#26 三間茶屋午前八時 ファンタジー

人生はロケット鉛筆の芯のようなもの。 過去のすべてが今を支えている。
竹田行人 27 0 0 07/11
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第一稿

「三間茶屋午前八時」


登場人物
轟健太郎(24)フリーター
アワバナ(見た目は20代)死神
中村保(24)会社員
女1・2・3


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「三間茶屋午前八時」


登場人物
轟健太郎(24)フリーター
アワバナ(見た目は20代)死神
中村保(24)会社員
女1・2・3


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○死役所・オフィス
   アワバナ(見た目は20代)、デスクでロケット鉛筆の芯を引き抜き、後ろに差し込む。
   ロケット鉛筆、新しい芯が出てくる。

○三軒茶屋駅北口前(朝)
   駅に向かう人の群れ。
   轟健太郎(24)、はっぴとサンバイザー姿でティッシュを配っている。
轟「フェアリーコンタクトでーす」
   女1、轟に近付く。
女1「すみません。そのコンタクトってワンデイもありますか?」
轟「あー。バイトなんでわかんないっす」
女1「あ。そうですか」
   女1、去る。
轟「フェアリーコンタクトでーす」
   誰もティッシュを受け取らない。

○ブルーメゾン三間茶屋・轟の部屋・中(夜)
   ベッドとデスク。
   壁の時計は午前2時を指している。
   デスクの上の小物入れにロケット鉛筆の芯が一つ収められている。
   轟、ベッドで眠っている。
   轟を揺するアワバナの手。
アワバナの声「轟さん。轟健太郎さん」
   轟、目を開ける。
アワバナ、ベッドの脇に座っている。
   轟、飛び起きる。
轟「何!? 誰!? 何!?」
アワバナ「すみません。私。こういう者です」
   アワバナ、轟に名刺渡す。
轟「死神。アワバナ。死神!?」
アワバナ「はい。死役所から参りました。ちなみに死役所とはCity officeではなくDeath office。死に関する役所です」
轟「うまいこと言ってんじゃねぇよ!」
アワバナ「心中お察しします。ですがこれは」
   轟、布団を被る。
   アワバナ、布団を剥ぐ。
   轟、布団を被る。
   アワバナ、布団を剥ぐ。
   轟、布団を被る。
アワバナ「SNSのアカウント。全部カギ外して実名にしますよ」
   轟、飛び起きる。
アワバナ「座ってください」
   轟、胡坐をかく。
アワバナ「正座」
   轟、正座をする。
アワバナ「轟健太郎さん。あなたは今から約53時間後。死にます」
   轟とアワバナ、目を見合わせる。

○三軒茶屋駅北口前(朝)
   轟、ティッシュを配っている。
轟「フェアリーコンタクトでーす」
   アワバナ、轟の前に立っている。
アワバナ「昨日の聞いてました? 轟さん。あなたは後二日で死ぬんですよ」
轟「フェアリーコンタクトでーす」
アワバナ「ですから。やり残したこと。行きたかった場所。会いたい人などにですね」
轟「フェアリーコンタクトでーす」
アワバナ「何かないんですか? 未練」
   轟、アワバナの腕を掴む。

○路地(朝)
   轟、アワバナを引っ張ってくる。
轟「ないよ。未練なんて」
アワバナ「やっぱり」
轟「やっぱり?」
アワバナ「最近多いんですよ。のんべんだらりと生きて死んで、ところてん式に死役所に来る人間が」
轟「へぇ」
アワバナ「闇で未練の欄を埋める模範回答集が出回ってます」
轟「オレも買うわ」
アワバナ「そういう人は死んだ後もつまらなさそうで。目が死んでて。もう死んでるんですけど。あなたもそうみたいですね」
轟「オレは」
   轟、駅の方に目をやる。
轟「あれ。中村」
   中村保(24)、駅の方に歩いている。

○三軒茶屋駅北口前(朝)
   中村、歩いている。
   轟とアワバナ、路地から出てくる。
轟「中村!」
   中村、振り返る。
   轟、中村の前に立つ。
轟「おお。やっぱり中村だ。小学校以来?」
中村「えっと。服部?」
轟「違う違う。オレは」
中村「待った! ケンヂだ! あの。昼休みに放送室ジャックした」
轟「違うよ。ホラ。天文部の」
中村「ああ! わかったわかった。勝又くんだ。あの。お面の」
轟「轟な」
中村「トドロキくん」
アワバナ「インパクトある名前なのに影薄!」
轟「うん。いいや。それよりさ。小3の時。ロケット鉛筆の芯一個パクってそのまんまでさ。返したいと思ってたんだよ」
中村「いやぁ。今返してもらっても」
   携帯電話が鳴る。
中村「ごめん。ああ。うん。え? ちょっと待てよ。今日だよ合コン。今さら行けないって言われてもそんな」
   中村、轟を見る。
中村「折り返す」
   中村、電話を切り、轟に歩み寄る。
中村「トドロキくん。今夜。暇?」
   轟とアワバナ、目を見合せる。

○レストラン「aki-nai」・外(夜)
   轟とアワバナと中村、男と女性3人と一緒に出てくる。
   轟、女2に近付く。
轟「ねぇ。ここ抜けて飲み直さない?」
女2「え? あ。いや。私。次のカラオケ。行きたいかなって」
轟「あ。そっか。じゃ。楽しんでね。また」
女2「すみません。じゃあ」
   女2、中村の元へ駆け寄る。
   アワバナ、轟の隣に立つ。
アワバナ「またなんかないのに」
   轟、踵を返し、歩き出す。
   アワバナ、轟の背中を見つめる。

○轟の部屋・中(夜)
   轟、缶ビールを飲んでいる。
   アワバナ、窓枠に座っている。
アワバナ「中村さんは大手広告代理店のやり手。かたや自分はフリーター」
   轟、ビールを飲む。
アワバナ「名を成すとか。一流とか。私にはよくわかりません。でも」
   轟とアワバナ目を見合わせる。
アワバナ「轟さん。そもそもあなた。足跡の残るような人生歩んできたんですか?」
   轟とアワバナ、目を見合わせる。
轟「一人にしてくれ。頼む」
   アワバナ、一礼して、去る。
   轟、ビールを飲む。

○三軒茶屋駅北口前(朝)
   轟、ティッシュを配っている。
轟「フェアリーコンタクトでーす」
   誰もティッシュを受け取らない。
轟「フェアリーコンタクトでーす」
   誰もティッシュを受け取らない。
轟「フェアリーコンタクト」
   轟、ティッシュを地面に叩きつけ、サンバイザーを叩きつけ、はっぴを脱いで叩きつけ、近くに置かれたティッシュの入った段ボールを蹴り飛ばす。
轟のスマートフォンが地面に落ちる。
   画面には「着信中 中村保」の表示。

○バー「Dead Or Alive」・店内(夜)
   轟と中村、カウンターに座っている。
中村「思い出したんだ。ロケット鉛筆」
轟「いいよもう」
中村「あれ。芯が一個でもなくなると使えないだろ? 借り物だったから怒られた」
轟「悪かったよ」
中村「あんまり怒るから一緒に同じの買いに行ったんだよ。今思えばそれがツマさんとの最初のデートだったなぁって」
   轟と中村、目を見合わせる。
轟「ツマさん。え? おいおい中村。そういうの今は週刊誌がすぐ」
中村「違う違う。取引先にセッティング頼まれただけ。ツマさんも知ってたし」
   轟と中村、目を見合わせる。

○三軒茶屋駅北口前(朝)
   駅に向かう人の群れ。
   轟、ティッシュを配っている。
轟「フェアリーコンタクトでーす」
   誰もティッシュを受け取らない。
   女3、轟に近付く。
女3「それってツーウィークだけ?」
轟「あー。バイトなんでわかんないっす」
女3「あ。そ」
轟「でもお姉さん絶対メガネよりコンタクトの方がいいっすよ」
   女3、ティッシュを取り、微笑む。
女3「ありがと。お店行って聞いてみる」
轟「あざっす。よろしくお願いします」
   女3、去る。
   轟、深々と一礼。
轟「フェアリーコン。ああ」
   クラクション。ブレーキ。衝突音。

〈おわり〉

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