人 物
川上大和(17)洛西高校二年生
川上宗次郎(45)大和の父。寡夫
○川上家・リビングキッチン(夕)
川上宗次郎(45)、ボールで挽肉を捏ねる。
川上、眉間に皺を寄せ、
川上「大和ちゃん、ゴロゴロゴロゴロして、宿題はどうしたのよ?」
川上大和(17)、ソファーに寝転がり、テレビから目を離さない。
ソファー前の机の上に、ポテチ袋とコーラのペットボトルが乱雑に置かれている。
川上「大和ちゃん、聞こえてるんでしょう?」
大和、川上を睨み、舌打ち。
大和「煩いな」
大和、起き上がり、胡座をかく。
川上「いつもいつも、言われる前に宿題したらどうなのよ?」
大和、立ち上がり、ドタドタと歩く。
大和「言われなくても、今からやろうとしたところよ」
大和、扉を強く閉める。
川上、ため息をつく。
壁に額縁が飾られている。中の紙には「遺言書 家族仲良く 川上千夜」と書かれてい
る。正面には仏壇。遺影には千夜の写真。
◯同・大和の部屋(夕)
大和、ベッドで仰向けに、
大和「気持ち悪いんだよ、オカマが」
机の上の本が落ちる。本から四つ葉のクローバーが加工された栞が飛び出る。
大和、本と栞を手に取り、栞を涙を浮かべならが見つめる。
川上の声「ちょっと、大和ちゃん、机の上片付けなさいよ」
大和、涙を腕で拭う。扉から顔だけ出す。
大和「煩い、勉強しろと言ったのどこのどいつだよ、ボケ」
川上の声「まぁ、親になんて口答え!つべこべ言わず、片付けなさい」
大和、舌打ち。扉から出ていく。
○同・リビングキッチン(夕)
川上、捏ねた挽肉を両手でペチペチと投げている。
大和、シンクにコップと空のペットボトルを置く。川上を睨むように横目で、
大和「あたし、お母さんのハンバーグしか食べないから」
川上「何よ!ちゃんと、お母さんの味を再現しているだから、安心なさい」
大和「けっ、どうなればオカマからお母さんの味が生まれるんだよ」
川上「食べてみればわかるわ」
大和、舌打ち。扉を思いっきり閉める。
○同・廊下(夕)
扉にもたれ掛かり、俯く大和。
大和「あんな奴とどう仲良くすればいいんだよ、お母さん」
ふと、扉がゆっくり開く。扉の前には
「千夜の部屋」と掛かっている。大和、不思議そうに見つめる。そして、吸い込まれるよ
うに開いた扉の部屋に入っていく。
○同・千夜の部屋(夕)
大和、辺りを見渡す。
本棚にびっしりと小説や専門書。
大和、本棚の一つの棚の底を指でなぞが、指先は綺麗のまま。
大和「綺麗にされている…」
部屋の窓際にぽつんとデスクとその上に厚い本。
大和、本を手に取る。本の表紙に「Diary」と印字。
大和「お母さんの日記?こんなの付けていたんだ」
大和、ぺらぺらと捲る。
大和「あたしの事ばかりだ」
大和、椅子に腰掛け、笑顔でページを捲る。
☓ ☓ ☓
大和、目に涙を溜め、鼻を啜る。
大和、ページを捲ると、白紙。何度も捲るが白紙。
大和「終わりか…」
更にページを捲ると、四葉のクローバーの栞が挟まれており、文章の最初に「大和へ」と書かれている。栞の裏には「川上宗次郎」と書いてある。またそのページに目が止まる、大和。
大和「これは…」
本には「大和が思うほどお父さんは大和のことを想っているわよ」、「料理はお父さんか
ら教わったのよ。大和の健康を考えていたんだ。初めに教わったのはハンバーグ。これは
大和も好きだったね」、「お父さん、陰ながら応援していたんだよ」、「四葉のクローバ
ー、お父さんと繋がっているんだよ」と書かれている。
大和、本の内容と栞を見比べる。
☓ ☓ ☓
窓の外は暗くなっている。
大和、椅子の背にもたれ掛かり、虚ろな目で、
大和「お父さん…お母さん…ごめんね…」
川上の声「大和ちゃん、ご飯だよ」
大和、笑顔で、
大和「はーい」
大和、栞をポケットにしまう。
○同・リビングキッチン(夜)
机には二人分のハンバーグと他料理が並んでいる。
川上と大和、向かい合って座っている。
川上、手を合わせる。
川上「いただきますわ」
川上、箸を持ち、食べ始める。
大和、手を合わせ、パンと音をたてる。
川上、目を開き、手が止まる。
大和「(笑顔で)いただきます」
大和、ハンバーグを一口食べる。
大和「うん、美味しいよ、お父さん」
川上、口をポカーンと開いたまま、固まる。
大和、お構いなしに食べ進める。
大和「ん?どうしたの?お父さん」
川上「何か悪い物食べたの?」
大和、吹くように笑う。
大和「ハンバーグが悪い物?こんなに美味しいの、悪い物の訳ないじゃない」
川上「ま、まあね…」
大和、笑顔で食べる。
川上、首を傾げながら、食べる。
☓ ☓ ☓
川上と大和、同時に手を合わせて「ごちそうさま」と言う。
川上、首を傾げる。
大和、立ち上がり、食器を重ねる。
大和「お父さん、私が片付けるからゆっくりしてて」
川上、引き攣った笑顔で、
川上「そ、そう?なら回せようかな」
大和「あー信用していない目だな。片付けぐらいできるよ」
川上「いや、そうゆうことではな…」
大和「はいはい、驚くような働きをするから」
川上「あぁ…」
大和、重ねた食器を流し台に運ぶ。
川上「(小声で)どうしたんだ?大和は?」
大和、鼻歌交じりで食器を洗っている。
☓ ☓ ☓
川上、ソファで寛ぎ、テレビを見る。
大和、濡れた手をタオルで拭き、川上の背後に立つ。川上の肩に手を置き、
大和「お父さん、肩凝っているでしょう?」
川上「え?んーそうだね…急にどうした?小遣いか?」
大和、川上の肩を揉む。
大和「違うよ。なんだろう、私がバカだったからかな」
川上「バカ?どうした?」
大和、ポケットに入れた栞を見せる。
川上「そうか…見たんだね…」
大和「もう一人で頑張らなくて良いんだよ。こんなに肩を固くして」
大和、肩を揉み続ける。
川上「親の役目だ、気にするな。これからでも幸せにできる」
大和「なら、甘えてもいい?」
川上「お前に急に甘えられたら、何か怖いな」
大和「はぁ?グレるぞ」
大和、川上の頭を叩く。
川上「痛ぁ、お父さんに対しては相変わらず暴力的だな。お父さん、家事放棄しちゃう」
川上、鳴き真似をする。
大和、吹き出すように笑う。
大和「そうなったら、お母さんに言いつけてやろう。娘をイジメていると」
川上「天国から鉄拳が来そうだ」
大和、肩揉みをやめる。
大和「はい、完了」
川上「ありがとう」
大和、ソファに腰掛け、栞を見つめる。
大和「聞いていい?」
川上「ん?」
大和「なんで、オカマなの?もしかして、お母さんの代わりになるために敢えてやったとか?」
川上「それは…(不敵に笑う)あたしが女の心を持っているからだわ」
大和「え?」
川上「もう、千夜が居たときは我慢の日々、そしてやっと本当のあたしを開放したのさ」
川上、両手を上に上げる。
大和、白い目で見つめる。
川上「(咳払いをする)冗談はさて置き、千夜を忘れなため、演じているだけだよ」
大和「(疑いの目で)へーそうなんだ」
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