干し芋 ドラマ

昭和三十年ごろ。戦後の貧しさが残る時代、幼い節子にとって祖母テルの背中は唯一の安心だった。毎朝干される干し芋は、いつの間にか減ってはまた並んでいた。大人になった節子は、空腹の子どもたちが芋を盗み、その奥に“気づいていた人の影”があったことを知る。静かな優しさの物語。
夕凪 12 0 0 02/08
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第一稿

短編ドラマ脚本

           『干し芋』

            著:[夕凪]


短編ドラマ『干し芋』

【登場人物】

テル(70代)
 寡 ...続きを読む
「干し芋」(PDFファイル:121.00 KB)
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短編ドラマ脚本

           『干し芋』

            著:[夕凪]


短編ドラマ『干し芋』

【登場人物】

テル(70代)
 寡黙で、強く、優しい。誇りを背中で語る人。

節子(幼少期/大人)
 祖母の背中を見て育ち、大人になってその意味を知る。

千代(幼少期/大人)
 節子の親友。こういちの妹。日常を共にした友達。

こういち(幼少期/大人)
 ガキ大将。群れの先頭に立つが、内側には小さな良心が揺れている。

悪ガキたち
 生きるために必死だった子どもたち。


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0 ナレーション(冒頭)
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● ナレーション(大人の節子)
「昭和三十年ごろ。
 町はまだ昨日の続きを生きていた」


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1 外・テルの家・冬の朝
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白い息。湯気の立つ蒸し器。
テルが芋を洗い、蒸し、薄く切って軒先に並べる。

幼い節子が縁側で見ている。
そこへ千代(幼少)が駆けてくる。

千代(幼少)
「せっちゃん、遊ぼ!」

節子(幼少)
「うん。でも、ばあちゃんの手伝い終わってからね」

千代はテルに向かって元気よく頭を下げる。

千代(幼少)
「おはようございます!」

テルは小さく頷き、節子の肩にショールをそっとかける。

節子(幼少)
「ばあちゃん、あったかい」

テル
「……そうかい」

千代はその様子を見て、少し羨ましそうに微笑む。

● ナレーション(大人の節子)
「一緒にいるだけで安心できて、
 その背中がそこにあるだけで、
 世界がちゃんと回っている気がした」


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2 外・軒先・夕方
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干し芋が減っている。テルは静かに見つめるだけ。

節子と千代(幼少)が帰ってくる。

節子は減った芋に気づき、ふと立ち止まる。
千代も視線を追うが、何も言わず隣に立つ。


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3 内・居間・夜
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節子が祖母の背中を見つめている。
テルは黙々と芋を切っている。包丁の音だけが響く。

節子(幼少)
「ばあちゃん、手……痛いの?」

節子はそっとテルの手を包み、小さくさする。

テルは一瞬驚き、ふっと表情を緩める。

テル
「……おや。節子がさすってくれたから、痛くなーい」

節子は嬉しそうに笑う。
テルは節子の頭を軽く撫でる。

● ナレーション(大人の節子)
「ばあちゃんは、強かった。
 でも、その強さの奥には、いつも優しさがあった」


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4 外・町の路地(夕方)
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こういちや悪ガキたち。空腹で寒さに震えている。

こういち(幼少)
「……腹、へったな」

悪ガキA
「今日も……ある」

こういちは一歩前に出る。

こういち
「行くぞ」

子どもたちは軒先へ。干し芋を一枚ずつ取る。

その瞬間──家の奥に、人影が“あった”。

動いたのか、ただ立っていたのか、見ていたのか分からない。

子どもたちは走り去る。
こういちは一瞬だけ振り返るが、もう何も見えない。

こういちの表情に、ほんのわずかな違和感が残る。


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4−2 外・路地裏(直後)
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悪ガキたちが息を整えながら芋を分け合う。

悪ガキB
「バレてないよな?」

悪ガキA
「誰もいなかったって」

こういちは少し離れた場所で立ち尽くす。
手がわずかに震えるが、誰にも見られたくない。

わざと大げさに大口で芋にかぶりつく。

こういち
「……ほらよ。うまいじゃねえか」

声は平静で余裕すら漂うが、
胸の奥に小さなざわめきが生まれている。


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5 外・テルの家・翌朝
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節子と千代が並んで座っている。

テルは残った一枚を節子の皿に置く。

節子(幼少)
「ばあちゃんの?」

テル
「節子のだよ」

千代は少し羨ましそうに笑う。

テル
「千代にも、あとで蒸したのをあげるよ」

千代(幼少)
「ほんと?」

節子と千代は顔を見合わせて笑う。

● ナレーション(大人の節子)
「ばあちゃんは、誰にでも優しかった。
 でも、私には少しだけ特別だった気がする」


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6 外・町の風景(季節の移ろい)
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・雪の日、節子がテルの袖を握る
・晴れの日、干し芋を並べるのを手伝う
・風の日、節子がテルの背中に隠れる

● ナレーション(大人の節子)
「ばあちゃんの背中は、私の居場所だった」


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7 内・居酒屋・夜(現代)
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こういち(大人)
「なあ、覚えてるか。
 お前のばあちゃん、毎日芋を干してたろ」

節子
「覚えてるよ。毎日だった。
 なくなっても、また次の日には干してあった」

こういち
「……あれな。
 俺たちが食ってたんだ」

節子は言葉の意味がすぐには分からない。

こういち
「あの頃、腹が減ってどうしようもなくてさ。
 軒先の芋は、いつでもあった」

こういちは少し目を伏せる。

こういち
「影があったんだよ。
 見てたのかどうかは分からないけど……
 あれは“気づいてる人の影”だった」

悪ガキB
「俺たち、ずっと“バレてない”と思ってたのに……
 違ったんだな」

千代(大人)は静かに節子の手を握る。

こういち
「お前のばあちゃんのおかげで、
 俺たちは飢えをしのいで、生き延びたんだ。
 今こうして生きてるのは、あの干し芋のおかげだ」

節子の中で、あの日常の風景が違う意味を持って立ち上がる。


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8 外・帰り道・夜
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節子と千代が並んで歩く。

千代(大人)
「……せっちゃんのばあちゃん、すごい人だったね」

節子
「うん……。
 あんなふうに誰かを助けてたなんて、知らなかった」

千代は節子の手を握る。

千代
「でも、優しい人だったってことは……
 ずっと知ってたよね」

節子は静かに頷く。

節子
「うん。
 ばあちゃんは……そういう人だった」


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9 外・軒先(回想)
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夕陽の中、干し芋が揺れる。
テルの背中は、まっすぐ。

● ナレーション(大人の節子)
「——あの干し芋は、
 テルばあちゃんだったのだと、
 私は、ずいぶん時を経て、ようやく知った」


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ラストショット
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干し芋が風に揺れる。
静かな余韻。
フェードアウト。​

「干し芋」(PDFファイル:121.00 KB)
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