#1 魔法使いの弟子 日常

キング・オブ・ブキヨーな女子高校生が意中の相手に手編みのマフラーをプレゼントするために弟子入りしたのは超絶手グセの悪いくそばばぁ 二人の師弟関係はどうなることやら
竹田行人 13 0 0 10/07
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第一稿

「魔法使いの弟子」


登場人物
西岡笑美(18)高校生   
城崎優平(24)医大生
伊豆冴子(63)入院患者


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「魔法使いの弟子」


登場人物
西岡笑美(18)高校生   
城崎優平(24)医大生
伊豆冴子(63)入院患者


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○府中総合病院・外観
   「府中総合病院」の看板。

○同・外来受付ロビー
   吹き抜けのロビー。
   ガラスの向こうに咲き始めの梅。
   テーブルが並んでいる。
   西岡笑美(18)、制服姿でテーブルに座っている。
   城崎優平(24)、笑美とは離れたテーブルで文庫本を読んでいる。
   笑美、城崎を見つめている。
冴子の声「ワーラービちゃん」
伊豆冴子(63)、笑美を覗き込む。
   笑美、のけぞる。
   冴子、笑美の向かいに座る。
笑美「ワラビじゃなくてエミ。笑顔が美しいでエミです」
冴子「自分で言うかい。退院だって?」
笑美「ああ。はい。これからは通院と定期健診でいいって」
冴子、アンパンと缶紅茶を並べる。
冴子「餞別だ。食いな」
笑美「冴子さん。ありがとうございます」
   笑美、缶紅茶のプルタブを立てる。
   缶の中身、こぼれる。
笑美「あーあーあー」
冴子「ワラビ。ホントにぶきっちょだね」
   冴子、ハンカチを出し、拭く。
笑美「すみません。あ」
   ハンカチには「伊豆冴子」の刺繍。
笑美「それ。オーダーメイドですか?」
冴子「刺繍くらい自分でできるよ」
笑美「魔法みたい」
冴子「あの子はキノサキユウヘイ。24歳。誕生日は12月10日。いて座のO型」
   笑美と冴子、目を見合わせた後、微笑み、グータッチ。
笑美「冬生まれ。だったらプレゼントは手編みのマフラー。あー。重いか。重いね」
冴子「重い軽いの前にワラビには無理だろ」
笑美「え」
冴子「缶の蓋も満足に開けられないアンタがマフラーなんか編めるわけがない」
笑美「そんなこと」
冴子「ある。あたしが保証する」
   笑美と冴子、目を見合わせる。
   笑美、アンパンの袋を開け、頬張る。
   看護師、冴子に駆け寄る。
看護師「冴子さん。また売店から盗ったでしょ。アンパンと紅茶」
   笑美、看護師に背を向ける。
冴子「え? あんだって? 最近どーも耳がねぇ」
   冴子、歩いていく。
笑美「くそばばぁ」
   笑美、アンパンの残りを口の中に放り込む。

○同・病室・中
   窓の外は満開の桜。
   冴子、ベッドの上で紺の木綿生地を断っている。
   ノックの音。
   笑美、手を後ろにして病室のドアの内側に立っている。
冴子「ワラビ。検診かい」
   笑美、ベッドのそばまで来て、後ろ手に持っていたものを見せる。
   笑美の手にはボロボロの毛糸。
冴子「派手にやったね」
笑美「弟子に。してください」
   笑美、頭を下げる。

○タイトル「魔法使いの弟子」

○府中総合病院・病室・中
   蝉の声。
   笑美、ベッドのそばの椅子に腰かけ、編み棒を構えている。
   冴子、ベッドに起き上がっている。
冴子「そこは、右の針を下からくぐらせて」
笑美「え? こう?」
冴子「左手放しちゃだめだよ」
笑美「あーもー! うるさいな!」
冴子「師匠に向かってうるさいとはなんだい」
   笑美と冴子、にらみ合う。

○同・病室・中(夕)
   冴子、ベッドの上で木綿生地に刺繍をしている。
   笑美、冴子の足元で寝ている。
   ノックの音。
冴子「はいよ」
   城崎、入ってくる。
冴子「ああ。ユウヘイ」
   冴子、ベッド脇の一番上の引き出しから、ハンカチを取り出す。
   ハンカチには「城崎優平」の刺繍。
城崎「さすが冴子さん。この子は」
冴子「ああ。あたしの弟子だ」
城崎「弟子」
冴子「何かしら。遺して逝かないとね」
   冴子と城崎、目を見合わせる。
冴子「だからさ。ユーへーくーん」
城崎「イヤです」
冴子「まだ何も言ってないじゃないか」
城崎「どうせまた一生のお願いでしょ。もう何千回と聞いてるじゃないですか」
   冴子と城崎、目を見合わせる。

○同・談話スペース
   ガラスの向こうに入道雲。
   笑美、毛糸を編んでいる。
   城崎、笑美に歩み寄る。
城崎「ワラビさん」
笑美「エミです。笑顔がうつく。あ。城崎さん」
   笑美、毛糸を隠す。
   城崎、笑美の向かいの椅子を指す。
城崎「その。え。と。ここ。いいかな」
笑美「どうぞ」
   城崎、笑美の向かいに座る。
城崎「あー。あの。さ。今日の今日だから。全然。断ってくれて。いいんだけど」
   笑美と城崎、目を見合わせる。

○同・病室前廊下(夕)
   笑美、スキップしている。
看護師の声「冴子さんしっかり!」
   笑美、立ち止まる。
   医師と看護師が行き来している。
   笑美、病室に駆け寄る。

○同・病室・中(夜)
   冴子、酸素マスクを付けて眠っている。
   笑美、ベッドのそばに立っている。
笑美「さえこ。さん」
   看護師、入ってくる。
看護師「笑美ちゃん。これ」
   看護師、笑美に浴衣を渡す。
笑美「え」
看護師「ほら。今日。花火大会でしょ」
   看護師、浴衣の袖口を見せる。
   笑美、浴衣の袖口を見つめる。
笑美「くそばばぁ」
   浴衣の袖口に「笑美」の刺繍。

○同・病室・中(夕)
   窓の外にイワシ雲。
   冴子、眠っている。
   笑美、そばで毛糸を編んでいる。
笑美「ねぇ。ここ。どうするんだっけ?」
   冴子、眠っている。

○同・病室・中
   窓の外は紅葉。
   冴子、眠っている。
   笑美、そばで毛糸を編んでいる。
笑美「また失敗。間に合うかな」
   冴子、眠っている。

○同・病室・中(夜)
   ジングルベル。
   冴子、眠っている。
   笑美、そばで毛糸を編んでいる。
笑美「うーん。ナベシキかなぁ。冴子さん」
   冴子、眠っている。
笑美「ちゃんと教えてよくそばばぁ!」
   笑美、崩れ落ちる。
笑美「ちゃんと。ちゃんと」
冴子「師匠になんて口の効き方だい」
   笑美、立ち上がる。
   冴子、目を開けている。
   笑美と冴子、目を見合わせる。
笑美「冴子さん。冴子さん」
冴子「ほら。ナースコール押して」
笑美「うん。うん。うん」
   笑美、ナースコールを探す。
冴子「ぶきっちょだねぇ。エミは」
笑美「うるさいなぁ。え」
   笑美と冴子、微笑み合う。

○同・談話スペース(夜)
   中央にクリスマスツリー。
   笑美と城崎、テーブルについてツリーを見上げている。
   城崎、笑美の編んだものを持っている。
笑美「名前を奪う」
城崎「そう。魔法使いは相手の名前を奪うことで相手を意のままに操るんだって」
笑美「あー。だからか」
城崎「え」
笑美「いえ。なんでもないです。あ。それ。よかったら使ってください」
城崎「ああ。うん。ありがとう。これは。毛糸の。え。と。ナベシ」
笑美「ハンカチです」
城崎「ああ。ハンカチ」
笑美「ハンカチです。紛れもなく」
城崎「うん。そうだね」
   クリスマスツリー、明滅している。

          〈おわり〉

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