利き手から生まれた子供たち ファンタジー

自分の作品に自信がない若い頃の正幸の葛藤と、正幸の背中を見て作家に育つ娘・綾子。作品が擬人化されて、作家の周りで生きている世界。だがその姿は誰にも見えない。 作品はまさに我が子だった。 (大学の授業で作ったものです) {感想を頂けますと大変励みになりますので、よろしくお願いします}
作者字 101 0 0 07/04
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第一稿

〈人物〉
 夏尾正幸(ナツオマサユキ)(登場時20歳)——大学生。のちに国語の先生になる。
 正幸の作品——白い服の若者。媒体は原稿用紙の束。
 宮崎隼人(登場時20)——正 ...続きを読む
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〈人物〉
 夏尾正幸(ナツオマサユキ)(登場時20歳)——大学生。のちに国語の先生になる。
 正幸の作品——白い服の若者。媒体は原稿用紙の束。
 宮崎隼人(登場時20)——正幸の友人。趣味で絵を描いている。
 隼人の作品たち——白い服の男女数名。
 藤塚ももこ(21)——大学生。
 藤塚の作品——白い服の若者、派手な髪型やアクセサリー。媒体は漫画原稿。
 夏尾綾子(あやこ)(登場時12)——正幸の娘。
 綾子の作品——白い服の若者。正幸の作品に似ている。媒体はデータで、後に製本。
 部長(22)——大正時代の上司みたいな口調で喋る。
 副部長(21)
 編集者男(40代)
 編集者女(30代)
 綾子の母(40代)
 女子生徒(16)
 女子生徒の作品——白い服の若者、蛍光水色ネクタイ。




①. 大学の教室内 (昼)
  生徒のほとんどが部屋を出ていく。
  机に座って足をブラブラさせる正幸の作品。肩から斜めにかけて膝上にあるぬいぐるみカバンから、彫刻刀を出して触る。
隼人「あーっ、おわっり!」
   体を伸ばす隼人。正幸は荷物をまとめながら、
正幸「お昼どうする」
   正幸の作品が机から降りて、嬉しそうに正幸の顔を覗き込む。
隼人「今日は……水曜か。水曜はなんだっけ」
正幸「肉うどん。ラーメンは野菜じゃね?」
隼人「食堂のメニュー、もうちょっと増やしてもらいたいよなー。こう、ありきたりなものじゃなくてさ」
正幸「周りに飲食店があるわけでもないしな。たまには変わり種も食べたいよね」
   歩き出した正幸の後を追うように隼人も歩き出し、部屋を見渡して机の上に原稿の束が入ったファイルを見つけ、
隼人「おい、忘れてるぞ、子供」
正幸「子供って」
隼人「作家にとって作品は子供。大事にしろよ」
正幸「はいはい」
   教室を出ていく二人の後ろ姿。正幸の手に引かれる作品。

②. 大学内の食堂、座席(昼)
   正幸と隼人はそれぞれうどんと定食を食べている。その正幸の隣で作品が大人しく正幸のリュックを背に座り、興味津々に正幸の動作一つ一つを目で追う。うどんが箸で持ち上げられ、フゥフゥと息を吹きかける動作を真似し、啜り上げる動作をも真似して、香りを吸い込んで美味しそうな顔で咀嚼する。
隼人「小説、どうなの」
   隼人が箸で作品を指差す。それに作品を見る正幸。
正幸「作品が作品になるとき……その、まぁ色々難しくて。人に見せるのも何だか」
   やや濁す正幸。隼人は定食を食べながら、
隼人「いや、俺ぁ文字はからっきしでさ。うん、でもお前の小説、好きだよ。結構面白いし。主人公のじいちゃんのセリフ? あー確かになって思うよ。俺も叔父さんに影響されて絵を描いてるわけだし」
   二人の間に沈黙が流れる。作品は嬉しそうに二人の顔を見てニコニコする。
正幸「ありがとう。無理に褒めてくれて」
隼人「無理じゃねぇって。そんな卑屈になるなよ、自信持てって。普通の人はここまで書けないんだから」
正幸「うん」
   とりあえずニコニコしておく正幸。作品は首を傾げて正幸の顔を見る。

③. 文学部部室(夕方だが時間問わず)
   数名集まった部室に正幸が入ってくる。
部長「おっ、お疲れ〜」
正幸「お疲れ様です」
   正幸、カバンを置いて床に座る。
副部長「今話してたんだけどね。一昨年のOBだから君は知らないだろうけど、その人が新人賞から出版したんだってよ」
正幸「新人賞……」
部長「君も出してみなさい。そういうのまだだろ?」
正幸「いや、でも。俺のはそこまで……」
   作品と目が合う。作品はニッコリ微笑んで見せる。
部長「君の作品は悪くない。特別面白いってわけではないが……君の伝えたい事がキリキリと伝わるストレートな作品だ。いつまでも大学内だけで出すんじゃもったいない。その子に外の世界を見せてあげて、いろんな人に見せてあげないと。作品がかわいそうだ」
   正幸は少し悩んで
正幸「そう、ですね」
   作品の頭を撫でる。

④. 出版社、会議室(昼)
   編集者男(40)は席につきながら、
編集者男「新人賞、残念だったね」
正幸「はい……」
   緊張した面持ちの正幸。
編集者男「正直、君の作品はつまらないんだが……思ったのがね、中に流行性を感じられないんだ。最近流行りの異世界転生とかさ、そういうの入れない? その方がヒットしやすいと思うんだ〜。主人公が彫刻家ってのも理解しにくいからやめたら? こんな小難しい自分探しみたいなのもいらない。これで作品だなんて……」
   編集者男は鼻で笑いながら原稿に赤ペンを入れていく。
正幸「わ、わかりました……」
編集者男「じゃあ、直したらまた持ってきて」
正幸「ありがとうございます……」
編集者男「僕の言う通りに直してみて。絶対面白くなるから。大丈夫、君には見込みがあるよ」
   にっこり笑顔を向ける編集者男。だが正幸は腑に落ちない様子。

⑤. アパート、正幸の部屋(夜)
   身体中真っ赤に書かれた作品の手を取り、その手を見ながら新たに原稿用紙に書いていく正幸。作品はおもちゃを握りしめて、正幸を見下ろしている。(この時からカバンは身につけていない)
   正幸は作品の手を取り、
正幸「これでもっと良くなる……きっと。みんなに見えもらえるようになるんだ。芥川賞とか取れたりして……大丈夫、絶対できる」
   作業する正幸。

⑥. 大学食堂(昼) 人の少ない時間帯
   隼人は頬杖つきながら原稿を読み、正幸は勉強中。
隼人「なんか、ずいぶん変わったね」
正幸「ん?」
隼人「何度も言ってるけど、俺ぁ文学はからっきしだけどさ。これ、本当にお前が書いたの?」
正幸「何、ゴーストライター疑惑?」
隼人「うん。生原稿だからお前のってわかるけどさ、お前らしさが消えた。どうしたの?」
正幸「編集者に言われた通り直した。この方が面白いって」
隼人「いや、お前」
   隼人は笑いながら原稿を返し、
隼人「良くないところを直すのは大事さけどざ。これスッゲェつまんない」
正幸「はぁ?」
隼人「担当が言う通りにすれば面白くなるって言ったんだろ? それって担当にとっての面白いで、お前にとってはどうなんだよ。あの主人公の信条も、お前がずっと悩んでた作品とはなんなのかも、消えてんじゃん。お前の作品はどこ行っちまったんだよ」
   机の上で髪型の変わった作品がニコニコしながら正座する。
正幸「じゃあ、面白いってなんだよ。伝えたい事……面白くないと、誰も見てくれない。面白くないと世にも出せないじゃないか! 面白くなけりゃ作品じゃ無いんだろ!?」
   机を叩く。思わず怒鳴った声に周りにいた人が振り返る。我に帰った正幸は荷物をまとめ、作品の手を乱暴に掴んで早歩きで去っていく。

⑦. 大学、講義室、授業開始前(昼)
   教材を読んでいた正幸に隼人がぎこちなく声をかける。
隼人「お、おはよ」
正幸「あ……おは――」
モブ「隼人、こっちこっち」
   男女複数が隼人を呼び、隼人は後ろ髪引かれながらもその方へ行ってしまう。

⑧. 同時刻、同講義室内、授業中(昼)
   授業中、うとうとし始めた正幸は机から原稿を入れたファイルを落としてしまう。そのまま授業は終了のチャイムを迎え、慌てて起き出した正幸は荷物を持って時計を見ながら教室を飛び出す。
正幸「やばい、次、体育館だ」
   机の下で膝を抱えて丸くなる作品。

⑨. 同講義室(夕方)
   最後の授業が終わり、少ない生徒も出ていく。その途中で藤塚が作品を見つけ、手を取って立ち上がらせる。ファイルをひっくり返し、書かれている名前を見る。作品は今にも泣きそうな顔でいたが、藤塚の後ろから顔を覗かせる藤塚の作品に気づき、笑わせようとする藤塚の作品にそっと笑顔を向ける。

⑩. 同講義室(昼)
   授業が終わった講義室に正幸が駆け込んで、前回座っていた席周辺を探す。
正幸「ない、ない、ない……どうしよう、明日締め切りなのに」
   すると藤塚が肩を叩き、
藤塚「夏尾正幸さんですか」
正幸「え、はい、そうです」
藤塚「探し物はこれですか?」
正幸「あった! 良かった〜。ありがとうございます」
藤塚「小説、書いてるんですね。ずいぶん修正されてて」
正幸「あなたもですか?」
藤塚「いや。私は漫画だけど。凄いですね、文字だけであんなに描写できるなんて。読んでいるだけなのにその風景が見えてきて……あっ。ごめんなさい、実はちょっと読んでしまって」
正幸「え、あ、いや、大丈夫ですよ! こんな駄作をそこまで褒めてくれるだなんて」
藤塚「駄作だなんて。良かったですよ。男の子らしいラノベって感じで、夢がありますね」
正幸「いやいや、そんな。俺なんかまだまだで、こんなゴミしか出せなくて」
   その言葉に作品はひどくショックを受けた顔で正幸を見上げる。藤塚の作品もあっとした顔で正幸を見る。
藤塚「最低」
正幸「え?」
藤塚「謙遜かもしれないけど、でも作品をそんな風に言うのは作品がかわいそうです。やめてあげてください。そんなに自分の作品に責任持てないんですか?」
正幸「……君に、何がわかるんだ」
   正幸は足早にその場を去っていく。

⑪. 出版社ビル、出入口、雨(夜)
   大降りの雨の夜、正幸は雨から逃げるように急いでビルの中へ入っていく。

⑫. 同、ビル内会議室
   編集者男は原稿を見ながら、
編集者男「うん、面白くなった。僕が言った通りだろう?」
正幸「はあ」
編集者男「もっと自信持って。君の作品なんだから。これなら雑誌にも出せるんじゃないかな」
正幸「……本当に、俺の作品ですかね」
編集者男「え?」
   編集者男は聞き間違いかと思い、気にせず話を始める。正幸はそれを聞いているかいないか定かでない顔で、拳を握りしめる。

⑬. アパート、正幸の部屋(夜)
   電気もつけず、濡れたまま部屋の真ん中に立ち尽くす正幸。作品が心配そうに繋いだ手を揺らす。
正幸「俺の作品ってなんだ……言われた通り面白くしたら俺の作品か? 違う、俺の言いたかった事もじいちゃんの話も、全部変えられた。俺の、俺の周りの人と作った作品が……!」
   作品を床に倒すと、その首に手をかける。作品は驚いてその手をつかんで抵抗する。正幸の顔を見て、抵抗を止めると、口を開いて言葉を発する。けど正幸にその音は聞こえない。
   原稿にはおじいちゃんの言葉。
正幸の手が緩み、作品はそっと起き上がると正幸の頭をだきしめ、ずっと言葉を口にする。正幸は作品の体に顔を埋めて泣きじゃくる。
   原稿を持って立ち上がり、クローゼットを開けると、
正幸「ごめん……もう無理だ。俺もお前も、傷つきすぎた。やっぱり俺にそんな度胸、責任持てないよ」
   箱の中に押し込み始める。作品は嫌がって抵抗するも、正幸はその手を掴んで引き剥がし、
正幸「ごめん、ごめん……お願いだから。ごめん……お願い」
   箱の蓋を閉める。

《綾子編》

⑭. 正幸の職場、学校、教室(昼)
   正幸(38)が黒板の前で教科書を音読する。チャイムが鳴る。
正幸「今日はここまで。次まで単語の意味を調べてまとめておくように」
   生徒ら数人がやる気のない返事をする。正幸は黒板を消しながら、そこに書かれた文豪の名前を消そうとして少しためらい、諦めるように小さくため息をついて消していく。

⑮. 正幸の職場、学校、廊下(昼)
   廊下の自販機の隣のベンチに体を丸めて横たわる誰かの作品を、正幸が拾い上げる。
生徒「夏尾先生!」
   正幸は顔を上げる。駆け寄る生徒はやや恥じらいながら正幸の持つ絵を指差し、
生徒「あの、それ。私のです」
正幸「へぇ、上手いね。得意なの?」
生徒「いや。全然、下手ですし、それは落書きで、ゴミですし」
   その言葉に思わず手を引っ込める正幸。しゃがみ込んで作品の手を差し出し、
正幸「ゴミなんて言っちゃダメだ。先生のおじいさんね、物書きだったんだ」
生徒「……なんて人ですか?」
正幸「いや、全然、売れてるわけじゃない。地元で有名だったくらい。でも、祖父の真似して文字を書く僕に言ってたんだ、お前の作品はお前だけで成り立ってるんじゃない、爺ちゃんの小説もだ、って。生まれて今まで見てきたもの全てが素材になってる、それは僕や祖父だけでなく、家族や友人の影響もある。だから僕は、作品をゴミとは言いたくないな」
生徒「すみません……」
正幸「謝らないでいいんだよ。その代わり、今度からは自信を持って。最後まで、その子を愛して高く評価できるのは、君だけだ」
生徒「はいっ」
   生徒は笑顔で駆けていく。それを見送りながら正幸は、肩を落としてやや寂しそうな顔をする。

⑯. 正幸の家、正幸の部屋(昼)
   ソファー(orベッド)で書類を手に持ったまま居眠りする正幸。その部屋に綾子(12)が音を消して入ってくる。クローゼットを開けて中に入り、本棚を指でなぞりながら本を選ぶ。一つ手に取り、適当に開いて読んで、床に置くとまた一冊手に取り、それを何度か繰り返す。
   ふと、クローゼットの隅の箱に気付く。箱を開けて中から原稿用紙の入ったファイルを出す。背後の正幸を伺いながら、ファイルを開けて原稿用紙をめくる。
   手を握られた正幸の作品は嬉しそうな顔で言葉を口にする(音は発さない)。
   正幸が起き出す。目を擦りながら、
正幸「綾子……また勝手に。お父さんの部屋、入っちゃダメって……」
   手を繋いだ綾子と作品が振り返る。正幸は驚いて作品の手をつかんで立ち上がらせる。綾子に強く注意しようと息を吸うと、作品の手が正幸の手を振り払う。
   原稿用紙の束が崩れて床に散らばる。正幸と綾子は一緒になって集める。正幸、床に積まれた、綾子が出した本を見る。綾子も気付いてそれを見て、
綾子「お父さん、もう書かないの?」
   正幸は思わず、床に倒れてこちらを真剣な眼差しで見つめる作品と目が合う。
正幸「うん。忙しいし」
綾子「じゃあ私が書く」
正幸「え?」
綾子「私も書きたい。書き方教えて」
   立ち上がる綾子と作品。見上げる正幸。作品の手には祖父の本。
   正幸は困った様子でため息をついて視線を落とす。少し頭をかき、顔を上げ、微笑む。
正幸「うん」

⑰. 綾子の部屋(夜)
   綾子の作品が机に寝そべって手遊びをする。
   綾子(16)が部屋に入ってくる。スクールバッグを放り投げて、素早く部屋着に着替えて机に向かう。作品は急いで起き上がって、綾子はパソコンを立ち上げる。
   パソコンに向かって打ち込む綾子を、作品はパソコンを跨いで座って覗き込む。
   ドアの向こうから母親が、
母「綾子、あんたテスト勉強は⁉︎」
綾子「やってる! ほっといて!」
母「卒業できるの⁉︎」
綾子「ほっといて‼︎ 勉強の邪魔!」
   ドアの向こうで母と正幸が話す。
母「お父さん、なんとか言ってよ」
正幸「うん……まぁまぁ」
母「学校の先生でしょ?」
正幸「綾子はほら……」
   ドアの向こうで母と正幸が言い争う。綾子はイヤホンで耳を塞いで作業を再開する。

⑱. 綾子の部屋(昼)
   封筒を持って綾子が部屋に入ってくる。深呼吸して、封筒を開ける。ぶつぶつと言いながら手紙を読む。そして黙り込み、手紙を乱暴に丸めて投げ、乱暴に机に向かう。パソコンを立ち上げて、猫背になって画面を覗き込んで乱暴にキーを打つ。
綾子「大丈夫、私とあんたなら絶対できる……」
   ふと顔を上げたとき、画面の上の綾子の作品を目が合う。綾子はハッとして背筋を伸ばすが、そこに何もない。

⑲. 出版社、小会議室(昼)
   緊張した面持ちの綾子(18)に、編集者女(30)はニッコリ微笑み、
編集者女「新人賞、おめでとうございます。ついに編集ですね」
綾子「あ、ありがとうございます!」
編集者女「純文学のようで、それでいてラノベのような自由さがある。初めてです」
   綾子は照れ臭そうに笑う。だがすぐに顔色を窺うように編集者女を見て、
綾子「あの……質問なのですが」
編集者女「なんでしょう」
綾子「父も、文字書きだったのですが。あまりにも編集で改変されて、それが理由で出版を諦めたことがあって……いえ、疑っているわけではなく!」
編集者女「大丈夫です。我が社は作家さんの意思を尊重して、一緒に世に作品を出すためのお手伝いをしています。ですので、作品を著しく改編するようなことはしません。最低限する事として、現在の表現を現代モラルに合わせて話し合いながら手直しする校閲くらいですので、綾子さんの作品を大きく変えてしまうようなことはしません」
   綾子は安心した様子でため息をつく。
綾子「ありがとうございます」
編集者女「ですので、綾子さんの作品はほとんどこのままで、一部言葉を見直しましょう。例えば……」
   印刷した原稿をめくり、
編集者女「この表現では誤解を招きますので、例えば『南の少女』ですとか――」
   綾子と、その隣に座る作品は原稿を覗き込む。頷きながら話を聞き、綾子は笑顔で顔を上げると、
綾子「はい、大丈夫です。私の作品です!」
   綾子、胸を張る。

⑳. 美術館、個展(昼)
   綾子が隼人(41)の個展に来る。
隼人「綾子ちゃん」
綾子「こんにちは、隼人さん」
隼人「ずいぶん大きくなったねぇ!」
綾子「何年前だと思ってるんですか」
隼人「正幸はどう? また小説書いてる?」
   綾子は首を横に振る。隼人、一瞬顔を曇らせる。
綾子「でも今は、私にいろいろ教えてくれてますよ」
隼人「まさか綾子ちゃんも?」
綾子「えぇ。血は争えないんですかね、曽祖父と言い父と言い、私と言い。私は小説だけでなく、アクセサリーやイラストも手掛けてますが、曽祖父も彫り物が趣味だったようですし。手で何かを作りたくなる性分なんですね、私たちは」
壁際に並んだ隼人の作品たちが嬉しそうに観覧者に手を振る。
隼人「綾子ちゃんは、自分の作品をどう思ってる?」
   綾子は一瞬目を見張ったが、すぐに自信げに微笑み、
綾子「私から生まれた結晶です。周りになんと言われようと、これが私なんです。だからこそ、その責任は私が負います。負えないものは作れませんし」
   綾子の後ろで綾子の作品が顔を覗かせる。隼人の作品と目が合い、微笑みかけると、綾子の作品も無邪気に笑う。
隼人「うん、良かった。俺、相変わらず文学はよくわからないけど、もし良ければ表紙の絵を描かせてもらえないかな」
綾子「いいんですか? 私、全然無名なのに」
隼人「これから有名になるんだよ」
綾子「……あっ、ありがとうございます!」
   綾子は元気よく頭を下げる。

21. 式典、会場裏
正幸「綾子、大丈夫か。お腹痛くないか? スピーチは忘れてないな?」
綾子「もう、大丈夫だって」
母「お父さんの夢だったものね。嬉しいのよ」
   綾子の手を握って綾子を見上げる綾子の作品。そして正幸の顔も見上げ、正幸の手を握り、そっとブラブラと揺らす。
綾子「じゃ、行ってくる」
   歩き出す綾子。正幸と作品の手が離れ、作品は離れた手で肩からかけるぬいぐるみカバンを握りしめる。
   見送る正幸と母。正幸は、作品に握られていた手を握りしめる。その手はゆっくりと顔へ近づき、頬を拭って下ろされる。

22. 自宅、綾子の部屋(昼)
   綾子のパソコンの上、付箋がいっぱい貼られた正幸の原稿の束が置かれている。

〈終幕〉

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