Oh YEAH! ドラマ

「もし、今日より明日の方が奇麗な富士山を見られるとしたら、それだけで人生は素晴らしいって思えませんか?」 イルカ(14)とナナコ(14)は互いにそれぞれの理由で死のうと決めていた。そして二人は「日本一の遺影」を撮るために、偶然屋上にカメラを持って現れた同級生のエディ(14)を連れ富士山へと向かう。
マヤマ 山本 9 0 0 04/21
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第一稿

<登場人物>
イルカ(14)中学生
ナナコ(14)中学生
エディ(14)中学生
真中(40)エディの伯父



<本編>
○(イメージ)湖畔
   霧がかかって ...続きを読む
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<登場人物>
イルカ(14)中学生
ナナコ(14)中学生
エディ(14)中学生
真中(40)エディの伯父



<本編>
○(イメージ)湖畔
   霧がかかっている。
イルカ「死ね」
   甲冑姿の男、イルカ(14)が姿を現す。大きな剣を背負っている。
イルカ「死ね死ね」
   剣を鞘から抜き駆け出すイルカ。
イルカ「死ね死ね死ね」

○中学校・屋上
   携帯ゲーム機でゲームをするイルカ。学生服姿。
   湖のステージで巨大なモンスターと戦う甲冑姿のキャラを操作している。
イルカ「死ね死ね死ね死ね~い」
   モンスターを倒す甲冑姿のキャラ。
イルカ「ヒ~ヤッハ~」
   フェンスに駆け寄る。
イルカ「見たか凡人ども。これが俺様の実力だ。さぁ、全人類よ、跪け!」
   フェンス脇でヘッドホン越しに音楽を聴いている女、ナナコ(14)。同じく学生服姿。ヘッドホンを外す。
ナナコ「るせぇな。黙ってゲームしてろよ、イルカ」
イルカ「『イルカ』じゃねぇ『ドルフィン』と呼べ」
ナナコ「同じじゃねぇかよ」
イルカ「わかってねぇなぁ、ナナコ。ネトゲの世界で『ドルフィン』っていやあ神と崇められてんだぜ?」
ナナコ「でも現実世界じゃ、ゴミとしての価値すら無い訳だ」
イルカ「うるせぇな。お前は黙って音楽聴いてろよ」
   ポケットからアイポッドを取り出し停止ボタンを押すナナコ。
ナナコ「なぁ、イルカ」
イルカ「だから『ドルフィン』と呼べ」
ナナコ「いつ死ぬ?」
イルカ「前も言っただろ? ナナコに合わせる、って。この俺様の優しさを、永遠(とわ)に感謝するがいい」
ナナコ「前にも言ったけど、死ぬんだから感謝しようがなくね?」
   しばしの沈黙。
イルカ「……で、いつ死ぬんだよ」
ナナコ「今朝の新聞見たか?」
イルカ「何だよいきなり。この俺様に新聞なんて必要……」
   イルカの前に新聞を投げるナナコ。一面には「白昼の凶行」の見出しと冴えない女子中学生の顔写真(生徒手帳用の写真風)。
イルカ「(記事を見ながら)……これがどうかしたのか?」
ナナコ「私ら死んだら、そうやって生徒手帳の写真が載るのか?」
イルカ「知らねぇけど、もっと楽しそうな、笑顔の写真とかでもいいんじゃねぇの?」
ナナコ「そんな写真、いつ撮った?」
イルカ「撮らせる訳ねぇだろ。この俺様の肖像権を侵害しようなんて、万死に値する」
ナナコ「そんじゃ、死ぬ前に遺影でも撮らねぇとな」
イルカ「まぁ、カメラ持ってる奴なんてその辺にゴロゴロいるだろうしな」
ナナコ「そんな都合良く現れるかよ。ゲームのやりすぎで頭腐ったか?」
イルカ「安心しろ。世界はこの俺様を中心に回ってる」
    ×     ×     ×
   一眼レフのデジタルカメラを持ってやってくるエディ(14)。薄目を開けている。
エディ「富士山は見える。今日こそ見える。きっと見える……どうだ」
   目を開くエディ。
   空は曇っている。富士山は見えない。
エディ「……今日もダメ、か」
   歩き出すエディ。進行方向にイルカとナナコがいる。
ナナコ「あ」
エディ「え?」
イルカ「な」
    ×     ×     ×
   向かい合って座るイルカ、ナナコとエディ。
ナナコ「私はナナコ。(イルカを指して)こっちはイルカ」
イルカ「だから『ドルフィン』と呼べ」
エディ「はぁ……。あの、僕に何の用なんですか?」
イルカ「あぁ、エディに頼みがあってな」
エディ「いや、江戸川です」
イルカ「いいじゃねぇか、エディで。呼びやすいし。それとも、この俺様の付けたあだ名が気に食わねぇってのか?」
エディ「(嬉しそうに)いや、じゃあ、エディで。で、頼みって何ですか?」
ナナコ「遺影を撮って欲しいんだよね」
エディ「遺影って、あの遺影ですか?」
イルカ「多分、その遺影だな」
エディ「誰のですか?」
ナナコ「私らの」
エディ「何でそんなのが必要なんですか?」
イルカ「死ぬからに決まってんだろ」
エディ「いつ?」
ナナコ「割とすぐ」
エディ「何で?」
イルカ「質問の多い野郎だな。じゃあ、逆に聞くが、果たしてこの世界は、この俺様がわざわざ時間を割いてまで生きてやるほどの価値があるというのか?」
エディ「……。ナナコさんは?」
ナナコ「飽きたから」
エディ「そんな理由で……」
イルカ「理由なんて何だっていいだろ? エディは写真を撮ればいいんだよ。(ポーズをとって)ほれ、ほれ」
エディ「はぁ、じゃあ……」
   カメラを構えるエディ。イルカ越しに見えるのは、先ほどエディが見ていた富士山の見えるハズの方角。
エディ「……あっ」
   カメラをおろすエディ。
イルカ「何でおろすんだよ。この俺様の写真が撮れねぇって言うのか?」
エディ「いや、そうじゃなくて。……イルカ君ほどの人の遺影が、こんなチンケな学校の屋上なんかでいいのかな、って。もっとイルカ君に相応しい場所があるんじゃないかな、って思ったんですけど」
ナナコ「ちょっと、何言って……」
イルカ「なるほど、一理あるな。この俺様の終わりは世界の終わりだ。それ相応の遺影を残してやらねばなるまい」
エディ「ですよね。僕、いい場所を知ってるんですけど」
イルカ「ほう、どこだ?」
   エディを訝しげに見るナナコ。

○走る電車
   行き先に「河口湖」と書いてある。

○電車・中
   並んで座るエディ、イルカ、ナナコ。イルカは携帯ゲーム機でゲームをしている。
ナナコ「何で河口湖なんだよ?」
エディ「河口湖といえば、富士山。富士山といえば日本一じゃないですか。それこそ、イルカ君に相応しい遺影になるんじゃないかと」
ナナコ「私が聞きたいのはそういう事じゃなくて……」
イルカ「あ~、何だよこのゲーム。おい、エディ。このゲームは一体何がしてぇんだ? このタヌキはどうやったら倒せんだ?」
エディ「倒しちゃダメですよ。そのタヌキさんと仲良くなれば、そのうち木の実をくれたりするんですから」
イルカ「だ~、つまらん!」
   携帯ゲーム機の電源を切るイルカ。
エディ「やめちゃうんですか?」
イルカ「つまらねぇゲームはさっさとリセットボタンを押すに限る。人生と一緒だ」
エディ「イルカ君は、人生がつまらないから死ぬ事でリセットしようとしているんですか?」
イルカ「エディにこの俺様の崇高な考えがわかるとは思えないが、まぁ、大体そんな所だ。それから『ドルフィン』と呼べ」

○河口湖駅・外
   出てくるエディ、イルカ、ナナコ。
エディ「着きましたよ、河口湖。よし、撮るぞ~!」
   駆けていくエディ。
ナナコ「エディの奴、テンション高過ぎ」
イルカ「さて、撮られるぞ!」
ナナコ「何でイルカまでテンション高ぇんだよ」
イルカ「だから『ドルフィン』と呼べ」
ナナコ「大体、何で遺影撮るためだけにこんな遠くまで来なくちゃなんねぇんだよ」
イルカ「まだわからないのか? この俺様に相応しい『日本一の遺影』を撮るためだ、って何回も言ってるだろ?」
ナナコ「別に富士山の頂上で撮る訳じゃなくて、富士山バックに撮るだけだろ?」
イルカ「想像力に乏しいな、ナナコ」
ナナコ「は?」
イルカ「いいか? イメージしてみろ。この俺様が富士山をバックに写真を撮る。それを遺影として使おうと家族が動く」
ナナコ「でも実際に使われるのは顔の部分だけ。富士山は関係ねぇだろ?」
イルカ「そこだ」
ナナコ「は?」
イルカ「遺影にしようとした時、富士山よりこの俺様を選ぶ。その瞬間、この俺様は富士山より価値のある存在となるんだよ。日本一と呼ばれる富士山よりもな。これこそ、この俺様のラストパフォーマンスとして相応しいと思わないか? ハハハハハ」
ナナコ「……いや、イルカのパフォーマンスではねぇだろ」

○河口湖畔
   歩きながら写真を撮りまくるエディ。その後ろから歩いてくるイルカとナナコ。
エディ「(写真を撮りながら)うお~。ほっほ~。いいね~」
ナナコ「なぁ、エディ」
エディ「(写真を撮りながら)はっ、よっ、たぁ~」
ナナコ「おい、エディ!」
エディ「は、はい。何ですかナナコさん」
ナナコ「何普通に観光してんだよ。さっさと遺影撮って、さっさと帰るぞ」
エディ「え? でもせっかくここまで来たんですから、少しくらい観光していきましょうよ。元取れないですよ?」
   そのまま歩いて行くエディ。
ナナコ「……だったら最初っからこんな遠くまで来なきゃいいだろ。なぁ、イルカ?」
   振り返るナナコ。誰もいない。
   前方を見るナナコ。エディの隣を歩くイルカ。
エディ「この先に六角堂っていう、湖の上に浮かぶお堂があるんですよ」
イルカ「マジか? そこにいるのはレアアイテムか? それともラスボスか?」
   ため息をつくナナコ。二人の行く先に渋々付いて行く。
    ×     ×     ×
   六角堂や河口湖大橋など、観光してまわるイルカ、ナナコ、エディ。
    ×     ×     ×
エディ「イルカ君」
イルカ「だから『ドルフィン』と呼べ」
   カメラを構えるエディ。
イルカ「撮んじゃねぇ」
エディ「え? 何でですか?」
イルカ「遺影以外でこの俺様の肖像権を侵害するな。万死に値する」
エディ「はぁ……」
   二人に追いつくナナコ。
エディ「(ナナコにカメラを向けて)じゃあナナコさん」
ナナコ「(カメラを遮るように手をかざし)そういうのいらないから」
エディ「はぁ……。そういえば、お二人は付き合ってどれくらいなんですか?」
ナナコ「は?」
イルカ「何言ってんだ、エディ」
エディ「え、違うんですか?」
イルカ「この俺様が、何でナナコと付き合わなきゃならないんだ?」
エディ「でも、心中するんじゃ……」
イルカ「心中じゃねぇ、同じ日に死ぬだけ」
ナナコ「一度に済ませた方が、面倒が少ないんだよ」
エディ「はぁ、そうですか……」
ナナコ「ところで、いつになったら遺影撮るんだよ」
エディ「あ、もうすぐ絶景ポイントなんですよ」

○大石公園
   湖から臨む富士山。上の部分(八合目くらい?)が雲に覆われている。
ナナコ「へぇ、いいじゃん」
イルカ「なるほど。こりゃあ、この俺様の遺影に相応しい舞台と認めてやってもいいな」
エディ「そうですね……」
イルカ「さぁ、撮れエディ」
   ポーズを決めるイルカ。カメラを構えるエディ。カメラをおろす。
エディ「あの、ナナコさん、イルカ君」
イルカ「だから『ドルフィン』と呼べ」
エディ「明日、もう一度出直しませんか?」
ナナコ「は? 何言ってんの?」
エディ「(富士山を指し)上が雲で覆われてます。もしかしたら明日まで待てば、もっといい写真になるかもしれないじゃないですか」
ナナコ「別にこれでいいし。何でまた山梨まで往復しなきゃならねぇんだよ」
エディ「だから、今日はこっちに泊まりましょう。アテはあるんで」
イルカ&ナナコ「は?」

○ペンションManaca・外観
   古びたペンション。

○同・フロント
   向かい合って立つ真中(40)とイルカ、ナナコ、エディ。
真中「どうも、オーナーの真中です」
エディ「伯父なんです」
イルカ「この俺様に相応しい宿とは思えないな」
エディ「あ、ナナコさんは別の部屋にした方がいいですよね?」
ナナコ「別に、一緒でいいし」
エディ「あ、そうですか……」

○同・部屋
   一人でカメラの画像を見ているエディ。そこにやってくるナナコ。
ナナコ「あれ、エディだけ?」
エディ「下に古いアーケードゲームがあってイルカ君はそっちに」
ナナコ「あっそ」
   エディの隣に座るナナコ。
ナナコ「ねぇ、エディの目的は何?」
エディ「え? 目的ですか?」
ナナコ「わざわざこんな遠くまで遺影撮りに来たり、一泊したり。そもそもエディ、巻き込まれてる側のハズなのに、妙に楽しそうだよな」
エディ「……ナナコさん。これは僕からの勝手な提案なんですけど」
ナナコ「何?」
エディ「もし明日、奇麗な富士山が見られたら、死ぬの止めませんか?」
ナナコ「は? 何で?」
エディ「だって寂しいじゃないですか。せっかく知り合えたのに、死なれちゃったら」
ナナコ「エディが寂しいとか関係ねぇだろ。それに、富士山が奇麗かどうかなんてもっと関係ねぇし」
エディ「確か、ナナコさんが死ぬ理由って、『飽きたから』でしたよね?」
ナナコ「まぁ」
エディ「もし、今日より明日の方が奇麗な富士山を見られるとしたら、それだけで人生は素晴らしいって思えませんか?」
ナナコ「確かに、それは思える」
エディ「ですよね? なら……」
ナナコ「でも、それは永遠には続かない。雲とか霧とかで、必ず『昨日より奇麗じゃない』富士山を見る日がある。違う?」
エディ「でも逆に言えば、必ず『昨日より奇麗な』富士山を見られる日がある、って事ですよね?」
ナナコ「……だな」
エディ「もし、明日がそういう日だったら、考えてもらえますか?」
ナナコ「……わかった。考えてやる。その代わり、ちゃんと遺影も撮れよ」
エディ「わかりました。じゃあ、今の話、イルカ君にも伝えてきます」
   出て行くエディ。
ナナコ「ますますわかんねぇ奴」
   カメラを手に取るナナコ。画像を見ていく。
ナナコ「あれ? もしかして……」

○同・外観(朝)
   晴天。

○河口湖畔
   写真を撮りながら歩くエディと、その後ろを並んで歩くイルカとナナコ。
ナナコ「なぁ、イルカ」
イルカ「だから『ドルフィン』と呼べ」
ナナコ「昨日、エディから話聞いたか?」
イルカ「富士山が昨日より奇麗だったら、って奴か?」
ナナコ「どうすんだ?」
イルカ「どうするも何も、もし昨日より今日の富士山の方が奇麗だったら、それはこの俺様がこの現実世界でも神である事の証明になるだろう?」
ナナコ「完全に性格掴まれてるな、イルカ」
イルカ「だから『ドルフィン』と呼べ」

○大石公園
   並んで歩くイルカとナナコ。二人の後ろからゆっくり歩いているエディ。
ナナコ「そろそろだな」
イルカ「あぁ、この俺様が神である事が証明されるんだ。なぁ、エディ」
   振り返るイルカ。遥か後方、薄目を開けて歩いているエディ。
イルカ「何してんだ? エディ」
エディ「富士山は見える。今日こそ見える。きっと見える。昨日より奇麗に見える。……どうだ」
   目を開くエディ。
エディ「あぁ……」
イルカ「おぉ……」
ナナコ「へぇ……」
   目を見開くイルカ、ナナコ、エディ。雲一つない青空、麓までくっきりと富士山が見えている。
イルカ「フハハハハ、愚民どもよ。この俺様こそが神だ。さぁ、跪け!」
ナナコ「人生も悪くない、か。どうだ、エディ?」
   涙を流しているエディ。
ナナコ「泣くか?」
エディ「だって、こんな富士山、初めて見たから……」
   顔を見合わせるイルカとナナコ。
エディ「ナナコさん。昨日より奇麗な富士山だと思いません?」
ナナコ「思うけど、この先の人生、これ以上の富士山見られない気がするな」
エディ「そういう天の邪鬼な性格、悪くないと思いますけど、それで集団生活していくのは辛いですよね」
ナナコ「エディ……」
エディ「イルカ君」
イルカ「だから『ドルフィン』と呼べ」
エディ「そういう頑で自分を曲げない所、格好いいと思いますけど、やっぱり生きづらいですよね」
イルカ「……」
エディ「でも、そんな世の中でも、生きる希望をくれるのが、富士山なんです」
   富士山の写真を撮りまくるエディ。
ナナコ「ちょ、エディ。ストップ」
エディ「え?」
ナナコ「メモリがなくなる前に、私らの遺影撮ってよ」
エディ「あ、そうですよね。ごめんなさい」
イルカ「よし、じゃあ俺様からな」
   ポーズをとるイルカ。シャッターを切るエディ。
    ×     ×     ×
ナナコ「次は私か」
   ポーズをとるナナコ。シャッターを切るエディ。
    ×     ×     ×
イルカ「次はエディだな」
エディ「え、僕もですか?」
ナナコ「ついでなんだから、撮っとけば?」
エディ「はい。じゃあ、お願いします」
   ポーズをとるエディ。シャッターを切るナナコ。

○葬儀場・中
   祭壇に飾られたエディの遺影。富士山の前で撮った写真が使われている。

○同・外
   建物から出てくる喪服姿の大人達。その中にいる制服姿のイルカとナナコ。
イルカ「……何でエディが?」
ナナコ「呆気ねぇよな、交通事故って」
イルカ「そういう問題じゃねぇだろ。この俺様に散々『生きようよ』とか言ってた奴が先に死ぬって、おかしいだろ?」
ナナコ「仕方ねぇだろ」
真中「お~い、そこの二人」
   二人の元にやってくる真中。
イルカ「……誰だ?」
ナナコ「ペンションで会っただろ? エディの伯父さん」
イルカ「あぁ」
真中「今日は来てくれてありがとう。実はコレ、受け取って欲しくて」

○中学校・屋上
   向かい合って座るイルカとナナコ。イルカの手にはエディのカメラがある。
真中の声「あの子の母親が、君たちに持っていて欲しい、って」
イルカ「なぁ、ナナコ。本当に受け取ってよかったと思うか? さすがの俺様でも荷が重いぞ?」
ナナコ「いいんじゃねぇの? エディの家族から見たら、私らはエディの大親友に見えたんだから」
イルカ「河口湖で一泊しただけじゃねぇか」
ナナコ「じゃあ、エディのデジカメのデータ見てみろよ、イルカ」
イルカ「だから『ドルフィン』と呼べ」
   カメラに保存された写真を見ていくイルカ。屋上から見える富士山の写真を含め、全て風景の写真。撮影日には一年以上前の日付もある。
イルカ「風景ばっかだな」
ナナコ「おかしいと思わねぇか?」
イルカ「この俺様の写真が少ない」
ナナコ「それはイルカが撮られんの拒否したからだろ。つまり、エディは人を撮る意思はある。なのに一年以上、人の写る写真を撮ってねぇ。それって、撮る相手がいなかったんじゃねぇの?」
イルカ「つまり、どういう事だ?」
ナナコ「エディ、きっと友達がいなかったんだよ。思い出してみな。葬式ん時、中学の奴ほとんどいなかっただろ?」
イルカ「確かに。だからエディの奴、河口湖であんなに楽しそうにしてたのか」
ナナコ「それに見てみ。(カメラを指して)ここから見える富士山の写真も結構あるだろ?」
イルカ「あぁ」
ナナコ「エディが言ってた『もし、今日より明日の方が奇麗な富士山を見られるとしたら、それだけで人生は素晴らしいって思えませんか?』って。あれ、本当にエディ自身がそう思って生きてきてたのかもな」
イルカ「なぁ、ナナコ」
ナナコ「何だよ、イルカ」
イルカ「だから『ドルフィン』って呼べ。……来年もまた、富士山で遺影撮りに行かねぇか?」
ナナコ「あぁ。今年より来年の方が奇麗な富士山を見られるかもしれないからな」
   イルカとナナコの視線の先、うっすらと富士山が見えている。
                 (完)

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