新手 ドラマ

独居老人・児玉菫(80)。彼女は「振り込め詐欺」なんかには騙されない。
マヤマ 山本 16 0 0 05/10
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第一稿

<登場人物>
児玉 菫(80)
新井 惣太郎(30)

警察官
受け子
慎吾   声のみ
詐欺師  同



<本編> 
○スーパーマーケット・外観

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<登場人物>
児玉 菫(80)
新井 惣太郎(30)

警察官
受け子
慎吾   声のみ
詐欺師  同



<本編> 
○スーパーマーケット・外観

○同・前
   中身が満載の買い物袋を一つ手に持って歩く児玉菫(80)。やや腰が曲がっている。
   そこにやってくるスーツ姿の男・新井惣太郎(30)。
新井「お持ちしましょうか?」
菫「はい?」

○メインタイトル『新手』

○児玉家・外観
   古い一軒家。「児玉」の表札。
   電話の呼び出し音。
詐欺師の声「こちら、児玉さんの番号でよろしかったでしょうか?」

○同・仏間
   菫の夫の遺影。
詐欺師の声「私、息子さんの上司の者なんですが」
菫の声「そうなんですか。マサヒロがいつもお世話になってます」

○同・居間
   通話中の菫。
詐欺師の声「実はマサヒロ君が、その……会社のお金に手を付けてしまったそうで」
菫「あら、まぁ」
詐欺師の声「ただ、お金さえ戻ってくれば、我々も大事にはいたしませんので」
菫「お、お願いします。お金は払いますので、何とかマサヒロを……」

○同・前
   警察官に取り押さえられる受け子。

○同・玄関
   菫に礼を言い出ていく警察官。
菫の声「もしもし、慎吾かい?」

○同・居間(夜)
   通話中の菫。
菫「お金取りに来た人は捕まったけど、電話かけてきた人は別だったみたいだよ」
慎吾の声「だろうね。でもまぁ、母さんがしっかりしてて助かるよ。俺も次、いつソッチ帰れるかわからないけど、まだまだ一人でも大丈夫そうだもんね」
菫「当たり前だろ? まだまだ誰の親だと思ってんだい?」
    ×     ×     ×
   一人、食事する菫。食器が他の食器やテーブルと接触する音がむなしく響く。
菫「……」

○スーパーマーケット・外観

○同・中
   様々な商品を一つずつ手に取り、カゴに入れていく菫。

○同・前
   中身が満載の買い物袋を一つ手に持って歩く菫。
   そこにやってくる新井。
新井「児玉さん、お持ちしますよ」
菫「あぁ、いつも悪いねぇ」

○児玉家・前
   並んで歩く菫と新井。新井の手には中身が満載の買い物袋。
菫「お兄さん、いつもこの辺に居るけど、仕事は何をやってるんだい?」
新井「まぁ、営業マンです」
菫「成績、良くないんだろう?」
新井「何でですか?」
菫「こんな所でサボっているんだからね」
新井「参ったな~、ハハハ。一応、サボってる訳じゃないんですよ? 時間調整というか、何というか」
菫「あぁ、そうだったのかい」
新井「まぁ、成績が良くないのは間違いないですけど」
   笑う新井。
菫「だったら、私が何か買ってやろうかい?」
新井「え?」
菫「いつも世話になってるからね。」
新井「ありがとうございます。ただ、僕がやってるのはホウジン営業なんで」
菫「邦人? 私も日本人だよ?」
新井「そうじゃなくて、法人営業……個人じゃなくて、会社さん相手に営業をかけているので、児玉さん個人にお売りできるような物がないんですよ」
菫「そうかい。それは残念だね」
新井「お気持ちだけ受け取っておきます。それじゃあ」
   家の前に着き持っていた荷物を菫に渡す新井。
菫「ありがとうね」
   一礼し、立ち去る新井。その後姿を見送る菫。

○同・居間
   一人で食事をする菫。
菫「……」

○スーパーマーケット・外観

○同・中
   ある商品を手に取り、一つカゴに入れる菫。その場を離れようとするも思いとどまり、もう一つカゴに入れる。
    ×     ×     ×
   様々な商品を二つずつ手に取り、カゴに入れていく菫。

○同・前
   中身が満載の買い物袋を二つ手に持って立つ菫。周囲を見回す。
   そこにやってくる新井。
新井「あ、児玉さん。すみません、遅くなってしまって」
菫「いやいや、気にしなくていいよ」

○児玉家・前
   並んで歩く菫と新井。新井の両手には中身が満載の買い物袋。
新井「今日はまた随分と買い込みましたね」
菫「今日は二人分作ろうと思っててね」
新井「どなたか来られるんですか? あ、息子さんとか?」
菫「お兄さんだよ」
新井「え?」
菫「いつものお礼だよ。ご飯、食べていきな」
新井「いやいや、そんな。それはさすがに申し訳ないですよ」
菫「何言ってんだい。『申し訳ない』はコッチの台詞だよ。いつもいつも荷物持ってもらって。それとも何だい? 私の作るご飯なんて食べられないとでも言うつもりかい?」
新井「いや、そんなつもりじゃ……」
菫「良いから、遠慮せず食べていきな。(買い物袋を指し)もう、買っちゃったんだし」
新井「……では、お言葉に甘えて」

○同・居間
   向かい合って食事する菫と新井。
新井「ん、美味い。美味いですよ、児玉さん」
菫「そうかい? 口に合って何よりだよ」
新井「いや~、こんなあったかいごはん食べたのも久しぶりだな」
菫「それだけ喜んでくれると、こっちも作り甲斐があるってもんだよ」
新井「あの、児玉さん……」
菫「? 何だい?」
新井「おかわり、あります?」
菫「(笑って)はいよ。どんどん食べな」

○スーパーマーケット・前
   荷物を持つ菫の元に駆け寄る新井。

○児玉家・居間
   向かい合って食事する菫と新井。

○スーパーマーケット・前
   中身が満載の買い物袋を二つ手に持って立つ菫。
   そこにやってくる新井。浮かない顔。
新井「こんにちは、児玉さん。持ちますね」
菫「あぁ。……どうかしたかい?」
新井「はい?」
菫「元気がないみたいだけど」
新井「(無理やり笑みを浮かべ)いやいや、そんな事ないですよ」
菫「? そうかい」

○児玉家・居間
   向かい合って食事する菫と新井。やはり浮かない表情の新井。
菫「……美味しくないかい?」
新井「え? いやいや、凄く美味しいです」
菫「やっぱり、何かあったんだろ?」
新井「(箸をおき)……実は、仕事でちょっとミスをしてしまって。その……結構な額の損害賠償が」
菫「そうかい。……いくらだい?」
新井「え?」
菫「お兄さんはもう、私のもう一人の息子みたいなもんだからね。出せる分なら、出してあげるよ」
新井「児玉さん……」

○同・前
   頭を下げ出てくる新井。玄関に背を向けると、ニヤリと笑う。
                   (完)

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