大切なモノの「ホカン」場所 ドラマ

加藤、飯田、美沙の三人は受験前の日々を過ごす中で、それぞれの強みとそれぞれの短所が表面化してゆく。大切なモノの「ホカン」場所に彼らが選ぶのは一体どこなのか……
うえの ともみち 36 1 0 04/02
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第一稿

<登場人物表>

加藤 友樹(15) 中学生。三年一組。
飯田 康太(15) 中学生。三年三組。
赤木 美沙(15) 中学生。三年五組。学級委員。

先生(29)    ...続きを読む
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<登場人物表>

加藤 友樹(15) 中学生。三年一組。
飯田 康太(15) 中学生。三年三組。
赤木 美沙(15) 中学生。三年五組。学級委員。

先生(29)      三年一組担任。数学の教諭。
友達A・B・C(15) 三年三組。飯田の友達。
ユミ、ナオ(15)   三年五組。美沙の友達。

制服→学ラン


<本編>
〇古いゲームセンター
   コインロッカー。
   テトリスの古びたゲーム台。
   その台でプレーする中年男性。
   クレーンゲームではしゃぐ子供たち。

〇タイトル『大切なモノの「ホカン」場所』

〇学校・三年一組教室
   プリントの問題を解く加藤友樹(15)。
   加藤、マスクをしている。
   黒板には「入試問題演習・数学・制限時間40分」の文字。
   先生、椅子に座って真剣な顔である。
   加藤、解き終わる。
   加藤、机から新しいルーズリーフを取り出し、ばれないように先生のデッサ
   ンを始める。

    ×    ×    ×
   加藤、八割ほど書き上げたところでタイマーが鳴る。
   加藤、ルーズリーフを机にしまう。
先生「はいそこまで、そこまでー、おーいペン置けー。それじゃあね、隣と交換」
   加藤、隣の席の女子とプリントを交換してマル付け。
隣の席の女子「加藤君また百点」
   と、加藤へプリントを返す。
   加藤、受け取って、隣の席の女子のプリントを返す。
加藤「……」
スピーカー「(チャイムの音)」
先生「じゃあ、プリントは後で提出するように。はい起立」
   クラス全員、起立。
先生「気をつけ、礼」
   クラス全員、礼。
クラス全員「ありがとうございました」
   戯れる加藤以外の男子。
   加藤、座って空を見る。

〇学校・三年一組教室・二者面談・(夕)
   教室には先生と加藤の二人のみ。
   加藤、先生に志望校調査確定版を提出する。
   第一志望校は尾崎高校と書かれている。
先生「第一志望は……尾崎高校か」
   先生、パソコンで加藤の模試の成績を見る。
先生「うん。加藤の成績なら尾崎高校は余裕だな。このまま頑張れと言いたいとこだけ
 ど、志望校のレベルは上げなくていいのか?」
加藤「はい。大丈夫です」
先生「やっぱり美術部があるからか」
加藤「まあ。ここらへんで美術部があるのはそこくらいですから」
先生「そうか。まあだからと言ってぬかるなよ。しっかり学力を維持するように」
加藤「はい」
先生「よし、じゃあ気を付けて」
加藤「ありがとうございました」
   加藤、椅子から立ち上がって、扉へ向かう。
先生「ああ、あと、夢は応援するけど授業中描くのはやめとけよー」
   加藤、無言で一礼して教室を出る。

〇学校・校門・(夕)
   校門から一人で出てくる加藤。

〇公園・ベンチ
   加藤、マスクをつけてでベンチに座っ
ている。
   向かいのベンチに犬を連れた老人。
   加藤、その老人をルーズリーフにデッサンしている。
   隣の席の女子、偶然通りかかる。
隣の席の女子「あれ、加藤君?」
加藤「あ……」
隣の席の女子「休みの日も人書いてるんだ」
   加藤、なんて返したらいいかわからない様子。
隣の席の女子「そんなに楽しい? 人描くこと」
加藤「はい。楽しいです……」
隣の席の女子「あ、もしかして、画家になるのが夢とか?」
加藤「……まあ」
隣の席の女子「ふーん」
   隣の席の女子、加藤の隣に座る。
   加藤、驚いてベンチから立ち上がって
   走って逃げていく。
隣の席の女子「え?」

〇学校・校門・(朝)
   校門から入ってくる飯田康太(18)。
   飯田、隣の席の男子を見つけていきなり。
飯田「おおー、さすが今日も勉強しながら登校」
    隣の席の男子、単語帳を持っている。
隣の席の男子「あ、飯田君。まあね、もう十一月だから。私立入試も近いし」
飯田「たしかにたしかに。俺もそろそろ勉強時間増やしていこっと。ねね、どこ志望なの?」
隣の席の男子「言わないよー」
飯田「えー、けちー。じゃ俺も言わなーい。ま、決まってないけど」
   と、笑って返す。
飯田「そうだ、いっつも何時に寝てるの?」
隣の席の男子「日によって違うけど、だいたい十二時かな」
飯田「うっへー、すごいな。じゃ、今日から
 俺もお前と同じ時間まで勉強するわ」

〇学校・三年三組教室
   飯田、隣の席の男子と一緒に教室に入
   る。
   教室には飯田の友達三人が話している。
友達A「おっす飯田」
飯田「おう」
   と、手を挙げる。
   飯田、友達三人のもとへ。
飯田「なに話してんの?」
友達B「今日放課後四人でカラオケ行かねーかって」
飯田「カラオケかー」
友達A「え、なんか用事ある?」
飯田「……い、いや。いいよ。行こ行こ」
   と、一瞬迷って、隣の席の男子の方を
   チラ見する。
   隣の席の男子、呆れた様子。
友達C「じゃあ今日帰ったら現地集合ね」
飯田「OKー」
   飯田、自分の席に戻って教科書を取り出す。
   隣の席の男子もカバンから教科書を取り出している。
隣の席の男子「勉強する時間増やすんじゃないのー?」
飯田「ま、まあ息抜きだよ。勉強の。これが受験前最後のカラオケだよ多分」
隣の席の男子「ふーん」
友達A「あ、おい飯田ー、ちょっと来てー」
飯田「ん? 何ー」
   と、友達Aの方に向かう。

〇学校・渡り廊下前
   渡り廊下前にあるベンチに仰向けで寝転ぶ飯田。
飯田「ああー」
   と、爪の掃除をしながら。
   渡り廊下を通る飯田の友達三人。
   友達三人、ペットボトルのジュースを
   持っている。
友達B「あれ、飯田じゃん」
   飯田、気づいて起き上がる。
飯田「ああ」
友達B「そんなとこで何してんだ」
飯田「いやー、志望校迷っててさあ。尾崎か中央か総合未来」
友達C「珍しいな、飯田が勉強のことを考えてるなんて」
   と、去ってゆく友達三人。
飯田「え……」
   飯田、再びベンチに寝転んで。
飯田「俺ってそんなイメージかあ……」

〇街中
   自転車に乗って信号待ちの飯田。
   飯田、青になり爆速で自転車を走らせる。

〇カラオケ店・駐輪場
   自転車のスピードを維持したまま入ってくる飯田。

〇赤木家・外観(夜)
   「赤木」の表札。

〇赤木家・赤木美沙(15)の部屋・(夜)
   勉強机で勉強をする美沙。
   美沙、腕にはアクリルビーズのブレス
レット。
   ノックの音。
美沙「はーい」
   母親、お菓子と紅茶を持って入ってくる。
母親「はい、おやつ」
美沙「ありがとう、そこ置いといて」
   と、ペンを走らせたまま。
   母親、カバンをどかして。
母親「あんたさ、勉強するのはいいけど、ちゃんと夢とか将来のビジョンを持ってるの?」
美沙「うるさいな、部活引退するのが遅かったんだから今それどころじゃないの」
母親「美沙、お母さんはね、高校のレベルが高ければ高いほどいいってわけじゃないと思うよ」
   美沙、無視してペンを走らせる。
母親「ちゃんと夢を持ってそれに合った進路を進むべきだと思うけど。ねえ」
   美沙、ペンを止めて立ち上がって。
美沙「あーもううざいうざい。自分の道は自分で決めるからいちいち口挟まないで。も
 う入ってこないでよ」
   と、美沙の部屋から母親を追い出す。
   美沙、勉強机に戻る。
美沙「(ため息)夢って……」

〇学校・校門

〇学校・三年五組教室・ホームルーム
   がやがやうるさいクラス。
   教壇に立つ美沙。
   美沙、腕にはアクリルビーズのブレスレット。
美沙「静かに! 静かにー」
   クラス、静かになる。
美沙「もう少しで私たちは卒業です。そこで、三年五組では在校生に何か贈り物をしよう
 と思います。その贈り物を今日は考えてもらいます」
   ざわつくクラス。
男子A「はいはい!」
   と、手を挙げる。
男子A「どんなのがいいんですかー」
美沙「なんかしら役に立つものがいいと思います。ちなみに去年は箒と雑巾でした」
男子B「じゃあじゃあ、エロ本!」
   と、座ったまま。
男子A「いい! それ! 役に立つ」
   美沙、呆れた様子。
女子A「ちょっとそれあんたたちだけでしょ」
男子B「えー」
美沙「ちゃんと考えてください」
女子B「去年と同じ箒と雑巾じゃダメなの?」
美沙「後ろのあの雑巾の量を見てください」
   ロッカーの上に雑巾が積まれている。
美沙「これ以上雑巾はいりませんし、箒も去年新しくしたばっかなので」
男子A「そんなこと言うなら赤木が決めろよー」
美沙「私は、机をいくつか学校に贈りたいと思ってます。この教室にも古い机がいくつ
 かありますし」
男子B「机とかいらねーよ。つまんないつまんない。はい他」
美沙「皆さんの贈り物です(強めの口調)」

〇学校・三年五組教室・休み時間
   美沙の机に集まる友達二人。
ユミ「美沙も大変だね」
美沙「このクラス、ぜんぜんまとまらない」
ナオ「しょうがないよ、体育祭の大縄跳び、
 記録0回のクラスだもん、三年五組」
美沙「受験勉強どころじゃなくなるよほんと」
   廊下を走り回る男子たち。

〇学校・美術室・前・(夕)
   美術室前のトイレから一人で出てくる
   マスクをつけた加藤。
   美術室に入る。

〇学校・美術室・中・(夕)
   美術室には加藤のみ。
   モナリザの絵の前に座り、モナリザの
   デッサンを始める加藤。
   先生、入ってくる。
加藤「先生」
先生「よ。たまには加藤の絵を見てみようかなって」
加藤「そうですか」
先生「なんだ、元気なさそうだな」
加藤「いつもと変わりません」
先生「誰か書いてんの。あ、モナリザ……モナリザ書くやつも珍しいな」
加藤「……」
   先生、チョークを持って黒板にモナリザを書き始める。
先生「なんでリアルの人を書かないんだ?」
加藤「モデルになってくれる人なんていません」
先生「なんでそう思う」
   先生、手を止めてチョークを変え。再び書き始める。
加藤「モデル側には何もメリットがないから」
先生「友達に頼むとかは」
加藤「友達……いませんから」
先生「……そうか」
加藤「……」
先生「自分から話しかけるんだよ」
   先生、一度指を雑巾で拭く。
加藤「無理です」
先生「なんで」
加藤「自分から話しかけて、相手が嫌がったらどうしようとか、無視されたときつらいんで」
先生「おいおい、人から話しかけられるだけで嫌がる人間なんていないぜ」
加藤「生きてる世界が違うので」
   先生、チョークを置いて。
先生「よーし、描けたぞ。モナリザ」
   黒板には拙いモナリザ。
   加藤、それを一瞬だけ見る。
   先生、指を拭く。
先生「お前はなぜ絵を描く?」
加藤「人物画家になるためです」
先生「人物画家ね……それがお前の夢」
加藤「とにかく夢を持ち続けることは大切です。自分を一秒たりとも見失わないために」
先生「つまり見失わないために描いてるのか……」
   加藤、筆を止める。
   書きあがったモナリザのデッサン。
   加藤、それを見つめて。
加藤「身近な人だけでなく、手に届かないような有名人、もしくは実在しない人物でさ
 えこうして自分の手で絵にすれば、なんだかコミュニケーションが取れてる気がして」
   加藤、モナリザを加筆修正する。
加藤「意思疎通の手段は言葉だけじゃないですから」
先生「まあでも、言葉が一番心通じ合って、最も正確にキャッチボールができると思うけどな 
 あ」
加藤「……」
先生「そうだ、暇だから先生がモデルになってやるよ。ほら、こんな感じ? こんな感じ?」
   と、様々なポーズを見せる先生。

〇学校・美術室・中
   美術の授業中。
美術の先生「授業を始める前に、先日行われた県民の日記念絵画コンクールにて、この
 クラスの加藤君の絵が、見事県知事賞を取りました。みんな拍手」
   クラス、拍手。
   マスクをつけた加藤、表情を変えず。
美術の先生「じゃあ今日はね、この間予告したように、自画像を描いてもらいますー」
   クラス、拒否的にざわつく。
加藤「……」

    ×    ×    ×
   マスクをつけた自分の姿を描き進める
   加藤。

〇学校・三年一組教室・ホームルーム
   教壇に立つ先生。
先生「みんなも知ってる通り、この教室では毎年、来年度の三年一組の生徒とのロッカ
 ー交流が伝統となっている。卒業の日に、自分のロッカーに、何かモノを入れておくんだ」
   席の後ろに並んでいるロッカー。
先生「それを来年度の始業式の日に、次の三年一組の子たちが受け取る。中身は食品・
 現金以外なら何でもOK。読み終わった本でもいいし、あえて自分の大切なモノを入
 れるのも有りだ。まだ時間はあるから考えといてくれ」

〇学校・三年一組教室・休み時間
   戯れる男子や女子でにぎやかな教室。
   加藤は一人でルーズルーフに女性教師
   (苗字:豊田)の絵を描いている。
   男子C、たまたまそれを見つけて。
男子C「うわ、なになになになに加藤君、豊田先生の絵描いてる」
   男子C、ルーズリーフを取り上げて、みんなに見せる。
男子C「みんな見てこれ!」
加藤「……」
   と、取り返そうとするも、断念。
   集まってくるクラスメイト。

〇住宅街・(夕)
   ルーズリーフを握りしめて歩く、マスクをつけた加藤。
   加藤、ルーズリーフを広げて破り捨てる。
   加藤、マスクを外して。
加藤「うおおおおーーーー」
   と、走り抜ける。

〇学校・三年三組教室・ホームルーム
   四人一班で机を向かい合わせている。
   飯田、友達三人と机を向かい合わせている。
   学級委員、教壇に立っている。
学級委員「私たちはもうすぐ高校生になるということで、この時間を使って選挙権につ
 いての話し合いを行うことになりました」
   黒板には「18歳に選挙権は必要か」の文字。
学級委員「議題は黒板に書いてあるように、18歳に選挙権は必要か、です。まずは配
 られたプリントに自分の考えを書いてもらい、全員が書き終わったら班で一つの意見としてま
 とめてください。時間は20分までです」
友達A「なんで受験前にこんなことやらせんだよー」
   と、うなだれる友達A。
友達B「ほんとそれ。俺ら言ってもまだ15だもんな」
友達C「18になったら考えも変わってるんだろうなー」
   飯田、じっとプリントを見つめる。
友達A「おい学級委員になんか言ってやれよ飯田ー」
   と、飯田の体を揺さぶる友達A。
   飯田、苦笑いして。
飯田「まあまあ、受験前最後だし。付き合ってやろうぜ」
友達A「えー」
   と、再びうなだれる友達A。

    ×    ×    ×
友達A「よし書けた」
飯田「やっとみんな終わったな」
友達B「おせーよー」
友達A「うっせ、こういうの苦手なんだよ。
 で、とっとと意見まとめて寝ようぜ」
友達C「俺これ」
   と自分のプリントを見せる友達C。
   「必要」に〇がついている。
友達C「理由、18歳になったら高校三年だし、ちゃんと政治とかを学んでると思うし別に大丈
 夫でしょ、的な」
友達B「俺も必要にした。だってさまず、18歳と20歳ってそんな変わらんくね?
 それに政治とかわかんなければ、なんて言うんだっけ投票しないやつ……」
友達C「棄権?」
友達B「そうそれそれ。棄権すりゃいい話でしょ」
飯田「……」
友達A「俺も大体そんな感じー」
   と、プリントを雑に投げて見せる。
飯田「へー」
友達C「あれ、飯田は?」
友達A「はやくまとめちゃおうぜい」
   飯田、自分のプリントを見る。
飯田「俺も必要派。理由もほぼ同じ……」
友達B「だよな」
   飯田、自分のプリントを見る。
   プリントには「不必要」に〇。
   理由記入欄:18歳や19歳は多くが
   学生という立場にあり、自律とはいえまだまだ参政というには未熟であると思うか
   ら。そして少年法の適用年齢とも被り、甚だ矛盾感が否めないから。

    ×    ×    ×
   机は通常時の形に戻っている。
   授業終了チャイムの音。
   飯田、一人で立ち上がって教室を出る。

〇学校・廊下・二階
   飯田、教室から出てくる。
飯田「はあ……」
   飯田、階段を下る。

〇学校・廊下・一階
   一年生A(メガネ)、廊下でクラスメイトにいじめられている。
   いじめっ子たち、ペンケースを水道に落として立ち去る。
   飯田、一年生Aのもとに駆け寄る。
飯田「おいおい、大丈夫かよ」
   飯田、水道に落ちたペンケースを見て。
飯田「あーあーあ、ペンケース濡れてんじゃんー。大丈夫か?」
一年生A「あ、ありがとうございます。でも慣れてるんで、大丈夫ですよ」
飯田「いや、ああいうのはな、一度おいしい思いさせたら懲りずに絡んでくるぞ」
一年生A「僕が悪いんですよ。昔からそういう性格なので。常に教室の隅っこにいるような」
飯田「一年生?」
   飯田、ハンカチでペンケースを拭いてやる。
一年生A「はい」
飯田「先生には言ったのか?」
一年生A「言えるわけないですよ。言ったらまた何されるか……」
飯田「そうか……そんなもんかー。よっし、じゃあ一緒に昼飯食おう」
一年生A「え?」
飯田「ここで会ったのもなんかの縁だし」
一年生A「僕はいいですけど、先輩はいいんですか?」
飯田「おう、ちょい、弁当持ってくるわ」

〇学校・渡り廊下前
   ベンチに座り弁当を食べる一年生Aと
飯田。
一年生A「飯田先輩みたいな人がうらやましいです」
飯田「え?」
一年生A「だってそうですよ、僕みたいな人に気軽に話しかけれるコミュニケーション
 能力、まさしく鬼っすよ」
飯田「まあなあ、人と話すことは比較的好きだから。というか、得意。人がいると話し
 かけちゃうんだよなー」
一年生A「先輩みたいな人がこの学校にいたんだって思うとなんだか安心します」
飯田「そういえば、部活は? 入ってるの?」
一年生A「入ってないです。運動できないし、楽器弾けるわけでもないので」
飯田「じゃあ部活入りなよ! 俺が入ってたテニス部とか!」
一年生A「いや! テニスとか絶対無理っすよ。体力ないですし、イケメンばっかですもん」
飯田「うーん、向いてると思うけどなあ」
一年生A「まあでも、いろいろ部活のこと考えてみることにします」
飯田「おう。入ったほうがいい。俺たちが今座ってるベンチな、よくここで考え事する
 んだけど、ここはいいぞ。何かあったらここにきて空に思いをはせてみるんだ」
   友達三人、渡り廊下の前を通りかかる。
友達A「あれ、またここに飯田いる。おーい」
   飯田、それに気づいて。
飯田「おう!」
友達B「何してんのー、てか隣の子、誰? 友達?」
飯田「そうそう」
友達A「そろそろ教室戻ろうぜいー」
飯田「わかったー」
   飯田、一年生Aの方を見て。
飯田「悪い、先行くわ」
一年生A「あ、はい」
飯田「じゃあな」
   と、友達三人の方へ向かう。
一年生A「ありがとうございました」
   しかしその言葉は飯田には届いていない。
   四人、教室に向かう。

〇住宅街
   一人で歩く美沙。
   美沙、アクリルビーズのブレスレット
   をつけている。

〇学校・三年五組教室
   教室に入ってくる美沙。
   友達D・Eが何やら話し合っている。
ユミ「ほんとにうざーい」
   美沙、カバンを置いて駆け寄る。
美沙「ユミどうしたの? すごく不機嫌そう」
ナオ「美沙聞いてよ。ユミの彼氏がいきなり
振ってきたんだってー」
美沙「えー、あんなに仲良かったのに?」
ユミ「もうーマジで意味わかんないー」
ナオ「最低だよほんと」
美沙「え、なんで振ってきたの? なんか理
由があるんでしょ?」
   ユミ、スマホを取り出して見せる。   
   (スマホ画面:LINE)
   彼氏:うん
   ユミ:おやすみね♡
   (日変わり)
   ユミ:ねーねー、次の土日どこ行くー?
   ユミ:また映画とか?
   ユミ:あ、久しぶりにディズニーいこ!
   彼氏:ごめん、もう受験近いからしば
   らくお出かけできない。
   ユミ:はあ? 私と受験どっちが大事
   なの? てか平日にちゃんと勉強す
   ればいいじゃん。
   彼氏:ごめん。やっぱ受験終わるまで
   別れよう。
ユミ「なんかー、最近そっけないなーと思ったら急に受験だから会えないとか言い出し
 てさ。彼女も大切にできないとか、もう受験落ちちゃえって感じ。あのクソ男」
美沙「え? 受験が理由なの?」
ユミ「そうだよー。ひどくない?」
美沙「いや、いい彼氏じゃん」
ユミ「は?」
ナオ「ちょっと、何言ってんの?」
美沙「だってさ、受験のことをしっかり考えて、当分は出かけられないって言ったんで
 しょ? 恋愛と勉強をしっかり切り離してていい彼氏だと思うけど」
ユミ「ちょっと、落ち着いて美沙。あんた何言ってるかわかってる?」
美沙「それに、ユミのことも考えてくれてると思うよ。彼氏は、このままだと自分もユ
 ミも受験失敗しちゃうと思ったんじゃない?」
ユミ「ねえ、美沙、あんたもうざいよ」
ナオ「信じらんない」
美沙「だから、後悔してほしくなかったんだよ美沙に。恋愛のせいで受験失敗なんて」
   ユミ、ナオ、立ち上がって。
ユミ「もういい。美沙、もう友達じゃないから」
ナオ「なんか、裏切られた気分だね」
   と、教室を出ていくユミ、ナオ。
美沙「……」

〇赤木家・美沙の部屋・(夜)
   勉強机に座る美沙。
   勉強机にはノート、参考書、ペン。
   美沙、スマホで尾崎高校のホームペー
ジを見ている。
   (スマホ画面:HP)
   本文:80年の伝統を誇る尾崎高校で
    は、生徒の「夢」を第一に考え、教
   師による密着型バックアップ、多種
   多様な部活動が特徴です。
美沙「夢かあ……好きなことも無いしなあ」

〇街中・アパレル店・前
   アパレル店の前を通る美沙。
   アパレル店員、接客をしている。
   スマホにメモする美沙。

〇街中・花屋・前
   花の陳列する店員。
   スマホにメモする美沙。

○街中・河川敷
   ドラマの撮影中。
   スマホにメモする美沙。

〇街中・キックボクシングジム・中
   女性二人が試合中。
〇住宅街・(夕)
   美沙、帰宅途中。
美沙「……夢かあ……そんな簡単にみつかるわけないよ……」

〇尾崎高校・合格発表日
   受験者が集まっている。
担当者「はいじゃあね、十時になったので発表しますー」
   と、スピーカーで。
   入学許可候補者一覧が載ったボードの幕が下がる。
   よっしゃー、と叫ぶ者。
   友達と泣いて喜ぶ者。
   一人ぽつりとマスクをつけた加藤。
加藤「……(受かってる)」
   加藤とは離れたところでガッツポーズする飯田。
飯田「あ、あった! よっしぃい」
   二人と離れたところで微笑む美沙。
美沙「安心したー」
担当者「番号があった人はそのまま体育館で、資料が入った封筒をもらってくださーい」

〇学校・校門
   校門に「第81回卒業証書授与式」の
   ボード。

〇学校・三年一組教室
   教壇に立つ先生。
先生「卒業式の前に、前に予告した三年一組のロッカー交流で次の三年一組の子たちに
 あげるモノを入れといてくれ。食べ物はダメだぞー。はい、スタート」
男子の声「お前何持ってきた?」
男子の声「俺これー」
   笑い声が響くクラス。
   続々とロッカーの中に本やペンケース
   や、洋服を入れていく。
   加藤、着席したままルーズリーフを見つめる。

    ×    ×    ×
先生「全員入れたかー? よし、じゃあ切り替えて卒業式モードだ」
加藤「……」

〇加藤のロッカー・中
   一枚のルーズリーフ。
   そこに描かれているのは、隣の席の女子が勉強してるところを模写したもの。

〇学校・校門
   卒業式終了後、思い出の写真を撮る飯
   田とその友達三人。
友達A「いいぇーい」
   と、ピースをしスマホで写真を撮る。
飯田「いよいよお別れだなー」
友達B「てか、いよいよJKだな」
友達C「お前女かって」
友達A「この学ランともおさらばだぜ」
友達B「さ、そろそろ帰りますかっ」
飯田「だなー」
   と、学校から歩き出す四人。
友達C「いろいろあったよな」

〇飯田家・飯田の部屋(夜)
   パソコンをいじる飯田。
   (パソコン画面)
   「十年後の『キミ』へ贈る言葉」
   このサイトから自分のメールアドレスにメッセージを送信すると十年後に届くヨ!
飯田「うっし」
   と、入力し始める飯田。
   (パソコン画面)
   本文:十年後の俺へ。僕は今、中学を
    卒業しました。君は今何をしていま
    すか? ちゃんと社会人しています
    か? ブラック企業ではないです
    か? もし会社でつらいことがあっ
    ても、早まってはいけません(笑)。
    こっちの僕は友達と楽しい日々を過
    ごしました。でもやっぱり、周りに
    行動を合わせてしまう「同調主義」
    は治りませんでした(笑)。十年後の
    俺、少しは自分の意見を主張できて
    いますか? 持ち前のコミュニケー
    ション能力を無駄にしないでくださ
    い。……
飯田「送信っと。ふーーーー」
   と、両手を組んで高く上げる。
飯田「頼むぜ、十年後の俺」

〇赤木家・美沙の部屋(夜)
   誰もいない部屋。
   机には卒業記念のカーネーション。
   部屋に入ってくる美沙。
   美沙、腕にはアクリルビーズのブレスレット。
   椅子に座りもたれかかる。
   美沙、ブレスレットを外し、机の引き出しにしまう。
美沙「ふぅ……」

〇尾崎高校・一年一組教室・入学式の日
   一番端に座る赤木。(出席番号1)
   その後ろの飯田。(出席番号2)
   赤木の隣の席の加藤。(出席番号6)
   黒板の上に、
   『互いを知れ、さして補完せよ』
   の文字が書かれた額。

              (了)

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