『どうも、探偵部部長の大森です。』第7話「『お客様は神様だ』とは、自惚れにも程がある」 学園

今日は文化祭。探偵部は「謎解きゲーム」のイベントを催すが、本人のあずかり知らぬところで阿部紗香(17)の(他人の悪口満載な)秘密のノートが景品として出されてしまう。紗香は誰よりも早く謎を解き、ノートを守れるのか……?
マヤマ 山本 14 0 0 01/30
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第一稿

<登場人物>
阿部 紗香(17)愛丘学園高校2年
大森 宗政(18)同3年、探偵部部長
沢村 諭吉(16)同1年、探偵部員
須賀 豊(18)同3年、パソコン部部長
鈴木 ...続きを読む
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<登場人物>
阿部 紗香(17)愛丘学園高校2年
大森 宗政(18)同3年、探偵部部長
沢村 諭吉(16)同1年、探偵部員
須賀 豊(18)同3年、パソコン部部長
鈴木 友美(17)同2年、紗香の友人
佐野 詩織(17)同2年、風紀委員
阿部 静香(42)紗香の母
阿部 公太(9)紗香の弟
保科 亜紀(30)養護教諭
岡本 久典(51)紗香の担任、探偵部顧問

堂本 舞(17)演劇部員
塚本 渚(16)カップル喫茶店員
橋本 リカルド(17)写真部員
池本 諒(17)ストラックアウト店員
榎本 咲良(18)お化け屋敷店員
演劇部員
写真部員
軽音楽部員
おばちゃん
杉山 修(18)探偵部副部長



<本編>
○愛丘学園・外観
   「愛丘祭」と書かれたゲート。学生以外に一般客も出入りしている。

○同・一年一組・中
   客で賑わう模擬店。店員の沢村諭吉(16)。
沢村「いらっしゃいませ~」

○同・体育館・中
   軽音楽部がライブを行っている。生徒や客で盛り上がる。
軽音楽部員「盛り上がってるか~い!」

○同・演劇部部室・中
   幕が上がり、堂本舞(17)が舞台上に姿を見せる。
舞「(芝居口調で)ご来場いただいた皆様、こんにちは……」
   まばらな客。
舞「(気を取り直し)僕の名前は……」
紗香M「もしも私が神様ならば」

○同・廊下
   隣のクラス同士で、客引きで争う。
紗香M「この世界から争いを無くし」

○同・三年八組・中
   卓球台が二台置かれた室内。客はいない。
   退屈そうに受付に座る大森宗政(18)。
紗香M「この世界から貧困を無くし」

○同・二年五組・中
   メイド喫茶。男子生徒がメイドのコスプレをしている。
紗香M「この世界から差別を無くすだろう」
   それを遠巻きに見ている阿部紗香(17)。紗香の服装はこの時点では不明。
紗香M「だって、神様なんだから」

○メインタイトル『どうも、探偵部部長の大森です。』
   T「第7話 『お客様は神様だ』とは、自惚れにも程がある」

○愛丘学園・二年五組・前
   「メイド喫茶」と書かれた看板。

○同・同・中
   メイド姿で接客する紗香。
紗香「お帰りなさいませ、ご主人様」
   客は大森。
大森「ほう。まさか阿部ちゃんにこんな趣味があったとはね。なかなか興味深い」
紗香「趣味じゃありませんよ、仕事です。文化祭の。ウチのクラスの」
大森「それにしても、相手が僕とわかっていてきちんとこなすあたり、阿部ちゃんの真面目さが出ているね」
紗香「どうも。まぁ、一応お客さんだし、お客様は神様だし」
大森「ほう。『お客様は神様だ』とは、自惚れにも程があるね」
紗香「どこが自惚れなんですか」
大森「では聞くが、阿部ちゃんだってこの店から一歩出れば、どこかの店の客になるだろう? その時、阿部ちゃんは自分を『神様』と自称するつもりかい? 何と愚かな」
紗香「……じゃあ、遠慮なく言わせていただきます。(真顔で)冷やかしなら帰ってもらっていいですか?」
大森「そうか。僕もこの後、クラスの方の店番をしなければならない身ながらも、合間を縫って後輩の激励に来たつもりだったんだが……残念だね」
   席を立つ大森。その席に残された一枚のチラシ。
紗香「お会計お願いしま~す……ん? (チラシを見つけ)大森先輩、忘れ物……」
   チラシを見て、目を見開く紗香。
紗香「!?」

○(回想)同・探偵部部室・前
   T「1ヶ月前」
紗香の声「大森先輩、何ですかコレ!」

○同・同・中
   部長席に座る大森に一枚の企画書を叩きつける紗香。そこには「ピッキング講座」と書かれている。
大森「見てわからないかい? 文化祭での、我が探偵部の出し物だよ」
紗香「それはわかってますよ。高校の文化祭で『ピッキングのやり方教えます』なんて聞いた事ありませんよ! 犯罪ですよ!?」
大森「勘違いしないでくれるかな、阿部ちゃん。この企画の一番の目的は『ピッキングの手口』を学ぶ事で、ピッキング対策を身に着ける事だ。『敵を知り己を知れば百戦危うからず』と言うだろう?」
紗香「もっともらしい事を……。そもそも、何で教えられるほどピッキングに詳しいんですか? まさか、調査に使ってる訳じゃありませんよね?」
大森「世の中には知らない方がいい事もある。それでも、知りたいかい?」
紗香「……聞かないでおきます」
大森「そうか」
紗香「とにかく、こんな企画は止めて、もっと文化祭に相応しい事をやりましょうよ。例えば……謎解きゲーム、とか」
沢村の声「……と提案したのは阿部先輩だったと記憶していますけど」
   ニヤリと笑う大森。

○同・同・同
   ロッカーを漁る紗香。部屋の中央にはダイアル式の金庫があり、その傍らに沢村がいる。尚、紗香の服装はずっとメイド服のまま。
沢村「とはいえ『やる以上、景品は不可欠だ』と大森先輩はお考えになられたようです」
   室内に貼られたチラシには「愛丘祭」「探偵部」「謎解きゲーム」「景品は探偵部女子による『学園の裏情報が詰まった秘密ノート』」といった文字と、目元だけ隠された紗香の写真。
沢村「まだ何か質問はありますか?」
紗香「無い!」
沢村「なら、良かったです」
紗香「この中にあるハズ私のノートが無~い!」
沢村「そっちですか。ですから、金庫の中に……」
紗香「ダメだって。あのノートの中には、絶対に人に見られちゃマズい、その、悪口とか悪口とか、色々書いてあるんだって」
沢村「まぁ、半分くらいは大森先輩に向けたものでしたけどね」
紗香「読むな!」
沢村「すみません」
紗香「大体、何で……。(南京錠を手に)ちゃんと鍵かけてたのに……ん?」
   南京錠の鍵穴にピッキングの痕跡。
紗香「ピッキング~!」
   沢村を睨む紗香。
沢村「お、大森先輩からの指示ですので」
紗香「もういい。金庫の番号、教えて」
沢村「大森先輩からの指示ですので、出来ません。自力で解いてください。ヒントなら書いてありますから」
紗香「ヒントって言ったって……」
   チラシの下に書かれたヒント(「①チェキの裏」「②こんにゃくの隣」「③コースターの3文字目」「④5番の先」)。
沢村「大丈夫、阿部先輩なら解けますよ」
紗香「……他人事だな」
紗香の声「ヒント1、チェキの裏」

○同・三年八組・前
   「卓球場」の看板。
紗香の声「ヒント2、こんにゃくの隣」

○同・同・中
   卓球台が二台あり、卓球を楽しむ客達。
紗香の声「ヒント3、コースターの3文字目。ヒント4、5番の先……」
   受付に座る大森とその脇に立つ紗香。
紗香「まったく意味がわからないんですけど」
大森「だからと言って、僕の所に来られてもね」
紗香「コースターの3文字目は『ス』、5番の先は『6番』だとして……こんにゃくの隣って何ですか?」
大森「阿部ちゃん。僕も人の事は言えないが、少しは聞く耳を持ってくれるかな?」
紗香「本当、どの口で言ってるんですか」
大森「まぁ、阿部ちゃんの気持ちもわからないでもないけど、起きてしまった事を嘆くより、これから何をすべきかというのが大事なんじゃないかな?」
紗香「そもそも誰のせいでこんな事になってると思ってるんですか」
大森「そんな事を言っている間にも、どこかの誰かが金庫の鍵を開けてしまうかもしれないよ?」
紗香「うぅ……。いいな、楽しそうで」
大森「文化祭とは、楽しむものだろう?」
紗香「まずは、楽しませるものです」
大森「神様を?」
紗香「あぁ言えば、こう言う……」
   紗香のスマホから通知音。
紗香「あ~、もう。教室戻らなくちゃ……また来ますからね」
大森「冷やかしなら帰ってもらうけどね」
   大森を一睨みしてから出ていく紗香。

○同・二年五組・前

○同・同・中
   賑わう店内。考え事をする紗香。
紗香「う~ん……」

○(フラッシュ)同・探偵部部室・中
   中央に置かれたダイアル式の金庫。
紗香の声「あの金庫は、ダイアル式だから、答えは数字になるハズなんだよな……」

○同・二年五組・中
   賑わう店内。考え事をする紗香。その背後、飲み物を持って立つ舞。紗香らホールスタッフのメイド姿とは異なる、厨房スタッフのエプロン姿。尚、舞の声はか細くて聞き取りづらい。
紗香「って事は、当然ヒントに対する答えもそれに近いものになる訳で……」
舞「阿部さん……」
紗香「(聞こえず)つまり『コースターの3文字目』は『ス』とか、そういう答えじゃない」
舞「あの、阿部さん……」
紗香「(聞こえず)って事は……」
舞「あ、あ、阿部さん」
紗香「え?」
   振り返る紗香。紗香の耳元に立つ舞。その近さに驚く紗香。
紗香「うわっ!? ビックリした。堂本さん、驚かさないでよ」
舞「あ、ご、ごめんなさい……。その……何度も、その、呼んで、その……」
紗香「あ、そうなの? ごめん、考え事してて」
舞「あの、ドリンク、なんですけど……」
紗香「あぁ、はい。何番の人?」
舞「あの、その……九番、です……」
紗香「え、何番?」
舞「いや、その、九番です」
紗香「十番?」
舞「(指を九本立て)きゅ、九番です」
紗香「あ、九番ね。了解」
   飲み物を九番の席に運ぶ紗香。そこに座っているのは阿部静香(42)。
紗香「お待たせしました、ご主人様……って、お母さん!?」
静香「紗香……(涙ぐみながら)やっと、やりたい事を見つけたのね」
紗香「え? いや、違うから」
静香「(立ち上がり、頭を下げ)阿部紗香の母でございます。娘がいつもお世話になっております!」
   失笑が漏れる。
紗香「止めて、頭上げて、座って、落ち着いて! え、何しに来たの?」
静香「(座って)何しにって、紗香の頑張ってる所を見に来たんじゃない。それとも(涙ぐみながら)来ちゃダメだった?」
紗香「そうじゃないけど……一人で来たの?」
静香「公太も来てるけど、一人でどっか行っちゃって。(涙ぐみながら)もう、親離れなのかしらね」
紗香「あ~、もう。とりあえず、コレ飲んで」
   と言って、コースターと飲み物を机の上に置こうとする紗香。コースターを見つめる。
紗香「……」
静香「? 紗香?」
紗香「あ、ううん。何でもない。ごゆっくり」
   コースターを見やる紗香。

○同・同・前
   飛び出すように出てくる紗香。
紗香「店番交代、あとよろしく!」

○同・廊下
   校内マップ(どのクラスでどんな店をやっているかが書いてあるもの)を見ながら歩く紗香。
紗香「『コースターの3文字目』っていうのは、きっと『コースターに書いてある文字の3文字目』って意味だ。でもウチのクラスのコースターには何も書いてないから、残る喫茶店は……」
   校内マップの一年六組の欄に「カップル喫茶」の文字。
紗香「一年六組、カップル喫茶!」

○同・一年六組・前
   「カップル喫茶」と書かれた看板。
   塚本渚(16)と対峙する紗香。
紗香「何でダメなの?」
渚「いやいや、ウチ、カップル喫茶だから。カップルしか勝たんの」
紗香「勝たん……? あの、そんな事言わないでよ、お願い。この通り」
渚「お願いされても……それじゃただの喫茶店になっちゃうじゃん。そんなんぱおんだわ」
紗香「ぱおん……? あ、じゃあコースターだけでも見せてもらえる?」
渚「コースターを見せる? え、何、アンタあたおか?」
紗香「……言ってる日本語が全然わからん」
詩織の声「何かトラブル?」
   そこにやってくる佐野詩織(17)。
紗香「げっ、佐野さん……」
詩織「人の顔を見て『げっ』とか言うの、止めてもらえない?」
紗香「ごめん。……あ、そうだ。風紀委員の権限で、この企画無しに出来ない?」
   と言って探偵部のチラシを見せる紗香。
紗香「元から絶てれば、万事解決で……」
詩織「ふ~ん、『学園の裏情報が詰まった秘密ノート』……面白そうね」
紗香「え?」
詩織「コレが手に入れば、探偵部の弱みを握れるかもしれないんでしょ? 私も参加させてもらおうかな」
紗香「そんな~……」
詩織「あと、この店に入りたいんだったら、探偵部の誰かでも誘えばどう?」
   と言って立ち去る詩織。
紗香「大森先輩か、沢村ちゃん?」

○(イメージ)同・同・中
   カップルでにぎわう店内。
   大森と向かい合って座る紗香。
    ×     ×     ×
   沢村と向かい合って座る紗香。

○同・同・前
   渚と対峙する紗香。
紗香「……いや、無い無い。……あ~、でも入れなくても困るし……あ~、もう!」

○同・同・中
   カップルでにぎわう店内。
   席に座って待つ紗香。そこに二人分の飲み物を持ってやってくる須賀豊(18)。
須賀「お待たせ、阿部ちゃん」
紗香「すみません、ありがとうございます」
須賀「いやいや、こんなのは男の仕事だから」
紗香「あ、そうじゃなくて。急にカップル役をお願いしちゃって」
須賀「ハハハ、そっち? いや~、阿部ちゃんも大変だね~」
   と言ってコースターを敷き飲み物を置こうとする須賀。
紗香「あ、ストップ」
   コースターに書かれた「2人の愛は永遠」の文字。
紗香「三文字目は『の』。……何か思ってたのと違うな」
須賀「……もう置いてもいいかな?」
紗香「あ、すみません」
須賀「それにしてもこの店、今日は随分と人気だね。昨日はガラガラだったのに」
紗香「そうなんですね。……って、え、昨日も来たんですか?」
須賀「うん」
紗香「ちなみに、その……誰と?」
須賀「クラスの人とか、後輩とか、あとウチの講座に来てくれたお客さんとか。何か俺って、誘いやすいんだって」
紗香「それは、わかる気がします。っていうか、講座って何ですか?」
須賀「パソコン部の、文化祭での企画。阿部ちゃんも来る?」
   と言って紗香にチラシを渡す須賀。
紗香「確かに、私も少しはパソコンの勉強をしないと……」
   チラシを受け取る紗香。そこには「ハッキング講座」と書かれている。
紗香「って、ハッキング講座!?」
須賀「そう。『ハッキングの手口』を学ぶ事で、ハッキング対策を身に着ける事が目的でね。『敵を知り己を知れば百戦危うからず』って言うでしょ?」
紗香「(呆れて)この人達は本当に……」
紗香の声「とりあえず、答えは一つわかった」

○同・廊下
   スマホを見ながら歩いている紗香。スマホの画面には先のコースターの画像。
紗香「残り三つのヒントも、どっかの店に行けば答えがあって、その四つの答えを組み合わせれば本当の答えが出てくる……のかな? 『こんにゃくの隣』とか、初めて聞く日本語なんだけど」
   紗香にチラシを渡す写真部員。
写真部員「写真部です、お願いしま~す」
紗香「(チラシを受け取り)あ、はい」
   紗香にチラシを渡す軽音楽部員。
軽音楽部員「軽音部、ライブやってま~す」
紗香「(チラシを受け取り)は~い」
   紗香にチラシを渡す演劇部員。
演劇部員「演劇部、残り二公演です」
紗香「(チラシを受け取り)演劇部……。あの、コレ、こんにゃく役とか居ます?」
演劇部員「……こんにゃく?」
紗香「すみません、何でもないです」
   その場を立ち去る紗香。改めて受け取ったチラシを見る。
紗香「演劇部に軽音部に写真部、か。みんなちゃんとした事やって……ん?」
   写真部のチラシに書かれた「インスタントカメラ撮影」の文字。
紗香「インスタントカメラ……チェキ!」

○同・写真部部室・前
   「写真部」と書かれた看板。

○同・同・中
   部屋の左半分が撮影スタジオ、右半分が写真の展示場となっている室内。
   橋本リカルド(17)から「50」という番号札を渡される紗香。
橋本「あ~……コレ、持って、待つ。僕、呼ぶ、来る。いい?」
紗香「あ~、うん。OK。……五〇番か」
橋本「あ~、次、二三番、の人、どうぞ。お待たせたね」
紗香「え、二三番? あと二七人!?」
橋本「あ~、ごめんなさい。昨日、お客さん、全然来ない、だから、今日、スタッフの数、減らした……」
紗香「あ~、ノープロブレム」
橋本「あなた、待ってる。隣、今までの作品、ある。ゆっくり、見れる。いい?」
紗香「OK、OK……」
   渋々写真館に移動する紗香。
紗香「こっちも時間ないんだけどな……ん?」
   展示された写真に目を奪われる紗香。
紗香「うわ~、いい写真じゃん」
   周囲を見回す紗香。他にも順番待ちと思しき客が多数写真を見ている。
紗香「……」
   同じく写真を見ていた鈴木友美(17)とぶつかる紗香。
紗香「あ、ごめんなさい」
友美「いえ、こちらこそ……あっ、紗香……」
紗香「友美……」
友美「……もしかして、探偵部の?」
紗香「知ってるの?」
友美「うん。……紗香の事だから、多分ノートに色んな人の悪口とか、ヤバい事書いてそうだな、って思って」
紗香「……正解」
友美「で、探偵部の事だから、多分紗香に無断で賞品にしてるんだろうな、って思って」
紗香「……大正解」
友美「だから、って思ってたんだけど、自分でやってるなら、大きなお世話だったね」
紗香「別に、そんな事は……」
友美「……私の番号札、二五番なんだけどさ」
紗香「じゃあ、次の次?」
友美「……一緒に撮る?」
紗香「え?」
友美「早い方がいいでしょ?」
紗香「それは……まぁ」
   沈黙。
    ×     ×     ×
   撮影スタジオに並んで立つ紗香と友美。カメラを構える橋本。紗香と友美の間には微妙な距離。
橋本「あ~、お二人、もっと、寄る。いい?」
紗香「あ、はい」
   ほんの少しだけ寄る紗香と友美。
橋本「あ~、もっと、いっぱい」
紗香「はぁ」
友美「……」
   意を決し、紗香に寄り添う友美。
紗香「!?」
友美「ほら、カメラ見て」
紗香「あ……うん」
橋本「いいね。はい、チーズ」

○同・同・前
   並んで出てくる紗香と友美。紗香の手には二人が写ったチェキ。ともに笑顔が硬い。チェキを裏返す紗香。「台」と書かれている。
紗香「『台』か……」
   チェキを友美に渡す紗香。
紗香「はい、コレ。……ありがとう」
友美「いいよ、紗香が持ってて。そのヒントが欲しかったんでしょ?」
紗香「いや、でも……」
友美「いいから。じゃあ」
   と言って逃げるようにその場を立ち去る友美。
紗香「友美……」
   友美と逆方向に歩き出す紗香。その先にゴミ箱を見つける。
紗香「私も、ヒントが欲しかっただけだし……」
   ゴミ箱にチェキを捨てようとする紗香。
紗香「……」
   結局思いとどまる紗香。スマホの画像とチェキの裏面をもう一度見る。
紗香「台……?」

○同・三年八組・中
   卓球台を調べる紗香とそれを見守る大森。
大森「……気が済んだかい?」
紗香「おかしいな……このどっかにヒントがあると思ったんだけど」
大森「一応、理由を聞いておこうかな?」
紗香「まだヒント二つですけど、『台』と言ったら、卓球台かなって。しかも大森先輩のクラスだから、色々仕掛け放題でしょうし」
大森「残念だけど、クラスの物に勝手に細工をさせてもらえるほど、僕に人望があると思ったら大間違いだよ?」
紗香「……自分で言ってて悲しくなりません?」
大森「いいや、まったく」
紗香「でしょうね」

○同・二年七組・前
   スマホの画面とチェキの裏面を交互に見ながら歩く紗香。
紗香「やっぱり、残り二つのヒントも手に入れないとダメなのかな……」
   紗香の足元に転がってくる野球ボール。
紗香「ん?」
   ボールを拾う紗香。

○同・同・中
   ボールを手に、入ってくる紗香。中ではストラックアウトが行われている。店員の池本諒(17)にボールを渡す紗香。
紗香「あの、ボール転がってきたんですけど」
池本「おっ、届けてくれるそのやさしさ、ファンタスティック、フゥ~!」
紗香「ファンタスティック? あの、これは何やってるんですか?」
池本「知らない? ストラックアウト。持ち球一二球で、あそこの1~9番の的を何枚射抜けるかを競う、テレビでおなじみのファンタスティックな競技だよ」
紗香「へぇ……」
   室内の壁を見やる紗香。「パーフェクト」「6枚以上」「3枚以上」と枚数に応じた商品が記されており、一番下に「5番の的を射抜いた人」用に「5番賞」が追記されている。
紗香「5番賞……コレだ!」
    ×     ×     ×
   池本が見守る中、ストラックアウトに挑戦中の紗香。
池本「ラスト一球ね」
紗香「大丈夫、落ち着け。私は出来る!」
   振りかぶり、投げる紗香。
紗香「行けっ!」
   球は8番の的に当たる。結果、5番以外全ての的が落ちている。
紗香「そんな……」
池本「ファンタスティック、フゥ~! 記録八枚。新記録だよ」
紗香「何で、5番にだけ当たらないの……」
池本「じゃあ、六枚以上の人への賞品で、学食で使えるファンタスティックな五百円分の食券ね」
紗香「それはいらないから、5番賞を……」
池本「ソレはダメ。5番当ててねぇから」
紗香「そんな……じゃあ、もう一回挑戦を」
池本「ごめんね。昨日ならOK出したけど、今日はファンタスティックで後がつかえてっから。(後方に)じゃあ、次の方どうぞ」
紗香「うぅ……こうなったら!」

○同・探偵部部室・中
   沢村に頭を下げる紗香。
紗香「お願い。沢村ちゃん、力貸して!」
沢村「え、僕がですか?」
紗香「だって、野球経験者でしょ?」
沢村「それはそうですけど……僕は大森先輩から、この部屋の留守番を頼まれているんです」
紗香「じゃあ、私が代わりに留守番するから」
沢村「そしたら、僕が一人でストラックアウトに行くんですか? 意味ないじゃないですか」
紗香「何で?」
沢村「だって、僕はヒント以前に、この鍵の番号を知ってるんですから」
紗香「そっか。ヒント教えてくれるくらいなら、答え教えてもらった方がいいもんね。……じゃあ、店番頼むなら大森先輩?」
沢村「今は卓球場の店番から離れられないそうです」
紗香「う~ん、もう一回須賀先輩呼ぶか?」
沢村「ダメですよ。探偵部の部員でないと」
紗香「頑固だな、もう」
   しばしの沈黙。
紗香「……あっ」
沢村「?」
   笑い出す紗香。
沢村「……あ、阿部先輩?」
紗香「ふっふっふ。沢村ちゃん、居たよ。代打の切り札」
沢村「代打の切り札?」
    ×     ×     ×
   入ってくる岡本久典(51)。
岡本「おう、みんな。やってるか~……ん? 何だ、随分と珍しいヤツがいるな」
   部長席に座る杉山修(18)。
杉山「結論から言おう。俺の無駄遣いにも程がある。そうは思わないか、岡っち?」

○同・二年七組・中
   池本と紗香が見守る中、ストラックアウトに挑戦中の沢村。
池本「ラスト一球目ね」
紗香「頼んだよ、沢村ちゃん」
沢村「はい」
   振りかぶり、投げる沢村。5番の的に当てる。
池本「ファンタスティック、フゥ~!」
紗香「やった、凄い。さすが沢村ちゃん」
沢村「良かった……」
紗香「で、5番賞は?」
池本「(口でドラムロールを再現しながら)フゥ~!」
   「中」と書かれた紙を紗香に見せる池本。
紗香「『中』……」

○同・三年八組・前
紗香の声「『台』『の』『中』……」

○同・同・中
   受付に座る大森の元にやってくる紗香。
紗香「卓球台の中を調べさせてもらってもいいですか?」
大森「台の中? いったい、どうやって?」
   どこからともなくチェーンソーを取り出す紗香。
大森「……阿部ちゃんも段々、無茶苦茶やるようになってきたね」
紗香「褒め言葉として受け取っておきます」
大森「残念だけど、僕に褒めて欲しいのなら『金庫を爆破する』くらいの事は言ってもらわないとね」
   無言でチェーンソーを一度吹かす紗香。
大森「……うん。褒めるから、一旦置こうか」

○同・学食・前

○同・同・中
   一般開放されており、多くの人が食事している。
   メニュー表の前に立つ紗香。
紗香「う~ん、こんにゃく、こんにゃく……。(厨房に向かって)おばちゃん、こんにゃく使ってるメニュー、何かある? できれば(食券を手に)五百円以内で」
   厨房に立つおばちゃん。
おばちゃん「千円以上だとしても、今は無いよ。冬まで待ちな」
紗香「だよな~。でも(校内マップを開き)となると、もう食品扱ってる店無いもんな~」
   背後から紗香に忍び寄り、紗香の頬に一口サイズのこんにゃくゼリーを接触させる保科亜紀(30)。
紗香「ひゃっ!?」
亜紀「あらあら、敏感ね」
紗香「保科先生。何してるんですか、こんな所で?」
亜紀「決まっているでしょう? 欲求を満たすためよ」
紗香「『食欲』って言いかえてもらっていいですか?」
   妖艶な笑みを浮かべ、誘うような表情でこんにゃくゼリーを口に運ぶ亜紀。
紗香「あの……じゃあ、失礼します」
亜紀「こんにゃくを扱ってるお店、知りたくない?」
紗香「!? 知りたいです!」
亜紀「まぁ、いい噂も悪い噂も聞くけどね」
紗香「教えてください。お願いします」
亜紀「そう」
   意味深な笑みを浮かべる亜紀。
紗香「……あ、何か嫌な予感」

○同・三年一組・前
   「お化け屋敷 チバアジ」という看板。
   悲鳴。
   泣きながら、入口から出てくる客。
   その様子を見ている紗香と、受付に座る榎本咲良(18)。既に引いている紗香。
咲良「『お化け屋敷 チバアジ』へようこそ。グフフ」
紗香「グフフって。っていうか、チバアジって?」
咲良「よくぞ聞いてくださいました。チバアジとは『魑魅魍魎と罵詈雑言とびかう阿鼻驚嘆の地獄絵図』の略でございます。グフフ」
紗香「何ちゅうネーミング。ちなみに、ココもアレですか? 昨日までガラガラだったけど今日は混んでるって感じですか?」
咲良「どうですかね? 入口まで来られる方は増えたように思えますけど、引き返される方が多数ですかね。グフフ」
   教室内から響く悲鳴。
咲良「で、どうされます? 止めるなら今の内ですよ、グフフ」
紗香「そりゃあ、もちろん……」
   教室内から響く悲鳴。
紗香「もちろん、入り……」
   入口から出てくる客。その場で倒れ込む。
紗香「……」
咲良「グフフ」

○同・同・中
   暗く狭い通路、恐る恐る歩く紗香。既に涙目。
紗香「うぅ……何でこんな所に……」
   おどろおどろしい音が鳴る。
紗香「ひぃ~!」
    ×     ×     ×
   紗香の視界に現れる人体模型。
紗香「ぬぅお~!」
    ×     ×     ×
   紗香の目の前に現れるお化け役の生徒。
紗香「ぎゃぁあ~!」
   駆け出す紗香。その先はかがまないと通れない通路。
紗香「もう嫌だ。もう帰りたい~」
   頭上につるされたこんにゃくに触れる紗香。
紗香「嫌~!」
   通路を抜ける紗香。
紗香「うぅ~。何か変なの触った~……あっ」

○(フラッシュ)同・学食・中
   紗香の頬に一口サイズのこんにゃくゼリーを接触させる亜紀。

○同・三年一組・中
   頬に手を当てる紗香。
紗香「今の……こんにゃく?」
   振り返る紗香。暗い道が続く。
紗香「う……戻りたくない……でも戻らないと意味がない……い~!」
    ×     ×     ×
   黒板に書かれた「死」の文字。
紗香の声「しぃぃぃ!」

○同・廊下
   壁にもたれかかる紗香。顔面蒼白。
紗香「はぁ……死ぬかと思った……。でも、コレで揃った」
   スマホを取り出す紗香。画面にはコースターの画像。
紗香「『コースターの3文字目』は『の』」
   紗香と友美のチェキを取り出す紗香。裏面に書かれた「台」の文字。
紗香「『チェキの裏』は『台』」
   スマホの画像をスライドさせ、「中」と書かれた紙の画像を出す紗香。
紗香「『5番の先』は『中』。そして……」

○(フラッシュ)同・三年一組・中
   こんにゃくの隣につるされた紙に書かれた「詞」の文字。それを必死に形相で探し当てる紗香。
紗香「『詞』ぃぃぃ!」

○同・廊下
   壁にもたれかかる紗香。チラシとペンを手に、チラシの裏に何か書き始める。
紗香「『こんにゃくの隣』は『詞』。って事は、この四つから導き出されるのは……」
   チラシの裏に「台詞の中」と書く紗香。
紗香「『台詞の中』。ここに、金庫の鍵の答えがあるって事だ」
   チラシを裏返す紗香。それは演劇部のチラシ。
紗香「つまり、ここに行けば!」
   駆け出す紗香。

○同・演劇部部室・前
   受付に立つ演劇部員。パンフレットを配っている。
演劇部員「まもなく最終公演で~す」
   ブザー音。

○同・同・中
   舞台で芝居をする舞ら演劇部員達。舞は舞台上ではまるで別人のような声の張り上げ方。
舞「ご来場いただいた皆様、こんにちは。僕の名前は名探偵アポロ。今日も様々な事件が僕の元にやってくる」
   満席の客席でそれを見ている紗香。
紗香「探偵、か……嫌な言葉。っていうか、あの主役の人、どこかで見覚えが……」
   パンフレットに目をやる紗香。主演の欄に「堂本舞(2ー5)」の文字。
紗香「堂本……?」

○(フラッシュ)同・二年五組・中
   紗香の耳元に立つ舞。

○同・演劇部部室・中
   舞台で芝居をする舞を見て驚く、客席の紗香。
紗香「え、堂本さん!?」
   周囲の客から迷惑そうな視線。
紗香「あ、すみません……」
沢村の声「大森先輩、よろしいんですか?」

○同・探偵部部室・中
   金庫の前に立つ大森と沢村。
沢村「まだ店番の時間じゃ……?」
大森「問題ないよ。そもそも卓球場なんて、やる気に満ち溢れたクラスが選ぶ模擬店ではないだろう?」
沢村「そうかもしれませんけど……」
大森「で、阿部ちゃんはどんな様子だい?」
沢村「どうやら、四つの店からヒントは得たようで、演劇部に向かっています」
大森「そうか。阿部ちゃんにしては随分と時間がかかったね」
   部室の扉が開く。
沢村「あっ……」
大森「(扉を開けた主を見て笑みを浮かべ)どうも、探偵部部長の大森です」

○同・演劇部部室・中
   舞台で芝居をする舞ら演劇部員達。金庫を開けるシーン。
舞「金庫の鍵の謎はもう解けているよ。まずは00、そして31、次は16、最後は27。さぁ、どうだ?」
   金庫が開かれる。盛り上がる演劇部員達。
   客席でそれを見ている紗香。すっかり芝居の虜になっている模様。
    ×     ×     ×
   カーテンコールをする舞ら演劇部員達。
   スタンディングオベーションでソレを迎える紗香ら客達。
紗香「ブラボー!」
紗香の声「いや~、感動した!」

○同・同・前(夕)
   帰る客たち。片づけをする演劇部員達。
   舞と談笑する紗香。舞の声は元のか細い声量。
紗香「堂本さん、演劇部だったんだね。ビックリしたよ」
舞「あの、その……来てくれて、その、ありがとう……」
紗香「しかも主演でしょ? もっとクラスの人にも宣伝したらいいのに」
舞「いや、あの、したんですけど……」
紗香「っていうか、舞台上ではあんなに大きな声出せるんじゃん。やっぱり、アレ? お客さんいるとアドレナリン出る感じ?」
舞「そう……ですね」
   表情がわずかに明るくなる舞。
舞「昨日は、本当に、ガラガラ、だったので、今日は、その、楽しかった、です……」
紗香「そっか。なら良かった」
舞「でも、その、阿部さんは、何で、見に来てくれた、というか、その……」
紗香「あぁ、私は……(思い出して)あぁ! ごめん、こんな事してる場合じゃなかった!」
   駆け出す紗香。
紗香「ごめん、堂本さん。芝居、最高だったよ!」
舞「? はぁ……」

○同・探偵部部室・前(夕)

○同・同・中(夕)
   息せき切って駆け込んでくる紗香。金庫の前に立つ大森と沢村。
大森「おや、阿部ちゃんじゃないか」
沢村「お帰りなさい」
大森「沢村ちゃん。そこは『ご主人様』と呼んであげるべきじゃないかな?」
沢村「そうでしたね。失礼しました」
紗香「……ごめん、ツッコむ元気ないからさ。ちょっとどいて」
   二人の間に割って入る紗香。金庫のダイアルに手を伸ばす。
紗香「演劇部のお芝居の台詞の中。00、31、16、27、どうだ!」
   金庫の扉が開く。
紗香「やった! コレで私のノートが……」
   金庫の中身、空。
紗香「……って、あれ?」
大森「残念だけど、少し前に正解者が出てね。もう持って行かれてしまったよ」
紗香「そんな~……」

○同・外観(夜)

○同・中庭(夜)
   後夜祭が行われている。

○同・探偵部部室・中(夜)
   金庫の無くなった室内。部長席に座る大森と、応接用の机に突っ伏す紗香。
大森「阿部ちゃん。後夜祭には出なくて良かったのかい?」
紗香「……あのノートが他人の手に渡った直後にお祭りを楽しめるほど、私も切り替え早くないですよ」
大森「そう嘆く事もあるまい。必要なら、新しいノートをプレゼントしようか?」
紗香「そういう問題じゃないですよ」
   しばしの沈黙。
紗香「大森先輩。これ、私の勝手な想像なんですけど」
大森「言ってみたまえ」
紗香「今回のこの企画、客足の少ない店への救済企画だったんじゃないですか?」
大森「ほう。何故そう思うんだい?」
紗香「行った店が全部そうだったんですよ」

○(フラッシュ)同・一年六組・中
   渚と向かい合う紗香。
紗香の声「昨日はお客さんが少なくて」

○(フラッシュ)同・写真部部室・中
   展示された写真を眺める紗香。
紗香の声「でも凄く、ちゃんとしたお店で」

○(フラッシュ)同・二年七組・中
   紗香の投球を見守る池本。
紗香の声「だから、そういうお店を選んで」

○(フラッシュ)同・三年一組・中
   逃げ回る紗香。
紗香の声「探偵部の企画と連動させて」

○(フラッシュ)同・演劇部部室・中
   舞台上で芝居をする舞。
紗香の声「いいお店にお客さんが流れるように仕向けたのかな、って」

○同・探偵部部室・中(夜)
   部長席を挟んで対峙する紗香と大森。
紗香「だとしたら、大森先輩も案外、優しい人なんだな、って思ったんです」
大森「……阿部ちゃん?」
紗香「(何かを期待するように)はい」
大森「そんな風に褒めたって『君のノートを持って行ったのが誰か』なんて、教えないよ?」
紗香「ぐっ……このドケチ!」
   荷物を持って出ていく紗香。

○阿部家・外観(夜)
紗香の声「ただいま」

○同・リビング(夜)
   ソファーに倒れ込む紗香。同じソファーの隅で何かを読んでいる阿部公太(9)。
紗香「あ~、もうあのバカ部長が!」
公太「荒れてるね~。今日も何かあった?」
紗香「人の持ち物勝手に景品にして、もう信じられんない。そのくせ一ミリも反省してないあの態度」
公太「すぐ人の揚げ足とるし」
紗香「そうそう。人の事見透かすような事言うし」
公太「そのくせ、人の気持ちをコレっぽっちもわかろうとしてくれない」
紗香「そうそう。……何でわかんの?」
   公太が読んでいるのは、景品にされたノートだと気づく紗香。
紗香「あ~! そのノート!」
公太「いいでしょ? 景品でもらった。何か、俺が一番乗りだったみたいでさ」
紗香「公太……アンタ、神か!」
   公太に抱き着く紗香。
公太「うわっ、バカ、離れろよ!」
紗香M「もしも私が神様ならば」

○愛丘学園・一年六組・中
   片づけをしている生徒達。その中で、サボっている渚ら数名の生徒達。
紗香M「全ての人を救う事が出来るのだろうか?」

○同・ゴミ捨て場
   大量のごみが載った台車を引く咲良。
紗香M「でも私は神様じゃないから」

○同・二年七組・中
   隣同士の席に座る橋本と池本。ともに電卓をたたき、橋本は満足そうな笑みを浮かべ、池本は落胆。
紗香M「救える人と救えない人がいる」

○同・演劇部部室・中
   セットのない舞台。稽古をする舞。まるで紗香のモノローグを台詞として口にしているよう。
紗香M「ねぇ、神様。この世界はなんでこんなにも……」

○阿部家・紗香の部屋
   ノートに「不公平だ!」と書く紗香。
紗香M「不公平なんですか?」
                  (完)

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