water me -Wink Killer サブテクスト 宜保健人 編- ミステリー

海外に旅立つ先輩と別れの時間を持つ健人。 思い出話に花が咲くが、記憶は小さな矛盾を孕んでいて。
竹田行人 12 0 0 07/04
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第一稿

「Water me」


登場人物
宜保健人(28)自営業
西野壮介(30)自営業

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「Water me」


登場人物
宜保健人(28)自営業
西野壮介(30)自営業

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○中之条商店街
   ほとんどのお店がシャッターを閉めている。

○テーラー西野・外
   中之条商店街にある一軒の店。
   軒先に「テーラー西野」の文字。
   シャッターが半分ほど開いていて、商品のない店内の奥、一段高くなった引き戸の向こうの居住スペースで、西野壮介(30)が、段ボール箱に洋服を詰めているのが見える。
   宜保健人(28)、歩いてきて、シャッターをくぐり、入っていく。

○同・店内
   宜保、店内に入ってきて、商品のない棚を見回す。
西野の声「キミを追いかけ 闇夜を裂いて ただ走り抜けるぅ」
   宜保、居住スペースに向かう。

○同・居住スペース
   洋服の散乱している畳敷きの八畳間。
   西野、服を畳み、段ボール箱に詰めていく。
西野「今すぐ抱きしめたいよ そのぬくもり 忘れられないぃぃ」
   宜保、顔を出す。
宜保「壮介先輩。ちっす。YOU & Iっすね。ルイスの」
西野「おお! 健人。入れ入れ」
宜保「はい。お邪魔します」
   宜保、靴を脱ぎ、入ってくる。
西野「同窓会の準備は? どうなってる?」
宜保「バッチリっす。今夜っすから」
西野「だな」
   宜保、西野の向かいに座り、室内に目をやる。
宜保「お! 文化祭ジャージじゃないすか!」
   宜保、背中の部分に「北高崎高校水舞部」のロゴが入った小豆色のジャージを手に取る。
宜保「うわー! 懐かしー!」
西野「ま。北高ウォーターボーイズはオレの青春だからな」
宜保「オレにとっても青春です」
西野「赤城の山の 月を見て 孤独を学友(とも)と 思う者」
宜保「日輪描く 影を見て 苦難を母と 思う者」
西野「集う」
宜保「わわわわ~」
西野「友がき」
宜保「わわわわ~」
西野「易く染まらず」
西野・宜保「北高崎高校 我らが母校 望みこそ 人の礎 荒野を拓け ちゃん、ちゃちゃ~ん」
宜保「覚えてるもんですね」
西野「実際に歌った回数なんて、たかが知れてるんだけどな」
宜保「記憶って不思議なもんですね」
西野「な。練習とかけっこう辛かったはずなのに、今になって思い出すのは楽しかったことばっかだし」
宜保「そういうもんですよ」
西野「健人が入ってきたときもそうだよ」
宜保「え? なんすか?」
西野「なんでカナヅチが水泳部なんだよって全員でツッコミ入れたの覚えてるよ」
宜保「いやぁ。映画観て、やりたくなったんですよ。シンクロ」
西野「けっこう大変だったよなあれ。だってカナヅチってレベルじゃなくて健人もう水恐怖症だったもんな」
宜保「ご迷惑お掛けしました」
西野「いや。楽しい思い出だよ。今でもこうやってツルんでられるのも、あれがあったお陰なわけだし」
宜保「それもなくなるんですね」
西野「別に二度と会えないわけじゃない。なんなら健人も遊びに来ればいいだろ」
宜保「いやアフリカ! ちょっとそこまで、って感覚で行ける場所じゃないじゃないですか」
西野「まぁ。遠いか」
宜保「今さらですけど壮介先輩。なんでアフリカに行くんですか?」
西野「ん?」
宜保「服送ったりしてたし、前からそういうのに熱いのは知ってましたけど、実際行っちゃうのはまた違うじゃないですか」
   西野、服を畳み、段ボール箱に詰める。
西野「恵んでもらう水では渇きは癒せない」
宜保「え」
西野「アフリカのことわざだ」
宜保「恵んでもらう水では渇きは癒せない」
西野「昔さ。アフリカの母親たちに粉ミルクを送った企業があったんだよ」
宜保「へー。いいじゃないですか」
   西野、一つ息をつく。
西野「その結果。その地域ではたくさんの子どもたちが命を落とした」
宜保「え? なんでですか?」
西野「水だよ」
宜保「みず」
西野「環境が整ってない場所だと粉ミルクを溶かす水の中にいる細菌が免疫力のない赤ん坊を直撃するんだ」
   西野、服を畳み、段ボール箱に詰める。
西野「その事件がきっかけで今は粉ミルクやそういう製品の販売に関して国際的に厳しい基準が設けられてる」
宜保「なんか哀しい話ですね」
西野「誰かを救いたいとか、誰かを大切にしたいって気持ちが、誰かの命を奪うこともあるってことだよ」
宜保「それが壮介先輩がアフリカに行く理由ですか?」
西野「ああ。その話だったな」
   西野、ポケットから折りたたまれた写真を取り出し、宜保に渡す。
西野「服送ったりしてても、なんか偽善っぽくて消化不良だったんだよ」
   宜保、写真を開く。
宜保「これ」
   写真の中では黒人の子どもがTシャツを着て笑っている。
   子どもが着ている黒地のTシャツには、胸の位置に白い文字で「無責任」と書かれている。
西野「その写真見たとき笑っちゃってさ」
宜保「確かに。笑えますね」
西野「でも、そのあとなんかいたたまれなくなってさ。行かなきゃって思ったんだ」
   西野、宜保の手から写真を取る。
西野「行って、寄り添わないと。オレも粉ミルク送った企業と変わんねぇんじゃねーかって。そう思ったんだ」
   西野、写真をポケットにしまう。
宜保「なんか、かっこいいっす。壮介先輩。かっこいいっす!」
西野「さんきゅ。でもごめんな。同窓会。オレが言い出しっぺなのに最近健人に任せっ放しになってるよな」
宜保「いいっすよ。オレも後片付けは他の人に任して同級生と楽しむんで」
西野「そっか」
宜保「小3の途中で引っ越してそれ以来会えてなかった同級生とかも来るんで。楽しんで来ます」
西野「小3か。あー」
   西野、服を畳み、段ボール箱に入れる。
西野「打ち合わせのとき。片岡先生が亡くなったときの話あったろ?」
宜保「え? ああ。はい」
西野「あん時健人すげー怒ってたよな。秋波先生はそんなことしない。って」
宜保「すんません。空気悪くしちゃって」
西野「いや。あれはアイツが悪い。でも意外だったなって思ってさ」
宜保「意外って?」
西野「いや。てっきりオレは、健人は片岡先生のこと嫌いなんだと思ってたらさ」
宜保「そんなわけないじゃないですか」
西野「でも。クラスで飼ってた、なんか? が死んだあと、健人そーとー片岡先生の悪口言ってたぞ」
宜保「え? マジっすか? 全然覚えてないですけど」
西野「ぜってー許さねーって。自分チの商品棚から金槌持ってこうとして親父さんにボコボコにされてたのオレも見たし」
宜保「いやー。親父には相当ボコられてるんでわかんないっすね。正直」
西野「だろうな。オレもそうだ」
   西野、服を畳み、段ボール箱に詰める。
西野「健人。いつからカナヅチだったっけ?」
宜保「え?」
西野「昔は違ったよな?」
宜保「弟が川で死んでからですよ。オレが小2の時に。何度もしましたよ。その話」
西野「ああ。康太な。でもさ」
宜保「なんすか?」
西野「オレが小5だったはずだから、健人が小3の夏休みだったと思うんだよ。最後に川で遊んだの。勘違いかな」
宜保「勘違いじゃないですか?」
西野「悪い。ここでする話じゃなかった。でも不吉な川だよな。康太も。片岡先生も。あの川で亡くなってる」
宜保「はい。でも、どっちも事故です。辛い、哀しい、不幸な事故です」
西野「だな。だよな」
宜保「そうですよ」
西野「今日の同窓会。成功させような」
宜保「もちろんです」
西野「そうだよな。そうだよな」
   西野、服を畳み、段ボール箱に詰める。

〈おわり〉

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