ユキちゃんの休日
ユキ
ゆき
部活の皆 ユキちゃん。で出きてよユキちゃん。(言い続ける)
ユキ (煙草をなめる)もう見てのとうり立ってるだけでやっとです。思い道理にならないことばっかで、この世界がどうでもよくなってしまいそうです。彼の忘れ物、オリーブオイル、何人の女のあそこに塗ってきたんでしょうか…。
ユキちゃんの玄関前。一人の少女が立っている。時間はもう遅い。太陽が沈み、青黒い夜が訪れる時間帯。
ゆき ユキちゃん。ユキちゃん出てきてよ。おーいユキちゃーん。(と言い続ける)
ユキ いつも元気な私が、今日は部活に行かなかった。私、昨日の夜、彼氏にやり逃げされちゃって。励ますために、彼女が私の家にきてるって言うのが今の現状。
ドアをどんどんと叩く。少し音がきつい。
ゆき ユキちゃん。今日はいい天気だよ。気分転換にどっか行こうよ。一緒に映画見に行に行こうよ。一緒に映画見に行こうよ。一緒に映画見に行こうよ。ユキちゃん。
ユキ 別にそこまで映画見に行きたくないんだけどなぁ。金もないし。そんなことよりカラオケをしたいな。歌を歌うと、少し私は落ち着くんです。吸った時みたいに。
星がチラチラ。まだなっているドンドン音は鳴りやまない。
ゆき ユキちゃん。私、星を数えて年をとるような人生がいいな。空には点々と粒があって、それを数えてるだけの私の休日も悪くないなって思ってきたの。
ユキちゃんがドアを開ける。
ゆき ユキちゃん。心配したんだよ。自殺したのかと思っちゃった。ユキちゃんがいないと私学校行く意味ないんだよユキちゃん。お宅にお邪魔してもよろしいですかユキちゃん。ユキちゃんのいえのなかだ! お邪魔しまーす。わぁ。
ドンドンという音は次第に小さくなっていく。
ゆき ユキちゃんって一人暮らしなんだ。片づけって大変だよねぇ。
ユキ 学校ではいつも清楚系大人し女子な私なので、見た目によらず部屋は激しいことに今彼女は拒絶反応を示している。ビニール袋の中には350mlの缶ビールバッカ。私に酔う前に、アルコールに酔ってしまったらしい。
このお酒ってユキちゃんが飲んでるの。んなわけないか。
ユキ 机の上の灰皿は私が吸ったものじゃないたばこ。彼の唾液がついてるから何回かは舐めたことがある。苦かったなぁ、タバコも恋も。やめてんのかなぁ。
ゆき ユキちゃん。おいしかった。私は大人になったらでいいかな。
ユキ だから私は吸ってないんだって。こんな汚れた私にも、かわいいじだいがあったんだな。
ゆき ネェ、ユキちゃん。今から外に出て最期に映画見よう。イイヨネ。ノーとは言わせないよ。そうと決まったら出発だ。人間、言動より行動だ。こんな汚らしい部屋から飛び立とうよ、ユキちゃん。さぁ、さよならって言って、ユキちゃん。新しい世界へ飛び立つんだよユキちゃん。
ユキ 新しい世界から飛び立つ。なんか面白さそう。彼女と私、も夜中に行けないことをする。
そんな私の休日。
出発する少女二人。外は暗い、夜な世界。相対性理論「LOVEずっきゅん」が流れ出す。ドアを無理やり開けて入ってくる。
ユキ 夜中に外に出るってなんだかいけないことしてるようで、よくわからない快感に包まれてとっても幸せ。タバコを吸うときやお酒を呑む時や、あなたに抱かれたと時くらいドキドキしてる。町中の電気が消えて西の空の真っ赤に燃えた太陽が去った後の世界の静けさが、私の眠い目を覚まさせる。わかんないな。
ゆき ユキちゃん。さぁ映画館へ行こう。私たちはもっと世界を知らなきゃいけないんだ。広い世界をね。ユキちゃん。世界は広い、今日はいいことがたくさんあるな、明日はどこへ逝こう。ねぇユキちゃん、自分が此処と決めたら、絶対にそこに行かないとね。全てが過程で全てが偽物。道草食ってるとみんなに追い抜いていかれるぞ。(干されているパンツを見て)ほら見てユキちゃん。彼女だって。勝負をしに行ったね、ユキちゃん。赤、真っ赤な赤だよユキちゃん。赤ってのは勝負服なんだよユキちゃん。牛さんとか人間さんが一番興奮する色なんだって。ユキちゃん。ユキちゃんは何色が好き。いい色だねぇ、私も大好きだよその色。まるで青空に点々と私の血液を溶かしてキャンパスに塗りたくったみたいな汚い色、私も好きだよ、ユキちゃん。
ユキ あか、まっかなあか。私たちはまるでそれを信号機に見立てたみたいに、赤信号みたいに、そこに立ち止まって話をしている。でも、どこからどう見てもパンツだ。私はエメラルドグリーンが好きだ。青色と緑色の真ん中。中途半端で、行く当てもない、まるで私みたいな色が好き。(青信号になる)あ、エメラルドグリーン。
ゆき 青になったよ。いや、緑というべきなのかな。どっちなんだよもう。信号の色ってよくわからないよね。黄色と赤はわかるけど、青なのか緑なのか、あいまいだよね。白黒はっきりつけやがれって話だよユキちゃん。この場合、青緑はっきりしろって話だね。ユキちゃん。とにかく進もう。また世界が、赤に染まっちゃう。
ゆき、走り去る。
ユキ 好きなものが去っていく。やっぱりこういうものなのかな。どうせなら青信号で止まっていたいな。自分の好きな色を見ながら何分間の暇をつぶしたい。赤は嫌いだ。何にも変わらないから。彼女は歩くのが早い。人生に急いでいるようで早く年を取りそうだ。どれだけ急いでも待っているのはこの世のサヨナラだけなんだけどな。
飛び降り自殺した人が落ちてくる。びっくりして、ゆきに飛びつくユキ。
ゆき どうしたのユキちゃん。ユキちゃん、これはトマトケチャップだよ。怖がるこたぁない、このトマトケチャップで炒め物をすればとってもおいしく出来上がるんだよ。
ユキ どう見たって人の死体じゃんか。コイツ頭おかしいんじゃねぇの。星空から降ってきた彼女は、桜の花びらみたいに遊楽里湯楽里と舞い降りた。舐める彼女。美味しそうに舐めるのが、より一層気味が悪い。
ゆき (トマトケチャップを舐めて)ほら美味しいよ。ブドウ糖、液糖、玉ねぎ成分が絶妙なバランスで配合されてるよ。舐めてみる。
ユキ、大きく首を横に振る。
ユキ バカなの。
ゆき まぁ、流石に落ちてるもの食べるのはばっちいか。ぺっ、ペッ。
ユキ いや、ばっちいとかじゃなくて頭おかしいだろそれ人間の死体だぞ。
救急車の音がする。確かに救急車の音なのだ。
ユキ 救急車の音が鳴る。誰かが119番したらしい。なんで私しなかったんだろう。
ゆき どうしようユキちゃん。パトカーが私たちを捕まえにきてる。ハラハラだね、早く逃げないと。(自転車を跨ぐ)さぁのって。急ぐんだよ、私たちは、まだ殺人犯にはなりたくないからね。ユキちゃん。私たちには未来があるんだよユキちゃん。こんなところで道草食ってちゃいけないよ。
ユキ 自転車を漕ぐ。誰のかわからない自転車を。後に乗っている。誰のかわからない自転車の。夜の少し冷えた風が、私の肌を撫でる。暗闇を行くあてもなく恋で行く。限られた世界から失踪しているような感覚になる。夜道を走るってなんだか青春だ。誰もいないゾンビタウンが、あなたと私だけの自由空間になるから。生きているのは私だけ、これから一緒にどうやって生きていこう。なんて考えてしまうから。夜風に吹かれた髪の毛からほんのりシャンプーの匂いがするとき、なんだか少しキュンとする。強く抱きしめる。これがあなたなら良かったのに。
ゆき ユキちゃん、夜道を走るってなんだか青春だよね。それが二人乗りだとなおさら最高だよ。男女じゃないのが少し惜しいけど。ゆく当てのない旅ってのは興味をそそられるよね、ユキちゃん。まるでゴールが決まってない君との逃避行みたいで何だかわくわくするよね。まぁ、私たちは逃げてるわけじゃないけどね。ねぇユキちゃん。今更なんだけどさ、実は私自転車乗るの苦手なんだ。この前海岸を漕いでるとね、いきなりハンドルがフラツイチャッテ、水着でもないのに自転車ごと海水浴を楽しんだことがあるんだ。私は何とか助かったけど、自転車は助からなかった。悲しかったんだよユキちゃん。1年半も一緒にいたんだよ。付き合ってた彼氏と別れるくらい悲しかったよ。しかもそれが私のせいなんだからねユキちゃん。世の中はうまいこといかないもんだねぇユキちゃん。
ユキ 今の私にその話題を振ってくるところ、彼女は最低な女か空気がとっても読めない女だ。
ゆき ここら辺に新しいカフェができたんだって。今度一緒に行こうよ。なんてったってどこの店にもないメニューがあるらしいよ、なんだったかなぁ、
ユキ 話題の替え方が下手くそだ。カフェなんて微塵も興味がない。そんなことより私歌が歌いたい。
ゆき 後を確認してユキちゃん。どう。よかった、逃げ切れたね。一時はどうなるかと思っちゃった。ちょっとだけ休憩していこう。公園にいって話でもしよう。なんだか心がスッキリスルカモ知れないよ。
ユキ 話すことなんてない。彼女曰く、自分がここと決めたら絶対にそこに行かないとだめらしい。全てが過程で全てが偽物。道草食ってるとみんなに追い抜いていかれるらしい。彼女の信念とはそんなものなのだろうか。
ゆき 私ブランコが好きなんだ。前にも後にも行ける。両方味わえるってなんだか得だよね。前ばかりだと飽きちゃうし、後だけだとへこたれる。ちょうどいい乗り物がブランコってことだよユキちゃん。
ユキ 私はブランコが嫌いだ。前にも後にも行けない。その場に止まるためだけに造られた妥協の遊具。前にも行けないし、後にも行けない。意味のない乗り物がブランコてことだと思う。そう言ってる間に、自転車は何処かの公園にたどりついていた。滑り台、シーソー、よくわかんないタイヤのやつ、そこにはブランコがあった。どこにでもある公園。でも、どこか懐かしい。
ゆき ……ユキちゃん。……私やっぱり大学行くよ。
ユキ いままでのメルヘンさとは異なって、いきなり高校生の話題をたり入れ出した。それもそのはずである。もうすぐこの春休みも終わる。春休みとは、最後の羽を伸ばす時間のことでもある。私は受験生という言い方は嫌いだ。高校三年生だ。
ゆき ずっと劇団入りたかったんだけどさ、やっぱり将来不安だし、劇団なんて正直よくわかんないし、なんなら大学行きながらでも演劇は続けていけるしさ、いいかなって。というか、私は青春を謳歌したいんだよユキちゃん。青春って複雑だよユキちゃん。なんたって春が青いんだからね。普通赤とかピンクでしょ。紅春とか、桃春とか、まぁなんでもいいんだけどさ。大学行ったら刺激あるかなぁ。ユキちゃんはどうするの。やっぱりどっか事務所はいるの。かっこいいなぁ。私もそんな風になりたいよ。
ユキ 夢の話って気持ち悪い。なんだか自分がそれを全て知っているかのように話してしまうから。あと、演劇のテーマみたいなものを露骨に出しているようで、なんだか私たちの世界が演劇の中のようで、気持ち悪い。
ゆき それより映画館だ。映画を観ようよ。面白い映画を。
ゆき、自転車に乗る。それに続きユキちゃんも乗る。乗ってからちょっと経った頃、ゆきの電話が鳴った。黒電話。
ゆき もしもし、あー、ごめんごめん。わかってるって。最期だからさ。わかってる。もうすぐ帰るから。はーいじゃねー。バイバーイ。
ユキ 誰なのかは聞かなかった。聞いてはいけないような感じがしたから。人生は映画だ。私達は私たちのことを見ることができない。それは映画で言う、フィルムは、自身をフィルム越しに見ることができないのと同じである。見れるのは観客か、死んだ自分だけなのだ。自分をいかに客観視できるかが重要になってくる。
ゆき ユキちゃん。映画が始まるよ。
映画館についた。深夜の映画館はまるで廃墟だった。
ゆき ユキちゃん、どの映画見る。
ユキ 正直映画とかよくわからない。映画なんてどこがいいのかわからない。
ゆき やっぱそれだよね。私もそれしかないと思ってた。
ユキ 映画館に入る。結局は私もこの空間に飲まれて行ってしまうんだな。映画館の暗闇というのは時に数億光年の遠さを感じさせられる。無数の光の線が集まってスクリーンが輝いて見える。輝きを増した空間に影がなくなっていく。セーシュンの結末。
間。
ユキ もうすぐこの映画も終わる。こんな私のことは忘れてね。これから始まる毎日が映画になんかならなくても、普通の毎日でいいから。
ゆき これがあなた?
ユキ うん。
終
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