そんな世界はありえない 日常

廃れていくオンラインゲームに注ぎ込んでいる松本昌也(19)は引きこもってまで熱中していた。ユーザーの離脱と現状の打破を友人の高木竜司(19)と共に模索する。
M.K. 12 0 0 03/01
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第一稿

<登場人物>
松本 昌也(19) 引きこもりの大学生
高木 竜司(19) 昌也の友人

<本文>
○昌也の家・外観
  二階建てのアパート。

○オンラインゲーム・ ...続きを読む
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<登場人物>
松本 昌也(19) 引きこもりの大学生
高木 竜司(19) 昌也の友人

<本文>
○昌也の家・外観
  二階建てのアパート。

○オンラインゲーム・コミュニティ広場
  噴水の前でカエルのアバターがお金をばら撒く。
カエル「(吹き出し文字)他界しまーす!勝手に持ってけー!」
  様々な動物のアバターが、お金をばら撒き始める。
ウマ「(吹き出し文字)次は、NFOで会おうぜ!」
キリン「(吹き出し文字)みんな時代の波に取り残されるなよ。時代はVRMM
 Oだよ」
  フードを被った男の子のアバターが傍観している。

○昌也の家・居間
  真っ暗な部屋にパソコンの明かり、その前に松本昌也(19)がいる。
  閉まったカーテンの隙間から僅かに日差しが入る。
  ドアのポストに督促状、支払い請求書が詰まっている。
  キーボードを叩く音で、請求書が落ちる。
  頭を搔く昌也、エンターキーを連打する。
  パソコン画面のアバターが次々にログアウトしていく。
  金髪のアバターが手を振っている。
金髪「(吹き出し文字)おいおい、焦るなよ。お前は、ここの住民だろ」

○オンラインゲーム・コミュニティ広場
  フードを被ったアバター、金髪アバターに執拗に当たる。
金髪「(吹き出し文字)だりぃな。通報するぞ」
フード「(吹き出し文字)そっちが悪い」
金髪「(吹き出し文字)文字打つの、面倒だから通話に切り替えるね」

○昌也の家・居間
  パソコン画面端に『りゅうじ』からの着信アイコンが出る。
昌也「(通話して)なに?暇なの?しかも、テレビ電話……」

○昌也のパソコン画面・テレビ電話
  覗き込む高木竜司(19)が映ってる。
竜司「久しぶりに、みすぼらしい姿を見ようかと思ってたけど、顔だけは洗って
 んだな。引きこもり」

○竜司のスマホ画面・テレビ電話
  真っ暗な画面に、微かに昌也の口元が映っている。

○昌也の家・居間
昌也「引きこもりって……そっちも高校の時に、引きこもってただろ。大学デビ
 ューのくせに」
竜司「(通話)だから引きこもりの気持ちが分かるんだよ。俺の優しさに感謝し
 ろよ」
昌也「うざ。上から目線で。感謝されたいなら、イーアールからの離脱が進む現
 状をどうにかしてよ」
竜司「(通話)お前も離脱したらいいだろ」
昌也「それは無理だね。これは命だ」

○オンラインゲーム・コミュニティ広場
  フードのアバター、王冠が着せ替えられる。
昌也の声「これはログインイベで、一年間連続毎日二十時間ログインすると貰る
 やつ」
 フードのアバター、スフィンクスになる。
昌也の声「これは二百三十万課金アバター」
  スフィンクスのアバター、フード姿に戻って団子を食べる。
昌也の声「これは、お月見」
竜司の声「もういいよ。命ってのは伝わったよ」

○昌也のパソコン画面・テレビ電話
  竜司、あくびをする。
竜司「アカウント売って移行すれば?」
昌也「(通話)落ち目のゲームを誰が買うんだよ」
竜司「運営に問い合わせて、嘆願するとか」

○竜司のスマホ画面・テレビ電話
  昌也からメッセージが届く、問い合わせメールで一杯の画像。
竜司「……もうやってたのね」

○昌也の家・居間
  昌也、机を指で叩く。
昌也「方法ない?」
竜司「(通話)ぶっちゃけ、落ち目の時点でアウトだね。これを機に外に出れば
 いいじゃん。俺みたいにさ」
昌也「無理だね。外は明るい」
竜司「(通話)ならサングラスしろよ」
昌也「無理だね。人がいる」
竜司「(通話)……お前は今まで、どうやって暮らしてきたんだ」
昌也「それは、イーアールの配信コンテンツでだよ」
竜司「(通話)そういう事じゃねぇよ。兎も角、少し外見てみろ。まずは、そこ
 からだ。出たら……良いもの買ってやるよ」
昌也「良いもの?……ちゃんと買ってよ」

○昌也のパソコン画面・テレビ電話
竜司「じゃあ、少し頑張ってみろよ。じゃあ切るぞ」
昌也「(通話)……できたらね」
竜司「やれよ。切るからな(通話を切る)」

○昌也の家・居間
  昌也、ドアを見る。
  パソコン画面のアバターを揺れている。
  立ち上がる昌也、玄関に向かう。
  
○同・玄関
  書類と履き潰した靴を踏む昌也の裸足。
  チェーンロックを外す昌也、鍵に手を掛ける。
  昌也、手を鍵から離してドアスコープを覗く。

○ドアスコープ
  何もない家の前。

○昌也の家・玄関
  昌也、左右上下に動いてドアスコープを覗く。
  鍵に昌也の手が掛かる。
  音を立てないように鍵を開ける昌也、ドアを開く。

○同・前
  ドアがゆっくりと開き、隙間から昌也の顔が出てくる。
  ドアの隙間から顔を出した昌也、ニヤつく。
郁也「(呟く)余裕余裕」
  隣のドアの開く音でドアを閉める昌也。

○同・玄関
  ドアの前で固まる昌也。カップルの会話が聞こえる。
  昌也の耳がドアにつく。
  足音が遠ざかる。
  昌也、ドアを開ける。

○同・前
  昌也、足をサッと地面につけてドアを閉める。

○同・居間
  足早にパソコンの前に座る昌也、パソコンをいじる。
昌也「もしもし」
竜司「(通話)なんだよ。さっき話ししただろ」
昌也「外に出たよ!」
竜司「(通話)……そうか」
昌也「何その反応、冷た。で、良いものって何?」
竜司「(通話)じゃあ次は、誰かと話してみるだな。頑張れよ」
  通話画面が切れる。
  昌也、玄関に向かう。

○商店街
  電話をする竜司。
竜司「あ、有紀ちゃん。もうすぐ着くよ」

○昌也の家・玄関
  アイスコープを覗く昌也。

○アイスコープ
  タバコを吸う男性が立っている。
  タバコを吸う男性の虚な目。

○昌也の家・玄関
  昌也の手がドアを開けるか躊躇している。
  アイスコープを覗く昌也の口元が歪む。
  昌也の手が止まる。
  昌也、諦めて居間に向かう。

○同・居間
  ベッドに横になる昌也、視線の先にパソコンがある。
  パソコンにフードのアバターが映っている。
昌也「別に、自分自身が変わる必要なんてないよな?」
  パソコンに映ったフードのアバターから吹き出しがでる。

○オンラインゲーム・コミュニティ広場
  フードのアバターと昌也が立っている。
昌也「なんで?」
フード「(吹き出し文字)ここは君が居たいと思う世界さ」
昌也「……」
フード「(吹き出し文字)変わりたいんでしょ。だから外に出ようとした」
昌也「(顔を背ける)」
フード「(吹き出し文字)ここは、あなたの住む世界じゃない。いずれなくなっ
 て、消えて無くなる。人も同じ。遅いか早いか。それなら、君自身が次のステ
 ージに進んでもいいんじゃないかな?」
昌也「でも、そしたら積み上げてきたものが……」
フード「(吹き出し文字)それは……それを胸に、次で活かせばいい。経験は技
 術に、栄光は力になるから」
昌也「……自信もないし」
フード「(吹き出し文字)大丈夫、僕が見てるから」
  足から消えて行くフードのアバター。
昌也「待って!」

○昌也の家・居間
  ベッドから起き上がる昌也、パソコンを見る。
  パソコンに映るフードのアバター。
昌也「(呟く)夢か……」
  ゆらゆらと動くフードのアバター。
  起き上がる昌也、玄関に向かう。

○同・玄関
  昌也、思いっきりドアを開ける。

○同・前
  ドアを開けた昌也、視線の先にイチャつくカップル。
  彼氏と彼女、昌也を冷たい目で見る。
  昌也、音を立てずにドアを閉める。
昌也「外で何やってんだよ。昼間っから、家でやれ!」

○ホテル・一室
  ズボンを履く竜司、くしゃみをする。
竜司「(鼻をすする)ああ、誰か呼んだか?」

○昌也の家・前
  静かになった家の前、誰も居ない。

○同・居間
  昌也、カップラーメンを食べている。
昌也「何あれ?マウント?見せつけてるの?別に僻んでませんけど……。(叫
 ぶ)俺は一生、引きこもりでいい!」
竜司「(ドアの奥から)なに、ダサいこと叫んでるんだ。壁薄いんだぞ(中に入
 ってくる)」
昌也「勝手に入ってくるな」
竜司「それより話が違うじゃねぇかよ。外に出て、変わるんだろ」
昌也「いやー、別に、今のままでいいかなって」
竜司「それは本心か?」
昌也「(視線をそらす)」
竜司「そんなに人がダメか」
昌也「別にダメじゃない」
竜司「その天邪鬼、どうにかならないの?」
昌也「知るか。お前みたいな、大学デビューみたいな、タイミングさえあればで
 きるんだ」
竜司「……」
昌也「別に、嘘ついてないし」
  チャイムが鳴る。
昌也「……ヤバい」
竜司「出ろよ」
  チャイムが連打される。
竜司「早く出ろって。タイミングさえあればできるんだろ」
昌也「……無理だ。……目がダメなだ」
配達員「(ドア越し)すいません、出前です!」
竜司「あっ、俺が頼んだやつだ」

○同・玄関
  配達員から中華弁当を受け取る竜司。

○同・居間
  配達員とのやりとりを見ている昌也、配達員と目が合う。
  昌也、目をそらして隅に隠れる。

○同・玄関
配達員「(立ち去る)ありがとうございましたー」

○同・居間
  隅に隠れた昌也を見つける竜司、弁当を食べ始める。
竜司「そんなにダメか」
昌也「あいつ、蔑んだ目で見てきた。隣のカップルもそうだ。みんなバカにした
 ように見てくる」
竜司「それな、気にしすぎなんだよ。誰も見てないから気にすんな」
昌也「それができないから、引きこもってるんだ。自分が変われたからって押し
 付けるな。デビューのくせに」
竜司「……」
昌也「(パソコンの前に座る)もういい。こいつと心中するんだ」
  パソコンに映るフードのアバター、画面が消えて真っ暗になる。
昌也「え!」
竜司「(コンセントを持っている)」
昌也「何すんだよ。もしデータ飛んだら」
竜司「そしたら、変わるしか無くなるな」
昌也「出てけよ!さっさと出ていけ!」
  竜司、カバンから箱を出す。
竜司「これ、最新のVRゲーム。現実世界と同じ世界を再現されてる。東京タワ
 ーも大阪城、お前の家も再現されてる。人が居ない空間だなら自由だろ。リハ
 ビリとは言わないけど、少し一歩踏み出してほしい。さっき言った良い物だ。
 ゲームならやれるだろ」
  カーテンを開ける竜司、家から出て行く。
  日の差した部屋。
  昌也、箱を見つめる。

○同・前
  壁に寄りかかる竜司、カバンを物色する。
竜司「現実世界と遜色ない世界で、自由な事ができるゲーム。飲食、破壊、睡
 眠……何一つ不自由のない世界。変わるキッカケにもなる。空を飛ぶ事も…
 …」

○同・居間
  昌也、ベッドの上で箱から出したメガネ型のARゲームを装着。
  レンズ越しの昌也の目が閉じる。
  × × ×
  部屋の天井。
  現実と変わらない居間。
  起き上がる昌也、居間を見渡す。
昌也「これがゲームか……リアルすぎる。自分だけの世界。誰にも見られる事の
 ない世界。自由な世界。次の僕の居場所だ」
  ドアを開ける昌也、顔を出す。
  一切の曇のない青空。
  昌也の足がドアの縁にかかる。
昌也「(空に手を伸ばす)久しぶりだ。空、飛べるんだ」
  窓から飛び立つ昌也、下に落ちる。

○道路
  竜司の前に昌也が落ちてくる。
竜司「そんな世界、あるわけないだろ。これだから引きこもりは……」
  頭を打ち、血を流した昌也が倒れている。
  昌也のメガネ型のARゲーム外す竜司、カバンにしまう。
竜司「(アルバムを出す)僕はね、大学デビューって言われるのが一番嫌いなんだ。それに……お前もクラスメイトの一員だろ」
  と、アルバムをなぞる。

○卒業アルバム
  『中川誠』『野中有紀』にバツ印が付けられている。
  『松本昌也』の写真にバツ印が付けられる。
竜司「次は……」

  終わり

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