王を恨んだ妃② 歴史・時代

山奥の小さな家に、祖燦という男児が双子の妹、祖謝那と母、祖美弦と暮らしていた。双子の誕生日に、母に買い物を頼まれた燦と謝那は都に降りてくる。すると、夏の収穫祭が開かれていた。舞い上がる謝那を叱咤しながら買い物を進めていた燦だったが、目の前で謝那が暴れ馬に蹴られて即死してしまう。打ちひしがれる燦は馬に乗っていた李煌に許し難い罵声を浴びせられ、煌へ憎悪を向ける。 そんな怒りに苛まれる燦の前に突如現れた男、劉権は燦に“謝那として煌の暗殺を謀る”事を提案し、燦もそれに加担し、復讐することを誓う。
石ノ森椿@ノベルバ♯ 14 1 0 01/15
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第一稿

―復讐のハジマリ―
2. 祖家 (昼)
  尹美弦(29)、台所で鍋をかき混ぜている。
燦、謝那、自室から出る。
燦、台所に回り籠と財布を手に取り外に出る。
燦 「い ...続きを読む
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―復讐のハジマリ―
2. 祖家 (昼)
  尹美弦(29)、台所で鍋をかき混ぜている。
燦、謝那、自室から出る。
燦、台所に回り籠と財布を手に取り外に出る。
燦 「いってきます。」
謝那 「いってきまーす!」
美弦、手を止めて2人に顔だけ向ける。
美弦 「はいよ、気を付けて行っといで。」
燦・謝那 「はーい。」「はーい!」
謝那、走り出す。
燦 「あ、こら。走るなって。」
燦、慌てて追いかける。
明転

3. 山道 (昼)
謝那 「お兄ちゃん!!早く早く!」
燦 「あ、そこ危ない。」
謝那、大きく転ぶ。
燦、謝那に駆け寄る。
謝那 「ふぇ……(じわじわと泣き出す)」
燦(M) 「ほら、言わんこっちゃない。」
燦、謝那の膝の泥を払う。
謝那、また走り出す。
燦、大きなため息をついてまたしぶしぶ追いかける。

4. 都 (昼)
謝那、都の賑わいに足を止めて目を輝かせる。
燦、謝那に合わせてやっと足を止めて息を切らす。
都の人々、ごった返す。
商人たち、口々に客寄せをしている。
燦 「……今日って何かあるのか?」
謝那 「きっとお祭りだよ!!」
謝那、人ごみの中に飛び込んでいく。
燦、仕方なく追いかける。
謝那、何点かきょろきょろと見て回る。
燦、そのあとをひたすら追いかける。
謝那、一つの出店で足を止めて燦の所に戻り燦の手を引く。
女性客、子供、出店で商品を見定めている。
謝那 「お兄ちゃん!見て見て!」
燦、謝那少し距離をとって出店を覗き込む。
燦 「おお。……綺麗……だな。」
子供、商品を指さす。
子供 「これ!」
女性客 「いくら?」
商人 「へぇ、500両です。」
女性客、鼻で笑い金貨の束を商人に渡す。
女性客 「おもちゃ程度ね。ご苦労様。」
商人 「ありがとうございました。」
商人、枝を口にくわえる。(不服そう)
謝那 「何か買って!」
燦 「はぁ?お前なぁ。」
謝那 「だって今日、私たちの誕生日だもん!」
謝那、燦の腕を掴む。
燦 「後で母さんに2人して叱られるぞ。」
謝那、飛び跳ねて喜んでから、出店の前に燦を連れてくる。
燦、商人に軽く会釈する。
商人、枝を口で揺らす。
謝那、一つの櫛を手に取る。
謝那 「これがいい!」
燦 「おお。おじちゃん、これいくら?」
商人 「100両だよ。」
燦 「そっか。」
燦、財布からお金を手に出して数えて表情を曇らせる。
燦、手前の小さい髪飾りを手に取る。
燦 「ごめん、謝那。こっちの小さいのにしないか?」
謝那 「えー!やだ!これがいい!」
燦 「謝那。」
燦、謝那、しばらく押し問答。
近くの客、チラチラ見るが声はかけない。
李斬(7)、客に紛れている。
商人、舌打ちをする。
商人 「買うんかい?買わないんかい?」
燦 「あぁ、えっと……」
謝那、思いっきり駄々をこねる。
斬、燦と商人の間に金貨の束を掲げる。
斬 「これで払ってくれ。」
燦 「え?」
燦、斬の格好を上から下まで見る。
斬、燦と謝那を見て微笑む。
燦 「あの……あなたは?」
斬 「私の正体などいいのです。……妹さんは何がいいのですか?」
謝那 「これ!」
謝那、斬に櫛を見せる。
燦 「こら、謝那!」
燦、慌てて謝那の手を下ろさせる。
斬 「いいのです。私も都に来るのは今日が初めてでしてね。おいくらで?」
商人 「へぇ、100両です。」
斬 「ではこれで。」
斬、櫛を受け取り謝那に手渡す。
謝那、大喜びで櫛を受け取る。
謝那 「ありがとう!」
燦 「ありがとうございますな!なんかすみません。」
燦、謝那の頭を押さえて頭を下げる。
斬 「いえ。大切に使ってあげてね。」
斬、燦と謝那に順に微笑む。
謝那、大きくうなずく。
斬、頷いて財布を懐にしまう。
燦 「あの、お礼をしたいのでお名前を伺いたいんですが。」
斬 「私の名は、斬です。」
燦 「斬さん。」
謝那 「斬様、ありがとう!」
燦 「だからありがとうございますな!」
斬、燦と謝那の頭をなでて口笛を吹いて去っていく。
燦、買い物かごを背負いなおす。
謝那 「はわわぁー!」
謝那、燦の数歩先で音痴な鼻歌を歌いながら櫛を天に掲げる。
燦 「謝那、荷物手伝ってくれ。」
謝那 「はーい。」
謝那、振り向かないまま。
燦、溜息をつく。
謝那、急に次のお目当てに走り出す。
燦 「あ、待て謝那!」
燦、買い物かごを担ぎなおす。
都の客、次々に悲鳴を上げる。
燦、振り返る。
SE:馬の蹄の音、小さい音からどんどん大きくなる。
都の客、燦、一斉に道を開ける。
馬、謝那に向かう。
燦 「謝那、危ないッ!!」
謝那 「?」
***スローモーション***
謝那、振り返る。
SE:馬の鳴き声。
SE:額と蹄のぶつかる音。
謝那が弾かれて宙を舞う。
燦 「謝那ー!!」



SE:人が落ちる音。
******
都の人々、騒然とする。
燦 「謝那!」
燦、謝那に駆け寄り謝那の体をゆする。
燦 「謝那!謝那!」 
煌、馬を止め翻し、燦と謝那の元に近づく。
煌 「貴様!危ないだろ!」
燦、顔を上げる。
武官(王室)、馬で煌の元に駆け寄る。
煌、馬を降りて服を払う。
煌 「全く……。俺の馬が穢れた。よく洗え。」
武官(王室) 「はッ!」
燦 「穢れた……?」
煌 「俺の邪魔をしおって。馬で済んだだけ幸いだと思え。」
煌、武官(王室)の馬に乗り翻す。
燦、煌を睨みつける。
燦 「殺してやる。」
煌、馬を止めて翻す。
煌 「そなた、何か言ったか?」
燦 「てめぇ!!殺してやる!!よくもッ!!よくも!!」
煌 「はっ、くずの分際でこの俺に盾突くとは。やれるものならやってみるといい。」
燦 「ふざけんな!」
武官(劉)、途中で燦の口と体を押さえる。
劉権 「この者を屋敷に連れていけ。」
武官(劉)、燦を肩に担ぎ上げる。
燦、恐怖で身動きをやめる。

5. 権の部屋 (昼)
燦、武官(劉)、屋敷に着く。
武官(劉)、燦を権の部屋に引きずり込む。
燦 「あんた誰だ。」
権 「俺の名は劉権。都の長だ。そなたの名は?」
燦 「俺は燦です。」
権 「あの亡くなったものは?」
燦、唇をかみしめる。
燦 「俺の妹です。」
権 「そうであったか。」
権、櫛を燦の前に差し出す。
権 「妹の形見になるだろう。」
燦 「ありがとうございます。」
燦、櫛の前でうつむき涙を流す。
権、口角を上げる。
権 「燦。お前はあの方を恨むか?」
燦 「当たり前です。」
権 「ならば、そなた世子妃となれ。」
燦、驚いて顔を上げる。
燦 「はい?」
権 「そして、あの方……煌世子を殺せ。」
劉、目を見開く。
燦 「あなたの目的は何ですか?」
権 「目的か……そうだな……。この国の王にでもなろうか。」
権、笑顔(できるだけいやらしく)。
燦、権の顔を見て頷く。

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