画面をスワイプし、「お気に入り」という
   名前の女性アイコンのフォルダを見つけ
   る。
翔「あった……」
   顔が高揚する翔と歩。
翔「いくよ……」
歩「うん……」
   画面をタップする翔。
翔「うおぉぉ!!」
歩「おぉぉ!!」
   興奮している二人。
   画面を閉じる翔。
翔「ふぅ……あんなことなってんだ」
歩「知らない世界、いっぱいあるな……」
   満足げな表情を浮かべる二人。
翔「よし、じゃあ」
   携帯をポケットにしまおうとする翔。
歩「あ、ちょっと待って!」
翔「(止まって)ん?」
歩「まだあの曲聞いてない」
翔「あぁ、そっか! ちょっと待って」
   音楽アプリを探す翔。
翔「(操作しながら)このまま流せばいっか」
   翔が横を見ると、歩が小さいケースを持っ
   ている。
翔「ん、何それ?」
   ケースを開く歩。
   Bluetoothイヤホンが入っている。
翔「え、Bluetoothイヤホン!?」
歩「そう」
翔「すげー! 買ったの?」
歩「うん。ナティーブに毎月納める分、貯金して
 たから」
翔「まじか……俺、今日帰ったら兄貴にボコボコ
 にしてもらう」
歩「(笑って)なんでよ」
翔「じゃないと釣り合わない」
歩「大丈夫だって」
   右耳用を翔に渡す歩。
   歩、左耳にイヤホンを装着する。
   翔、右耳にイヤホンを装着する。
   携帯を操作する翔。
翔「えーっとBluetooth……あった、名前は?」
歩「(笑って)えみの二年生の時のクラス」
翔「あった、2C!」
   タップする翔。
翔「……ん、なんか言った!」
歩「コネクティッド」
翔「繋がったってこと?」
歩「たぶん」
   翔、音楽アプリを開き、「Sir Duke(ステ
   ィーヴィー・ワンダー)」タップする。
   曲が流れ始める。
歩・翔「(顔を合わせて)おー!!」
   笑顔でハイタッチする二人。
   音楽に乗りながら、歩き始める。
   歩きながら、歩の空想がどんどん具現化し
   ていく。
   雑草しか生えていない道に、色とりどりの
   花が咲き出す。
   文字が消えてしまった看板に「想像力は知
   識より大切だ」という文字を書き込む白髪
   の男。振り返るとアインシュタインだっ
   た。
   空からUFOが現れ、等身大の火星人が地
   上に降り立つ。
   「横断歩道」の標識の人型マークが、帽子
   を上げて歩に挨拶する。
   タブレットで電子書籍を読んで休憩してい
   る警備員が、二人を見て微笑む。
   青信号が向かいからやってきて、そのまま
   走り去っていく。
   遅れて赤信号が向かいからやってきて、青
   信号を追いかけていく。
   笑顔で空想を楽しんでいる歩。

○駅前
   曲は引き続き流れている。
   涙目で歩とお別れしている翔。
翔「この涙は演技だから」
歩「(笑って)うん……じゃあ、また今度」
翔「うん」
   駅に向かって歩いていく歩。
翔「あ、歩!」
   振り返る歩。
翔「(イヤホンを持って)これ!」
歩「……持っといて!」
翔「……うん、わかった!」
   微笑み、また駅に向かう歩。
   静かに涙をぬぐう。

○駅・改札口
   曲は引き続き流れている。
   電子マネーで改札を通る歩。
   改札を通った瞬間、回線が切れて曲が止ま
   る。
歩「(立ち止まり)!!」
   イヤホンの無線を遮るように、手を何度も
   上げ下げする歩。
   振り返ると、改札の外に翔の姿はない。
   左耳のイヤホンをゆっくり外す歩。
歩M「見えないけれど、大丈夫」
   ホームまで歩く歩。
   イヤホンをケースに戻し、バッグの中にし
   まう。
   電車が到着し、乗り込む歩。
歩M「またナティーブに願ったから」
   出発する電車。
   扉の前に立ち、窓の外を見つめる歩。
歩M「この友情がずっと続きますようにって」
   窓から、青空と青空色の川が見える。
   空を二羽のサギが飛んでいく。

                   了

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