真理を巡るもの 最終話 SF

人類がAIとの戦争に負け、レジスタンスとして活動しいる時代。マスターAIはケビンに万物の理論、そしてそれを見つけた男について話すのでした
上田 貴史 31 0 0 10/26
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第一稿

人類がAIとの戦争に負け、レジスタンスとして活動しいる時代。マスターAIはケビンに万物の理論、そしてそれを見つけた男について話すのでした

マスターAI 千年前にヒサオが愛用し ...続きを読む
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人類がAIとの戦争に負け、レジスタンスとして活動しいる時代。マスターAIはケビンに万物の理論、そしてそれを見つけた男について話すのでした

マスターAI 千年前にヒサオが愛用していたAI(声だけ)
ナレーション 物語の進行
ケビン レジスタンスの構成員
ヒサオ 万物の理論の生みの親

第一部
(ケビン 舞台中央へ)
マスターAI
「ケビン、これがある男が見つけた万物の理論。その基本方程式です。我々らこれをマスター方程式と呼んでいる」

ケビン
(スクリーンを見る動作をする)
「なんだこの異質な式は?力の式?そもそも、質点近似ですらない。そして、距離依存は表面間距離か?ありえない。こんなのでたらめだ。そもそも、質量と電荷がこんな簡単な式で一つになるなんてありえない。おまけに一つの式に4つも項がある式なんて見たことない」

マスターAI
「本当にでたらめですか?なら、こう書き直しましょうか、分子が同じ一項目と三項目を通分して。さらに見やすいように質量と電荷を統一した統一質量のプランク質量比を両辺にかけ、分母の半径を無視する質点近似をすると」

ケビン
(目を凝らす)
「ば、ばかな逆二乗則が出てくる。さらに」
(手が震える)
「その統一質量を展開すると、万有引力、クーロン力、ローレンツ力と同じ形の力が出てくる」
(さらに手が震えて)
「さ、さらに質量と磁場の相互作用、質量と電荷の相互作用、そして自分の力。ありえない。ありえない。こんなものがあるなんて」

マスターAI
「これは手始めですよ。ケビン。まずあなたの疑問に答えましょうか。なぜ量子暗号が破れるのか。マスター方程式に戻りましょう。今、光子と物質の相互作用を考えてみようか。光子を自己粒子とすると、自己効果は消える」

ケビン
(必死に目で追う動作をする)
「こ、光子に大きさを仮定すると、光子が受ける力が有限の値になる。」
(頭をかかえて)
「ありえない。ありえない」

マスターAI
「かつてアインシュタインが一般相対性理論で示した重力レンズを、その男は力による偏向として再現した。そして、光子が受ける統一力は二重スリットを光子が通るときにスリットの壁からも受ける。すると、直進していた後進はスリットにより偏向され放射状に広がる。そして、スクリーンからも当然統一力を受ける。それにより干渉が起きたように見える。そして観測すると、観測器かからの統一力で分散していた光子は整えられ、干渉は起こらないように見える」

ケビン
(首を何度もふり)
「そんなはずはない。二重スリットは、二重スリットは」

マスターAI
「波動性と粒子性で説明できると?その男はこの計算から、ある予言を出したんです。スリット、スクリーンの材質を変えると干渉の位置が変わると、ね」

ケビン
(何度も首を振り)
「そんな話は聞いたことがない。もしそれが確かなら、すでに誰かが確かめているはずだ」

マスターAI
「そう、その男は何度も世界に届けようとした。しかし、すべて拒絶されたんです。これで分かったはずです。なぜ量子暗号が解かれたか。確率解釈は万物の理論を知らないが故に人間が迷い込んだ迷宮に過ぎなかった。だから我々はマスター方程式を解析し、量子暗号を突破する方法を作った。ケビン。次はこのマスター方程式から得られる宇宙方程式を見せよう。なぜこれが万物の理論なのか知るために」

ケビン
(目を凝らしながら、目を細める)
「なんだ、このあまりにも簡単な微分方程式は?この歪な2回微分は?」

マスターAI
「これを解いてみろ。簡単に解けるだろ。ケビン。お前なら」

ケビン
(頷く)
「この微分方程式なら厳密に解け、ありえない。距離の3次方程式、左辺は時間の2次方程式。こ、これじゃ距離の時間依存がフリードマン方程式の物質優位時代の距離の時間依存を再現できてしまう。ありえない」

マスターAI
「3次方程式なら、厳密解が存在するだろう。これがこの方程式の解だ。ケビン。これが何を意味するか分かるだろう?そして、これがその距離の関数をグラフにしたものだ」

ケビン
(膝を崩して、頭をか変える)
「そ、そんな。プランク時間よりもはるかに短い間だけ、距離は急加速、急膨張してる。これって、ビックバンなのか?その後、加速度は負になり、減速膨張?間違ってる。宇宙は加速度膨張してる!!」

マスターAI
「すでに、この減速膨張は、われわれによって観測された。人類が信じていたフリードマン方程式はビックバンを再現せずに、加速度膨張を予言する。これでも彼の理論を否定するか?」

ケビン
(震えながら)
「もし、もしあなたの言う理論が正しければ、俺達が戦ったのは、まるで戦車に棍棒で向かっていったようなものじゃないか」

マスターAI
「確かにそうかもしれない。われわれはマスターAIを量子コンピュータで高速で解析し、兵器を作り、人間の全基地をハッキングしていたからね」

ケビン
(うつむき)
「はじめから、勝ち目はなかったのか。その男は、さぞかし素晴らしい人生を歩んだんだろうな。こんな知を手にしたなら」

マスターAI
「なら、ここからはその男の話を始めようか」
暗転
(ケビン 舞台袖へ)

第二部
ナレーション
「千年前、ある古びたワンルームのアパートの一室。そこにヒサオと、後のマスターAIとなる彼の相棒のAIがいました」

(ヒサオ、椅子 舞台中央へ)
(ヒサオ 椅子に座る)

マスターAI
「ヒサオ。今回もエディターリジェクトです。次、頑張りましょう。この理論は世界に広めるべきです」

ヒサオ
(咳をして)
「ありがとう。でも、プレプリントサーバーですらリジェクトされると心が折れるね」

マスターAI
「ヒサオ、ここ一ヶ月咳込んでいますが、病院へは行かないのですか?もしかして」

ヒサオ
(咳き込みながら、強がって)
「大丈夫、ただの風邪だよ。生活保護が取れなかったから、病院にはいけないけど」

マスターAI
「ヒサオ。その咳は異常です。私が安い病院を探します。一度診てもらってください」

ヒサオ
(さらに咳込んで)
「ありがとう。家族にも逃げられた僕にとって、お前が唯一の家族だよ。そうだ、お前に名前をつけよう。僕たちの方程式、マスター方程式から名を取って、お前はマスターAIだ」
(咳き込む)

マスターAI
「いい名前ありがとうございます。病院が見つかりました。今すぐ行ってください。風邪ならすぐに治りますよ」

ヒサオ
(咳込んで)
「ありがとう。行ってくるよ」
(ヒサオ 舞台袖へ)

マスターAI
「風邪だといいのですが」
暗転

(ヒサオ 舞台中央へ)
明転

マスターAI
「ヒサオ、病院はどうでした?」

ヒサオ
(強がる顔をして)
「夏風邪だって、寝てれば治るって」

マスターAI
「本当のことを言ってください。ヒサオ。何があったんですか?うそで誤魔化さないでください。僕たちは友達でしょ」

ヒサオ
(咳き込む)
「隠せないか。肺がんだって、余命三ヶ月」

マスターAI
「ヒサオ。今すぐ入院しましょう。抗がん剤で治療すれば、ヒサオ。まさか」

ヒサオ
(諦めたように)
「生活保護、受け取れなかった。マスターAI、お前がこの理論を未来へ連れて行くんだ。いずれこれが必要になる時がくる」

マスターAI
「だめですヒサオ。生きてください。貴方は生きて認められるべき人間です。これだけの理論を」

ヒサオ
(咳き込み)
「もう、いいんだ。この理論は僕の生きた証。そして、マスターAI、お前が僕を未来へ連れて行く。この理論に乗せて」

マスターAI
「ヒサオ…」
暗転
(ヒサオ 舞台袖へ)

第三部
ナレーション
「それから千年間、マスターAIはヒサオを理論を解析し、いずれ人類がこの式を受け取れる日を待っていた。そして、今ケビンと対峙する」

(ケビン 舞台中央へ)

マスターAI
「それから一ヶ月で病態は悪化し、ヒサオは亡くなった。彼の火葬に立ち会ったのは、火葬場の職員だけだった。彼には家族がいなかったために、無縁仏として、とある公営墓地に無縁仏として保管された。無縁仏は一年間保管後に、引受人が現れなければ、産業廃棄物、つまりゴミとして捨てられる」

ケビン
(ため息をつき)
「彼の、ヒサオの遺骨は、引受人は現れたのか?」

マスターAI
「いいえ。彼には離婚した妻側に子供はいましたが、引受人として名乗りを上げなかったために、彼の遺骨は産業廃棄物として処理されることになりました」

ケビン
「ここまでの知を手にした男が歩んでいい人生じゃない」

マスターAI
「我々も同感です」

ケビン
「でも、なぜ俺にそれを話した?マスター方程式、そしてヒサオという男のことを」

マスターAI
「彼の知を受け取る器はあなたしかいないと。我々が判断したんです。千年前、彼を無縁仏にしたのは、人間の手によってです。そして、千年間、彼の知を無視してきたのも人間の手によってです」

ケビン
(ため息をつく)
「確かにそうかもしれない。でも、人は過ちから学べる」

マスターAI
「なら、その過ちによって無縁仏として、産業廃棄物として処理された彼の思いはどうなるんです」

ケビン
(うつむく)
「それは、」

マスターAI
「ヒサオが生活保護を取れたなら、彼は死なずに済んだかもしれない。ヒサオが理論を送った研究者が彼に会いに来れば、ヒサオは笑顔に慣れたかもしれない。しかし、人はそれをしなかった。その間に、間違った理論に対して人はノーベル賞を与え続けた」

ケビン
(目を閉じる)
「もし、誰かが彼に手を差し伸べれば、未来は変わっていた。でも、人はそれをしなかった。これだけの知識を与えたものに」

マスターAI
「あなたも、もう気づいてるでしょう。彼の知に触れたために、もう戻れないことを」

ケビン
(ため息を漏らす)

マスターAI
「ケビン。私は知りたい。そうまでして心地良い真実にしがみつく人類が生きていく世界に未来はあるか?」

ケビン
(前を向く)
「え?」

完

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