<登場人物>
佐野 (13)中学2年生、不良生徒
塩屋 (13)同、同
伴場 巧(12)中学1年生、吹奏楽部員
中村 大海(12)同、同
片岡 真澄(13)中学2年生、同
松本 唯(14)中学3年生、同
長瀬 豪毅(14)同、不良生徒
高木 理央(12)回想のみ
<本編>
○メインタイトル『後輩、かわいがってます』
○中学校・外観
塩屋の声「あ~あ……」
○同・教室
並んで座る佐野(13)と塩屋(13)。
塩屋「一年間、何が楽しい訳でもねぇのに、先輩達に嫌々従い続けて、やっと二年になって『これからだ』って思ってたのによ」
○(フラッシュ)同・体育館裏
高木理央(12)にボコボコにされる佐野、塩屋、長瀬豪毅(14)ら不良達。
塩屋の声「アイツにボコボコにされて」
○(フラッシュ)同・前
登校する高木。周囲の生徒が道を開ける(ただし高木本人はその事に無関心な様子)。その様子を見ている佐野と塩屋。
塩屋の声「一年は調子に乗るし」
○(フラッシュ)同・廊下
すっかりおとなしくなった豪毅の姿。その様子を見ている佐野と塩屋。
塩屋の声「三年はすっかりおとなしくなっちまうし」
○同・教室
並んで座る佐野と塩屋。
塩屋「今まであの三年達にへこへこしてた俺らが、馬鹿みてぇだよな」
佐野「それ、遠回しに俺の事も『馬鹿』って言ってんのか? あ?」
塩屋「でも『馬鹿馬鹿しい』くらいは思うだろ?」
佐野「まぁな。面白くねぇ」
塩屋「もっと俺らにへこへこするような、可愛げのある後輩居ねぇもんか?」
真澄の声「だったら部活をやれ、部活を」
そこにやってくる片岡真澄(13)。
真澄「部活やってないから、かわいい一年生と出会うチャンスを逃してるんでしょうが」
塩屋「またソレかよ」
佐野「何で俺らがそんなアオハルしなきゃならねぇんだよ。あ?」
真澄「いや、一応ウチの学校は部活動必須だからね。アンタ達がサボってるだけで」
塩屋「あと、微妙にややこしいんだけど、俺らが言う『かわいい一年生』ってのは、顔じゃねぇぞ? 性格だからな?」
真澄「わかってるよ。もし仮に『顔がかわいい一年生』が居たとして、アンタ達なんか相手にされないだろうし」
佐野「あ?」
真澄「それに、ウチの部にも男子入ったし。しかも二人も」
塩屋「え、吹奏楽部って女子しか居ねぇんじゃねぇの?」
真澄「そう。先生曰く『先生が顧問になってから初めての男子部員』らしいし」
塩屋「女子だけの部に入るなんて、どういう神経してんだろうな?」
佐野「百パー下心だろ」
真澄「アンタと一緒にすんな」
佐野「あ?」
真澄「まぁ、聞きなって」
唯の声「じゃあ、順番に挨拶してくれる?」
○(回想)同・音楽室
吹奏楽部の活動中。真澄、松本唯(14)ら二、三年生部員の前に一列に並ぶ中村大海(12)、伴場巧(12)ら一年生部員達。中村と伴場以外は全員女子生徒。
伴場「えっと、一年二組の伴場巧です。楽器の経験は無いです。あとはその……よろしくお願いします」
拍手する二、三年生部員達。
× × ×
中村「一年三組の中村大海です。え~、数少ない男子部員なんで、チヤホヤしてください。よろしくお願いします。」
二、三年生部員達から拍手と共に笑いが起きる。
唯の声「ねぇ、中村君ってさ……」
× × ×
中村、伴場ら一年生部員達の元にやってくる真澄、唯。
唯「もしかして、お姉さん居る?」
中村「あ~、居ます居ます。四つ上に、吹奏楽部OGの姉が」
唯「やっぱり、中村先輩の弟さんか。いや、似てるわ……。先輩、元気してる?」
中村「元気してますよ。その節は、姉がお世話になりました」
唯「いえいえ、こちらこそ」
真澄「でもお姉さんがOGで、しかも本人もピアノ弾けるとか、即戦力ですね」
中村「いや、そんな。ピアノ弾けるからって、サックス吹ける訳じゃないですし」
真澄「でも、楽譜は読めるでしょ?」
中村「そうですね。ダルセーニョあったら、セーニョに戻るくらいには」
唯「(笑いながら)ダルセーニョ」
笑う真澄、唯と、話の内容が理解できていない様子の伴場。
真澄の声「……って感じ?」
○同・教室
席を囲む佐野、塩屋、真澄。
真澄「中村君は妹さんも二人いて、全員ピアノ習ってるような家なんだって」
塩屋「あ~、俺そいつ知ってるかもしんない。小学校の時から伴奏とかやってた奴だろ?」
真澄「そうそう、その子」
佐野「何だ、マジな奴か。でも、もう一人の方は初心者なんだろ?」
真澄「うん、そうだけど……」
チャイムが鳴る。
真澄「おっと、時間か。とにかくアンタ達、部活をやれ、部活を」
自分の席に戻っていく真澄。
塩屋「……どう思う?」
佐野「かわいがり甲斐のある一年生になりそうだな」
塩屋「けど、勝手な事したら先輩達に何か言われっかな?」
佐野「大丈夫だろ」
ニヤリと笑う佐野と塩屋。
○同・外観
○同・音楽室
練習する吹奏楽部員達。中村らに楽器の扱い方を指導する真澄、伴場らに座学を教える唯。
唯「(楽譜を指し)コレは?」
伴場「ミ」
唯「ソ。じゃあ、(楽譜を指し)コレは?」
伴場「レ」
唯「ド。えっと、まずは一個ずつ数えて……」
サックスを手に持つ中村。音が鳴る。
真澄「お~、音出た。凄い凄い」
中村「出ましたね。やった」
真澄「私、音が出るまで結構かかったのにな……やっぱさすがエリートだわ」
中村「エリートは止めて下さいよ~」
扉が開き、やってくる佐野と塩屋。
佐野「頼も~」
真澄「なっ、アンタ達何しに来た訳?」
佐野「お前に用はねぇよ。(中村と伴場を見て)へぇ、本当に男子入ったんだな」
塩屋「(中村を指し)お前は、マジな方だな。って事は(伴場を指し)お前か、エロ目的で入ってきたのは」
驚き、首を横に振る伴場。
真澄「ちょっと、アンタ達……」
佐野「(真澄を制し)正直に言えよ。あ?」
伴場「いや、僕は、そんな……」
塩屋「とにかく、詳しい話はアッチで聞くからよ。ちょっと面貸せよ」
伴場「……」
伴場の元に歩み寄ろうとする佐野と塩屋の前に立ちふさがる中村。
佐野「あ?」
真澄「中村君!?」
塩屋「何だよ、マジな方。お前に用はねぇんだよ」
中村「先輩方。俺……」
伴場を指す中村。
中村「エロさでも、コイツに負けるつもりないんで」
佐野&塩屋&真澄「え?」
しばしの沈黙。
やがて笑い出す佐野と塩屋。
塩屋「そうか、お前もエロい方なのか。そりゃ悪かったな」
佐野「面白いな、お前。気に入ったよ」
中村「うっす」
打ち解けた様子の佐野、塩屋、中村の様子をじっと見ている唯。
○同・外観
○同・体育館裏
豪毅に殴られ、地面に転がる佐野と塩屋。周囲には他の不良達もいる。
豪毅「聞いたぜ? てめぇら、俺の許可なく一年いびりに行ったんだってな?」
佐野「いや、それは……」
豪毅「何、二年になったからって調子ん乗ってんのか?」
指の関節を鳴らしながら、佐野と塩屋に歩み寄る豪毅。
塩屋「す、すいませんでした……」
頭を下げる佐野と塩屋。
豪毅「まぁ、謝る必要はねぇよ」
顔を上げる佐野と塩屋。
豪毅「今からたっぷり、かわいがってやるからよ」
(完)
コメント
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。