【毒もて語れ】
ノドカ(28)…図書館司書
美保(28)…OL
京子(28)…主婦
桜(26)…ノドカの隣人、妊婦
ノドカの母親
○地下道
蛍光灯の灯りで薄暗い地下道。
鉢植えに入った観葉植物を抱えているノドカ(28)。
紫の手袋を嵌め、虚ろな目をしている。
○タイトル
○ノドカ宅・ベランダ・(昼)
植物で溢れたベランダ。
ビニールの手袋をしたノドカ、赤い実を採る。
隣の部屋から布団を持った隣人の桜(26)が出てくる。
桜「こんにちは」
ノドカ「こんにちは、お腹目立って来ましたね」
桜、お腹をさすり
桜「そうですか? 蹴ったりはまだしないんですけど」
ノドカ、ニコニコと笑っている。
○同・居間
ベランダの観葉植物を見ている美保(28)。
テーブルの上にミルフィーユ鍋が置かれており、ノドカがカイワレ大根を入れている。
ノドカ「気をつけて、触るとかぶれたりするから」
美保、身を引き
美保「また増えたんじゃない?」
ノドカ「うん、唯一の趣味みたいなもんだし、そういえば京子は?」
美保「遅れるって、だから先に始めてていいんじゃない? 子供預けにいってんでしょ」
ノドカ「京子の子って見たことある?」
美保「うん、可愛い女の子だったよ」
ノドカ「そうなんだ」
美保「私も親にせかされちゃってさ。まだ結婚もしてないのに」
ノドカ「私もお母さんの法事の時に言われた」
美保「あるよね。親戚のそういうの。まぁ、それぐらいしか話題がないんだろうけどさ」
チャイムが鳴る。
ノドカ「来たんじゃない?」
美保、玄関に向かう。
ドアを開けると、顔に絆創膏を貼った京子が立っている。
驚く二人。
× × ×
鍋を囲って座っている三人。
ノドカ、具をよそうが京子手を付けない。
京子「結婚した後から言葉だけじゃなくて暴力も酷くなってきてさ」
美保「でもそんな感じしなかったけど」
京子「あの人外面はいいから……でも子供が出来たら変わってくれるだろうって思ってたんだけど、そしたら知らない間に仕事も辞めてて」
美保「警察に」
京子「やめて!」
美保「でも」
京子「もう一度話し合ってみるから。うん、大丈夫、あの人も辛いんだし」
京子をじっと見ているノドカ。
○同・玄関
京子と美保がドアの外に立っている。
美保「今日はありがとう。ごめんね。変なこと」
ノドカ、ジップロックに入れた赤い実を渡す。
美保「何これ?」
ノドカ、何かを耳打ちする。
○図書館・(回想)
中学生のノドカ(14)が植物図鑑を見ている。
○ノドカの家・廊下
ビニールの手袋をはめて、野草を持っているノドカ。
和室で泣いている母親。
ノドカに気づき
母親「お帰り、ごめんね。今、ご飯作るから」
母親に野草を渡す。
母親「?」
ノドカ、何かを耳打ちする。
○(戻って)ノドカ宅・ベランダ・(夕方)
ノドカが水やりをしている。
チャイムが鳴る。
中に入るノドカ。
○同・玄関
ドアを開けるとスーツを着た美保が立っている。
美保「ちょっといい?」
○同・居間
美保が立ったままノドカを睨み付けている。
ノドカ、ベランダの植物をバックに立っている。
ノドカ「どうしたの? 怖い顔して」
美保「京子が死んだ」
ノドカ「そう」
美保「驚かないんだね」
ノドカ「そんなことないよ」
美保「嘘、あの子に何渡したの?」
ノドカ、植物を指差し
ノドカ「あれ。トウアズキの実。東南アジアの花でね。とっても可愛い実がなるの。育てるの大変だったんだ」
美保「何でそんなの」
ノドカ「『飲ませれば楽になるよ』って言ったのに自分で飲んじゃったんだ。お母さんと一緒だ」
美保「?」
ノドカ「私ね、あの子のこと嫌いだったんだ。毎回、男にいいようにされた泣いてばっかりいて、私のお母さんみたいでさ」
美保「お母さんって中学の時に」
ノドカ、ニコニコと笑っている。
○地下道
観葉植物の鉢を抱え、社交ダンスの様にステップを踏むノドカ。
○ノドカ宅・ベランダ
観葉植物の剪定をしているノドカ。
隣人の桜がしゃがみこんで泣いている。
ノドカ、一輪の花を差し出す。
顔を上げる桜。
ニコニコと笑っているノドカ。
(完)
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