#11 くらしの中の数理曲線 エッセイ

双曲線。 1つの式から生まれる2つの曲線はけして交わらない。 二卵性双生児の姉と妹は何かと正反対。 まるで双曲線のように。
竹田行人 3 0 0 03/28
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第一稿

「くらしの中の数理曲線」


登場人物
水澤風実(26)会社員   
水澤凪子(26)学芸員
村岡賢治(29)風実の恋人


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「くらしの中の数理曲線」


登場人物
水澤風実(26)会社員   
水澤凪子(26)学芸員
村岡賢治(29)風実の恋人


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○府中駅・階段(朝)
   階段を上る水澤風実(26)の足。
   発車ベルが鳴る。
   女子学生、風実の脇を駆け抜けていく。
風実「狭い日本。そんな急いでどうするよ」
   風実、階段を歩いて上っていく。

○化粧品会社「一来堂」・外観
   レンガ色の壁に「ICHIRAIDO」の文字。

○同・会議室・中
   楕円形に並べられているデスク。
   風実、資料を配置している。
   資料には「エメラルドスキン仏市場での現状と展望」の文字。
   風実、右耳に触れる。
   右の耳たぶにほくろがある。
   村岡賢治(29)、入ってくる。
風実「ああケンジ。おはよ」
村岡「おはよ。今日フミんち行っていい?」
風実「いいよ。妹帰って来ない日だし」
   風実と村岡、微笑み合う。

○道(夕)
   風実と村岡、スーパーの袋を持って歩いている。
村岡「ありがと。お陰でうまく行きそう」
風実「シモンさんゴキゲンだったね」
村岡「あー。うん。それで。なんだけど」
風実「やっと日没前に帰れる」
村岡「あ。あのサプライズの清算。ちゃんとやんなよ。持ち出しでしょ」
風実「えー。別にいいよ」
村岡「だめ。話せばわかるから部長は」
風実「それ。話さないとわかんないんだもん部長は」
村岡「そりゃそうだよ。あー。あのさ風実」
風実「諦めた方がいろいろ楽」
   村岡、風実の横顔を見つめる。

○ライフパーク三鷹・エントランス・中(夜)
   風実と村岡、入ってくる。
   風実、エレベーターのボタンを押す。
風実「そうだ。話って?」
村岡「え。ああ。風実。え。と。その。ああ。パスポート。持ってる」
風実「え。うん。持ってるけど。なんで」
村岡「あの。さ」
   エレベーターの到着音。
   走ってくる足。
   水澤凪子(26)、風実に抱きつく。
凪子「風実ネェ!」
風実「ナギコ! なんで? 酒クサっ!」
村岡「あ。妹。さん」
凪子「そういうあなたは。あ。ケンジさん」
   凪子の左の耳たぶにほくろがある。

○同・水澤姉妹の部屋・リビング・中(夜)
   凪子、テーブルの前に胡坐をかき、缶ビールを煽っている。
   風実と村岡、キッチンに並んで立っている。
村岡「双子。なんだ。へー」
風実「二卵性のね。だから全然似てなくて。富士額に二重瞼、鼻筋、アヒル口も。男好きする要素は全部持ってかれちゃった」
村岡「あー。まー。そんなのなくても」
風実「うん。別にいい。で? 凪子。あんた今日ケビンとデートじゃなかったの?」
凪子「ケビン? それ前の前の男。2週間も昔の話でしょ。今日はアラン。だった」
風実「そうなの? 間は?」
凪子「パク。アラン。国に奥さんと娘さんがいたんですよ。ひどいと思いません?」
村岡「あー。そーだね」
風実「あんたホント尻軽で飽きっぽいよね」
凪子「オクテで煮え切らないよりいい」
   凪子、缶ビールを煽る。
風実「凪子。仕事柄海外の人とよく会うから」
村岡「それは。外資系ってこと?」
風実「あー。キュレーターって、わかる?」
村岡「キュレーター」
凪子「まぁ。学芸員です。美術展の企画とか、コレクションの鑑定とか」
村岡「それで海外よく行くんだ」
凪子「移動時間足したら年半分海外。こないだ時差分の給料せがんだトコです。何度日付変更線超えたかカウントして」
風実「そんなにがめつくやんなくても」
凪子「いーの。こっちはやることやってんだから」
村岡「うん。そうした方がいい」
凪子「でしょ? 賢治さん話わかるー」
風実「そうかもね。別にいいけど」
   凪子、鞄からパンフレットを取り出す。
凪子「今度これやるんで。よかったら」
   パンフレットには「くらしの中の数理曲線」の文字。
風実「あんたも数学全然だったダメじゃん」
凪子「芸術は別」
   風実、パンフレットをめくる。
風実「ああ、私ダメ。無理」
凪子「またぁ。風実ネェすぐそうなる。風実ネェってホント走らないよね」
風実「どういう意味?」
   凪子、缶ビールを煽る。
風実「別にいいけど」
村岡「これ。どういう企画なの?」
凪子「パチンコの玉は放物線を描くし、東京タワーの影は双曲線を描く。そういう写真を、資料と一緒に展示するんです」
村岡「ごめん。双曲線って」
凪子「覚えてません? 反比例。y=1/xみたいな式の曲線で。あー。これです」
   凪子、パンフレットの写真を見せる。
村岡「ああ。見たことある。よね」
風実「うん」
凪子「1つの式から生まれる2つの曲線。しかもそれは永遠に交わらない」
風実「永遠に交わらない2つの曲線」
村岡「ふみ」
   風実、立ち上がり、出ていく。
   村岡、追いかけようとする。
凪子「大丈夫です。いつものことだから」
   凪子、左の耳たぶを触る。

○同・水沢姉妹の部屋・外(夜)
   風実、柵にもたれて空を見ている。
凪子の声「私たちは双曲線なんです」
   風実、右の耳たぶを触る。

○同・同・リビング・中(夜)
   風実、入ってきて、足を止める。
風実「え」
   凪子と村岡、ちゃぶ台で肩を並べて雑誌を見ている。
凪子「2人で暮らすならこのくらい広くないと。この辺にダブルベッド入れて」
   凪子、振り返る。
凪子「あ。風実ネェ。おかえり」
   風実、凪子と村岡を見ている。
村岡「あ。あのさ。風実。オレ」
風実「別にいいけど。出てってもらっていい」
村岡「え」
風実「お願い。出てって」
   風実と村岡、目を見合わせる。
   村岡、視線を逸らし、出ていく。
   ドアの閉まる音。
   凪子、立ち上がる。
凪子「風実ネェ。たぶん勘違いして」
   風実、凪子に平手打ちをする。
   凪子の左の耳たぶにほくろ。
風実「ねぇ凪子。なんで? ねぇなんで? なんで。なんでこんなに違うの? ねぇ? なんで? 別に。別にいいけど」
   風実と凪子、目を見合わせる。
凪子「いつも。風実ネェと比べられてた。だから。誰かと比べられたりしないとこ探して、探して、探して。見つけてきた」
風実「それがなに」
凪子「なんで追いかけないの」
風実「え」
凪子「また諦めるの」
風実「だって賢治は。別にいいけど」
   凪子、風実に平手打ちをする。
凪子「諦めてたらいいことなんか起こるわけないじゃん」
   風実、崩れ落ちる。
   風実の右の耳たぶにほくろ。
凪子「賢治さんの話ちゃんと聞いてあげて」
風実「聞いてるよ」
   風実と凪子、目を見合わせる。
凪子「賢治さん。今提携してるフランスの会社からヘッドハンティングされてる」
風実「ヘッドハンティング。賢治が」
凪子「風実ネェと一緒に行きたいんだって」
   風実と凪子、目を見合わせる。
   風実、立ち上がり、ドアに向かう。
凪子「私。男運は全部風実ネェに持ってかれたと思ってるんだからね」
風実「そ」
   風実、出ていく。
   ドアの閉まる音。
   凪子、笑顔で缶ビールを煽る。

○道(夜)
   風実、歩いている。
風実「別に。よくない。全然」
   段々と速くなっていく風実の足。

○(イメージ)教室(夕)
   チャイムの音。
   黒板にx軸とy軸が描かれている。
   余白には「y=1/x」の文字。
   セーラー服姿の2人の少女、それぞれにチョークを手にして双曲線を描いている。
   原点で最も近付き、離れていく2つの曲線。
   2人の少女、微笑んでいる。

〈おわり〉

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