登場人物
ジェヒョン ヘヨンの護衛
ヘヨン カルミヤ王国王女
ウヨン ジェヒョンの弟
トア トリカブト王国の皇太子
トリカブト王国殿下
トリカブト王国王妃
カルミヤ王国国王 ヘヨンの父
カルミヤ王国王妃
ドヨン ヘヨンの弟ジェヒョンの幼少期
ウヨンの幼少期
ヘヨンの幼少期
ストレリチア王国国王 ジェヒョンの父
女官長サラン
刺客 ジェヒョンのしもべ
ドヒョン ウヨンの養父
あらすじ
ストレリチア王国の皇太子として育てられたジェヒョンは、幼い頃に父を殺害された。自分と弟の命を守るために新たに権力を握ったカルミヤ王国の王女ヘヨンの護衛として生きることを選んだ。カルミヤ王国は、みるみる勢力を拡げていった。そんな中、トリカブト王国がカルミヤ王国を侵略しようとしていることに気づいた国王は、トリカブト王国の皇太子であるトアとへヨンと政略結婚させることにした。ジェヒョンもへヨンと共にトリカブト王国へ向かったのだが、そこで15年前に生き別れた弟ウヨンと奇跡的な再会を果たす。ウヨンが元気に生きてきたことを嬉しく思ったジェヒョンだったが、ウヨンは、兄のために15年前共に生き延びたストレリチア王国で仕えていた者たちと共に父の仇をとることを計画していた。そんな中、領土を侵略しないという契約を結んだはずだったトリカブト王国もまたカルミヤ王国を侵略することを諦めてはいなかった。そのことに気づいたカルミヤ王国は、へヨンを一時帰省させた。密かに想いを寄せるヘヨンの結婚、15年前生き別れた弟との再会により彼の人生は思わぬ方向に向かっていくこととなる。架空の国カルミヤ王国で起きた彼の壮絶な人生を救ってくれたこの世で最も憎い国王との関係、身分の違いから隠すことしかできないヘヨンへの想い、自分よりも大切なこの世にたった1人の血の繋がった弟との関係性を交えながら描いていく。
〈1〉幼少期のジェヒョンの家
弟である幼少期のウヨンが上手からジェヒョンに向かって走ってくる。
ウヨン「兄上」
ジェヒョン「どうしたんだ、ウヨン」
ウヨン「今日は、絶対に外に出たらいけないってさ。お父様が。」
ジェヒョン「そうなんだ。何かあるのかな」
ウヨン「わからないけど、お父様怖い顔してた。」
ジェヒョンが外で大きな音がしたことに気づき、ウヨンと一緒に外に出る。外に出ると、お父様が誰かに捕らえられていることに気づく。
ジェヒョン「お父様」
ジェヒョンの父「ジェヒョン、家から出るなと言っただろ。」
ジェヒョン「お父様」
ジェヒョンの父「宰相、どういうことだ。何を企んでいる。」
へヨンの父「今日から俺がこの国の国王になる。だからお前にはここで死んでもらう。」
ジェヒョンの父「宰相、俺が何をしたというのだ。何が不満だったのだ。」
ヘヨンの父「陛下は、国民に優しいが故に年貢を減額された。そのことにより俺たち家臣の給料が減少していった。俺たちはもう限界なのです。これからの未来のために僕が王になるのだ。皆のもの、殺れ。」
家臣たちが刀を抜き、ジェヒョンの父を斬ろうとする。そんな状況の中、父は、最後の言葉をかける。
ジェヒョンの父「ジェヒョン、ウヨンを連れて、逃げろ。」
ジェヒョン「でもお父様、お父様を置いて行けないよ。」
ジェヒョンの父「早く行け。ウヨンと共に生きるんだ。そばにいてやることができなくてすまない。逞しく生きるんだぞ。」
へヨンの父「皆の者、犯れ。」
ヘヨンの父がジェヒョンの父を斬り、ジェヒョンの父は、その場に倒れた。そして、
ジェヒョン「お父様」
ジェヒョンは、ウヨンと共に逃げる。
へヨンの父「子どもたちを追うのだ」
ジェヒョンとウヨンは、物陰に隠れる。宰相率いる軍が通り過ぎる。
ジェヒョン「ウヨン、ここに隠れていても次第に見つかるのは目に見えている。だから僕がおとりになるからその間に逃げるんだ。」
ウヨン「嫌だ。兄上も一緒に逃げましょう。僕を1人にしないで。」
ジェヒョン「ウヨン。これは、2人で生き残る唯一の方法なんだ。必ずまた会えるからな。それまで元気でな。」
ジェヒョンは、おとりになるために走り出す。
ウヨン「兄上」
ウヨンは、ジェヒョンがおとりになっている間に逃げる。
ジェヒョンが宰相に捕らえられる。
陛下「ジェヒョン、弟は、どうしたんだ。」
ジェヒョン「お願いします。弟の命だけは助けてください。(泣きながら)お願いします。僕を殺してください。僕だけにしてください。お願いします。」
陛下「そんなに弟の命を助けたいか?」
ジェヒョン「はい。」
陛下「君の命と引き換えに弟の命を助けて俺に何の得があるというのだ。」
ジェヒョン「…(考え込みながら咄嗟に)ぶ、ぶ、武術。」
陛下「武術だと?」
ジェヒョン「武術だけではありません。僕は、この8年間皇太子教育を受けてきました。これらの知識をこれからはあなたのもとで活かします。なので弟の命を助けてください。」
陛下「ハハハ。ハハハハ。ハハハハ。いいだろう。」
部下「宰相、此奴の言葉を信じるのですか?いつか仇を取られるに決まっております。」
陛下「俺の元で刺客としてわしの娘であるへヨンを守るのだ。そうすることでこれ以上弟の身柄を捜索することをやめよう。だが、お主がわしを裏切った瞬間、お前、そしてお前の弟の命もないと思え。わかったか?」
ジェヒョン「はい。このご恩決して忘れません。」
音楽が流れる。風の妖精たちがジェヒョンを囲む。彼の父親が陛下に捕らえられている。ジェヒョンは、父上の元に行こうとするが、風の妖精に邪魔をされる。
父上の声「お前は、ウヨンを連れて生きるんだ。」
父上は、陛下によって殺される。
ジェヒョンは、父上の元に駆け寄るが、風の妖精によって進めない。上手側にはウヨン、下手側には陛下がいる。
ウヨンの声「兄上!必ず迎えに来てくださいね。僕いつまでもお待ちしております。」
ジェヒョンは、ウヨンの元に行こうとするが、風の妖精たちに邪魔される。うなされるジェヒョンは、目を覚ます。
へヨン「ジェヒョン。ジェヒョン。大丈夫?」
ジェヒョン「へヨン様、、、僕は、、、」
へヨン「書物を呼んでいる最中に急に眠ったのよ。」
ジェヒョン「あ。申し訳ございません。漢文学習の途中に居眠るなど以ての外です。お許しくださいませ。」
へヨン「私は、いいのよ。漢文なんて大嫌いだわ。こんな難しい文、護衛であるあなたが何故読めるの?」
ジェヒョン「いや、、、それは、、、好きだからです。」
へヨン「そう。にしてもすごい汗ね、、、随分うなされていたみたいだけど。」
ジェヒョン「少し嫌な夢を見ていました。」
へヨン「ウヨンっていう人の夢?」
ジェヒョン「何故それを?」
へヨン「ふふふ。寝言で叫んでいたからよ。」
ジェヒョン「そうだったんですね、、、」
へヨン「ウヨンって誰なの?」
ジェヒョン「僕の弟です。しばらく会えていないんです。今も生きているのか、どこで暮らしているのかも分かりません。」
へヨン「そうだったのね。」
ジェヒョン「なのでへヨン様が羨ましいです。愛する家族と毎日過ごすことができて。」
へヨン「愛する家族ね、、、私は、あなたが羨ましいわ。そんなにも愛する家族がいることが。」
ジェヒョン「へヨン様、、、」
へヨン「私の母上は、弟のウヌが生まれた時に何者かに殺されたの。宮殿の人達は、皆噂しているわ。ウヌの母親、、、王妃の仕業じゃないかって。お父上は、女の私を政治の道具としてしか見ていない。私はいつかどこの誰だか分からない人の元に嫁がされるの。それが私がこの世に生まれてきた理由なの。だから私は、誰にも愛されていないの。」
ジェヒョン「ヘヨン様…僕がいるではありませんか。僕のことを家族代わりにしてください。僕は、いつでもあなたの1番の味方です。信じてください。」
ヘヨン「ジェヒョン…」
ジェヒョン「この花を受け取ってください。僕からあなたへの想いです。」
ヘヨン「ありがとう。なんていう花なの?」
ジェヒョン「グラジオラスです。どんなことがあっても私たちは一緒です。」
2人は、抱きしめ合う。音楽が流れる。そして風の妖精がやってきてヘヨンが手にしている花を奪い取る。そしてヘヨンは、その花を追いかける。風の妖精は、その花を女官に渡す。
女官長「ヘヨン様。このお花はどうされたのですか?」
ヘヨン「ジェヒョンがくれたの。」
女官長「ヘヨン様。ジェヒョンを信用してはなりません。彼から貰ったものを口にしてはなりません。絶対に。」
ヘヨン「どうしてそんなことを言うの?」
女官長「彼は、前王朝であるストレリチア国王のご子息だからです。」
ヘヨン「サラン…何を言っているの?彼は、私の護衛よ。」
女官長「彼は、自分の命と引き換えにヘヨン様の護衛として生きることを選んだのです。なので私たちのことを恨んでいるに違いありません。私たちの命を奪う機会を伺っているのです。」
ヘヨン「嘘だわ。そんなこと信じたくないわ。」
女官長「どうか彼を信用なされないように。」
女官長は、この場を立ち去る。残されたヘヨンは、その場で泣き崩れる。
歌 ヘヨンこの世で唯一信用できる人そう信じていたけれどあなたにとって私はこの世で最も憎い人それでもいいわ私の側にいてくれるなら彼の嘘も信じよう騙されていよう彼のことを愛しているからいつまでも
歌僕は彷徨う カルミヤの地で未だに会えぬ 愛しい弟よ君のため選んだこの道を後悔しないよ 僕はきっと憎き地で出会った最愛の人僕は突き進む 彼女と共にどんな苦労が待ち受けていようとも最後の日まで彼女と共に
〈2〉宮殿舞台中央にある大きな椅子に王が座り、その周りには、左大臣、右大臣をはじめとする大臣たちがいる。そして主人公ジェヒョンも頭を下げながら座っている。右大臣「陛下、農民の中で一揆の動きがあるようです。年貢値上げの件、お考えくださいませ。」
一同「お考えくださいませ。」
陛下「何を言っておる。皆のもの、前王朝であるストレリチアが政権を握っていた際、年貢を減額してどうなったか覚えておらぬのか?」
左大臣「左様でございます。年貢を減額したことにより、王朝の資金が焦げついてしまい、王朝存続の危機となったのです。その危機に気づいた陛下がストレリチア王朝を倒し、新たにカルミヤ王国を建国されてからは、年貢の値上げを行い、これまで王朝を存続してきたではありませんか。それなのにも関わらず、減額を行うというのか?」
右大臣「ですが農民の一揆を軽んじてはなりません。いつかカルミヤ王国が農民の一揆によって滅びる日も来てしまうかもしれませぬ。」
陛下「ハハハ。ハハハハハハ。お主おもしろいことをおっしゃるのう。農民の一揆などしれておる。それよりもトリカブト王国がわしらの土地を狙っているようだ。早くに手を打たねばならん。」
左大臣「陛下、私に良い考えがございます。」
陛下「なんだ?」
左大臣「実は、トリカブト王国の皇太子がへヨン様を気に入っていらっしゃるそうでございます。そこで我らの土地を侵略しないことを条件にへヨン様を皇太子とご結婚させるのはいかがでございましょう?」
陛下「それは良い考えじゃ。」
ジェヒョンが宮殿内に入ってくる。
ジェヒョン「失礼します。陛下。そろそろご準備を。」
陛下「ジェヒョン。良い所に来たではないか。ヘヨンをトリカブト王国に嫁がせようと考えておる。お主はどう思う?最も近い距離でヘヨンを見ているお主に聞こうと思う。」
ジェヒョン「(顔をしかめながら)良い考えだと思います。」
国王「そうか。お主ならそう申してくれると信じていたぞ。お主は、トリカブト王国にへヨンと共に行き、へヨンに何かあった時は、命懸けで守るんだぞ、分かったか。」
ジェヒョン「はっ。」
歌この時を恐れていた彼女が他の人の物になることを覚悟はしていたこの瞬間最も近くて遠いこの距離で彼女を想う いつまでも愛し合わなくても良い彼女の側にいれるなら僕は誓おう最後の日まで彼女の側にいることを
〈3〉宮殿
へヨンの侍女が上手から走ってくる
侍女1「みんな、大変よ。」
侍女2「どうしたの。そんなに慌てて。」
侍女1「へヨン様がトリカブト王国の皇太子とご結婚なさるそうよ。」
侍女2「あなた本当に言っているの。」
侍女3「トリカブト王国って私たちカルミア王国の領土を侵略しようとしているって噂じゃない。」
侍女4「そんな危険な場所にへヨン様を行かせて大丈夫なのかしら。」
侍女1「ジェヒョンも連れていくそうよ。」
侍女2「それなら安心だわね。」
侍女3「安心なのかしら。ジェヒョンは、国王様に父親を殺されているのよ。いくら命を助けてもらったとはいえ、恨みを持っているに違いないわ。」
へヨンとジェヒョンがやってくる。
へヨン「あなたたち、何を話しているの」
侍女1「へヨン様、失礼しました。へヨン様のご結婚についてお聞きしました。本当なのでございましょうか」
へヨン「お父様が決定なさったそうよ。私は、生まれた時から父の決めた人と結婚すると思っていたから平気よ。では、私たちは失礼するわ。」
へヨンとジェヒョンは、この場を去る。へヨンが立ち止まってジェヒョンに話かける。
へヨン「そういえば、まだあなたに考えを聞いていなかったわ。」
ジェヒョン「何の考えでしょう」
へヨン「私がトリカブト王国の皇太子と結婚することについてどう思う?」
ジェヒョン「トリカブト王国は、カルミヤ王国の土地を狙っているとの噂です。非常に危険と隣り合わせではありますが、精一杯へヨン様をお守りする所存でございます。」
へヨン「そういうことを聞いているのではない。」
ジェヒョン「(黙り込む)」
ヘヨン「いつもそうやって黙り込む。そしてその目。あなたは、私を憎んでいるのね。」
ジェヒョン「いいえ。憎んでなどおりません。」
ヘヨン「いやいいのよ。父上はあなたの父上を裏切った。そしてあなたは父上に命を助けてもらうために私に仕えてくれている。そうでしょ?」
ジェヒョン「ヘヨン様、、、」
ヘヨン「もういいわ。私は生まれた時から敵国に嫁ぐ運命だったのよ。責務を果たす日が来ただけだわ。」
ジェヒョン「ヘヨン様、お待ちくださいませ。」
ヘヨン「しばらく1人になりたいの。」
ヘヨンは、この場を去る。
ジェヒョン「へヨン様。あなたは分かっていらっしゃらない。僕があなたをどれほどお慕いしているのか。」
歌ジェヒョン「伝えたい この想い それを阻む身分の差 僕が生まれ育った環境 そのすべてが僕たちの愛を許さない 孤独で怯えている彼女 その孤独を一瞬でも忘れてほしい いつか届くだろうか この想い」
〈4〉トリカブト王国、宮殿
トリカブト国王「トア、カルミヤ王国の王女と結婚することが決まった。」
トア「それは誠でしょうか?」
国王「だがカルミヤ王国を侵略しないことを条件に出してきた。」
トア「父上はそれを了承されたのですか。」
国王「ああ。」
トア「それは我が国にとって利益はあるのでしょうか?」
国王「我が国はカルミヤ王国と比べ、領土も兵の数も今のままでは劣っている。このまま戦っても敗戦は目に見えている。そこでだ、王女を人質に取ることで時間稼ぎをするのだ。トアもこの婚姻を受け入れてくれるな?」
トア「当然でございます。父上と共にこの国を大きくするためならばどんなことも受け入れる所存でございます。」
国王「そうか。頼もしいぞ。大臣、今週末婚礼式を執り行うことにした。それに向けての準備を行ってくれ。」
大臣「かしこまりました。」
〈5〉婚礼式場
役員「カルミヤ王国の王女へヨン様がお入りになられます。」
へヨンが興から出てくる。
侍女「お綺麗な方!」
侍女2「お隣におられる男性はどなたかしら?」
侍女3「絵になるお二人だわ。」
王妃「何を言っているの?皇太子の方がお綺麗に決まっているわ。」
侍女3「王妃様!申し訳ございません。トア様ほどのお方は、他にはおられません。」
王妃「決まっているじゃない。」
ヘヨン「殿下。はじめてお目にかかります。カルミヤ王国から参りましたヘヨンにございます。」
殿下「ヘヨン!待っておったぞ。」
王妃「まぁこれから皇太子妃になるというのに隣に男を侍らせているではありませんか。私の侍女たちもそなたの顔が綺麗だと騒いでおるではないか。」
殿下「王妃。口を慎むのだ。」
王妃「殿下。私は、皇太子が心配で尋ねているのでございます。」
ヘヨン「王妃様。こちらの者は、私の護衛でございます。カルミヤの国では王族一家に護衛をつけることが慣しなのでございます。こちらの者は、私が幼い頃から護衛を務めております。そのため王妃様がご心配なさることは一切ございません。」
陛下「ヘヨン。そのことはカルミヤ王国陛下から聞いておる。何かと文化が異なり大変かと思うが頑張ってくれたまえ。」
ヘヨン「はい。殿下。」
陛下「これからそなたの身の回りの世話をしてくれる女官のユナだ。困ったことがあれば、全て彼女に相談すると良い。そなたの良き理解者となるだろう。」
ユナ「ユナでございます。どうぞよろしくお願いします。」
ヘヨン「ユナ。よろしく。」
ユナ「ではこれから過ごされるお屋敷をご案内致します。では。」
ジェヒョン「ヘヨン様。私は、宮殿の見回りをして参ります。残りの護衛がお供しますのでご心配なく。では後程参ります。」
ヘヨン「分かったわ。」
ヘヨンは、ユナに連れられ、お屋敷へと向かう。ジェヒョンは、逆方向へと向かう。農民たちが次の日の婚礼式のため、米などの食料品を運んでいる。
ウヨンの養父「ウヨン、米は、そっちじゃないだろ。明日は、皇太子様の婚礼式なんだ。運ぶものがいっぱいあるから早く動くんだ。」
ウヨン「分かったよ。父ちゃん。早く行くからさ。おっと。(ジェヒョンとぶつかり)申し訳ございません。お怪我はありませんか。」
ジェヒョン「君こそ大丈夫かい?」
ウヨン「(下を向き土下座しながら)申し訳ございません。お許しくださいませ。」
ジェヒョン「顔を上げてください。私は、身分の高い者ではございません。ただの護衛でございます故。」
ウヨン「(顔を上げる)」
ジェヒョン「(ウヨンに気づく)も、も、もしかしてウヨンか?」
ウヨン「はい。私の名前は、ウヨンですが、どこかでお会いしたことがありますでしょうか?」
ジェヒョンは、ウヨンを抱きしめる。
ジェヒョン「ウヨン、生きていたのか。」
ウヨン「も、もしかして兄上ですか?」
ジェヒョン「そうだよ。何でこんなところにいるんだ。別れたのは、たしかカルミヤの土地だったよな。当時はストレリチアだったが…」
ウヨン「兄上と別れたあと、食べるものがなくて森の中倒れていた僕を村の人が見つけてくれたんだ。兄上こそなぜここに?死んだのかと思ってた。僕のことを迎えに来てくれなかったではありませんか。」
ジェヒョン「すまない。ウヨン。それには訳があるんだ。」
ウヨン「僕は、兄上を長い間待っていました。いつか兄上が僕のことを迎えに来てくれるって。信じておりました。」
ドヒョンおじさん(ウヨンの養父)「ウヨン、何してるんだ、急げ。」
ウヨン「ドヒョンおじさん。すぐに行く!すみません、兄上、もう行かなくては。」
ジェヒョン「ああ。これからしばらくこの地にいるからまたここで会おう。」
ウヨン「はい、必ず。ではまた!」
ジェヒョン「ウヨン…ウヨンが生きていた…僕が選んだ道は間違っていなかったのだ。」
歌ずっと後悔していた僕が選んだ道僕だけがこの世に存在していると思っていたようやく報われたこれまでの道のりついに叶う 彼との約束
ジェヒョンは、歌いながら屋敷へと戻る。
ユナ「ジェヒョン様、お帰りでしたか。ヘヨン様は、お部屋に戻られました。どうぞ。」
ジェヒョン「ありがとうございます。(部屋のドアを叩き)ヘヨン様、ジェヒョンです。お入りしてもよろしいでしょうか。」
ヘヨン「どうぞ。」
ジェヒョン「この部屋の向かい側にあるお屋敷が私の部屋だそうです。」
ヘヨン「当然のことだけど、カルミヤ王国の時と違ってあなたと過ごせる時間が減ってしまうわね。」
ジェヒョン「この地に私も来られただけでも不幸中の幸いでございました。それに皇太子であるトア様は本当にお優しい方で安心しました。ヘヨン様のことも必ず幸せにしてくださると思います。」
ヘヨン「そうね。けれど王妃様は、私たちのことを良く思っていないようだった。大丈夫かしら?」
ジェヒョン「王妃様は、非常に厳しい方との噂。特にトア様への愛情が深いが故に今後もヘヨン様への当たりが強くなる可能性がございます。王妃様への対応は、気をつけられた方がよろしいかと。」
ヘヨン「そうね。明日から王妃による皇太子妃教育も始まるそうだわ。私これから異国の地でやっていけるかしら?」
ジェヒョン「大丈夫でございます。ヘヨン様は、これまでカルミヤ王国の王女として教育を受けてこられました。心配には及びません。」
ヘヨン「ジェヒョン、婚礼式前に最後のお願いを聞いてくれる?」
ジェヒョン「何でございましょう?」
ヘヨン「私を抱きしめて。」
ジェヒョン「何をおっしゃるのですか。明日からあなた様は、トア様の妻になられるお方ですよ。」
ヘヨン「だからじゃない。明日からあの方の妻として生きねばならない。だから今日だけは本当に愛してる人と一緒に過ごしたいの。お願い。こんなお願いをするのは、今日が最後よ。」
ジェヒョン「分かりました。(ジェヒョンはヘヨンを抱きしめる)」
ヘヨン「ジェヒョン、愛しているわ。あなたのことを。この世で1番。」
ジェヒョン「ヘヨン様…僕が今から言うことは、聞かなかったことにしてください。僕もあなたのことを愛しています。幼い頃からずっと。」
ヘヨン「ジェヒョン…」
ジェヒョン「ずっと苦しかった。あなたを愛しているのに身分の差や僕の過去がずっと僕を苦しめていた。でも今日だけはどうか許してください。僕の想いを。」
ジェヒョンは、ヘヨンと口づけを交わす。
ジェヒョンの心の声「この時の私たちは、気付いていなかった。あんなことが起きるということを。」
〈6〉婚礼式
ウヨンの義父「ウヨン、急ぐんだ。婚礼式が始まってしまうぞ。」
ウヨン「父さん。待ってください。」
ウヨンの義父「早く。」
音楽が流れ、幕が開くと、婚礼式が始まる。舞台中央では、ダンサーたちが祝福の舞を披露し、シンガーが祝杯の歌を披露。トリカブト国王、王妃をはじめとするお王族、右大臣、左大臣はじめとする役人たち多くの人々が参列している。音楽が止まると、役人が話し始める。
役人「皆様。トリカブト皇太子トア様とへヨン様のご登場でございまする。」
音楽が流れ、舞台中央にトアとへヨンが登場。へヨンの長いスカートをジェヒョンが持っている。
侍女1「なんとお美しいお二人」
侍女2「お似合いのお二人だわ」
トア「へヨン。僕は、例え政略結婚だとしてもこの世で君と出会え、結婚できたことを誇りに思うよ。」
ジェヒョンが顔をしかめる。
へヨン「トア様、、、」
トア「これから僕たちに困難な道のりが待っていると思うが、共に乗り越えていこう。」
へヨン「はい。」
〈7〉村
ストレリチア王朝時代の侍従長「ウヨン様、ジェヒョン様にお会いしたとは誠でございますか?」
ウヨン「ああ。兄上は、生きておられた。皇太子の婚礼式の準備に宮殿に行った際に会ったんだ。」
侍従長「誠でございますか…(気まずい顔をする。)」
ウヨン「侍従長、どうしたんだ?」
侍従長「これまでウヨン様には黙っておこうと心に誓っていたのですが…」
ウヨン「なんだ?」
侍従長「噂によると、ジェヒョン様は、カルミヤ王国の王女様の護衛をされているそうでございます。」
ウヨン「なんだと?兄が何故そんなことを?」
侍従長「ウヨン様がジェヒョン様と別れられた日、ジェヒョン様は、カルミヤ王国陛下によって捕らえられたそうでございます。そしてウヨン様の命を助けるために護衛として生きる選択をされたそうです。」
ウヨン「兄上…こんなにも長い間、父上を殺した奴に仕えてきたなんて。どんなにお辛かっただろう。僕のせいだ。」
侍従長「ウヨン様、どうかご自分をお責めにならないでください。悪いのは、陛下の優しさを裏切り、ジェヒョン様を側においた奴ではないですか。」
ウヨン「…そうだな。一刻も早く兄上を助けださなくては。今まで父の仇を討とうと思ったことは、何度もあった。でも僕1人では勇気が出なかったんだ。しかし、兄上のためにも仇を討つ時が来たのだ。兄上がトリカブト王国にいる間に決行することにしよう。侍従長も力を貸してくれるか?」
侍従長「はい。当然でございます。あの日ストレリチア王国の者のほとんどが処刑されました。しかしあの日私たちは裏口から逃げ、ウヨン様の後を追い、見つけ出し生き残ることができた。今度は、私たちが彼らのために奴に復讐すると心に誓っております。」
刺客1「ウヨン様、私たちも協力させてください。」
ウヨン「君らも聞いていたのか。」
刺客2「はい。生き延びたここにいる私たちは、ウヨン様と共に歩みます」
ウヨン「そのように言ってくれて僕は嬉しい。今日宮殿に行き、聞いた話によると、トリカブト王国もカルミヤ王国の領土を侵略しようとしているとの噂だ。それを阻止するための婚姻らしい。トリカブト王国に先を越される前に動き出そう。」
軍事大臣「はっ。カルミヤ王国の兵は、刺客たちの噂によると○兵だそうです。あの日生き延びた我らの兵は、我々を含め、○兵。到底及ばない数にございます。」
ウヨン「そうか。」
町調査大臣「カルミア王国に不満を持つ農民、部族が一揆を起こす動きがあるそうです。その者たちを味方に加えれば、兵数で勝ることができると思います。」
ウヨン「そうか。では調査のために私たちもカルミヤ王国に向かうとしよう。」
世話係「ウヨン様、ジェヒョン様に会ってからでなくてよろしいのでしょうか。」
ウヨン「大丈夫だ。兄とは、勝利の後必ず会える。」
〈7〉宮殿
ヘヨン「王妃様。おはようございます。」
王妃「おはよう。今日からあなたには皇太子妃教育を受けてもらうわ。あなたはカルミヤで王女教育を受けていたそうね。」
ヘヨン「はい。漢文や武術などを。」
王妃「ハハハ。ハハハハ。あなたは、陛下にでもなるおつもりなの?」
ヘヨン「…」
王妃「ここではここでのしきたりに従ってもらうわ。」
【歌王妃「皇太子妃教育 皇太子妃教育 皇太子教育」
女官たち「レッスン1」
王妃「ダンス」
王妃が舞う。
王妃「隣国の方々が訪問なさった時に王妃が踊りを披露するのよ。これがカルミヤのしきたりなの。あなたも踊りなさい。」
ヘヨンも見よう見真似で舞う。
王妃「ふふふ。ふふふ。無様ね。次行くわよ。」
女官たち「レッスン2」
王妃「料理。カルミヤでは陛下が口にする物すべてを王妃が作るのよ。料理長のハン。彼が教えてくれるわ。」
ハン「ヘヨン様。毎日みっちり教えますからね。」
ヘヨン「はい…」
ヘヨンは、水をこぼし、包丁も上手く使えない。
王妃「これは大変ね」
女官たち「レッスン3」
女官たち「その2」
王妃「陛下の食事を準備する」
女官たち「その3」
王妃「毎日
王妃「常に美しくあることで陛下の関心を惹くのを。あなたのここでの最も大事な任務は、お世継ぎを産むことなの。分かった?」
ヘヨン「はい。」
王妃「今日は、これぐらいにしておきましょう。」
サラン「皇太子妃様」
へヨン「その呼び方は、やめてと言ったでしょ。幼い頃から知っている仲じゃない」
サラン「失礼しました。へヨン様。」
へヨン「そんな深刻そうな顔をしてどうしたの?」
サラン「ジェヒョンが農民らしき男と接触しているとの情報が入ってきています。」
ヘヨン「農民?ジェヒョンは、この国に知り合いは、いないはずよ。」
サラン「ストレリチア国王の第二皇子とみられます。」
へヨン「第二皇子、、、ウヨンなのね?」
サラン「ご存知でございますか?」
へヨン「ええ。昔に話を聞いたことがあるわ。」
サラン「左様でございますか。へヨン様。ジェヒョンに警戒してください。その男と共謀し。カルミヤに復讐を図るかもしれませぬ。」
へヨン「そんなことは、ないわ。私は、ジェヒョンを信じているわ。」
サラン「へヨン様。お忘れになられたのですか。彼の父親は、陛下に殺されたのでございます。それも彼の目の前で。我々を憎んでいるに違いありません。」
へヨン「わかっているわ。あなたが私にそれを伝えた日から片時も忘れた日などないわ。」
サラン「引き続き警戒なさるよう。」
へヨンの歌
〈〉戦場への決意
カルミヤ農民1「おーい。大変だぞ。年貢取り立てがやって来たぞ。」
歌 年貢取り立て
農民「来た来た 年貢取り立てがやって来た 今月も」
取り立て屋「年貢の支払いがまだだろうが。いつになったら支払うんだ。」
農民2「お願いします。もう少し待っていただけないでしょうか。」
取り立て屋「どれだけ待っていると思ってんだ?もう1ヶ月も待っただろう?」
国王「皇太子と皇太子妃は仲良くやってるようじゃのう。」
左大臣「そのようでございますね。」
国王「良いことなのだが、弊害が出てくるように感じる。我が兵の数は◯、あともう少しでカルミヤ王国の土地を手にすることができるかもしれない。」
左大臣「誠でございますか。」
国王「ああ。だがトアは、反対するだろう。」
大臣「なぜですか。トア様は、陛下と共にこのトリカブト王国を大きくしようとこれまで頑張って来られた。反対などされないと思います。」
国王「以前のトアならそうであろう。だが、トアの皇太子妃に対する態度を見ていれば分かる。彼女を見捨てることはできないであろう。またヘヨンがいる限り実行を起こすことができない。何かいい案はないかのう。」
刺客(ジェヒョンのしもべ)「ジェヒョン様、女官たちの話だと、最近トリカブト王国は、兵の数を増やしているとの噂です。」
ジェヒョン「それは誠か?やはりヘヨン様との婚姻は時間稼ぎでしかなかったのか。素早く陛下に伝えるのだ。しかし慎重に行動してくれ。怪しまれた場合、ヘヨン様のお命が危ぶまれる。ヘヨン様の安全を第一に考えるのだ。」
刺客「はい。かしこまりました。」
〈8〉カルミヤ王国の宮殿
刺客「陛下、ジェヒョン様からの伝言でございます。」
陛下「どうした。」
刺客「トリカブト王国がカルミヤ王国への侵略を企んでおられます。」
陛下「それは誠か。」
刺客「はい。徐々に兵の数を増やしており、すぐにでも戦を始める準備が整っております。」
陛下「そうか。そうなった限り、ヘヨンには我が国に返してもらおう。だが、変に勘繰られては面倒だ。我が息子ドヨンの皇太子就任式への招待と題して我が国に連れ戻そうではないか。」
刺客「はっ。かしこまりました。ジェヒョン様にお伝え致します。」
〈9〉トリカブト王国宮殿
ジェヒョン「陛下、カルミヤ王国からの伝言でございます。」
陛下「なんだ。」
ジェヒョン「実は、今週末にヘヨン様の弟であるドヨン様の皇太子就任式がございます。カルミヤ王国では、皇太子就任式には全ての親族が参加することが法令で定められております。そのため今週末のヘヨン様と私の一時帰省を許して頂きたく思います。」
陛下「そうか。それがそなたらの国のしきたりなら仕方ない。行くが良い。」
ジェヒョン「ご気遣い頂き感謝申し上げます。」
ジェヒョン「皇太子妃様、お入りしてもよろしいでしょうか?ジェヒョンでございます。」
ヘヨン「入りなさい。」
ジェヒョン「皇太子妃様、今週末に急遽カルミヤ王国に一時帰省することになりました。」
ヘヨン「どうして急に。」
ジェヒョン「ドヒョン様が皇太子に就任するそうです。式典に参加するために帰省するのです。私もお供致します。」
ヘヨン「そうなのね。ダヒョンもついに皇太子なので。めでたいことね。でもどうしてあなたの顔が曇っているの。カルミヤ王国に帰省できるのに嬉しくないの?」
ジェヒョン「いえ。そんなことはありません。帰省する際はヘヨン様が普段お使いになるものはすべて持って行かれるようになさってください。」
ヘヨン「ええ。わかったわ。…もしかしてもう2度とこの国には戻ってこないということなの?」
ジェヒョン「いえ。そういうことではありませんよ。ヘヨン様。」
ヘヨン「やっぱりそうなのね。あなたと何年一緒にいると思っているの。あなたの顔を見ただけで考えていることぐらいわかるわ。じゃあ、もうこの国の方々、トア様にもお会いすることができないのね。」
ジェヒョン「そういうことになります。トア様にお会いできないのが寂しいのでございますね。」
ヘヨン「いえ。そうではないわ。」
ジェヒョン「ヘヨン様も嘘をつかれるのがお下手でございますね。何年一緒にいると思っているのですか。」
ヘヨン「そうよね。トア様には本当によくしてもらったから。敵国でこんなにも穏やかに過ごせたのは、あの方のおかげだわ。」
ジェヒョン「この国にお残りになりたいのですか?」
ヘヨン「ジェヒョンは必ずカルミヤ王国に帰るのよね。」
ジェヒョン「はい。そうですよ。」
ヘヨン「じゃあ、私も帰るわ。あなたが側にいない人生なんて想像できないわ。生きていけない気がするの、あなたがいないと。(ジェヒョンを抱きしめる)」
〈10〉庭
トア「ヘヨン、気をつけて行ってくるんだよ」
ヘヨン「はい。ありがとうございます。トア様いつもありがとうございます。あなた様の人柄のおかけで今日までこの国に存在することができました。」
トア「なんだ。最後のお別れみたいだな。」
ヘヨン「…いえ。なんとなくしばらくお会いできないのでいつも思っていた感謝の気持ちをお伝えしたのみです。」
トア「そうか。気をつけて行ってくるんだよ。」
ヘヨン「はい。お元気でいてくださいね。」
刺客「ヘヨン様、では行きましょう。」
ヘヨン「ジェヒョンはどこにいるの。」
刺客「ジェヒョンは後程来られます。」
ヘヨン「私ジェヒョンが側にいないと不安なの。ジェヒョンが来るまでは輿には乗らないわ。」
刺客「かしこまりました。ジェヒョン様が来られるまでお待ちしましょう。」
ジェヒョン「ヘヨン様!お待たせしました。では出発しましょう。」
ヘヨン「ジェヒョン、どこに行ってたの、心配したじゃない。あなたは一緒に帰らないのかって。あなたに騙されたのかって不安になったのよ。」
ジェヒョン「申し訳ございません。少し用事があって。では行きましょう。」
ジェヒョンとヘヨンは、輿に乗る。
トアの世話係「ヘヨン様、行かれてしまいましたね。」
トア「やはり彼女が愛していたのは、彼だったんだな。」
世話係「いきなりどうされたのですか。」
トア「先程の彼女の慌てようを見ただろ。あんなに感情的になっている彼女を初めて見た。彼女は僕の前ではいつも穏やかで冷静だった。彼女は僕なしでも輿に乗れるのに彼なしでは輿に乗れない。それが答えさ。」
世話係「トア様…ヘヨン様は、皇太子妃です。また戻って来られますよ。」
トア「彼女は戻ってこないさ。」
世話係「そんな訳ありませんよ。」
トア「なんとなくそういう気がするんだ。いつも気持ちを表現しない彼女が僕に感謝の気持ちを伝えてきた。最後の挨拶かのように。」
世話係「トア様…」
トア「でもいいんだ。これで僕も本来の姿を取り戻し、この国の領土を広がることだけを考えることができる。しばらくは辛いかもしれないが。」
世話係「トア様、お辛い時はこの私にお申し付けくださいませ。」
トア「ジーヤありがとう」
左大臣「陛下、あの計画ですが、へヨン様が帰省中に決行致しますか?」
国王「そうだな。へヨンがいない今が絶好のチャンスだ。しかし上手く行きすぎている気がする。なぜヘヨンは、一時帰省をすることになったんだ。我々の計画が漏れているのではないか。詳しく調べてくれ。」
左大臣「は。かしこまりました。」
トア「(本を見つめ黙っている)」
官僚「トア様、聞いておられますか?」
トア「あ、すまない。もう一度言ってはもらえぬか?」
官僚「トア様、最近ずっと何かを考えていらっしゃるご様子ですが、どうなさいましたか?」
トア「ヘヨンの心が僕に向いてないと感じるんだ。」
官僚「いいえ。そのようなことはないと思います。お二人は仲が良い風に見受けられます。なぜそのように思われるのですか。」
トア「仲が悪い訳ではない。僕は彼女のことを心から愛しているし、彼女も僕のために尽くしてくれている。」
官僚「そうですよ。トア様が熱を出されて、寝込まれた際もヘヨン様は、1日中寝ずに看病してくださったではないですか。お二人は愛し合っているに違いありません。」
トア「僕もそう思っていたんだが、彼女は僕に見せない顔をジェヒョンには見せるんだ。彼女は僕ではなく彼を愛しているのだと思う。」
〈11〉カルミヤ王国宮殿
農民「君たちは見ない顔だな。この辺の者か?」
ウヨン「いえ。トリカブト王国で宮殿に荷物を届ける仕事をしてました。今は出稼ぎでこの土地に来たのです。」
農民「そうなのか。まぁ明日は式典で仕事がたくさんあるしな。こっちの方が稼げるしな。」
ウヨン「明日ある式典はどんな式典なんですか?」
農民「明日はカルミヤ王国殿下の息子であるドヒョン様の皇太子就任式らしい。トリカブト王国に嫁いだヘヨン様もお帰りなっているらしい。」
ウヨン「それは本当ですか。」
農民「噂で聞いた話だから本当か分からん。」
ウヨン「なぜ戻られたのですか?」
農民「トリカブト王国が我が国を侵略しようとしているのに気づいたヘヨン様の護衛が殿下にお伝えになったそうだ。それで急遽ヘヨン様が帰省されることになったみたいだ。」
ウヨン「お兄様、なぜそんなことを。すみません。私行かなくてはならないところがあることに気付きました。失礼します。」
農民「おい、待てよ。まだ終わっとらんだろ。」
ウヨンの歌。
ウヨン「お兄様」
ジェヒョン「ウヨン、なぜここに?」
ウヨン「それはこちらのセリフです。」
ジェヒョン「私は皇太子就任式に参加するために帰省した。」
ウヨン「それが本当の目的ですか?」
ジェヒョン「何を言いたいのだ。」
ウヨン「トリカブト王国がカルミヤ王国を侵略しようとしていることを聞きました。しかしそれを兄上が奴に伝えたと聞きました。なぜです?兄上にとって奴が殺されることは本望ではないのですか?」
ジェヒョン「僕はヘヨン様の安全を1番に考えているのだ。もしカルミヤがトリカブトに支配された場合、カルミヤの者は全員処刑されるだろう。我々がそうなったように。そうなったらトリカブトに残されたヘヨン様は必ず捕えられ、処刑される。その前に阻止しなければと思ったのだ。」
ウヨン「そんなにへヨン様のために行動されるのは、兄上と僕の命を守るためですか?それとも他に理由があるのですか?もしかしてへヨン様を愛しているとか?」
ジェヒョン「、、、(黙り込む)」
ウヨン「兄上、なぜですか?彼女は、父上を殺した奴の娘ですよ。どうして愛することができるんですか。(泣き叫ぶ)」
ジェヒョン「私も初めは、そう思っていた。10歳の時に父を殺され、殺した憎い者たちと共に暮らすのは、想像を絶する程苦しかった。しかし僕よりも彼女は、もっと孤独だった。僕には、離れ離れになってはしまったが、父やウヨンといった心から愛してくれている家族がいた。しかし彼女は、娘を政治の道具としか思っていない父と息子を王にすることしか考えていない母の元で孤独に生きてきたんだ。そんな彼女と長い間過ごす中で彼女の孤独を僕も背負おうと思うようになったんだ。」
ウヨン「兄上は、そのように考えていたのですね。私は、兄上を誤解していたようです。兄上と離れていた期間は、あまりにも長かった様です。少し頭を冷やしてきます。それではまた。」
ジェヒョン「待て、ウヨン」
〈〉宮殿
ジェヒョン「陛下、いよいよ明日ドヒョン様が皇太子になられる。この国も安泰でございます。」
陛下「そうだな。ジェヒョン。へヨンの様子は、どうだ?」
ジェヒョン「お変わりないようでございます。」
陛下「そうか。」
刺客が上手から走ってきて陛下に話しかける。
刺客「陛下、大変でございます。」
陛下「何事だ?」
刺客「何者かの兵が宮殿内を囲っており、宮殿内に侵入した模様です。」
陛下「なんだと。カルミヤ王国か?」
刺客「いいえ。若い青年が農民などを率いておられます。」
国王「一揆かもしれぬ。直ちに何者か調べるのだ。」
刺客「はっ。」
国王「ジェヒョン、へヨンを頼んだぞ。」
ジェヒョン「はい。」
ジェヒョンと刺客らは、外に出て、敵と次々戦う。そんな中、ジェヒョンは、ウヨンを見つける。
ジェヒョン「ウヨン、なぜここにいるんだ?…もしかしてこの軍は、ウヨンが率いているのか?」
ウヨン「すみません、兄上、僕は、どうしても兄を理解することができませんでした。」
ジェヒョン「こんなことをしてもお前の命を無駄にするだけだ。」
ウヨン「そんなことわかっています。でも僕は、この15年間父の仇を討つという目標を持つだけで生きてこられました。僕は、あの日兄上と別れ、下町で農民として生きてきました。国王の息子から農民という地位に下がった僕は、この国の変化を目の当たりにしてきました。この一揆は、僕自身のためだけではなく、これからこの国で生きていく人々のためなのです。」
ジェヒョン「そうだったのか、、、僕は、ウヨンは、僕よりも幸せな人生を生きているんだと、幸せなのだと勘違いしていた。あの時僕ら2人が別れたのは、間違いだったんだ。」
ウヨン「いえ、そうではありません、兄上。兄上があの日奴に交渉してくれたおかげで今日も僕は、この世で息をすることができました。僕は、あの日から兄上をこの地に残し、自分だけ逃げたことを悔やんできました。」
ジェヒョン「僕たち離れていた期間が長かったようだ。その間に僕たち自身の成し遂げたいものが変わってしまった。僕たちは、自分たちが信じる信念を突き進もう。では、へヨン様の元へと参る。ウヨン、無事を祈ってる。」
ウヨン「はい。兄上、私も兄上の無事を願っております。」
ジェヒョンは、へヨンの元へ走る。
〈〉宮殿
刺客「陛下、若い青年の正体が分かりました。」
国王「誰だ?」
刺客「ストレリチア王国軍でございます。」
国王「なんだと?ストレリチアは、15年前ワシが全員始末したではないか?…ジェヒョンか?」
刺客「いいえ。ジェヒョン様の弟であるウヨンが農民を率いております。また15年前ウヨン以外にも生き延びていたようです。」
国王「あいつか。やはりあの時殺していれば。こうなってしまっては仕方がない。ジェヒョン!ジェヒョンを捕らえるのだ。早く!へヨンの命を必ず守るのだ。」
刺客「はっ。」
〈〉へヨンの部屋
ジェヒョン「へヨン様、早くお逃げください。」
へヨン「どうしたの?何があったの?」
ジェヒョン「宮殿が敵軍によって囲われており、陛下の命も狙われています。裏口から逃げれば、まだ間に合います。」
へヨン「トリカブト王国なの?」
ジェヒョン「いいえ、、、」
へヨン「どうしたの?なぜ答えないの?もしかして、、、」
ジェヒョン「ストレリチア王国軍でございます。弟が兵を率いています。父の仇をとるようです。なので早くへヨン様逃げましょう。」
へヨン「嫌よ。」
ジェヒョン「へヨン様」
へヨン「あなたの弟が勝てば、私が処刑され、父が勝てば、あなたの死が近づくということでしょう。そんなのできないわ。」
ジェヒョン「大丈夫です。僕に付いてきてください。僕が必ずへヨン様をお守りします。行きましょう。」
ジェヒョンは、へヨンの手を引っ張り走り出す。
〈〉宮殿
ウヨンらストレリチア王国軍が宮殿まで入ってきた。
ウヨン「やっと辿り着いた。15年もかかりました。」
国王「久しぶりだな。ウヨン。」
ウヨン「はい。僕は、あなたのせいで父と兄、そして地位のすべてを失いました。15年間死んだように生きていた僕の苦労があなたに分かるでしょうか。僕は、父の仇を取る。今日父の仇を取るため、あなたを殺し、国王となる。」
国王「はははっ。望むところだ。かかれ。」
ストレリチア王国軍が国王以外を倒す。
国王「お主、15年間どこでどう生きてきたのだ。武術が達者すぎるではないか。」
ウヨン「僕は、あの日から片時も忘れたことがありません。あの日のことを。」
ウヨンと国王が戦い、ウヨンが国王を倒す。
ウヨン「僕は、やっと成し遂げた。兄上の元へ急がなくては。」
ウヨンは、ジェヒョンの元へ急ぐ。
〈〉森の中
ジェヒョン「へヨン様、こちらです」
へヨンが躓く
ジェヒョン「大丈夫ですか?」
へヨン「ええ。」
何者かがジェヒョンに向けて弓矢を射る。ジェヒョンの胸に刺さる。
へヨン「ジェヒョン、、、ジェヒョン。」
ジェヒョン「何者かに見つかった模様です。僕のことは、大丈夫なので、お早くお逃げください。」
へヨン「何を言っているの。私たち一緒に生きるって言ったじゃない。あなたがいない人生なんて生きている意味ないわ。」
ジェヒョン「僕もあなたがいたから今まで生きてこられました。こんなにも辛い場所でもいつでもあなたが僕の太陽となってくれました。僕は、へヨン様のことを愛しています。どうか元気で過ごしていてください」
ジェヒョンは、亡くなった。
へヨン「ジェヒョン、、、ジェヒョン、、、起きて。起きてよ。あなたって本当に愚かな人ね。私を置いていかないでって言ったじゃない。ね、なんとか言ってよ。今まで何も言ってくれなかったのに最後に愛してるなんて言わないでよ。お願いだから目を覚まして。ジェヒョン!」
へヨンは、大号泣する。そこに陛下の刺客がやってくる。
刺客「へヨン様。陛下が殺されました。早く逃げなくては、いけません。」
へヨン「あなたたちがやったのね。父に言われたのね。」
刺客「、、、」
刺客が無理矢理へヨンを連れ逃げる。
ヘヨン「離しなさい。ジェヒョン。ジェヒョン。私を1人にしないで。」
ヘヨンは、泣きながら連れて行かれる。
そこにウヨンがやってくる。
ウヨン「兄上。兄上。どうしてこんなことに。兄上。兄上。兄上!やっと僕は、父の仇を討ったというのに。あなたがいてくれなくては、意味がないではないですか。兄上。なんとか言ってください。僕がしたことは間違いだったのでしょうか?兄上。兄上。兄上。」
ウヨンは、大号泣する。
〈〉街中
祭りの音楽が流れる。あの音に合わせて村人たちは、農作業をしている。
村人A「なんと今年は、年貢減額されるそうだよ。」
村人「本当に生きやすい国になったな。戦もないし、税金も安いし、今の国王様に感謝せねばじゃな。」
村人「本当じゃな。前の国王は、邪悪で血も涙もなかったからな。今の国王は、私たち村人にも直接会いにきてくれて、畑仕事まで手伝ってくれる。なんていい国王なんだろう。」
村人「私たちは、恵まれているなあ。」
ウヨンの心の声「果たして僕がしたことが正解だったのか。この世にはいない父の仇を取るために唯一の家族だった兄を失ってしまった。そして兄を愛していたヘヨン様もその後兄の後を追ったそうだ。しかし僕は、この街で暮らす人々を見て思うのだ。僕がしたことは、間違っていなかったと。そう信じたいと。兄上、お元気ですか?僕は、僕がしてしまった過ちを背負いこれからも生きていきたいと思います。どうかそちらの世界で幸せに暮らしていることを願っています。」
歌手が歌う。その後ろでジェヒョンとヘヨンが踊っている。そしてジェヒョンが持つ花をヘヨンが受け取る。
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