#50 15ktの風に乗れ! 歴史・時代

人は、夢で飛ぶ
竹田行人 13 0 0 12/25
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第一稿

「15ktの風に乗れ!」


登場人物
浮田幸吉(6/29)表具師
相楽奏(27)調律師
キヌ(25)遊女
弥作(4/27)幸吉の弟

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「15ktの風に乗れ!」


登場人物
浮田幸吉(6/29)表具師
相楽奏(27)調律師
キヌ(25)遊女
弥作(4/27)幸吉の弟

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○岡山県岡山市・全景
   中央を流れる川。
   T「岡山県岡山市」。
   黒い平山城。

○同・旭川・河原
   相楽奏(27)、キャリーバッグを引いて遊歩道を歩いている。
奏N「私には両親がいて、その両親にも両親がいる。それを10代遡ると、そこには全部で2046人のご先祖様がいる。らしい」
   道の脇に二メートルほどの石碑がある。
   奏、石碑の前で立ち止まる。
   子どもたちの笑い声。
   子どもたち、凧揚げをしている。
奏N「私の2046人の中にウキタコウキチという人物がいる。これは彼の物語。一介の町人だった彼のまたの名は、鳥人幸吉」
   凧が空を泳いでいる。

○児島湾・海岸(夕)
   凧が空を泳いでいる。
   T「宝暦十二年(1762年)」。
弥作の声「幸吉兄やんの凧。よう揚がりおる」
   浮田幸吉(6)と弥作(4)、並んで立ち、空を眺めている。
   幸吉、凧の糸を操っている。
幸吉「縦の竹ひごと横の竹ひごが当たる場所を工夫してみたんじゃあ」
弥作「やっぱり幸吉兄やんは他の人とちごて」
   弥作、くしゃみをする。
幸吉「寒なってきたな。ヤサク。帰ろ」
   幸吉、糸を手繰っていく。

○松屋・外
   「松屋」の看板を掲げた通り沿いの店。
   幸吉、腰に魚籠をつけて歩いてくると、松屋の二階に目をやる。
   キヌ(25)、松屋二階の窓枠に寄りかかって空を見ている。
幸吉「おキヌ姉やん。おはよう」
キヌ「幸吉っつぁん。おはようさん」
幸吉「なぁ。おキヌ姉やん。こないだのあれ。鳥寄せ。見してくれへん?」
キヌ「なんじゃあ。気に入ってくれたん?」
   キヌ、口笛を吹いたり、鳴き声をまねたりして、鳥寄せを始める。
   キヌの周りにセキレイやホオジロといった小鳥たちが集まってくる。
幸吉「すごいなぁ。おキヌ姉やん。なんでそんなんできるんじゃあ?」
キヌ「類は友を呼ぶ。言うヤツかもしらんね」
   キヌ、指をまっすぐに伸ばす。
キヌ「ウチらは籠の鳥じゃけぇ」
   キヌの指に雀が止まる。
幸吉「籠の鳥て。どういう」
キヌ「幸吉っつぁん。弥作はどしたん?」
幸吉「え? ああ。風邪引いて寝込んでしもてん。じゃからこれ」
   幸吉、魚籠から鰻を取り出す。
キヌ「でーれー太い鰻じゃねぇ」
幸吉「おキヌ姉やん。鰻好きなんけ?」
キヌ「いっちょん好きな魚かもしらんね」
幸吉「せやったら今度」
   鰻、幸吉の手から逃げ出す。
幸吉「わ! こら!」
   幸吉、鰻を追いかける。
キヌ「幸吉っつぁん! 頭! 頭押さえ!」
   幸吉、鰻の頭を押さえて捕まえ、キヌに見せる。
   キヌ、胸を撫で下ろす仕草。
   幸吉とキヌ、微笑み合う。
   キヌ、咳をする。

○大通り(夕)
   通りを行きかう人々。
   幸吉、腰に魚籠を下げ、人の間を縫って走っていく。
幸吉「おキヌ姉やん」
   幸吉、走り出す。
奏N「おキヌさんが突然姿を消したのは年の暮れからの長患いが思わしくなく、もう長くないだろうと噂されていた頃だった」
   幸吉、通りが交差するところに来る度に立ち止まり周囲を見回す。

○児島湾・海岸(夕)
   キヌ、船着場の突端に立って、肩で息をしている。
幸吉の声「おキヌ姉やん!」
   幸吉、船着場の岸側に立っている。
キヌ「幸吉っつぁん」
幸吉「うなぎ。捕ってきたで。好きじゃろ? これ食うたらきっと治るけん」
   幸吉、魚籠から鰻を取り出す。
キヌ「幸吉っつぁん」
   キヌ、空を指差す。
キヌ「幸吉っつぁん。見てみ」
幸吉「おキヌ姉やん。うなぎ。食うて」
キヌ「ノビタキじゃ。気持ちよう飛んどる」
   ノビタキ、円を描くように飛んでいる。
キヌ「なんで人は飛ばれへんのじゃろ」
   キヌ、ノビタキを見つめている。
キヌ「なんで人は飛ばれへんのじゃろ」
   幸吉、ノビタキを眺めている。
   水音。
   幸吉、キヌが立っていた場所を見る。
   船着場の突端には誰もいない。
幸吉「おキヌ姉やん?」
   幸吉、船着場の突端に駆け寄る。
幸吉「おキヌ姉やん! おキヌ姉やん!」
   幸吉、叫び続ける。
奏N「おキヌさんの亡骸は上がらなかった」
   ノビタキ、飛んでいく。

○幸吉の家・外観
   旭川沿いにある蔵造りの建物。
   T「天明五年(1785年)」。
   セミが鳴いている。

○同・作業場・中
   十二畳ほどの広さの土間。
   壁には様々な形の凧が掛けてある。
   竹ひご、さまざまな色の紙、布、糸などが雑多に置かれていて、中央に一枚板の作業台が置かれている。
   作業台の上に設計図が置いてある。
   幸吉(29)、作業台の脇で竹ひごを二本重ね、反りの大きい方を捨てる。
奏N「この頃幸吉はその才を見込まれて紙屋の養子となり、備前岡山でも指折りの腕のいい表具師になっていた」
   幸吉、残った竹ひごに印を打つ。
弥作の声「兄やん。入るで」
   弥作(27)、入ってきて、作業台の設計図を手に取る。
   幸吉、竹ひごを見つめている。
弥作「なんじゃこれ?」
幸吉「おえん! なんじゃあ。弥作か」
   弥作、設計図を眺めている。
弥作「なんじゃこれ。こないぼっこう羽みてーなもん誰が注文してきたんじゃ?」
幸吉「注文の品やない。わしが使うんじゃ」
弥作「使うて。どないやって?」
幸吉「それ使こうて飛ぶんじゃ」
弥作「飛ぶ? 兄やんなに言うとんじゃ?」
幸吉「この大きさじゃったら、わしが担いでも風次第で飛べる」
弥作「兄やん。暑さでえらなったんけ?」
幸吉「鳥を。鳥をな。弥作。拾うてきて調べるとな。体の重さと羽の長さの比がどんな鳥も同じじゃった。ようできとう」
弥作「ほうか。ほれで?」
幸吉「同じこと人でやったら飛べるじゃろ」
   幸吉と弥作、目を見合わせる。
弥作「あー。おキヌ姉やんか」
幸吉「ちゃうわ。あんごたれ」
弥作「きょおてぇのぉ。せやけどそないひょんなげなことしたら石頭の奉行所が」
幸吉「たいぎぃの。わかっとる」
弥作「わかってへん! あんごうは兄やんの方じゃ。下手したら兄やんは政を乱した言うて死罪になるかもしれんのじゃあ」
幸吉「そんなん構わん」
弥作「兄やん。ことは兄やんだけでは」
幸吉「やらなぁおえんのじゃ。やらなぁ」
   幸吉と弥作、目を見合わせる。

○旭川・京橋(夜)
   河川敷にはゴザを敷いて提灯の明かりの中で弁当や酒を飲みながら談笑している人々がいる。
   幸吉、大きな羽を抱えて橋の真ん中に立ち、人々に目をやる。
   談笑している人々。
   幸吉、懐から手旗を取り出す。
   手旗、風にはためいて音を立てる。
幸吉「見てぇてくれ」
   幸吉、手旗を捨てて羽を背負い、タスキを掛けて自分の体と結びつける。
幸吉「人は飛ばれへんのやない」
   幸吉、橋の欄干に足を掛ける。
幸吉「飛ばへんだけじゃあ」
   幸吉、飛び立つ。

○岡山県岡山市・旭川・河原(夕)
   子どもたち、凧を手に奏の横を過ぎる。
奏N「この一件で幸吉は藩領地からの追放を意味する所払いの刑に処されている」
   奏、石碑を見上げている。
奏N「晩年の幸吉については諸説あり、駿府で再び空を飛んで死罪になったとも、遠江で九一歳まで生きたとも言われている」
   奏、石碑に向かって微笑んだ後、キャリーバッグを引いて歩き出す。
奏N「幸吉が空を飛んだのは天明五年。1785年。ライト兄弟が有人動力飛行に成功する118年前のことだ」
   石碑には「世界で初めて空を飛んだ 表具屋幸吉之碑」と彫られている。

〈おわり〉

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