安藤健次(17)安藤家、長男
安藤葵(21)安藤家、長女
安藤俊彦(48)安藤家、父
安藤美和子(42)安藤家、母
筧井春子(21)安藤家の近所の大学生
〇安藤家・外観(夜)
激しい雨が打ち付け、ピシッと稲光が走る。
〇同・リビング(夜)
健次(17)、葵(21)、俊彦(48)、美和子(42)が食卓をかこっている。4人の表情は重苦しい。
テレビ(声)「続いてのニュースです。今朝
3時半ごろ、東京都△△区の○○川で女性の遺体が発見されました。遺体の損傷は激しく……」
テレビに目を向ける健次、葵、俊彦、美和子。
美和子「やだ。うちの近くじゃない」
健次、おもむろに口を開いて、
健次「話さないといけないことがある」
他3人の視線が、健次に集中する。
美和子「あなた、まさか」
俊彦「お前だったのか」
葵 「信じられない」
健次「ほんの出来心だったんだ。自分でも何
が起きたのか分からない」
葵 「犯罪者はみんなそうやって言うのよ!」
勢いよく立ち上がる葵。
俊彦「まあ、落ち着け」
葵 「落ち着いてなんかいられないわよ!」
俊彦「まずは、話を聞こう。健次にも、言い分はあるだろう」
俊彦になだめられ、椅子に座る葵。
健次「昨日の、夕方の事だ……」
〇同・玄関(夕)※昨日
健次「ただいまー」
靴を脱ぐ健次。
中から返事はない。
健次「誰もいないのか」
健次、リビングへ向かう。
〇同・リビング(夕)※昨日
健次、ソファーに勢いよく腰を下ろす。
〇(戻って)同・リビング(夜)
健次「その日、珍しく部活が早く終わった俺は、寄り道もせずまっすぐ家に帰った。ただ、いつもと少し違っていたのは、コーチのせいで、ものすごく腹が立っていたこと。今思うと、それが悲劇の始まりだったのかもしれない」
〇同・リビング(夕)※昨日
健次「暇だ……」
リモコンをテレビに向ける。
テレビには、美味しそうなショートケーキが映し出される。
喉を鳴らし、唾を飲む健次。続いてお腹が鳴る。
健次「腹減ったぁ」
健次、お腹をさする。
ピンポーン、とインターホンの音。
健次「?」
〇同・玄関(夕)※昨日
ドアが開くと、筧井春子(21)が笑顔で立っている。
春子「こんにちは。おばさんいる?」
〇(戻って)同・リビング(夜)
テレビ(声)「えー、速報です。先ほどの遺体ですが、身分証から、近くに住む女子大生であることが分かりました」
葵、俊彦、美和子、一斉に視線を健次に戻す。
うつむいたままの健次。
〇同・リビング(夕)※昨日
ソファーに座る春子。
春子「ごめんね。お邪魔しちゃって」
健次「いえいえ。母さんまた春子さんのために作り置きしてたから、どうせ持ってかなきゃだし。ちょうど良かったですよ」
健次、キッチンから声をかける。
〇同・キッチン(夕)※昨日
キッチン台には、きれいに洗われたタッパーが重ねて置いてある。
健次「何か飲みます?」
春子「お構いなく」
健次、冷蔵庫を開ける。が、そっと閉めて。
健次「……」
〇同・リビング(夕)※昨日
健次「やっぱり、母さんに聞いてから、後で持っていきますね。どれか分かんなくて」
春子「ごめんね。いつもありがと。おばさんにもよろしく言っといて」
〇同・玄関(夕)※昨日
春子を見送る健次。
ダッシュでキッチンに向かう。
〇同・キッチン(夕)※昨日
乱れた呼吸の健次。目は、血走っている。
健次(N)「俺は見つけてしまったんだ。冷蔵庫の奥に」
健次、冷蔵庫を開ける。
健次(N)「超高級プレミアム濃厚ミルクプリンがあることを」
冷蔵庫の中で煌々と輝くプリン。
健次(N)「姉さんが、楽しみにしていたプリン。期間限定、数量限定で販売されているプリン。他のデザートは買わずに貯めたお金で買ったプリンだと、分かっていました」
健次、震える手で、プリンの蓋を開ける。
健次(N)「でも、我慢できなかった。無我夢中で、プリンを頬張った。そして、我に返った時には、もう……」
〇(戻って)同・リビング(夜)
健次「プリンは……」
歯を食いしばり、涙をこらえる健次。
美和子「そうだったの」
俊彦「……」
テレビ(声)「今入ったニュースです。○○川の殺人事件ですが、犯人だと名乗る者が現れました。現場の状況から、ほぼ犯人で間違いないとのことです」
葵、スッと立ち上がる。下を向いたまま、指をポキポキ鳴らす。
葵 「許さない……」
健次「……」
〇同・外観(夜)
さらに激しい雨が降り出す。
稲妻が、派手に光り、落ちる。
(終)
コメント
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。