透明な 舞台

偶然集まった見ず知らずの5人。 この世界で出会うはずのなかった彼ら5人に突きつけられたのは、無機質で「平等」な現実だった。 渦巻く羨望。嫉妬。虚勢。諦観。 いつしか無自覚に背負わされた「価値」という名の枷。 そして彼らは、目を瞑る。
やこう かい 292 0 0 03/21
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第一稿

透明な
【登場人物】

青年/路上ミュージシャン :嫉妬。何もない自分に嫌気がさし、ラジオから流れる音楽を聴いては羨む日々を過ごした。目指すべき自己を見失っていた。

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透明な
【登場人物】

青年/路上ミュージシャン :嫉妬。何もない自分に嫌気がさし、ラジオから流れる音楽を聴いては羨む日々を過ごした。目指すべき自己を見失っていた。

バンギャ/ヤンキーガール :遮蔽。認めてもらえない自分自身。他人に同化して生きたフリをしなければならない苦痛に耐えられず、攻撃することで心を閉ざした。

エリートメガネ/オタクボーイ :虚栄心。自分が正しいと信じて疑わない。しかしそれは本当は臆病な自分を守るための手段だった。

ノイローゼOL/鬼の女教師 :諦観。割り切って社会に順応している。へらへらと過ごすことで、その反動が私生活に出る。たまごっちを育てることに生きがいを感じている。

謎の女(職業:女優) :長いこと停車場にいる。幸せに前世を生きたが、停車場に現れる若者たちを見るうち、これでよかったのかと思うようになった。

駅員/ニュースキャスター :笑顔で丁寧な対応。どこかAIのような不気味さを漂わせる。




【0】

ゆっくり明転

舞台上には秩序立って並んだ箱型のいすが置かれている。

夕方。

ラジオの音声が流れる。

男 :ただいまの時刻をお知らせします、【開演時刻:二回繰り返す】。えー、それでは、続けてまいりましょう。次にお送りいたしますのはこの一曲・・・

♪~ fly

メガネをかけたスーツの男が乗ってくる。
周りを見渡しながら窓際に立つ。しきりに懐中時計を見る。

新聞を読みながら謎の女が隣の車両から移動して入ってくる。
背を向けて端の席に座る。気にせず新聞を読んでいる。左腕には古びた時計が鈍い光を放っている。

パンキーな見た目の女がつまらなそうに乗ってくる。
派手にデコったガラケーをいじっている。足を伸ばしていることをエリートに注意されるが、無視する。途中で飽きて周りを見ては、またいじりだす。

疲れた顔のOLがフラフラと乗ってくる。
手には小さな機械のようなものを持っており、食い入るように見つめている。不審そうに見るエリートをよそに崩れ落ちるように端の席に座る。

青年は一人で電車に乗ってくる。
ヘッドホンでラジオを聴きながらぼーっと虚空を見つめている。
傍らにはギターケースが置いてある。


列車は五人を乗せて走っている。徐々に速度が遅くなり、日が暮れてくる。
流れていた音楽が崩壊していく。
青年、バンギャ、エリート、OLの四人は不思議そうな顔で顔を上げる。
アナウンスが入る。


駅員 :終点、宵の停車場。宵の停車場。お忘れ物のございませんよう、お気をつけください。本日は、定期列車生命線をご利用いただき、まことにー


歪んだ音がプツリと途切れる。

暗転

たまごっちの通知が響く。



【1】

明転

青年、ふと我に返り、周りを見渡す。待合室にいる四人は上を見上げている。

エリート:で、だからその音を消せと何度言ったらわかるんだ。
バンギャ:あ?関係ないっしょ。
エリート:関係ある。
バンギャ:あ?
エリート:気が散るんだよ、こっちは時報が鳴るのを待ってるんだ。余計な音を鳴らすな。
バンギャ:じほお?
青年 :あの、すいません、ここって
エリート:お前、時報も知らないのか。世間知らずはこれだから
バンギャ:関係ないっしょ。
エリート:関係あるね。他人様に迷惑をかけちゃいけないってことくらい学んでもらわないと、周りの奴が迷惑するんだ
OL :ぶつぶつ
青年 :あ、あの
バンギャ:るせぇな
エリート:言っとくがうるさいのはお前だぞ、さっきからなんども鳴らして、少しは申し訳ないと思わないのか
青年 :えーっと、ん、ん
バンギャ:だから
エリート:だいたい、そんな見た目で
バンギャ:え、なに??(強眼)
エリート:え、あ・・・いや??
OL :ぶつぶつ
青年 :あのー!
バンギャ:うるせえな!なんだよ
青年 :え?!
バンギャ:さっきからあのあのあのあの言いたいことあんならさっさと言えば!
青年 :えっごめんなさい、あ、うるせえなって俺のこと(だったんだ)
バンギャ:でなに
青年 :あ、いや、これは、なんの集まりなのかなと思って
バンギャ:あーね
青年 :あーね???
エリート:お前、乗車券は?
青年 :乗車券・・・?いえ。電車でも乗るんですか?
エリート:ああ、なら心配しなくてももうすぐ駅員が来るだろうよ
青年 :駅員、ってことは、ここはどこかの駅、なんですか
エリート:まあ
青年 :まあ?
エリート:まあ、間違ってはいないな
青年 :はあ

エリート:で、なんの話だっけ
バンギャ:忘れたんなら大事な話じゃないんじゃね
エリート:あっお前のケータイの音だよ!消せ、今すぐにだ
青年 :あの
バンギャ:うるせえな
青年 :あっごめんなさい!
エリート:なんだその態度は
青年 :みなさん電車に乗られるんですか
バンギャ:関係ねえだろ
青年 :ほんとにごめんなさい
エリート:迷惑してると言ってるんだ
青年 :ごめんなさい・・・
バンギャ:あんたさっきから何に謝ってんの?
青年 :へ?
エリート:は?
バンギャ:は???で、なんだっけ、電車?
青年 :あっそうです、電車。さっき乗車券って言ってたから。
バンギャ:あー。まあ、そうなんじゃね
青年 :知らないんですか
エリート:俺たちもまだ詳しくは知らない
青年 :へえ・・・あ、あの、お二人はお知り合いなんですか?
エリ・バ:知らねえよこんなやつ
エリ・バ:は?
青年 :はは・・・そうなんだ
OL :ぶつぶつ
エリート:とにかく、もうすぐ駅員が来るから、お前は質問に答えればいいだけだ。その辺に座って待ってろ。
青年 :質問、ですか。
エリート:乗車券の発行に必要なんだ。
青年 :え、それなんか答えられないとまずいこととかあります?何聞かれるんですか
エリート:まあ色々・・・名前とか職業とか
青年 :ああ
エリート:年収とか預金とか、
青年 :ん?
エリート:あと社会適合率とかどれだけ良い行いをしたかっていう善行係数とか
青年 :ンンン??
エリート:最後の方は質問じゃなくて勝手に計算されるけど、まあそんなところだ。
青年 :え、それが乗車券の発行に必要なんですか・・・?
エリート:ああ。答えられない質問が多いほど乗車券のランクは下がり、お前の人間としての価値は下等と判断される。
青年 :スケールデカすぎません?
エリート:そりゃそうだろ
青年 :そうなんだ
エリート:高いに越したことはないぞ
青年 :へえ。あ、ファーストクラス的な?アイスがついてくるとか?
エリート:なわけないだろ
青年 :そうなんだ・・・

沈黙。
たまごっちの通知が響く。
すぐさま食ってかかろうとするエリート

バンギャ:うるせえな
エリート:は!?
バンギャ:あ?
エリート:お前もうるさいと思ってんならどうにかしろよ
バンギャ:無理に決まってんだろ
エリート:なんでだよ!
OL :ああぁああ!
三人 :・・・
エリート:お前だろ、(小声)
バンギャ:は?ちげーよ(小声)
青年 :あの〜
二人 :うるせえよ!
青年 :えっごめんなさい!あ、なんか、ごめんなさい
バンギャ:なんだよ(何かまだちょっと小声)
青年 :いやあの、結局これ何の集まりなのかなって気になっちゃって、みなさん電車乗ってどこ行くんですか
エリート:来世だよ。
青年 :ライセ?
バンギャ:らーいせ
青年 :・・・あ、ライトセーバー?
バンギャ:そうとも言う!
エリート:言わねえよ
青年 :じゃあ何なんですか(怒)
エリート:そのままだよ。次の人生の、来世
青年 :へえ。・・・え?現世は?
エリート:もう終わったんだよ
青年 :終わった。・・・終わった?
バンギャ:そ
青年 :世界がですか?
バンギャ:お前がだよ
青年 :あ俺か。てことはつまり、俺は死んだってことですかね
バンギャ:正解!
青年 :なるほど。
エリート:意外とすんなりいったな
青年 :俺死んだのか。ふ
バンギャ:笑ってる・・・?
青年 :あれでもちょっと待ってください、さっきなんて言いましたっけ。質問に答えられなかったら、俺の価値は認められなくて、乗車券のランクが下がるし、その乗車券の行き先は、来世?
エリート:ああ。
青年 :・・・あれ、これ夢??
バンギャ:そのリアクションちょっと遅くね?
青年 :これ絶対乗らないといけないんですか
エリート:ずっとここにいたいなら話は別だが
青年 :・・・そんなの
駅員 :お客様。
青年 :わあびっくりしたあ
駅員 :お客様。ご利用、誠にありがとうございます。
青年 :あ、はい、あ?あ!この人、駅員さん、
駅員 :乗車券の発行はお済みですか?
青年 :乗車券、いえ。まだ
駅員 かしこまりました。ではこちらで発行いたしますので、お手続きの方させていた だいてもよろしいですか?
青年 :あ、はい。
駅員 :それでは、ご案内いたします。

下手側の構造物の中に入っていく駅員。受付デスクのようになっている。

駅員 :では乗車券発行にあたりまして、お客様にいくつかの質問に答えていただきます。よろしいですか?
青年 :はい
駅員 :ではまず、お客様のお名前をどうぞ。
青年 :ええと、・・・あれ?
駅員 :覚えていらっしゃらないということでよろしいですね。
青年 :え、あれ
駅員 :基礎ポイント、加点、0。年齢をどうぞ。
青年 :えっ・・・と
駅員 :加点、0。ご職業をどうぞ。
青年 :あー
駅員 :加点、0。総合基礎ポイント、0。よって、質問を終了します。
青年 :え。
駅員 :以上より、社会適合率・・・(ジロジロ)3%。
青年 :さん!?
駅員 :では続きまして、善行係数の計算を行います。
青年 :あの、
駅員 :お客様の善行係数は、4。
青年 :よん
駅員 :こちら明細になりますのでご確認ください。
青年 :はあ、どうも
駅員 :最後に、持ち物検査をさせていただきます。お客様の持ち込み物は、そちらのラジオと、こちらのギターケースでよろしいですね。
青年 :あー
駅員 :持ち込み物ラジオ、ギター。以上二点。
青年 :聞く気あります?
駅員  :それではお客様の合計得点がそちらになりますので、黒い切符になります。どうぞ。列車の発車時刻まで失くさずにお持ちください。より良い切符でより善い来世を。ご利用、ありがとうございます。
青年 :え、あ・・・。

手元に残った乗車券を見つめる青年。
たまごっちの通知が響く。

エリート:だから、その音を消せと

歪んだ時報が響く。

エリート:あ。
駅員 :時刻をお知らせします。午後8時。午後8時。
エリート:やっぱり・・・
駅員 :それではみなさま、お手元の乗車券を確認の上、発車時刻までお待ちください。

駅員、はける。

青年 :・・・

青年、端の椅子に座理、乗車券を見つめる。

バンギャ:あ、おそろじゃん
青年 :え
バンギャ:おそろ
青年 :・・・ああ、これ。あのこれなんなんですかね、乗車券って。
バンギャ:知らね
青年 :はあ
バンギャ:みんないろちなんだよね。黒いの、あんたとあたしだけ。
エリート:黒・・・?お前、黒切符だったのか
青年 :黒、切符、です。
エリート:ふん
青年 :なんですか
エリート:どこまで覚えてる
青年 :え、何を
エリート:前世のことだよ
青年 :前世・・・まあ、ほぼ何も、覚えてない、ですかね。
エリート:ぼんやり生きてるからそうなるんだ。せいぜい来世はいい人生送れるといいな
青年 :いい、人生
バンギャ:うわー、偉そ。
青年 :ここは、どこなんですか。
エリート:そんなに知りたいか。名前なんて知っても何も変わらんがな。ここは通称
バンギャ:宵の停車場
青年 :よい、の、停車場、
エリート:(目)・・・ここは宵の停車場。ここに集まるのは
バンギャ:次の生を待つ死者の魂
エリート:おい
バンギャ:何?さっきそこのおねーさんに聞いた話、そのまま話してるだけじゃん。エラソーにすんなよ。ムカつく。
エリート:ふん。知りたいと言われたから教えただけだろ。黒切符だからって僻むなよ。見苦しいぞ。
バンギャ:別に誰もひがんでねーよ
エリート:そりゃよかった。ま、せいぜい自分の発車時刻を間違えないようにするんだな。
バンギャ:ふん
青年 :発車時刻
エリート:そこに書いてあるだろ
青年 :ああ、これ・・・あ、でも俺時計、
エリート:時報がある。気にしていれば逃すことはないだろ。
青年 :ああ。時報か・・・










【2】

♪〜
場転。停車場のものをいじる4人。持て余した時間を空費していく。OLの動きがおかしい。

エリート:与えられた乗車券、無機質な時報、時の流れは止まったまま・・・
バンギャ:何そのダサポエム
エリート:・・・

たまごっちの通知が立て続けに響く。

エリート:だから、その音
OL :ああああああああああ
3人 :!?
OL :ああ、あああ・・・
青年 :え・・・?びびった・・・
バンギャ:なに・・・?
エリート:わかんない、わかんない
OL :いい加減にして、いい加減にしてよ・・・
バンギャ:何なの、この人
エリート:お、おい、やっぱりお前が音を消さないから

たまごっちの通知が響く。

エリート:ん??(振り向く)
OL :ほらああああああ
エリート:お前か!!!
OL :あんたのせいよ
エリート:え、俺?
OL :そうよあんたよ、あんたが「流れが止まる」なんて言ったから
エリート:俺そんなこと言ったか?
2人 :(さあ、のジェスチャー)
OL :ああ、可愛いシゲル、どうして、ああ、あんたのせいで、あんたのせいで・・・
エリート:え、なにシゲル・・・? 
OL :流れなくなっちゃったのよ、
青年 :流れない?
バンギャ:何が

沈黙が流れる

OL :うんち
バンギャ:は?
エリート:え、(=今の俺の聞き間違い?)
青年 :いや・・・
OL :うんち流れなくなっちゃったの
青年 :多分聞き間違いじゃないと思います
OL :そもそも、ここにきてからおかしいのよ、何度ご飯をあげてもお腹が空いたと鳴いてくるし、遊んであげても寂しそう、挙句に・・・挙句にうんちまで流れないなんて
バンギャ:はっ・・!たまごっち!
OL :正解!
青年 :これはなんのゲーム?
エリート:なんだ、たまごっち、って
青年 :え
バンギャ:あんたたまごっちも知らないの、やば
エリート:・・・いや???
OL :許さない・・・
エリート:ええ・・・
バンギャ:まあ、流石にたまごっち知らないのは、ヤバっしょ。ね、おそろ?
青年 :・・・あ、俺
バンギャ:オメーだよ
青年 :あ、うん、ヤバ、だと思います、
エリート:ヤバ・・・???
バンギャ:で、何の話だったっけ
OL :私の、シゲルの、うんt
バンギャ:うん、そうだった!
青年 :壊れちゃった、んですかね
エリート:シゲル?
OL :うんち?
バンギャ:バカかよ
青年 :たまごっちです・・・
バンギャ:でも、動いてはいるんでしょ。何だろ、
エリート:動いてるなら電池切れではないな。貸してみろ
エリート:(渡されるが、ハッとした顔で突き出す)
バンギャ:えなに?
エリート:ボタンが三つしかない!
バンギャ:そりゃそうだろ
OL :たまごっちだもの
バンギャ:何したかったの
エリート:いや、本体設定とか、あるかなって、もごもご
OL :本体設定なんてないわ。時計設定ならあるけど・・・え
バンギャ:どしたの
OL :動いてない
青年 :え?
OL :時計が、動いてない・・・おかしい、!こんな風になった事、買ってから一度もなかったのに・・・シンゾウ、ヨシヒコ、ナオト、ユキオ、タロウ、ヤスオ・・・
バンギャ:名前シッブ
OL :みんな、シゲルに力を・・・!
バンギャ:あでもそういや、私のスマホの時計も止まってるかも。あ、止まってるわ。
エリート:嘘つけ
バンギャ:や、マジだって。さっきも5時ぴっただったもん。こわ〜
青年 :え。まさかですけど、この停車場自体の時間が、止まってる、とか?なんて、そんなわけ
エリート:そんなわけないだろ、だってここには

歪んだ時報が響く

エリート:ほら、時報が・・・

エリート、自分の懐中時計を見てハッとする。

エリート:もしかして・・・おい。お前は?
青年 :はい?
エリート:何か持ってないか?時間がわかるもの
青年 :時間・・・?いやあ・・・
エリート:時計じゃなくてもいい、何か時間を表す・・・
青年 :あ。あーでもこれ、ラジオなんですけど。ずっと同じ時刻をお知らせしてるんですよね。壊れてるだけかと思ってたんですけど、もしかして関係あります?
エリート:なるほど・・・実は、俺の時計も止まってる。
OL :え
エリート:そう、つまりは今、俺たちが持っている「時計」は全て止まってるんだ。でもだったらなぜこの停車場だけ時間を刻んでいる・・・?
駅員 :時刻をおしらせします。8時30分。8時30分。白色の切符をお持ちのお客様は、列車の出発30分前となりました。お手荷物、お忘れ物等ございませんよう、ご準備の方お願いいたします。
エリート:・・・ふ、まあ今となっては、どうでもいいか。そんなこと。所詮発車までの暇つぶしだ。
OL :暇潰しじゃないわ、私、本気よ。
バンギャ:え、おい、で結局止まっててなんなんだよ
エリート:気になるならしばらくそこで考えていたらわかるんじゃないか?黒切符なら、発車までまだまだたっぷり時間あるだろ。
バンギャ:何だよそれ。
エリート:俺はそろそろいかせてもらうよ。いつまでも君らと遊んでられないんでね。
OL :遊びなんかじゃない。どの子も我が子のように育てたの。
バンギャ:あんたはちょっと一回黙ってて。
OL :ああ・・・カクエイ、エイサク、ハヤト、ノブスケ、タンザン
バンギャ:タンザン!?!?
エリート:あっ総理大臣だ!
バンギャ:何はしゃいでんだお前
エリート:ということは吉田??
バンギャ:30分前なんじゃねえの
エリート:・・・そうだが???(準備を無言で始める)
青年 :出発時間、早いんですね。俺らのより、ずっと。
エリート:当たり前だろ。俺は白切符だぞ。お前ら黒切符とはわけが違う。出発時間だってこのくらい差があって当然だ。
青年 :はあ
エリート:・・・じゃあまあ、落ちこぼれ同士時間まで仲良くやってくれ。時間なんで失礼するよ。
バンギャ:白切符がそんなにエライかよ。
エリート:は?
バンギャ:一緒じゃん。
エリート:は、何が
バンギャ:白切符も、黒切符も、もう死んでんのは一緒じゃん。
エリート:一緒、?俺と、お前が?
バンギャ:一緒だろ
エリート:違う
バンギャ:何が
エリート:お前、ポイントは?
バンギャ:あ?
エリート:前世のポイントだよ。明細に書いてあるだろ。
バンギャ:あ?・・・あー、これ?基礎ポイント20。善行係数、34。自殺減点、50。社会適合率、22%。合計、26ポイント。
エリート:ほらな
バンギャ:・・・関係ないっしょ
エリート:関係ないね。で、お前は26。俺は、12784だ。
OL :いちまん・・・!?
エリート:これが俺とお前らとの差だよ。
OL :すごい・・・一体どうやって、
エリート:努力だよ。努力。死に物狂いで何でもやったさ。社会に認めてもらおうと必死だった。ま、そんな努力も水の泡。結局「過労死」、なんて形で夢は潰えたけどな。
青年 :過労死・・・
エリート:だからな、死に様どころか、自分がどんな人間だったかすら忘れてるようなお前らとは違って、俺はその一つ一つを鮮明に覚えてる。どんなに苦しいことも、どんなに小さな成功も、この身に焼き付けるように生きてきた。
OL :私だって、私だって・・・
青年 :・・・
エリート:俺はお前らとは違う。人生の密度が違う。質が違う。価値が違う!価値ある人間にはそれ相応の報酬があって然るべきだ。違うか?それを叶えてくれるのがこの白切符だよ。『より良い切符でより善い来世を』当たり前だよなあ?
OL :私はどうしたら、よかったの・・・よかったの、あああぁぁ
エリート:あんたも見たところ相当頑張ってたみたいだな。でも残念、才能がなかったんじゃないか?悪いな、俺は、選ばれた人間だ。お前らとは違う。
バンギャ:分かってねえなあ。
エリート:まだ言ってるのか。お前も往生際が悪いな。
バンギャ:「往生際」が悪いのはあんただよ。
エリート:は?
バンギャ:だからさあ、もう終わってんだよ、その話。あんたがどんだけ頑張ったのかとか知らないし興味もないけど、もうその人生終わってんの。
エリート:だからその次の
バンギャ:で、その次に白切符とやらでどんだけ善い人生が待ってるんだか知らないけど、そんで?でも過労死するくらいしんどい人生、また生きないといけないんでしょ。
エリート:でも、次は・・
バンギャ:次は次はって言いながら、往生もできずに必死に終わった人生にしがみついて、あたしらみたいなクズ相手に威張ってるのは、怖いからだろ
OL :次の人生も、またこうだったらって
エリート:!
バンギャ:そう。安心したいだけだろ。
バンギャ:みんな一緒なんだよ。どうせまたこのクソみてえな世界生きなきゃいけないのは、一緒なんだよ。
エリート:・・・それでも、俺はお前らとは違う。黒切符の行き先、知らないだろ。
青年 :行き先・・・?
エリート:ああ、お前が来る前に、ここで聞いたんだ。さっきからそこで一言も喋らずにずーっとなんか読んでる気色悪い女に。
謎の女 :・・・
OL :え・・・・・ぎゃああああああああああああ
エリート:今度はなんだ(呆れ)
OL :だ、だれ!?
バンギャ:最初からいたし
OL :いた!?
バンギャ:いた。つーか毎回おっきい声上げんなし
OL :おばけ・・・?
バンギャ:(無視)
青年 :・・・どこ、なんですか、俺たちの、行き先は
エリート:黒切符の行き先は、最も劣悪な生、だと。
バンギャ:はっ・・・
エリート:もう決まってるんだよ、次の人生のスタートは。
青年 :どういうことですか・・・
エリート:白切符から黒切符まで、なぜ分けられてるか考えなかったか?
青年 :だってそれはさっき乗車券のランクだって
エリート:ああそうだよ。でもただの列車のランクの差だと思ったら大間違いだ。いいか、こいつの正体は来世そのもののランクだ。 
青年 :なんだよ、それ
エリート:さっき駅員も言ってただろ『より良い切符でより善い来世を』って。そういうことだ。
青年 :これ、本当なんですか?
謎の女 :ええ。
OL :喋った!?
青年 :なんで・・・
謎の女 :大丈夫。列車に乗って暁の停車場まで行けば、もう夜明けだから。その頃にはここでのことなんて全て忘れられる。
青年 :そんな、こと(聞きたいわけじゃない)
バンギャ:ねえていうかさ、あんた何者なわけ?
OL :おばけ?
謎の女 :ただの乗客。長いことここに居るだけ。
OL :ど・・どういうこと、あなたの列車は(オドオド)
謎の女 :ない。
OL :それは?
謎の女 :本。
OL :本を読むおばけ・・・(神妙な面持ち)
青年 :おかしくないですか
OL :おかしいわよね
青年 :違う
OL :え、違う?
青年 :違う。そんなの、おかしい。
バンギャ:え、何?
青年 :わかんないですけど、何でそんなこと、誰に決められてるんですか、これ。何でみんなそんなこと言われて、はいそうですかって納得できちゃうんですか。おかしくないですか、あんな思いをしてまで生きて、ここにきてやっと死ねたって思ったら、今度は次の人生まで誰かに決められてて、それを生きなきゃいけないことも決まってて。死んでまでこんなのって、おかしいですよ。
バンギャ:・・・急にめっちゃ喋るじゃん
青年 :だっておかしいんですもん、こんなの、みんなそうでしょ、だって生きるの初めてなんですよ、これでも一生懸命暗中模索の五里霧中でしたよ、それを、だって、何なんですか本当に
バンギャ:え、ねえ泣いてる?
エリート:え
青年 :泣いてないです!!
エリート:うわ声震えてる
バンギャ:あれだ!怒ると涙出ちゃうタイプだ、
OL :いたいたクラスに一人はそんな女子
バンギャ:一言余計だっつの
OL :私キライ
バンギャ:ねえ難聴???
エリート:これあれだろ、あの・・・
バンギャ:なんだよ
エリート:「ヤバ」
バンギャ:おめえもう口閉じてろ
青年 :人の話聞いてます?
三人 :聞いてる聞いてる
青年 :じゃあいま俺なんの話してましたか
バンギャ:・・・あー
エリート:・・・俺の元カノみたいだ
バンギャ:ねえ、本当に。(=やめて)
青年 :やっぱり聞いてなかったじゃないですか
OL :聞いてたわよ
バンギャ:え
OL :一生懸命暗中模索の五里霧中でしょ
エリート:そこだけかよ
青年 :そうです
バンギャ:いいんだ
青年 :なのにこんなのおかしいって、勝手に誰かに決められるのはおかしいって、言ったんです。
エリート:でも、んなこと言ったって仕方ないだろ、そう決まってるもんは、
青年 :じゃあ仕方ないって、いつまでそうやって割り切ればいいんですか
青年 :いつ終わるんですか。これ。
4人 :・・・
青年 :もう、懲り懲りなんです。死んでまで、顔も見えない誰かの顔色を伺うのは、いやだ。
OL :でも、もうどうしようも
青年 :抜け出しませんか、こんなところ。
エリート:は?
青年 :もういいじゃないですか、何したって。死んでるんだから。
エリート:いやいや、急に何を言い出すかと思えば
青年 :本気ですよ。
エリート:は・・・?じゃあ、抜け出すってどうやって。どうやって抜け出すんだ?外がどうなってるのかもわからないのに
青年 :それは・・・
エリート:そうやって見切り発車でものを言うな。周りを惑わすだけだ。
バンギャ:おそろ。
バンギャ:オメーだよ。
青年 :あっはい
バンギャ:あたし、乗った
エリート:は?
バンギャ:こいつの言ってること、めちゃめちゃだけどほんとのことじゃん。あんただって、ちょっとは思ってるでしょ。誰にこんな理不尽強いられてるのかって。
エリート:俺は、別に
バンギャ:生きてる時も?
エリート:・・・
バンギャ:価値なんてなかったのかもしれないけど、それでもあたしたち一生懸命生きたじゃん。それをさ、誰かにいいとか悪いとか、言われたくなくね
OL :そうね、でも、もう遅いわよ
バンギャ:遅いってことはないだろ
OL :ううん、もう私たちに乗車券がある以上、これを捨てることなんて、できない。だってこれだって、やっとの思いで手に入れた、目に見える証なんだもの。こんなものでも、今の私の全てなんだもの・・・
青年 :ほんとに、それが俺たちの全てなんですかね。
OL :え?
青年 :これだけ生きて、あんな紙っぺら一枚なんですかね、俺たち
OL :・・・
エリート:そうだよ。
青年・OL:え?
エリート:散々生きてきたろ、紙っぺらに価値がある世界で。
バンギャ:え?
エリート:何かの代わりに金を払って、何かと引き換えに金をもらって、それがただの紙っぺらだって、なんの疑いもなく生きてきただろ。
バンギャ:・・・あー
エリート:それと一緒だ。誰が決めたかなんて、関係ない。それを信じなきゃ俺たちの世界は回らないんだよ。
バンギャ:じゃああんたは信じてんだ。前世と引き換えにもらった紙っぺらの事も。
エリート:・・・ああ、信じて
OL :ない
エリート:あ?
OL :ない
バンギャ:あー何、またアレ?たまごっち?
OL :乗車券。
バンギャ:え?
OL :乗車券がない。
エリート:・・・は?



【3】

場転
♪〜
それぞれが停車場内を探し回る。停車場はどんどん壊れていく。乗車券は見つからない。

エリート:ない、ほんとに、ない・・・
バンギャ:どうなってんの
青年 :さっきまでありましたよね
エリート:最後に見たのいつだ
バンギャ:さあ・・・
OL :私さっき、これが全てだって、
エリート:何で、ほんとに、ないのか、?
謎の女 :まさかこうなるとはね
4人 :え?
4人 :・・・・・・・・
OL :おばけがまた
青年 :意味深なこと
バンギャ:言ってんね
青年 :俺たちもおばけみたいなもんですけどね
エリート:まあ死んでるって意味ではな
OL :私おばけはちょっと・・・
バンギャ:もうそれいいから
謎の女 :随分楽しそうね。乗車券、消えたんじゃなかったの。
エリート:そうだ、乗車券
バンギャ:ねえ、あんたなら何か知ってんじゃないの。
青年 :あ
バンギャ:詳しいんでしょ、ここのこと。
エリート:そ、そうだ、あんたなら
謎の女 :まあね。私はもう随分長いことここにいるから。けど、残念ながら乗車券が一斉に消えたなんてのはこれが初めて。
バンギャ:ふうん・・・。
青年 :あの、長いことって、どういう・・・?あなたの列車はどうなったんですか。さっき、ないって・・・
謎の女 :もう随分前に発車したよ。
バンギャ:乗車券は?
謎の女 :その列車を見送った時に、消えた。
エリート:俺たちはこの後どうなる。乗車券がなかったら、列車には乗れない・・・よな?ってことは
OL :永遠にこのまま・・・?
エリート:・・・めでたくあんたのお仲間ってわけか。
バンギャ:え、ねえ今見送ったって言ったよね、
エリート:あ?
バンギャ:見送ったってことは、わざと「乗らなかった」ってこと?
エリート:は、そんなわけないだろ
謎の女 :乗らなかったんだよ
エリート:は?
OL :なんで・・・?
謎の女 :なんとなく。
エリート:なんとなく???
謎の女 :そう、なんとなく。来るひと来るひと、みんな自分の人生を点数に変えて、幸せそうに夜行列車を待っている。それが、なんだか急にくだらないことみたいに思えて。だから本当に、なんとなくよ。
青年 :急にめっちゃ喋りますね!
バンギャ:今そういう空気じゃないから。
青年 :ごめん・・・(小声)
謎の女 :ま、とはいえその後どうしたらいいかも分からずに、ずっとここにいることになっちゃったけどね。
バンギャ:物知りなのは、それと関係ある?
謎の女 :まあね。ずっとこの本を読んでただけよ。ここのこと、乗車券のこと、教科書みたいにいろんなことが書いてあった。
エリート:なるほどな。知り過ぎなくらいだと思っていたらそういうことか。
謎の女 :ま、そんなことを考えながら、気づけば私は自分の列車を見送っていて、そしたら、いつの間にか私の乗車券は消えてた。そういうこと。
OL :列車に乗れなかったら、乗車券は無効ってこと・・・?
エリート:でも、俺たちはまだ列車を逃してないだろ、なのになんで
青年 :あの、これ関係ないかもですけど、この停車場って、最初からこんな感じでしたっけ、なんか来た時と雰囲気違いません・・・?
バンギャ:あ・・・?あ、確かに
OL :ほんとだ・・・
青年 :ですよね
謎の女 :言われてみれば・・・他には
青年 :んー
バンギャ:あ、時報
OL :あ、いつの間にか鳴ってない
エリート:時報だけじゃない、駅員も、いない・・・!
謎の女 :今異変が起きてるのはこの停車場システム全体ってこと?
エリート:なんだよ、それ、なんで・・・?
謎の女 :んー、乗車券が消えたのは一緒、でも、順番も状況も違う
バンギャ:・・・し、今回はシステム自体も壊れてきてる・・・?んんん
OL :乗車券が消えたのと一緒に停車場も壊れてる・・・なら、その二つは繋がってる・・・?
謎の女 :本質は一緒なのかも
エリート:誰かが決めた・・・点数に変える・・・
バンギャ:どした?
エリート:誰が決めた・・・?知らない誰か、他人
OL :何してるの
バンギャ:集中してんじゃない
エリート:乗車券は、誰かに付けられた自分の価値だ
青年 :価値
エリート:俺たちがどう思ってるかなんて一ミリも考慮されてない、周りから見てこうだって決めつけられたのが、乗車券だ。
青年 :じゃあ、乗車券が消えたってことは、誰かから付けられた、おれたちの価値、が消えたってことですか?
エリート:なら、乗車券の消失=誰かに付けられた価値の消失、ということか
青年 :いや今俺それ言った!!
エリート:しかしまてよ、ぶつぶつ
青年 :聞いてないし(しょぼん)
バンギャ:もう自分の世界入っちゃってるから
OL :元気出して、おそろ
エリート:(誰かから付けられた価値、つまり)他人からの、評価
青年 :ん、でも他人からの評価が、消える・・・?でももともとそんなもの、あるのか・・・?
バンギャ:もともと?
青年 :いや、だってそんな、誰かに付けられた価値なんてさ、気にしない人にとってはないも同然だし、消えるも何も、あるかないかもはっきりしないなって。
バンギャ:どゆこと?
青年 :だから、うーんじゃあ、例えば、おばけはいると思う?
OL :(静かに謎の女を指す)
青年 :あー、じゃなくて、いわゆる、おばけ。
バンギャ:いねーだろそんなの
青年 :でしょ、多分いない。けど、信じてる人はいるし、逆に信じてなくてもなんかのきっかけで一回気になったらいるような気がしちゃう時もあるじゃん
バンギャ:あー、心霊番組見たあとのトイレとかね
エリート:それだ
青年 :へ?
OL :それ、って?
バンギャ:どれ?
エリート:だから、もともとないんだ。あるって思い込んでたからあっただけで。だから俺たちが乗車券を、疑い始めたから
青年 :あ。
OL :確かに、さっき思った。あなたに「人生こんな紙っぺら一枚だったのか」って言われた時。そんなわけないって。こんなんじゃないって、思った。
エリート:停車場に異変が起きているのも、それ自体に不信感を抱き始めたからって考えたら、辻褄は合う。
謎の女 :つまりここでは「信じられないものは消えてしまう」・・・?
バンギャ:なる、ほ、ど・・・
OL :にわかには信じがたいけれど・・・
エリート:は・・・でも、かりにそうだったとして、もう遅いよな。俺たちがもうここから出られないことに変わりはない。
謎の女 :なくはない。
エリート:え、?
謎の女 :さっきの仮定が成り立つなら、一つだけ。まあただの仮説に過ぎないけれど。
バンギャ: 仮説、?なに?信じなかったら、消える、消えたら、信じてない、信じなかったら、消えうーーーん
OL :わかった、逆よ。
青年 :逆・・・?あ、
OL :「信じたものは、実在する」
謎の女 :そういうこと。
エリート:は、そんなことあるわけない。
謎の女 :ただの仮説って言ったでしょう
エリート:馬鹿げてる。
バンギャ:でも残念ながら、その馬鹿げた仮説に頼る以外、あたしたちがここから出られる可能性はないってことなんじゃない?
謎の女 :私が思いつく範囲ではね。でも、あなたが言う通り、馬鹿げてるのも確かよ。うまくいくかどうかはわからない。一か八かの賭けになる。
バンギャ:賭け、か。ねえ、なんか、意外と楽しいんじゃん、これ
青年 :「信じたものは、実在する」・・・
バンギャ:要は、やりたい放題、なんでもありってことっしょ。
OL :じゃあ、ぶっ壊そうと思ったらぶっ壊せる・・・?
バンギャ:はは、やってみる?
エリート:待て待て待て、何しようとしてる?
バンギャ:あ?そのまま。言葉通り
OL :ぶっ壊そうとしてる
エリート:・・・何を?
2人 :ここを。
エリート:バカなのか!?
バンギャ:バカで結構
OL :コケコッコー!
エリート:待て待て待て待て、本当に、よく考えろ、壊してそのあとどうするんだよ
青年 :出るんじゃないですか?ここから
エリート:出るって、無鉄砲すぎるだろ、ここを壊して?出たあとどうなる、誰が予想できる。外がどうなってるかもわからないんだぞ。もっと慎重に
青年 :じゃあ他にどうするんですか。ずっとここにいます?それとももう来るかわからない白切符の列車待ちます?
エリート:いや、いや・・・
バンギャ:メガネ。
エリート:めがね?
バンギャ:やるなら今しかないぞ。
エリート:え
バンギャ:好きなこと。
エリート:好きなことって・・・
青年 :結局、やりたいことやらなきゃ後悔しか残らないんですよきっと。俺は、後悔ばっかりだから。
バンギャ:うん、あたしも。だからやっぱ、今やりゃいいじゃん。
OL :死んでるんだし。私たち。
バンギャ:ね?
エリート:そんな、そんな簡単に
バンギャ:別に無理ならいいんじゃない、ご自慢の白切符を待ってみれば。
青年 :そうです。信じて待てば、列車だって切符だって戻ってきますよ。
謎の女 :「信じたものは実在する」なら、だけどね
OL :短い間だったけど、お世話になりました
エリート:違う、違うんだ、俺は
OL :さようなら
青年 :さようなら
バンギャ:さようならぁ
エリート:待ってくれ。・・・俺も、やる。
バンギャ:え、まじ?
エリート:・・・まじ
バンギャ:あんた意外とバカだったんだね
エリート:ば、バカ・・・!?!?
バンギャ:よし、おそろ
青年 :お、れ
バンギャ:お、めーだよいい加減覚えろ
青年 :ごめん
バンギャ:何からやる
青年 :え?
バンギャ:リーダーはあんたでしょ
青年 :え、おれ?
OL :言い出しっぺだものね
バンギャ:そゆこと
青年 :で、でもおれそういうのあんまり・・・
謎の女 :好きなようにやればいいんじゃない?さっきそう言ってたでしょ、自分で。
OL :うん
エリート:まあ、それしかないしな。責任取れよ。
バンギャ:おそろ
青年 :・・・うん。わかった。じゃあ、まずは作戦、どうやって抜け出そうか。
OL :ぶっ壊す!
エリート:だから
バンギャ:でもマジでそれしかなくね?だって見た所、出られそうなのあの扉しかないけど開かないし。
エリート:だからって
謎の女 :よくできた偽物ね。
バンギャ:どっかぶち破って出るしかないっしょ
エリート:ねえ本気?
青年 :オッケー、じゃあそれで行こう。
エリート:マジ?
青年 :次。脱出方法。メガネ。
エリート:え、俺?え、まあ、普通に走って・・・
O・バン :やだ
エリート:なんで!?
OL :足遅い
バンギャ:つまんない
エリート:は???
青年 :ちょっと喧嘩しないで
OL :ジェット機
エリート:バカだろ
バンギャ:セグウェイ!
OL :ロック〜!
エリート:言ったな??言ったな??
バンギャ:うっせばーか
エリート:あ!?
青年 :ねえ喧嘩しないで!?
エリート:じゃあお前が言えよ!
青年 :なんで怒ってるんですか!?ええ、じゃあ、まあふねとか?みんな一緒なら置いて行かれないし、船旅とかなんかちょっとワクワクしたり、し、しな、しないか。
バンギャ:めっちゃする。
OL :それで
エリート:えなんで・・・?あ、でもなーふね、うーん、俺酔うかも
バンギャ:大丈夫
OL :絶対吐くなよ
エリート:雑じゃない?
謎の女 :問題は何もないところからふねを「実在」させるほど信じ込めるかどうか、だね。
バンギャ:あ、確かに・・・今ここで船を想像してくださいって言われたって、
OL :多分想像するのみんなバラバラだし
バンギャ:どんなの想像した?
OL :私真っ赤なジェットクルーザー
エリート:なわけねえだろ
バンギャ:あたし漁船
エリート:なんでだよ
青年 :普通にボートじゃだめ??
謎の女 :まあこうなるわけで
バンギャ:じゃあどーする?
OL :何か・・・
バンギャ:ん?
OL :何かをベースにしてみたら
青年 :ああ、それいいかも。何かを船に見立てるんですね。
エリート:なるほどな
バンギャ:なんでもいいの?
エリート:ある程度の大きさあれば、いいんじゃないか?
バンギャ:じゃあー、あれ!
エリート:え?
青年 :扉?
エリート:お前さっき自分で開かないって
OL :ぶっ壊すのね
バンギャ:そう
エリート:まじ・・・?
バンギャ:まぁじ
青年 :いいね!一石二鳥だ。
バンギャ:じゃああの漕ぐやつは?えーっと
青年 :オールか。そうだな
OL :・・・あれは?ちょっと大きいかも・・・
バンギャ:あっは、最高
エリート:いやでかいだろ、誰が漕ぐんだよ
三人 :(目線で伝える)
エリート:(俺・・・?)
三人 :(頷く)
エリート:嘘だろ
青年 :他、何かある?
バンギャ:うーん、とりあえず楽しく
OL :好き勝手ぶっ壊す
エリート:物騒だな・・・
バンギャ:よし。決定!
青年 :じゃあ、始めよう

♪~
各々が停車場内を壊し始める。倒れるはずのない扉をけやぶり、柱を引き抜き、出航の準備をする。今までにないほど生き生きしている4人。立ち尽くす1人。
やがて停車場をつつむ空間が歪み始める。電気は消え、サイレンが鳴り出す。

エリート:なんだこのサイレン!?
バンギャ:なんかヤバっぽ
OL :誰かが怒ってるのかも、好き勝手したから
バンギャ:別に今更怒られたって、関係ないっしょ
青年 :でも何が起こるかわからない、そろそろ出よう
バンギャ:オッケー!
エリート:荷物、忘れるなよ
OL :シゲルゥ!!!!!!!!!!
エリート:あいつシゲル忘れたのか
バンギャ:ワロタ
エリート:このギター誰のだ?
バンギャ:ああ、多分おそろの。持ってくわ。
エリート:おう。ほら、あんたも
謎の女 :え、あ
エリート:どうした?
謎の女 :いや・・・
バンギャ:おい、こっちもう準備できるぞ
エリート:ああ。ほら
バンギャ:何、どうしたの
謎の女 :や、ちょっと、やり残したことがあって
バンギャ:はあ?!いまぁ!?
エリート:早く行ってこいよ、待ってるから
OL :キエエエエェェェ
青年 :ちょっ、誰かこの人とめて!え、なに、どうしたんですか
謎の女 :いや、先に行ってて。多分、少し時間がかかるから。
青年 :え、なに
バンギャ:やり残したことがあんだって。
青年 :やり残したこと・・・?いや、そんなこと(あるわけ)
エリート:わかった
青年 :え
エリート:俺らは先に行く。やり残したこと、終わったら追いかけてこいよ、俺らの船
謎の女 :ええ
青年 :いや、そんな、一緒に行きましょうよ、ここまでやったのに。あなたがいたからここまでできたんですよ。別にそのくらい、みんな待つし、ね??
バンギャ:・・・この人にも色々あんでしょ、多分
謎の女 :ごめんなさい。でもすぐに追いかけるから大丈夫。
青年 :いやでも
謎の女 :あなたたちのおかげなの
青年  :え
謎の女 :やり残したことに気がつけたのは、あなたたちのおかげ。私一人じゃ、ずっと気づけないままあそこに座って本を読んでたと思うから。だから、ちゃんと区切り、つけてくる。
エリート:おう
青年  :・・絶対、追いついてくださいね。
バンギャ:待ってるからね
謎の女 :ええ。
エリート:じゃあまあ、その、世話になったな 。礼を言う。
バンギャ:うわ
エリート:なんだよ
バンギャ:(びっくり)礼を言った。
エリート:うるせえ
謎の女 :それじゃ、船酔いしないようにね。宵だけに。なんちゃって。
(静寂。OLの破壊音だけが響く)
三人  :・・・・・・・・。
謎の女 :・・・酔いと宵をかけてみたんだけど
三人  :・・・・・・・・(破壊音止む)。
謎の女 :え、わかんないかな、船酔いと、宵の(停車場)
青年  :まさかのギャグ?
バンギャ:まさかのキャラぶれ
エリート:俺は嫌いじゃないぞ(ニヤニヤ)
バンギャ:オメーはもう黙ってろ
OL :サニー号!出航ォォ!!!
エリート:いつのまに命名されてるぞ
青年  :しかも丸パクリだ
バンギャ:え、ちょ、あいつひとりで行く勢いじゃね
エリート:ったく、早いとこ行くぞ
謎の女 :じゃあまた。暁の停車場で会いましょう。
エリート:宵と、暁、か
謎の女 :そう、またね
青年 :暁の、停車場で
バンギャ:遅刻すんなよ

去っていく2人を見送る女。騒ぐ声が遠ざかり、聞こえなくなる。静まり返る、壊れた停車場。

謎の女 :結局、こうなっちゃうのか。死んでから気づくんじゃ遅すぎた?
謎の女 :臆病だっただけか。

地面に落ちた本をひろい、見つめ、捨てる。

謎の女 :見えなかった。何にも。舟もオールも、見えなかった。知ってるつもりで、何にも見えてなかったんだなあ。

駅員、ファイルに挟まった紙を見ながら入ってくる。手には白い乗車券。

謎の女 :信じることは難しい。殊に、見えないものを信じるのは。そう思わない?駅員さん。
駅員 :お客様。ただいまお調べいたしましたところ、お客様の列車は発車時刻をすぎてしまっているようです。振替輸送をご利用になりますか?
謎の女 :ほらね、見えるものを信じる方が、ずっと簡単だ。

謎の女、白い乗車券を受け取り、荷物を持って去っていく。




【4】

外は真っ暗闇。4人の声だけが聞こえる。徐々に目が慣れてくる。そこはおもちゃ箱の中のような、夜明け前の海のような、見たことのない光景が広がっている。エリートがこぐじゃぶんじゃぶんという音だけが響く。

沈黙。

バンギャ:あー。

バンギャ:なんもねーー。
青年 :・・・あー。(おーだかあーだかよくわかんない音)
バンギャ:あーじゃなくてさ、ねえ。
青年 :・・・おー。(ラジオの傷が気になっちゃってる)
バンギャ:(ばしっ)
青年 :いてっ。
バンギャ:なんもねえなって!
青年 :お?おう。(またラジオに戻る)
バンギャ:はあ。・・・ねー、なんでこんなお通夜みたいになってんのー!
OL :まあ、
青年 :まあー
エリート:まあ、何もないからな。
バンギャ:だからあ!何もないからなんかしようって言ってんの!
エリート:初めて聞いたぞ
バンギャ:そういう念を込めて言ってたの!
青年 :まあ落ち着いて
バンギャ:おそろがさっき無視したんじゃん! ほら、なんか面白いこと言っておそろ。7点でしょ
青年 :いまそれ関係なくない?
バンギャ:てかどうやったら7点なんか取れんの。私でも83点なのに
青年 :え、うん、それびっくり
バンギャ:どういう意味??
青年 :あいや別に
バンギャ:で、なんて答えたらそうなるの?
青年 :まあ、普通に・・・覚えてないです、的な感じで
バンギャ:は?覚えてないの?
OL :名前も?全部?
青年 :まあ・・・はい。
バンギャ:フーン。で、暇だからなんかしよ。おそろ、はい。
青年 :そうだなあ・・・じゃあ、ええ、山手線ゲーム!とか・・・
バンギャ:お題は?
青年 :挙手制!
OL :(スッ)
青年 :はい
OL :歴代総理大臣フルネーム
バ・エリ:却下/賛成
バンギャ:は??
エリート:いや、賛成
バンギャ:誰が楽しいんだよそれ
OL・エ :(顔を見合わせ、バンギャを見る)
バンギャ:じゃあもう二人でやってろよ。おそろは?
青年 :え、うーん・・・好きなお茶、とか。
バンギャ:絶妙に盛り上がらねえ・・・
エリート:そもそも楽しいか?山手線ゲームって
OL :全然
バンギャ:ちっとも
エリート:だよな
バンギャ:誰だよやりたいって言ったの
青年 :(三人の視線を受けて)酷くないですか??
バンギャ:ごめんごめん。
エリート:俺はそもそも、複数人でやる類のゲームの楽しさがわからん
バンギャ:あ、すげーわかる、なんだっけ、あれでしょ、ほうれん草ゲームとかっしょ。
青年 :あーなんか、確かになあ
OL :私はほとんどやったことないからわからない
青年 :え
OL :友達、いなかったから・・・
バンギャ:あー
エリート:俺もだ
バンギャ:私もー
青年 :・・・あ俺も
エリート:お前は嘘だろ
青年 :いや本当ですよ!ていうかやったこともないゲームディスってたんですか!?
バンギャ:なんか他のゲームない?
青年 :あ、逃げた。
OL :肩凝ったわ
バンギャ:あんたは自由だなー
OL :まだつかないのかしら
バンギャ:ね、あとどんくらいかかんの?
エリート:・・・
バンギャ:メガネ??もう着く?
エリート:あー(よくわからん音)
バンギャ:なにその、あーって。え、ちゃんと着くよね?
エリート:さあな
バンギャ:さあなって、漕いでんのあんたでしょ
エリート:いや、まあ、そうだが
バンギャ:え?
エリート:え?
バンギャ:いまどこ向かってる?
エリート:さあ
青年 :えっ
バンギャ:もしかして適当に漕いでる?
エリート:そりゃそうだろ
OL :そりゃそうだろって
青年 :そりゃそうか・・・!!
エリート:そりゃそうだよ、暁の停車場に行くったって、何も見えなきゃ目指しようがないだろ
バンギャ:そりゃそうだ・・・!えじゃあ私たちいま、なに、迷子??この何もない空間で??
青年 :まあ、そういう、ことに
エリート:なるな
バンギャ:待って??これって
エリート:あれだろ
バンギャ:なに
エリート:ヤバ
バンギャ:そんなこと言ってる場合じゃないっしょ!
青年 :え、どうしよう、どうする?一回宵の停車場に、
エリート:戻れないぞ。もう見えないからな。何にも。
青年 :嘘だろ
エリート:だから出る前にあれだけ言っただろ、取り返しはつかないって。
OL :・・・怖い。
OL :怖いわ、何も、見えない、

カタン、と微かに音がする。

OL :・・・いま、何か音が、
エリート:やめろって
OL :だって本当にしたんだもの、怖い、もしかしておばけ・・・?
バンギャ:ちょっと
青年 :え、いま誰か俺の肩触りました?
バンギャ:おい、そういうの
青年 :あ、やばい、俺もなんかいま音聞こえたかもしんない、
バンギャ:ねえおそろさっき自分でおばけいないって言ってたじゃん!!
OL :やだ、怖い、このまま死ぬのかしら!
バンギャ:ううん、違う、あんたもう死んでるの!
OL :ああああ、怖いいいい
エリート:おい、
バンギャ:ねえちょっと怖い怖い言わないでよ
青年 :わああ!!びびったあなんでもなかったぁ、
バンギャ:そういうのだよ!!
OL :ぎゃああ
エリート:うわ、押すなよ、そっちもう少し詰めろ
バンギャ:いやせまいんだって、おそろもうちょい向こう行ってよ
青年 :やこっちもギリギリなんだって、見て。ていうか逆にそっち二人ちょっと余裕あるでしょ
OL :ああ、ああああ
バンギャ:心の余裕がなさそう!ああもう、なんかとりあえず、えっっと
バンギャ:あ!おそろそれ、ギター、弾いて!
青年 :ええっいや、俺でも
バンギャ:早く!
OL :ぎゃ!!(エリートにしがみつこうとする)
エリート:うわ

エリート:え・・・?おい、
バンギャ:今度はなに
エリート:なんだ、これ
バンギャ:え?・・・あんた、なんで立ってんの・・・?
エリート:こっちが聞きたい。
青年 :そんな、一体何が
エリート:俺たちは、いままで、何をしてた・・・?
バンギャ:は・・・?え、何これ
OL :海は?船は・・・?
青年 :なんでだ、信じたものは実在するんじゃないのか、どういうことだ
OL :もうわけがわからない
青年 :なんでこんなことに
OL :もうなにを信じたらいいの
バンギャ:どうする
OL :ああああああああ
青年 :じゃ、じゃあ!もう一回これを船だってみんなで信じれば
エリート:無理だ
青年 :どうしてですか
エリート:こんな状態で何を信じろって言うんだ。もう宵の停車場にいた時とは違う。今の俺たちにこんなものを無条件に信じられる力はないだろ。
青年 :そんな
OL :なにも信じられない・・・
エリート:大体、言っただろ、うまく行くはずもないんだよ、こんなの。俺たちはやりたいことも、信じたらなんだって実現するって、信じ込んでた。
エリート:でも、それだけでうまく行くほど人生甘くなかったよな
バンギャ:そうねー、そうだったねー・・・。はー、えじゃあ何。あたしたち永遠にこのまま?ウケるな
OL :そもそも、暁の停車場なんてあるのかしら、あの人が言ってただけで・・・いやそれどころかあの人がおばけだったとしたら
エリート:そんなことを言い出したら何も信じられないだろ
OL :何も信じられないわ
OL :こんな何も見えないところで、どこかに辿り着けるわけがない、もうだめよ、私たち、もう、きっとこのまま何もないところを彷徨い続けるんだわ
エリート:ま、こんなことになるくらいなら、おとなしくあの停車場にいた方が、よかったかもな
青年 :あの、ごめんなさい。
青年 :俺が、考えなしに抜け出そうだなんて、言ったから。本当、すいません。
バンギャ:まあ、ついていくって言ったのあたしたちだからさ、そこは、ね。
OL :(すすり泣く)
バンギャ:どうしよっか。これから。
エリート:どうするったって
バンギャ:あたしは、このままでもいいよ
青年 :え
バンギャ:ああ、もちろん暁につけたらそれがいいけどさ、でももしかしたらそこで待ってるのもまた最悪な来世かもしれないなってちょっと思ったりして
バンギャ:だったらなんもなくても、ここでみんなでいられるならそれもそれでいいかな、って。まあ、たまごっち泣いちゃってるし、ダメか。

沈黙が流れる。青年、手に持っていたギターを弾き始める。三人は、驚きながらもそれを聞いている。(EXIT/AJISAI)
曲が途中で止まる。

バンギャ:どしたの
青年 :・・・この続きは、弾けないんだ。
バンギャ:へー。なんで?
青年 :コードが難しくって。俺そんなにギター上手くなかったから。
バンギャ:覚えてんじゃん
青年 :へ?
バンギャ:前世
青年 :いや・・・
エリート:最初から覚えてたんだろ
バンギャ:何、気づいてたの
エリート:まあな。最初から、覚えてたけど嘘ついてたんだろ。理由は知らないが
青年 :・・・
エリート:でなかったら言わないだろ、「ここにきてやっと死ねたのに」とか
青年 :・・・そうですよね。はい、本当は、覚えてます。大体のことは。
OL :なら、どうして嘘なんてついたの
青年 :最初は面白半分っていうか、興味本位だったんですよ。前世を点数にするなんてふざけたシステムだなって思って。でも途中からその点数が来世のランクだとか言われて、そんなのはおかしいって、次の人生まで決められてたまるかって、ああだんだんわかんなくなってきちゃったな。まあその、いろいろ言いましたけど。多分結局、気づいて欲しかっただけです。ちゃんと自分っていう人間を、見て欲しかっただけだと思います。
バンギャ:そっか
青年 :だからこんなとこ抜け出してやろうって、思ったんですけど。結局こんなところに四人取り残されて。ギターなんか弾いても、やっぱり真っ暗闇は怖いままだし。ダメだなあ、俺。
バンギャ:何がこんなに怖いんだろね
バンギャ:だってさ、何が怖い?おばけが怖い?死ぬのが怖い?でももう死んでんだよ、あたしたち
青年 :まあ確かに、何がって、言われてみたら
バンギャ:よくよく考えたらなんも怖がることなくない?
エリート:何もないから、逆に何があるか分からなくて怖いんだろ、多分
OL :こんな真っ暗闇で、見えないものを信じることなんてできないわ。あるかどうか、わからないんだもの。
青年 :見えないもの、か。じゃあさ、例えば、月。新月って目に見えないけどさ、そこにあることは確かなわけじゃん、その時は見えてなくても。それと同じで、暁も、まだ見えてないだけなんじゃない?
OL :でも、月は見たことあるけど、暁は見たことないもの
青年 :そっか、まあ、確かに
バンギャ:でもさ、一番最初に新月を見た人は、それこそ信じられなかったんじゃない、そこに月があるなんて。今の私たちにとっての、暁みたいにさ
OL :たし、かに
バンギャ:まあ、だからってすぐには信じられないけど
エリート:あとはまあ、死んでるから、じゃないか?永遠が俺たちにとって計り知れなさすぎて、怖いんだろ、多分
バンギャ:そ、っか。
青年 :て、ことは、やっぱりこれ、全ては俺たちにかかってませんか。
バンギャ:どゆこと
青年 :選択肢は二つ。
バンギャ:?
青年 :一つは、諦めて永遠にここを彷徨う。
OL :もう一つは?
青年 :終わりを目指して、ここを彷徨う。
バンギャ:結局どっちも彷徨ってるじゃん
エリート:でも本質的には全く違う、ってことだろ?
青年 :そうです。彷徨うのは同じかもしれないけど、目指さなきゃ、暁にたどり着くことはない。
バンギャ:まあ、そう、だね。
青年 :見えないのと、見ないのは違う。確かに宵の停車場を出た時は、信じればなんでも実在するって盲目的に信じてたから、大事なことを色々見落としてた。
青年 :でもいま、冷静に向き合ってみて、これからどうなるかは、俺たちがどうしたいかにかかってるってわかって。
青年 :それなら、みんなでもう一回、暁、目指してみませんか。もうあるのかどうかもわからないけど。
エリート:暁、か。
青年 :俺は、最後にやりたいと思ったことくらい、もう逃げずに向き合って終わりにしたいです、この人生。本当は生きてるうちにできたらよかったけど。次に待ってるのはもしかしたらまた、最悪な来世かもしれないけど。
三人 :・・・
青年 :あー、うん。でも、みんなが無理だっていうなら、俺もここにいます。
OL :え
青年 :この真っ暗闇を一人でいくほど勇気はないんで笑
エリート:ふん

スタスタと歩いていくエリート。立ち去るかと思いきや、オールを拾い、ドアの上にたつ。

エリート:何してる
三人 :??
エリート:いくぞ
バンギャ:どこに
エリート:一つしかないだろ、暁の停車場だよ。
エリート:怖いからってここで闇雲に焦ったり立ち止まったりしてるだけじゃ、何もかわらない。だったら着くかわからなくても、目指してみたほうがいい。そういうことだろ?
バンギャ:めがね、
OL :いく
バンギャ:え
OL :行くわ。一人よりずっといいもの
エリート:お前なんで目とじてるんだ?
OL :見えないことが怖いのなら、目を閉じていた方が怖くない、の。
エリート:ふ、なるほどな。
バンギャ:でも、「これ」でいいの。
エリート:一緒に行くならそっちのが楽でいいだろ。はぐれられたら面倒だからな
バンギャ:もう、扉と柱にしか見えないけど
青年 :まあ、扉に乗って行ったって、いいんじゃないか?
バンギャ:・・・吐くなよ!
エリート:保証はできんがな
青年 :じゃあ、行きますか、暁に。

♪~音楽、クレッシェンド
扉と柱で、暁を目指す四人。白んだ空に目を開ければ、そこは暁の停車場だった。
暗転

♪~電車音
明転 
謎の女が切符を持って入ってくる
♪~電車止まる音
謎の女、上手にはけていく。
照明変化
四人、下手からイン

バンギャ:ここが、暁の停車場
エリート:そっくりだな。宵の停車場と。
青年 :だけど確かに違う。ついたんだ・・・暁に
バンギャ:だね。はは、本当にやっちゃった
エリート:やけに静かだな
OL :他に人は・・・
バンギャ:(首をすくめる)
OL :そうよね
バンギャ:あ、あいつ・・・
青年 :おいつくって言ってたのに
バンギャ:まだ戦ってんでしょ。
OL :なにと?
バンギャ:見えないもの
エリート:なんだそれ(なんか覗き込む形になってたらいいなっていう導線をつける)
青年 :なんか、夏休みの宿題みたいだな
エリート:え?
青年 :いやだってあれ、最後の方とかもはや戦い?だし。なにと、とかわかんないけど
青年 :できてない人は居残り、ってさ
バンギャ:確かに。でもそれで言ったらあたしら今、めっちゃ怒られるやつじゃね。宿題ほっぽって逃走て笑
エリート:ああ。今までの俺じゃ考えられなかったな
青年 :確かになあ。
バンギャ:私もそう思う。おそろが抜け出そうって言って、みんながいて、
バンギャ:よかった。最後にくだらないもの、全部ぶっ壊せて。
青年 :来世でもできるかなあ、やりたいこと
エリート:弱気だな
OL :そりゃ、怖いものね。一人は。
エリート:今、ひとりだもんな。あいつは。
バンギャ:うん。だからさ、私待つ。
バンギャ:一緒がいい。
バンギャ:だって、もう会えないかもしんないんだよ、私たち、
バンギャ:一人は、怖いよ。
青年 :ああ、(そうだな。)ならゆっくり待てばいい。ここにたどり着くまで。
青年 :大丈夫。きっと間に合う。
バンギャ:・・・そうだね
エリート:あ、そういえば時計は
エリート:まだ、動いてないのか・・・
バンギャ:あたしたちの、時間
OL :私たち、やっぱりこのまま(消えるのかしら)
青年 :消えたりなんかしないよ
バンギャ:え・・・?
青年 :きっと。なかったことにはならない。
青年 :見えなくたって。思い出せなくたって。
エリート:ああ。もうすぐ夜明けだ。

白んだ空から太陽が顔を出したところで、カチリと秒針が動く。

エリート:あ。

♪~全ての通知音が一斉に鳴る。
世界は点滅し、全てが消えた。
暗転

【5】(5分)

アナウンス:終点、暁の停車場、暁の停車場。お忘れ物のございませんよう、お気をつけください。

明転
暁の停車場。雰囲気は宵のとほとんど同じで、一色異なる程度のもの。しかし四人のついた暁の停車場とは明らかに違い、電球やライトはしっかりついている。
謎の女、一人で背を向けて立っている。

駅員 :お客様。
謎の女 :あ、はい。
駅員 :夜行列車生命線をご利用いただき、誠にありがとうございます。来世へのお手続きはおすみですか?
謎の女 :あ、いえ。
駅員 :では、ご案内いたします。こちらへどうぞ。
駅員 :ではまず、乗車券の提示をお願いします。
謎の女 :はい。
駅員 :白切符。良い来世を手に入れられたのですね。おめでとうございます。
謎の女 :いえ、そんな。
駅員 :謙遜することではありません。前世は有名な役者さんだったとか。たくさんの人から評価されることは、素晴らしいことですよ。
謎の女 :そう、なんでしょうか
駅員 :もちろんです。あなたもそうお思いなのでしょう?でなければこの白切符を、持っているはずがありませんから
謎の女 :でも・・・

♪~がたんごとんという音。その裏にギシギシ、ざぷん、という音が、かすかに聞こえる。

バンギャ:ここが、暁の停車場
謎の女 :!
エリート:そっくりだな。宵の停車場と。
謎の女 :今何か
駅員 :列車の音でしょう。ここは、暁の停車場ですから。発行の手続きがありますので。少々座ってお待ちください。
青年 :だけど確かに違う。ついたんだ・・・暁に
バンギャ:だね。はは、本当にやっちゃった
エリート:やけに静かだな
OL :他に人は・・・
謎の女 :誰もいない。
バンギャ:(首をすくめる)
OL :そうよね
謎の女 :みんな、
バンギャ:あ、あいつ・・・
謎の女 :たどり着いたかな
青年 :おいつくって言ってたのに
謎の女 :私は
バンギャ:まだ戦ってんでしょ。
謎の女 :履き違えてただけね。
OL :なにと?
謎の女 :目に見えるものと。
バンギャ:見えないもの
エリート:なんだそれ(なんか覗き込む形になってたらいいなっていう導線をつける)
謎の女 :やり残したこと
青年 :なんか、夏休みの宿題みたいだな
エリート:え?
青年 :いやだってあれ、最後の方とかもはや戦い?だし。なにと、とかわかんないけど
謎の女 :よくできた人は評価される
青年 :できてない人は居残り、ってさ
謎の女 :それが全てだって思ってた
バンギャ:確かに。でもそれで言ったらあたしら今、めっちゃ怒られるやつじゃね。宿題ほっぽって逃走て笑
謎の女 :でも、逃げてみないとわからないこともあったのね
エリート:ああ。今までの俺じゃ考えられなかったな
謎の女 :やりたいことをやるのは簡単なことじゃない
青年 :確かになあ。
バンギャ:私もそう思う。おそろが抜け出そうって言って、みんながいて、
謎の女 :タイミングがあって始めてうまくいく
バンギャ:よかった。最後にくだらないもの、全部ぶっ壊せて。
青年 :来世でもできるかなあ、やりたいこと
謎の女 :私も、やれたらよかったのに
エリート:弱気だな
OL :そりゃ、怖いものね。一人は。
謎の女 :みんなと一緒に行けたらよかったのに
エリート:今、ひとりだもんな。あいつは。
バンギャ:うん。だからさ、私待つ。
謎の女 :でも私はみんなとは違うから
バンギャ:一緒がいい。
バンギャ:だって、もう会えないかもしんないんだよ、私たち、
謎の女 :わかってる
バンギャ:一人は、怖いよ。
謎の女 :わかってた
青年 :ああ、(そうだな。)ならゆっくり待てばいい。ここにたどり着くまで。
謎の女 :もう遅い
青年 :大丈夫。きっと間に合う。
謎の女 :間に合わなかった。
バンギャ:・・・そうだね
エリート:あ、そういえば時計は
エリート:まだ、動いてないのか・・・
駅員 :お客様。準備が整いました。
バンギャ:あたしたちの、時間
駅員 :お時間です。まもなくあなたの前世は全て消滅します。
OL :私たち、やっぱりこのまま(消えるのかしら)
青年 :消えたりなんかしないよ
バ・謎の:え・・・?
駅員 :どうかなさいましたか?
青年 :きっと。なかったことにはならない。
謎の女 :いえ。
青年 :見えなくたって。思い出せなくたって。
エ・駅員:ああ。もうすぐ夜明けですね(だ)。
エリート:あ。

世界は点滅し、全てが消えた。
暗転
明転
明るくなった暁の停車場には、駅員と謎の女だけが立っている。

駅員 :それでは、乗車券と引き換えに、あなたの来世を発行いたします。もう少々お待ちください。
謎の女 :駅員さん、暁には、本はないのね
駅員 :申し訳ありませんが、なんのことだか。
謎の女 :いいの。そんなもの、あるはずないもの。ほんとは。
駅員 :そうですか。
謎の女 :ゆっくりでいいの。人が変わるのなんて、きっと
駅員 :お待たせいたしました。発行が完了しました。こちらが、あなたの来世になります。
謎の女 :どうもありがとう
駅員 :お出口は、あちらになります。より良い切符でより良い来世を。お気をつけて。
謎の女 :ええ。さようなら

暗転

【6】(5分)

都会の喧騒が遠くで聞こえる。徐々に大きくなり、どこかのビルに映ったニュースキャスターが何かしゃべっている。しばらくして、ギターを鳴らす音が聞こえ始める。じゃ、じゃ、と確かめるように音は鳴る。それがいつの間にかメロディーに代わっている。
明転
女子高生が電話しながら歩いている。

女子高生:え、何?迷子ぉ?渋谷で迷子ってあんたさあ・・・え?まだ駅出てない?駅の中で迷ってんの!?本当勘弁してよね〜。あたしもうハチ公ついたから。ちゃんとたどり着いてよ!もう!

女子高生:はあ・・・せっかく久々に遊ぶってのに、呑気だな〜。のんびりしてたら先生にばれちゃうって

女子高生、斜め前でギターを弾く路上アーティストのビラを一枚もらって、それを彼と一緒にパシャりと撮る。どうやら友人に送ったよう。ビラをひらひらさせながら聞いている。

メガネをかけた男子高校生、逆サイドからイン。下校途中のようだ。女子高生とは違う制服を着ている。

男子校生:あ。
女子高生:あ?あーー!!お前、!
男子校生:あ、うん、俺(小学校一緒の)
女子高生:誰だっけ!?
男子校生:え!?嘘!?
女教師 :あ!見つけた!
女子高生:あっやっべ
男子校生:そうそう、矢部だよ。メガネの矢部!五、六年一緒だったじゃん。
女子高生:ああ、あね〜、はは
男子校生:懐かしいなー今どこ通ってんの?
女教師 :こら!待ちなさい!
女子高生:ダメだ!ちょっと隠れさせて!
男子校生:え!?ちょ、待って、近い近い近いちかい・・・
女教師 :くそ、見失った・・・どこいった
女子高生:ここまで追っかけてくるとか・・・タマコまじ半端ねえな
男子校生:え、ヨシダ多摩校通ってんの?
女子高生:!?おい!!
女教師 :(バッと振り返り・)ヨーーシーーーダァァァァァ!!!!
女子高生:〜〜っああもう!!最悪!!!
男子校生:え!ちょっと
女教師 :まちなさああああい
男子校生:・・・先生かな。多摩高めっちゃ怖いじゃん。やべえー。

逆方向から謎の女が入ってくる。振り向きざまに少しぶつかる。

男子校生:あ、すいません
謎の女 :いえ

別々の方向に歩き出す。謎の女、少し通り過ぎたところでミュージシャンの音楽に気づく。少し離れたところに寄りかかり、聞いている。曲が終わると、手を叩き声を掛けた。

謎の女 :お兄さん、1人でやってんだ。音楽。
ミュージ:あ、はい。そうなんです、ソロで、やらせてもらってます。
謎の女 :おー、ソロか。いいね。
ミュージ:なかなか難しいっすけどね。こんな都会で弾いたって誰も見向きもしないし。
謎の女 :そうかな。そうでもないと思うけど。お兄さん歌は歌わないの?
ミュージ:あー、歌は、まあそんな上手じゃないんで・・・
謎の女 :そうなんだ、残念。
ミュージ:好きなんすけどね、歌
謎の女 :なら歌えばいいのに
ミュージ:でもまあ、好きだけじゃどうにもならないっていうか。結局判断するのはお客さんっすから。ギターだけ弾いてる方がまだ、評判いいんすよ。
謎の女 :ふーん。
ミュージ:あ、お姉さんもビラ一枚(持ってってください)
謎の女 :でも、好きなことやってる時しか、見えないものも、あるんじゃないかな。
ミュージ:え?なんか言いました?
謎の女 :ううん
ミュージ:でもまあ。お姉さんがそう言ってくれるなら、一曲だけ、歌おうかな。
謎の女 :お、本当に?
ミュージ:はい、ん、ん、歌えるかな

ミュージシャンは準備を始め、女も寄りかかり、空虚に空を見つめている。
ビルに映ったニュースキャスターが告げる。

ニュース:ただいまお送りいたしましたのは、17時のニュースでした。続いて、明日の天気です。明日は全国各地で、晴れとなる見込みです。また、今夜は新月となるため、天体観測には好条件となるでしょう。

謎の女 :新月か。
青年 :え?


暗転
♪〜EXIT/AJISAI




やこう かい

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