マイ・リトル・ゴールキーパー スポーツ

紅石高校の藤山大(16)は、優れた身体能力や高度な読み、駆け引き、メンタリティを持つゴールキーパーだったが、いかんせん158cmという低身長で……。
マヤマ 山本 42 0 0 11/03
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第一稿

<登場人物>
藤山 大(16)紅石高校ハンドボール部員
喜多 岳(16)同
千条 日和(16)同マネージャー
阿久沢 愛乃(34)同顧問
荒川 (17)同部長
上垣内( ...続きを読む
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<登場人物>
藤山 大(16)紅石高校ハンドボール部員
喜多 岳(16)同
千条 日和(16)同マネージャー
阿久沢 愛乃(34)同顧問
荒川 (17)同部長
上垣内(16)同部員
中森 (16)同
小椋 (16)藤山の友人
赤木 (16)紅石高校サッカー部員
鳥谷 (40)同顧問
奥 武尊(16)火田学園ハンドボール部員



<本編>
○各地
   サッカーやホッケー、水球、フットサル等、ゴールキーパーの活躍シーン。
日和M「ゴールキーパー。それは、チームを守る最後の砦」

○総合体育館・ハンドボールコート
   円陣を組むユニフォーム姿の藤山大(16)、喜多岳(16)ら。キーパーのユニフォーム姿の藤山は、身長一五八センチ程度であり、メンバーの中で大分小さい。逆に、喜多は長身。
日和M「ただ、私達の砦は……」
   キーパーのポジションにつく藤山。
日和M「少しだけ、小さい」

○メインタイトル『マイ・リトル・ゴールキーパー』

○紅石高校・外観
   チャイムの音。

○同・グラウンド
   サッカー部のゴールキーパーのユニフォーム、グローブを着用し、気合十分な様子で歩く藤山。

○同・教室
   席に座り、弁当を食べる喜多。
   何やら廊下が騒がしい。
   教室にやってくる、藤山と同じくらいの身長の男子生徒・小椋(16)。
小椋「さぁさぁ、間もなくグラウンドで、一人の男の、下克上の戦いが始まるぞ~」
喜多「?」
   数名の生徒が興味を惹かれ、小椋に続いて教室を出ていくが、我関せずといった様子の喜多。

○同・グラウンド
   それぞれPKのキッカーとゴールキーパーの位置につく鳥谷(40)と藤山。
小椋の声「サッカー部のゴールキーパー・藤山大と顧問・鳥谷先生のPK五本勝負」
   周囲には野次馬の生徒が多数集まっている。その中に居る千条日和(16)。日和は藤山より背が低い。
小椋の声「一本でも止めたら大の勝ち。ただし、もし全て決められたら……」
鳥谷「ゴールキーパーは諦める。そうだな?」
藤山「わかってますよ。さぁ、さっさと始めましょう」
   ゴール裏に立つ赤木(16)。
赤木「おい、大。本当にいいのかよ?」
藤山「心配すんな。俺はチビだが……」
   サムズアップする藤山。
藤山「ピリリと辛いぜ」
    ×     ×     ×
   シュートを放つ鳥谷。そのシュートに飛びつく藤山。
藤山「うおりゃ!」

○同・外観(夕)

○同・グラウンド(夕)
   後片付けをするサッカー部員達。
   グラウンド整備をする赤木。ゴール脇に記された五つの○印(PKの結果)。
赤木「言わんこっちゃない」
   トンボで○印を消す赤木。

○河原(夕)
   体育座りで夕陽を眺める藤山の元にやってくる日和。
日和「ドンマイ」
藤山「……くそっ。笑いたきゃ笑えよ」
日和「別に。アンタの身長が低いのは、今に始まった事じゃないし」
藤山「くっ……俺の身長が、せめてあと二メートル高ければっ!」
日和「欲張るな」
日和の声「でも、残念だな」
    ×     ×     ×
   並んで座る藤山と日和。
日和「これでもう、大のキーパー姿が見られないと思うとさ」
藤山「何で?」
日和「いや、私だって一応、子供の頃から大のキーパー姿見てきた訳さ。運動能力、反射神経、読み、駆け引き、メンタリティ……大は身長以外、キーパーに必要な全ての能力を兼ね備えてるから、もったいないというか、残念だなって」
藤山「だから、何で俺のキーパー姿がもう見られない事になってんだよ」
日和「え? だって、そういう約束で……?」
藤山「そんな約束、してない事にすりゃいい」
日和「人間の器も小せぇな」
   バイクのクラクションの音。振り返る藤山と日和。
小椋の声「話は聞いたぜ」
   土手の上、バイクに跨り、被っていたフルフェイスのヘルメットを脱ぐ小椋。
日和「げっ、オグ」
小椋「大人って生き物はいつもそうだ。体の大きな奴を『才能だ』ってもてはやし、俺らチビから自由を奪う」
   一度アクセルを吹かす小椋。
小椋「けど、バイクは違ぇ。身長で差別しねぇし、自由だ。どうだ、大? お前もスポーツなんか辞めて、コッチ来いよ」
日和「大、聞く耳持っちゃダメだよ?」
藤山「……ん? 何か言った?」
日和「もとより聞いてねぇ」
藤山「(小椋に気付き)あ、オグじゃん。今考え事しててさ。悪い、もう一回言って」
小椋「……」
   ヘルメットを被り直す小椋。クラクションを鳴らす。
小椋「話は聞いたぜ」
   ヘルメットを脱ぐ小椋。
日和「そっからやるんだ」
小椋「大人って生き物はいつも……」
藤山「やべっ、部室に定期忘れた。悪い、先に帰ってて」
   その場を立ち去る藤山。
小椋「……ふっ。大もまだまだ青いな」
日和「そういう問題か?」

○紅石高校・ハンドボールコート(夕)
   コート前の通路を歩く藤山。
藤山「危ね危ね、コレが無いと帰れな……」
喜多の声「おい、キーパーが避けてたら、練習になんねぇだろ」
藤山「ん? キーパー?」
   コートに目をやる藤山。七メートルスロー(サッカーでいうPK)の練習をする喜多、上垣内(16)、中森(16)。喜多がシューター、中森がキーパー、上垣内は立会人。
中森「そんな事言ったって、恐いのだ」
上垣内「そもそも、頼む相手を間違えているぞ、喜多氏。俺も中森氏もコートプレイヤーなんだからな」
喜多「じゃあ、誰がキーパーやんだよ」
藤山「お困りのようだね」
   藤山に気付く喜多、上垣内、中森。
喜多「誰だ?」
藤山「俺の名前は藤山大。サッカー部では守護の神と呼ばれた男だ」
上垣内「守護の神?」
中森「何か凄いのだ」
藤山「君のシュート、俺が受けてしんぜよう」
   コートに入ろうとする藤山の前に立ちふさがる喜多。身長差が露に。
藤山「おや、もしかして俺の身長が不満か? だが、安心していい。俺はチビだが……」
喜多「(藤山の足元を指し)ローファーでコートに入るな」
藤山「え? あぁ、ごめん」
    ×     ×     ×
   靴を履き替え、キーパーの位置につく藤山とシューターの位置につく喜多。その周囲で見守る上垣内と中森。
藤山「(ゴールを見て)小さいな」
   軽くジャンプする藤山。ゴールの上のバーに触れる。
藤山「お、届く」
喜多「なぁ、そろそろいいか?」
藤山「あぁ、いつでもいいぜ」
   シュートを放つ喜多。一歩も動けない藤山。
藤山「あっ……」
中森「ドンマイなのだ」
上垣内「落ち込む事は無いぞ、藤山氏。これは七メートルスローと言って、サッカーで言うPKだ。簡単には止められないぞ」
藤山「なるほど」
中森「それに、喜多君は一年にして既に我が部のエースなのだ」
藤山「エースか。いいね、そうこなくっちゃ」
   喜多にボールを投げ返す藤山。
藤山「安心しな。コツは掴んだ」
喜多「別に。避けないだけマシだ」
   再びシュート態勢に入る喜多。わずかに右(喜多から見ると左)に動く藤山。
喜多「ふん」
   藤山と逆の方向にシュートを放つ藤山。しかしそれは藤山のフェイントで、左に飛びシュートを止める藤山。
喜多「なっ!?」
藤山「っしゃ」
上垣内「喜多氏を止めた!?」
中森「凄いのだ!」
藤山「これで一勝一敗だな」
喜多「小賢しい事しやがって」
   三度シュート態勢に入る喜多。わずかに左(喜多から見ると右)に動く藤山。
喜多「同じ手は……」
   藤山の動いた方向にシュートを放つ喜多。しかしそれも藤山のフェイントで、左に飛び、シュートを止める藤山。
喜多「!?」
藤山「駆け引きでキーパーに勝とうなんざ、甘いんだよ」
喜多「喧嘩売ってんのか?」
藤山「まさか。ただの簡単な数学の問題だ」
上垣内「数学?」
藤山「普段の部活の一回のシュート練習で、仮に二〇人のシューターが一人五本ずつシュートを打つとしよう」
中森「別に普通の事なのだ」
藤山「その場合、シューターが駆け引き出来るのは一日五回。しかし、俺達キーパーは一日百回駆け引きをする事になる」
中森「全然違うのだ」
藤山「そういう事だ。だから言っただろ? 俺はチビだが、ピリリと辛いぜ」
喜多「たかが二本で調子乗んな。次だ」
藤山「おう、やろうぜ」
    ×     ×     ×
   コート前の通路にやってくる日和。
日和「全然来ないと思ったら……」
   喜多のシュートを受けている藤山。楽しそう。

○同・外観

○同・グラウンド
   鳥谷に頭を下げ、去っていく藤山。藤山を追う日和と、立ち尽くす赤木。
赤木「おい、ちょっと、大~!」
   鳥谷の手には退部届。

○同・教室
   席に座り、弁当を食べる喜多。そこにやってくる小椋。
小椋「よう、ハンド部のエース」
喜多「誰?」
小椋「俺が誰なのかは、いずれ知る事になるから大した問題じゃない。それより、サッカー部の藤山大ってキーパー、知ってるだろ?」
喜多「藤山……あぁ、昨日の? ソイツがどうかしたか?」
小椋「聞いて驚けよ? 実は……」
荒川の声「集合!」

○同・ハンドボールコート
   阿久沢愛乃(34)の周囲に集まる喜多、上垣内、中森、荒川(17)らハンドボール部員。愛乃の脇に立つ藤山と日和(ただし日和はこの時点ではわからない)。尚、荒川の身長は喜多と同程度。
愛乃「え~っと、じゃあまず、新入部員が入ったから、自己紹介してもらおうかな」
藤山「一年の藤山大です。サッカー界ではU―160cm日本代表候補と呼ばれたゴールキーパーでした。よろしくお願いします!」
中森「日本代表候補!? 凄いのだ!」
上垣内「いや、そんな日本代表はないぞ?」
愛乃「それから、もう一人」
   ここで初めて日和が姿を見せる。
日和「マネージャー希望の千条日和です。よろしくお願いします」
藤山「……って、何で?」
日和「大が迷惑をかけるんじゃないか心配で」
中森「ついに憧れの女子マネージャーなのだ!」
上垣内「中森氏、抜け駆けは許さないぞ?」
中森「コッチの台詞なのだ」
愛乃「わからない事があったら、千条さんは私に、藤山君はキーパー同士だから荒川君に聞いてね」
荒川「部長の荒川だ。よろしく」
愛乃「一年生も七人揃ったことだし、一年生大会に向けて、実戦練習をしていこう。じゃあ、各自アップ開始。荒川君は、ちょっと来て」
   愛乃と荒川がその場を離れると、藤山、喜多以外の部員は日和の元に群がる。
藤山「くそっ。俺より目立ちやがって」
   藤山の元にやってくる喜多。
藤山「よぉ、喜多君。未来のエースと守護神なんだ、仲良くやろうぜ」
喜多「……聞いた話だと、サッカー部の顧問とPK対決して、一本も止められなくて、キーパーをクビになったんだって?」
藤山「何、俺噂になってんの? 嬉しいね」
喜多「マイナースポーツならやっていけるとか、舐めた考えすんじゃねぇぞ?」
   その場を立ち去る喜多。
藤山「……」
    ×     ×     ×
   ジャンプシュートの練習をする喜多ら部員達。
   キーパーの位置につきシュートを受ける荒川と、ゴールの中に居る藤山(ゴールに入ったボールを外に出す係)。
荒川「(シュートの合間に)その六メートルラインが、サッカーで言うペナルティエリアみたいなもんだ」
藤山「なるほど。じゃあギリギリまで前に詰めてシュートコースを狭める、みたいな事も出来る訳ですね」
荒川「まぁ、上手くやればな。よし、交代だ」
   位置を交代する藤山と荒川。シューターは喜多。
藤山「行くぜ」
   前に出る藤山。その後姿を見守る荒川。
愛乃の声「藤山君、どう思う?」

○(回想)同・同
   日和の元に群がる部員達から少し離れ、密談する愛乃と荒川。
愛乃「何か、喜多君と七メートルスロー対決して結構止めたとか聞いたんだけど?」
荒川「まぁ、それは心強いですけど、七メートルスローなんて、一試合にそう何本もありません」

○同・同
   ジャンプシュートの練習をする部員達。
   喜多のジャンプシュートを止めようと前に詰める藤山。
荒川の声「ハンドボールのシュートの大半はジャンプシュートです。そして……」
   ジャンプする喜多。藤山の遥か上を行く。
藤山「高っ……」
荒川の声「高さの影響が一番出るのが、ジャンプシュートです」
   難なく決まる喜多のシュート。肩を落とす藤山。
荒川の声「それを受けて、彼がどう感じるか。そこが問題ですが……」
   顔を上げる藤山。顔には笑み。
藤山「いいね、そうこなくっちゃ」
   その様子を見ている日和と愛乃。
愛乃「要らぬ心配みたいね」
日和「メンタルは鬼ですからね」

○本屋(夕)
   本を探す藤山と日和。どや顔でバイク雑誌を渡してくる小椋を無視し、ハンドボールの本を手に取る藤山。

○紅石高校・教室
   授業中。教科書で隠すようにハンドボールの本を読む藤山。

○同・ハンドボールコート
   ジャンプシュートの練習をする部員達。
   ゴールの右隅にシュートが決まる。
荒川の声「違う!」
   キーパーの位置につく藤山とゴールの中に立つ荒川。
荒川「『右に飛ぶ時は、左足で踏み切るんだ』って言ってるだろ? それで、自由になってる両手と右足を使って相手のシュートを止めるんだ。わかったか」
藤山「はい」
   ゴールの右隅に放たれたシュートを止める藤山。
荒川「そうだ!」

○同・校門(夕)
   下校する藤山。
上垣内の声「藤山氏」
   振り返る藤山。藤山を追ってやってくる上垣内と中森。
中森「一緒に帰るのだ」
藤山「おう」
   並んで歩く藤山、上垣内、中森。

○同・ハンドボールコート
   フットワーク練習をする部員達。各種フットワークを、トップで走り抜ける藤山。
藤山「っしゃ」
   悔しそうな表情の喜多。
    ×     ×     ×
   ジャンプシュートの練習をする部員達。
   喜多のシュートが決まる。
藤山の声「あぁ、くそっ!」
   キーパーの位置につく藤山とゴールの中に立つ荒川。
藤山「今の、位置ずれてました?」
荒川「少しな。まぁ、自分でわかっているなら、それでいい」
藤山「(自分に言い聞かせるように)常にゴールの中心とボールの線上にポジションを取れよ、俺」
   次の部員のシュートを止める藤山。
藤山「っしゃ」

○同・グラウンド
   サッカー部の練習中。
   ハンドボールコートを寂し気に見つめる赤木。

○同・教室
   誰もいない。
   「夏休みだぜ!」と書かれた黒板。

○他校・ハンドボールコート
   練習試合をする藤山、喜多、上垣内、中森ら一年生チーム。今は守備。
藤山「中森、ポストそっち行ったよ」
   相手チームのシュート、喜多のディフェンスでコースを限定出来た事もあり、難なく止める藤山。
藤山「っしゃ。行っけ~」
   既に走り出している上垣内へロングパスを投げる藤山。フリーでパスを受けた上垣内のシュートが決まる。
藤山「ナイッシュー、上垣内。喜多も、ナイスディフェンス」
喜多「あぁ」
上垣内「藤山氏もナイスパスだったぞ」
中森「その前に、ナイスキーなのだ」
藤山「さぁ、もう一本」
   コートの外で試合を見ている日和、愛乃、荒川。
愛乃「藤山君入ってから、良くなったんじゃない? 一年生チーム」
荒川「そうですね。これまで喜多頼みだったのが『藤山のロングパスから速攻』という攻撃パターンも生まれましたし、何より雰囲気が明るくなりましたよね」
日和「ほめ過ぎじゃないですか?」
荒川「まぁ、ほめて伸びるタイプだろうし」
日和「図に乗らなきゃいいですけど」
愛乃「これは今度の大会も、楽しみだね」

○試合会場・外観
   複数の屋外コートがある。

○同・待機場所
   ユニフォーム姿の藤山、喜多、上垣内、中森ら一年生部員達。その脇に立つ日和と、「紅石高校ハンドボール部」と書かれた旗を持った小椋。。
中森「うわ~、緊張してきたのだ」
上垣内「ま、まだ、は、早いのだ、中森殿」
藤山「お前もな」
日和「語尾がなんか違うし」
小椋「いいじゃねぇか、緊張くらい。それは、本気でやってる証だ」
藤山「確かにな」
日和「……っていうか、何でオグが居るの?」
小椋「応援に決まってるだろ?」
藤山「サンキュー」
小椋「じゃあ、俺は一旦、バイクをどっかに停めてくるから。頑張れよ、サムライブルー」
   その場を立ち去る小椋。
日和「サムライブルーはサッカーだし」
中森「あれ、ハンドボール日本代表は何て言うのだ?」
上垣内「さぁ?」
喜多「彗星ジャパン」
上垣内「さすがだな、喜多氏」
藤山「いいな、彗星ジャパンって。サムライブルーより何倍も」
喜多「そうか?」
藤山「だってさ、サムライブルーっていうけど、ブルーなのはフィールドプレイヤーだけだろ? キーパーは?」
上垣内「確かに」
中森「そもそも、キーパーのユニフォームの色すら覚えてないのだ」
藤山「オフィシャルだと黒だったりグレーだったりオレンジだったり緑だったり、でも試合では黄色着たりピンク着たり」
上垣内「さすがだな、藤山氏」
藤山「もっとキーパーも、ちゃんと見て欲しいっていうか、数に入れて欲しいもんだよな」
喜多「……で、だ。そろそろアップ始めたいんだけど、いいか?」
藤山「おう。いつでもいいぜ」
喜多「じゃあ、アッチに……」
奥の声「あれ、喜多じゃね?」
   振り返る一同。そこにやってくる奥武尊(16)。身長は藤山よりわずかに低い)。
奥「やっぱ、喜多だ。背伸びたな。生意気な」
喜多「オンタケ(=奥のあだ名)……」
藤山「知り合い?」
奥「俺は火田学園ハンドボール部の奥武尊。通称オンタケ。U―160cmハンドボール日本代表に選ばれる男だ」
中森「日本代表!? 凄いのだ!」
上垣内「いや、そんな日本代表はないぞ?」
日和「何か凄いデジャヴ……」
藤山「火田学園って言えば、俺達の初戦の相手だな。いい試合にしようぜ」
   握手をしようと手を差し出す藤山。
奥「(藤山のユニフォームを見て)ん? 喜多ん所のキーパー?」
喜多「あぁ」
奥「小っちゃ!」
日和「ストレートだな」
奥「(人数を数え)人数もギリギリみたいだし、弱小校は大変だな」
   ムッとする一同(藤山以外)。
藤山「まぁ、安心しろ。確かに俺はチビだが、ピリリと辛いぜ」
奥「……へ~、そいつは楽しみだ」
   藤山の手を取り、握手する奥。
奥「なら、チビのナンバーワンを決めようぜ」
藤山「望むところだ」

○同・ハンドボールコート
   整列する藤山、喜多、上垣内、中森ら紅石高校と奥ら火田学園の一年生達。
一同「お願いします」
    ×     ×     ×
   火田学園の攻撃中。奥のポジションは右サイド。奥にボールが渡る。
奥「行くぜ」
   シュート態勢に入る奥。別段前に詰めず、定位置で構える藤山に対しループシュートを放つ。
藤山「え!?」
   飛びつくも届かず、ボールはゴールへ。
藤山「くそっ……」
   藤山に駆け寄る奥。
奥「言っとくけど俺、激辛でもペロリとイケちゃうクチだからよ」
藤山「……」
   自陣に戻る奥と入れ替わるように藤山に駆け寄る喜多と上垣内。
上垣内「藤山氏、今前出てたか?」
藤山「いいや」
上垣内「キーパーが定位置でループなんて、初めて見た」
喜多「あんなに簡単に入れられてたら、話にならねぇぞ?」
藤山「悪い悪い。次は何とかするから」
    ×     ×     ×
   その後も劣勢の紅石高校。喜多らのシュートは止められ、奥はサイドシュートや速攻などで次々と得点を重ねる。
藤山「くっ、次こそ……」
    ×     ×     ×
   喜多のシュートが相手のキーパーに防がれる。
喜多「ちっ。戻れ!」
   相手のキーパーから、既に走り出している奥にロングパスが渡る。完全にフリーの奥。
奥「もらった」
藤山「させるか」
   ジャンプすることなく、ドリブルしながらの流れでランニングシュートを放つ奥。虚を突かれ、反応出来ない藤山。
藤山「なっ!?」
   ゴールに吸い込まれるボール。
奥「へへっ」
   膝をつく藤山に駆け寄る喜多。
喜多「今のは仕方ねぇ」
藤山「(小声で)何だよ、ソレ……」
   拳で地面を叩く藤山。
   その様子をベンチから見守る日和。
日和「大……」

○同・テント
   試合結果の書かれた紙。二七対三で火田学園が紅石高校に勝った旨が書かれている。

○同・待機場所
   日和の元にやってくる小椋。
小椋「いやぁ、この辺全然バイク停められる所無くてよ。これだから大人って奴は。で、試合って、まだこれから?」
日和「オグ。今はコッチに関わらないでもらっていいかな?」
   落ち込む藤山、喜多、上垣内、中森ら。
藤山「……悪い」
上垣内「藤山氏のせいじゃないぞ」
中森「そうなのだ」
藤山「けど……」
喜多「コッチのシュートが止められて、カウンターでワンマン速攻。その連続じゃ、仕方ねぇって」
藤山「『仕方ない』って何だよ。その一言で片づけられちまったら、俺があそこに立ってる意味ないだろ!」
   その場を立ち去る藤山。

○紅石高校・外観
荒川の声「集合!」

○同・ハンドボールコート
   愛乃の周囲に集まる喜多、日和、上垣内、中森、荒川らハンドボール部員達。
愛乃「え~っと、一年生大会は残念な結果でしたが、とはいえ、もうすぐ新人戦です。切り替えて行こう」
一同「はい!」
愛乃「ところで、藤山君は?」
荒川「それが、学校には来ていたようなのですが……」
日和「……あのバカ」
赤木の声「二七失点ねぇ~……」

○河原(夕)
   並んで座る藤山と赤木。
赤木「サッカーじゃあり得ない失点数だな」
藤山「それもあるけど、自分より背の低い奴に負けたのが、それ以上に悔しくて……」
赤木「それで、練習サボっちまったって訳か」
藤山「……で? そっちこそ、俺に何の用?」
赤木「あぁ。用があるのは俺じゃなくてさ」
藤山「?」
   そこにやってくる鳥谷。
鳥谷「俺が呼んだんだ」
藤山「先生……」
    ×     ×     ×
   並んで座る藤山、赤木、鳥谷。
鳥谷「サッカー部に戻って来い、藤山」
藤山「そんな、今更……」
鳥谷「俺が何で、お前をキーパーから外したのかわかっているか?」
藤山「それは、チビだからですよね?」
鳥谷「違う。お前には素質がある。フィールドプレイヤーとしてなら、日本代表に入れる逸材だと、俺は睨んでいる」
藤山「俺が? そんな大袈裟な」
鳥谷「大袈裟じゃない。お前は運動能力が高い。戦術眼もあるし、メンタルも強い」
赤木「先生がここまで言ってんだ、戻って来いよ。また一緒にサッカーやろうぜ」
藤山「……」

○紅石高校・外観

○同・グラウンド
   サッカー部が練習している。その中に居る藤山、赤木。
   フットワーク練習をするサッカー部員達。各種フットワークを、トップで走り抜ける藤山。
    ×     ×     ×
   シュート練習をするサッカー部員達。華麗なシュートを決める藤山。
    ×     ×     ×
   紅白戦をするサッカー部引達。サイドバックとして出場する藤山。相手FWのボールを奪う。

○同・ハンドボールコート
   休憩中の部員達。サッカー部の紅白戦の様子を見ている上垣内と中森。
上垣内「おっ、また藤山氏がボールを奪ったぞ」
中森「行くのだ、行くのだ~」
   その様子を複雑そうに見ている喜多と日和。

○同・グラウンド
   紅白戦をするサッカー部員達。藤山からのセンタリングを受け、シュートを決める赤木。
赤木「っしゃ。やったぜ、大!」
   藤山に抱き着く赤木。
赤木の声「まさか、レギュラー組に勝っちまうとはな」

○同・校門(夕)
   並んで下校する藤山と赤木。
赤木「今度の練習試合、俺ら出番あるかもな」
藤山「どうだかな……あっ」
   そこに待ち構える日和。
日和「大、本気なの?」
藤山「関係ないだろ?」
日和「試合で一回負けたからって、逃げ出すような奴だと思わなかった」
赤木「落ち着いてよ、日和ちゃん。今日の紅白戦、見せたかったな~、大の大活躍」
日和「(赤木を睨み)ちょっと黙ってて」
赤木「(怯んで)すいません」
日和「大、どうなの?」
藤山「しつこいな」
日和「大はサッカーとキーパー、どっちがやりたいの?」
藤山「もういいんだよ!」
   怯む日和。
藤山「もういいんだよ。俺みたいなチビに、キーパーなんて無理だったんだよ」
   その場を立ち去る藤山。
日和「大……」
   その様子を遠くから見ている喜多。

○河原(夜)
   自主練をする藤山。

○(フラッシュ)紅石高校・校門(夕)
   藤山と日和。
日和「大はサッカーとキーパー、どっちがやりたいの?」

○河原(夜)
   華麗なリフティング技を次々と決めるも不満そうな顔の藤山。ボールを置き、スマホを取り出す。
    ×     ×     ×
   座っている藤山。そこに、バイクに乗ってやってくる小椋。
小椋「おう、大。どうした、こんな時間に呼び出して。バイクに乗りたくなったか?」
   小椋の後ろに乗る藤山。
藤山「海」
小椋「任せとけ」

○走るバイク
   運転する小椋と後ろに乗る藤山。
小椋「しかし、なんだかんだ初めてだな。大をこうやって後ろに乗っけるのは」
藤山「いつも断ってたからな」
小椋「それが今日は自分から『乗せろ』と来た。これが成長って奴か?」
藤山「聞かないのか?」
小椋「何を?」
藤山「色々あるだろ? 例えば『何で海なのか』とか」
小椋「男は、余計な詮索はしないもんだ」
藤山「オグらしいな」
小椋「で、何で海なんだ?」
藤山「……」

○海辺
   海に向かって何かを叫ぶ藤山。
   少し離れた場所で、その様子を見ている小椋。

○紅石高校・外観

○同・教室
   弁当箱を開ける藤山と小椋。
小椋「あ~、腹減った」
藤山「いただきま……」
   そこにやってくる喜多。
喜多「ちょっと付き合えよ」
藤山「……今?」
    ×     ×     ×
   パンを持ってやってくる日和。席に座っているのは小椋のみ。
日和「あれ、大は?」
小椋「ケジメつけに行ったよ」
日和「ケジメ?」

○同・ハンドボールコート
   キーパーの位置につく藤山。喜多のシュートが決まる。
喜多「ざまぁねぇな」
藤山「仕方ないだろ? 飯食ってないんだよ」
喜多「それだけの問題か?」
藤山「そりゃ、俺はチビだし、キーパー久々だし、そもそも喜多とは経験の差が……」
喜多「……もういい。次行くぞ」
   再び位置につく両者。シュートを放つ喜多。コースは甘く、スピードも緩い喜多のシュートを簡単に止める藤山。
藤山「何だ? 舐めたシュート打ちやがって」
喜多「舐めてんのはソッチだろ?」
藤山「え?」
喜多「サッカー部クビになったらハンド部に来て、ハンドの試合でぼろ負けしたらサッカー部に戻って」
藤山「そんなつもりは……あるかもな」
喜多「は?」
藤山「確かに、最初は舐めてたかもしれない。人数すら揃ってないなら、キーパーとして、必要としてもらえるんじゃないか、って」
喜多「正直だな」
藤山「でも今は違う。そんな甘い考えじゃダメだって、思い知らされたから」
喜多「で? そこから抗おうとか、努力しようとか、思わねぇの?」
藤山「……努力したって伸びないんだよ」
喜多「は?」
藤山「よく言うだろ? 『デカいのは才能だ』って。じゃあ、俺は? 『チビは才能がない』って言ってるようなもんだろ?」

○同・教室
   一人で弁当を食べる小椋。
藤山の声「中にはその一言で、スポーツする事自体を諦めた奴だって居るんだ」

○同・ハンドボールコート
   対峙する藤山と喜多。
藤山「『そいつらの分も』と思って、やってきたんだよ。でも、もういい。所詮、やりたい事と向いてる事は違うんだよ。それも、俺の場合は極端に」
喜多「やりたいは、やりたいんだな」
藤山「まぁな」
喜多「そもそも、何でそんなにキーパーやりてぇんだ?」
藤山「だって、キーパーって夢あるだろ?」
喜多「夢?」
藤山「たとえば、同点で迎えた後半残りワンプレー。相手のカウンター。ディフェンスは誰もいない完全な一対一。絶体絶命……」
日和の声「……って所でチームを救うファインセーブ!」
   そこにやってくる日和。
日和「まさに救世主、チームのヒーロー。そんなチャンス、キーパーにしかないでしょ?」
喜多「ヒーローねぇ」
藤山「日和……何で?」
日和「別に。大が久々に、楽しそうにキーパーやってる所、見てやろうかと思って」
藤山「あっそ。残念だけど、俺はもう教室戻るから。(喜多に)いいだろ? 俺もういい加減、腹減っちまってさ」
喜多「……あぁ」
   出ていく藤山を追う日和。
日和「ちょっと、待ちなさいよ」

○同・廊下
   藤山を追って歩く日和、藤山に追いつき、腕を掴む。
日和「ちょっと、大ってば」
藤山「離せよ」
日和「ねぇ、大。本当に諦める気? アンタからキーパー取ったら、何が残んの?」
藤山「まぁ、長身、インテリ、イケメン、スポーツマン……」
日和「ほざけ」
   日和の手を振り払い、歩き出す藤山。
日和「今週の土曜日から、新人戦だから」
藤山「俺には関係ないだろ」
日和「大も登録メンバーに入ってるから」
藤山「は? 何で?」
日和「だって、退部届出してないでしょ?」
藤山「あ……。まぁ、だとして、関係ない」
   男子便所の前にやってくる藤山と日和。
藤山「悪いけど、その日はサッカー部の練習試合あるから」
日和「待ってるから」
藤山「知るか」
   男子便所に入っていく藤山。
日和「あ、逃げるな! ……何だよ、バカ。やりたい事と向いてる事が違う? だから何だよ。やりたい事やれよ!」
   男子便所のドアを蹴飛ばす日和。周囲の男子生徒達がやや引いている。

○同・外観

○同・グラウンド
   サッカー部が紅白戦をしている。レギュラー組はディフェンスに藤山とキーパーしか選手が残っていない中、控え組が赤木ともう一人の選手(ボール保持者)でカウンターを仕掛けている。
藤山「やべっ」
赤木「OK、二対一だ」
   一瞬キーパーを見やる藤山。中央を走る赤木ではなく、サイドを駆け上がるボール保持者のマークに行く。
赤木「コッチ上げろ」
藤山「そうはいくか」
   ボール保持者がセンタリングを上げる。咄嗟に手を出してしまう藤山。
藤山「あっ……」
   笛が鳴る。
赤木「おい、大~」
藤山「いや、職業病というか、条件反射と言うか……」
   ボールが当たった手を見つめる藤山。

○河原(夜)
   リフティングをする藤山。

○(フラッシュ)紅石高校・ハンドボールコート
   喜多にシュートを決められる藤山。
藤山の声「くそっ」

○(フラッシュ)試合会場・ハンドボールコート
   定位置に立った状態で、奥にループシュートを決められる藤山。
藤山の声「くそっ」

○河原(夜)
   リフティングをする藤山。ボールを高々と上げる。

○(回想)紅石高校・グラウンド
   PK対決をする藤山と鳥谷。
鳥谷「次が五本目。ラストだ」
藤山「一本あれば、十分ですよ」
鳥谷「行くぞ」
   シュートを打つ鳥谷。そのコースを読み切り、ボールに飛びつく藤山。
   その様子を周囲で見守る日和や赤木。
赤木「読んでる」
日和「いける!」
   ボールに触れるも、シュートはそのままゴールに吸い込まれる。
   ボールの行方を見て、こぶしを握り締める藤山。

○河原(夜)
   高々と上がったボールをパンチングする藤山。
藤山「……くそっ!」
   転がっていくボール。
藤山「俺は、俺は……」

○総合体育館・外観

○同・ハンドボールコート
   トーナメント表が貼ってある。紅石高校の初戦の相手は火田学園である旨が書かれている。

○同・二階席
   客席の一画に陣取る喜多、日和、上垣内、中森、荒川らバンドボール部員達。日和以外はユニフォーム姿。
荒川「よし、行くぞ」
   背番号12を付けた荒川。
日和「あの、何で先輩が一二番なんですか?」
荒川「俺、中学の時は野球部でな。控えのキャッチャーだったんだ」
日和「はぁ」
荒川「キーパーは一番か一二番だからな。だったら愛着ある背番号を選ぶだろ?」
日和「(小声で)やっぱ、キーパーって変な人が多いのかな?」
荒川「何か言ったか?」
日和「いえ、何も。それで余った番号が……」
   空席に置かれた背番号1のユニフォームを見やる日和。
喜多「待ってても無駄だ。それは、ただの空き番号」
日和「いや、大はきっと来る。私、もう一度外見てくる」
   走り出そうとする日和の前に立ちふさがる上垣内と中森。
上垣内「千条氏にも自分の仕事があるんだぞ」
中森「外を見てくる事くらい、俺達ベンチウォーマー組に任せるのだ」
日和「二人とも……ありがとう。任せた」
   三人のやり取りを見やる喜多。

○紅石高校・外観

○同・グラウンド
   集まっているサッカー部員達と相手チームの選手達。
   周囲を見回す赤木。何かに気付く。
赤木「大!」
   やってくる藤山。
赤木「遅っせぇよ。今日、スタメンだってよ」
藤山「そっか……」

○総合体育館・ハンドボールコート
   紅石高校と火田学園の試合が始まる。コートに立つ喜多、荒川、奥ら。
奥「あれ、この間の小っこいキーパーは?」
喜多「さぁな」
   ベンチに座る日和、上垣内、中森、愛乃。日和の隣には背番号1のユニフォーム。
愛乃「さぁ、みんな。一年生達の敵を取ってあげよう!」

○紅石高校・グラウンド
   サッカー部の練習試合が行われている。
   険しい表情で戦況を見つめる鳥谷。

○総合体育館・ハンドボールコート
   一二対一二の同点を示す得点表。
   ベンチから声を出す日和。手にはストップウォッチ。
日和「前半、ラスト一〇秒!」
   シュートを放つ奥。
奥「くらえっ」
   飛びついて止める荒川。着地の際に足をひねる。
荒川「!?」
日和「ナイスキー!」
   笛が鳴る。
   荒川以外、ベンチに引き上げる喜多ら選手達。
上垣内「喜多氏、凄いぞ」
中森「あの火田学園と同点なのだ」
喜多「まだ半分だ」
日和「後半もこの調子で……(荒川の異変に気付いて)荒川先輩?」
   ゴール前でひねった足を抑えて動けない荒川。
日和「荒川先輩!」
    ×     ×     ×
   ベンチに座る荒川。ひねった方の足を冷やしている。その足を診る愛乃、周囲から見守る喜多、日和、上垣内、中森ら部員達。
愛乃「多分、捻挫だね。そんなに重くはないだろうけど、この試合は無理かな」
荒川「みんな、すまない」
上垣内「そんな……」
中森「どうするのだ?」
   うつむく日和や部員達。
愛乃「では、後半のキーパーですが……」
藤山の声「遅くなりました!」
   振り返る喜多、日和ら部員達。そこにやってくる藤山。
日和「大!」
上垣内「藤山氏!」
中森「来てくれたのだ!」
藤山「遅くなって申し訳ありません。本当に、何ていうか……言わなくちゃいけない事はたくさんあると思うんですけど何から言ったらいいか……」
喜多「……悪ぃ。俺らも聞きてぇ事言いてぇ事山ほどあんだけど、それどころじゃなくてな」
藤山「え?」
   ユニフォームを藤山に渡す日和。
愛乃「着替えてくれる? 出来るだけ早く」
藤山「え?」
    ×     ×     ×
   コートの隅で着替える藤山と、それを手伝う日和。
日和「心配したんだから。どこ行ってたの?」
藤山「あぁ。サッカー部の方に顔出してな」

○(回想)紅石高校・グラウンド
   鳥谷に頭を下げる藤山。
藤山の声「『もうサッカー部には戻らない』って、ちゃんと挨拶してきた」
日和の声「え、学校行ってたの? それで良く間に合ったね」
藤山の声「あぁ」

○(回想)同・校門
   駆け足でやってくる藤山。
藤山の声「俺も半分諦めてたんだけど……」
藤山「やべっ、間に合うかな……」
   クラクションの音。振り返ると、バイクにまたがった小椋が居る。
小椋「乗りな」

○総合体育館・ハンドボールコート
   コートの隅で着替える藤山と、それを手伝う日和。
日和「へぇ。オグもたまには役に立つじゃん」
   そこにやってくる喜多。
喜多「試合前にどうしても、一個だけ聞かせろ。何で来た?」
藤山「バイク」
日和「そうじゃなくて」
喜多「サッカー部のサイドバックの方が、お前には向いてんじゃねぇの?」
藤山「だとして、それがどうした? 俺は、やりたい事をやる。その為に来たんだよ」
日和「……私の台詞、パクってない?」
喜多「そうか。まぁ、期待はしないでおくよ」
藤山「おいおい、チビだからって舐めんなよ? 俺は、ピリリと辛いぜ」
   ふっと笑う喜多、つられて笑う藤山。
    ×     ×     ×
   紅石高校と火田学園の試合、後半戦が始まる。火田学園の攻撃中。キーパーの位置につく藤山。
奥「出てきたな。ラッキー」
   パスを受ける奥。藤山が定位置に立つにも関わらず、ループシュートを放つ。
藤山「またか」
   ゴールに向かうボールを見つめる藤山。ここからしばらく映像はスローモーションで。
藤山M「俺はゴールキーパーとして、跳躍力も反射神経も、既にトップクラスだと自負している」
   ディフェンスの位置からボールの行方を見守る喜多。
喜多「止めるよな?」
藤山M「それでも届かなかった。だから諦めようとした。でも、今は違う」
   ベンチからボールの行方を見守る日和。
日和「止めるよ」
藤山M「トップクラスの跳躍力と、トップクラスの反射神経で足りないなら……」
   尋常じゃない跳躍力を見せ、シュートを弾く藤山。
奥「はぁ!?」
藤山M「ぶっちぎりトップの反射神経と、ぶっちぎりトップの跳躍力を身に着ければいいんだよ!」
藤山「うおらっ!」
   サイドラインを割るボール。
藤山「くそっ、敵ボールか」
奥「まさか今のが止められるとはな」
藤山「どうやら、チビのナンバーワンは俺らしいな」
奥「おいおい、一本止めただけで調子に……」
藤山「いいや。試合前から決まってんだよ」
奥「は?」
   背中の1を指す藤山。
藤山「何でキーパーの背番号が一番か、知ってるか?」
奥「あ~、そういえば知んないな。何で?」
藤山「それはゴールキーパーが、ナンバーワンだからだ」
奥「は?」
   その様子を見て笑う喜多。

○同・二階席
   やってくる小椋。
小椋「この辺、全然バイク停める所ないな。これだから大人って奴らは。……おっ、試合まだやってるな。何対何だ?」

○同・ハンドボールコート
   二五対二五の同点を示す得点表。
   ベンチに座る日和、上垣内、中森、荒川、愛乃。
日和「ラスト一〇秒!」
荒川「一本取れ!」
   ジャンプシュートを放つ喜多。止められる。ただ一人、カウンターで走る奥。
喜多「しまった!」
   相手キーパーからパスを受ける奥。
奥「もらった!」
愛乃「まずい、ディフェンス誰もいない!」
日和「いいえ。よく見て下さい」
愛乃「え?」
藤山M「同点で迎えた後半残りワンプレー。相手のカウンター。ディフェンスは誰もいない完全な一対一。絶体絶命……」
   ただ一人、ドリブルする奥。追いつきそうにはないが、奥を追う喜多。
奥「完全フリー!」
喜多「何言ってんだ、良く見ろ」
藤山M「もしこの場面で点を取られても、人は『仕方ない』と言うかもしれない」
   キーパーの位置で待ち構える藤山。
喜多「まだ、一人居る!」
藤山M「けれど、その一言で片付けてしまえるなら、ゴールキーパーは必要ない」
   ベンチから見守る日和、上垣内、中森、荒川、愛乃。皆、立ち上がる。
藤山M「俺は今、ここに立っている」
荒川&愛乃「止めろ!」
上垣内&中森「藤山氏(君)!」
日和「大~!」
藤山M「その理由を、意味を、証明して見せる。この手で!」
   シュートを放つ奥。
喜多「お前はチビだが」
藤山「ピリリと辛いぜ!」
   シュートを止める藤山。
藤山「っしゃ!」
   笛が鳴る。歓声。
    ×     ×     ×
   藤山、喜多ら出場していた選手達がベンチに座っている。藤山に駆け寄る日和、上垣内、中森、荒川、愛乃ら。
上垣内「まさに最後の砦だったぞ、藤山氏」
中森「感動したのだ」
藤山「ありがとう」
愛乃「でも、まだ終わりじゃないからね」
荒川「延長戦も頼むぞ」
藤山「任せて下さい」
日和「まさしく、ヒーローだったよ」
藤山「おいおい、過去形じゃなくて、現在進行形で言ってくれよ」
日和「調子に乗んな」
喜多「時間だ。行こうぜ」
藤山「おう」
   グータッチをする藤山と喜多。
日和M「ゴールキーパー。それは、チームを守る最後の砦」
    ×     ×     ×
   円陣を組む藤山、喜多ら紅石高校の選手達。
日和M「私達の砦は少しだけ小さいけど……」
    ×     ×     ×
   延長戦が始まる。火田学園の攻撃、相手のジャンプシュートを止める藤山。
日和M「ピリリと辛い」
藤山「っしゃ!」
                  (完)

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