便利なタクシー コメディ

地球に住むお父さん、お母さん、ジュン、ミサ、タク、リコの一家6人が宇宙ツアーに参加し、ホームステイしながらいろいろな星の生活を見て回ります。地球では考えられないような文化や習慣・自然環境があり、驚きの毎日を過ごしながら家族が成長していきます。宇宙を旅するが宇宙SF小説とは違う異色ホームドラマ。アニメならば約10分、1話完結の物語。
トナミKK 4 0 0 02/27
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第一稿

【登場人物】
お父さん 45歳
お母さん 41歳
ジュン 16歳
ミサ 13歳
タク 10歳
リコ 7歳
HM=ホストマザー


○空港の前の道

地球家族 ...続きを読む
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【登場人物】
お父さん 45歳
お母さん 41歳
ジュン 16歳
ミサ 13歳
タク 10歳
リコ 7歳
HM=ホストマザー


○空港の前の道

地球家族6人が歩いている。ほかに誰も歩いていない。
タク「誰も歩いてないね」
父「みんな、車で移動するのが普通なのかな」
その時、一台のワゴンカーが近づき、止まる。
運転席から男性が出てくる。
男性「どうぞ、お乗りください。6人ですね。この車なら全員乗れますよ」
父「(地球家族に)ホストファミリーのお迎えかな。みんな、乗ろう。(男性に)わざわざありがとうございます」
地球家族6人、車に乗り込む。ドアが閉まり、発車する。
男性「今日はいい天気ですね」
母「ええ、本当に」
男性「で、お客さんたち、どちらで降りますか」
父「え?」
男性「ですから、どちらまで?」
父「あれ、ホストファミリーさんのお迎えではないのですか?」
男性「違いますよ。たまたま通りかかったタクシーです」
タク「タクシー?」
男性、ブレーキをふんで車を止める。
男性「ちょっとその地図を見せてください」
男性、父から地図を受け取り、見てすぐに返す。
男性「わかりました。5分で着きますよ」
発車する。
ミサ「タクシーには、全然見えないんですけど」
男性「これが普通のタクシーですよ」
ジュン「僕たち、地球から来たんですけど、地球ではだいたいどの国でも、タクシーというのは、車体にタクシーと書いてあって、屋根に表示灯があって、正面には空車とか迎車とか書いてあります。これじゃ、普通の自家用車みたいだ」
男性「家に車を持っている人など、ここにはいないです。トラックでもない限り、道を走っている車はすべてタクシーですよ」
母「そうだったんですか」
男性「タクシーはとても便利です。いつでもどこでも乗れますから、自家用車なんて必要ないですよ」
一軒の家の前で止まる。
男性「さあ、着きましたよ」
父「さて、お支払いは・・・」
その時、車の外からHMが声をかける。
HM「お待ちしていました。支払いはこちらでしますから」
HM、男性にカードを渡す。
男性、カードを機械に当てる。ピッと音がする。カードをHMに返す。
男性「毎度ありがとうございます」

○ホストハウスの居間

HM、地球家族6人が座っている。
父「どうもすみません。歩けない距離ではなかったのに、タクシーに乗ってしまって」
HM「いえ、とんでもない。当然タクシーで来られると思っていました。私たちには歩くという習慣がありません。タクシーはとても便利で、しかも安いです。ちょっと隣の家に行くだけでもタクシーを使いますよ」
母「そうですか。私はそこまでではありませんけど、タクシーが大好きです」

○客間

地球家族6人がくつろいでいる。
ミサ「確かにお母さんはタクシーが好きだね」
母「そうね、私はすぐタクシーに乗っちゃうわ」
ジュン「乗り過ぎると、お金のほうが大変じゃない?」
母「うちには自家用車がないからね。タクシーに毎日乗っても、車を買って維持するより安いくらいよ」
ジュン「へえ、そうなんだ」
ミサ「逆に、お父さんはタクシーにあまり乗らないわね」
父「タクシーはあまり好きになれないんだ。1年前の出張以来、特にね」
タク「1年前の出張?」
父「1か月間、地方の工場に出張したの、覚えているかい? 毎日ホテルと工場をタクシーで往復したんだけど、どうしてもタクシーに乗りたい雨の日にかぎって、帰りのタクシーがなかなかつかまらなかったんだ」
タク「どうして雨の日はつかまらないの?」
父「おおぜいがタクシーに乗ろうとするから、空車がほとんど走ってないんだよ。走っているのは客を乗せた車か迎車ばかり。ものすごい大雨の日が一日あって、あの日は最悪だったな。タクシー会社にタクシーを呼ぼうとしたけど、けっきょく2時間も電話がつながらず、大雨の中を歩いて帰った」
ミサ「災難だったね」
父「別にタクシー会社が悪いわけじゃないけど、晴れの日にだけ傘を貸してくれるような商売に思えてね。それ以来、お父さんはますますタクシーが好きじゃなくなった」
ジュン「なるほど」
その時、HMが部屋に入ってくる。
HM「もうすぐ夕飯ができますけど、夕飯前にどちらかお出かけになりますか?」
母「夕飯前だから、あまり遠くには出かけられないわね。ここから一番近い見どころは、どこでしょうか?」
HM「5分で行けるところに、大型スーパーがあります。空港からの道と反対方向にまっすぐ行くだけです。遠くからわざわざ訪れる人もいるくらいで、楽しいですよ」
母「あ、ぜひ行ってみたいわ」
ミサ「女3人で買い物に行こうか。リコも行くでしょ」
リコ「うん、行く」
母「タクシーなら4人乗れるから、誰かもう1人どう? ジュンは? タクは?」
父「じゃ、私が行こう。スーパーマーケットを見てみたい」
母「お父さんか。タクシーに乗りたくないって言い出しそう」

○ホストハウスの前の道

父、母、ミサ、リコが歩き始める。
父「5分で着くらしいから、タクシーは乗らずに、歩いて行こう」
母「えー」
父「気持ちの良さそうな道じゃないか。歩いたほうが楽しいぞ」
タクシーが近づいて、止まる。
運転手「どうぞ、乗ってください」
父「いや、結構です。気持ちがいいので、歩くことにします」
運転手「なんだ、乗らないのか」
タクシーが走り去る。

○しばらくして、道

父、母、ミサ、リコが歩いている。
ミサ「もう10分以上歩いてない?」
父「おかしいな。スーパーが見えてこないぞ」
ミサ「5分というのは、歩いて5分じゃなくて、車で5分という意味だったのよ」
父「そりゃそうだな」
その時、タクシーが近づいて、止まる。
運転手「どうぞ」
母「今からでもタクシーに乗らない?」
父「うーん、どうしようかな。いや、やっぱり歩こう。せっかくここまで来たんだ。もう半分くらいのところまで来ているよ」
母「あー、もう」
運転手「乗らないんですね」
タクシーが走り去る。
ミサ「それにしても、次々にタクシーが勧誘してくるね。不景気なのかな」
父「こんなに押し売りをされると、余計に乗る気がしなくなるな」

○しばらくして、道

父、母、ミサ、リコが歩いている。
父「ほら、あそこにスーパーが見えた。あと少しだ」
タクシーが近づいて、止まる。
運転手「どうぞ」
父「いや、すぐそこのスーパーに行くところなので、当然乗りませんよ」
運転手「乗らないんですか」
タクシーが走り出すが、すぐに止まる。
近くにある家から男女が出てくる。
女性「ちょうど来た、ラッキー」
男性「スーパーまで」
男女、タクシーに乗り込む。
タクシーが走り去る。
父「あんな近くなのに、乗るのか。そのうち足が退化してなくなっちゃうぞ」

○スーパーマーケットの前

父、母、ミサ、リコが立っている。
父「着いたぞ」

○しばらくして、スーパーマーケットの中

父、母、ミサ、リコが歩いている。母、大きな袋をかかえている。
ミサ「お母さん、ずいぶん買い込んだね」
母「明日の飛行機の中のおやつよ。見たこともないおいしそうなお菓子がいっぱい売ってたから、つい買っちゃった。帰りはもちろんタクシーよ、ね」
父「それだけ荷物があればな」
母「夕飯ができている頃よ。急いで戻らなきゃ」

○スーパーマーケットの出口

父、母、ミサ、リコが外に出ると、外は雨。
ミサ「雨だ。いつの間に降り出したのかしら」
母、すれ違った女性に声をかける。
母「すみません、タクシー乗り場はありますか?」
女性「乗り場というのはありませんよ。歩いていれば来ますから」
母「あ、そうですか。ありがとうございます」
父「とりあえず、歩き始めよう。みんな、折り畳み傘は持っているね」

○道

父、母、ミサ、リコが雨の中を傘をさして歩いている。
前方から車が来る。
父「反対方向だけど、あれに乗るか」
父、手をあげる。
父「おーい、タクシー!」
タクシーは止まらずに行ってしまう。
ミサ「行っちゃった」
母「よく見えなかったけど、客が乗ってたのかしら」
父「きっとそうだ」

○道

父、母、ミサ、リコが雨の中を傘をさして歩いている。
雨が激しくなる。
母「雨が強くなってきたわ。何がなんでもタクシーに乗らなきゃ」
後ろから車が来る。
母「あっ、来た」
母、手をあげる。
タクシーは止まらずに行ってしまう。
母「だめだ。後ろに誰も乗ってなかったけど」
父「運転席からわれわれのことが見えなかったのかな」

風が強くなる。
ミサ「うわ、すごい風」
父、母、ミサの傘がひっくり返っておちょこ状態になる。
母「これじゃ、傘がさせないわ」
リコの傘が大きく飛んで行ってしまう。
リコ「あ、傘が・・・」
父「リコ、取りに行くのは無理だ。お父さんの傘に入りなさい」
ミサ「入りなさいと言っても、傘がひっくり返ってるじゃない。もう全員、びしょぬれよ」

後ろから車が来る。
ミサ「来た。今度こそ」
ミサ、手を振って声を枯らせて大声で叫ぶ。
ミサ「お願い! 止まって! 乗せて!」
タクシーは止まらずに行ってしまう。
父「こんな大雨じゃ、叫んでも聞こえないよ」
ミサ「でも、今、運転手さんと目が合った。お客は乗ってなかった」
父「きっと迎車だよ。大雨の日に走っているタクシーの半分は迎車だと思ったほうがいい」

同じように、タクシーが通るが、乗れない。これを何度か繰り返す。

雨と風がさらに激しくなっている。
後ろからまた車が来ているのが遠くに見える。
ミサ「あ、また後ろから来てる! そうだ、今度はリコが一番前に出て」
リコ「うん」
リコが先頭に立つ。
ミサ「できるだけ哀れな顔をして手を振るのよ。もっと前に出て」
リコ、悲しい表情でタクシーに向かって両手を振る。
ミサ「さすが、リコ。かわいそうな女の子を演じたらピカイチだわ。でも、だめ?」
タクシーは、ゆっくり近づいたように見えたが、また加速して通り過ぎてしまう。
ミサ「今のは絶対に迎車じゃないよ。ゆっくり走っていた。きっと乗車拒否よ。こんなに濡れているから」
母「薄情ね・・・」
父「さあ、みんな、あきらめて、最後まで歩こう。雨が強ければ強いほど、タクシーはつかまらない。これはお父さんの経験からも明らかだよ」
ミサ「うん、さっきのお父さんの体験談、身をもって思い知ったよ」
母「さあ、もうすぐホストハウスに着くわ」

○ホストハウスの門

父、母、ミサ、リコ、ずぶ濡れで、ものすごい形相でホストハウスの玄関の前に立つ。
その時、玄関のドアが開き、HMが出てくる。その後ろにジュンとタク。4人の姿に驚く。
HM「まあ、みなさん、ずぶ濡れ」
HM、リコの髪の毛をつかみ、ぞうきんのように両手でしぼる。たくさんの水がしぼり出る。
リコ「痛ーっ!」
HM「あら、ごめんなさい」

○廊下

父、母、ミサ、リコがタオルで髪をふいている。
HM「みなさん、この暴風雨の中歩いて帰るなんて、そこまでタクシー嫌いとは知りませんでした」
母「いえ、違うんです。タクシーが全然つかまらなくて」
HM「タクシー、いませんでしたか? 大型スーパーからここまで、1台も出会わなかったとすれば、万に一つの運の悪さですよ」
ミサ「タクシーは何台も走っていたんですが、1台も止まってくれなかったんですよ」
HM「お客さんが乗っていたんですかね」
母「いや、乗っていないのがはっきり見えましたよ。迎車だったんでしょうか」
HM「迎車なんて、めったにないんですけどね。タクシーなんてどこにでもいるから、呼ぶ必要なんてないんですよ」
父「ずぶ濡れだったから、乗車拒否されたのかな」
HM「そんなことあり得ません。みなさんの姿が見えなかっただけじゃないかしら」
ミサ「いや、違います。運転手さんとちゃんと目が合ったんです」
父、母、うなずく。
ミサ「それに、私たち身を乗り出して、あんなに手をあげて振ってたのに・・・」
HM「え? タクシーに向かって、手をあげたんですか?」
ミサ「はい」
HM「手をあげたんですね。それじゃ止まってくれるはずありませんよ」
ミサ「え?」
HM「手をあげるのは、タクシーに乗らないという合図ですから」
母「何ですって?」
ミサ「それは地球とは正反対ですよ。乗らないことをわざわざ手をあげて知らせるなんて、おかしくないですか?」
HM「おかしくないですよ。私たち、歩いていてタクシーに出会ったら、乗るのが当たり前なんです。乗らないとしたら何か特別な理由があるときなので、そんな時だけは手を上げて、乗らない意思表示をするんです」
ミサ「そうか、だから、普通に歩いている時は、タクシーが私たちの前でわざわざ止まってくれていたのか」
回想シーン
晴れている時に、4人が歩いていると、タクシーが近づいてくる。運転手が「なんだ、乗らないのか」とつぶやく。
大雨の中、リコが悲しい表情でタクシーに向かって両手を振る。タクシーは通り過ぎてしまう。
回想シーン終わり
HM「でも今は、タクシーがまったく止まってくれなくて、不思議に思わなかったんですか?」
父「ものすごい雨でしたからね。大雨の日はタクシーに乗れなくても無理はないと思って」
HM「雨だから? タクシーと天気と、何の関係があるんですか?」
父「え、それはもちろん、雨の日は乗りたい人が増えるから、空車が少なくて・・・、あれ、いや待てよ? ここではそんなことないのか・・・」
HM「そうですよ。私たちは、晴れていようが雨が降ろうが、タクシーに乗るんです。だから、雨の日だけ空車が減ってしまうなどということはないんです」
父、母、ミサ、リコ、疲れ果てた表情で苦笑い。
HM「申し上げたでしょ。タクシーはとても便利な乗り物です。ただ立っているだけで、近づいてきて乗せてくれるんですから」

○翌朝、道

いい天気。
地球家族6人、帰り道を歩いている。
母「最後くらいはタクシーに乗りましょう。荷物も多いし」
父「お母さんがおやつをたっぷり買い込んでくれたからね」
ミサ「2台つかまえたいのに、タクシーが1台も通らないわね。ついてないわ」
そのとき、ワゴンの車が近づいて来る。
ジュン「あ、ラッキー。あれなら1台でみんな乗れるよ。絶対にあれに乗るぞ! 僕にまかせて」
ジュン、ワゴンタクシーに向かって手をあげる。
ワゴンタクシーは素通りして行ってしまう。
ジュン「あ、しまった、つい反射的に手をあげちゃったよ。みんな、ごめん・・・」
ジュン、地球家族5人のほうを振り返る。見ると、5人とも手をあげている。
ジュン「なんだ、みんなもか」
地球家族6人、手をあげたまま固まっている。

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