猿芝居 ドラマ

劇団でのキャリア17年。売れない二人の俳優。一人がようやく売れ、一人は仕事が減った。そんな二人の中で繰り広げられる、切なき猿芝居。
Yamaru 22 0 0 09/11
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第一稿

人 物
藤堂啓介(37)俳優
佐伯浩二(37)俳優
平林レナ(65)東雲座社長
八木英徳(40)「週刊サタディ」記者
新人劇団員
ドライバー

女の子1、 2
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人 物
藤堂啓介(37)俳優
佐伯浩二(37)俳優
平林レナ(65)東雲座社長
八木英徳(40)「週刊サタディ」記者
新人劇団員
ドライバー

女の子1、 2

◯中央線のホーム(朝)
藤堂啓介(37)が背中を丸めてだらんと
   立っている。
藤堂の後ろにはスーツを着たサラリー
   マン達が列を成す。
線路の向こう側、巨大広告に佐伯浩二
   (37)のポスター。
それを見つめながら大あくびする藤堂。
   携帯が鳴る。
藤堂「はい」
女の声「あ、藤堂さん。辰巳さんのクレーム
処理ですけど、どこまで進んでますか?」
藤堂「あ、その人認知症でね、クレームした
 事、納得して電話切った事、1日経てばす
 ぐに忘れちゃうのよ。悪いけど、付き合っ
てやって」
女の声「えー?もう何週目ですか?」
藤堂「3週目くらい?頼むよ、ね」
女の声「…はぁい」
電話を切る藤堂。
藤堂「社員に言えよ…」
   電車が到着。藤堂が頭をぽりぽり掻い
   ていると、ドアが開き、並んでいたサ
   ラリーマン達が一斉に藤堂を押し、電
   車になだれ込んでいく。
流れに身をまかせる藤堂。

◯青雲座・事務所
床を掃いている新人劇団員達。
   藤堂が入って来る。
新人劇団員達「お疲れ様—っす」
藤堂「おう、お疲れ」
奥には廃れた事務所にミスマッチな、
   黒い革製のフカフカな社長椅子。
   そこに平林レナ(65)が座っている。
藤堂「社長、お話って」
平林「今度の本公演だけど」
藤堂「あ、はい。スケジュール空けてます」
平林「出なくていいから」
藤堂「え?」
平林「役がね、残ってないんだわ。若いの沢
山入れちゃったし」
藤堂「ちょっと待って下さいよ。俺一ヶ月仕
事無しですか?」
平林「オーディションならいくらでもあるか
 ら。少し潜ってメディアに向けて頑張りな
 さいよ」
藤堂「それじゃ給料出ないじゃないすか」
平林「うるさいわね、これは決定事項だから。
ピーチクパーチク言ったって変わらないの」
   側の電話が鳴る。
平林「はい東雲座です。はいはい佐伯ですね。
来年の四月のスケジュール…ちょっとお待
 ち下さいね」
藤堂、ガックリと肩を落とし、事務所を
後にする。新人劇団員達は「お疲れ様で
   した!」と頭を下げる。

◯運送トラック・車内
20後半くらいのドライバーが運転を
   している。助手席に藤堂。
ドライバー「最近藤堂さん、穴埋め多くない
 すか」
藤堂「暇で悪かったな」
ドライバー「いや、会社としては嬉しいすよ」
藤堂、ドライバーの頭を叩く。
ドライバー「いった。危ねぇな。事故ったら
どうすんすか」
藤堂「何お前が会社語ってんだよ」
ドライバー「あれ、言ってなかったすか?俺、
 先月から社員登用されたんすよ」
藤堂「何だそれ、聞いてねーよ」
ドライバー「社員って呼んでいいっすよ」
藤堂、再びドライバーの頭を叩く。

◯高級カラオケ店(夜)
AKBの様なフリフリのコスチューム
   を着た女子二人が歌い踊っている。
ソファでお酒を飲みながらノリノリ
   で踊っている佐伯。
  その横で、ノリ切れずにタンバリンを
   叩く藤堂。
藤堂「お前さぁ、ほどほどにしないとファン
 が泣くぞ」
佐伯「何だよ。売れたら思いっきり女遊びし
 てやろうって、約束してたじゃんかよ」
藤堂「そのイケた面でそういう事言っちゃ駄
 目なの。つーか俺は別に売れてねーし」
佐伯「細かい事言うなよ。俺お前しか友達い
ねーんだよ」
藤堂「じゃあ何でこの前のAStudio俺んとこ
 こねぇんだよ」
佐伯「それはTBSに聞いてくれよ。とにかく
 俺はさ、お前とこうやって豪勢に遊べるの
 が嬉しくてたまんないの。だって、17年も
高円寺の劇団で埋もれてた男が、ようやく
銀幕主演だよ?遊ぶ以外する事ねーよ!」
佐伯、お酒を煽り、ふらふらと立ち上
がると女の子達と踊り始める。
藤堂「…だからお前だけな」
   藤堂、ポッケを弄り、煙草の箱を取り
   出す。その弾みでポッケから一枚の名
   刺が出る。名刺には「週刊サタディ記
   者 八木英徳」と書いてある。
それを見つめる藤堂。
八木の声「藤堂さんはね、ドアを開けて、転
 んだフリをすればいいんです」

◯藤堂の回想・喫茶店
向かい合って座る藤堂と、八木英徳(
   40)。
藤堂「…それだけで、いくらですっけ」
八木、手で「2」を作る。
藤堂「20万?」
八木「200万です」
藤堂「にひゃ…!」
   藤堂、慌てて口を抑える。
八木「同じ劇団で同じ年月下積みをしてるの
 に、今のままではあまりに不公平だと思い
ませんか?」
八木、身を乗り出して藤堂を見据える。
八木「罪悪感なんて不要です。藤堂さんは、
酒に酔ってトイレに立ち、ドアを開けた瞬
間に転んでしまった。それだけです」
藤堂「…いやぁちょっと」
八木、強引に藤堂に名刺を握らせる。

◯回想戻り・高級カラオケ店(夜)
藤堂がちらっと佐伯を見る。佐伯はノ
リノリで「恋するフォーチュンクッキ
—」を踊っている。
思い悩み、首をブンブン振る藤堂。
側に残っていたジョッキビールを一気
   飲みする。
佐伯は女の子のお尻を触ってみたりや
   りたい放題している。
藤堂は煙草に火をつける。
踊っていた女の子のうち一人が藤堂に
寄ってくる。
女の子1「ねぇ、記者の人いつ来るの?」
藤堂「え?」
女の子1「まじあのおじさん、最低だね。私
達こんなの聞いてないんだけど」
藤堂「(小声で)君達もグルなの?」
藤堂がふと佐伯を見ると佐伯は嫌がる
女の子2に抱きついている。
藤堂「おい、佐伯。やめとけよ」
佐伯「追加料金なら心配するなよ。今日は俺
の奢りだから」
藤堂「そう言う事じゃなくて、お前酔ってそ
 う言う事するの昔からの悪い癖だぞ。顔見
てみろよ。嫌がってんじゃんよ」
佐伯「お前が俺に指図すんのか!?」
   藤堂、ピタリと固まる。
佐伯「俺が売れてから被害者面しやがってよ。
原因教えてやろうか。お前の芝居はいつま
でも作り物過ぎるんだよ。リアリティが全
然足りてねぇんだよ」
藤堂「…やめろよそう言うの。楽しく飲んで
たろ」
佐伯「俺はお前のその直向きに努力してるの
 になかなかツキが回って来ません的な振る
 舞いがどうにも気にくわねぇんだよ。ちげ
—だろ。いつまでも自分が間違ってる事認
 めないだけだろ?」
藤堂「…うるせーよ」
女の子たち、固まる。
佐伯「ずっと一緒にいた同期の俺だからこそ
 言えんだぞ?だってそこまで変わらないま
 まじゃ誰も可哀想で堪らなくて本当のこと
なんか言えないからな」

◯藤堂の回想・稽古場
演出が手を叩く。
藤堂に向かって台本を投げつける。
藤堂はヘラヘラヘコヘコと頭を下げる。
   それを見て周りの役者達は呆れ顔。

◯回想戻り・高級カラオケ店
   藤堂の目から一筋涙が伝う。
佐伯は呆れて再び女の子2にちょっか
   いを出し始める。
  女の子1はいたたまれなくて藤堂の背
   中をさする。
藤堂「君達は八代さんからいくら貰うの?」
女の子1「一人100ずつかな」
藤堂「すげぇ、400万も掛かってんのか、こ
いつのゴシップに。売れたなぁ」
女の子1「でももういいよ。騙されたんだよ。
誰も来ないし」
藤堂「俺の芝居、本当に下手か見ててよ」
女の子1「は?」
藤堂、涙を拭い、フラフラと立ち上が
   ると、ドアに向かう。
佐伯は女の子2の腰を抱いたままヘビ
ーローテーションを歌っている。
藤堂、小さく息を吐くと、ドアを勢い
よく開けて、足をつっかからせ転ぶ。
外にいた八代のカメラのフラッシュが
   眩しく部屋を照らす。

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