鯨鯢の顎にかく(げいげいのあぎとにかく。) ドラマ

元鯨漁師の芥二郎は孤独な余生を過ごしていた。偶然、近所の新川心愛が少女でありながら売春をさせられている事を知り、その少女と協力して顧客を恐喝して、金を稼いでいた。 芥の物語と心愛の10年後の物語を通して、生きるという事をテーマに物語を描く。
市岡利樹 37 0 0 09/27
本棚のご利用には ログイン が必要です。

第一稿

登場人物
芥二郎(72)…元鯨漁師
新川心愛(11)(21)…少女ながら売春            
             を強要される。
《一部》
新川昌美(27) ...続きを読む
この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
 

登場人物
芥二郎(72)…元鯨漁師
新川心愛(11)(21)…少女ながら売春            
             を強要される。
《一部》
新川昌美(27)(37)…心愛の母。
海山文太(59)…海山海運の社長。
海山レオ(19)…文太の息子。
木口ゆみ(69)…元娼婦。芥の隣人。
芥花(23)…二郎の妻。不慮の事故で死去。
周防正佳(42)…市議会議員。心愛の顧客。
横澤灯(55)…心愛の顧客。
草戸健介(28)(38)…レオの側近。昌
             美の愛人。
藤村和也(58)…鯨漁師。
  
*年齢が二つ記載されている
     人物は二部にも登場する


《二部》  
矢野智明(25)…心愛に惚れる。
甲崎音緒(22)…心愛の会社の同僚。
高井秀(25)…矢野の同僚。
濱口星矢(31)…心愛のセフレ。


○海辺、昼
   芥二郎(72)はゴルフクラブで鯨の
   骨を弄っている。骨も粉々になり、唾
   を吐き捨て、歩き出す。左足が不自由
   で歩き辛そうである。
 T「鯨鯢の顎にかく」

○芥家、家の前、昼
  芥家の前に置いてあるベンチに腰掛
  ける。隣の家の玄関に身体を凭れさせ、
  タバコを吸っている木口ゆみ(69)。
  芥、木口に向かって手を差し出す。吸
  っているタバコを芥に投げ捨てる木
  口。芥は、それを笑って拾い、吸う。
木口「5万よこしな。」
 芥「立ちんぼがほざくなや。」
 木口「黙れ障害老人が。」
  ケタケタと笑う芥。往来をデモ隊が通
  る。デモ隊は鯨をモチーフにしたシン
  ボルを模った旗を持っている。
 GFIO「我々の同志を殺すな!」
 デモ隊「我々の同志を殺すな!」
 GFIO「鯨を、仲間を殺すな!」
 デモ隊「鯨を、仲間を殺すな!」
  芥、デモ隊に唾を吐き捨てる。唾をか
  けられた老人が芥に迫る。
 老人「なにしとんねん。」
 芥「女買ってくか?」
 木口「仲介料やらんで。」
  ニタっと笑う芥。老人含むデモ隊は立
  ち去っていく。
芥「処女捨てれんかったやん。」
木口「13で捨てたわ。」
  ケタケタ笑う芥。

○芥家、リビング、昼
   片膝つきながら食事を取っている芥。  
   お茶碗に麦茶を注ぎ入れ、ご飯を流し
   込む芥。仏壇の写真立てが倒れている
   のに気がつく。お茶を勢いよく飲む。
   飲み口からお茶が溢れ、服などにかか
   る。服で顔を拭く。肘がコップにあた
   り、零れる。慌てて服を脱ぎ、お茶を
   拭く。雑誌の下に書類が入っているの
   に気がつく。

○海山海運、事務所、朝
   事務室の椅子に座っている芥。ある一
   点を見つめている。事務員の女が芥を  
   睨みつけている。
 芥「なんや!」
   事務員の女は、席を立ってどこかにい   
   く。
 芥「もっと優しくできへんのかなぁ!」
   隣の机の雑誌を勝手に取り、読み始め
   る。海山文太(59)が歩いてくる。
   雑誌を海山に投げつける芥。文太は、
   落ちた雑誌を拾い上げる。椅子に座る
   文太。
 文太「芥さんさ、無理に決まってますわ。」
 芥「ええやんけ。」
 文太「前に払ったでしょ?」
 芥「足らんから払え、言うてるだけやろ。」
 文太「だから、労災出したでしょって。」
 芥「さっさと持ってこいや!」
 文太「警察呼びますよ。」
 芥「呼べやコラ!」
 文太「志保ちゃん。」
   さっきの事務員の女が来る。
 文太「警察呼んで。」
 芥「ふざけんなクソが!」
   立ち上がり、ゴルフクラブを杖代わり
   に立ち去ろうとする。
 芥「この会社は社員に怪我させて金も払わ
  んのか?!」
   文太は座って、タバコをふかしてる。
 芥「クソが。」
   事務員の女の横を通り過ぎる前に、芥、
   女を殴る。女は倒れ、文太が芥に近づ
   き、怪我している足を蹴る。倒れ込み、
   悶える芥。立ち去る文太。文太の通り
   過ぎた部屋から海山レオ(19)と新
   川心愛(11)が出てくる。チャック
   を確認するレオ。2人は芥の横を通り
   過ぎていく。レオ、ポケットから封筒
   を取り出し、5万円を入れて、心愛に
   手渡す。心愛、それを受け取り、ラン
   ドセルに入れる。レオ、電話をかけて
   いる。
 レオ「もしもし、レオです。終わったんで、
  迎えにきてください。」
   携帯をしまい、心愛の頭を撫でるレオ。
   芥、心愛が泣いていることに気がつく。
 レオ「次はおしくらまんじゅうでもしよな。」
   レオ、心愛から立ち去る。心愛、芥に
   見られている事に気がつく。笑う心愛。
   扉が開き、新川昌美(27)が歩いて
   来る。
 昌美「帰るで。」
   昌美、歩き出す。心愛、昌美の後ろを
   ついていく。昌美、ランドセルを開き、
   封筒を手に取り、金を抜き取り、また
   戻す。昌美、電話を取り出し、電話を
   かける。
 昌美「もしもし、足らんって。」
   出ていく、2人。芥、ゴルフクラブを 
   杖代わりに立ち上がる。事務員の女、
   芥を睨みつけている。
 芥「文句あんなら直接言えやボケ!」
   事務員の女、立ち上がって、どこかに 
   いく。

○海岸沿い、昼
   ゴルフクラブを突きながら、歩いてい
   る芥。芥の横で車が止まる窓が開き、
   レオが車から乗り出す。芥と車は並走
   している。
 レオ「親父から金もらえました?」
 芥「なんや小童。」
 レオ「冷たくあしらわれとったし、どうな
  んかなって。」
 芥「なめとんのか?」
 レオ「なめてますね。」
   レオ、財布から1万円を取り出し、芥
   に投げ捨てる。
 レオ「うまいもん食えてないっしょ。」
   レオの乗った車は発進する。芥は周り
   をみて、1万円を拾い、ポケットに入
   れ、歩き始める。 

○芥家、ファミレス、夜
   席にステーキが置かれている。芥、手
   に持てるだけのジュースを持って席に
   座る。座るやいなやステーキを頬張り
   始める。机の上の塩を手に取り、大量
   にかける。また、食べ始める。

○ゲームセンター、夜
   コインゲームをしている芥、機械の派
   手な演出に一喜一憂している。隣の老
   婆は無表情でコインゲームをしている。
 芥「お前、調子悪いの。」
   ケラケラ笑う芥。
 老婆「うまくいきませんね。」
   老婆に電話がかかって来る。
 芥「こういうのは、タイミングが重要やね
  ん。こう狙いすましてな。」
 老婆「もしもし、はいはい。今いきますよ。」
   電話をきる老婆。
 老婆「これ差し上げます。」
   老婆、自分のコインを全て芥に差し出
   す。芥、無言で受け取る。老婆、立ち
   去る。周りを見回すと、ゲームセンタ
   ーには、老人ばかりである。芥、立ち
   上がり、ゲームセンターから出ていく。
 
○海岸、防波堤、昼
   沖では、数人の男らが鯨を追い込み、
   漁をしている。それを見ながら、釣り 
   をしている芥。タバコを吸い始める。
   釣り糸に重みを感じ、引き上げようと
   するも逃してしまう芥。タバコを海に
   投げ捨てる。遠くからケンケンパをし
   ながら歩いて来る心愛が見える。芥の
   横を通り過ぎる際に、封筒を落とす心
   愛。それに気が付かず、立ち去る心愛。
   芥、封筒を拾い上げる。中を確認する
   と、30万円と一枚の紙が入っている。
   その紙には、6人の名前と個人情報が
   乗っており、その中に、海山レオの名
   前が書かれている。それらを封筒に戻
   し、ポケットに入れる。

○高級焼肉店、夜 
   前掛けをつけ、焼肉を頬張る芥。ビー
   ルで流し込み、タバコに火をつけ一服
   する。おもむろにポケットから封筒を
   取り出し、名簿を眺める。
 芥「なぁ、ちょっと。」
   店員が現れる。
 店員「どうされましたか?」
 芥「周防って知ってる?」
 店員「贔屓にしていただいております。」
 芥「横澤は?」
 店員「よく周防様と一緒にいらっしゃいま
  すよ。」
 芥「どんな奴らや。」
   訝しむ店員。
 店員「どうしてでございますか?」
   店員の身なりと店内を眺める。
 芥「まぁ、ええわ。」
 店員「・・失礼致します。」
 芥「あ、ビールくれや。」
 店員「かしこまりました。以上でよろしい
  でしょうか?」
 芥「あと、この店で一番高いのくれ。」
 店員「かしこまりました。」
   ビールを流し込む芥。

○繁華街、夜
   繁華街をゴルフクラブを杖代わりにし
   ながら歩く芥。キャッチが声をかけて
   来る。
 キャッチ「どうすか?抜きますか?」
 芥「・・いくらや。」
 キャッチ「1万5千ポッキリす。」
 芥「連れてけや。」  
 キャッチ「かしこまりーっす。」
   キャッチの後ろをついていく芥。キャ
   ッチは何かを喋っているが芥、聞き取
   れない。突然息を荒げ、その場に倒れ 
   こむ芥。
 キャッチ「大丈夫っすか?」
   キャッチ、心配するふりして、芥のポ
   ケットに手を突っ込み、封筒を見つけ
   る。微かにもがくが振り切られる芥。
   ゴルフクラブを振り回すと、キャッチ
   の足に当たる。
 キャッチ「イッテェなジジイ!」
   キャッチ、芥をボコボコに蹴る。芥、
   血を吐く。封筒から金だけを抜き出し、
   走り去るキャッチ。
 芥「待てコラ!」
   声を振り絞るも、声にならない芥。深
   呼吸して、ようやく落ち着き、ゆっく
   り立ち上がる。タバコに火をつけ一服
   する。
 芥「クソが!」
   
○芥家、家の前、朝
   ゴルフクラブを杖代わりにして歩いて
   来る芥。家の前のベンチに座りこむ。
   隣の玄関の扉が開き、木口が出て来る。
 木口「朝帰りか?」
 芥「タバコくれババア。」
   木口、郵便物を芥に投げる。
 木口「代わりに受け取っといたで。」
   芥、それを受け取り、中身を開けると、
   借金返済の督促状が入っている。それ
   を握りつぶし、木口に投げつける。
 芥「タバコや!」
 木口「物乞いが。」  
   芥に唾を吐き捨てる木口。タバコを一
   本投げ捨て、家に戻る。火をつけ、タ
   バコを吸う芥。そのまま、ベンチにゆ
   っくり横に倒れこむ。

○芥家、朝
   家の前のベンチで寝ている芥。目の前
   には心愛がおり、芥を覗き込んでいる。
 心愛「おじいさん。」
 芥「・・なんや。」
 心愛「私の封筒知らない?」
 芥「・・・知っとる。」
 心愛「ほんと?どこにあるの?」
   芥、ポケットからくしゃくしゃになっ
   た封筒を取り出し、心愛に渡す。
 心愛「お金は?」
 芥「知らん。」
   心愛、泣きそうになるのを堪えようと
   必死である。芥、起き上がり、心愛の
   顔をじっと見る。
 芥「泣け。」
 心愛「いやだ。」
 芥「泣けや。」
 心愛「いやだ。」
   ニタっと笑う芥。
 芥「なぁ、俺お金ほしいねん。うまいこと
  やったら、なくなったお金取り戻せんね
  んけど、やるか?」
 心愛「・・・うん」
   ケタケタ笑う芥。
 
○民宿、昼
  部屋の椅子に座っている心愛。チャイム
  がなり、扉のところまで行く。
 心愛「お名前は?」
 周防「周防。」
  鍵を開け、周防(42)を向かい入れる。
  周防のジャケットを預かりハンガーにか
   ける心愛。周防、財布から5万円を取
   り出し、心愛に手渡す。心愛、封筒に
   金を入れる。周防、ベッドに横たわり、
   心愛を呼び込む。心愛、周防の横に座
   る。心愛を押し倒し、馬乗りになる周
   防。突然、部屋の扉が開き、芥が入っ
   て来る。周防の姿を写ルンですで撮影
   する。フラッシュに気がつき振り返る
   周防の脇腹にゴルフクラブを振り下ろ
   す。蹲る周防。
 芥「おっさん、元気ハツラツやな。」
   痛がっている周防にもう一度ゴルフク
   ラブを振り下ろす。
 芥「財布出せ。」
 周防「クソが。」
   芥、写ルンですを見せる。
 芥「金よこせや。」
 周防「なんでやらなあかんねん!」
   芥、周防の腕にゴルフクラブを振り下
   ろす。痛がる周防。芥、ゴルフクラブ
   を捨て、紐で周防を縛り上げて抑える。
 芥「心愛。」
   心愛、周防のポケットに手を入れ、探
   る。後ろポケットから財布を見つけだ
   し、芥に渡す。芥、周防から手を離し、
   財布を探り、金と免許証を取って、周
   防に財布を投げる。
 芥「心愛、なんかしたいことあるか?」
 心愛「・・なんでもいいよ。」
   芥、周防の髪の毛を掴み、一気に引っ
   張る。大量の紙の毛が引き抜かれる。。
   悶え苦しむ周防。頭から血が滲んでい
   る。
 芥「また連絡するから。」
   芥、ゴルフクラブを拾い上げ、心愛を
   連れて部屋を出る。
 
○焼肉屋、夜
   芥と心愛、焼肉を食べている。テレビ
   から討論番組が放送されており、頭に  
   包帯を巻いた周防がテレビに出ている。
   それを箸で指し示す芥。振り返ってテ
   レビを見て笑う心愛。テレビはCMに入
   る。セーラームーンのおもちゃが発売
   されたとの内容である。心愛、目を光
   らせて見ている。

○高級ブランド服店、昼
   ショッピングモール内を歩く芥と心愛。
   高級ブランド服店に入る2人。試着室
   は一つ閉まっている。その中に入る心
   愛。その近くをゴルフクラブで服を漁
   る芥。中で、心愛と男が話しているの
   が聞こえる。
 心愛「わかりました。」
   芥、試着室に入り、横澤(55)の首
   をゴルフクラブの柄で抑え込む。
 芥「静かにせぇよ。」
 横澤「・・わか。」
   芥、横澤の首に当てているゴルフクラ
   ブをより強く抑え込む。横澤、無言で
   首を縦に振っている。心愛、横澤のポ
   ケットから財布を取り出し、金とクレ
   ジットカードを抜き取る。その間、タ
   バコを吸う芥。
 芥「座れ。」
   横澤ゆっくり座る。芥、心愛にタバコ
   を手渡す。芥、横澤の額に指を当てる。
 芥「ゆっくりや。」
   芥、落ちている横澤の財布を横澤の口
   に突っ込む。心愛、横澤の額にゆっく
   りタバコを押し付ける。悶え苦しむ横
   澤。芥、心愛、横澤から離れる。
 芥「じゃ、また。」
   2人、試着室から出ていく。外にいる
   スタッフは驚き、中を伺う。中には、
   額を手で抑え、小便を漏らしている横
   澤がいる。
 横澤「ごめんなさい。買い取るんで、とり 
  あえず、閉めてもらっていいですか?」

○芥家、家の前、昼
   木口、家の前のベンチに座り、タバコ
   を吸っている。ゴルフクラブを杖代わ
   りにして歩いてくる芥。ベンチに座り、
   ビニール袋からタバコを2カートン掴 
   み、木口に投げつける。
 木口「景気いいねぇ。」
   芥、ケタケタ笑う。
 芥「足りるか?」
 木口「後、10カートンは必要やね。」
 芥「ほんなら、5万で買うたろか?」
 木口「いらんわ。」
   芥、ケタケタ笑う。木口、カートンの
   包装を切っていく。
 木口「忘れてんとちゃうよな?」
 芥「・・うっさいな。」
 木口「・・・もうええわ。」
   木口、家に入っていく。芥、唾を吐き
   捨て、部屋に入る。

○芥家、昼
   仏壇の写真立ては、倒れたままになっ
   ている。仏壇の前を見もせずに横切る
   芥。服を脱ぎ、着替える芥。左足の傷
   が痛々しい。酒瓶を手に取り、煽るよ
   うにして飲む。部屋を見渡す芥。乱雑
   にされている。派手なアロハシャツが
   転がっている。そのアロハシャツを手
   に取り、破っていく。酒瓶にあたり、
   酒が一面に溢れる。慌てて、アロハシ
   ャツを捨て、雑巾を取り、床を拭く芥。
   床を拭き終え、破れたアロハシャツを
   もう一度、手に取る。

○海山海運、入り口、夕方
   ゴルフクラブを杖にして、海岸近くを
   歩いている芥。海山海運の前でデモ隊
   が海山文太ら社員と押し問答をしてい
   る。
 デモ隊「クジラ漁をやめろ!」
 文太「だから、これは国からの認可を元に
  やっていることで。」
 デモ隊「お前らが辞めればええことやろ!」
   警察が介入して、そのデモ隊は解散さ
   せられる。文太は、落ち着きを取り戻
   し、地べたに座ってタバコを吸う。文
   太に向かって歩いていく芥。
 文太「久しぶりやな。」
 芥「・・よう言えるわ。」
   ポケットから1万円を取り出し、文太
   に渡す。
 文太「貸した覚えないぞ。」
 芥「恩返しや。」
 文太「ワケわからんもん、もらわれへんて。」
 芥「ええから。どうせ、すぐしっぺ返しく
   らうんやから。」
 文太「・・怖いこと言うなや。」
 芥「まぁ、とりあえず気ぃつけや。」
   その場を立ち去る芥。

○街中、夜
   歩いている芥。心愛を見かける。心愛
   の後をついていくと、あるボロアパー
   トの一階の部屋に入っていく。芥、窓
   側に回り込み、中を覗く。心愛、リビ
   ングに荷物を置き、テレビを点けて、
   見始める。セーラームーンの音声がか
   すかに聞こえてくる。心愛、襖が少し
   開いている方から昌美の声が聞こえる。
   心愛、リモコンを操作し、音量を小さ
   くする。昌美のいる部屋から喘ぎ声が
   聞こえてくる。心愛、テレビを食い入
   るように見ている。喘ぎ声が収まり、
   ごそごそ音が聞こえる。Tシャツだけ
   を着た昌美と、パンツだけ履いている
   草戸健介(28)が心愛の後ろの椅子
   に座る。草戸の携帯に電話がかかって
   くる。
 草戸「はい、草戸です。はい、明日、ブル
  ーシートとスコップは用意してます。
  了解です。買っておきます。失礼します。」
   草戸、電話を切り、心愛の目の前で屈
   む。何かを話しているようだが、聞き
   取れない。心愛、泣くのを必死に堪え
   ているようである。心愛、芥の視線に
   気がつき、芥を見る。芥、その場から
   急いで立ち去る。

○コンビニエンスストア、昼
   広い駐車場にスモークの貼った黒塗り
   の車が止まっている。芥、心愛を連れ  
   て歩いて来て、黒塗りの車に乗り込む。
   中には、頭を包帯でぐるぐる巻きにし
   た周防が座っている。
 周防「もうやめてもらえませんか?」
 芥「何がや?」
 周防「十分じゃないですか?」
   芥、ゴルフクラブを周防の口に突っ込
   む。
 芥「なんつった?もう一回言ってみ?」
   強く押し付ける度に、捥がく周防。
 心愛「トイレ。」
 芥「おう。」
   心愛、車から出る時に、芥を見る。心
   愛、一度振り返るも、そのまま歩いて
   いく。芥、扉を閉める。
 芥「飲み物とか用意してへんの?」
 周防「すみません。」
 芥「・・いつ来んねん?」
 周防「もう来ても良い筈なんですけど。」
   芥、タバコを取り出す。
 芥「火!」
   周防、慌ててライターを取り出そうと
   する。扉が開き、レオら男が数人車に
   入って来る。
 レオ「火ならありますよ。」
   芥のタバコに火を点けてやるレオ。芥
   の持っているゴルフクラブをすっと奪
   い取る。
 レオ「・・周防さん、出てて良いですよ。
  草戸さんにもうそろそろ行きますと伝え
  てください。」
 周防「わかった。」
 レオ「ごめんなさいね。周防さん。」
 周防「埋め合わせしてよ。」
 レオ「もっちろん。」
   周防、車から出ていく。
 レオ「車出して。」
   車が発進する。レオ、タバコを吸い始
   める。
 レオ「驚いてますね。」
 芥「なんやこれ。」
 レオ「動かないでくださいね。」
   レオ、ナイフを取り出し、芥に向ける。
   芥の横に座っている男がガムテープで
   体を縛っていく。
 レオ「驚いてんのこっちなんですからね。
  周防さんとか横澤さん、妖怪みたいにな
  っちゃって。」
 芥「フザケンナコラ!」
   隣の男が殴り、気絶させる。

○山奥、昼
   山奥に車が到着し、レオは降りて来る。
   男に引きずられて、後続の車から、心
   愛、草戸、横澤、周防が降りて来る。
   芥を引きずっている男が窪地に芥を置
   く。レオ、芥に近づき、
 レオ「起きてください。」
   気絶している芥は起きない。
 レオ「仕方ないですね。皆さんトイレ行き
  たくないですか?」
   理解できない数人の男らの中、横澤が
   手をあげる。
 横澤「ぼ、僕したいです。」
   レオは微笑み、横澤を手招く。意味の
   わかった男らは、笑いながら手を上げ
   て、横澤の後に続く。レオは、輪から
   外れ、心愛の元にしゃがみ込み、心愛
   を抱き寄せる。
 レオ「みなさーん、トイレの仕方わかりま
  すか?」
 男1「わかりマセェン!」
   馬鹿笑いする一同。
 レオ「まず、便器を囲みます。」
   男らは、芥を囲むように立つ。
 レオ「次にズボンを下まで下げます。」
   男らは、ズボンを下まで下げる。
 レオ「パンツも下げまーす。」
   男らはパンツも下に下げる。
 レオ「それでは、せーので行きますよ!せ
  ーの!」
   男らは一斉に芥に小便をかける。芥、
   目覚めるが、体が痛く動けない。嘔吐
   する芥。
 レオ「心愛ちゃん。自分がした事をきちん     
  と理解しなさい。」
   小便をし終えた男らは順次、ズボンを
   履き芥から離れる。立とうとする芥は、
   立てず、芥がいることに気がつく。
 芥「クソが」
   周防、芥に近づき、唾を吐きつける。
   レオ、芥のゴルフクラブを取りに行き、
   芥の頭に振り下ろす。芥、その場に倒
   れこむ。
 レオ「これでいいですか?」
   周防、ゴルフクラブを手に取り、芥の
   体に振り下ろす。血を吐き、呻く芥。
 周防「満足や。」
 レオ「・・本当に満足ですか?」
   男らはニヤッと笑う。
 レオ「6Pってしたことある?」
   男らは草戸が押さえている心愛を取り
   囲む。
 レオ「草戸さん、埋めといてください。」
 草戸「うす。」
   草戸は芥とゴルフクラブを引きずって、
   心愛に群がっている男らから離れたと
   ころに連れて行く。草戸、楽しそうに
   その様子を見ている。
 草戸「ええなぁ。」
   森蔭に入ると、穴が掘ってある窪みに
   芥を投げ入れる。草戸は一度離れ、ス
   コップを取って戻って来る。土を大雑
   把に掘っては芥にかけていく草戸。草
   戸は群がっている男らの方向が気にな
   って仕方がない。中途半端に土をかけ、
   スコップを持って男らの集まっている
   方向に去っていく。芥、必死にもがい
   て穴から這い出る。ゴルフクラブを掴
   み、立とうとするが、勢い余って折れ
   てしまう。それでも、立ち上がりその 
   場から立ち去る芥。
 
○閑散とした道路、夕方
   血だらけになりながらも、歩いている
   芥。だらだら流れる涙で血が流れてい
   く。

○芥家、家の前、夜
   木口の家の扉を強く叩く芥。
 芥「ババア!ババア!」  
   木口が家から出て来る。木口、一瞥し
   て、ベンチに座り、タバコを吸う木口。
 芥「ダバボぐれ。」
 木口「くっさ。」
 芥「ダバボ。」
   木口は吸っていたタバコを芥に咥えさ
   せてやるも、むせて吐き出してしまう。
 木口「情けないね。」
   泣いてしまう芥。
 木口「泣く前に先に風呂入りな。」
   
○海岸沿い、昼
   防波堤に座り、釣りをしている芥。頭
   には包帯が乱雑に巻かれている。芥の
   足元にはガムテープで補強されたゴル
   フクラブがある。垂らした釣り糸を回
   収し、釣り道具を片付ける。ゴルフク
   ラブをついて歩く。

○住宅街、昼
   ゴルフクラブを杖代わりにして歩いて
   いる芥。

○ショッピングモール、夜
   ゴルフクラブを杖代わりにして歩いて
   いる芥。

○山、朝
   ゴルフクラブを杖代わりにして歩いて
   いる芥。

○繁華街、昼
   ゴルフクラブを杖代わりにして歩いて
   いる芥。

○心愛宅近く、夜
   ゴルフクラブを杖代わりにして歩いて
   いる芥。心愛宅の、裏側に回り込み、
   窓から覗く芥。1人で、心愛がセーラ    
   ームーンのモノマネをしている。笑っ
   てしまう芥。芥に気づく心愛。芥、急
   いでその場から立ち去る。急ぎ足で歩
   いていると、後ろから走って来る心愛。
 心愛「待って!待って!おじちゃん!」
   芥、急ぎ足で歩くも、足が縺れて早く
   歩けない。心愛、芥に追いつき、服の
   袖を掴む。泣いて、何を言っているか、
   定かでない。芥、無視して歩き続ける。
   心愛も何かを言っているが、分からな
   いまま芥の後ろをついていく。
 心愛「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめ
  んなさい。」
   芥、無視して歩き続ける。涙を必死に
   堪える芥。それでも、心愛は叫び続け
   る。
 心愛「おじちゃんのせいじゃない。ごめん
  なさい。ごめんなさい。」
   縁石につまづいて転んでしまう心愛。
   そのまま歩いていく芥。
 心愛「おじちゃん!」
   芥、必死に涙を堪えたまま立ち去って
   いく。

○芥家、リビング、夜
   扉を開けて、部屋に入って来る芥。そ
   の場に座り込む。目の前に仏壇があり、
   倒れた写真立てを見つける。手で這っ
   て仏壇まで近づき、倒れている写真立
   てを立たせる。そこには、芥花(23)
   が海辺で写っている写真が挟まってい
   る。花の肩には芥の腕だけが写ってい
   る。芥、写真立ての後ろを外し、写真
   を取り出す。写真はおられており、ビ
   リビリに破いたアロハシャツを着た若
   かりし、笑っている芥が写っている。
   写真で顔を隠し、泣いてしまう芥。立
ち上がり、ハサミを手に取り、髪の毛 
   を切っていく。

○木口家、家の前、朝
   チャイムがなり、煩わしそうに扉を開
   けにいく木口。扉を開けると燕尾服を
   着て、髭はそのままで、坊主になって
   いる芥が立っている。
 木口「入仏かい?」
 芥「世話になった。」
 木口「世話してへんわ。」
   タバコを一本差し出す木口。無言でそ
   れを受け取り二人でタバコを吸う。ベ
   ンチに座っている二人。木口、芥の持
   っている物がゴルフクラブではなく、
   銛に変わっている。無言で、タバコを
   吸い終わる芥は立ち上がり、歩いてい
   く。銛を杖代わりにして、歩く芥。コ
   ン、コン、と金属音が聞こえる。

○ホテル、昼
   廊下を銛をついて歩いて来る芥。ある
   部屋の前で立ち止まり、チャイムを鳴
   らす。
 周防「はい。」
 芥「横澤さんからの伝言です。」
 周防「はい。」
   扉を開ける周防、目の前には芥が銛を
   持って立っている。後ずさる周防。芥、
   部屋の中に入っていく。
 芥「一人目やな。」
   芥、持っていた銛を振りかぶり、周防
   に勢いよく投げる。周防の口を突き刺
   し、壁に刺さる。血が飛び散る。周防
   は口をパクパクしている。血がダラダ
   ラ流れる。周防、芥の首を掴む。何か
   を言おうと口をパクパクしている。
 芥「何言うとんねん。」
   芥、手を振りほどき、銛を引き抜く。
   血が飛び出す。部屋から出ていく。血
   が止まらず、絶命する周防。

○高級ブランド服店、夕方
   服を適当に見繕い、店員に声をかける。
 横澤「試着していいですか?」
 店員「こちらでどうぞ。」
   横澤、試着室に入る。
 店員「終わりましたら、お声掛けください
  ませ。」
   店員、試着室のカーテンを閉める。服
   を脱ぎ、試着しようとする。すると、
   急にカーテンが開く。銛を持った芥、
   横澤の首元に銛を当て、カーテンを閉
   める。
 横澤「許して。」
 芥「ひー、で息を吸って、ふーで息を吐け。
  みーでもう一回息を吸え。わかったか?」
   そう言いながら、横澤の服を横澤の顔
   と首を隠すように当てる。
 横澤「わかった。」
 芥「ひー。ふー。みー。」
   息を吸った瞬間に、銛を首元に突き刺
   す。横澤にあてがっている服は血で汚
   れていく。芥、銛を引き抜き、試着室
   から出ていく。遠くにいた店員は試着
   室の傍に寄って来る。
 店員「どうですか?サイズとか?宜しけれ
  ば、在庫確認しますので。」
   足元を見ると、試着室から大量の血が
   流れて来る。パニックになる店員。

○海山海運、夜
   レオ、廊下で草戸と電話をしている。
 レオ「どうしたらいいんですか?!警察
  は!?うん。ハァ!?そのその間に来た
  らどうするんですか?!話したらダメで
  しょ!?」
  遠くから、コンコンと金属音が聞こえる。
 レオ「捕まっちゃうでしょ?!」
  金属音が鳴り止む。レオ、振り返ると芥
  が銛を杖代わりにして立っている。
 レオ「来ちゃったじゃん。」
  電話を切り、ポケットに仕舞うレオ。
 レオ「・・もうすぐ警察があんたを捕まえ
  に来ます。だから、もう無駄なんです。」
 芥「何がや?」
 レオ「だから、僕を殺したところで無駄な
  んです。」
 芥「それがなんや?」
   芥、銛を振りかぶり、レオに投げる。
   レオ、驚き咄嗟に避ける。 
 レオ「あっぶな。」
   芥、よろけながら銛のもとに歩いてい
   く。レオ、走って、ある机の引き出し
   を開けて、ナイフを取り出す。芥、レ
   オ、格闘の末、レオ、歩けず地面に蹲
   っている。芥、銛を振り下ろそうとす
   ると文太がやって来る。
 文太「やめてくれ!」
   芥、振り返る。
 芥「次はお前や。」
   銛をレオの首元に刺しこむ。レオは悲
   鳴をあげ、絶命する。
 文太「なんでこんなことすんねん。」
 芥「お前が一番わかってるやろ。」
 文太「何が?」
   芥、銛を引き抜き、一歩ずつ近づく。
   ポケットから汚れた顧客リストを目の
   前に差し出す。文太、それを見て理解
   する。
 文太「・・なんもかんも終わりや。育て方
  を間違えたんや。もう終わりや。殺せ。」
   文太、その場に座り込み、死体のレオ
   を見ている。芥、銛を振りかぶる。
 文太「俺が悪かったんかな?」
   振りかぶった銛を下ろす芥。文太から
   離れるようにして歩く芥。
 文太「・・殺してくれよぉ。なぁ!」
   芥その場から立ち去る。

○海、夜
   足を縺れさせながら、血みどろの芥は
   海に向かって歩いていく。パトカーの
   パトランプが海を照らしている。海に
   入っていく芥。
 芥「きれいやな。」
   突然、芥の目の前で鯨が潮を吹く。そ
   れを見てニタっと笑う芥。芥は海の中
   に消えていく。鯨の潮吹きはまだ続い
   ている。

○心愛宅、朝
   学校に行こうと家の扉を開けて外に出
   る。扉の鍵を閉めようと振り返ると、
   扉に紙袋が掛かっており、心愛様、と
   の張り紙がある。中を取り出すと、セ
   ーラームーンの変身グッズが入ってい
   る。心愛、空から雨が降って来たと思
   い、空を見上げると、空を鯨が飛んで
   おり、潮を吹いている。
 心愛「愛と正義の美少女戦士セーラームー
  ン!」
   ニコッと笑う。

○海山海運、昼
   文太は、多くの記者陣に囲まれている。
   文太、首に包帯が巻かれている。
 文太「今回の事件の発端は、我が息子が児
  童売春を発端とする事件です。息子の代
  わりに謝罪致します。申し訳ありません
  でした。」
   文太、土下座して謝罪する。目からは
   涙が溢れている。

○総合病院、トイレ、昼
 T「東京」
 T「10年後」
   トイレの扉が揺れている。男のため息
   が聞こえ、トイレットペーパーを取る
   音が聞こえる。トイレの水が流れ、ズ
   ボンのジッパーをあげる音が聞こえる。
 男「また今度会おうよ。」
 男「いいじゃん。」
 男「・・わかったよ。」
   男がトイレから出て来る。続いて、心
   愛(21)がポーチを持って、出て来
   る。服の裾を直し、鏡の前に立ち、乱
   れをチェックする。男がトイレに入っ
   て来る。驚く男に微笑みかけ、トイレ
   から出ていく心愛。

○総合病院、昼
   病院の受付に座る心愛と甲崎(24)。
 甲崎「ワコール」
 心愛「ルアー」
 甲崎「アボカド」
 心愛「ドリア」
 甲崎「アナスイ」
   受付に濱口(28)がやってきて、業
   務に戻る甲崎。
 濱口「いつもお世話になっております。宮
  地様いらっしゃしますか?」
 甲崎「いつもお世話になっています。少々
  お待ちください。」
   内線をかけている甲崎。濱口、ちら      
   っと心愛を見る男。微笑みかける心愛。 
 甲崎「それでは、3階のミーティングルー
  ム4にお願い致します。」
 濱口「ありがとう。」 
   濱口、立ち去る。
 心愛「囲炉裏。」
 甲崎「リンゴスター。」
 心愛「それズルくない?」
 甲崎「ビートルズじゃん。」
 心愛「タージマハル。」
 甲崎「ルー大柴。」
 心愛「バリーボンズ。」
 甲崎「誰それ?」
 心愛「ホームラン打つ人。」
 甲崎「へー、ズラタン・イブラヒモヴィッ
  チ。」
 心愛「誰それ?」
 甲崎「ゴール決める人。」
 心愛「ズラタンって苗字?」
 甲崎「うん。」
 心愛「ズルくない?リンゴスターの苗字
  は?」
 甲崎「リンゴじゃない?」
 心愛「スターが名前?」
 甲崎「うん。」
 心愛「へー。」

○ラブホテル、夜
   電車の車両のようなラブホテル。カバ
   ンを抱え席に座っている心愛。隣にバ
   スローブ姿の濱口が座る。髪を撫でる
   濱口。
 濱口「いつもこういうことしてんの?」
   カバンから化粧道具を取り出し、化粧
   をする心愛。
 心愛「ここすごいですね。」
 濱口「喜んでくれて嬉しいよ。」
   心愛、カバンを落とす。落としたカバ
   ンからセーラームーンの変身グッズが
   落ちる。慌てて、それを拾い、カバン
   に入れ直す。
 濱口「女の子ってやっぱそういうの好きな
  んだ?」
 心愛「姪っ子へのプレゼントですよ。」
 濱口「いいよ、別に隠さなくて。」
   心愛、荷物をまとめて、立ち上がり、
   部屋を出ようとする。
 濱口「冗談だって。」
 濱口「ごめん。」
   部屋を出ていく心愛。濱口、冷蔵庫か
   らチューハイを取り出し、飲む。勢い
   よく飲んだため、むせる。

○電車内、夜
   最終電車で口を開けて寝ている男やス
   マホをいじっている女らがいる。心愛
   は立って、アニメの中吊り広告を見て
   いる。
 心愛「愛と正義の美少女戦士セーラームー
  ン。」
   心愛、小声で唱える。窓に映る心愛は
   何も変わっていない。
 
○心愛宅、夜
   心愛はコンビニのビニール袋からビー
   ルを取り出し、飲みながら部屋に入っ
   てくる。乱雑で汚い部屋の中すり足で
   ものをどかしながら入ってくる。昌美、
   トイレからナプキンを持って出てくる。
   飲み物の入っていたビニール袋に入れ
   て、縛り、溢れかえったゴミ箱に投げ
   捨てる。昌美、心愛に向かって手を差
   し出す。財布から千円を取り出し、渡
   す心愛。それを受け取り、家を出てい
   く昌美。落ちているタバコをとり、吸
   い始める心愛。冷蔵庫から魚肉ソーセ
   ージを取り出し、食べる。隣の部屋の
   扉を開け、入る。ピンク色で統一され
   た部屋。物は整頓されている。上着を 
   ハンガーにかけ、大量のファブリーズ
   をかける。そのまま、ベッドに倒れこ
   みぼーっとしている。家に草戸が入っ
   てくる。草戸は心愛の部屋の扉をあけ、
   心愛を襲う。心愛、無抵抗にしている。
 草戸「抵抗せんと、おもんないやん。」
   心愛、無言で草戸を見る。
 心愛「なんも言わんとやれや、寄生虫。」
   草戸、心愛の腹を殴る。
 草戸「立場分かってへんみたいやな。」

○総合病院受付、昼
   受付で、座って来院者に会釈している
   心愛と甲崎。
 甲崎「しりとり飽きたくない?」
 心愛「なんでもいいよ。」
 甲崎「何がいいかな。」
 心愛「前とりは。」
 甲崎「何それ?」
 心愛「しりとりの逆。前でつなぐ。」
 甲崎「会社。」
 心愛「カネボウ。」
 甲崎「蚊。」
 心愛「蚊取り線香。」
 甲崎「これ意味なくない?」
 心愛「ないね。」
 甲崎「あー暇。」
 心愛「暇だね。」
 甲崎「話題ないの?」
 心愛「ないねー。」
   心愛に向かって歩いてくる矢野(25)。
   矢野、松葉杖をつきながら両手には大  
   量の紙袋でいっぱいである。紙袋の持
   ち手が破れ、書類が大量にばら撒かれ
   る。心愛と甲崎は立ち上がり、矢野を
   手伝う。矢野、松葉杖で屈めない。
 矢野「すみません、ありがとうございます。」
 甲崎「全然大丈夫ですよぉ。」
   書類を拾い終え、席に戻る心愛と甲崎。
 矢野「ほんと、すみません。ありがとうご
  ざいます。」
 甲崎「本日はどうされました?」
 矢野「サン&グリーン製薬の矢野と申しま
  す。本日、新しく開発しました技術のご
  紹介に参りました。」
 甲崎「かしこまりました。少々お待ちくだ
  さい。」
  内線をかける甲崎。矢野、心愛を見る。
  心愛、微笑みかける。
 甲崎「それでは、4回のミーティングルー
  ム1にお願い致します。」
 矢野「ありがとうございます。」
  矢野、立ち去る。心愛、松葉杖をついて
  左足を不自由そうにしながら歩いている
  矢野を見る。

○綜合病院、夜
  着替えを済ませ、帰宅しようとする。矢
   野、同じタイミングでエントランスで
   出会う。会釈する矢野。心愛も同様に
   会釈する。

○綜合病院、昼
   受付で座っている心愛、甲崎。矢野が
   松葉杖をついて歩いてくる。
 矢野「おはよございます。前橋さん、お願
  い致します。」
   心愛、内戦をかける。
 甲崎「矢野さん、今夜飲みに行きませんか?」
 矢野「あ、全然大丈夫ですよ。」
 甲崎「お友達連れてきてくださいよ。心愛
  も行きますから。」
 矢野「分かりました。」
 心愛「ミーティングルーム2にお願いしま
  す。」
 甲崎「電話ください!」
 矢野「は、はい!」
   矢野、立ち去る。
 甲崎「いいでしょ?」
 心愛「いいよ。」

○イタリアンバル、夜
   心愛、甲崎、高井(25)が3人で立
   って飲んでいる。矢野だけ、パイプ椅
   子に座っている。
 甲崎「嘘!絶対モテるでしょ!」
 高井「モテるんだけどねぇ、顔に胡座かい
  てんの。」
 矢野「胡座かいてねぇよ。」
 高井「気遣いができなくてさ、デートとか
  行ってもありがとうラインしないんだよ、
  こいつ。」
 矢野「鬱陶しいかなって。」
 甲崎「胡座かいてますね。」
   店員が飲み物を持ってくる。矢野、一
   礼をしてそれを受け取る。
 高井「おねーちゃん、これ下げて。」
 店員「かしこまりました。」
 矢野「すみません。」
   店員、飲み物を下げる。
 矢野「あんな言い方すんなよ。」
 高井「いいじゃん、ね?」
 甲崎「いいんじゃないですか?」
 矢野「自分がされたら嫌でしょ。」
 高井「これ二つ目、めんどくせぇの。」
 甲崎「確かに、めんどくさいかも。」
 高井「だから、童貞なんだよ。」
 矢野「ちょっと。」
   矢野、心愛を見る。
 甲崎「こんな、童貞いるんですね。」
 高井「珍種だよ。」
 矢野「珍種って、普通だよ。」
 甲崎「普通じゃない、普通じゃない。」
   電気が消える。店の奥から店員らが誕
   生日ケーキを持って、ある一角に向か
   っていく。
 甲崎「びっくりしたー。」
   ハッピーバースデイの曲を全員で合唱
   している。高井、甲崎も一緒に歌って
   いる。矢野、手拍子をしている。高井、
   甲崎一角を見ている隙に、心愛、矢野
   の肩を掴み、顔を矢野に近づける。
 心愛「あの、私とやりたいんですか?」
   その瞬間、電気がつき、客らは拍手
   している。
 高井「サプライズいいねぇ。」
 甲崎「私、誕生日来月なんですよ。」
 高井「矢野、メモとっとけ!」
 矢野「う、うん。」
   矢野、心愛を見ると、平然と飲み物を
   飲んでいる。

○繁華街、夜
   甲崎と高井、前を歩いている。甲崎、
   高井の腕に自分の腕を組んでいる。矢
   野、心愛は無言である。
 矢野「さっきの何?」
 心愛「・・勝手にイメージ押し付けられる
  のも嫌だし。先に言っておこうと思って。」
 矢野「イメージなんかしてないよ。」
 心愛「今日やる?」
 矢野「いや、段階的にさ。」
 心愛「段階ってなに?」
 矢野「・・心愛さんの事を知りたいと思う
  うし、思っているし。」
 心愛「じゃあ、やればいいじゃん。」
 矢野「・・だから、やってからとかじゃな
  くて。」
   心愛、脇道に矢野を引きづりこむ。高
   井、甲崎後ろを振り返る。
 高井「矢野もとうとうかー。」
 甲崎「記念日じゃん。」
 高井「どうする俺ら?」
 甲崎「行こっか。」
 高井「イエス!」
   二人は立ち去る。横道では、心愛が矢
   野に無理やりキスをしている。矢野、
   松葉杖で心愛を突き飛ばす。
 心愛「女舐めてんじゃねぇよ。」
   心愛、カバンを拾う。矢野の包帯の巻
   かれた左足をみる心愛。
 心愛「それじゃ。」
   矢野を置いて、立ち去る心愛。歩く心
   愛、タバコを取り出し、一服する。
 心愛「愛と正義の美少女戦士セーラームー
  ン。」

○心愛宅、夜
   心愛、部屋に入ってくる。玄関で座っ
   て待っている昌美。無言で手を差し出
   す昌美。顔に痣がある。千円を手渡す
   心愛。心愛、部屋に入っていく。
 昌美「大丈夫?とか言われへんの?」
   心愛、無言で着替えている。立ち上が
   り、心愛に詰め寄る。
 昌美「そんな憎いんか?なぁ?」
   心愛、振り返り、
 心愛「綺麗なったやん。」
   昌美、心愛を蹴る。ベッドに倒れこむ
   心愛。近くの手鏡で心愛を殴ろうとす
   る昌美。昌美の頭上から水がかけられ
   る。草戸がペットボトルの水をかけて 
   おり、昌美振り返って、殴りかかろう
   とするが、草戸に押さえられる。
 草戸「言うてた、3Pしよか。」
 昌美「いやや。」
 草戸「なぁ、誰のおかげで生活できると思
  ってんの?」
 昌美「あんたんせいやろ。」
 草戸「やかましいわ!」
 昌美「心愛の身体売らせたんあんたやん。」 
 草戸「じじいのせいやろが!」
   心愛、雑誌を草戸に投げつける。草戸、
   昌美から手を離し、心愛に詰め寄る。
 草戸「うん?なに?なにやった?なぁ?」
   心愛、足で蹴って、草戸を払おうとす
   るが、強く押さえ込まれる。
 昌美「雑魚が。」
   草戸、心愛から手を離し、昌美に近寄
   り、何度も蹴る。
 草戸「うっさいんじゃ!ボケ!」
   心愛、走って部屋から出ていく。
 草戸「待てこら!」
    
○道、夜
   ひたすら道を歩く心愛。

○総合病院、昼
   受付に座っている、心愛、甲崎。ガラ
   ス張りになっている外を歩いている矢
   野。
 甲崎「矢野くんいるじゃん。」
 心愛「うん。」
 甲崎「やっぱ童貞ってめんどくさいの?」
 心愛「なんもしてないよ。」
 甲崎「嘘だー。」
 心愛「ほんと。」

○ビルの屋上、夕方
   柵で濱口の顔だけが見えているが、腰
   を振っていることが動きで分かる。心
   愛が突然立ち上がり、スカートを直し
   始める。
 濱口「もうちょっと。」
 心愛「・・・」
 濱口「いいじゃん。」
 心愛「携帯貸して。」
   濱口、心愛に携帯を貸す。電話帳の心
   愛の連絡先を削除する。
 濱口「なにしてんの?」
 心愛「さよなら。」
 濱口「なんで!?」
 心愛「下手くそだよ。」
   その場から立ち去る。
 濱口「なんだよ!ビッチ!死ね!ビッチ!」
   心愛、濱口の元に戻り、携帯を奪い取  
   り、屋上から投げる。立ち去る心愛。
 濱口「なにしてんだよ!」
   屋上の淵から下を覗き込む。
 濱口「マジかよ〜。」
 
○総合病院、昼
   受付に座っている心愛と甲崎。受付に
   向かって昌美が歩いてくる。心愛の目
   の前で無言で手を差し出す。
 昌美「無視すんなや。」
 甲崎「どうされました?」
 昌美「金ちょうだい。」
 甲崎「そのようなことは。」
 昌美「心愛、金。」
 心愛「・・甲崎さん、警備員呼んでくださ
  い。」
 昌美「親不孝が!」
   受付に体を乗り上げ、心愛に殴りかか
   ろうとする昌美。心愛、立ち上がって、
   退く。
 甲崎「まじ。」
 昌美「どんだけ育てんのに金かかったと思
  ってんねん!お前!」
   警備員が走ってくる。昌美を抑える。
 心愛「・・金稼いでんの私やろ。フザケン
  ナ!」
 昌美「私のことなんもわかってへん!」
 心愛「教えてくれもせぇへんかったやろ
  が!」
 昌美「うるさい!死ね!」
   警備員が引っ張って、外に連れていく。
 心愛「死ね!」
   扉が閉まり、エントランスが静かにな
   る。甲崎、心愛を見ている。心愛、溜
   息をつき、荷物を片付ける。
 心愛「じゃあね。」
   受付から去る心愛。
 心愛「愛と正義の美少女戦士せーらームー
  ン。」
   扉を開けて、閉める。

○オフィス街、昼 
   会社の荷物を全て、持ち歩いている心
   愛。

○心愛宅、夜
   荷物を持って扉を開ける心愛。部屋に
   は草戸がタバコを吸って、テレビを見
   ている。
 草戸「金くれや。」
 心愛「ありません。」
   心愛、荷物を置き、椅子に座ってタバ
   コを吸う心愛。草戸、心愛に近づき、
   頭を引っ叩く。
 草戸「金。」
 心愛「働けばいいじゃないですか?」
   心愛の頭をもう一度引っ叩く草戸。
 草戸「誰のお陰で生きてこれてんの?」
 心愛「私でいくら儲けてんの?クソ野郎。」
 草戸「・・・」
   草戸、電話をかける。
 草戸「もしもし、金ある?」
 草戸「一回1万5千円。」
 草戸「じゃあ。」
   携帯を閉じる。
 草戸「シャワー浴びてこい。」
 心愛「嫌です。」
   草戸、心愛の髪の毛を掴み、引っ張り
   上げる。昌美、部屋の扉を開けて、入
   ってくる。
 草戸「昌美、客から片付けろ。」
 昌美「後でな。」
   昌美、心愛に近づき、一発殴る。
 草戸「殴んな!」
 昌美「はいはい。」
   倒れた心愛に詰め寄る草戸。
 草戸「な、準備しよか。」
   心愛、黙って風呂場に行く。

○心愛宅、夜
   シャワーの音がしている。男が草戸に
   金を払い部屋から出て行く。草戸、扉
   を閉め、金を数える。昌美、草戸から
   分け前の金をもらう。心愛、風呂場か
   らタオルを巻いて出てきて、部屋に向
   かう。
 草戸「うまなったな!」
 心愛「・・・」
 草戸「言うことさえ聞いてたら、なんでも
  買ったる。だから、言うこと聞け。」
   ビールを飲む草戸。
 草戸「これからもずーっと一緒や。」
   心愛、部屋から勢いよく飛び出し、灰
   皿を掴んで草戸の頭を殴る。草戸、倒   
   れこみ、もう一度、頭に灰皿を振り下
   ろす。その様子を黙って見ている昌美。
   ピクピクしている草戸。
 心愛「死ね。」
   草戸に何度も灰皿を振り下ろす。血ま
   みれの灰皿を机の上に置き、椅子に座
   る。タバコに火をつけ一服する心愛。
 昌美「どうすんのさ?」
 心愛「・・・」
 昌美「もう終わりやわ。」
 心愛「・・何やその顔。」
 昌美「・・・」
 心愛「関係ないみたいに思ってる?もしか
  して。」 
   火を消す心愛。灰皿を掴み、立ち上が
   る。
 心愛「昔から、自分語りが好きやったよな。
  私はこれだけかわいそう。私はこれだけ
  惨め。だから、ってなんか正当化してさ。    
  子供ながらに思ってたよ。腹立つなぁっ
  て。」
   灰皿を振り下ろす心愛。倒れる昌美。
   馬乗りになる心愛。
 心愛「お前さぁ、口臭いねん。」
   灰皿を振り下ろす。絶命する昌美。
 心愛「月に代わってお仕置きよ。」
 
○心愛宅、昼
   心愛、ベッドで寝ている。置きて、冷
   蔵庫に向かう。リビングには草戸と昌
   美の死体が転がっている。水をペット
   ボトルに口をつけて直接飲む。冷蔵庫
   の上にペットボトルを置き、椅子に座
   る。タバコを吸う心愛。

○繁華街、昼
   街中を歩いている心愛。交番が見える。
   交番に向かって一直線に歩いて行く。
   矢野が声をかけてくる。
 矢野「新川さん。」
   心愛、立ち止まる。
 心愛「・・何?」
 矢野「この前のこと、考えて。」
 心愛「私、ちょっと用事があって。」
   心愛、歩き始める。矢野、松葉杖をつ
   きながら追いかけてくる。
 矢野「考えて、考えて、結局分からなかっ
  たんです。」
 心愛「じゃあ、それでいいじゃん。」
 矢野「よくなかったんです。もっと、知り
  たいと思いました。」
 心愛「・・・」
 矢野「よく分かんないから、分かりたいん
  です。」
   心愛ら、交番の前に着くも、前にパト
   ロール中の札が出ている。
 矢野「財布落としたんですか?」
 心愛「・・人生棒に振る気ありますか?」
 矢野「どういう意味ですか?」
 心愛「なかったら結構です。」
 矢野「・・心愛さんと一緒なら。」
 心愛「じゃあ、ついてきてください。」

○心愛宅、夜
   扉を開ける心愛、部屋に入って行く。
   矢野、鼻を押さえながら、入って行く。
   中には、草戸、昌美が倒れている。
 矢野「何これ?」
 心愛「クソったれです。殺しました。昨日。」
 矢野「・・警察は?」
 心愛「さっき。」
 矢野「・・・」
   心愛、矢野に抱きつき、キスをする。 
 矢野「新川さん。新川さん!」
 心愛「女って普通じゃないんですよ。」
 矢野「ちょっと、ね、落ち着いて。落ち着
  こう。」
   矢野を引っ叩く心愛。
 心愛「私を好きな理由は?」 
 矢野「・・話してて。」
 心愛「清純って感じ?良妻賢母になりそう
  とか?ふざけんな。」
   椅子に座り、タバコを吸い始める。
 心愛「帰っていいですよ。」
 矢野「・・・」
 心愛「早く帰ってください。」
 矢野「・・とりあえずさ。」
 心愛「帰ってよ!」
   タバコを吸っている心愛。矢野、キッ
   チンに行き、サラダ油を持ってくる。
   昌美と草戸にかけ、中身のなくなった
   ボトルを丁寧に床に置く。
 矢野「・・人生棒に振ります。それぐらい
  好きです。」
   矢野、心愛を強く抱きしめる。心愛、
   笑って、タバコを草戸に投げ捨てる。
   火が燃え移る。

○心愛宅、外、夜
   燃えている心愛宅に人集りができてい
   る。松葉杖をついて歩く矢野と心愛が
   家から出てくる。
 住民1「大丈夫ですか?」
 矢野「大丈夫です。」
   矢野と心愛、早々に立ち去る。
 住民1「救急車呼ぼうか?」
 矢野「大丈夫です!」

○高速道路、車中、早朝
   ダッシュボードに『ガソリンを入れて
   お返しください。』と書かれたシール
   が貼ってある。そのダッシュボードを
   開けて、矢野の財布を取り出し、中身
   を確認する心愛。
 心愛「3万2千円入ってる。」
 矢野「どっかで下ろさないとですね。」
   パーキンエリアに入って、駐車する。
 矢野「ちょっと休憩でいいですか?」
 心愛「うん。」
   心愛、財布を取り、出て行く。矢野は
   シートをリクライニングして、寝転が
   る。心愛、タバコを咥えながら、缶コ
   ーヒーを二つもち、矢野側の窓に行き、
   窓から顔を覗き込む。窓をノックする
   心愛。矢野、松葉杖をとって、外に出
   る。朝焼けが目に染みる。バンパーに
   座っている心愛の元に近づき、座る。
   缶コーヒーを手に取り、二人飲む。
 矢野「疲れましたね。」 
 心愛「うん。」
 矢野「・・・でも、今日会社行かなくてい
  いんですね。」
 心愛「そうだね。」
 矢野「あー、自由な感じ、すごいですね。」
 心愛「うん。」
 矢野「・・・キスしていいですか?」
 心愛「段階は?」
 矢野「放火でぶっ飛びました。」
   矢野、心愛にキスをする。二人はバン
   パーに寝転び、もう一度キスをする。

○道路、海沿い、車中、夜
   心愛は眠り、矢野は運転している。ラ
   ジオからニュースが流れている。
 アナウンサー「昨夜発生した家屋から焼死
  体が発見されました。焼死体の解剖の結
  果、火災発生前に何者かによって鈍器で
  頭部を数回殴られた後に、絶命したこと
  が警察署への取材で明らかになりました。
  事情を知っているとして、3日前から消
  息不明の娘、新川心愛さんを全国指名手
  配しました。また、火災発生時、近隣住
  民が新川さんと親交のあった矢野智明さ
  んと思われる人物とともに逃亡するとこ
  ろを目撃しており、なんらかの事情を知
  っているものとして、ともに指名手配さ
  れました。矢野さんは失踪前に近くのレ
  ンタカーから車を借りていることから、
  車で逃走している可能性があるとし、捜
  査網を広げているとのことです。見かけ
  た方は、警察への情報提供をお願い致し
  ます。」
   ラジオを切る矢野。車を路肩にとめる。
   心愛を揺らし、起こす矢野。起きる心
   愛。
 矢野「心愛、俺ら指名手配されてる。」
 心愛「・・へー。」
 矢野「お金、あといくらある?」
   心愛、財布を探る。
 心愛「1万9千円。」
 矢野「・・金下ろせないもんな。:
 心愛「・・そうだね。」
   矢野、ハンドルにもたれかかる。心愛、
   外に出てタバコをする。ハンドルに突
   っ伏している矢野を見る心愛。タバコ
   の火を消し、中に入る心愛。
 心愛「近くにパチンコないかな?」
 矢野「それはダメだって。」
 心愛「そういうことじゃないから。」
 矢野「なにすんの?」
 心愛「とりあえず、出して。」
   車は出発する。

○パチンコ店、駐車場、夜
   車が止まり、心愛は化粧ポーチを取り
   出し、サンバイザーを下ろし、鏡を見
   ながら化粧をする。
 矢野「なにしてるの?」
 心愛「ちょっと黙ってて。」
   メイクが終わり、化粧道具を片付ける。
 心愛「ここで待ってて、絶対来ちゃダメ。」
   車を出る心愛。履いているスカートを
   上に引っ張り上げる。歩いて入り口に
   向かう心愛。店内に入ると、音がうる
   さく、耳を塞ぐ心愛。すぐに手を出し、
   店内を歩いて周りを見渡す。多くの客
   がパチンコをしている。心愛は歩いて
   いると、ケースを積み上げている客が
   いる。近寄って話しかける心愛。
 心愛「当たってますね!」
 男「そじゃろ!今日は特に当たっとるん
  よ!」
 心愛「景気がいいし、今日はどうするんで
  すか?」
 男「酒でも飲んではしゃぐかの!」
 心愛「なら!私と遊びませんか?」
 男「・・・からかわれんの慣れとらんき、
  やめてくりゃ。」
 心愛「冗談じゃないですよ!」
   心愛、指を2本見せる。
 心愛「これでどうですか?」  
 男「・・・これ終わるまで待ちよって。」
 心愛「はい!」

○パチンコ店、駐車場。夜
   矢野、ハンドルに突っ伏して寝ている。
   心愛、パチンコ店から出て、車に向か
   ってくる。車の扉を閉める音で目覚め
   る矢野。心愛、矢野に4万円を差し出
   す。
 矢野「どうしたの?」
 心愛「・・・」
   シートベルトを締める心愛。
 心愛「疲れた。ホテルいこ。」
 矢野「そんなにパチンコ強いんだ。」
 心愛「うん。」
   車は出る。

○ラブホテル、夜
   室内に入ってくる心愛と矢野。
 矢野「すごいっすね。」
   心愛、服をベッドに投げ捨て、シャワ
   ーを浴びにいく。矢野、照明を無闇に
   つけてみたり、特殊な装置に驚く。ク
   ローゼットからバスローブを見つけ、
   着替える矢野。心愛の脱いだ服を見つ
   け、拾い、畳もうとする。中にティー
   バッグがあり驚く。ティーバッグに白
   い汚れがあり、必死に擦って取ろうと
   する。汚れが取れず、畳みクローゼッ
   トにしまう。心愛の服をハンガーにか
   けようとすると、コンドームの袋が2
   つ落ちる。拾い上げる。

○同ラブホテル、夜
   矢野、カラオケで浅川マキの『それは
   スポットライトではない』を歌ってい
   る。心愛、シャワーからバスローブ姿
   で出てくる。
 心愛「これ、ありがとう。」
   矢野、歌い続けている。冷蔵庫からビ
   ールを2つ取り出し、椅子に座る。ビ
   ールを飲む心愛。曲を歌い終え、椅子
   に座る矢野。 
 心愛「これ。」
 矢野「ありがとうございます。」
   差し出されたビールを飲まない矢野。
 矢野「歌います?」
 心愛「大丈夫。」
 矢野「じゃあ、後一曲歌いますね。」
   矢野、曲を探している。
 矢野「パチンコってあんなに稼げるものな
  んですか?」
 心愛「・・うん。」
   心愛、机の上に置いてある使用済みコ
   ンドームの袋2つに気がつく。矢野、
   曲を入れる。サンボマスターの『美し
   き人間の日々』が流れる。歌う矢野。
 心愛「・・いや、これはさ。」
   無視して、歌う矢野。
 心愛「ちゃんと聞いて。」
   それでも、矢野歌い続ける。心愛、曲
   を停止する。矢野、マイクを置き椅子
   に座る。
 心愛「ちゃんと聞いて。」
 矢野「もう僕恥ずかしいんです。」
 心愛「・・」
 矢野「おやすみなさい。」
   矢野、ベッドに寝転ぶ。
 矢野「・・僕のことどう思ってます?」
 心愛「・・・」
 矢野「都合のいい男ですよね。僕。」
 心愛「・・何自分に酔いしれてんねん。」
   矢野の泣き声が聞こえる。心愛、矢野
   にビールの空き缶を投げ捨てる。
 心愛「仕方ないやんか。」
   矢野、心愛に振り返り
 矢野「ひょいひょいついて行って、人燃や
  して、会社行かずに車借りて逃げて、好
  きな人が体売って金稼いでて、これで都
  合がよくなかったら何なんだよ!」
 心愛「だから、確認したやろ!」
 矢野「こうなるって分かるわけないだろ!」
 心愛「じゃあ、出てけや!」
   心愛、立ち上がり部屋の扉を開ける。
 心愛「ほら!」
 矢野「飛躍してるんだって!僕は説明して
  欲しいんだよ!」
   心愛、扉を閉めて、矢野に近寄る。
 心愛「説明って何?」
 矢野「ちゃんと、全部!」
 心愛「はい、じゃあ。体売って生活してき
  ました。それが私の普通です。金がない
  です。体売ります。これで生きてきまし
  た。」
 矢野「もういい。」
   心愛、矢野に無理やりキスをする。拒
   む矢野は心愛の身体を突き放そうとす
   るが、心愛がしがみつく。矢野、力強
   く押すと心愛はベッドから落ちる。
 心愛「私の気持ちをわかってくれなんて思  
  ってへんから。」
   心愛、立ち上がり、タバコを取り出し、
   吸い始める。矢野、うつ伏せになり、
   泣いているのが分かる。

○繁華街、夜
   松葉杖をついて、スーツを着た矢野、
   道行く人に声をかけている。
 矢野「どうです?お姉ちゃん。」
   通行人は無視して、通り過ぎて行く。
   通行人に声をかけようとした際に隣の
   キャッチの足に当たる。
 キャッチ「さっきから邪魔やな!」
 矢野「すみません。」
 キャッチ「目障りやわ。」
   キャッチ、電話をかける。
 矢野「頑張るんで、ちょっと待ってくださ
  い。」
 キャッチ「お疲れ様です。今日から入った
  やつ邪魔なんですよ。客も引いちゃうし、
  辞めさせてくださいよ。」
 矢野「ご迷惑かけさせないんで。」
 キャッチ「はい、もちろんすよ。了解です。
  ありがとうございます。失礼します。」
   キャッチ、電話を切ってしまう。
 キャッチ「携帯出して。」
 矢野「もうちょっとさせてください。」 
 キャチ「しつこいな!」
   矢野、ポケットから携帯を取り出し、
   手渡す。
 キャッチ「お疲れ。」
   キャッチ、通行人に声をかける。矢野、 
   その場から立ち去る。矢野、自動販売
   機でビールを買い、飲みながら歩いて
   いる。

○ラブホテル、夜
   部屋の扉を開けて入ってくる。心愛、
   部屋で爪にマニキュアを塗っている。
   千鳥足の矢野、ベッドに倒れこむ。マ
   ニキュアを直し、片付けて支度をする。
 矢野「・・またです。すみません。」 
 心愛「いいよ。大丈夫。」
   コートをとって、扉を開けて外に出る
   心愛。
 心愛「いってきます。」
   部屋から出て行く心愛。矢野、ベッド
   に腕を何度も振り下ろす。

○道路、海岸沿い、昼
   車を運転している矢野、無精髭が濃く
   生えている。隣には、心愛が派手な服
   装をして、鏡を見ながら化粧をしてい
   る。海岸沿いで釣りをしている男がい
   る。ゆっくり、車を止め、心愛、服装
   を確認して車から降りて、釣りをして
   いる客に近づいていく。矢野、タバコ
   に火をつける。心愛、釣り人に話しか
   け指を2本差し出している。それを見
   ている矢野。ラジオをつけると芸人の
   ラジオが流れている。騒々しい笑い声
   にラジオを切る。心愛、釣り人を連れ
   て、車に向かって歩いてくる。矢野、
   車から降りて、反対側にあるコンビニ
   に入る。心愛と釣り人は車に乗り込む。
   漫画を立ち読みする矢野。

○住宅街、公園近く、夜
   公園でタバコを吸っている矢野。車は
   揺れている。歩いて近づいて行く矢野。
   揺れている車のバンパーに寝転がる。
   仰向けになり、首を仰け反らせ、中を
   覗く。男に抱きつかれて腰を振ってい
   る心愛が逆さに映る。
 矢野「安心な僕らは旅に出ようぜ。思い切
  り泣いたり笑ったりしようぜ。」
   矢野、くるりの『ばらの花』を口ずさ
   んでいる。男が腰を振るのをやめる。
   心愛、起き上がりダッシュボードを開
   けようと前のめりになる。心愛と矢野
   は目が合う。
 矢野「弱虫すぎて、踏み込めないまま朝を
  迎える。」
   心愛、ダッシュボードからティッシュ
   を取り出し、男に渡す。男、使ったテ
   ィッシュを車内に捨て、財布を取り出
   し、2万円を心愛に手渡す。車の扉を
   開け、外に出る。男は矢野を見て、
 男「ごちそうさん。」 
   男、立ち去る。矢野一服する。心愛、
   服を整え、助手席に体を滑り込ませる。
   サンバイザーの鏡で髪の毛を整える。
   ダッシュボードからファブリーズを取
   り出し、車内に吹きかける。ダッシュ
   ボードにファブリーズを戻し、タバコ
   を吸う心愛。矢野、車内に乗り込み、
   エンジンをかけ、車は発進する。住宅
   街を走っている車。心愛、突然窓を開
   け、嘔吐する。矢野、車を止める。心
   愛、扉をあけて、半身を出し、嘔吐す
   る。嘔吐が止まり、唾を吐く心愛、扉
   を閉める。ダッシュボードからティッ
   シュを取り出し、口を拭いて、窓から
   捨てる。
 心愛「ドラッグストア行って。」
   車は発進する。

○ドラッグストア、夜
   駐車している車の中で待っている矢野。
   心愛、ビニール袋を下げて車の中に入
   ってくる。飲み物と妊娠検査薬を取り
   出し、飲み物を一口飲み、パンツを脱
   ぐ心愛。妊娠検査薬を入れる心愛。シ
   ートを後ろに倒し寝そべる矢野。
 心愛「念のためやから。」
   矢野、車から出て、車買えあ離れた所
   まで歩いていき、心愛をじっと見てい
   る。タバコを吸おうとするが、噎せて
   しまう矢野。心愛、妊娠検査薬を取り
   出し、確認する。心愛、車を降り、矢
   野に向かって歩いていく。矢野、心愛
   から逃げるようにして歩いていく。矢
   野を追う心愛。
 矢野「・・絶対に見せないで。」
 心愛「・・・」
   矢野、歩いて逃げる。
 心愛「・・陽性やったわ。」
 心愛「矢野君、逃げてええよ。」
 矢野「・・それは性格悪いって。」
 心愛「だって、責任ないやん、感じんとい
  てほしい。」
 矢野「・・関係ないもんな。」
 心愛「そういう意味ちゃうって。」
 矢野「思ってなかったらそんなこと言えな
  いよ。」
 心愛「なんでそんな嫌な言い方しかできへ
  んの?」
   妊娠検査薬を矢野に投げつける。立ち
   止まる矢野、落ちている検査薬を見る。
 矢野「結局さ、押し付けてるんだよ。ずっ
  と。不幸な自分を慰めてほしんだよ。い
  い加減にしろよ。いい加減にしろ!」
 心愛「いつ私が押し付けたん?!」
 矢野「そういう態度がだろ!」
 心愛「私なりに頑張ってるだけやって!」
 矢野「その態度が腹が立つ!僕は関係ない
  んだろ!」
 心愛「だから、もういいよって。」
 矢野「私、私。僕たちの問題だろ。」
 心愛「逃げてるからやん!」
 矢野「もういい。」
   矢野、車に向かって歩き出す。追いか
   ける心愛。
 心愛「話終わってへんやん!」
 矢野「もういい、無理。」
 心愛「ヘタレ!」
   矢野、無視して歩く。心愛、矢野を打
   つも無視して歩く矢野。
 心愛「ビビって手出してこなかったくせ
  に!」
   矢野、振り返り、心愛をビンタする。
   心愛、立ち尽くしている。矢野、すか
   さず車に乗り込み、エンジンをかけラ
   イトを照らす。照らされた心愛は泣い
   ている。
 矢野「・・・ほんとにずるいな。」
   ハンドルに項垂れる矢野。

○ラブホテル、朝
   矢野、お金を数えている。3万円ほど
   しかない。寝ている心愛の布団がめく
   れる。お腹が大きくなっているのが分
   かる。片目を瞑り、指でお腹を隠す。
   指を離すと、心愛のお腹が膨れている
   のが見える。矢野、立ち上がり、冷蔵
   庫からビールを取り出し、飲む。心愛、
   立ち上がり、顔を洗う。タバコを吸お
   うとする矢野、空になっているのに気
   づく。
 矢野「車で待ってる。」
   矢野、部屋を出ていく。

○海岸沿いの道、昼
   車で道を走っている。矢野、心愛共に
   無言である。

○簡易宿、夜
   狭い部屋に寝ている心愛と矢野。心愛、
   起き上がり、タバコをとって、部屋の
   外にでる。

○同簡易宿、外、夜
   簡易宿から出てくる心愛。タバコを吸
   う。息が浅くなり、呼吸が荒れる。嘔
   吐する心愛。近くの自動販売機まで行
   き、水を買い、飲む。また、嘔吐する。
   口を水で濯ぐ。自動販売機に凭れかか
   る。心愛、手のひらで自分の腹を殴る。
   拳を握り、何度かお腹を殴る。
 心愛「イッタイ。」
  
○繁華街、夜
   矢野、ビールを片手に歩いている。キ
   ャッチのお姉さんが声をかける。
 キャッチ「お兄さん、遊び足りなくない?」
   矢野、立ち止まり、キャッチを見る。
 矢野「すみません、どうしてこういうとこ
  ろで働いてるんですか?」
   キャッチ、矢野を無視して他の通行人
   に声をかける。
 矢野「無視とか、やめてください。」
 キャッチ「遊び足りないでしょー。お兄さ
  ん。」
 矢野「教えて欲しいんですよ。体売って金
  稼ぐってどういう気持ちなんですか?」
 キャッチ「いい加減にしてくんない?」
 矢野「僕ね、客の子供妊娠した女の人と一
  緒に生活してるんですよ。」
 キャッチ「うざ。」
 矢野「うざいんですかね?僕。うざいです
  か?好きな女の人のこと考えてるって、
  うざいんですかね?生活のためだからっ
  て、嫌なものは嫌じゃないですか。」
   泣き始める矢野。キャッチ、走って矢
   野から逃げる。

○道路、夜
   車を運転している矢野、助手席に座っ
   ている心愛。

○繁華街、夜 
   道に立って、声をかけている心愛。
 心愛「遊んでいきませんか〜?」
   心愛の姿を見て、通り過ぎていく通行
   人。矢野、少し離れたところでその様
   子を見ている。
 心愛「暇だったら遊んでいこうよ。」
   男らは無視して通り過ぎていく。強面
   の男2人が心愛の近くを通る。 
 男「誰が買うねん。」
 心愛「なんか言った?」
   男2人、立ち去っていく。それでも、
   声をかけ続ける心愛。矢野、心愛に近
   づき、手を掴んでその場から離れよう
   とする。
 心愛「痛いって。」
   掴まれている手を離そうとするが、強
   く握られている。
 心愛「離して。」
 矢野「もう止めよう。」
 心愛「まだできるって。」
 矢野「無理だよ。」
 心愛「大丈夫。」
 矢野「帰ろう。」
   腕を振り切ろうとするも力が強く、心
   愛、矢野顔を叩く。それでも、引張抵  
   抗とする矢野。心愛、何度も、矢野の
   顔を叩く。
 心愛「これでしか金の稼ぎ方が分からんの。」
   サラリーマンが近くを通る。
 サラリーマン「妊婦に手出すなや。」
   矢野、動きを止める。
 サラリーマン「汚ったない格好して。」
 矢野「・・何に見えてました?」
 サラリーマン「ちょっかい出そうとしてる
  んちゃうの?妊婦に。」
 矢野「・・そうですか。」
   後ろから心愛、サラリーマンを叩く。
   サラリーマン、心愛に振り返り。近寄
   る。
 サラリーマン「何すんの?」
   心愛、サラリーマンを叩き続ける。
 サラリーマン「やめろや!」
   矢野、心愛の腕を掴み、サラリーマン
   から引き離す。そのまま引きずって立
   ち去る。
 サラリーマン「なんやねん!」
   心愛、矢野を叩いて腕を離させようと
   するも、矢野は腕を離さない。
 矢野「もういいって。」
   心愛、叩くのをやめる。
 心愛「許されへん。」
   矢野、心愛を無言で引っ張って歩いて
   いく。矢野、立ち止まり、財布を取り
   出す。中身を確認するも891円しか
   入っていない。
 矢野「・・これで最後にしませんか?」
   矢野、金を差し出す。
 矢野「心愛を買います。」

○パチンコ店駐車場、夜
   大きい立体駐車場に心愛らの乗ってい
   る車だけが止まっている。車から服を
   着ながらおりてくる矢野。バンパーに
   座りタバコを吸う。中から矢野の服を
   羽織って車から降りてくる心愛。バン
   パーに心愛も座る。矢野、吸っていた
   タバコを心愛に渡し、受け取ったタバ
   コを吸う心愛。タバコを返し、矢野は
   タバコを吸う。矢野の頬にキスをする
   心愛。矢野、立ち上がり、
 矢野「ちょっとトイレ行ってきます。」
 心愛「うん。」
   矢野、吸っている心愛に手渡し、歩い
   ていく。心愛、もらったタバコを吸う。
   歩いていく矢野、一度振り返る。目が
   合う心愛。矢野は目を伏せ、前に向き
   直り、歩き始め、見えなくなる。

○同パチンコ店駐車場、朝
   車の中で寝ている心愛。外には店員が
   中を窺っており、窓を叩く。
 店員「スイマセーン。」
   心愛、目覚め、窓を開ける。落ちてい
   るパンツが現れ、慌てて隠す。
 店員「昨日から止めてますよね?」
 心愛「はい。」
 店員「すぐ出て行ってもらっていいです
  か?」
   心愛、矢野がいないことに気がつく。
 心愛「一人トイレ行ってて、帰ってきてか
  らでいいですか?」
 店員「早めにお願いしますね。」
   店員立ち去っていく。タバコを取り出
   し、一服する。ラジオをつける。
アナウンサー「容疑者は鈍器で草戸健介さん、
  新川昌美さんを殺害後、火をつけ証拠を
  隠滅し、娘の新川心愛さんを誘拐。そし
  て、抵抗する心愛さんを殺害し、海に遺
  棄したと述べていることが警察への取材
  で明らかになりました。矢野智明容疑者
  は今後。」
   後ろで引き続きニュースが流れている。
   心愛、タバコを捨て、助手席から運転
   席に座りなおす。ハンドルを強く握り
   直す。ハンドルを強く殴る。クラクシ
   ョンが鳴る何度もハンドルを殴り、ク
   ラクションがその度に鳴る。ハンドル
   に凭れる。クラクションがなり続ける。
   さっきの店員が走ってきて、窓を叩く。
 店員「何やってんすか!」
   心愛、店員に気づき、窓を開ける。
 店員「早く!クラクション!」
 心愛「トイレ行ってなかったです。交番行
  ってました。」
 店員「は?」
 心愛「今出ます。」
   窓を閉め、エンジンをかける。
 心愛「愛と正義の美少女戦士セーラームー
  ン。」
   おぼつかない運転で、駐車場から出て
   いく。

○海沿いの道路、昼
   海沿いの道路に心愛の乗っている車が
   停まる。車は凹みや傷だらけである。
   窓を開け、嘔吐する。ダッシュボード
   からティッシュを取り出し、口を拭く。
   ラジオからくるりの『ばらの花』が流
   れている。泣き出してしまいそうにな
   る心愛、歯を食いしばり泣くのを堪え
   ようとするも、涙が溢れてくる。フロ
   ントガラスから見える海に鯨の潮吹き
   が見える。泣いている心愛は呆然とし
   ている。エンジンをかけ、アクセルを
   踏み、車を出す。

○海岸沿い、道路、夜
   心愛の乗った車が走っている。

○繁華街、夜
   風俗街に立って、通行人に声をかけて
   いる心愛。心愛の前を通り過ぎていく
   通行人。それでも、笑っている心愛。

○道路、朝
 車を運転している心愛。陣痛が始まり、
 息が荒くなり、脂汗も止まらない。
 心愛「もうちょっと、待って。」

○パチンコ店、朝
   駐車場に心愛の車が止まり、降りてく   
   る心愛。店内に入る。パチンコをして  
   いる客の横を通っていく。トイレを見
   つけ、中に入る。トイレから心愛の力
   んでいる声が聞こえる。突然、赤ちゃ
   んの泣き声が聞こえる。

終わり

この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
本棚のご利用には ログイン が必要です。

コメント

  • まだコメントが投稿されていません。
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。