道場 健……スヨンの運命の相手?
林 光雄……道場の友人
スヨン……天女
◯山の中
山道を歩く建築学部の学生たち。
その少し後ろを、道場健(22)と、林光雄(22)が歩いている。
林 「お前、まだ彼女いないのか?」
道場「ああ」
林 「その女恐怖症、早く治さないと」
道場「女恐怖症じゃない。セックスだ! アルファベットの8文字目の行為が怖いんだ!」
林 「何でそんなんなったんだっけ?」
道場「俺の、初体験の時だよ」
立ち止まる道場。
林、歩き続けるが、道場はそれに気付かない。
道場「イキそうな顔が、ブサイクなブルドッグみたいって言われたんだそ。そりゃ、怖くも……」
道場、辺りに誰もいないことに気付く。
◯深い山の中
ふらつきながら歩く道場。
道場「おーい! みんな、どこだぁー!!」
道場、崩れ落ちる。
道場「もう、ダメだ。俺はここで死ぬ」
道場、仰向けになり、木々の間から空を眺め、目を瞑る。
× × ×
道場の頬を舐める鹿。
道場「うわっ!」
慌てて飛び起きる道場。
道場「鹿?」
鹿、じっと道場を見つめる。
道場「え? 付いてこい、だと?」
うなずく鹿。
道場、立ち上がり、鹿の後に付いて行く。
◯泉・岩場
岩の向こうから、鹿が顔を出す。続いて、道場の顔。
道場「何だここ。泉?」
ぐるっと、泉を見渡す道場。
道場「!?」
泉の中で、水浴びをする天女たち。
鹿、道場の服の裾を噛み、引っ張る。
道場「?」
道場「服を隠せ? 彼女たちの?」
うなずく鹿。
◯泉付近
道場、姿勢を低くし、天女から身を隠す。
目の前には美しい羽衣が。
道場、羽衣をそっと手に取り、低い姿勢のまま後ずさる。
◯泉・岩場
道場「で、この後どうしたら?」
鹿はいない。
道場「あれ?」
スヨン(声)「きゃーっ!」
声の方に振り返る道場。
一斉に天に昇っていく天女たち。
泉へ近付く道場。
◯泉付近
スヨン(699)、顔を覆い泣いている。
岩影から、見ている道場。その手には羽衣が。
道場の足元の石が崩れ、ガサッと音が鳴る。
音に気付き、顔をあげるスヨン。予想を裏切ってブサイク。
道場「え?」
スヨン「あなたが」
道場「?」
スヨン「あなたが、私の衣を……」
涙を流し、近付くスヨン。
道場「か、返します」
道場、羽衣をスヨンに付き出す。
スヨン「いいえ。これはあなたが持っていて下さい。私は600年も、待ち続けたのです」
道場 「は?」
スヨン「私の……」
道場 「?」
スヨン「ご主人様」
道場、卒倒する。
◯病院・救急外来(夕)
点滴をされ、ベッドで寝ている道場。
その横には、林が座っている。
道場、うっすらと目が開く。
林 「お、気がついたか?」
道場「ここは?」
林 「病院だ」
道場「!」
道場、勢いよく起き上がる。
道場「俺はどうやって……」
林 「女の子が担いで来たんだよ」
◯(回想)山の中
驚いた表情の林。
道場を肩に担いでいるスヨン。笑顔で軽く会釈。
◯(戻って)病院・救急外来(夕)
道場「その女はどうした?」
林 「命の恩人だぞ。女性って言えよ」
道場「その女性は、どこ行った?」
林 「さぁ? 家に帰るって言ってたけど?」
道場、安堵する。
◯道場のアパート・前(夜)
鍵を取り出す道場。
道場「?」
道場、鞄の中から、羽衣を引っ張り出す。
道場「何故ここに?」
道場、部屋の明かりがついていることに気付く。
道場「? 消し忘れたか」
鍵を挿し、ドアを開ける。
◯同・玄関(夜)
三指をつくスヨン。
スヨン「お帰りなさいませ、ご主人様」
ガタガタと震える道場。
道場 「ど、ど、ど、どうしてここに?」
スヨン「どうしてって……」
スヨン、顔を赤らめ、
スヨン「私たちの、愛の巣、じゃないですか」
道場、スヨンの腕を掴む。
スヨン「やだ、ご主人様。まだお風呂も入ってないのに」
◯同・前(夜)
外に出されるスヨン。
道場「いいか、二度と入ってくるな」
スヨンに羽衣を突き付け、乱暴にドアを閉める道場。
◯同・リビング(夜)
道場 「まったく。変な奴に助けられたもんだ」
道場 「!」
テーブルに料理を並べるスヨン。
スヨン「ご主人様。今日は精の付くものばかりですよ。さ、食べましょ」
スヨン、はしゃぎながら椅子に座る。
道場「どうやって中に?」
脱力する道場。
◯大学・講義室
隣同士で座る道場と林。
林 「それで、一緒に住んでるの? その、天女と」
道場「追い出しても追い出しても、何故か部屋にいるんだ」
半泣きの道場。
林 「泣くことないだろ。天女の何が問題なんだ?」
道場「天女が問題なんじゃない! あの顔。まるで……」
道場、声をあげて泣く。
林 「偉そうなこと言えないレベルだぞ。お前も」
道場、泣き止む。
林 「人は、顔じゃない」
林、自分の胸を軽く拳骨で叩く。
林「ここだ」
◯道場のアパート・前(夜)
ドアノブに手をかけている道場。深呼吸し、ドアを開ける。
◯同・リビング(夜)
スヨン、テーブルに料理を並べている。
ドアが開く音。
スヨン「あら、ご主人様。お帰りなさい」
道場、小さく顔を縦に振る。
テーブルには、豪華な料理が。
スヨン「お腹空きましたよね。ごはんにしましょう」
× × ×
スヨン「いただきます」
道場、箸を持ったまま動かない。
スヨン「あ、失礼しました」
スヨン、道場の隣に行き、卵焼きを取る。
スヨン「はい、あー」
卵焼きを道場の口に持っていくスヨン。
道場 「いい、いい。自分で食べる」
しぶしぶ食べ始める道場。
道場 「……うまい」
満足げに微笑むスヨン。
道場 「?」
道場、スープに見慣れない白い玉が浮いているのに気付く。
道場 「これは?」
スヨン「天界のものです。なかなか採れないから、高級品で」
道場、スプーンですくい、口に入れる。
道場 「うん、うまい。何なんだこれ?」
スヨン、少し黙ってから、
スヨン「ドラゴンの……××××です」
道場、スプーンを落とす。
◯大学・食堂
弁当の蓋が開かれる。白米の上に、田麩でハートが描かれており、その上には海苔で
『LOVE』の文字。もう一段下の箱には、豪華なおかずが詰められている。
道場の弁当を覗き込む林。
林 「これが愛妻弁当ってやつか」
道場「……」
林「羨ましいな、メシつくってくれる彼女がいるの」
林、コンビニおにぎりを開封する。
道場「何が羨ましい? 昨日なんてな、俺は、ドラゴンの××××を食わされたんだぞ。今日は何されるか」
道場、身震いする。
◯道場のアパート・前(夜)
大きなため息をつく道場。深呼吸し、ドアを開ける。
道場 「なっ――」
セーラー服姿のスヨンが出迎える。
道場 「な、な、何だその格好」
スヨン「やだ、ご主人様ったら。分かってるくせに」
道場「は?」
スヨン「今夜、私は……(声をひそめて)オッケーですよ」
道場 「ふざけるな! 俺はそんな趣味はない」
スヨン「あ、もしかして」
くるりと一回転するスヨン。セーラー服からナース服に変わる。
恥じらいながら、
スヨン「こっちの方が良かったですか?」
◯同・寝室(夜)数時間後
ベッドに横になっている道場。
スヨン、その横で布団を敷いて寝ている。
道場、スヨンの寝顔を見つめ、
道場 「いつになったら天界に帰るんだ?」
スヨン、目を瞑ったまま、
スヨン「帰りませんよ」
道場 「起きてたのか?」
スヨン「天女は、羽衣がないと帰れないんです」
道場 「それなら返しただろ?」
スヨン「いいえ。ご主人様が持ってるのでは?」
道場 「ご主人様って……?」
道場、クローゼットから不自然に出た布に気付く。
駆け寄り、クローゼットを開ける道場。
羽衣がひらりと落ちる。
道場 「いつの間に……」
道場、羽衣を拾い、スヨンに向ける。
道場 「返すから。帰ってくれ」
スヨン、起き上がって、
スヨン「いいえ。ご主人様が持っていて下さい」
道場 「どうして?」
スヨン「好きなんです。愛してるんです」
道場 「……」
スヨン「600年も待ち続けて、ようやく会えたんです。だから、帰りません」
◯大学・中庭
ベンチに座る道場と林。
林 「つまり、お前が600年待ち続けた、ご主人様だと?」
道場「ああ」
林 「本当に愛されてんだよ。どうしてもお前に振り向いてほしいんだな。今時、そんな従順な子いないぞ」
道場「相手は俺より677も年上だぞ?今時の子じゃない」
林 「優しくしてやれよ」
林、道場の肩をポンポンっと叩く。
◯道場のアパート・玄関(夜)
スヨン「ご主人様、見てください! 衣替えしてみたんです。ずっと同じ天女服じゃ飽きるでしょ?」
はしゃぐスヨン。
じっと見ている道場。諦めたように笑う。
スヨン「どうですか?似合いますか?」
道場 「似合うよ」
スヨン「え?」
スヨン、動きが止まる。
道場、スヨンの横を通り過ぎ、部屋の中に入る。
道場 「そうだ。この前の、あの……ドラゴンの何とかってやつ」
スヨン「ドラゴンの××××ですか?」
道場 「口に出すなよ」
スヨン「すいません」
道場 「あれ、また手に入るか?」
スヨン「ええ」
道場 「また作って欲しい。あのスープ……うまかった」
スヨン、満面の笑みで、
スヨン「はい!」
◯同・寝室(夜)※日替わり
ベッドに仰向けになっているスヨン。
スヨンを覆うように四つん這いになっている道場。
道場 「天女も人間の女性と同じような体なの?」
スヨン「試して、みます?」
道場、スヨンに顔を近付ける。
キスする寸前で暗転。
◯道場の家(一軒家)・外観(朝)
T『7年後』
◯同・玄関(朝)
道場 「じゃあ、行ってくる」
道場(29)、スヨンの頬にキスする。
その後ろではしゃぐ子供2人。
スヨン、道場に鞄を渡し、
スヨン「いってらっしゃい」
道場 「お前ら、お母さんの言うことちゃんと聞くんだぞ」
子供たち「はーい!」
◯同・寝室
タンスに洗濯物をしまうスヨン。
スヨン「?」
スヨン、引き出しの奥から羽衣を見つける。
スヨン、しばらく眺め、羽衣を胸に引き寄せる。
◯同・リビング(夜)
真っ暗な部屋の中。
道場「ただいまー」
電気がつき、明るくなる。
道場「寝たのかな?」
道場、ふと、テーブルの上のメモに気付く。
メモ『わがままな私をお許し下さい。天界の父や母のことが気になって、天界が恋しくなって
しまったのです。子供たちは連れて行きます。どうか、お身体にお気をつけて。愛していま
す。スヨン』
テーブルの上には、豪華な料理と、白い玉が浮いたスープが。
泣き崩れる、道場。
◯居酒屋・外観(夜)
T『3日後』
◯同・中(夜)
酒を飲む道場と林(29)。
林 「まあ、元気出せよ。今まで遊べなかった分、遊べると思ったら、な?」
道場「お前は変わったな。そんなこと言う奴じゃなかったのに」
林 「そりゃ、お前だけ幸せになったらこうもなるわ。さ、飲め飲め」
林、道場のグラスに酒を注ぐ。
二人のテーブルの横を、美女二人が通る。
林 「そこの美女たち、一緒に飲も! 全部奢るから」
◯同・前(夜)※数時間後
美女と肩を組み、揚々と出てくる道場と林。
道場「!」
道場、足が止まる。
林 「どうしたぁ、みちばぁ?」
道場「スヨン……」
道場の視線の先には、スヨンが立っている。
道場「帰ったんじゃ?」
スヨン「あなたに会いたくて。さみしくて」
道場「でも、まだ3日しか」
スヨン「人間界の3日は、天界では3年です」
道場「……」
スヨン「ところであなた。隣の女性はどなた?」
美女をにらむスヨン。
道場、美女を振り払い、スヨンに駆け寄る。
何も言わずスヨンを抱き締める道場。
スヨン、微笑んで道場の背中に手を回す。
(終)
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