御用改メ アクション

北海道警察函館中央本部刑事課の新米刑事宮下総司(24)が、突然の欠員から「幽霊倶楽部」と揶揄される環境管理課へ異動になる。そこは、土方歳三(35)の亡霊とアイヌエカシ(シャーマン)の血を引く石井景子(29)が取り仕切る、超自然現象による事件・事故を専門に捜査する部署だった。総司もまた、実は神主の家系に生まれており、それを見越しての人事異動だったのだ。三人は様々なモンスターと問題に直面するが、時に助け合い、時に衝突しながら試練を乗り越え、事件を解決していく。
妙法幢 14 1 0 05/21
本棚のご利用には ログイン が必要です。

第一稿

御用改メ
「第一話 鬼の手」



【登場人物】
土方歳三(34) 亡霊。警察に捜査協力している。
宮下総司(24) 新米刑事。神主の資格を持つ。
石井景子(29) ...続きを読む
この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
 

御用改メ
「第一話 鬼の手」



【登場人物】
土方歳三(34) 亡霊。警察に捜査協力している。
宮下総司(24) 新米刑事。神主の資格を持つ。
石井景子(29) 刑事。アイヌエカシの血を引く。
山野内正明(53) 本部長。石井の元直属上司。
立花亮栄(32) 宮下の前任。身籠っていた妻を亡くし失踪中。

官軍士官
従業員
運転手
老婆
遺影の男
立花の妻

ニタッウナルペ(アイヌに伝わる山姥)



1.箱館市街(昼)
 T)1869年 蝦夷地 箱館
     絶え間なく銃弾が飛び交い、時折は砲弾さえも炸裂する中、少数の旧幕府軍が多勢の官軍を相手に奮戦している。
     騎乗の土方歳三(34)が官軍兵の一人を斬り倒す。
 土方「(周囲を見渡し)……」
    官軍兵に撃たれ、斬られ、爆裂する砲弾で吹き飛ばされていく旧幕府軍の兵士たち。
     不意に官軍の射撃が途切れる。
 土方「(前方を睨みつけ)行くぞ!! 生き飽きたやつぁ、ついて来い!(馬を出す)」
     土方が刀を振り上げ、たった一騎で官軍の群れへと突っ込んで行く。
     旧幕府軍兵も土方に気付き、雄叫びを上げながら必死に後へ続く。
     官軍の群れの奥から予備隊が現れる。
     土方は官軍兵を次々と斬り捨てながら突進を続ける。
     射撃の隊列を組む官軍予備隊。
 官軍士官「(右手を挙げ)構え!」
 土方「(馬で突進しながら)新撰組副長、土方歳三!!」
     官軍予備隊に動揺が走る。
 官軍士官「(右手を振り下ろし)う、撃てぇ!」
     官軍予備隊の銃口がどっと火を噴く。
     胸や腹に被弾する土方。仰向けに落馬する。
 土方(M)「(血の泡を吹き)なんだ? 体が動かねぇ!」
     馬が土方の脇で息絶えている。
 土方(M)「そうか。やっと死ねるか……」
     官軍兵が恐る恐る土方に近寄る。
 土方(M)「いや、まだだ!! まだ俺には……」
     土方の周囲に血溜まりが広がる。
     土方を取り囲み、恐々と顔を覗き込む官軍の兵士たち。銃の柄で土方の遺骸を小突く。
     土方は既に事切れている。
     懐中時計が土方のベストから血溜まりへ滑り落ちる。ガラスはひび割れ、一時十九分で止まっている。

2.函館市街(夕)
 T)現在 北海道 函館市
     函館山から一望する函館の街並み。

3.北海道警察函館中央本部・外観(夕)
     五稜郭公園傍の函館中央本部ビル。

4.本部長室(夕)
     宮下総司(24)がデスクに掛けた山野内正明(53)を前に直立している。
 宮下「お言葉ですが、その…… なんで自分なんでしょうか?」
 山野内「言ったろう。君が適任なんだ」
 宮下「……」
 山野内「刑事課への配属が君の念願だったことは知ってる。その夢を実現してから、まだ三か月だってことも、だ。私も数年は様子を見るつもりだった」
 宮下「環境管理課の評判は聞いてます」
 山野内「追い出し部屋だとか、窓際だとかの類だろ? それとも例の幽霊倶楽部か?」
 宮下「……」
 山野内「その両方か…… まぁ、聞け。(席を立ち)これは悪い異動じゃない。あの部署の任務は普通なら体験できない」
     山野内は宮下に歩み寄って肩を抱く。
 山野内「出世にも支障はない。前例もある」
 宮下「自分は出世のために刑事になったわけじゃありません」
 山野内「わかってる。正義のためだったな。面接では感銘を受けたよ。……とにかく急きょ人員の補充が必要なんだ。君の力を貸してくれ」
 宮下「……」
 山野内「頼む。ほとぼりが冷めたら刑事課へ戻す。約束するよ」
 宮下「……わかりました。明日からですね?」
 山野内「そうだ。すまんな」

5.函館中央本部の玄関(夜)
     仕事を終え、疲れた表情の宮下が出てくる。

6.住宅地(夜)
     帰宅途中の宮下が、ひと気のない大通りを歩いている。
 宮下「……(ため息を吐く)」
     街角を曲がる宮下。いきなり誰かにぶつかる。
 宮下「あ、すみませ……」
     ゆっくりと宮下に振り返るニタッウナルペ。牙を剥いて低く唸る。
 宮下「(ぎょっとして)あ……」
     突然、ニタッウナルペが片手で宮下の首を鷲掴みにして高く持ち上げる。
 宮下「う……」
     宙に浮く宮下の足。
     宮下を吟味するニタッウナルペ。長い舌を舐めずり、耳まで裂ける大口を開く。
 宮下「ううっ!(必死にもがく)」
 土方(声)「年増ってのはホントに若けぇのが好きだな」
     ニタッウナルペと宮下が傍らへ目を向ける。
     土方歳三が宮下たちのすぐ脇に立っている。
     土方に向かって咆哮するニタッウナルペ。
     土方は刀の柄に手を掛けるや、宮下を掴んでいるニタッウナルペの手首を抜き打ちに切断する。
     路上に尻餅をつく宮下。
     ニタッウナルペが腕を押さえ、悲鳴を上げながら遁走する。
     宮下は急いでニタッウナルペの手首を首から外し、傍らに投げ捨てる。
 土方「(宮下を見下ろし)無事で何よりだ」
     土方がニタッウナルペを追って駆け出していく。
 宮下「(呆然と土方を見送り)……」
     ニタッウナルペの手首が宮下の傍らで痙攣する。
 宮下「!(後ずさりする)」
     石井景子(29)が駆けつける。
 石井「だいじょぶ?」
     石井は全く無造作にニタッウナルペの手首を拾い上げる。
 宮下「(石井を見上げ)……」
 石井「今、ここで何かを見たなら、すぐに忘れたほうがいい。それがあなたのためだし、誰に言っても信じやしないから」
 宮下「あ、いや……」
     走り去る石井。土方の後を追う。
 宮下「(呆然自失で)……」

7.アパートの寝室(早朝)
     宮下が一人、ベッドで熟睡している。
 SE)目覚まし時計のアラーム
     鬱陶しそうに目を覚ます宮下。枕元の目覚まし時計のスイッチを切ると、のそのそと起床する。

8.アパートの洗面所(早朝)
     寝ぼけ眼でやってくる宮下。蛇口に手を伸ばし、顔を洗い始める。
 宮下「(ふと鏡を見つめ)……?」
     宮下は水を止めると、顎を上げて鏡で首を見る。
 宮下「!」
     宮下の咽喉元にくっきりと残るニタッウナルペの爪痕。
 宮下「(青ざめて)嘘だろ……」

9.函館中央本部の廊下(朝)
     宮下は行き交う職員を尻目に建物の奥へと向かって足早に歩いている。
 宮下「(ぶつぶつと)こっちを見るな。見るんじゃない……」
     宮下は仄暗い下り階段に突き当たって立ち止まる。
 宮下「オフィスが地下なんて、X‐ファイルかよ」

10.函館中央本部の廊下②(朝)
     階段を宮下が降りてくると、蛍光灯に照らされた廊下が続いている。
 宮下「使わない備品と同じ扱いだな、こりゃ」
     宮下は廊下の先へ進む。
 宮下「(足元に気付き)?」
     小皿に盛った清め塩が左右の端に置かれた扉がある。
 宮下「……(視線を上げる)」
     扉には環境管理課のネームプレート。
 宮下「(ぼそっと)幽霊倶楽部……か」

11.環境管理課(朝)
     小窓しかない小部屋に三つのデスクが向かい合わせで並び、その一つで石井が古いラップトップに向かって稟議書を作成している。
 SE)ドアのノック
 石井「どうぞ。開いてる」
 宮下「(ドアを開けて入室し)失礼します」
     宮下と石井の目が合う。
 宮下「あ……昨日の!」
 石井「どっかで会った? まぁ、そこ座って」
     宮下は石井の向かいへ腰を下ろす。
 土方(声)「お前が宮下総司だったか」
     いつの間にか、土方が奥の席に座っている。
 宮下「(土方に気付き)?!」
     宮下は椅子から落ちそうになる。
 土方「そう慌てんな。取って喰いやしねぇよ」
 宮下「いつの間に……?」
 石井「ずっといた。あんたが気付かなかっただけ。あたしは石井景子。ここの主任」
 宮下「は、初めまして」
 石井「……で、これが土方歳三。昨日、もう会ってんだよね?」
 土方「まぁな」
 宮下「(凍りつき)……」
 石井「先に言っとく。これは扮装でもコスプレでもない。正真正銘の土方歳三だから」
 宮下「……(まじまじと二人の顔を見る)」
 土方「おけい、こいつ大丈夫か?」
 石井「(ため息を吐き)しょうがないな……」
     石井が紙袋からニタッウナルペの手首を取出し、宮下の机の上に置く。
 宮下「!!(椅子から転げ落ちる)」
 石井「環境管理課は超自然現象による事件事故を扱ってる。普通の捜査方式じゃ通用しないから、これに手伝ってもらってるってわけ」
 土方「人を物みたいに言うな」
 石井「人じゃない。亡霊でしょ。あたし、上に稟議書上げなきゃいけないから、この子に説明してあげて。色々と」
 土方「全く、人使いの荒い……」
 石井「人じゃない。いい?」
 宮下「(唖然と二人のやり取りを眺め)……」
 土方「ちょっと待て。俺には、ちゃんと脚があるだろ」
 石井「影もなきゃ、鏡にも映んないでしょうが。そもそも見える人にしか見えないんだし」

12.本部長室(昼)
     デスク周りを片付ける山野内。石井はドアの脇で壁に寄り掛かり、腕組みをして山野内の様子を見ている。
 石井「稟議書より先に人事が進むって、おかしいんじゃない? 山野内本部長」
 山野内「立花が失踪して何日経つ? 人手が足りなくて困るのは、お前だぞ」
 石井「土方さんがいる」
 山野内「あいつは捜査要員じゃない。特殊部隊みたいなもんだ」
 石井「過小評価してません? 長い間、一緒にやってきたって聞いてますけど?」
 山野内「だからだよ。宮下は、どうしてる?」
 石井「飲み込みは早いみたい。仲良くやってる」
     山野内は立ち上がると、ポールスタンドに向かう。
 山野内「抵抗があるのは最初だけだろう。宮下の実家は神社だし、本人も神主の資格を持ってる。継ぐ気はないらしいが」
 石井「初めから目をつけてたんですね」
 山野内「(コートに袖を通しながら)刑事として一人前になってからと思ってたんだが、こうなったら仕方ない」
 石井「あの子、あの様子だと今までも色々見てきてる。隠してるけど」
 山野内「かもな。(帽子を被り)すまない。もう出なきゃならん。医大で打ち合わせだ」
 山野内はドアを開け、石井を先に通す。
 石井「いってらっしゃい」
 山野内「しっかり教育してやってくれ。俺が、お前にしたように」
     部屋を出る山野内。ドアを閉める。

13.書庫(昼)
     真っ暗な室内。宮下がドアを開けて入ってくると、土方が壁のスイッチで点灯する。
 宮下「(目を見張り)わ……」
     部屋の四方には、ぎっしりと古書が詰め込まれた本棚。中央には古いデスクトップの置かれた机がある。
 土方「書庫だ。今までの事件は全部その箱ん中に綴ってある。化けもんのこともな」
 宮下「パソコンのこと言ってます?」
 土方「使ってたのは山野内と立花ぐらいだ。おけいは書物のほうを読んでる」
 宮下「山野内って本部長……ですよね?」
 土方「他に誰がいる?」
 宮下「立花さんっていうのは?」
 土方「お前の前任だよ。行方知れずになっちまってな」
     宮下が机の端に伏せてある小さな写真立てに気付き、拾い上げる。
 宮下「(写真を眺め)……」
     立花亮栄(32)と妻との仲睦まじい写真。
 土方「そいつだ。横にいるのが嫁さん」
 宮下「きれいな方ですね」
 土方「身ごもってたんだそうだ。それを亡くしちまったのさ。ひどい事故でね」
     宮下は写真立てを机に上に戻す。
 宮下「なんとなく話が見えてきました。ところで、これ触ってもいいですか?」
 土方「好きにしろ。もう、お前のもんだ」
     宮下は席に着き、パソコンを起動させる。
 宮下「土方さんは、いつからこの仕事してるんです?」
 土方「ここが、まだ邏卒本営って呼ばれてた頃だ。妙な坊主に捕まっちまってな。以来、この様だ。おけいに呼ばれなきゃ外にも出られねぇ」
 宮下「嫌なんですか?」
 土方「今は、そうでもねぇよ。昔は負け犬の気分だったけどな」
     パソコンにパスワード入力画面が表示される。
 宮下「パスワード知ってます?」
 土方「合言葉か。カテバカングンだ」
 宮下「なるほど」
     宮下がパスワードを入力すると、パソコンが立ち上がり、怪現象捜査専用ソフトの画面が現れる。
 土方「やるじゃねぇか、総司」
 宮下「まだ何もしてません。これに特徴とか、目撃された場所を打ち込めば、自動検索されるんですね? その……」
 土方「化けもんが、な」
     宮下は滑らかにキーボードで入力していき、とどめにリターンキーを押す。
 土方「お前も、あれか。オタクってやつか?」
     検索中のパソコン画面がニタッウナルペの画像や動画。そして、詳細な説明文へと切り替わる。
 宮下「ニタッウナルペ」
 土方「昨日、追ってたやつだ」
 宮下「(モニターに顔を寄せ、説明文を読み上げ)湿地に住む山姥。猟師が捕らえた獲物を隠したり、逃がしたりする。人を惑わし、山野で負傷者や睡眠をとる猟師などの生き血を吸う。生き血と引き換えに妊婦を難産から救うこともある」
 土方「付け加えといてくれ。逃げ足が速い」
 宮下「何をしたんです?」
 土方「三人の男を喰った。このひと月で」

14.環境管理課(夕)
     机の上を整理する石井。その傍らに宮下と土方が立っている。
 石井「(書類をまとめ上げ)ひと通りレクチャーは済んだってわけだ。で、あんたは納得できたの?」
 宮下「ずっと自分で否定し続けてたんです」
     ×    ×    ×
 宮下(M)「僕には見えるのに、みんなには見えないものの存在を」
     ベッドに横たわり、うなされている宮下(6)が目を覚ます。
     布団の上から覆い被さった老婆が宮下を見つめている。
     ×    ×    ×
 宮下(M)「夢なんだ。幻覚なんだって」
     葬式に参列し、遺影を眺めている宮下(16)。肩に手が置かれて振り向く。
     遺影の男が傍らで宮下を見つめている。
     ×    ×    ×
 土方「ここじゃ、お前のその力が必要だ」
 石井「そういうこと」
 宮下「捜査の現状を教えて下さい」
 石井「現場付近の谷地頭って地名でわかると思うけど、昔、あの一帯は湿地だった。ついこの間、残ってた唯一の沼が埋め立てられてね。新しい商業施設を建てるとかで」
 宮下「知ってます。近所に住んでるんで」
 石井「犠牲者は三人とも、その建設作業員。だから表向きは作業中の事故ってことにしてる」
 宮下「どうやって?」
 石井「うちらの事情を知ってる検視官もいる」
 土方「張り込んで尾っぽを掴んだのが昨日だ。人を襲ったのは、腹が減ってたっていうより家を追い出された怨みだろうよ」
 宮下「次にどうするかですね。今は相手も警戒してる」
 土方「おびき出しゃいい」
 石井「羅城門の鬼は七日後に腕を取り返しにくるけど、実際はもっと必死なんじゃない?(不敵な笑みを浮かべる)」
 宮下「はい?」

15.ファーストフード店内(夜)
     宮下と石井が従業員の待つカウンターを前にして立っている。
 石井「奢ってあげる」
 宮下「いいですよ。そんな……」
 石井「今日だけ。うまいんだから。ここのジンギスカンバーガー。ねぇ?」
 従業員「ありがとうございます」
 宮下「じゃ、お言葉に甘えて」
 石井「セット二つね。テイクアウトで」
 従業員「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
     従業員はキッチンの奥へ入る。
 宮下「石井さんは、いつ環境管理課に配属されたんですか?」
 石井「五、六年前」
 宮下「希望したんですか?」
 石井「山野内さんに引っ張られた。祖父がアイヌエカシでね。あたしは、そのシャーマンの血を引いてる。実家が神社で神主の資格を持ってるあんたと似たようなもん」
 宮下「そうなんですか。立花さんは……」
 石井「(話をさえぎり)あんた、銃は?」
     石井が上着のポケットに手を突っ込む。
 宮下「あんまり……得意じゃないです」
 石井「9㎜でしょ? 明日、銀のやつ渡すから全部交換しといて」
 宮下「銀のやつ?」
 石井「あいつら鉛じゃこたえなくてね。知り合いの牧師に別注してんの。銀の弾」
 宮下「は、はぁ」
 石井「そうだ! あんた、お神酒作れるんじゃない? 聖水と塩の他にも装備品が欲しくて」
 宮下「祈祷ならできますけど……」
 石井「じゃ、明日持ってくる。お酒」
     紙袋を二つ持った従業員がキッチンの奥から出てくる。
 従業員「お待たせいたしました」
 石井「どうも(片手で紙袋を受け取る)あ、あれも頼めばよかったんじゃない?(顎をしゃくる)」
     宮下が釣られて一瞬のよそ見をする。
     石井は上着のポケットからニタッウナルペの手首を取り出すと、素早く紙袋の一つへ入れる。
 宮下「そんなに食べられませんよ」
 石井「そう? じゃ、お勘定」

16.ファーストフード店の玄関(夜)
     宮下と石井が店内から出てきて立ち止まる。
 石井「はい、これ(紙袋の一つを差し出す)」
 宮下「(紙袋を受け取り)ごちそうさまです」
 石井「じゃあね。お疲れ」
 宮下「お疲れ様です」
     宮下と石井が解散し、二手に分かれて立ち去る。
     物陰に潜むニタッウナルペ。二人の様子をじっと窺っている。

17.アパートの玄関(夜)
 SE)鍵を開ける音
     ドアを開けて入ってくる宮下。壁のスイッチで点灯し、靴を脱いで上がる。

18.アパートのリビング(夜)
     廊下で壁のスイッチを使って灯りを点ける宮下。カーテンを開け放ったままの部屋に入ってくるや、紙袋をテーブルに置いてソファへ腰を下ろす。
 宮下「(一息吐き)……」
     ニタッウナルペの影が窓の外を素早く横切る。
 宮下「?(窓を横目で見る)」
     窓の外は何の変哲もない。
 SE)紙袋が擦れる音
 宮下「(紙袋を見て)喰うか……」
     宮下は紙袋を手に取ると、開いて中をのぞき込む。
 宮下「うわっ!!(袋を投げ捨てる)」
     テーブルに散らばるファーストフードに混じってニタッウナルペの手首が出てくる。
 宮下「(呆然と手首を眺め)……」
     おもむろに指を動かすニッタウナルペの手首。
 SE)激しいドアノック
     びくっとする宮下。恐々と玄関のほうを見る。

19.アパートの玄関(夜)
 SE)激しいドアノック
     宮下は忍び足で廊下を経ると、恐る恐るドアの魚眼レンズをのぞく。
     ドアの向こうに石井が立っている。
宮下「(鍵を外し、ドアを開け)石井さん!」
石井「どいて、どいて」
     宮下を押し退け、土足で上がり込んでくる石井。
宮下「(石井の後を追い)ちょ、ちょっと! なんのいたずらなんですか、これ!!」

20.アパートのリビング(夜)
     石井が部屋に足を踏み入れるや、急に立ち止まり、宮下はぶつかり損ねる。
 石井「(窓を凝視し)あいつは男しか襲わない」
     窓越しにバルコニーで立っているニタッウナルペ。負傷した腕を押さえ、身構えている。
 宮下「(事態に気付き)僕をおとりに使ったんですか?!」
 石井「言ったらやんなかったでしょ? 来るよ!」
     ニタッウナルペが窓を突き破って飛び込んでくる。
     石井はニタッウナルペにカウンターパンチをお見舞いするが、全く効果がない。
 石井「?!(僅かに怯む)」
     ニタッウナルペが石井の襟首を掴んで投げ飛ばす。
     宙を舞う石井。壁に激突し、テレビ台の上へ落ちる。
     宮下は近くの椅子を振り上げ、ニタッウナルペの背後から打ち下ろす。
     物ともしないニタッウナルペ。おもむろに振り返ると、宮下を睨みつける。
 宮下「(狼狽し)……」
     ニタッウナルペは負傷した腕で宮下を払い飛ばす。
     宮下も壁に激突するが、落ちるのはベッドの上。
     ニタッウナルペがテーブルに近付き、自分の手首を拾い上げる。
 石井「(息を吹き返し)……」
     手首と腕の傷口を合わせるニタッウナルペ。
     ニタッウナルペの腕が、たちまち元通りにつながる。
     ニタッウナルペは大きく咆哮する。
 宮下「……まずい」
     ニタッウナルペが宮下に振り向き、涎を垂らしながら低く唸る。
 宮下「やっぱ、僕?」
     一歩一歩踏みしめるように宮下に近付いてくるニタッウナルペ。
     石井が上着の内ポケットから懐中時計を取り出すと、胸元で握り締める。
 石井「(目を瞑り)……」
     ニタッウナルペは宮下の前で立ち止まり、ゆっくりと口を大きく開ける。
     ニタッウナルペの牙が宮下の眼前に迫る。
     ―と、刀の先がニタッウナルペの横面に突き出される。
 ニタッウナルペ「(刀に気付き)!?」
     刀を構えた土方がニタッウナルペの背後に立っている。
 土方「御用改めだ。神妙にしやがれ」
 宮下「土方さん!」
 ニタッウナルペ「(動きを止め)……」
     ニタッウナルペの爪が密かに伸びる。
 土方「大人しくしてりゃ、斬らずに成仏させてやる」
     不意にニタッウナルペが刀を払い除け、土方に飛びかかる。
     土方とニタッウナルペの乱闘。両者は負傷しながら一進一退を繰り返す。
     土方とニタッウナルペの攻防の度にインテリアが破壊され、壁や床や天井が破損していく。
     ニタッウナルペが、じわじわと土方を壁際へ追い詰める。
 石井「くっ……(半身を起こす)」
     立ち上がれない石井。足裏でニタッウナルペの膝脇を蹴りつける。
     怯むニタッウナルペ。
     その刹那、土方が横一線にニタッウナルペの首を刎ね上げる。
     ニタッウナルペの首は宮下の膝の上に飛び、宮下を睨んで咆哮する。
 宮下「うわっ!!(首を放り投げる)」
     土方がニタッウナルペの首を宙で唐竹割りにする。
     首が床に落ちると同時にニタッウナルペの遺骸は煙を上げて液状化する。
 土方「(刀を鞘へ納め)帰るぜ」
     土方は歩いて部屋を後にする。

21.アパート・外観(夜)
     突然、宮下の部屋のドアがひとりでに開閉する。まるで誰かが出てきたように……
 SE)遠くに響くパトカーのサイレン
     野次馬が周囲に集まり始めている。

22.環境管理課(昼)
     石井が、どぶろくの大瓶を宮下の机の上に突き出す。
 石井「はい、お願い」
 宮下「どぶろくが、いいんですか? お神酒って」
 土方「そりゃ、お前……」
 石井「別に。あたしが好きなだけ」
 宮下「(あきれて)……」
 石井「なんか文句あるわけ?」
 宮下「い、いえ」
 土方「初仕事にしちゃ災難だったな、総司」
 宮下「最悪です」
 石井「いいじゃない。案件は終了。補修費用も署が出すんだし」
 宮下「そういうことじゃありません」
 土方「立ち退かなくてもいいんだろ?」
 宮下「ええ、まぁ……(土方をじっと見つめる)」
 土方「なんだ?」
 宮下「あの時計で呼べば来てくれるんですね?」
 土方「声が届くだけだ。行くか行かねぇかは俺が決める」
 宮下「は⁈」
 石井「来たって三分間しかいられない」
 宮下「え⁈」
 土方「そんなこたぁねぇだろ」
 石井「でも、帰るのも気分次第なのは確か」
 宮下「マジですか……」

23.国道(夜)
     深い森林を通る広い一本道を一台の大型トラックが高速で走っている。

24.トラックの運転席(夜)
 SE)ラジオから高音で流れる音楽
     運転手は鼻歌交じりで運転している。
     不意に立花亮栄がふらふらとトラックの前へ飛び出す。
 運転手「!!」
     咄嗟にブレーキを踏み、ハンドルを切る運転手。

25.国道(夜)
     トラックは、すんでのところで立花をかわすが、道から大きく外れ、大木に激突する。
     立ち止まる立花。トラックのほうを僅かに振り向く。
     トラックのフロントガラスはひび割れ、運転手がダッシュボードでしぼんだエアバッグに突っ伏している。
 立花「(全くの無表情で)……」
 SE)大破したトラックから漏れ聞こえるラジオの音楽
    再び歩き出す立花。道路脇の森の中へと姿を消していく。

                                    【続く】

この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
本棚のご利用には ログイン が必要です。

コメント

  • まだコメントが投稿されていません。
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。