〇人物
イシコリドメ(17) 鏡の神様
オモイカネ(21)知恵の神様
ウズメ(19)芸能の神様
ツクヨミ(10)アマテラスの弟
タヂカラ(32)力の神様
〇天の川・川岸(夜)
きらきらと光りながら流れる川。
川岸で焚火を囲み、十数人の神々が議論をしている。
地面を叩くタヂカラ(32)。
タヂカラ「くそっ! 鶏の策も失敗か!」
タヂカラの隣で鶏を撫でるウズメ(19)。
ウズメ「鶏が鳴けば太陽も昇ると思ったんだけどねえ。一体どうしたらアマテラス様は岩戸から出て来てくれるんだか」
タヂカラ「おい、オモイカネ。他に良い案は無いのか? このままじゃ高天原(たかまがはら)は永遠に闇の中だ」
目を充血させたオモイカネ(21)、タヂカラを睨みつける。
オモイカネ「今考えてますよ! 貴方だってまともな策の一つくらい出せないんですか!」
タヂカラ「出しただろう! 俺の力で岩戸をこじ開けたらどうだって」
オモイカネ「だから開けた所で彼女が出て来てくれなかったら意味が無いんです! 全く、これだから脳筋は・・・・・・」
タヂカラ「おい、何か言ったか」
怒ってオモイカネに飛びかかるタヂカラ。
二人を止めようと他の神々も争いに加わり、もみ合いになる。
ウズメ「ちょっと、落ち着きなよ!」
地面に押し倒されるオモイカネ、端に座るイシコリドメ(17) と目が合う。
びくりと肩を震わせるイシコリドメ。
オモイカネ「・・・・・・いた」
〇道(夜)
ウズメの隣を歩くイシコリドメ。
イシコリドメ「もう信じられへん! 何で私を引き合いに出すん? あいつのせいで満場一致で決まってしもたやんか」
ウズメ「とは言え考えられる策はもう尽くしたからねえ……。あとはもうあんたの力くらいしか頼りにできないって訳よ」
イシコリドメ「力って・・・・・・。鏡しか作れへん私に何ができるって言うん」
ウズメ「たかが鏡、されど鏡よ。もしかしたらアマテラス様もあんたの作った鏡に興味持って出て来てくれるかもしれないでしょ」
イシコリドメ「そんなん無茶苦茶やろ・・・・・・」
ウズメ「ま、とりあえず作ってみましょ。手伝えることがあったら私も力になるから」
イシコリドメ「・・・・・・」
イシコリドメ、肩を落とす。
〇イシコリドメの家・鍛錬所(夜)
台の上に置かれた錫(すず)石(いし)に手をかざすイシコリドメ。
イシコリドメM「アマテラス様を岩戸から引き出す鏡ってどんなんやろ? 金ぴかの鏡? それとも自分が綺麗に映る鏡やろか・・・・・・ああ、分からん」
光を発しながら浮かび上がった石は鏡に形を変えるが、やがて床に落ちる。
イシコリドメ「やっぱり無理やわ。私が鏡なんか作ったところで、何の役にも立たん」
真っ二つに割れた鏡を拾い上げるイシコリドメ、溜息。
イシコリドメ「・・・・・・気分転換でもしよ」
〇森(夜)
桜が咲く森の中を歩くイシコリドメ。
イシコリドメ「夜桜も綺麗やけど、やっぱりおひさまの下でまた皆と花見がしたいなあ・・・・・・」
イシコリドメ、木の下で泣いているツクヨミ(10) に気付いて足を止める。
イシコリドメ「ちょっと、ぼく大丈夫?」
振り返ったツクヨミ、慌てて涙を拭う。
ツクヨミ「すみません。見苦しい姿をお見せして」
イシコリドメ「暗いから迷子になったんとちゃう? 家まで送るよ」
ツクヨミ「違うんです。ただ、昔のことを思い出していて」
イシコリドメ「昔のこと?」
ツクヨミ「はい。僕には大好きなお姉ちゃんと弟がいるんですけど……喧嘩でバラバラになってしまって」
イシコリドメ「ぼく、もしかして」
ツクヨミ「はい。アマテラスの弟の、ツクヨミです」
驚いて目を見張るイシコリドメ。
ツクヨミ「昔は三人でよくここまで遊びに来てたんです。かけっこしたりお花を摘んだりして、本当に楽しかった。だけどもう一緒に遊べることもなくなっちゃうのかなって思うと、悲しくて」
再び泣き出すツクヨミ。
イシコリドメ、ツクヨミをじっと見つめて、
イシコリドメ「・・・・・・そんなことないよ」
ツクヨミ「えっ?」
イシコリドメ「私もこのまま高天原に朝が来ないのは嫌や。あんたと同じ、また太陽の下で、皆と楽しく暮らしたい」
イシコリドメ、ツクヨミの肩を叩いて
イシコリドメ「大丈夫。アマテラス様のことは、うちらが何とかするから任しとき」
ツクヨミ「本当・・・・・・?」
イシコリドメ「うん。八百万の神々のこと、舐めたらあかんで」
涙を拭い、笑顔を浮かべるツクヨミ。
ツクヨミ「ありがとうございます」
〇イシコリドメの家・鍛錬所(夜)
台の上に錫石を置くイシコリドメ。
背後でその様子をウズメとオモイカネが眺めている。
泥だらけの顔を拭うウズメ。
ウズメ「いくら親友の頼みとは言え、真っ暗闇の中の登山はきつかったわよ・・・・・・ねえオモイカネ?」
オモイカネ「まあ良かったんじゃないか? 香具山(かぐやま)にこんなに美しい錫石があるなんて俺も知らなかった。さすがツクヨミ、高天原を見通す力は姉上に匹敵するな」
ウズメ「『月を司る者』だけにね」
イシコリドメが錫石に手をかざすと、石が輝きながら浮かび上がる。
瞳を閉じて力を籠めるイシコリドメ。
イシコリドメ「お願い。今度こそ・・・・・・」
鏡に姿を変えた錫石はゆっくりと降下し、イシコリドメの手に納まる。
息を切らしながら鏡を見つめるイシコリドメ。
イシコリドメ「できた・・・・・・!」
肩越しに覗き込むウズメとオモイカネ。
ウズメ「綺麗な鏡・・・・・・」
意識を失うイシコリドメ。
ウズメ「イシコ!? 大丈夫!?」
イシコリドメを支えるオモイカネ、鏡をウズメに手渡す。
オモイカネ「ウズメ、これを岩戸まで持って行け。お前の踊りとこの鏡で、アマテラス様を誘い出すんだ」
ウズメ「任せて!」
扉を開けて外へ駆け出るウズメ。
オモイカネ「しっかりしろ、イシコ」
壁を背にイシコリドメを座らせ、頬に付いた泥を拭ってやるオモイカネ。
イシコリドメ「(寝言)また皆で・・・・・・お花見したい・・・・・・」
オモイカネ「そうだな。太陽が昇ったら、しような」
ぽんぽんとイシコリドメの頭に優しく触れるオモイカネ。
〇同・寝室(朝)
布団に寝かされているイシコリドメ、窓から差し込む朝日に気付いて飛び起きる。
イシコリドメ「朝や!」
辺りを見回すイシコリドメ。
枕元に『岩戸まで来い』と置き手紙。
〇岩戸(朝)
岩戸の前で、神々が酒を飲みながらどんちゃん騒ぎをしている。
走って来たイシコリドメを迎えるウズメとオモイカネ。
ウズメ「イシコ! 待ってたよ」
イシコリドメ、肩まで着物がはだけたウズメの姿に驚く。
イシコリドメ「何その格好!」
ウズメ「あんたが頑張ったから私も一肌脱いだのよ。皆を呼んで岩戸の前で踊ったら、大宴会になっちゃって」
オモイカネ「騒ぎに気付いて顔を覗かせたアマテラス様に鏡を見せたらお気に召されてな。手を差し出したところをタヂカラが引っ張り出して大団円だ」
三人の視線の先に、泣きじゃくるツクヨミを撫でるアマテラスの姿。
鏡を持ったアマテラスはイシコリドメに気付き、にっこりと笑いかける。
オモイカネ「あの鏡はきっと、この国の宝になる。高天原に再び日の出をもたらした宝物として、永遠に語り継がれるんだ」
イシコリドメ「・・・・・・そっか。よう分からんけど、私は皆がまた幸せに暮らせたら、それで十分やわ」
三人のお腹が鳴る音。
イシコリドメ「え?」
それぞれの腹を押さえ、目配せし合う三人。
オモイカネ「・・・・・・今のは何だ」
ウズメ「さあ。親友同士はお腹が空く瞬間も同じってことじゃない?」
イシコリドメ「私、もう耐えられへん・・・・・・!」
三人、ゲラゲラ笑いながら群衆へ走って行く。
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