最後のキス 恋愛

親戚中に自分がゲイだとバレ、家を飛び出した恵は一人イタリアにいた。 ふと聞こえたハーモニカの音色に、立ち寄った場所で幼い千尋と、 父親である春に出会う。 恵と春は心を寄せ合うが、春には誰にも話せない秘密があった……。 「愛してるの数」過去編。 【不思議パパ×素直じゃない父】 (2010.1.27作)
悠二 31 0 0 03/29
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第一稿

・海岸

海を見ながら煙草を吸っている恵《けい》

***
・実家(回想)

自宅で父と言い争いをしている恵

父  「どういうことだ?!」
恵  「だーかーら ...続きを読む
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・海岸

海を見ながら煙草を吸っている恵《けい》

***
・実家(回想)

自宅で父と言い争いをしている恵

父  「どういうことだ?!」
恵  「だーかーらー、金貯まったからもういいよっつってんの。俺明日から日本にいないから」
父  「何を馬鹿な……! お前はどれだけ」
恵  「じゃあね」
父  「待て! 恵!」

父、恵が振り向きざまに左頬を殴る

恵  「っ……!」

***
・海岸

左頬を押さえる恵

恵M 「あのクソ爺、俺の大事な顔を傷つけやがって……まだ痛ぇ」
恵M 「今俺はイタリアにいる。どうしてイタリアかって言うと、まぁなんとなく。とにかくあの家から遠くに行きたかった。優等生の兄貴とは正反対の俺を家の奴らは疎ましがっていた。それに加えてゲイだってバレてもう大騒ぎ。金も貯まってたし、いい機会だと思って家を出た。最後の最後にあの鉄拳。まぁ迷惑料だと思えば安いもんか。どうせもう帰るつもりもないし」

恵M 「さて、これからどうしよっかなぁー……」

恵、煙草を消して歩き出す

***
・|L'ULTIMO BACIO《ルルティモバーチョ》前

石畳の上を歩いている恵
ハーモニカの音色(かえるの歌)が聞こえてくる

恵M 「ん……? かえるの歌……」

店の前で立ち止まる
中を覗くと、銀細工のアクセサリーが並んでいる

恵M 「ふーん。アクセサリー屋か……ルルティモ……バーチョ……」

恵、店の中に入る

***
・L'ULTIMO BACIO

店の奥からハーモニカの音色が聞こえる(かえるの歌)
アクセサリーを眺める恵

恵M 「へぇ……手作りか……結構いいじゃん……でもなんだよ、このハーモニカ……」

男  「うまいうまい」
恵M 「日本語?」

恵、店の奥を覗く
男の後姿と子供が見える

恵M 「ハーモニカの練習か……あ……」

恵、子供と目が合うと笑う
子供、笑う
子供を見て男が振り向く

男  「あ、こんにちは」(イタリア語)

男、微笑みながら出てくる

恵M 「うわー……綺麗な顔……日本人……か?」
男  「初めて見る人だね。あ……もしかして、日本人かな?」(イタリア語)
恵  「あ、あぁ」
男  「やっぱりー。観光? 日本の人と話すの久しぶりだなー」

男、ニコニコしている

恵M 「こいつ……日本語だと急に雰囲気変わるな」

恵、驚く

恵  「いや、観光ってわけじゃねぇんだけど。ここのあんたが作ってんの?」
男  「そうだよー。あんまり売れないけどね。へへへ」
恵  「そんなんで商売になんのかよ? はははっ」
男  「ここにはたまーにお客さんが来る程度でいいんだー」
恵  「へぇ。趣味でやってんのか……。俺これ、貰うよ。いくら?」

恵、シンプルな指輪を取る

男  「気に入ってくれたのなら、あげるよそれ。綺麗なお兄さんにプレゼント」
恵  「はぁ? たまにしか客こねぇんだろ? たまに来た客にタダで売ってどうすんだよ!」

恵、笑う

男  「いいんだよ。君に会えた記念に」

男、恵から指輪を取り、恵の左手薬指に指輪をはめる
手の甲に軽くキスをする

男  「あれー? 君指細いねぇ。ブカブカだ……」

男、困った顔をする

恵  「あんたいっつもこんなことしてんの?」

恵、また笑う

男  「? これ一応男物なんだよー? サイズ直し」

はと時計が鳴る

男  「あー、サイズ直ししてあげたいんだけど、今から出かけなきゃいけないんだー」
恵  「いいよ。ほら、中指だとぴったり。これでいいから」

恵、指輪を中指にはめなおして見せ、微笑む

男  「うーん……」
恵  「ほら、出かけるんだろ? 俺はこれで失礼するから。これ、ありがとな!」
男  「また会えるといいね」

恵、店を出る
男、笑って手を振っている

***
・L'ULTIMO BACIO前

恵、空に手をかざして指輪を眺めながら歩く

恵M 「いいもん貰った~。しかし、あいつ綺麗な顔してたなぁ……俺より綺麗な奴みんの初めて。っつーか、やっぱこっちにいる奴はやることが違うねー。まっ子供もいるし、挨拶みたいなもんだろ。やっぱ日本とは全然違ぇや」

恵、楽しそうに歩く

***
・街

街中を歩く恵

恵M 「いろんなところを周って見た。それでも何かぱっとするものが無く、イタリアを離れようかと考えたとき、ふと初日に訪れたあの田舎町を思い出した」

恵、指輪を見る

恵M 「最後にもう一度行ってみるか……」

***
・L'ULTIMO BACIO前

恵、店を見つけると走って来る

恵M 「ここだここだ! って……閉まってんじゃん……」

扉にclosedの文字
ガラス戸から中を覗くが誰もいない

恵M 「まっ、仕方ないか……」

恵、歩き出す

***
・海岸

煙草を吸う恵

恵M 「次はどこへ行こう……」

子供が防波堤の上を歩いてくる

恵M 「危なっかしいのー。つかどうやって上ったんだよ……この高さを……誰か」

子供、海に落ちそうになる

恵  「! 危ない!」

恵、走って行く
ジッポーが落ちる
子供を抱きとめる

恵  「おいおいおい、大丈夫かよ……危なかったー……」
子供 「ははははっ!」
恵  「笑ってる場合じゃ」(イタリア語)
男  「これ落としたよ」(イタリア語)

声をかけられてそちらを向くと
男、恵のジッポーを差し出す

男  「あ!」
恵  「あ! あんた!」

男、ジッポーを手の中で見せる

男  「壊れちゃったね……」
恵  「いや、そんなもんはどうでもいいんだよ。あんた子供のことちゃんと見とけよ! 海に落っこちたらどうすんだ?!」
男  「君が助けてくれたじゃない。ねー?」
子供 「ねー!」

笑う男と子供

恵M 「なんだこいつら……まったく危機感がねぇ……」
恵  「はぁ……」
男  「これ、修理してあげるよー。ちょっと時間かかるけど、元通りになるよ」
恵  「……あぁ、じゃあ頼むよ」

呆れている恵

男  「じゃあお店に行こう? ちーおいで」

子供、男と手を繋ぐ
三人、歩き出す

恵  「ちー?」
男  「うん。ちー、自己紹介できるー?」
千尋 「うん! 僕ねー、千尋《ちひろ》って言うのー。三さーい!」
恵  「へぇ。千尋か。お前女の子みたいな顔してんな」
千尋 「僕男の子だよー?」
恵  「はははっ! 俺は恵。もうすぐ二十五さーい」
千尋 「あははっ! 恵ちゃん?」
恵  「うん、恵ちゃん。で? あんたは?」
男  「僕? 僕は春《はる》。えーと、もうすぐ? ん? ついこないだ? 三十一歳になったよー」
恵  「え?! あんた三十超えてんの?! みえねぇ! 同い年位かと思ってた……」
春  「ははははっ、ありがとう」
恵  「あんた吸血鬼かなんか?」
千尋 「え?! パパ吸血鬼なのー?!」
春  「そうだよー、ちーの血も吸っちゃうぞ!」

春、千尋を抱きしめる

千尋 「きゃー! アハハハハ!」

***
・家(リビング)

恵  「へぇー、裏が家なわけね。いいね、この雰囲気好きだなぁ……」

恵、家の中を見回す

春  「ちー、手洗ってきて」
千尋 「はーい」

千尋、洗面所へ

春  「恵ちゃんはその辺座っててー。コーヒーと紅茶どっちが好きー?」

春、キッチンの中に入っていく
恵、カウンターの前に座る

恵  「紅茶ー。ミルクで」
春  「はーい」
恵  「春さんはさー、こっち生まれ?」
春  「違うよー。生まれは日本。もうこっちに来て十年くらいかなー? あ、僕のことは春でいいよ?」
恵  「あ、そう? 十年かぁ……ずっとここに住んでんの?」
春  「ううん。ここに来たのは五年くらい前。はい。どうぞー」

ホットミルクティーを恵の前に出す春

恵  「サンキュ」

飲む

恵  「あ、美味い……」
春  「ふふふ。僕、あっちでこれ直してくるから、ここでゆっくりしててー」
恵  「あっち?」
春  「うん。店の奥の工房」
恵  「え、それ俺も行っちゃだめ?」
春  「いいよ」

春、笑う

春  「ちー? 僕工房にいるからー」

階段に向かって言う

千尋 「はーい!」
春  「じゃあこっち」

工房へ

***
・工房

春  「狭いから気をつけてねー。ここ、座っていいよ」

春、丸椅子を出すとそれに座る恵

恵  「ありがと。すっごいなぁ、なんか職人って感じ」
春  「そう? ふふっ、これ、使い込んでるねぇ。恋人からのプレゼント?」

春、眼鏡をかけ、ジッポーを修理する

恵  「んー、あぁ、昔のな。別に思い入れとかないんだけど使いやすいから使ってるだけ」
春  「これだけ大事に持っていられるとあげた人も喜んでるよきっと」
恵  「もう忘れてんじゃねぇかなぁ?」

恵、工房の中を見る
ガラス細工や銀細工が沢山ある

恵  「あ、なぁ。奥さんは? 出かけてるの?」
春  「奥さんはねー、いないの。もう」
恵  「あ……そっか、ごめん」
春  「どうして謝るのー?」
恵  「いや、なんとなく……」

春、恵を見る

春  「お空にいるんだよー。随分前にね、行っちゃった」
恵  「亡くなったのか……」
春  「うん」
恵  「そうか……」
春  「あー、悲しい顔しないで? 今は抱きしめてあげられないから、ね?」
恵  「は、はぁ?」
春  「今手が離せないのー」
恵  「あんたさ、この間も言ったけどいつもそんななの?」
春  「そんな? どういうことー?」
恵  「初対面の奴にキスしたりとか」

春、手を止める

春  「あぁ。嫌だったー?」
恵  「いや、別に嫌とかそんなじゃないけどさ、いいの? そんなんで」
春  「はははっ。大丈夫、ちゃんと分かってるから。していい人と駄目な人」

また作業を続ける

恵  「……どういう意味」
春  「君は大丈夫な人でしょ?」

春、笑う

恵  「?」
春  「あれ? ちがったー? 僕こういうのは外さないんだけどなー」
恵  「分かるって……」
春  「君の恋人は男の人でしょ?」
恵  「え……」
春  「外れてた?」
恵  「あ、いや、当たってるけど……なんでわかんの?」
春  「んー? どうしてだろう? 考えたことないなぁ」
恵  「変な奴……」
春  「はははっ。よく言われるよ」

***
・工房

千尋 「パパー!」

声だけ聞こえる

春  「なーにー?」

工房の入り口から顔を出す千尋

千尋 「おやつはー?」
春  「あ、忘れてた! クラウのとこ行ってこなきゃ」
千尋 「僕行って来るよ?」
春  「一人では駄目。恵ちゃん、頼んでもいい? 僕まだ少しかかりそうなんだ」
恵  「ん? いいよ。どこ行くの?」
千尋 「近くのねー、パン屋さん!クラウディオのパン屋さん!」
恵  「いいよー。わかった」
春  「ちー、お財布恵ちゃんに渡して、マフラー巻いてー」
千尋 「はーい。恵ちゃん、行こうー」
恵  「おう」

千尋、恵と手を繋ぐ

千尋 「じゃあね、パパ」
春  「うん。気をつけて」
恵  「いってきまーす」

春、手を振る

***
・クラウディオのパン屋(全イタリア語)

店に入る千尋と恵

千尋 「こんにちは!」
クラウ「おー、千尋。今日も元気だな! おやつか? っと……そちらは?」
千尋 「僕とパパの友達だよ。恵ちゃんって言うの」
クラウ「ケイ? 初めましてケイ。君も日本人かい?」
恵  「初めまして。あぁ、日本人。いい匂い……腹減ってきた……」
クラウ「ハハハッ! なら今日はおまけしてやるよ! いつものケーキでいいのか?」
千尋 「うん!」
クラウ「ちょっと待ってろ」

***
・クラウディオのパン屋(全イタリア語)

クラウから紙袋を受け取る千尋

クラウ「ほら、これはおまけ。焼きたてだからな、気をつけろよ」

マフィンを受け取る

千尋 「わぁ、いい匂い。ありがとう!」
クラウ「春にもよろしく言っといてくれ」
千尋 「うん!じゃあね」

クラウ手を振る
店を出る二人

***
・街

石畳を歩いている二人
マフィンを食べる

恵  「うっわ、うめぇ……ふわふわ~」
千尋 「ほんとだぁ……美味しいね~」
恵  「お前イタリア語上手いな。こっちで生まれたの?」
千尋 「ううん。日本だよー。でもすぐこっちに来たんだって。覚えてないのー」
恵  「そっか、んじゃこっちで生まれたようなもんだなー」
千尋 「そうだねー。あ、恵ちゃん。ちょっとしゃがんでー?」
恵  「ん?」

恵、しゃがむ

千尋 「ここ、ついてるよ」

千尋、恵の頬についているマフィンのかけらを取って食べる

千尋 「ふふっ」
恵  「……お前……」
千尋 「んー?」
恵  「可愛いっ!」

恵、千尋を抱きしめてくるくる回る

千尋 「キャー! ハハハハッ!」

***
・家(リビング)

夕方、リビングのソファで眠っている恵
外からハーモニカの音と、笑い声が聞こえてくる

恵  「ん……」

目を覚ます恵

恵  「あれ……いつの間に寝てたんだ……?」

起きて伸びをする

恵  「んー! ……ちー?」

声のするほうへ行く

***
・家(庭)

夕日の中、春と千尋が庭にいる
春、ハーモニカでLeaving on A Jet Planeを吹いている

恵  「I'm leavin' on a jet plane I don't know when I'll be back again」

恵、ハーモニカに合わせて歌う
春、恵の方を見る

千尋 「あ、恵ちゃんおはよー」
恵  「おはよう。なんか俺の方が遊びつかれて寝ちゃってた。はははっ」

春、微笑む

春  「おいで」
恵  「?」

恵、傍に行く

春  「寝癖がついてる」

春、恵の髪を撫でる

恵  「……」

春、キスをする

***
・家(リビング)

恵、ソファに座っている
階段から春、降りてくる

恵  「ちー寝たー?」
春  「うん。これ、出来たよー」

恵にジッポーを渡す

恵  「お、サンキュー。ってめちゃくちゃ綺麗になってんじゃん!」
春  「磨いておいたんだけど、前の方がよかったー?」
恵  「いや、超綺麗! 新品みたい!」
春  「ふふふ、よかった」

恵、立ち上がる

恵  「……じゃあ、俺そろそろ行くわ」
春  「え?」
恵  「ありがとな、楽しかったよ」
春  「……」
恵  「また会えるといいな」

恵、荷物を取りに行こうとする
春、恵の手を取る

恵  「っ……!な、なに……」
春  「君は素直じゃないね……」

春、腰に手を回して抱き寄せる

恵  「何が!」
春  「こういうのは外さないって言ったでしょー?」

春、笑っている

恵  「ちょちょちょ、ちょっと待てって! だってあんた、おく」

春、キスをする

恵  「……っ……ん……」
春  「……逃げたかったら逃げていいよ」
恵  「なっ! てめぇ……やり方が汚ぇぞ……っ」

二人、キスをする

***
・家(リビング)

恵  「ちょっと待て! なんで俺が下なんだ!」

恵、ソファに押し倒されている

春  「? 恵ちゃん自分で動くのが好きなの? それならそれで僕はいいよ?」

春、体を反転させて恵を腰に乗せる

恵  「これも違う!」
春  「なに、恵ちゃん入れる方なのー?」
恵  「そうだよ!」
春  「今までずっとそうしてきたの?」
恵  「あぁそうだよ」

春、恵の頬を撫でる

春  「一度もない?」
恵  「ない!」
春  「じゃあ僕が初めてだね……優しくするから安心していいよ」
恵  「会話のキャッチボールが出来てねぇぞ! んがっ」

春、恵の口に指を突っ込む

恵  「にゃに……?」
春  「濡らすものが無いから舐めて」
恵  「ん……だから……はなひが……」

言いながらも恵、舐める

春  「ふふっ……恵ちゃん舐めるの好きでしょ?」
恵  「んー? ……好きだよ……ん……でもそれとこれは別だろ……」
春  「そんなに嫌ー?」
恵  「だって見た目的にもあんたの方が下でしょうよ」
春  「やってみないとわかんないでしょ?」
恵  「なに、自信満々だな」
春  「後悔させない程度には……」

春、恵のデニムの前を開けて、恵に手を伸ばす

恵  「んっ……ちょっと……ずるいって……!ぁっ……」
春  「だーめ、指ちゃんと舐めてて」
恵  「……っ……ん……手……だめだって……」
春  「ふふっ」
恵  「なに……笑ってんだよ……っ……」
春  「かわいいなぁと思って」
恵  「てめぇ……絶対俺が入れてやる……!」
春  「また今度ねー」

春、恵のデニムを半分ずらし、恵の口から指を抜いて後ろに回す

恵  「うわっ……ちょっと! ……ぁっ……ん!」
春  「ほら、入ったー」
恵  「入ったじゃねぇ! ……こ……の……ッ」

春、そのまま体を入れ替えて恵をうつ伏せに寝かせると後ろから覆いかぶさる

恵  「っ……ちょっと……ぅぁ……くそッ……」
春  「ほら、良くなってきたでしょ?」
恵  「よ、よくなっ……ぃ……っん……ぁあ!」
春  「うそつき。こっちはいいって言ってるよ……ほら、すごい濡れてる……」

春、恵の前を擦りながら笑う

恵  「ぅるさ……い! ……なん、で……俺が! ……こんな……っ……ぁぁぅ……ぁっ!」

春、耳元で囁く

春  「恵、愛してる」

春、恵の中に入る

恵  「え、あ、ちょっとっ……ん! っ……こら、勝手に……ああ! ……入ってくんな! ……んぁぁあ」
春  「恵」
恵  「はっ……ん……ッ……や、め……っ! ……ぁぁ」
春  「ふふっ、君ホントに可愛いね。今までしたことないなんて、君と出会ってきた男達は皆損してるよ……」
恵  「ばかっ……なんで俺が……! ぅぁっ……こんな……こと……っ!」
春  「もっとその可愛い声を聞いていたいんだけど、ちーが起きちゃうかもしれないから」

春、恵の顎を引いて無理やり後ろからキスをする

恵  「んっ! んんっ! ……はぁ……ん……っ……う……んっ!」
春  「……ん……っ……」
恵  「んはぁっ……おねが……い……っ! ……もう……おれっ……」
春  「んー?」
恵  「あん……た……っ! ……わかって……やってんだろ……っ! ……あぁ」
春  「ちゃんと言って?」
恵  「くそっ……さい、あく……っんあ……もうっ、イかせて……お願いっ……あぁ」
春  「ふふっ……良く出来ましたー……ん……」

キスをする

恵  「んっ! ん! んー! ……ん、んぁっ……んー!」
春  「っ……」
恵  「んっ……っ……はぁ……はぁっ……はぁ……」

軽くキスをする春

春  「後悔するほど嫌だったー?」

春、笑っている

恵  「今……それを聞くのか……っはぁ……あんた……ほんとに性質悪いって……」
春  「ふふふっ、おいで」

春、恵を抱きしめる

恵  「ん……なぁ……なんでこんな中途半端なままするの」
春  「中途半端?」
恵  「服、なんで脱がさないのよ?」
春  「あぁ、それはただの趣味でー」
恵  「……」
春  「そっちのがいいでしょ?」
恵  「……人って見た目で判断できないね……」
春  「どんなだと思ってたのー?」
恵  「もっと何にも知らない感じで……」

春  『だめだよ恵ちゃん……上でちーが寝てるのに……こんなっ……』
恵  『あんたが静かにしてたら起きないよ……』
春  『ぁっ……だめっ……恵ちゃんっ……』

恵  「こんな感じだと思ってたのに……」
春  「はははっ、でもちゃんとちーが起きないように配慮してたでしょー?」
恵  「なにが配慮だ、このエロ親父め……」
春  「この素直じゃない口、大好きだよ……」

春、恵の唇をなぞる

恵  「なに……」
春  「もっと啼かせたくなる」

キスをする

恵  「馬鹿! シャワー浴びてくる! どこ?! 風呂!」

恵、春から逃れて立ち上がる

春  「あはははっ! ちゃんと僕が洗ってあげるよ。おいで」

春、恵を抱き上げる

恵  「うわ! どこにそんな力あるの?!」
春  「ごめん、お風呂までに力尽きるかも……」
恵  「あんたホントに馬鹿だな」

二人、笑う

***
・家(寝室)

鳥の鳴き声が聞こえる
ベッドで三人が寝ている

千尋 「んー……ん……あ……」

千尋、目を覚まして恵を見る
恵、目を覚ます

恵  「ん……?」
千尋 「よかったぁ……恵ちゃん僕が寝てる間に帰っちゃうかと思って心配してたんだ」
恵  「ん……あー、うん……まだいるよ」
千尋 「パパとうまくいったの?」
恵  「え?!」

春、目を覚ます

春  「ん……なにー? どうしたの……?」
恵  「え? あ、いや……」
千尋 「あれー? 違うの?」
春  「何が違うのー?」
千尋 「パパ、恵ちゃんに好きって言ってないの?」
春  「言ったよー? ねぇ、恵ちゃん」
恵  「え?! 言った……?」
春  「言ったよー、昨日入れる前─」
恵  「あー! 言った! 言ったな! 言った言った!」
千尋 「?」
恵  「言ったよ、ははは……」
千尋 「恵ちゃんはパパのこと好きじゃないの?」
恵  「え……あの……」

恵、春を見る
春、笑う

恵M 「親子そろって同じような顔して笑いやがって……」

恵  「好きだよ……うん」
千尋 「そっかぁ! じゃあ恵ちゃんずっとここにいる?」
恵  「ぁ……」

言葉に詰まる恵を見て、一瞬悲しげに微笑む春

春  「……。ちー、朝ごはん食べよう。顔洗ってきて」
千尋 「? はーい」

千尋、ベッドから出て洗面所へ向かう

恵  「……」
春  「恵ちゃん、好きなだけここに居ていいから」

春、キスをしてベッドから出る

恵  「……あぁ……」

恵M 「春が言いたいことは何となくわかった。好きなだけ居てもいいってことは、いつ出て行ってもいいってことだろ?」

***
・L'ULTIMO BACIO

春、店で老婆と話をしている

恵M 「春は日ごろ店を適当な時間に開けては、ちーと遊んだり、ハーモニカを教えたりしていた。時々来る客とも言えない客と、なんでもない話をする。ただ本当に暇つぶしのような生活に見えた。でもそれが俺にはとても羨ましく思える」

***
・庭

千尋、ハーモニカでかえるの歌を吹いている
となりに座っている春

恵M 「キスをする時、触れる時、朝目が覚めた時、夜眠る前。春は何度も愛してると言う。その心地よさと気恥ずかしさが俺をここに留めさせる。確かに春のことは好きだ。でもいつかはここを出て行かなきゃいけない気がする……」

春、遠くの空を見ている

恵M 「春はもう届かない何かをずっと見ているから」

***
・工房

眼鏡をかけて作業台に向かっている春
恵、工房に入ってくる

春  「ちー寝たー?」
恵  「うん。何作ってんの?」
春  「ペンダントー。ここに写真が入るの」

春、恵に作りかけのペンダントを見せる

恵  「うわ、すげぇ……この模様春が彫ってんの?」
春  「そうだよー。目がチカチカしてきた」

春、笑う

恵  「あんま無理すんなよな」
春  「うん。もうすぐ終わるよー」
恵  「……」

春、少し微笑んで恵の手を取る

春  「恵ちゃんもう眠い?」
恵  「え? いや」
春  「だったらこれ、終わるまでここにいて?」
恵  「……うん……」

春、微笑む
恵、悔しそうな顔をして椅子に座る
春、作業を続ける

恵  「なぁ、俺のこと好き?」

春、手を止める

春  「なにー、まだ足りないの?」
恵  「あ、肝心なとこでは言わないんだ」

春、表情だけで笑う

春  「仕方ないなぁ」

立ち上がってエプロンを脱ぎ、眼鏡を後頭部に回して
恵の顎を掴んで上を向かせる

春  「もうちょっと待てない?」

意地悪く笑いながらキスをする

恵  「ん……っ……春……」
春  「んー?」
恵  「ほんとに……俺のこと好き……?」
春  「……恵ちゃん?」

俯く恵
しゃがみこんで手を取る春

春  「どうしたのー?」
恵  「……別に……」
春  「何かあったの? 僕何か言った?」
恵  「だからなんでもないって! ただ聞きたかっただけ! 寝る! おやすみ!」

工房を出て行く

春  「……」

椅子に座り、眼鏡を取り
髪をかきあげ、悲しげに少し笑う

***
・家(リビング)

朝ごはんを食べている三人

春  「恵ちゃん、僕今日ちょっと出かけないといけないから、ちーと二人でお留守番しててくれる?」
恵  「あ、あぁ。いいけど……どこ行くの?」
春  「うん、ちょっとね。すぐ帰ってくるからー」

春、笑う

恵  「そっか……。わかった」
春  「ちー、おやつは鳩が出たら恵ちゃんと二人でクラウのところに行ってね。マフラー忘れないで」
千尋 「はーい」

***
・家(玄関)

春  「じゃあ行ってくるねー」
恵  「おう、気をつけて」
千尋 「いってらっしゃーい!」

三人、手を振る

恵M 「結局春がどこへ行ったのか分からなかった。ちーにさりげなく聞いたけど、ちーも分からないと言った」

***
・家(寝室)

眠っている千尋
恵、布団をかぶせて部屋を出る

***
・家(リビング)

恵M 「どれだけ春が愛してると言っても、あいつの周りには一枚の壁がある。それがどうしても崩せない。そこに入らせてくれない。触れる手はとても暖かいのに、どこか安心できない。それが悲しくて、悔しくて、どうしていいか分からなくなる。あんたが見ているものは何?それはもう届かないものなんだろう?」

恵、本棚からアルバムを見つけるとソファに座る
開いてみると、春と千尋が写っている
玄関の方から物音がする
恵、振り返ると春がいる

恵  「あ、おかえり……」
春  「ただいま。ちーはお昼寝中ー?」
恵  「うん。さっき寝たとこ」
春  「そっか。ありがとう。何見てるのー?」
恵  「アルバム、ごめん。勝手に出しちゃった」
春  「いいよー。懐かしい。あ、これちーが首据わったくらいのだね。可愛いー」

春、写真を見て懐かしそうに笑うと恵の隣に座る

春  「この泣いてるのねー、猫さんに逃げられちゃったーって泣いてたんだよー。ちー追いつけなかったのね。猫さんに」

恵M 「楽しそうに写真の説明をしてくれる春。それが続いていくうちにふと疑問に思う。一枚も母親の写真が無い……」

恵  「……」
春  「あ、これ二歳の誕生日だー。ピースできなくてね親指と人差し指しか立てれないの」
恵  「なぁ、春」
春  「んー? なぁに?」
恵  「その……さ、言いたくなかったらいいんだけど、ちーのお母さんの写真はないの?」
春  「……そうだね、無いね」
恵  「……」
春  「ちーが生まれてすぐに亡くなったから。僕は一枚も持っていないんだー」

春、何ともなさそうに笑う

恵  「そっか……」
春  「……」

春、恵の頭をそっと肩に寄せる

春  「君は優しいね……」
恵  「……優しくなんか……ない……」
春  「ふふ……」

髪を指ですく

恵  「今でも……」
春  「ん?」
恵  「今でも好き……? 奥さんのこと……」

恵、俯いている

春  「……どうしてそんなこと聞くの?」
恵  「……」

春、ため息を漏らす

恵  「だって……あんた……いつもどこか遠くを見てる……」
春  「そんなこと無いよ」
恵  「あるよっ……! ……俺のこと……ちゃんと……見てよ……」
春  「恵ちゃん……」
恵  「俺じゃ駄目? ……代わりにはなれない? ……俺、あんたが好きだ……でも……あんたは違う……」

春、キスをする

恵  「キスなんかで、誤魔化すなよ……」
春  「……代わりになんか、ならないよ……」
恵  「っ……」
春  「君は君でしょう? 誰かの代わりになりたいだなんて悲しいこと、言っちゃ駄目だ」
恵  「でも! それでも! 俺はあんたの一番近くに行きたいんだ……それがたとえ誰かの代わりだとしても、それでもいい……」

恵、涙を零す

春  「……泣かないで……」

春、恵の顎を引いて涙を指で拭う

恵  「泣いてない……っ」

恵、顔を背ける
春、微笑む

春  「僕は君を愛しているよ、恵。誰かの代わりになんかならないほど。君が好きだ」
恵  「でも」
春  「君がそんなにも悲しい顔をするんなら、全部教えてあげる。でも約束して?」
恵  「え……?」
春  「僕を嫌いにならないって……」

春、悲しそうに微笑む

春M 「五年前……」

***
・春実家(リビング)(回想)

春M 「僕は二十歳でこっちに来てから、ずっと日本へは帰ってなかった。それが急に両親に呼び戻されてね、五年ぶりに帰ることになったんだ」

春、両親、向かい合ってソファに座っている

春  「お久しぶりです。父さん、母さん」
父親 「すまないな、急に呼び戻したりなんかして。どうだ? 向こうでの生活は。順調か?」
春  「えぇ。なんとかやっていけてますよ」
父親 「そうか」
春  「はい」
父親 「……」
春  「……あの、話っていうのは……?」
父親 「あぁ……あのな、お前に縁談があるんだ」
春  「縁談……?」
父親 「得意先のお孫さんでね……」

父親、写真を出す

父親 「お前を随分気に入ってくれているそうだ」
春  「……」
父親 「無理にとは言いたくないんだが……それがどうしても断れなくてね」
春  「そうですか……」
父親 「会うだけでも会ってみてくれないか……」

春M 「父は申し訳なさそうに頭を下げた。きっと断れば立場が危うくなるかもしれないんだと何となく分かった。でも僕には問題があった」

春  「……」

春M 「僕は女性を愛せない……」

***
・料亭(庭)

春M 「その相手は美紀《みき》という人で、とても可憐な人だった」

春と美紀、庭を歩いている

美紀 「ごめんなさい。祖父が無理を言ってしまったみたいで……」
春  「いえ、そんなことありませんよ」
美紀 「でも良かった。私まさか会ってもらえると思ってなかったんです。永久《ながひさ》さん、とても綺麗な方だから。もうお相手がいるんだと……」
春  「残念ながら、一人です。ははは」
美紀 「ふふふ。話してみてもやっぱり素敵な方でした。あのよろしければ、また会っていただけませんか?」
春  「……」
美紀 「……」

春を見て不安そうにする美紀

春  「もちろんですよ。僕なんかでよければ……」

美紀、嬉しそうに笑う

春M 「あの時、本当のことを言っていれば……誰も不幸になんかならずに済んだのかもしれない」

***
・街

春M 「その後、何度も二人で会うことになった。その報告を聞いて父も喜んでいた。その笑顔を崩すことなんか、到底僕には出来そうになかった。それでも、僕は彼女にキスさえも出来なかったんだ」

美紀の家まで車で送ってきた春

美紀 「あの、よろしければコーヒーでも飲んでいかれませんか?」
春  「……もう遅いですし、女性一人のお家には上がれませんよ」
美紀 「……」
春  「楽しかったです。また今度」
美紀 「……はい……」
春  「おやすみなさい」
美紀 「おやすみなさい……」

春、車のドアを開ける

美紀 「あの!」
春  「はい? どうされました?」
美紀 「あ……いえ……なんでもないです……気をつけて……」
春  「……」

春、少し笑って車に乗り込む

春M 「酷いことをしているとは分かっていた。彼女の気持ちは痛いほど伝わってきていた。それでも僕は、彼女を愛することは出来なかったんだ。このまま僕に興味がなくなればいい……そう思っていた……」

***
・実家前

玄関前に誰かが居る

春  「あの……」
美紀 「永久さん!」
春  「美紀……さん? どうされたんですか、こんなところで……」
美紀 「どこへ行っていたんですか? 誰と会っていたんですか?」
春  「いえ、少し出かけていただけですよ。そんなことより、寒かったでしょう。どうして中に」
美紀 「女性ですか? 他に好きな人がいるの? どんな人?」
春  「美紀さん……?」
美紀 「どうしたら私はその女に勝てますか? その人の何がいいの? ねぇ、教えてください……」

春M 「彼女の中の、何かが切れた……。このままだと、きっとこの人は壊れてしまう。僕なんかが壊していい人なんかじゃない……。やっぱり僕は戻ってくるべきじゃなかったんだ。だけどそう思った時にはもう遅かった……」

***
・実家(リビング)

ソファに向かい合って座っている春と父

春  「父さん、僕、イタリアへ戻ろうと思います」
父親 「……そうか……」
春  「やり残してきたことが沢山あるんです。それに、僕にはまだ結婚は考えられません。ごめんなさい……」
父親 「お前が謝ることじゃないよ。無理を言って悪かったね。何も気にせず、戻って頑張りなさい」
春  「はい……」

春M 「父さんは悲しそうに笑って言った。だけど僕にはこのことに耐えられる器量なんか無かった。ただ現実から逃げ出すことしか出来なかったんだ」

***
・喫茶店

向かい合って座っている春と美紀

美紀 「そんな……」
春  「ごめんなさい。僕はまだイタリアでやりたいことがあるんです。それに、僕なんかより、幸せにしてくれる男性があなたにはいますよ」
美紀 「……」

春M 「これで終わったと思っていた。イタリアに戻ってまたあの日常に戻れると思っていた」

***
・実家(寝室)

電話が鳴ると春が出る

春  「もしもし」
美紀 「永久さん……」
春  「美紀さん? どうされましたか?」
美紀 「私……もう……生きていく自信がなくなりました……」
春  「え?」
美紀 「あなた無しでは……生きていても意味がありません……」
春  「何を言って」
美紀 「あなたがイタリアに行くのなら、私は死にます……」
春  「そんな!」
美紀 「あなたに一度でいいから愛されたかった……」
春  「美紀さん!」

電話が切れる

***
・美紀宅

ドアを叩く春

春  「美紀さん! 居るんでしょう?!」
春  「美紀さん!」

ドアを開けてみると開く

春  「美紀さん!」

部屋の中へ入る
部屋の真ん中でうな垂れている美紀
駆け寄る

春  「美紀さん! 大丈夫ですか?!」
美紀 「なが……ひささん……やっと……部屋に……来てくれた……」
春  「……」

春M 「もう美紀さんは以前の様な姿じゃなかった……もう、完全に、壊れてしまっていた……」

美紀 「こんなこと……して……も、もっと……嫌われるって……分かってるんです……」

美紀、半分笑っている

美紀 「でも……どうすればいいのか……もう……分からないんです……」
春  「……っ……」
美紀 「どうしても……行ってしまうんですか……」
春  「……」
美紀 「はは……ははは……」

美紀、笑いながら泣いている

春  「美紀……さん……」
美紀 「ながひさ……さん……最後に……お願い……聞いてください……」
春  「え……?」
美紀 「抱いて……ください……」
春  「……!」
美紀 「それでもう……いいから……お願い、します……ながひささん……」

春M 「虚ろな目で懇願する美紀さんを前にして、もう何が正しいだとか、何が間違っているだとか、僕自身も分からなくなっていた。ただ逃げ出したかった。こんなこと、もう耐えられなかった。自分のせいで目の前に居る人が、壊れてしまったのが、怖くてしかたなかった。ただ無心で彼女を抱いたのを微かに覚えている。彼女は僕の腕の中で、幸せそうに、泣いていた……」

***
・イタリアのアパート(会話全イタリア語)

春M 「その後逃げるようにイタリアへ戻った。何もかもから逃げたくて、日本に帰る前にやっていた仕事も辞めた。それでも何かをしていないと、記憶がどんどん押し寄せてくる。あの時の彼女の泣き顔が、僕を責める。それが怖くて、怖くて、僕は物を作り続けた。眠れないほどに、ずっと作り続けた。そんな時だった」

友人 「春、お前これコンテストに出さないか?」
春  「え……?」
友人 「今度あるんだけどさ、これ、いい線行くと思うんだよね」

春M 「何気なく、友人に勧められてコンテストに出した。別に賞を期待してるわけでもなかったし、ただ暇つぶしに出した程度だった。それが最優秀賞を取った。嬉しかったけど、騒がれるのが怖くて、名前は伏せてもらった。それでも当分生きていける程のお金を貰った。そのお金で僕はここに逃げてきた」

***
・L'ULTIMO BACIO

春M 「ここに来てからは、今と同じ、たまにくるお客さんとなんとも無い会話をして過ごす。その日常が僕を徐々に元に戻していってくれた。そして一年経ったある日」

卓真《たくま》が店に入ってくる

春  「こんにちは」(イタリア語)
卓真 「あの……永久、春さんですか……?」
春  「はい……そうですが……」
卓真 「私、大倉《おおくら》卓真と申します。美紀の…大倉美紀の兄です」
春  「っ……」

春M 「突然現れた男性は美紀さんの兄だと名乗った。驚いた。それと同時に怖くなった。逃げてきたのに、また……」

卓真 「突然すみません」
春  「い、いえ……あの、美紀さんが……どうかされましたか……?」
卓真 「……」

俯く卓真

春  「……?」
卓真 「美紀は先日……亡くなりました……」
春  「ぇ……?」
卓真 「あなたにお伝えしたいことがあって伺わせていただきました」
春  「……」
卓真 「美紀には子供がいるんです。生まれたばかりの……あなたの子です」
春  「……そんな……」

驚きを隠せない春

卓真 「美紀はあなたには隠して育てるつもりだったみたいです。しかし、出産後に、事故で……」
春  「え……」
卓真 「私はあなたを責めに来たわけではありません。それはどうか分かってください。美紀があなたに迷惑をかけたことも全部知っています。どうしてあの子が出来たのかも。それでも、美紀が逝ってしまった今、あの子と血が繋がっているのはあなたしかいない。知らせなくても良かったのかもしれません……。でも、それではあの子があまりにも可哀想だと。育てろだなんて言いません、ただあなたに知っておいて欲しかった」
春  「……」
卓真 「あの子は私が責任を持って育てます。ただそれが言いたかっただけです」
春  「……」
卓真 「失礼します……」

卓真、店を出て行く

春M 「去っていく後姿を見ながら、僕は呆然と立ち尽くしていた。美紀さんは死に、そして僕の子供がいる……。どう考えても頭が整理してくれない……。どうすればいい。僕は何をすればいい。また現実から目を背けて、逃げながら生きていけばいいのか?」

卓真 『美紀が逝ってしまった今、あの子と血が繋がっているのはあなたしかいない』
    
春M 「僕は誰に償いをしたかったんだろう……。今になっても分かっていないよ。ただ、子供を、僕の子供を、幸せにできたら、許してもらえると、思ったんだ……」

***
・家(リビング)  
    
春  「そして僕はちーと一緒に暮らすことになった。日本に戻って会ってみるとびっくりしたよ。確かに僕の子だって確信した。僕にそっくりだったから」

春、悲しげに笑う

春  「僕は後悔ばかりしていたんだ……。でもちーと出会えたことに後悔はない。こんなに楽しく生きていけるんだから……」

春、恵の頭を撫でる

春  「泣かないでよ……お願いだから……そんな顔させるために話したんじゃないよ……」

泣いている恵

恵  「っ……ぅ……春……っ……」
春  「なに?」
恵  「ごめん……っ……俺……なんにも……わかってなかった……っ……ぅぅ……」
春  「分からなくて当たり前だよ。言わなかったんだから……ね? 泣かないで……」
恵  「俺……勝手に……ヤキモチなんか……焼いてて……あんたが、そんなだって……」
春  「うん……」
恵  「俺……っ……ずっと傍にいて……あんたのこと……俺が幸せに……してやるから……っ……だから……」
春  「うん」
恵  「ずっと……傍にいさせてよ……」
春  「うん」

春、恵を抱きしめる

春  「こんな僕でいいの? 嫌いにならない?」
恵  「なるわけねぇだろ……! ……っぅ……」
春  「僕、もう離せなくなるよ……ごめんね……」
恵  「うん……」
春  「ごめんね……」

春、恵の涙を拭ってキスをする

恵  「っん……春っ……」
春  「……ん……っぅ……」
恵  「春……っ……んん……愛してる……」
春  「うん……っ……ん……愛してるよ……っ……」

***
・家(寝室)

鳥の鳴き声がする
三人並んでベッドで眠っている
恵、目を覚ます

恵  「ん……ぅ……」

左手に違和感がする

恵  「あ……」

中指にあった指輪のサイズが直されて
薬指にはめられている

恵M 「いつの間に……」

隣で眠っている春の顔を見て微笑む
そっとキスをする
春、目を開ける

春  「ぴったりでしょー?」
恵  「起きてたのかよ……!」
春  「ふふっ」
恵  「あんた昨日散々ヤったのに良くこんなの出来たね……」
春  「愛があるからね」

春、恵を抱き寄せる

恵  「このっ……!」

恵、顔を背ける

春  「愛してるよ」
恵  「……っく……あぁ、俺もだよ」
春  「ふふふっ」

キスをする
二人笑いあう

千尋 「恵ちゃん僕にはー?」
恵  「うわっ! ちーも起きてたの……?」
千尋 「うんー。まだ眠い……」
恵  「じゃあまだ早いからもう一眠りするか」

恵、千尋にキスをする

千尋 「ふふっ。おやすみなさい」
恵  「おやすみ」

三人、笑いあう

***
・家(リビング)

三人でケーキを囲んでいる
恵の誕生日

恵M 「俺がここで暮らすようになってからもうすぐ一年になる」

***
・家(庭)

雪を投げ合っている千尋と恵
部屋の中でそれを見て笑う春

恵M 「毎日が楽しくて、幸せで、今までこんなに満たされた気持ちになったことなんかなかった」

***
・海岸

防波堤の上をハーモニカを吹きながら歩く千尋
その後ろを二人も歩く
三人、笑っている

恵M 「ずっとこのまま三人で、この家で、笑って暮らせるんだと思ってた……」

***
・家(リビング)

キッチンで朝ごはんを作っている恵
千尋が降りてくる

千尋 「恵ちゃーん、パパが起きないよー」
恵  「えー? 珍しいね。ちょっと待って、これ焼いたら行くから。ちー顔洗ったー?」
千尋 「今から!」
恵  「ん。ほら、出来た! 寝ぼすけ起こしに行くかー」
千尋 「ふふふっ」

テーブルの上にお皿を置く
エプロンを椅子にかけて階段を上がる

***
・家(寝室)

布団の中にいる春
ベッドの脇に座る恵

恵  「おーい、寝ぼすけさん。もう朝ごはんできたよー?」
春  「……ん……」

春、目を開ける

恵  「おい、大丈夫かよ。顔真っ青だぞ? 風邪でもひいた?」

恵、春の額を触る

恵  「熱はないね、っつか冷たいよ? 大丈夫?」

春、起き上がる

春  「うん。大丈夫」

春、無理に笑う

恵  「そんな顔してて何が大丈夫だよ。寝てろ寝てろ、飯持ってきてやるから」
春  「本当に大丈夫だよ。薬飲んだら治るから。ご飯食べよう」

春、笑いながらベッドから出る

恵  「春……」

***
・家(リビング)

朝食をとる三人

恵  「薬飲んでるってことはよくあることなの?」
春  「んー、たまにね」
恵  「貧血とかそんなの?」
春  「うん。そんなの。恵ちゃん、ホントに大丈夫だからー。心配しないで?」

春、笑う

恵  「ばーか。心配するっつーの」

恵、膨れる

千尋 「恵ちゃんがキスしたら治るんだよねー?」
恵  「えー? なにそれ?」
千尋 「昨日パパが読んでくれた絵本に書いてあったよー? キスしたら全部治っちゃうのー」
春  「はははっ、そうだねー。恵ちゃんキスしてー?」
恵  「そんなんで治ってたらもうとっくに大丈夫だろ! さっさと食って薬飲め!」
千尋 「えー? 違うのー? じゃあ僕がしてあげるね」

千尋、春の傍に行ってキスをする

千尋 「治ったー?」
春  「わぁ! 凄く元気になったー!」
千尋 「あはははっ! やったー!」

三人笑う

***
・家(庭)

春、庭のベンチに座って海の方を見ている
二階から降りてくる恵
ハーモニカでLeaving on A Jet Planeを吹いている

恵  「……」

恵M 「夕日に照らされ、逆光で表情が見えない。それでも春は綺麗だった。それに加えて今日はなんだか悲しそう……」

恵M 泣いてる……?」

恵、春を後ろから抱きしめる

春  「恵ちゃん……。どうしたのー?」
恵  「今、泣いてた?」
春  「えー? 泣いてないよ。そんな風に見えたー?」

春、笑う

恵  「うん……」
春  「泣いてないよ」

春、後ろを向いてキスをする

恵  「So kiss me and smile for me
   Tell me that you'll wait for me 
   Hold me like you'll never let me go. 」

   (だからボクにキスをして,
   微笑んで待っていてくれると言って放さないというほど強く抱いて)

恵、少し笑いながら歌う
春、微笑んでキスをする

恵  「ふふふっ」
春  「なーにー?」
恵  「ううん。春、この歌好きだね。よく吹いてる」

恵、楽しそうに笑う

春  「そう?」
恵  「うん。俺好きだよ。でもこの歌悲しい歌だよな」
春  「……そうだね。じゃあ、これはー?」

春、Downtownを吹く

恵  「When you're alone and life is making you lonely
    you can always go Downtown
    When you've got worries, all the noise and the hurry
    seems to help I know, Downtown」

   (ひとりで生きるのに疲れたとき
    ダウンタウンへ行ってみないか
    喧噪と忙しさの中で心配事を抱えているとき
    ダウンタウンはそんなとき助けになるはずだから
    君はダウンタウンにきっと来てくれる)

恵、歌う
春、笑う

恵  「これも好きー」
春  「恵ちゃんは歌が上手いねー」
恵  「そう? ありがとう」
春  「ふふっ。おいで」

春、恵の手を取って前に回らせると恵を足の間に座らせる
キスをする

春  「恵ちゃん」
恵  「ん?」
春  「ちーのこと好き?」
恵  「好きだよもちろん。何、急に」
春  「ちーのお父さんになってくれるー?」
恵  「はははっ、じゃあちーにはお父さんが二人いることになるなっ!」
春  「ふふっ、うん」

春、恵を抱きしめる

恵  「? ……春?」
春  「恵ちゃん。愛してるよ。離したくない」
恵  「うん」
春  「ごめんね……」
恵  「なんで謝んの」
春  「……」

恵M 「春はしばらくの間黙ったまま俺を抱きしめて放さなかった。やっぱりあの時、春は泣いていたんじゃないかと思う。だけどどうして悲しいのか、どうして謝ったりするのか。このときの俺にはまったく想像もつかなかった」

***
・家(寝室)

千尋と手を繋いで眠っている恵
一階から声が微かに聞こえてくる

春  「……大丈夫です……でもできるだけ……はい……わかってます……」
恵  「……ん……」

恵、目を覚ます

恵M 「春……? ……電話……?」

恵、起き上がる

春  「でも、もうすぐちーの誕生日なんです……それまでは……」

ベッドを降りて部屋を出る
春、階段下で電話をしている

春  「はい。ではよろしくお願いします」

電話を切ると恵に気づく

春  「あ、起こしちゃった?」
恵  「ううん、勝手に目が覚めた。誰と話してたの?」

春、階段を上がってくる

春  「ちょっとね。疲れちゃった、もう寝るよ」
恵  「……うん……」
恵M 「何か……隠してる……」

二人、ベッドに入る
春、恵を抱き寄せて目を閉じる
恵、春の顔を見ている

恵M 「誰と電話してたんだよ……俺に言えないことなの……?」

恵  「……」

***
・家(リビング)

食事をしている三人

春  「恵ちゃん、僕今日出かけるから留守番お願いね」
恵  「あ、うん……」
春  「お昼過ぎには戻るからー」
恵  「……どこ行くの……?」
春  「うん、ちょっとした用事」
恵  「……」
恵M 「またなんか隠してる……昨日の電話……?」

***
・家(リビング)

恵  「ちー!」

恵、上着を羽織ながらソファに座って絵本を読んでいる千尋に言う

千尋 「なーにー? どうしたの?」
恵  「マフラーは? ちょっと出かけるぞ!」
千尋 「え? でもまだ鳩さんは出てないよ? おやつはまだだよー?」
恵  「おやつじゃないよ!」
千尋 「?」

***
・街

春の後をつけている二人
物陰に隠れながら歩く
コソコソ話す

千尋 「恵ちゃん、パパの後をどうしてつけてるの?」
恵  「なんかおかしいんだよ。あいつなんか隠してる!」
千尋 「えー?! パパ悪いことしてるの?!」
恵  「わっかんねぇけど、だってどこ行くかも知らないじゃん」
千尋 「そうだね! なんだか探偵さんみたいだね、僕達」
恵  「そうだ、だからバレちゃ駄目なんだぞ?」
千尋 「了解しました!」
恵  「よし! 行くぞ!」

***
・街

人通りが多い大通り

恵  「あれー? おかしいな」
千尋 「恵ちゃーん。見失っちゃったねぇ……」
恵  「さっきまでちゃんと居たはずなのに」
千尋 「ねぇ恵ちゃーん。僕お腹空いちゃった」
恵  「え? あぁ、じゃあなんか食うかー」
千尋 「うん!」

***
・カフェ

パイシチューを食べている二人

千尋 「パパどこいっちゃったんだろーねー?」
恵  「うんー。もう帰ってるかもなぁ」
千尋 「え? じゃあ僕達怒られちゃうね……」
恵  「だなー。でもちーは悪くないから俺だけ怒られるよ。ごめんな」
千尋 「えー? でも僕も気になるよー。だから僕も怒られるの。ね?」
恵  「お前いい奴だなぁ。じゃあ二人で怒られよっか」
千尋 「あははっ」

***
・街

店から出てくる二人

千尋 「恵ちゃん! あれ! パパだよ!」

千尋、反対車線の歩道を指差す

恵  「あ! ホントだ! ……でも……一緒にいるの……誰だ……?」

春、男と歩いている

千尋 「誰だろう……僕は知らない人だよ」

千尋、恵を見上げる

恵  「……」
千尋 「恵ちゃん……」

恵、千尋と繋いでいる手をぎゅっと握る

千尋 「恵ちゃん……」
恵  「帰ろうか」
千尋 「……」

二人、歩き出す

***
・家(リビング)

恵、ソファに座っている
春が帰ってくる

春  「ただいまー。あれ? ちーは?」
恵  「寝てる」
春  「え? まだお昼前なのに? 珍しいねー」
恵  「……」

春、コートを脱いでキッチンへ行く

春  「恵ちゃーん、ココアいる?」
恵  「いらない」
春  「そう」

春、ココアを入れてキッチンから出てくる
恵、春と目を合わせようとしない

春  「恵ちゃん? どうしたの?」
恵  「別に」
春  「恵ちゃんがそう言う時は何かあるときでしょー? どうしたの?」

春、恵の隣に座る

春  「?」
恵  「……」
春  「恵ちゃん」
恵  「どこ行ってたの?」
春  「……うん。ちょっと用事があって」
恵  「用事ってなに?」
春  「……」
恵  「言えないようなことなの?! 誰と会ってたんだよ! あの男誰?!」
春  「え……」

俯く恵

恵  「街で、知らない男と歩いてたの見た。あれ誰? 昨日の電話の奴? 俺に言えないような関係なの?」
春  「見てたの……」

テーブルにカップを置く春

恵  「だって……あんたが隠すから……」
春  「そっか、ごめんね。やな思いさせちゃったんだね……」
恵  「……」
春  「あの人はそんな人じゃないよ。恵ちゃんが思っているようなことは絶対にない。僕が愛してるのは君だけだよ」
恵  「じゃあ」
春  「あの人は─」

インターホンが鳴る

恵  「……」
春  「……」
恵  「出ろよ……」
春  「……」

春、立ち上がって玄関に行く

恵  「っ……」

恵、拳を握る

春  「恵ちゃん!」

春が戻ってくる

恵  「何……」
春  「お兄さんが……」
恵  「え?」

***
・家(リビング)

ソファに向かい合って座る恵と恵の兄
春、キッチンでお茶を入れ、テーブルに置く

春  「僕、工房にいるから」
恵  「あぁ、ごめんな……」
春  「いいよ。ごゆっくり」

春、兄に頭を下げる

兄  「すみません……」

春、工房へ

恵  「なに、急にこんなとこまで」
兄  「あの人は、恋人か……?」
恵  「……。あぁ、そうだよ」
兄  「そうか……」
恵  「そんなこと聞くために来たんじゃねぇんだろ? なんだよ、さっさと言ってくれ」
兄  「お前、日本に帰るつもりはないのか」

恵、ため息をつく

恵  「あぁ、無いよ」
兄  「……」
恵  「なんだよ。別に俺が戻らなくたって誰も困らねぇだろ。逆に皆喜んでるんじゃねぇの? 元々厄介払いしたがってたじゃん」
兄  「そんなことはない! お前は何か誤解している!」
恵  「誤解? 今更そんなこと言われて、じゃあ帰りますだなんてなるわけねぇだろ。兄貴だって俺がゲイだって分かって気持ち悪ぃと思ってんだろ?」
兄  「正直、戸惑ってはいるが、気持ち悪いだとかそんなことは思ってはいない。人それぞ─」
恵  「あぁ! もう! 分かったよ! そんなことどうでもいいんだ! 俺は帰るつもりはない! 今の暮らしが気に入ってんだ! それでいいだろ。もう帰ってくれ。わざわざこんなとこまで来て話すことじゃない」
兄  「……」

恵、額を押さえて俯く

兄  「父さんが……倒れたんだ……」
恵  「え……?」
兄  「今入院してる」
恵  「……なんで」
兄  「脳梗塞だ」
恵  「……」
兄  「今のところ命に別状はない。しかし後遺症で意識が朦朧としている」
恵  「……」
兄  「父さんはお前とのことで凄く後悔しているみたいだ」
恵  「え?」
兄  「うわごとのようにお前の名前を呼んで謝ってる……」
恵  「……っ……」
兄  「会いに戻ってきてくれないか。少しの間でいい。父さんの謝罪を聞いてやってくれ……」

兄、頭を下げる

恵  「兄貴……」
兄  「頼む」
恵  「……少し時間をくれないか……」
兄  「あぁ、もう少しの間こっちに居るから、連絡してくれ」
恵  「分かった……」

***
・工房

眼鏡をかけて作業台に向い何かを作っている春
恵が入ってくる

春  「お兄さんは?」
恵  「帰った……」

春、椅子を差し出す
恵、座る

恵  「……親父が倒れたって……」
春  「え?」
恵  「脳梗塞だって。会いに帰って来いって……」
春  「そっか……」
恵  「……」
春  「帰ってあげなよ」
恵  「っ……」
春  「でも……戻ってきて欲しい。ここに」
恵  「え……」
春  「僕はここで、君が帰ってくるのを待ってるから……」
恵  「……でも……」
春  「ここはもう君の家だよ?」

春、微笑む
恵、春を抱きしめる

恵  「絶対帰ってくる。すぐ帰ってくる」
春  「恵ちゃん、僕は君に話さなきゃいけないことがある」
恵  「え?」
春  「帰ってきたら、全部話すから。だから、絶対戻って来てね。待ってるから」
恵  「うん」

キスをする

***
・工房

キスをしている二人
しながら春、恵のデニムに手をかける

恵  「んぅ……ここでするの……?」
春  「駄目……?」

春、恵に触る

恵  「あんたがいいなら……ぁっ……いい、けどっ……ぅ」

片足だけ脱がせる

春  「そこに座って」

作業台を指差す

恵  「え……? ここ?」

恵、作業台に上がる
それと同時に足を開かせて咥える

恵  「あぁっ……ちょっとっ……! ……ッ……いきなりっ……」

春、無言で続ける

恵  「は、るっ! あ! ……なん、かっ……いつもとっ違う……ッッ」
恵  「そんなに……ぃっ……あ、あ、あ、っ……もうっ……や……っ」
恵  「春っ、はるっ……お願いっ……あ、ぁっ……いれ……てっ……あっ……!」

春、微かに表情だけで笑いながらキスをする

恵  「んっ……ん……ぅ……はぁっ……ぁぁっ……」

しながら恵を作業台から降ろし
後ろを向かせ作業台に突っ伏させる
左足を膝で椅子に付かせ
前を触りながら後ろを舐める

恵  「ちょっ……あぁっ……そんなっ……とこ、な……んぁぁぁっ」
春  「んー? ……入れて欲しいんでしょ……? ……ん」
恵  「でも……んっ……ぁう……はぁっ……あ……」

指を入れる

恵  「はぁぁっ! ……んぅ……ぁっ……あ、あ、あ、あっ」
恵  「はるっ……もう、いいからっ、いれて……っ……あぁ!」

春、後ろを向かせてキスをする

恵  「んぁっ……ン……んぅ……ん!」

入れる

春  「はぁっ……っ……」
恵  「はぁっ! ……ぁん……あ、や、ッッ……はるっ……!」
春  「恵……っ……ほんとは……少しでも、離れたくなんか……ないんだよっ……」
恵  「ぇ……? ……あ……んっ!」
春  「いっそのこと……っ……ずっと君の中に……んっ……入っていたい……っ」
恵  「っ! ……ぁっ! あ、そんなっ……はん…そ、く! ……あぁぁあ」
春  「愛してるよ……っ恵……っ」
恵  「あ、あ、あ、あ、あっ! そんなっ……やっめ、もう、いくっ……あっ! でるっ……!」
春  「っ……」

***
・病院(日本)

鳥の鳴き声がする
病室の前に立っている恵と兄
兄がドアを開ける
ベッドの上で寝ている父
脇に居る母

母  「恵……帰ってきてくれたの……」
恵  「……」
母  「……。あなた、恵が来てくれましたよ」

父、目を開ける
恵、ベッドの傍へ

父  「恵……帰ってきたのか……」
恵  「……」
兄  「恵……」
父  「いいんだ……俺が悪かった。すまない。許してくれ……恵」
恵  「……っ……別に……謝ってもらわなくてもいい……」
父  「……元気でよかったよ……今イタリアにいるんだって?」
恵  「あぁ」
父  「いつ帰ってくるんだ……?」
恵  「ごめん、親父。俺すぐにイタリアへ帰らなきゃいけないんだ」
父  「え? 恵……」
恵  「向こうに大切な人がいるんだ。その人と一緒に暮らしてる。絶対帰るって約束したから」
父  「そんな……」
恵  「正直、家を出たのは逃げたみたいなもんだった。でも今は、今までみたいなフラフラした気持ちなんかじゃない。向こうでちゃんと暮らしていこうと思ってる。それほど大切な人なんだ……分かって欲しい」
父  「……」
恵  「……」
父  「そうか……分かった……。寂しくなるな……」
恵  「え?」
父  「俺はお前が思っていたように、お前を思ったことは一度もない。恵は俺の大切な息子だからな。体に気をつけて大切な人と幸せに生きていくんだぞ」
恵  「親父……」
父  「俺のことは心配しなくていい。早く戻ってあげなさい。わざわざ呼び戻したりなんかして悪かったな」

父、笑っている
恵、涙を零す

恵  「親父……ごめん、ごめんな……俺……迷惑ばっかりかけて……」
父  「いいんだよ。今度戻ってくるときは、その人も連れて来い。な?」
恵  「うん……わかった……ありがとう……」

***
・空港

兄が送りにきている

兄  「じゃあな、気をつけて」
恵  「あぁ、たまには連絡するからさ。哲平にもよろしく言っといて」
兄  「あぁ。元気でな」
恵  「ふふっ。じゃあな!」

手を振る

***
・家

走って帰ってくる恵

恵  「ただいまー!」

誰もいない

恵  「あれー? 春ー? いないのー? ちー?」

リビングや、店や工房を見るがいない

恵M 「なーんだよ、すぐ帰って来いとか言ってたくせに……どこ行ってんだ?」

電話が鳴る

恵M 「お、春かな……」

電話のところに行って出る

(全イタリア語)

恵  「もしもし」
医者 『君は……春と一緒に暮らしているという日本人かな……?』

恵M 「誰だ……?」

恵  「あぁ、そうだけど……」
医者 『丁度良かった。君に頼みたいことがあったんだ。今すぐに春を説得して欲しい』
恵  「説得? どういうことだ? それより、あんたは誰なんだ」
医者 『春の主治医だ。春の病気のことで』
恵  「主治医……? 病気って……?」
医者 『君は……何も知らないのか?!』
恵  「あ、あぁ……。春が病気って……あの貧血のことか?」
医者 『貧血? そんな軽いものじゃない! このままだと春は死んでしまうんだぞ!』
恵  「え……? 死ぬって……」
医者 『あぁ! 彼は君にまで黙っていたのか! やはり家にまで行くべきだった!』
恵  「ちょっと待ってくれ! どういうことだ! 春が死ぬって!」
医者 『彼はもう随分前から病気に犯されていたんだ。すぐにでも入院して治療をすべきだったのに、彼は息子のために家を離れないと聞かなかった!』
恵  「そんな……」
医者 『それが最近になって入院をすると言い出したんだ。君が家にいるからと、君なら息子を任せられると。それなのに今週に入ってやっぱり無理だと言い出した! その理由を聞いても答えないんだよ! 君だったら分かるんじゃないのか? どうか彼を説得して今すぐにでも入院させてくれ!』

***
・家(リビング)

家の中を必死になって何かを探す恵

恵M 「理由……そんなものすぐに分かった。俺を日本に帰すためだ。あの日、俺が春を疑ったとき、春は俺にちゃんと打ち明けようとしたんじゃないのか? それなのに、兄貴が来て、俺を日本に帰さなきゃいけないと思ったんだ。あいつが病気だって分かったら、絶対に帰らなかっただろうからな!」

***
・家(寝室)

扉という扉を開けて何かを探す

恵M 「随分前から病気? ……どうしてあいつは俺に何も言わなかったんだ! どうしてすぐにでも入院しなかったんだ! あの街で見た男、電話の男も、全部、医者だったんだ。ずっとあいつは説得されてたんだ。時々出て行ったのも、きっと病院に行ってたんだ。それを俺……変な風に勘違いして……あいつを……」

引き出しを開けて中を探ると箱が出てくる
中を開けると薬が大量に出てくる

恵  「……」

恵M 「嘘だろ……。こんな薬……こんなに……隠して……」

恵、床に座り込む

恵  「くそっ……くそっ……」

泣きながら床を殴る

春  「恵……ちゃん……」

声のするほうを見る
寝室の戸口で春が立っている

恵  「春……なんで……なんで……今まで黙ってたんだよ!」

泣きながら叫ぶ

春  「……っ」

目をそらす春
恵、春の所へ行く

恵  「なぁ! どうして! 言ってくれなかったんだ!」
春  「言うつもりだったよ」
恵  「あの日、あんた俺にちーを任せるって言うつもりだったんじゃないのか? なぁ、どうして俺なんかのこと優先するんだよ! 俺のことなんかどうでもいいのに……」
春  「駄目だよ。恵ちゃんは日本に帰らなきゃいけないんだ。後悔したまま、ここにいちゃ駄目なんだよ。僕の様にはなって欲しくなかったから」
恵  「……そんな……」
春  「恵ちゃん。全部話すよ。帰ってきたら話すって言ったでしょ? 僕の話を聞いて欲しい」
恵  「……わかった……」
春  「でも、ちーには聞かれたくないから、クラウのところに預かってもらってくる。リビングで待ってて」
恵  「あぁ……」

***
・家(リビング)

ソファに座って話す二人

恵M 「春はゆっくり話し出した。三年前に病気が見つかったこと、長期入院しなければいけなかったこと。でもちーを一人にしたくなくて、ずっと断っていたこと」

春  「ほんとはね、恵ちゃんはすぐにここを出て行ってしまうって分かってたんだよ。僕もそれでいいと思ってた。きっとこのままずっと一緒に居れば君を悲しませることになるから。それなら何も無いうちに、さよならしていればよかったんだ。でもあの日、初めて恵ちゃんに触れた日、引き止めたのは僕の勝手だった。あのまま帰したくなかった。君を僕だけのものにしたくなった」
恵  「……」
春  「一緒にいるうちにどんどん言えなくなっていく。君が僕に答えてくれる度に胸が苦しくなる。君を悲しませたくない。すぐにでも離れるべきだった。でもそれが出来なかった」
恵  「っ……」
春  「恵ちゃん。どうか僕を許して欲しい。勝手な感情で君を縛り付けることを」

恵、涙を流す

春  「君を置いていなくなってしまうことを」

恵、春に抱きつく

恵  「嫌だっ……嫌だ……! 絶対許さない……! 何がいなくなるだ……っそんなのあるわけないだろ! いいか? あんたはこれから病院へ行って治療をする。その間俺はちーと二人であんたの帰りを待ってる。帰ってこないだなんて絶対に許さないからな! 俺は……ちゃんと帰ってきたぞ……。今度はあんたが約束を守るんだ」

春、恵の頭を撫でる

恵  「返事は?」
春  「そうだね。約束するよ」

春、静かに笑う

恵  「それに、あんたが縛り付けてるんじゃない……俺がここにいたいんだ……」
春  「うん」

春、キスをする
二人抱きしめあう

***
・家(リビング)

ソファに座っている恵

恵M 「翌日、春の入院が決まった。十一月七日。ちーの誕生日の翌日だった。ちーの誕生日だけは祝いたいという春の頼みだった」

春  「恵ちゃーんこれ見て。可愛いでしょー?」

春、ティアラを持ってくる

恵  「何それ! 春が作ったの?!」
春  「うん。ちーに絶対似合うと思うんだけど」

春、恵の頭にティアラを乗せる

恵  「俺は似合わないだろ」

恵、笑う

春  「ううん。すっごい似合う。可愛いよ」

春、キスをして抱きしめる

恵  「春ー?」
春  「ねぇ、恵ちゃん。僕と結婚して」
恵  「え……?」
春  「お願い。僕のものになって」
恵  「……」

恵、春の腕を解いて首に腕を回し、キスをする

恵  「いいよ。あんたのものになってあげる」

もう一度キスをして抱きしめる

春  「恵ちゃん。愛してる。ほんとに。大好き」
恵  「俺もだよ」

二人笑いあっているところに千尋がくる

千尋 「恵ちゃん僕のお父さんになるの?!」
恵  「うわぁ! ちーいつからいたの?!」
千尋 「パパが結婚してーっていうとこからー」

千尋、笑う

千尋 「恵ちゃん頭の可愛いー!」
恵  「あ! いや、これは!」

恵、ティアラを取って春に渡す

春  「はははっ、これはちーのだよ。ほら」

春、千尋の頭にティアラを乗せる

千尋 「え? ほんとに? わーい!」
恵  「うわ、やっぱお前似合うわ。超可愛いー!」
千尋 「でもね、でもね。これはお嫁さんがするものなんだよ? だから僕じゃなくて恵ちゃんのだよね? パパ」
春  「そうだね。じゃあ恵ちゃんにも作ってあげなきゃね」
恵  「い、いいよ俺は」

恵、照れる
三人、笑う

***
・家(リビング)

二人で誕生日会の飾り付けをしている
恵、壁に貼り付ける飾りを持って困っている

恵  「春ー、これどっちが上なの?」
春  「それ上も下も一緒ー。どっちでもいいよー」
恵  「なんだ。ややこしい……あ、テープ無くなった。取ってくる」

恵、上へ行こうとする

春  「恵ちゃん待って」
恵  「ん?」

恵、戻ってくる

春  「ここ、なんかついてるよー」

恵の頬っぺたを拭う春

恵  「えー? 何? ペンかなんか?」
春  「取れたー」

春、恵にキスをする

恵  「何、それしたかっただけ? ほんとについてたの?」

恵、笑う

春  「さぁ?」

春、笑う

恵  「なんだよそれ。俺テープ取りに行ってくるから」
春  「はーい」

恵M 「これがこの家でした、最後のキスだった」

***
・家(リビング)

恵、テープを取って戻ってくる

恵  「春ー、これでもう最後だ……よ……」

テープを落とす
春、床に倒れている
恵、駆け寄る

恵  「春! どうした? おい! 春!」

返事をしない

恵  「春! 春!」

千尋、階段を下りてくる

千尋 「恵ちゃん……?」
恵  「ちー! こっちきて! 春の手握ってて!」

千尋、春の手を握る

千尋 「恵ちゃん、パパどうしたの……?」
恵  「名前呼んで! 俺救急車呼んでくるから!」

恵、電話の方へ行く

千尋 「パパ……どうしたの……ねぇ、パパ……こんなとこで寝てちゃ駄目だよ……パパ……」

***
・病院(以下恵、春、千尋の会話以外イタリア語)

廊下の椅子に座っている恵
恵の膝の上で寝ている千尋
病室から医者が出てくる

恵  「あ……」
医者 「今はまだ眠っていますが、落ち着きましたよ」
恵  「……よかった……」
医者 「予定より二日早いですが、今日から入院していただきます」
恵  「はい……」
医者 「面会、できますよ。千尋くんは私がここで見てますから」

医者、優しく微笑む

***
・病室

酸素マスクをして眠っている春
ベッドの隣に座って手を取る

恵  「……春……」

恵M 「春の手は冷たかった。あの時触ったあの額の体温と同じだった。その手の感触が怖くて、俺は必死になって自分の手で温めようとした。痛いって怒ってくれればいい。笑って、どうしたの? って言って欲しい。いつものように、優しい顔して俺を慰めてくれ。こんなの付けてちゃ、キスだって出来ないじゃないか。なぁ、春。お願いだから目を覚まして、今すぐ俺に愛してるって言ってくれ。俺はすぐにでも答えてあげるから」

恵、手を握って泣く

***
・病室

千尋、椅子に座って大きな箱を抱えている

千尋 「パパー、これね、クラウが僕に作ってくれたの。すっごく大きいケーキなんだよ。チョコにね、ちー誕生日おめでとうって書いてあるの。一緒に食べようね」

春、眠っている

千尋 「このティアラもね、恵ちゃんがちゃんと付けてくれたよ? 似合うでしょ?」
恵  「……」
千尋 「ねぇ、パパ。僕ちゃんといい子で待ってるからね。お家に帰って、ハーモニカの練習しようね。約束だからね」

恵M 「このとき初めてちーが泣いてるのを見た。いつも笑ってたちーが、必死になって涙を堪えながら、明るく、春に話しかけていた。居た堪れなかった」

***
・病室

ベッドの横でハーモニカを吹く千尋

恵M 「一週間経っても春は目を覚まさない……」

***
・病室

夜の病室、恵手を握ったまま眠っている

春  「恵ちゃん……恵ちゃん……」

恵、目を覚ます
春、起き上がって笑っている

恵  「春……春! いつ目が覚めたんだ?! 俺、眠ってて……」
春  「恵ちゃん。僕ね、君の傍にずっといるよ」
恵  「え? うん。俺も……」
春  「だから心配しないで。君は一人じゃないから」
恵  「春……?」
春  「僕がいなくなっても、悲しい顔しないでね。もう、抱きしめてあげられないから」
恵  「え……? 春? なんだよ……どうしたんだよ……」
春  「君をずっと」
恵  「おい!」

***
・病室

恵  「春!」

恵、目を覚ます

恵  「ゆ、め……?……ぁ……」

恵、握っている手を見る
強く握られている
春の顔を見る

恵  「春……」

春、目を覚まして少し笑っている

恵  「春! また夢か? 夢じゃないよな?!」

春、微かに頷く

恵  「よかった! ちょっと待ってろ! 先生呼んでくるからな!」

行こうとするが、手を離さない

恵  「春……」

春、何かを言っている

恵  「何…?」

口に耳を近づける

春  「……ぃちゃ……ん」
恵  「恵ちゃん?」
春  「ぁ……た……かった……」
恵  「……会いた……かった……?」

春、頷く
恵、泣きながら抱きつく

恵  「俺もだよ。良く戻って来てくれた……っ……」

春、涙を零す

***
・病室

千尋、春と笑って話をしている

恵M 「翌日には春は起き上がれるようにまで回復した。今ではもうちーと笑って話もできる。十二月に入った」

春  「雪、すごい降ってるねー。寒かったでしょー?」
千尋 「うん! 恵ちゃんがね、おでこが割れるー! って言ってたー」
春  「はははっ! 割れちゃうほど寒かったのー?」
恵  「ホントだって! 風めちゃくちゃ冷たいんだから」
千尋 「そうだ! 見てー、これ恵ちゃんが買ってくれたのー」

ミトンの手袋を見せる千尋

春  「わぁー、いいねぇ。可愛いー。僕も欲しいなぁ」
千尋 「へへへぇ」
恵  「春にはひざ掛けあげたじゃん」
春  「えー、僕も手袋欲しいー」
恵  「分かった分かった」

呆れる恵

春  「やったぁー! 僕恵ちゃんとおそろいがいいなぁ」
千尋 「えー、僕も恵ちゃんとおそろいがいいー」
恵  「じゃあちーの大きい奴買えばいいんだろ? っつか俺がミトンするの? 絶対似合わないよ?」
春  「そんなことないよ! ねー?」
千尋 「ねー!」
恵  「あー、分かったよ。買いますよ」

三人、笑う

***
・病室

千尋 「じゃあね、パパ。また明日。おやすみなさい」

千尋、春とキスをする

恵  「おやすみ」

恵、春とキスをする
出て行こうとする

春  「……恵ちゃん……」
恵  「ん? どうかした?」
春  「……」
恵  「春?」
春  「寝室の、僕のタンスの一番上の引き出し。その中にプレゼントがあるの」
恵  「俺に?」
春  「そう。ちーにはね、僕のもの全部あげるから」
恵  「春……?」
春  「おやすみなさい」

春、恵に深いキスをする

春  「愛してるよ」

***
・病室

恵M 「その日の早朝。病院からの電話で目が覚めた。ちーと二人で病室に行くと、もう春の意識は無く、俺達が到着するまでの間、機械で心臓が動かされていた。静かに、機械の音だけが響く。手を取っても、やっぱり冷たいだけで、もう春は動かない」

恵、手を握って俯いている
ベッドに涙がいくつも落ちる

恵  「ぅっ……ぅう……」
千尋 「……っ……うっ……パパ……パパ……」

***
・家(寝室)

ベッドの横に棺が置かれている
泣きつかれて眠る千尋をベッドに寝かせる恵
静かにタンスの中を開いて、春からのプレゼントの
小さな箱を取り出す
静かに一階へ下りていく

***
・家(リビング)

ハーモニカの音が聞こえる
Leaving on A Jet Plane
雪の積もっていない庭に春がいる

(荷造りは終わって
 もう行くだけ
 ボクは君の部屋の外で立っている
 さよならを言うために君を起こすのは気がひける

 でも夜が白白と明けて
 早朝になった
 タクシーが待っている
 クラクションを鳴らして
 もう寂しくて寂しくて
 泣けてしまう
    
 だからボクにキスをして,微笑んで
 待っていてくれると言って
 放さないというほど強く抱いて
 ボクはジェット機で去って行く
 いつ帰るかもわからない
 ああ,本当に行きたくない)

恵、涙を流す
庭に春はいない
恵、床に座り込む
箱を開ける
シルバーの指輪が入っている
取り出す
内側にTi amo da impazzireと刻まれている
(Ti amo da impazzire=狂おしいほど愛してる)

 (さあ行かなくてはいけない時が来た
 もう一度キスをするから
 目をつぶっていて
 その間にボクはいなくなるから

 未来の日々を夢見るんだ
 君を一人にしておくことのないそんな日々を
 こんなこと言わないですむそんな日々を

 だからボクにキスをして,微笑んで
 待っていてくれると言って
 放さないというほど強く抱いて
 ボクはジェット機で去って行く
 いつ帰るかもわからない
 ああ,本当に行きたくない)

恵、指輪を左手薬指にはめる

恵  「……っ……ぅ……ありがとう……」

***
・家(リビング)

外はもう暗い
ソファにもたれながら、ずっと外を見ている恵
千尋、階段を下りてくる
恵、涙を流す

千尋 「……」

それを見て千尋、静かに走り出す

***
・街

雪の中を走っていく千尋
クラウの店が見えてくる
しかし店は閉まっている
ドアを叩く

千尋 「クラウ! クラウディオ! ねぇ! 開けて! お願い!」

ガラス戸に人影が写り、ドアが開く

クラウ「千尋じゃないか……お前……一人でどうしたんだ。恵は?」
千尋 「誕生日のケーキを作って! お願い!」
クラウ「誕生日? お前の誕生日はもう終わっただろう?」
千尋 「パパが帰ってきたの。だから……」
クラウ「……そうか。そうだな! よし、待ってろ! すぐ作ってやるからな!」
千尋 「うん!」

***
・家(リビング)

うな垂れている恵
門を開ける音が聞こえる

恵  「……?」

立ち上がって玄関に向かう

***
・玄関(外)

千尋が門を閉めてこちらを向く

恵  「ちー……。ちー! お前一人でどこ行ってたんだ?!」

駆け寄る
大きな箱を抱えている千尋

千尋 「恵ちゃん! パパおうちに帰ってきたよ、やっと三人になれたね。誕生日しよう! ね?」

千尋、笑っている

恵  「ケーキ買いに行ってたのか……?」
千尋 「うん」
恵  「一人で」
千尋 「うん……」
恵  「……そうだな。しよう誕生日会。三人で」

恵、泣きながら笑う
千尋、笑う

***
・家(寝室)

ケーキを囲んで笑っている二人
火を吹き消す千尋

恵M 「なぁ春。やっとできたな。ちーの誕生日。ずっと楽しみにしてたもんな。春からのプレゼントはお前のもの全部だろ? 俺そんなのに勝てないよ。ちゃっちー手袋。それだけだ。でもな、俺これからずーっとちーを大切に育てるから。だから、ずっと見守っててよ」

***
・墓地

永久春と書かれた墓石の前にいる二人

恵M 「俺、春に出会えてよかった。それだけは素直に言えるよ。たった一年しか一緒にいられなかったけど。あんたは俺のすべてだ。これからも、ずっと、ずっと」

***
・実家(日本)

正月で親戚が集まっている
恵、千尋を連れて帰ってくる
広間の入り口にいる哲平
後ろから声をかけられる

恵  「おい、哲平。こいつ俺の息子。仲良くしてやって」
哲平 「え?! 息子?! 女の子じゃないの?!」
恵  「違うよ。でも可愛いだろ~?」
哲平 「うん。びっくりしたー。名前は?」
千尋 「ちー」
哲平 「ちー?」
千尋 「千尋だよー」
哲平 「そっか。ちー、よろしくな。俺哲平って言うんだ」
千尋 「てっちゃん?」
哲平 「ん? あぁ、てっちゃん。あははっ」
千尋 「てっちゃん!」

哲平を見て笑っている千尋

恵  「お前ちょっとちーと公園でも行っててくれない?」
哲平 「うん。いいよ。ちー、遊ぼっか」

哲平、手を差し出す

千尋 「うん!」

二人、手を繋ぐ

千尋 「……」

千尋、繋いでいる手を見る

哲平 「どこいこっかー、公園でいいの?」
千尋 「てっちゃん」
哲平 「ん?」
千尋 「僕、てっちゃん好き!」
哲平 「あははっ、ありがとう」

哲平、千尋の頭を撫でる

***
・実家(広間)

一番奥にいる父親のところへ行く

恵  「親父、話したいことがある」
父  「恵、帰ってきたのか。元気そうでなによりだ。なんだ、話って」
恵  「皆に知っておいてもらおうと思って」
父  「ほう」
恵  「俺、結婚したんだ」
父  「結婚?」
恵  「あぁ、イタリアで一緒に住んでた人と。皆もう知ってると思うけど、相手は男だ」

広間にいる親戚がどよめく

恵  「子供もいる。後で紹介するよ。俺これからもあっちで暮らすから」
父  「……そ、その相手の方は……」
恵  「先月死んだ。だからあいつの親は俺しかいないんだ」
父  「……」

恵M 「皆信じてないみたいな顔してた。まぁそれでも別にいいかと思った。ただ俺は隠していることじゃないと思ったから言ったんだ。春を愛していることも、結婚したことも、ちーが俺の息子になったことも。別に何も悪いことじゃないし恥ずかしいことでもない。隠していたくなんかなかった」

***
・実家

恵M 「それから一年くらい日本でいろいろやりくりして、ちーが五歳になった頃、やっと安定して暮らせるようになった俺達は春の眠るイタリアへと帰ることにした」

哲平 「えー、もう帰るの?」
千尋 「僕もてっちゃんと離れたくないよ……」

千尋、泣きそうになる

哲平 「ちー! お前ホントに可愛いなぁ!」
千尋 「へへへっ。ねぇ、てっちゃん、てっちゃん」
哲平 「ん~?」
千尋 「僕がね、大きくなったらね、結婚してくれる?」
哲平 「あぁ、いいよ! ふふふっ、かぁわいいなぁ」

哲平、千尋を抱きしめる

恵M 「この一言のせいでイタリアへ帰ってからもずーっとこのクソガキの話ばーっかりするようになり、早速息子を取られた気がしてならなかった。が、まぁどこの馬の骨とも知れぬ奴に取られるよりかはましかなぁとも思う」

***
・家(庭)

千尋、庭でハーモニカを吹いている
Leaving on A Jet Plane

恵M 「なぁ春、俺まだあんたみたいには到底できないと思うけど、俺なりに頑張るからさ。いつものように笑って見ててくれ」

恵、千尋のハーモニカに合わせて歌う

恵M 「それとTi amo da impazzire.この言葉、そっくりそのまま返してやるよ。俺の気持ちはずっと変わらないから」

***
・海岸

恵と春と千尋、三人で防波堤に座っている
春がハーモニカを吹いている

三人で幸せそうに笑っている

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