地獄のオルゴール 恋愛

(フィルム映像を想定してます)  表向きは財閥、実際はマフィアも同然の組織を率いる若頭・明彦が、父親の借金を肩代わりする香と出会い、逃避行するお話。昭和を感じさせるベタな銃撃戦とヤクザもの。10分程度のものです。エンド分岐があります。 {感想を頂けますと大変励みになりますので、よろしくお願いします}
作者字 9 0 0 07/04
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第一稿

「地獄のオルゴール」
作者字 
明彦《アキヒコ》(30代)組の若頭、父の代を継いだばかり。姉薫子を常に思っている。
香《カオリ》(10代)父の借金の肩代わりにさせら ...続きを読む
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「地獄のオルゴール」
作者字 
明彦《アキヒコ》(30代)組の若頭、父の代を継いだばかり。姉薫子を常に思っている。
香《カオリ》(10代)父の借金の肩代わりにさせられ、夜逃げをする。
南朱火《ミナミスザク》(30代)明彦に従える部下。負けん気の強い鉄砲娘。明彦を密かに慕っている。
西水蒼《ニシミズソウ》(20)新人の青年。明彦を兄のように慕ってる。犬みたい。
黄風東《キフウアズマ》(40)力技役。明彦と殴り合った中。柄は悪いが人情あふれる。
北地緑助《キタジロクスケ》(50)明彦の世話役。父の相棒だった。先代とまだ繋がりがある。

○香宅(夕方)
家賃の安そうなボロいアパート。制服姿で帰宅する香。
荒らされた形跡のある家の中。
香 「お父さん。お父さん?」
応答の無い部屋。
香は急いでリュックを掴み、保存食、薬、通帳や貴重品、下着や簡単な服を乱雑に掴んでリュックに詰め込む。
窓から出ようとして、ふと簡易的に作られた卓上の仏壇もどき の母の写真に振り返る。後ろ髪を引かれる思いで外に飛び出す。香の飛び出した部屋に、誰かがドカドカと上がり込む。

○明彦の事務所(昼)
イライラした様子で部屋に入ってきて、自分の席に乱暴に尻を投げ出す明彦。
明彦「あの年寄り共め……『頑張ってくれたんだからもう隠居していいよ』っつってんのによぉ」
タバコを咥える明彦。そばにいた南が手慣れた様子で火をつける。
明彦は南の手を取り、
明彦「朱火、お前はどこまでついてきてくれる?」
手を引かれるように身を寄せる南。
南 「どこまでも。地獄が私らの住処でしょう?」
そっと顔を寄せる南。明彦は南の頬を指でそっと撫でる。
黄風「ったくオメーはよぉ! なんでこんなことも出来ねぇんだ! みはじだ、み! は! じ! 道のり! 速さ! 時間! 義務教育で何やって来たんだ」
蒼 「うえぇん殴らねぇでくださいよ。痛っ、な、殴った〜!」
ドアの向こうから聞こえる黄風と西水の声。南はため息をこぼしてうんざりした顔を上げると、足音を強く鳴らして部屋を出た。
扉の向こうで揉める南、黄風、西水。それをBGMにタバコを呑む明彦。胸ポケットから紙切れのような写真を取り出す。そこにいる香にそっくりな女性を見つめ、小さく泣きそうに微笑む。
それを明彦の向こう、部屋の奥から見つめる北地。

○公園、屋根と机のあるベンチ(昼)
そよ風の気持ち良い公園。香は机に突っ伏して、顔も隠さずスヤスヤ眠っている。通りがかった明彦は思わず目を奪われ、誘われるように向かいに座る。タバコを吸いながら香を眺める。
ふと目を覚ました香は驚いて飛び上がり、背中から落ちてしまう。明彦は急いで手を差し出し、
明彦「どうしたの。大丈夫?」
香 「だ、誰ですか」
明彦「あ……ごめんね、怖がらせるつもりは無かったんだ。ただ、君がその、似てたから。大事な人に」
香 「そう、ですか。びっくりした……」
明彦「家出?」
香 「えぇ、まぁ、そんなところです」
明彦 「大変だね。まぁ俺も昔はよくあったから、わかるよ」
香 「……」
明彦「帰巣本能が無いといいね」
香 「え?」
明彦「嫌で家出したのに、結局戻っちゃうんだよ、何故か。戻らせる何かが、よりにもよって自分にとって宝物だったりする」
灰を足元に落とす明彦。
香 「えっと……例えば、何です?」
明彦は斜め上を見上げて考えながら頬杖をつくと、やや顔を上げて見下ろし、そっと微笑んで、
明彦「君とか?」
香 「……」
目を見張る香。恥ずかしがるように顔を背ける。机に顔を置いて小さくため息をつく。
明彦「待ってな」
明彦は立ち上がってどこかへいく。そしてすぐに戻ってきて、テイクアウトらしきケバブ(大判焼きでも何でもいい)を差し出す。
明彦 「あげる。遠慮しないで良いから」
香 「え、でも」
明彦 「無駄にするのか?」
おずおずと受け取る香。相当お腹が空いていたようで、ガツガツと食べる。それを見ながら微笑み、悲しそうな顔をする明彦。

○路地裏(夕方)
走る香。追いかける西水。
香を捕まえる西水。
西水「ほらほら、暴れたらもっと痛いっすよ」
香 「いや、離して! 助けて!」
西水「親分、捕まえましたぁ」
明彦に差し出す西水。受け取って顔を掴む明彦。
明彦「元気な小娘だ。んん? こりゃよく稼いで――」
顔を見て明彦は黙る。顔を見て睨んだ香だが、目が合って顔を驚かせる。
香 「どうして……」
目を逸らす明彦。
アホな笑顔で明彦と香を交互に見る西水。
西水の携帯が鳴って電話に出る。
西水「あい。あー北地さん! ええ、はい、はい」
顔を背ける明彦の懐に入り込み、顔を覗き込む香。見つめ返す明彦。
西水 「え? 親分? いますけど。捕まえました。え、すみません! へ? でも、これ捕まえろって言ったの先代で。えぇ。あの、親分、北地さんが」
香を連れて突然走り出す明彦。
西水「あっ……! そういうことか! 北地さん! ひええごめんなさい!」
発砲音が追いかける。
手をかたく掴んで二人は走る。

○住宅地(昼)
香の手を掴んで走る明彦。近くのゴミ袋を投げて抗う。
曲がり角を曲がった先を見る間も無く銃を撃つ。人が倒れる音がする。明彦は香を連れて人を跨いで行こうとすると、足を掴まれる。
南が苦しそうに明彦を見つめる。
横顔で見つめ返す明彦。だがすぐに香の肩を持って、南の手を振り解いて走り出す。コンクリートに立てられる爪。

○資材置き場(夕方)
資材の影に身を潜め、銃の用意をする明彦。
始まる銃撃戦。
銃を持って近づいてくる黄風。それを躊躇なく撃ち殺す明彦。
銃声が止み走り出す明彦と香。

○バス停近く(夕方)
走る香と明彦。銃声がして明彦が倒れる。駆け寄る香。
震える手で銃を構える西水。
西水「どうして、どうしてですか親分」
近づく西水を躊躇なく撃つ明彦。倒れる西水。
傷を庇いながら立ち上がって西水に銃を向ける明彦。
やや焦るように西水、
西水「何が、何がだめだったんですか。ねえ、最後に呼ばせてください。明彦にいちゃ――」
響く銃声。

○バス停、バス内(宵時)
香を急いでバスに乗せる明彦。手に無造作に財布を握らせて、
明彦「終点で降りたら一番高い建物を目指せ。インターフォンの358番を押し、俺の名前を伝えろ」
出発するバス。
押し寄せる足音。
北地「見放されたんだろ、なんですがるんだ」
背中で聞きながら銃の用意をする明彦。
北地「呪われた子達だ。何を間違えた?」
明彦「それはクソ親父に言うべきだな。俺は自分の歯車の中で正しく生きただけだ」
勢いよく振り返って銃を撃つ。
打たれて膝をつく明彦。
北地が近づいて頭を撃つ。反射で体が少し起き上がり倒れる明彦。
北地「オルゴールはお前じゃない、世界だ」

〈別ルート・香死亡エンド〉
○路地裏(夜)
うるさいほどの街の音。
急足で目的地を目指す香。後ろから捕まり口を塞がれる。いくら叫んでも声は出ない。
男はナイフを出して静かにおもむろに香に刺す。
バタバタと溢れる血。暴れる手足が諦めたように下される。
ぐったりした香を静かに床に転がす男。
街の音。

〈別ルート・香生存エンド〉
○公園、屋根のあるベンチ(昼)
明彦の持っていた写真とよく似た姿の香。
ケバブ(公園のシーンで食べたものと同じもの)を一口食べて、頬杖をつく。

〈終幕〉

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