ハッピー・ウ・エンディング コメディ

今日で定年退職を迎える結婚式場のスタッフ・遠藤良太(65)は、自身最後の結婚式を何としても成功させたいと思っていた。しかし、新郎の両親は来ないわ、シークレットゲストは駄々こねるわ、ご祝儀泥棒が出るわ……。それでも遠藤は諦めない。「終わり良ければ、総て良し」だから。
マヤマ 山本 75 2 0 06/30
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第一稿

<登場人物>
遠藤 良太(65)結婚式場チーフスタッフ
近野 結(27)新婦
新庄 拓郎(20)新郎
近野 莉子(52)結の母
有瀬 三成(53)結の父
双木 元(30 ...続きを読む
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<登場人物>
遠藤 良太(65)結婚式場チーフスタッフ
近野 結(27)新婦
新庄 拓郎(20)新郎
近野 莉子(52)結の母
有瀬 三成(53)結の父
双木 元(30)結の元カレ
宝田 恵子(34)結婚式場スタッフ
白石 純(26)同
岩井 美奈(23)同
今牧 玄師(24)牧師
伊地知 理人(61)新庄の父役、元刑事
今牧 佳代(47)新庄の母役、今牧の母
末永 幸一(73)演歌歌手
月島 (32)末永の付き人
守田 (66)警備員

桜井 咲(43)人材派遣会社取締役
蟹江 睦月(59)パティシエ



<本編> 
○結婚式場・外観
   洋風な建物。
恵子の声「連絡事項は以上です」

○同・中庭
   緑が溢れる中庭。
恵子の声「最後に、チーフから一言」
遠藤の声「はい」

○同・エントランス
   「新庄家 近野家」と書かれた看板。
遠藤の声「え~、私事で大変恐縮ですが……」

○同・事務所
   朝礼が行われている。
   白石純(26)、岩井美奈(23)らスタッフ達の前に立つ遠藤良太(65)と宝田恵子(34)。
遠藤「本日をもって定年退職させていただきます」
白石「よっ!」
   拍手するスタッフ達。
   花束を持ってくる美奈。
美奈「お疲れさまでした」
恵子「今じゃないし。まだ早いし」
美奈「すみません……(と言って下がる)」
遠藤「(咳払いをして)え〜、思えば畑違いのこの業界に飛び込んで約四半世紀、仕事一筋で生きて参りました。おかげで私自身の結婚生活は三度とも失敗に終わりましたが、数多くの結婚式並びに披露宴を成功に導いたと自負しております」
恵子「(時計を見て)チーフ、手短に……」
遠藤「(聞こえず)やはり思い出深いのは二五年前、私が初めて担当させていただいたご夫婦でしょうか」
恵子「あの、チーフ……」
遠藤「その時の新郎は、今や世界にその名を轟かせるあの……」
   遠藤の足を踏む恵子。
遠藤「痛っ!」
恵子「チーフ、そろそろ締めのお言葉を」
遠藤「……はい。(咳ばらいをし)そんな私にとって、今日が最後の結婚式となります。終わり良ければ、総て良し。何が何でも成功させましょう」
一同「はい」
遠藤「それでは、今日も一日、よろしくお願いします」
一同「よろしくお願いします」
   花束を持って出てくる美奈。
美奈「それでは……」
恵子「だから、今でもないし」
美奈「すみません……」

○同・新婦控え室・前
   「ご新婦様お控室」と書いてある看板。
莉子の声「ねぇ、どっちがいいと思う?」

○同・同・中
   ウエディングドレス姿で椅子に座り、スマホをいじる近野結(27)。その脇で、右手に赤いドレス、左手に青いドレスを持つ近野莉子(52)。
莉子「コレとコレなんだけどさ」
結「(見ずに)あ〜、そっちの方がいいかも」
莉子「だよね〜。じゃあ、赤かな~」
結「ところでさ、今日お父さんって来るの?」
莉子「連絡は付いたけど、どうだろうね? (赤いドレスと桃色のドレスを持ち)で、コレとコレなら、どっちがいいと思う?」
結「(見ずに)あ〜、そっちの方がいいかも」
莉子「だよね〜。じゃあ、ピンクか〜」
結「ねぇ、お父さんってどんな人なの?」
莉子「どんなって?」
結「ほらさ、見た目とか」
莉子「お母さんだって、もう何年も会ってないから、今どうかは知らないな~」
結「そっか。でもさ、もしお父さんが来なかったら、私は今日、お母さんとバージンロード歩くって事だよね?」
莉子「(嬉しそうに)え〜、やだ〜。じゃあもっと派手なドレスにしなきゃ」
結「……お母さんもさ、何であんなお父さんと結婚しちゃった訳?」
莉子「その言葉、そっくりそのまま返させてもらうわよ。何であの子と結婚する訳?」
結「そりゃ……いいかも、って思ったからさ」

○(回想)レストラン(夜)
   向かい合って座り、食事する結と双木元(30)。皿は空。
結「ねぇ、デザートまだかな?」
双木「そろそろじゃないかな……?」
   と言いながら、ウエイターの新庄拓郎(20)に目配せする双木。デザートのケーキを持ってやってくる新庄。
新庄「お待たせ致しました」
   ケーキのプレートには「結さん 僕と結婚して下さい」と書いてある。
結「(プレートを見て驚き)え?」
   双木とケーキと新庄を順番に見る結。
結「(新庄に向かって)はい」
新庄「(驚いて)え?」

○結婚式場・披露宴会場・中
   モニターに映る、結婚式の衣装で撮影された結と新庄の写真(先の回想シーンがVTRとして流れていて、その続きという体で)。
結の声「こうして、私たちは結婚する事になりました」
   VTRが終了する。
   モニターの前に立つ恵子と美奈。
恵子「何回観ても、この二人が結婚する理由がわからないし。ありえないし」
美奈「まぁ、私だったら直球で『結婚して下さい』って言って欲しいですね」
恵子「あんたの話なんて聞いてないし」
美奈「すみません……(付けている無線のマイクに向けて)あ、バッチリです。次のVお願いします」
恵子「あ〜あ、何でこんな奴らの結婚祝わなきゃなんないんだろ」
美奈「まぁまぁ。いくら自分がアラフォーで独身だからって僻まないで下さいよ」
恵子「僻んでないし。っていうか、まだ三四だし。アラサーだし」
美奈「すみません……」
   モニターに映る『寿』(演歌)のMV。
美奈「これ、今日のサプライズゲストのMVでしたっけ? 私、演歌は疎くて」
恵子「でもさすがに、『寿』は知ってるでしょ? めっちゃ流行ったし」
美奈「いつの話ですか?」
恵子「私が……小学生の頃?」
美奈「(笑いながら)私、生まれる前です~」
   美奈を睨む恵子。
美奈「すみません」
   MVに映る若い頃の末永幸一(48)。
遠藤の声「末永先生!」

○同・廊下
   月島(32)を従えて入ってくる和服姿の末永(73)を出迎える遠藤。
遠藤「お待ちしておりました。私……」
   末永に近づく遠藤を取り押さえる月島。
遠藤「痛い痛い痛い」
末永「月島君、離して差し上げなさい」
月島「押忍」
   手を離す月島。
遠藤「何するんですか、いきなり?」
月島「押忍。先生をお守りするのが自分の仕事っス」
末永「彼は仕事熱心なんですよ。ところで、控室はあちらなんですか?」
遠藤「え?」
   末永の視線の先に目をやる遠藤。部屋の前に「サプライズゲスト 末永幸一様 お控室」の看板を設置する白石。
遠藤「白石君、何してんの!」
白石「え? いや、わかりやすいように……」
遠藤「サ・プ・ラ・イ・ズ・ゲ・ス・ト! これじゃまるわかりでしょ」
白石「あ~。さっすが、チーフ。頭いい」
   看板を撤去する白石。
遠藤「(息を整え、末永に)こちらです」

○同・VIPルーム
   豪華な室内。
   ソファーに座る末永と、その脇に立つ遠藤、月島。末永の前のテーブルには多数のお菓子や飲み物。
遠藤「こちら、当式場の誇るVIPルームでございます。こちらでごゆっくりお待ちください」
末永「なるほど、ね……」
   妙な沈黙。
遠藤「えっと……何か?」
末永「(テーブルの上を指し)コレは?」
遠藤「ご自由にお召し上がり下さい」
末永「コレで全部ですか?」
遠藤「あ……何かご要望があれば」
末永「(浮かない顔で)いえ、大丈夫ですよ」
   気まずい沈黙。
遠藤「えっと……」
末永「月島君、(手招きして)ちょっと」
月島「押忍」
   月島に耳打ちする末永。
遠藤の声「パティスリー睦月のプリン?」

○同・廊下
   並んで立つ遠藤と月島。
遠藤「あのミシュランで三ツ星の?」
月島「押忍。先生はアレがないとダメっス」
遠藤「何で先に言ってくれないんですか?」
月島「押忍。自分はちゃんと書いたっス」
遠藤「え? いつのメールですか?」
月島「押忍。ウィキペディアっス」
遠藤「はい?」

○同・事務所
   通話中の遠藤。隣の席では、美奈がパソコンで末永のウィキペディアのページを見ている。「パティスリー睦月のプリンが必須」との記述。
美奈「本当だ~、ちゃんと書いてある~」
   遠藤の手元にはパティスリー睦月のパンフレット。蟹江睦月(59)の写真と名前が掲載されている。
遠藤「完全予約制なのは存じてます。ただ、私、今日で定年退職なんですよ。何とかお願いできないでしょうか……」
   そこにやってくる白石。
白石「あ~、居た。ねぇ、ちょいヤバいかも」
遠藤「……今度は何?」

○同・親族控え室
   新庄の元に集まる遠藤と白石。
遠藤「ご両親が来られないって、どういう事ですか!?」
新庄「すみません……日にちを勘違いしていたらしくて。今、海外に……」
白石「どうする? 延期とか?」
遠藤「そんな事、出来る訳ないでしょう?」
白石「だよね」
遠藤「私は今日で定年退職なんだから」
白石「あ、そっちの理由?」
新庄「でも、実際どうすれば……」
遠藤「お任せください。この式は、何が何でも成功させてみせます」

○人材派遣会社・オフィス
   電話を受ける桜井咲(43)。超笑顔。
咲「お電話ありがとうございます。サクラ専門人材派遣会社・チェリーブロッサム、代表取締役、桜井咲でございます」

○結婚式場・親族控え室
   親族紹介中。結、新庄、莉子、恵子、白石の他、新庄側の親族として伊地知理人(61)と今牧佳代(57)がいる。
伊地知「新郎の父です」
佳代「母です」
白石「(小声で)親族の代理出席なんて、初めて聞いたんだけど」
恵子「(小声で)しっ。(親族達へ)では、続いて新婦のご親族紹介をお願いします」
有瀬の声「あ、私、新婦の親族の者ですが」

○同・受付
   ご祝儀の受付場所で、受付係に声をかける有瀬三成(51)。
有瀬「何か、新婦の控え室に大きな金庫があるらしくて、ご祝儀をそこに保管しようかって話になりましてね」
   顔を見合わせる受付係。

○同・廊下
   歩いている遠藤。
遠藤「はぁ、疲れた……」
   受付から出てくる有瀬。ご祝儀の束の入った袋を持っている。
遠藤「? あの、すみません」
有瀬「はい?」
遠藤「失礼ですが、そちらの袋は……?」
有瀬「……」
   逃走する有瀬。
遠藤「待て! (無線のマイクに向けて)各局へ、ご祝儀泥棒発見」
   有瀬を追いかける遠藤。
遠藤「逃がすか〜!」
   有瀬に見事なタックルを決める遠藤。
有瀬「うげっ」

○同・事務所
   向かい合って座る遠藤と有瀬。
遠藤「何でこんな事したんですか」
有瀬「すみません。右手が勝手に……」
遠藤「何で今日なんですか? 私、今日で定年退職なんですよ。お願いだから、今日だけは問題起こさないでよ」
   そこにやってくる美奈。
美奈「あの、チーフ……」
遠藤「今度は何? もう大概の事には驚かないよ?」
美奈「牧師さんがまだ来てないんですけど」
遠藤「何だ、そんな事か……って、何~!?」

○町中
   スマホで通話しながら歩く今牧玄師(24)。牧師姿。
今牧「もしもし、ママ? ちょっと、道に迷っちゃって……。どうやったら式場に着くのかな?」

○結婚式場・廊下
   集まる遠藤、恵子、美奈。
美奈「どうするんですか~?」
遠藤「仕方ない。こんな手は使いたくなかったけれど……」
恵子「まさか……?」

○人材派遣会社・オフィス
   電話を受ける咲。超笑顔。
咲「お電話ありがとうございます。サクラ専門人材派遣会社・チェリーブロッサム、代表取締役、桜井咲でございます」

○同・チャペル・中
   外国人男性を牧師役とし、結と新庄の結婚式が行われている。
新庄「誓います」
   端に待機する恵子、外国人男性や親族の席に座る伊地知、佳代の姿を見る。
恵子「カオス過ぎだし」

○同・エントランス
   美奈の元にやってくる双木。
双木「近野結はどこだ?」
美奈「はい、ただいまチャペルにて挙式中でございます」
双木「わかった」
   走って行く双木。
美奈「今の人、どっかで見たような……」

○(フラッシュ)レストラン(夜)
   向かい合って座る結と双木。

○結婚式場・エントランス
   思い出した表情の美奈。
美奈「(無線のマイクに)各局へ、新婦の元カレが今、チャペルに向かっています」

○同・披露宴会場・中
   立ち上がる遠藤。
遠藤「何だって?」

○(イメージ)同・チャペル・中
   ドアが開き、入ってくる双木。
   振り返る結と新庄。
結「え、何で……?」
双木「決まってんだろ? 迎えに来たんだよ」
   結の手を取って走り去る双木。
新庄「(泣き崩れて)待って、結ちゃ~ん!」

○同・同・前
   体を張って双木を止める遠藤。
遠藤「……なんて事はさせません!」
双木「離せ~!」
遠藤「嫌です! 今日が最後なんです! 何としても無事に終わらせるんです〜!」

○同・同・中
   牧師役と向かい合う結と新庄。
結「誓います」

○同・事務所
   双木を連れてやってくる遠藤。
遠藤「お願いしますよ。私、今日で定年退職なんですよ。だから……」
   部屋の机の引き出しを漁る有瀬。その傍らで居眠りする警備員の制服姿の守田(66)。
遠藤「……何してるんですか?」
有瀬「すみません。右手が勝手に……」
遠藤「(守田の頭を叩いて)アンタも何寝てんだよ!」
守田「んあっ!? オラ、寝でねぇぞ?」
遠藤「まったく……(無線のイヤホンに手を当て)ブーケトス開始、了解」

○同・中庭
   結と新庄、莉子、伊地知、佳代ら出席者が集まり、恵子や白石、美奈らスタッフが脇に立ち、ブーケトスが行われようとしている。入念にストレッチしながら続々と出てくる女性出席者達。
伊地知「これは、何事ですか?」
佳代「あら、ご存じないんですか? この式場のブーケ、ご利益が高いって評判なんですよ? 私も、母親役でなければ参加したかったくらいです」
伊地知「お詳しいですね」
佳代「息子がこの業界で働いているもので」
   佳代のスマホに着信。
佳代「あら、電話。ちょっと失礼」
    ×     ×     ×
   臨戦態勢のブーケトス参加者達。その様子を見ている恵子と白石。
恵子「……にしても、ブーケトスに本気になりすぎだし」
白石「いやいや、案外こういうのが大事だったりするんじゃない?」
恵子「そういうもんかね?」
結「行っきま~す」
   ブーケを投げる結。
   参加者の集まる場所ではなく、脇に立つ恵子の元に飛んでくるブーケ。そのブーケを見つめる恵子。

○(イメージ)とある家
   幸せな夫婦生活を送る恵子(一家団欒や夫のお見送り、子育て等)。以下、このイメージシーンと飛んでくるブーケ、それを見つめる恵子の姿を適宜カットバックで。

○結婚式場・中庭
   ブーケトスが行われている。飛んでくるブーケに思わず手を伸ばす恵子。横からやってきて恵子を弾き飛ばす参加者達。怒号が飛び交うブーケ争奪戦。
   ブーケを勝ち取り、高々と掲げる美奈。
美奈「やった!」
恵子「あんたが取ってどうすんだし」
美奈「いいじゃないですか。それに、そういう先輩こそ取ろうとしてませんでした?」
恵子「してないし。……してないし」

○同・事務所
   ブーケを手に入ってくる美奈。並んで座る有瀬、双木、守田。守田は居眠りをしている。
美奈「あ、お疲れさまです……ん? (守田が寝ている事に気付き)もしも~し」
守田「んあっ!? オラ、寝でねぇぞ?」
双木「なぁ。何か届いたけど?」
美奈「え?」
   双木の視線の先を追う美奈。そこにはパティスリー睦月の箱。

○同・廊下
   パティスリー睦月の箱を持ち、小走りで移動する遠藤。
遠藤「来た来た来た~」

○同・VIPルーム
   ノックし、入ってくる遠藤。
遠藤「失礼します。お待たせ致しま……」
   遠藤を取り押さえる月島。
遠藤「痛い痛い痛い」
   ソファーに座る末永。
末永「月島君、離して差し上げなさい」
月島「押忍」
   手を離す月島。
遠藤「コレ、毎回されるんですか?」
月島「押忍。先生をお守りするのが自分の仕事っス」
遠藤「……まぁ、いいや。先生(箱を掲げ)プリン、お待たせ致しました」
末永「そうですか、用意できましたか。(箱を受け取り)でも、あのお店は完全予約制でしょう? 一体どうやって?」
遠藤「あの店のオーナーの蟹江さんとは、旧知の仲でして」
末永「それは素晴らし……」
   箱を開ける末永。空。
遠藤&末永「ん?」

○同・事務所
   並んで座る有瀬、双木、守田。その奥の席で電話をかける遠藤。有瀬の手元には空のプリンの容器。
有瀬「すみません。右手が勝手に……」
守田「オメェ、あんまり調子乗っでっど、痛ぇ目見んぞ? 警備室戻りゃ、武器なんでいぐらでもあっがらな?」
遠藤「すみません、プリンをもう一個お願いしたいんですが……あ、切られた! もう! (守田に)そもそも、アンタが居眠りしてるからいけないんでしょうが」
   と言って再び電話をかけ始める遠藤。
今牧の声「あ、もしもし、ママ?」

○田舎町
   田畑の広がる場所。
   スマホで通話しながら歩く今牧。
今牧「もう、どこに居るのかわからなくなっちゃった。うん。多分、もう披露宴も始まっちゃってると思う……」

○結婚式場・披露宴会場・中
   モニターに映る、結婚式の衣装で撮影された結と新庄の写真。
結の声「こうして、私たちは結婚する事になりました」
   VTRが終了する。
   扉が開き。入場する結と新庄。拍手。

○同・事務所
   並んで座る有瀬、双木、守田を残して部屋を出ようとする遠藤。
遠藤「(守田に)ちゃんと見張っておくように。いいですか?」
守田「わがってるよ」
   出ていく遠藤。

○同・廊下
   歩く遠藤。その後ろから台車を押してやってくる白石。
遠藤「やっぱり心配だな……」
   接近する二人。ただし白石は心ここにあらずといった様子。
遠藤「白石君辺りに事務所残ってもらうか?」
   白石の押す台車が遠藤に激突する。
遠藤「あぎゃっ!」
    ×     ×     ×
   並んで歩く遠藤と白石。
遠藤「どうしたの、白石君? ボ〜ッとして」
白石「いや〜、幸せボケっていうのかな。あ、聞きたい?」
遠藤「(嫌そうに)何?」
白石「今付き合ってる彼女が『プロポーズされるなら、結婚して下さい、って直球で言われたい』とか『ブーケトスでブーケ取っちゃった』とか言ってんの。これ、間違いなく、俺と結婚したいっていうアピールだよね?」
遠藤「まぁ、そうかもしれないけど……」
白石「いや〜、俺も浮かれちゃって。どうプロポーズしようか、って事で今頭いっぱいなの。どうしたらいいと思う? って、バツ3の人に聞いても仕方ないか」
遠藤「……もういいや。とにかく、あんまり仕事に支障を来さないように。頼むよ?」
白石「ハハ、了解」
遠藤「(小声で)……大丈夫かな?」

○同・披露宴会場・中
   席で談笑する伊地知と佳代。
佳代「大丈夫ですよ。堂々としていれば、案外バレないものですから」
伊地知「そうなんですね。いや、何分、私は初めてなもので」
佳代「どうしてこの仕事をやろうと思われたんですか?」
伊地知「大した理由ではありませんよ。独身の公務員が定年退職したら、時間を持て余すようになってしまっただけです」
佳代「そうですか……(スマホに着信)あらやだ、また電話。ちょっと失礼」
   席を立つ佳代。
   その間、高砂で友人知人からお酌される新庄とそれを見ている結。
結「ねぇ、大丈夫?」
新庄「ん? 平気平気。俺、酒強いから」
結「なら、いいけどさ」
    ×     ×     ×
   酔いつぶれている新庄。
結「ほら、言わんこっちゃない。(新庄の体を揺すり)お~い、起きろ~」

○同・事務所
   並んで座る有瀬、双木、守田。守田の体を揺すっている有瀬。
守田「んだ? オラ、寝でねぇぞ?」
有瀬「すみません。右手が勝手に……」
   しばしの沈黙。
双木「なぁ、守衛さん」
守田「だがら、寝でねぇっで……」
双木「いい年して、安月給でこき使われて、あんな風に怒られて、悔しくねぇの?」
守田「ぞれは……」
双木「もし、今から人生一発逆転する方法があるとしたら、どうする?」
守田「!? んな方法、あんのが?」
   にやりと笑う双木。

○同・披露宴会場・中
   伊地知の隣の席に戻ってくる佳代。高砂には誰もいない。
佳代「えっと……今どういう状況ですか?」
伊地知「お色直しだそうですよ」

○結婚式場・新婦控え室・中
   ドレスを着替え終わっている結。
   右手に橙色のドレス、左手に黒いドレスを持つ莉子。
莉子「ねぇ、どっちがいいと思う?」
   部屋の隅に立つ恵子。
恵子「(小声で)どっちでもいいし。っていうか、あんたのお色直しじゃないし」
   何やら思案中の結。
莉子「? 結、どうかしたの?」
結「あ、いやさ、元君どうしてるかな、って」
莉子「誰だっけ?」
結「元カレ」

○同・事務所
   無人。

○同・新婦控え室・中
   莉子の着替えを手伝う恵子。その傍らに座る結。
結「よくよく考えると、何か悪い事したな、って。まぁ、今更なんだけどさ」
恵子「本当、今更だし」
莉子「それより、今カレの心配した方がいいんじゃない?」
結「え?」

○同・披露宴会場・前
   並んで立つ結と顔面蒼白の新庄。ドア脇に立つ遠藤と恵子。
遠藤「新庄様。大丈夫ですか?」
結「大丈夫だよね?」
   結に顔を向ける新庄。まさに吐く直前。
遠藤「危ない!」
   結を庇う遠藤。

○同・同・中
   再入場する結と新庄。晴れやかな表情の新庄。

○同・廊下
   並んで歩く遠藤と恵子。遠藤は上着を脱ぎ、丸めて持っている。
恵子「チーフ……大丈夫ですか?」
遠藤「いいよ。どうせ、今日で定年退職なんだから。(何かを見つけ)ん?」
   部屋を出て帰ろうとする末永と月島。
遠藤「お待ちください!」
   末永に駆け寄る遠藤。月島に取り押さえられる。
遠藤「痛い痛い痛い」

○同・エントランス
   帰ろうとする末永と月島を必死に止めようと縋りつく遠藤。
遠藤「今帰られたら困ります」
月島「押忍。でもプリンは用意できてないじゃないっスか」
遠藤「ですから、それは何とかしますから。お願いします。余興が終わったら、もう先生のお出番なんです」

○同・披露宴会場・中
   余興で『てんとう虫のサンバ』を歌う女性達。手拍子で盛り上がる出席者達。

○同・エントランス
   末永と月島に土下座する遠藤。
遠藤「お願いします。私、今日で定年退職なんです。最後の式なんです。私に免じて何とか……」
月島「押忍。貴方の定年退職は、先生に何の関係もないっス」

○同・披露宴会場・中
   余興で『てんとう虫のサンバ』を歌う男性達。複雑な表情の出席者達。

○同・エントランス
   出ていく末永。月島に取り押さえられている遠藤。
遠藤「お待ちください、先生~!」
月島「押忍。しつこいっス」
遠藤「私は、私はこの仕事に人生をかけてきたんです! もちろん、色んな事はありました。失敗もありました。だからこそ、最後のこの式だけは、何としても成功させたいんです」
月島「押忍。だから、それと先生は何の関係も……」
遠藤「あります!」
月島「?」
遠藤「先生は覚えていらっしゃらないと思いますが、私が初めて担当した方の結婚式で、先生に歌っていただきました。約四半世紀前。『寿』が出た直後でした」

○(回想)同・披露宴会場・中
   若い頃の末永が歌っている。
遠藤の声「あの日も色々と大変な一日ではありましたが、あの歌で会場が一つになったのをよく覚えています」
   会場を見渡す若い頃の遠藤(40)。

○同・エントランス
   月島に取り押さえられている遠藤。
遠藤「だからこそ、定年退職前、最後の式にも、先生に歌っていただきたいのです。お願いします!」
末永の声「月島君。離して差し上げなさい」
月島「押忍」
   手を離す月島。戻ってくる末永。
遠藤「先生。よろしいんですか……?」
末永「私も、プリンがなければ歌わないなどという、小さい人間ではないのですよ」
遠藤「(涙ながらに)ありがとうございます!」
   深々と頭を下げる遠藤。その時、末永の持つパティスリー睦月の箱に気付く。
遠藤「……ん?」
末永「着替えに少々時間がかかりますが、よろしいですね?」
遠藤「あぁ、それはもちろん……」
末永「では行きましょう、月島君」
月島「押忍」
   その場を立ち去る末永と月島。入れ違いでやってくる蟹江。服の胸元に「パティスリー睦月」の文字。
蟹江「どうも、遠藤さん。間に合いました?」
遠藤「無理を言って申し訳ありませんでした」
蟹江「何を言っているんですか」

○(回想)同・披露宴会場・中
   若い頃の末永が歌っている。高砂で涙を流す若い頃の蟹江(34)。
蟹江の声「あの時はお世話になりましたから」

○同・エントランス
   向かい合う遠藤と蟹江。
蟹江「その遠藤さんの定年退職となれば、これくらいは当然の事です」
遠藤「私、泣きそうです」
蟹江「それは、式が終わってからという事で」
遠藤「そうですね。(無線のマイクで)余興、今どの辺?」

○同・披露宴会場・中
   余興で『てんとう虫のサンバ』を歌うまた別の男女。退屈そうな出席者達。
白石の声「今、最後の一組」

○同・同・裏
   機械の操作盤の前に座る白石。
遠藤の声「末永先生のスタンバイはもう少しかかりそうだけど、場を繋げられる?」
白石「了解。何とかやってみる」

○浜辺
   海を見ながら座り込む今牧。
今牧「もう何ともならないや。やっぱり、僕には向いてないし、この仕事、辞めようかな」

○結婚式場・披露宴会場・中
   席で談笑する伊地知と佳代。
佳代「『この仕事辞める』って、代理出席の仕事、嫌になってしまいました?」
伊地知「いえ。ただ、妻役の女性を本当に好きになってしまって……」
佳代「あら」
   見つめ合う伊地知と佳代。
   その様子を高砂から見ている結。
結「いいな~、あんな歳になっても付き合いたてのカップルみたいな夫婦なんてさ。私達もそうなれるかな?」
   新庄の方を見る結。酔いつぶれている新庄。
結「うん、なれそうな気がする」
    ×     ×     ×
   入口の前に立つ恵子と美奈。
恵子「何でだし」
   そこにやってくる遠藤。
遠藤「コッチはどう?」
美奈「いや、白石はまだ何も……」
   マイクを持ってステージに上がる白石。
白石「どうも、出席者の皆様、当式場スタッフの白石です。皆様、しばし僕に、いえ、僕らに時間をいただけますでしょうか?」
遠藤「何始める気……?」
白石「当式場スタッフ・岩井美奈さん」
   美奈に当たるスポットライト。
美奈「え?」
白石「直球で言わせていただきます。僕と結婚して下さい!」
恵子「いきなりプロポーズしちゃったし。っていうか、空気読めし」
美奈「……ごめんなさい」
白石「……え!?」
恵子「断ったし。っていうか、空気読めし」
   静まり返る会場。

○同・同・裏
   白石を連れてくる遠藤。
遠藤「何やってんの? 時間稼ぐなんて、他にいくらでもやり方あるでしょ?」
白石「いや、自信あったから」
遠藤「あったとして、今は他の方の結婚式の真っ最中でしょ」
白石「フラれた~!」
遠藤「それより何よりだよ、白石君」
白石「何?」
遠藤「君、敬語使えるんじゃん」
白石「そりゃあ、まぁ」
遠藤「だったら、普段から使ってよ!」
白石「……さーせん」
末永の声「お待たせしました」
遠藤「あ、先生。ではスタンバイを……」
   振り返る遠藤。そこにやってくる末永と月島。末永はマイケル・ジャクソンのような服装。
遠藤「って、えぇ!? 何ですかその恰好」
末永「私、元々はこういう歌って踊るエンターテイナーに憧れてましてね」
遠藤「いや、だからって……それで『寿』歌われるんですか?」
月島「押忍。『寿(令和ver.)』っス」
   と言って遠藤にCDを渡す月島。そのジャケット写真には今と同じ衣装を着た末永の姿。
遠藤「あ~、もうめちゃくちゃだ……」
   銃声。
遠藤「今度は何?」

○同・同・中
   テーブルの上に立ち銃を発砲する双木。
双木「うおら~! テメェら動くな!」
   出席者や恵子、美奈らスタッフが凍り付く。
双木「いいか、テメェら……」
   双木の前にやってくる守田。マシンガンを乱射する。
守田「オラオラオラァ! 安月給で、こぎ使われで、バガにざれで、ふざげんじゃねぇぞ~!」
恵子「守衛さん!?」
美奈「たまってたんですね~」
   守田の足元に発砲する双木。
双木「おい、俺より目立ってんじゃねぇよ」
守田「あぁ、ずまねぇ。づい、血が騒いじまっでよ」
   その後方、こそこそと盗みを働く有瀬。
双木「いいか? 俺が用あるのは一人だけだ。邪魔さえしなけりゃ、殺しはしねぇ」
   結の前までやってくる双木。
双木「なぁ、結?」
結「元君……」
   双木の前にやってくる新庄。
新庄「(酔っぱらいながら)おいおい、人の女に手ぇ出すんじゃ……」
   新庄を殴る双木。倒れる新庄。
新庄「ほげっ」
双木「先に手ぇ出したのはテメェだろ」
結「元君、止めて……」
双木「よくも俺に恥かかせてくれたな」
   結に銃を向ける双木。
双木「死んで詫びな」
   発砲する瞬間、結を抱き寄せる有瀬。
双木「あん?」
結「あ……ありがとうございます……」
有瀬「あぁ、いえ……」
   結を莉子に引き渡す有瀬。有瀬に軽く会釈する莉子に、会釈を返す有瀬。向き直ると、双木の睨みにひるむ有瀬。
有瀬「すみません。右手が勝手に……」
双木「どいつもこいつも、俺の事を裏切りやがって」
   有瀬に銃を向ける双木。
遠藤の声「待ちなさい!」
   扉を開け、やってくる遠藤。
恵子「チーフ……」
双木「何だ、さっきのヤツか。何の真似だ?」
遠藤「この通りです」
   土下座する遠藤。
遠藤「私は、今日で定年退職なんです。最後の結婚式なんです。何とか無事に終わらせたいんです。どうか、せめて、別日にしていただけないでしょうか?」
守田「んな事、でぎる訳ねぇだろ」
遠藤「アンタに言ってんじゃないよ!」
   ひるむ守田。
双木「嫌なこった。ここでコイツを殺す。じゃねぇと腹の虫がおさまらねぇ」
遠藤「そんな事、させる訳にはいきません」
双木「じゃあ、代わりにテメェが死ぬか?」
遠藤「(食い気味に)構いません!」
双木「え?」
遠藤「ご新郎ご新婦様、ご親族様、出席者の皆様に危害が及ぶくらいなら、自分の身を差し出す。その覚悟でこの歳まで勤め上げてきたんです! この仕事に、命を懸けてきたんです!」
   立ち上がる遠藤。
遠藤「結婚式を守るために結婚式場で死ねるのなら、式場スタッフとして本望です!」
恵子「(頬を赤らめ)チーフ……」
美奈「(冷やかすように)あれれ……?」
遠藤「さぁ、撃つなら撃ちなさい!」
守田「じゃあ、遠慮なぐ」
遠藤「だからアンタに言ってんじゃないよ!」
   ひるむ守田。
双木「……アホらし。おっさん撃ったって意味ねぇんだよ。俺はあくまでも、俺を裏切ったあの女を許せねぇだけだ」
遠藤「だったら……」
   隠し持っていたケーキ包丁を双木に向ける遠藤。
遠藤「何としてでも止めます!」
   包丁を双木に向けめちゃくちゃに振り回す遠藤。
遠藤「うおおおおお!」
双木「おわっ、危ねっ。何だよいきなり」
   気おされ、徐々に下がっていく双木。その先にはステージ。
双木「距離さえとれば、こっちの……」
遠藤「なんの、ライスシャワー!」
   双木に向けライスシャワー用のライスを投げつける遠藤。
双木「うわっ、やめろ、バカ」
遠藤「キャンドルサービス!」
   火のついたキャンドルサービス用のトーチを双木に投げつける遠藤。
双木「危ねっ」
   トーチをよけるも、その際にバランスを崩し、床に散らばったライスに足を取られ、転倒する双木。
双木「痛っ」
遠藤「隙あり!」
   双木をステージ奥の壁に押し付ける遠藤。
双木「離せ~!」
遠藤「今です。ミュージックスタート!」
   ポップス調にアレンジされた『寿』が流れる会場。それに合わせて、ターンテーブル式にステージが動き出す。遠藤と双木が裏に姿を消す代わりに壁の裏側から姿を見せる末永と月島。
美奈「? (恵子に)あれ、誰ですか?」
恵子「(うっとりして)チーフ……」
美奈「ダメだこりゃ」
   ステージを降り、会場内を移動しながら歌い踊る末永。展開についていけず、状況が理解できず、末永にも気づかず、呆気にとられている出席者達の様子など気にも留めず、キレのない下手くそな踊りを披露する末永。

○同・同・裏
   取っ組み合いをする遠藤と双木。近くの操作盤の前には白石もいる。
遠藤「ここまで来れば、私以外の人に危害が及ぶ事はありませんよ。ざまぁみなさい」
白石「いや、俺は?」
双木「っざけんな。俺はこんな所に用は無ぇ。戻せ! 戻せ戻せ戻せ!」
   と言いながら床をけり続ける双木。
遠藤「そんな事をしても無駄ですよ……」
   再び回りだすステージ。
遠藤「あれ……?」

○同・同・中
   再び姿を見せる遠藤と双木。
   会場の中央で歌い踊る末永越しにそれを見ている出席者やスタッフ達。
結「あ、出てきた」
   ステージはそのまま回り続け、再び裏へ姿を消す遠藤と双木。
結「あ、消えた」

○同・同・裏
   操作盤の前に座る白石。
白石「あれ、おかしいな。止まんねぇぞ? 壊れたか?」

○同・同・中
   会場の中央で歌い踊る末永越しに、回り続けるターンテーブルのステージ上で、姿を見せては消えていく遠藤と双木。二人の体勢は出てくるたびに変わっていく(プロレス技をかけている状態、まるで拳法の達人同士のように互いに見合って微動だにしない状態、どう見てもじゃれ合っているようにしか見えない状態など)。
   その間にも歌い踊り続ける末永。その様子にハッとする守田。
守田「ごら、オラを無視ずんじゃねぇぞ!」
   末永に向けて発砲する守田。その瞬間、さっと間に入り、人間離れした動きで弾丸を全てキャッチする月島(その間、末永は全く動じず歌い踊る)。
守田「なっ!? オメェ、何者だ?」
月島「押忍。先生をお守りするのが自分の仕事っス」
守田「何、まだまだ。予備の弾丸なんで、まだいぐらでもあっがらな」
   予備の弾丸を装填しようとして、無い事に気付く守田。
守田「あら? どご行っだ?」
   守田の視線の先、予備の弾丸を抱えた有瀬の姿。
有瀬「すみません。右手が勝手に……」
守田「ごの野郎~!」
   その瞬間、守田を取り押さえる伊地知。その脇に立つ佳代。
伊地知「犯人、確保! ……あっ」
佳代「もしかして、公務員って……?」
伊地知「いや~、お恥ずかしい」
    ×     ×     ×
   クライマックスに差し掛かる『寿』。
   歌い踊る末永の後ろで、客席側に行こうとする双木と、ステージ側に押し戻そうとする遠藤のせめぎ合いが続く。
双木「しつけぇんだよ。いい加減諦めろ」
遠藤「諦めません!」
双木「諦めろ!」
遠藤「では、諦めます」
双木「え?」
   遠藤が急激に力を抜き、ステージ前に投げ出される双木。その先に、演出用のキャノン砲。
双木「なっ!?」
   決めポーズをとる末永の後方、キャノン砲から紙吹雪が出る。その衝撃でステージ側まで吹っ飛ばされる双木。そのまま遠藤とともにステージ裏へ。ここでようやくステージの回転が止まる。
   とりあえず拍手する出席者達。

○同・同・裏
   倒れている遠藤と双木を横目に、操作盤の前に座る白石。
白石「やっと止まった~」
遠藤「目回った~」

○同・外
   それぞれ、パトカーに乗せられていく有瀬、双木、守田。
遠藤の声「コッチは警察に引き渡したよ。会場の方はどう?」

○同・披露宴会場・中
   中に入ってくる遠藤。ステージ上で手紙を朗読している結。反対側の壁際には莉子、伊地知、佳代が立っている。
遠藤の声「新婦の手紙朗読開始、了解。花束、用意しておいてね」
結「私は、お母さんの娘に生まれて本当に幸せだよ。そして、お父さん……」
   言葉が止まる結。持っていた手紙を折りたたむ。
   恵子の元にやってくる遠藤。
遠藤「また何かあった?」
恵子「あ……いや、さぁ?」
結「お父さん。今日は、助けてくれてありがとう」
恵子「……え?」
遠藤「……まさか!?」

○同・外
   走り出すパトカー。

○パトカー・中
   後部座席に座る有瀬。その後ろの窓に、パトカーを追いかけて走る遠藤の姿。
遠藤の声「花束、もう一つ用意して!」

○結婚式場・披露宴会場・中
   有瀬を連れて駆け込んでくる遠藤。
   新郎新婦から両親への花束贈呈がまさに行われようとしている。
遠藤「ま、間に合った……」
莉子「あなた!?」
結「お父さん!?」
有瀬「結……大きくなって」
結「お父さん……何か、何から話したらいいか、わからないけどさ……」
   新庄の手を取る結。
結「お父さん。私、結婚します」
   会場から拍手が起きる。
有瀬「認めん!」
遠藤「認めろ!」
    ×     ×     ×
   花束贈呈。花束を受け取り涙する有瀬。
   会場から拍手が起きる。
蟹江の声「お疲れさまでした」

○同・エントランス
   遠藤にプリンの入った箱を渡す蟹江。
蟹江「コレ、よろしければスタッフの皆さんでどうぞ」
遠藤「すみません、ありがとうございます」
蟹江「何か、今日は大変だったみたいですね」
遠藤「いえいえ、蟹江様の時と比べれば、大したことありませんでしたよ」
   遠藤の後ろに立つ白石と美奈。
白石「これで大した事ねぇとか、どんな結婚式だったんだろうな」
美奈「でも、結婚式っていいよね~。何か、うらやましくなっちゃった」
白石「じゃあ、俺と結婚する?」
美奈「ごめんなさい」
白石「何でだよ……」

○同・外(夕)
   続々と帰る客達。皆、満足げな表情。

○車・中(夕)
   運転する月島と後部座席に座る末永。
末永「月島君、明日の予定は?」
月島「押忍。結婚式の営業が二件っス。両方とも『寿』の依頼っス」
末永「では片方はジャズバージョン、もう片方はレゲエバージョンにしましょう」
月島「押忍」

○道(夕)
   並んで歩く伊地知と佳代。佳代はスマホで通話中。
佳代「もしもし? ママ、もしかしたら結婚する事になるかもしれない」
今牧の声「わかった」

○外国の町
   スマホで通話しながら歩く今牧。
今牧「じゃあ、ママの結婚式で牧師出来るように、仕事頑張るね。うん、じゃあね」
   電話を切る今牧。
今牧「ところで、ここ、どこ?」
   周囲を歩くのは皆外国人。

○結婚式場・外(夕)
   パトカーの脇に立つ結、莉子、新庄。車内の窓から顔を見せる有瀬。
莉子「ちゃんと、罪償ってきてよ」
有瀬「あぁ」
結「それまで待ってるから」
有瀬「あぁ」
新庄「出てきたら、是非うちにも来て下さいね、お義父さん」
有瀬「君に『お義父さん』なんて言われたくないんだよ」
莉子「まったく、もう……」
結「じゃあね」
有瀬「あぁ」
   動き出すパトカー。

○同・事務所(夕)
   終礼が行われている。
   恵子、白石、美奈の他、大多数のスタッフ達の前であいさつする遠藤。
遠藤「今日も大小問題はありましたが、皆様のおかげで、無事に結婚式並びに披露宴を終える事ができました。終わり良ければ、総て良し。ありがとうございました。最後の日に、こんなにたくさんの人達に協力していただけていたんだな、と思うと、私はつくづく幸せ者だなと思います」
   延々と喋り続ける遠藤。
   後方に並んで立つ恵子、白石、美奈。
白石「にしても、スタッフってこんなにたくさん居たっけ?」
恵子「居る訳ないし」
美奈「え? じゃあこの人たち……あ、もしかして」

○人材派遣会社・オフィス(夕)
   電話を受ける咲。超笑顔。
咲「お電話ありがとうございます。サクラ専門人材派遣会社……」

○結婚式場・事務所
   恵子、白石、美奈ら大勢のスタッフ(+スタッフ役のサクラ)の前であいさつする遠藤。
遠藤「思えばこの仕事を始めてから約四半世紀、私は仕事一筋で……」
恵子「今のうちに花束用意しときな」
美奈「あの……花束、無いんですけど……」
恵子「無い訳ないし。っていうか、朝あんた持ってたし」
美奈「それが、あの……新婦のお父さん、いきなり来たじゃないですか。それで……」
恵子「え!? 花束渡しちゃったの!?」
美奈「だって、仕方ないじゃないですか」
恵子「そりゃそうだけど……。え、じゃあどうすんの?」
美奈「(ブーケを取り出し)コレじゃダメですかね?」
恵子「どうだろう?」
   遠藤の方を見る恵子と白石。
   涙ながらに演説を続ける遠藤。
遠藤「やはり、結婚式っていいな、と再認識致しました。退職後は、また四度目の結婚に向けて婚活を始めようと思います」

○遠藤の家・外観(朝)
   一軒家。

○同・中(朝)
   鏡の前でネクタイをしめる遠藤。
遠藤「……あ、そうか。もう仕事は終わったんだったな」
   ネクタイをほどく遠藤。
   インターホンが鳴る。
   玄関の扉を開ける遠藤。そこに立っている恵子。
遠藤「あれ、どうしたんだい?」
恵子「チーフ。私と、結婚して下さい」
遠藤「……え?」
   棚の上に置かれた写真立てとブーケ。写真立てに飾られた、結と新庄の結婚式で撮影された出席者とスタッフ全員が写った写真。皆、笑顔。
                 (完)

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