お化けなんか、怖くない! ホラー

人使いが荒い社長の元では、秘書が次々と辞めていく。安くて好条件のマンションを探す社長は、秘書が探し出した「事故物件」に住むことに。社長は家政婦を雇うが、社長の望み通りの仕事をできるものはおらず、どうせなら、とかわいいデリヘル嬢を家政婦として、家事をさせることを思いつく。その日の夜、現れた地縛霊をデリヘル嬢だと勘違いした社長は、地縛霊をこき使うが…。
あさこ 4 1 0 01/07
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第一稿

じば子……705号室の地縛霊
社長……人使いの荒い社長
秘書……社長の新しい秘書

ぶた……浮遊霊
メガネ……浮遊霊




◯705号室(夜)
   男の手 ...続きを読む
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じば子……705号室の地縛霊
社長……人使いの荒い社長
秘書……社長の新しい秘書

ぶた……浮遊霊
メガネ……浮遊霊




◯705号室(夜)
   男の手によって首を絞められる、赤いド
レスの女。
   男の左手には、オニキスのブレスレッ
ト。
女「たか……ひ……ろ」
   息絶える女。
   男の荒い呼吸。
男「お前みたいな女が……」

◯会社・社長室(朝)
   デスクに出される辞表。
社長「お疲れ」
   社長、手元の資料を見たまま。
秘書0、何も言わず部屋を出る。

◯同・オフィス(朝)
   社長室から出てくる秘書0。
社員1「今回は1カ月かしら?」
社員2「1カ月持てば良い方よね」
   社員1・2、秘書を目で追う。

◯705号室・洗面所(夜)
   髭を剃る住人。鼻歌を歌っている。
   鏡の端に、スカートの裾のような赤いも
のが写る。
住人「?」
   振り返るが、何もない。
住人、前に向き直る。
住人「!!??」
   鏡に写る、赤いドレスの女(じば子)。
鬼の形相で住人を見ている。
住人「あああぁぁぁぁぁぁつ!!」

◯会社・社長室(朝)
社長「君が新しい秘書?」
秘書「はい」
   胸ポケットから、名刺を取り出す秘書。
社長「コーヒー」
秘書「?」
社長「駅前の、カフェ・マンデリンで、コロンビア・モカ・ブラジル・グァテマラを5:2:2:1、熱々で350ml。
   先週会食した社長に何でも良いから贈っといて。それから、昼までにこの資料に全部判子押して、
   あ、あと俺の車ピカピカに洗車。14時に、取り引き先の社長に会いに行くから、それまで
   にボンヌールの、ウルグアイ産炭火焼き超厚切り熟成サーロインステーキが食べれるよう
   に手配しといて」
秘書「?」
   社長、鋭い目付きで秘書を睨む。
秘書「か、かしこまりました」
   秘書、メガネを中指で押し上げる。
   秘書、社長室を出ていこうとする。
社長「あ、やっぱり」
秘書「?」
社長「3:4:2:1で」

◯カフェ・マンデリン・店内(朝)
   店員から、蓋付きのカップを受け取る秘書。

◯会社・社長室(朝)
   デスクにコーヒーを置く秘書。
   左手でカップを持ち、黙って飲む社長。

◯会社・オフィス(朝)
   パソコン画面、高級ワイン会社のホームページ。
   発送手続きをする秘書。メガネを中指で押し上げる。

◯ガソリンスタンド(朝)
   洗車機から出てくる黒のベンツ。

◯会社・オフィス
   資料に判子を押しながら、電話をかける秘書。

◯同・社長室
   社長の前に出される、超厚切りのステーキ。ステーキからは湯気が出ており、油が音を立
   ててはねている。
秘書「こちら、全部目を通させて頂いたところ、訂正が必要なものが数枚ありましたので、すで
   に訂正しているところです」
社長「出来ました」
   資料を持って入ってくる社員。
秘書「これが最後の一枚です」
秘書、判子を押し、資料の山の上に重ねる。
社長「車は?」
秘書「洗車も終え、社長専用駐車場に停めてあります。あ、会社前に車も手配してありますの
   で、良ければ、そちらで神宮寺社長の元へ……」
   秘書、窓の外に手を向ける。
   窓から下を見下ろす社長。
   会社の前には、リムジンが停車している。
社長「うん。悪くない」
   秘書、胸に手を当て、軽く会釈。
社長「俺は明日、今のアパートを出ることにした」
社長「築3年以内、見晴らしが良く日当たり抜群、5LDK以上、オートロック付きで、ペット禁
   止。それから、ジャグジー付きの風呂があるマンション」
秘書「……」
社長「今日中に探せ」
秘書「今日中……ですか?」
社長「出来なきゃ首だ」
秘書「家賃はおいくらくらいでお考えですか?」
社長「相場より安く。事故物件でも何でも良いからとにかく安いところ」
秘書「事故物件でも?」
社長「ああ。俺は、お化けなんか、怖くないからな」

◯高層マンション・前
   マンションを見上げる秘書。

◯同・705号室・リビング
管理人「本当にこの部屋に住む気ですか?」
秘書「ええ。社長の希望通りの部屋ですから」
   秘書、部屋を見回す。
秘書「ところで、ここで何が?」
管理人「殺人だよ。ここが出来て早々、若い女性が首を絞められて……」
秘書「なるほど」
   秘書、メガネを中指で押し上げる。

◯同・同・リビング(夜)
社長「悪くない」
   部屋の真ん中に置かれたソファーに、膝を組んで座っている社長。
   社長、左手でスマホを取り出し、電話帳から秘書を選ぶ。
   発信音。
秘書(声)「もしもし?」
社長「おい、秘書。家政婦を呼べ」

◯同・同・リビング(朝)
社長「床は掃除機後、雑巾がけ。水回りは毎回排水溝まで掃除。風呂のタイルは一枚一枚丁寧に
   磨くこと。洗濯物は、シワが無いように干した後、色、素材、ブランド別に分けて直す。
   食器は自然乾燥じゃなく、布で拭くこと。食器の柄は揃えて」
家政婦「……」
社長「鍵はオートロックだから、そのまま帰って。報酬は今日の出来を見てから判断するから。
   じゃあよろしく」
   ドアのロック音。
   呆然とたたずむ家政婦。

◯同・同・リビング(夜)
   床に這いつくばり、床を左手の指でなぞる社長。

◯同・同・風呂場(夜)
   左手で排水溝の蓋を開ける社長。
   
◯同・同・キッチン(夜)
   左手にコップを持ち、いろんな角度から眺める社長。コップの水跡を見つける。

◯会社・社長室
   社長、椅子に座り、窓の方を向いている。
社長「お前が呼んだ家政婦。ろくな奴がいない」
秘書「すいません」
社長「いっそのこと、お前が……。いや駄目だ。家のこと、男にはされたくない」
   社長、しばらく考えて、
社長「そうか。デリヘルを呼べば良いんだ」
秘書「本気ですか?」
社長「かわいい女の子なら、多少は許せる」
   呆れた顔の秘書。
社長「とびっきりかわいい子を呼べ。今日だ」
秘書「かしこまりました」

◯街中(夜)
   全速力で走るデリ。
デリ「やっば~。遅れちゃう」

◯高層マンション・705号室・リビング(夜)
   インターホンの音。
社長「お、来たか?」
   社長、モニターを確認する。長い前髪で半分以上顔が顔が隠れた女(じば子)が写ってい
   る。
社長「変わった子だなぁ」
   ×   ×   ×
   ドアを開ける社長。
   そこには誰もいない。
   社長、左右を交互に見る。
社長「おかしいな」
   ドアを閉め、部屋に戻る社長。
社長「!!?」
   社長の目の前に、髪の長い赤いドレスの女が。
社長「ビックリした。いつ中に入ったの?」
じば子「あ゛あ゛ぁぁ」
社長「さ、入って入って」
   ×   ×   ×
   ソファーに座る社長。
   玄関の方に目をやるとじば子の姿がない。
   辺りを見回す社長。
   ふと足元を見る。
社長「!?」
   床をぎこちなく這うじば子。
じば子「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ」
社長「君は何をやってるんだ?」
   社長の膝をつかみ、体を起こすじば子。社長の顔に、自分の顔を近付ける。
   じば子、長い髪の間から社長を睨む。
じば子「あ゛ぁあ゛ぁ」
社長「悪いが、俺は君とそういうことをするために呼んだんじゃない」
じば子「あ゛あ゛ぁぁ?」
社長「夜限定の仕事だから、毎日2~3箇所でいい。今日は、風呂掃除と洗濯を頼む」
じば子「?」
社長「ボーッとしてないで、早く始めて」
じば子「あ゛ぁぁ」
   ゆっくりと、方向転換するじば子。
社長「ああ、その前に。コーヒー淹れて。君のオリジナルブレンドでいい」
   ×   ×   ×
   コーヒーカップを社長の前に置くじば子。
   社長、左手でカップを持ち、コーヒーを一口飲む。
社長「うん。悪くない」
じば子「あ゛あぁぁ」
社長「さ、風呂掃除風呂掃除」
   社長、手を叩く。

◯同・同・風呂場(夜)
   床をブラシで磨くじば子。手を止め、鏡を見る。不気味に微笑んで、鏡に血文字で『死』
   と書く。
社長「どんな感じだ?」
じば子「!!」
   ドアが開き、社長が顔を出す。
   社長、鏡の文字に気付き、
社長「何遊んでる。ちゃんと消しとけ」
じば子「あ゛あ゛ぁ」
   ドアを閉める社長。
じば子「……」

◯同・同・前
   息を切らすデリ。
   705号室のドア前の床だけ、不気味に黒いことに気づく。
   寒気を感じるデリ。
   床の黒ずみを見つめるデリ。
   黒ずみ、次第に女の顔に。
デリ「ぎゃああああああぁぁぁっっ!!」
   デリ、全力で走り出す。

◯同・同・リビング(夜)
   洗濯物を畳むじば子。
社長「端は揃えてね」
   じば子の横に座り、じば子の作業を見ている。
   じば子、タオルの端と端を合わせて畳む。
社長「駄目だ。やり直し」
   ×   ×   ×
   じば子、畳んだタオルを社長に見せる。
社長「やり直し」
   ×   ×   ×
社長「やり直し」
   震え出すじば子。
   じば子、鼻から血が吹き出る。
社長「おお、どうした急に」
   じば子、鼻血が止まらない。
   ×   ×   ×
社長「今日はもう帰って良いよ」
じば子「あ゛あ゛ぁ」
社長「タオルは血塗れになったけど、仕事ぶりは悪くない。明日もよろしく」

◯同・同・クローゼット内(夜)
   T「怨霊会」
じば子「それで、その人私をデリヘルだと思ったみたいで」
   T「ぶた浮遊霊死因:肉を喉に詰まらせる」
   腕を組んで話を聞くぶた。
   T「メガネ浮遊霊死因:実験失敗による爆発」
メガネ「でも、何でデリヘルに家事を」
   じば子「わからない。でも、私を見て驚かないどころか、生きてる人間と間違えるなん
   て。私、もう幽霊としてやっていけない」
   嘆くじば子。
   リビングの電球が割れる。

◯同・同・リビング(夜)※日替わり
社長「悪いが、電球を替えといてくれ」
じば子「あ゛あ゛」
社長「それから、今日は、床掃除と洗い物を頼む。床は掃除機の後、雑巾がけして、食器は水跡
   が残らないようにしっかり拭いて。それから……」
じば子「……」

◯同・同・クローゼット
   やつれて、真っ青の顔のじば子。
メガネ「顔色悪いよ。まるで死んでるみたい」
ぶた「死んでんだよ」
メガネ「そっか」
じば子「私、このままあの人にこきつかわれたら、死んじゃうかも」
ぶた「だから死んでるんだって」
メガネ「早く成仏しないと。まだ何も思い出さない?」
じば子「うん」
   ぶた・メガネ、ため息をつく。

◯会社・社長室
   社長、デスクの椅子に座っている。
   その前に立つ秘書。
社長「お前が選んだデリヘル」
秘書「……」
社長「少し顔色は悪いが、仕事はできるし、可愛げがある。そして何より……コーヒーが上手
   い」
秘書「そうですか」
社長「正式に、家政婦として雇おうと思う」
秘書「では私が」
社長「いや。俺が直接頼む」

◯高層マンション・705号室・リビング(夜)
じば子「今日は何を?」
社長「今日は君に話がある」
じば子「?」
社長「君みたいな子は、こんなとしない方が良いと思って」
じば子「?」

◯(フラッシュバック)同・同・リビング(夜)
   床に倒れている、赤いドレスの女。
男「お前みたいな女が……」

◯(戻って)同・同・リビング(夜)
   社長、鞄から書類を取り出す。
   書類と一緒に社員証が落ちる。
   じば子、社員証を拾う。
じば子「!?」
   じば子、社員証を見つめたまま、
じば子「あなたの名前は、たかひろ?」
社長「ああ」

◯(フラッシュバック)同・同・リビング(夜)
女「たか……ひ……ろ」
   息絶える女。

◯(戻って)同・同・リビング(夜)
じば子「あなたが……」
社長「え?」
じば子「あなたが私を殺したんだ」
社長「どうしたんだ?急に」
じば子「許さない……」
   髪の毛が逆立つじば子。
   家中の、電球やガラスが割れる。
社長「何だ、これ」
じば子「あああぁぁっ」
   社長に飛び付くじば子。
じば子「あなたが、私を……」
   社長の首に手をかける。
社長「落ち着け!何のことだ?」
じば子「だまれえぇっ!!」
   じば子、手に力を込める。目はひんむき、額は血管が浮き出ている。
   じば子の手をほどこうとする社長。
社長「……っ」
   社長の手が力なく垂れる。
   息を切らすじば子。
   社長、微動だにしない。
   涙を流し、薄くなるじば子。

◯街中
   高層ビルの前に止まっているリムジン。
男「だから、お前みたいな女と、遊んでやっただけでもありがたく思え」
   スマホを持つ左手には、オニキスのブレスレット。

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