今日、僕は彼女にプロポーズしない ドラマ

4月1日。綿貫颯太(33)と金子愛羅(33)は、そろそろ結婚も視野に入れたいカップルで……。
マヤマ 山本 23 1 0 12/08
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第一稿

<登場人物>
綿貫 颯太(33)会社員
金子 愛羅(33)綿貫の恋人
笠井(35)綿貫と愛羅の先輩
ウエイター



<本編> 
○高級レストラン・外観(夜)
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<登場人物>
綿貫 颯太(33)会社員
金子 愛羅(33)綿貫の恋人
笠井(35)綿貫と愛羅の先輩
ウエイター



<本編> 
○高級レストラン・外観(夜)
綿貫の声「記念日は、多いほうがいい」

○同・店内(夜)
   それなりに着飾った客たちでほぼ満席の店内。笠井(35)ら、カップルで来ている客も多い。
綿貫の声「極端な話、毎日が記念日になれば、人生はとても豊かになる。それはわかる。でもさ……」
   向かい合って座り、食事する綿貫颯太(33)と金子愛羅(33)。
綿貫「『同棲してから一年半記念日』は、さすがにムズイ」
愛羅「そう? 十月一日に同棲開始。年度初め。わかりやすいと思うけど」
綿貫「っていうか、だったら『半年記念日』を去年祝うべきでは?」
愛羅「仕方ないでしょ。忘れてたの」
綿貫「覚えられない記念日なんて作っちゃダメ。むしろ、覚えきれないほど作るなんて、記念日好きだよね」
愛羅「女子はそういうもんでしょ」
綿貫「愛羅はその中でも頭一つ抜けてるよ」
愛羅「本当に? なら、誕生日のせいかな?」
綿貫「誕生日?」
愛羅「人間、一番の記念日は誕生日でしょ? でもウチの場合、私が五月四日で弟が五月六日。二日しか違わないから……あ、二年と二日ね」
綿貫「さすがにわかる」
愛羅「だから、まとめて祝われて。ひどい時なんて『間を取って五日に祝う』って」
綿貫「前にも聞いたな。プレゼント貰えたのも五日だった、って話だっけ?」
愛羅「そう。もう『うそでしょ?』って。何で誕生日プレゼント貰うの、私は一日待たされて、弟は一日早いの? 全然間取れてないんですけど」
綿貫「わかったわかった。とにかく、来年の今日は忘れないようにするから」
愛羅「本当に? でも、同棲二年半って言ったら、そろそろ……ねぇ?」
   店内の照明が消える。
愛羅「!」
   「ハッピーバースデートゥーユー」と歌いながら、笠井達の席に誕生日ケーキを持っていくウエイター。
   ケーキのロウソクの火を吹き消す笠井の彼女。
笠井「誕生日おめでとう!」
   店内の照明が付く。笠井に続き、拍手する綿貫、愛羅ら周囲の客たち。
綿貫「……で、何の話してたっけ?」
愛羅「……もう忘れた」
    ×     ×     ×
   席に着く綿貫と愛羅。スマホで「プロポーズ」「サプライズ」で検索する愛羅。フラッシュモブ等の記事が出る。
綿貫「(笠井の彼女を見ながら)エイプリルフールが誕生日って、どういう気分なんだろうね?」
愛羅「(笠井の彼女を指し)え? さぁ?」
綿貫「ちなみに、『みどりの日』生まれってどんな気持ち?」
愛羅「別に。そもそも私が生まれた時点では『みどりの日』じゃなかったし。あれ、元々は何の日だったっけ?」
綿貫「国民の休日」
愛羅「何それ?」
綿貫「祝日と祝日の間は祝日になる、って法律があんの」
愛羅「うそ、本当に?」
綿貫「本当。シルバーウィークとか、令和元年のゴールデンウィークの一〇連休とかもソレだから」
   と言ってスマホで調べ始める綿貫。
愛羅「あ~、そんなのあったね」
綿貫「(スマホを見ながら)Wikipediaによると、他には『ラムネの日』『名刺の日』『スター・ウォーズの日』なんてのもあるらしい」
愛羅「うそ、本当に? 今日だけWikipediaが嘘をついている可能性は?」
綿貫「無いとは言えないけど……さすがに無いんじゃない? わざわざ五月四日の項目で」
愛羅「まぁ、そりゃそうか。で、颯太の誕生日は? 何の日?」
綿貫「調べてみるわ。三月九日、は……」
愛羅「まず、レミオロメンの日でしょ」
綿貫「それは代表曲。どうせ『ありがとうの日』とかでは?」
愛羅「ややこしいな。ありがとうと、卒業おめでとうの日って事でしょ?」
綿貫「……レミオロメンの『3月9日』は、卒業ソングじゃないよ?」
愛羅「うそ、本当に?」
綿貫「本当。日付とか、『新しい生活に向けて』みたいな歌詞のせいで、卒業シーズンに歌われがちだけど」
愛羅「じゃあ、何ソング?」
綿貫「結婚を祝うソング」
愛羅「結婚……へぇ……」
   店内に音楽が流れ出す。
   周囲の客たちが踊りだす(=フラッシュモブ)。
愛羅「あ……」
   その踊りに加わる綿貫。
   わざとらしく驚く仕草をする愛羅。
   その踊りに加わる愛羅や店員たち。
   最後にその踊りに加わる笠井。笠井の彼女の前で決めポーズ。
笠井「俺と結婚してください!」
   涙ながらに頷く笠井の彼女。
   盛り上がる一同。複雑な表情を浮かべる愛羅。
    ×     ×     ×
   席に着く愛羅。綿貫は不在。引き続きスマホで「プロポーズ」「サプライズ」で検索する愛羅。「デザートにメッセージ」などの記事が出ている。
   そこにやってくる笠井。
笠井「あれ? 颯太はどこ行った?」
愛羅「あ、笠井先輩。今、トイレに」
笠井「何だよ、お礼言おうと思ってたのに」
愛羅「本日はおめでとうございます」
笠井「おう。そういうお前らも、そろそろだろ? 来月、お前の誕生日だし」
愛羅「……まぁ、それはそれで、『誕生日とプロポーズ記念日』を一緒にされるみたいで嫌なんですけど」
笠井「面倒くさい性格だな。とにかく、今日はありがとな。俺らは先に帰るけど、ゆっくりしていけよ。颯太にもよろしく」
愛羅「はーい」
   立ち去る笠井と入れ替わるように、デザートを持ってやってくるウエイター。
ウエイター「お待たせいたしました。こちら、デザートでございます」
愛羅「え? 私、頼んでない……」
   デザートの皿の空いてる部分に「結婚」という文字が見える。
愛羅「うそ……」
   息をのみ、ゆっくりと皿を回転させ、文字を全部見る愛羅。「結婚式にも来てね♪ KASAI」と書いてある。
愛羅「……紛らわしい事しやがって」
   ため息をつく愛羅。そこにやってくる綿貫。
綿貫「(周囲を見て)あれ、笠井先輩達は?」
愛羅「帰った。『今日はありがとう』『颯太にもよろしく言っといて』『結婚式にも来てね♪』だって」
   怒りをぶつけるようにフォークでデザートを刺す愛羅。
綿貫「? どうかした?」
愛羅「別に」

○公園(夜)
   綺麗な夜景が見える公園。
   ベンチに並んで座る綿貫と愛羅。
綿貫「何不貞腐れてんの?」
愛羅「別に。じゃあ、そろそろ帰るね」
綿貫「あ、ちょっと待った」
愛羅「何?」
綿貫「今日、エイプリルフールじゃん? 俺、まだ嘘ついてないんだよ」
愛羅「は? 知らないし……」
綿貫「僕は、君の事が好きじゃない」
愛羅「え?」
綿貫「ずっと一緒に居たくない。君を幸せになんて出来ない」
   愛羅に指輪を差し出す綿貫。
愛羅「(察して)あ……」
綿貫「だから、結婚したくない」
   しばしの沈黙。
愛羅「何で、今日?」
綿貫「他の記念日と重複しないから」
愛羅「……同棲してから一年半記念日は?」
綿貫「だったら、半年記念日を祝うべきでは?」
愛羅「仕方ないでしょ、忘れてたの」
綿貫「でもこのやり方なら、さすがに『プロポーズ記念日を忘れないで済む』のでは?」
愛羅「うん。私も忘れないと思う」
綿貫「で……(指輪を指し)どうかな?」
愛羅「それはもちろん……ん?」
綿貫「どうしたの?」
愛羅「いや、この場合、うそと本当、どっちで答えるべきなのか……」
綿貫「それは……(混乱し)ん?」
愛羅「(混乱し)んん?」
   しばし考え込む二人。
愛羅「……あぁ、もう。面倒くさい!」
   綿貫にキスをする愛羅。
                 (完)

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